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13 マオウ その1

前半に情報のまとめです。ここまでに出せなかった新規情報も込みです。

 


「うーん ちょっとメモを整理しておきますか。」



 2007年も終わろうかという頃。サクラは水星屋のマスターから聞いた話を整理してみることにした。新規で入手した情報も加えて復習しておくことにする。



 2002年


 10月


 マスターが”チカラ”に目覚める。

 露天商に無理やり売りつけられたペンダントが原因らしい。


 中央のガラス細工の中に緑色の液体が入っていて、それがある拍子に漏れ出してから ”時間を遅く”出来るようになったようだ。



 2003年


 1月


 対テロ組織サイトと武装人権保護組織ナイトに同時に勧誘される。

 かなり言葉を濁していたが その時何かが有って、半径2キロの空間の時間が乱れる事件が起きる。


 3月


 正式にサイトに入社。

 ケーイチ、トモミと更にもう1人とで4人チームを組む。


 その最後の名無し君は政府の研究所より送られてきた超能力者で、色々伏せたほうが良いらしい。


 5月


 その名無し君と激しいケンカに。

 マスターは”チカラ”の制御に失敗。その仲間を殺してしまう。


 ・決着が付くまで周りのメンバーは傍観していたとか。なのでマスターはこの辺りから(一部を除いて)味方でも容赦しなくなったそうだ。

 だがこれ以降はケーイチが止めに入るようになったらしい。

その後、制御の修行をすることになるが詳しくは教えてくれなかった。


 ・気になるのは 神社を示唆するような言葉があっただけ。


 6~9月


 ナイトの拠点を潰して回る日々。

 チカラの持続時間が短いマスターにトモミが手を貸し制御を手伝う。それでも通常戦闘で半日、必殺技の使用で数日寝込む事もあった。


 10月


 海外のサイト支社からの要請でマスターたちのチームは海外出張となる。指定された街に向かうとゾンビの集団に襲われる。 血は緑色だったらしい。


 防御を全開にして仲間を守りつつ探索すると、ホンモノの吸血鬼に出会う。人工的に作られたらしいその時のゾンビに大層ご立腹で、協力して事態の解決にむかう。


 ・この辺は本当に聞いても良かったのだろうか。 記事には出来ないだろう。


 2004年


 3月


 海外も含めてナイトの拠点を潰して回る日々。

 この頃にはもうサイトの化け物チームとして有名になっていた。



 4月


 強すぎるチームは戦いでやりすぎてしまい、一時的に分散させられる。政治的な臭いが漂う話だが、マスターは引き取り手が居なかったので休職扱いになる。


 とある大企業が作った武装チームに誘われて、海外で破壊活動。なぜかチーム内に去年の吸血鬼が混ざっていた。その辺の繋がりで誘われたのか。


 チームをサポートしてくれるメイドさんの中に、「精神制御」のチカラ持ちがいたのでここでもマスターは活躍できた。


 ・支えてくれる人がいると無敵の強さになるようだ。



 9月


 日本に帰還しサイトに合流。


 ・ここからしばらく詳しい情報が無い。



 2005年


 2月


 ナイトの本拠地での決戦。

 50年以上隠されていたが、マスターの追跡によって発見。

 この頃に「精神干渉」が使えるようになった。


 ・この戦いに関しては詳しく教えてもらえなかった。

 ・そういえばチカラが2つある理由をまだ教えてくれない。



 4月


 決戦後眠っていたマスターが目を覚ます。

 余命半年と言われる。 自分で確認してもそれくらいだったらしい。



 5~7月


 サイト九州支部の暗躍。

 邪神がどうとか言っていたが、詳しくは教えてもらえなかった。支部を消滅させて上層部会議。


 ・この辺記事にしたら私消されるんじゃ!?



 8月の始め。


 退職、追われる身へ。

 各国の思惑に折れた政府により 社会的に殺された。


 ・陰謀論だけど本人的に裏付けバッチリ。 いろみしすてむ?の原型と聞いた。



 10月


 世界に対し、名前と記憶を忘れさせる。

 記録は残ったが、先に社会的に消されていたため一般的には問題なかった。


 悪魔の住む土地? 異界?に逃げ切る。詳しくは教えてくれない。


 ・ここで余命宣告の半年に届いてしまうが、逃亡先はやはり時間の流れが違かったりするのだろうか。それとも何か対処法が?

