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118 ウまれフクらむ、オトメのハル

よろしくお願いします。

誤字脱字がありましたらすみません。



「あけましておめでとうございます!」


「「「おめでとうございます!」」」


「今年もお世話になる皆さんに鋭気を養って貰う為、この会を開催します。存分に楽しんでいってください。乾杯!」


「「「かんぱーーーい!!」」」


2016年元旦。旅館の宴会場をチカラで拡張して魔王邸の新年会が開催された。

総勢500人近くに及ぶ参加者に、挨拶していくマスター。

慰安旅行の参加者と違い、両方の仕事の関係者が多く参加している。


「マスターさん、融資をお願いしたく……」

「私の方は人材の補填を!」

「ライバル社の妨害で生産量が……」


「分かりました。何とかします。」


次々と要請を受けてスギミヤ市や取引先の問題を解決していく。

近年は子供も多く授かり産休・育児休暇を要請する者が増えている。関係企業も急成長し、ライバルから目をつけられているようだ。


「イダーさんとキョウコさんはこちらもどうぞ。」


「わ、ありがとうございます!」

「せ、せっかくだし頂くわ。」


カンケイを持った女性には赤いカードも渡していくマスター。

それがなにかは小さな黒モヤで伝えている。

カードを胸に取り込むと、待ち合わせの日時と場所が登録される。要は姫始めの整理券だ。


「副社長もどうぞ。忙しい中来てくださり、ありがとうございます。」


多忙な社長に代わって参加した副社長。にこやかにカードを受けとる。


「ありがとう。ほう、監視役無しなのか。楽しみにしてるよ。……ところで領主様のーー」


「妻が見てるから完全な監視無しではないですけどね。新技もあるので期待して下さい。」


「そうか、それは楽しみだな!実は私も何か出来ないかとーー」


社長への言及をキャンセルして話を進めたマスター。

副社長もそれ以上話題に出さないのは、姫始めへの高い意欲か社長の相手は面倒だというマスターの気持ちを察してか。


ちなみにキリコ達も含んだ魔王邸メンバーは今晩の予定だ。

幸せな初夢を見せてあげて労働意欲に繋げようと言うカナの進言でそうなった。もちろん彼女自身の欲望をごり押しただけである。


「お飲み物をどうぞー。」

「お、おつまみです!」


「「「キャー、可愛い!」」」


ホストの◯◯◯◯家であるセツナとクオンがお手伝いしていると、女性達に可愛がられてお菓子を貰ったりしている。

純粋に可愛がる者もいれば、マスターへの心証アップを狙う者もいて変な駆け引きが繰り広げられていた。


(まったく、もうホントまったく……)


当然その欲望のうねりは正妻である◯◯◯も読み取っており、笑顔は絶やさないが内心はフクザツだ。

魔王邸メンバーはその辺をわきまえているが、外部の女は人間・人外問わず好き勝手に悶々とされてはそうもなろう。


(こんなでもオレ達の生活を支えてくれるんだ。後で休憩を挟むから、ね?)


妻の心をなだめながらマスターはあいさつ回りを続けていた。

言うまでもなく休憩とは時間停止しての逢瀬を指す。


「なんというか、ある意味平和だな。」

「こ、こんなに協力者がいたなんて。」

「テレビで見た人も結構いるわ。」

「今日はオフレコよ。気にしないで飲みなさい。」


ナカダイ達特殊外交官もこの場に呼ばれていた。イケダは同棲中の彼女も一緒だ。

イシザキが言うようにこの場の記録は許されていない。

魔王に呼ばれるに当たって司令から盗聴機やら発信器やら仕込まれたが、マスターの協力で世界中に棄ててきている。

その場所は各国政府の要人の愛人宅や非合法組織の事務所、北極南極にまで及ぶため追跡は困難だろう。


そんなわけで、彼らの給料や余暇では中々味わえない酒と料理をひたすら堪能していた。


「君たちもすっかりズブズブですね。」

「人が考えないようにしているのに明言しないで!」


マスターの軽口に酒を煽る面々。ナカダイは健康診断の再検査で全て異常無しなくらいに体調を整えて貰って嫁さんとラブラブだし、イケダも彼女との結婚に向けて資金面や精神的なアレコレを補助して貰っていた。イシザキも男女の関係ではないが友人として深く世話になっている。

つまり全員深みにはまっているのだ。


「でもみんな楽しそうだ。マスターがマスターでなければ、こうはならんかっただろう。」


「哲学ですか?年取るとすぐにイテっ!」


年の功で何か感じるものがあったナカダイだが、イケダに茶化されて小突く。


「我々は穏便に事を進めるつもりだが、上は色々してくるだろう。気を付けてくれ。」


「ええ、もちろん。程よく相手している分には人間同士の戦争も若干抑えられるし……あまり衰弱されても困りますけどね。」


「マスターさんて人類の崩壊と繁栄、どっちを願ってるの?良く分からないんですが。」


「「「!?」」」


イケダの彼女が素朴でクリティカルな質問をぶつけ、イケダ達は背筋が凍る。


「何事もホドホドですよ。種が衰退したらとんこつラーメンを広める意味がないじゃないですか。」


「ら、ラーメン?」


思いのほか穏便な答えが帰ってきたが、彼らには良く分からなかった。外交官組が意図に気づくのは、帰って酒が抜けてからだった。


「し、師匠。私にも……良いか?」


カードをおねだりするのファラ。彼女は悲恋のヒロインに飽きた訳ではなく、単純に2人の時間が欲しかったようだ。


「可愛い弟子のおねだりだ。断る師匠も無いだろう。」


デートの予約カードを受け取ったファラは、他の弟子にからかわれながらもにやにやが止まらなかった。