 ・この後、逃亡先で勢力争いのようなものが有ったらしい。 詳しくはわからない。



 2006年


 1月


 様々な手段をもとに人間を辞めるが、身体も魂も一見人間と変わらない。しかし精神力が増え、チカラの持久力が格段に増えた。

 人間としては1月31日が命日らしい。



 2月


 ○○○と結婚。


 11月


 娘誕生 母親似。


 ・父親に似なくてよかった。本当に良かった。



 2007年


 4月


 ハーン総合業務入社。

 生活を盾に脅されていたようだ。


 ・ここで1ヶ月空いているのは研修でもあったのだろうか。



 5月


 魔王事件。

 ・破壊活動は何かを処分・隠蔽するため?

 ・殺害された人の財産は女性被害者に養育費として渡されていた。

 ・依頼された事なのに女性に養育費を払う理由が解らない。


 色々と解らない事もあるが、時系列で並べるとこんな所だろうか。


 補足:サイトについて。


 1950年に結成された政府の対テロ組織。ナイトに対して常に劣勢で、特に情報漏れが多く裏をかかれることが多かった。


 1970年くらいに現マスターであるサイトウ・ヨシオがトップに就任。彼の判断により 喫茶店の皮を被った警備会社……のフリをした国営の影の組織という体裁をとる。


 2005年の決戦以降はナイトを吸収、統合する。が、それに反発したナイトの残党は野良のテロリストとなった。



 補足:水星屋について


 2005年にできた屋台のラーメン屋。しかし色々あって屋台が大破。

 2006年に異次元に店舗を置いての営業再開。ただし休日の営業は2007年から。


 平日は悪魔の屋敷での営業、休日は月4回ほど。

 その内の最大2回まで使って人間社会で営業している。

 なお休日の定義は会社カレンダーによる、らしい。


 安く素早くそれなりに美味しいをモットーに営業している。



「こんなものね。 思えば世界を揺るがす情報をこの手にしているのよね。去年までの私じゃ考えられなかったわ。 マスターには感謝しなくっちゃ。」



 除夜の鐘が聞こえてくる。今年ももう終わりだ。



 サクラはデータをしまうと、家族が用意してくれている蕎麦を食べに居間に向かうのだった。



 …………



「キリコ、お前に新メニューの考案を命じる。」



 2008年1月8日 23時50分。

 水星屋店内でマスターから指令が下った。

 水星屋の営業時間は、17:00~23:45(ラストオーダー23:30)である。

 つまり今日は営業が終わり、居座る化物たちを追い出した直後である。


「テンチョー、この疲労困憊な時にご無体な指示はやめてほしい。年末年始の大騒ぎがようやく落ち着いてきたっていうのに。」


「マスターな。騒ぎが落ち着いてきたからだ。悪魔たちは刺激に飢えている。そこで新メニューで刺激してやるのさ。」


「それ、私がやるよりマスターのほうが良いんじゃないの?」


 私が得意なのは刃物の扱いと足さばきだけで調理そのものは勉強中だ。


「大盛況看板娘が手ずから作るからいい刺激になるんだろう? 今日だって酔っ払い達がみんなデレデレしてたぞ。」


「看板娘……刺激……。でも酔っぱらい相手にモテても嬉しくないわよ!」


 内心で、私は店員 私は店員っと呪文を唱えながら気力で反論する。


 実際私が働くようになってから、店内が更に盛り上がったと聞いている。しかし何かに付けて呼びつけたり、身体を触ろうとするのは頂けない。


 私に触って良い男は……私は店員、私は店員、私は――


「まぁ、分からなくはないけどな。毎日数人はお客さんを料理してるもんな。」


 無理に触ろうとした4本腕の悪魔を2本腕にしたり、髪の毛を中央だけ剃り込んだりと可愛いものである。


「マスターのバリアのおかげで実際は触られはしないけど、嬉しくはないわね。」


「ならそういう客からも搾り取るような売り込み方にするか。そうだなぁ、うちはお通しをやってないからその辺を使って……」


 マスターが考え始める。私も店員としてなにか考えねば。


「だったらこう。 男客には ”キリコの押し売り ”で300○~青天井。 女客には”キリコのお通し ”で150○~500○。 もちろん希望者だけ。」


「ほう。キリコの匙加減で変わるのか。だが嫌な客が頼まないかもしれないが?」


「その辺は些末な事よ。深淵より来訪せし悪しき者共が、地を這い咽び泣く姿を晒そうとも高貴なる契約を結ばせてご覧いれようぞ!」


 包丁をキラリとさせながら、口は薄く笑いって目を細める。

 マスターはこういう演出は好きなはずだ。


「口八町での脅しか。OK、それで行ってみようか。普通にメニュー増やすより面白そうだ。」


 ふふ、やっぱりね。


「じゃあ、新メニューは”キリコの押し売り ”と”キリコのお通し ”な。ここは片付けておくから、料理をなるべく多く考えておいてくれ。」


「わかった、やってみる。でもわからないことがあったら教えてほしい。」


「あぁ 構わない。いろいろ考えてガンガン盛り上げてやろうな。」


「はーい、マスター。」


 地味に二人の時間をとってもいいという言質取りつつ、

 自室に向かいながらメニューを考える。


(これは店員的行為、だから真面目にやる。)


「お疲れさまです。 キリコさんなにか良いことありました?」


 新人研修を行っているメイドさんが通りかかって挨拶してくる。その後ろには数名のゾンビ、いや新人さんがゾンビのような顔をしている。


「お疲れさまでーす。ちょっと新メニューの考案を任されまして。そんなに嬉しそうだった?」


「ふふ。 すっごくいい笑顔ですもの。それでは頑張ってくださいね。」


 キリコは笑顔だった。

 暗殺者時代は淡々とした口調や表情で評判も良くなかった。

 ここでの日々を重ねることで少しずつだが心も身体も豊かになっていく。


 こんな日が続きますように、と半年後の短冊にロングパスで願い事を書いた。


 …………



「今回もまた、全滅ですか。」



 魔王邸の高級ホテルの一室で新人達を集めて言った。

 私は魔王邸のメイドです。新人が入ったので研修をしていました。


 ひと通り案内を終えましたが、新人達の目が死んでいる。

 心も折れているようです。


「おかしいですね。始める前は、何でもするから言ってくれと強気な発言が聞こえていたのにこの様ですか。」


「お言葉ですが、人類には刺激が強い仕事だと思うのです。」


「一番上の仕事を紹介しろと言うからです。そこそこから始めれば良いものを。楽して年俸1億などという割のいい話があるわけ無いでしょう?」


 メイドの仕事にもランクがあります。 奥様やセツナ様のお世話と雑用程度だと年俸5000万○を目安にすると良いでしょう。


 旦那様相手の仕事も追加すると倍額の1億○となり、それなりに我儘も聞いてもらえます。


「出来もしないことを出来ると言い張り、挙げ句 旦那様方の責任にする。これ以上何を言っても無駄でしょう。お帰り下さい。」


 この新人研修では軽く面接した程度では見抜けない本性を、効率よくあぶり出します。あぶり出されるのはほぼ全員なので、なかなか新人さんが入らないのが問題ですが。


「お疲れさまです。今回も、ですか?」


 そこへ旦那様が現れ、私に話しかけてきます。新人研修ということで様子を見に来てくださったのでしょう。


「はい。全員欲をかいて撃沈です。」


「わかった。送還しよう。」


 旦那様が手を掲げて、白と黒の光で新人たちを包む。

 すると彼女たちはここでの記憶を失い、家まで送り届けられる。


「お手数をおかけしました。」


「気にすることはないよ。 しかし中々いつかないねぇ。世の中金だけじゃないってことを思い知るよ。」


「おっしゃるとおりです。この有様では公募は取り消したほうがよろしいでしょう。」


「そうだなぁ無駄金になっちまう。ちなみにどの辺で心が折れたのかな。」


「悪魔の屋敷向けの料理の仕込みです。次いで旦那様の身だしなみを整えるお仕事です。」


「やっぱそこかー。精神的にクるものがあるのは解るんだけどね。キリコの時みたいに湧いて出てくれればありがたいのになぁ。」


 仕込みに関しては悪魔の屋敷の地下でマスターが材料の下ごしらえをした後、肉を切り分けてあちらのスタッフに渡すだけのお仕事です。


 身だしなみを整えるとは、副業でよく女性と”お会い”になるマスターが面会後に身体と服を洗って女の痕跡を残さないようにチェックするお仕事です。


 いわばエチケットですね。


 他にもありますが大体の新人さんはここで折れます。

 それが解っているから最初は簡単なお仕事からオススメするのですけどね。


 それでも皆、1億○に釣られて心を折られていきます。


「やっぱ人間の解体とか、異性の身体のチェックっていうのは嫌なんだろうなぁ。」


「私はどちらも問題ありませんでしたが。」


 前者は旦那様の演技力に驚きこそしましたが、それで恐怖を覚えながら亡くなった方を指定通りに切り分けるだけなのです。元々生きるのを諦めた方達ですし、そこまで感情移入することもないでしょう。


 後者も お風呂場で髪の毛や体液、不自然なアザ等を処理するだけです。


 別に旦那様に身体を差し出せなどとは言っておりませんが、そういうお店を連想させるのでしょうね。


「その点はありがたいと思ってるよ。」


「旦那様にはお世話になっておりますから。」


 ふと旦那様の髪に赤い糸くずが付いているのが見えます。

 それは……4本? 6本?


「旦那様、髪に糸が付いております。 今お取りしますね。」


 手をのばすと赤い糸は勝手に旦那様の髪から離れ、空中に溶けるように消えていく。


 取れたのは確かなので もう大丈夫ですよと笑顔を披露しておきます。人間笑顔が一番です。


「ありがとう。 それじゃぁ オレはそろそろ行くよ。何かあったら言ってね。お疲れさまです。」


「お疲れさまです。」


 ぺこりと頭を下げて見送ると、先程の糸は何だったのだろうと首を傾げながら部屋に戻るのであった。


 この家では掃除はほぼ必要ない。

 きれいな状態で時間を固定されているから。


 この家は炊事はあまり必要ない。

 旦那様や奥様かキリコさんが大体作ってくれる。


 この家は洗濯の手間は必要ない。

 ウチの次元洗濯機は、使うと新品に戻るからだ。


 衣食住と不老まで付いて、それでもこの家のメイドは限りなく少ない。


「やはり、私のように訳ありじゃないとここの仕事は厳しいのでしょうね。」


 いつもお世話になっているこの家がーーいつか旦那様たちを支える者たちで一杯になる事を夢見つつ今日の仕事を終える私こと、メイドさんその1でした。


 …………



「あなたの第2の誕生日に乾杯。」



 2008年 1月31日 夜。ラスベガスの地上200メートル地点。


 一組の夫婦が並んでワインを口にしていた。


 床 壁 天井、テーブルに椅子も全て透明度の高いもの――マスターの”チカラ ”で出来ていて、空間を固定しているのだ。


 2人は地上の夜景の雰囲気を楽しみながら お互いを見つめている。


「あなたが生きていてくれて嬉しいわ。」


「オレを引き止めてくれてありがとう。」


 身を寄せ合って心を通わせる2人。


 現在23:59分。


「お願い、日を越すのはキスが良い。」


「奇遇だな。オレもそう思っていた。」


 長めのキスをして0:00を越える。 唇を離すと、2人同時に囁いた。


「「これからもよろしくね。」」


 今日は2月1日。 2人の結婚記念日だった。

 2人は綿製品のプレゼントを交換すると、また寄り添う。


 夜景を見ながらワインを空けるまで、2人きりの時間を楽しむ夫婦だった。


お読み頂きありがとうございます。

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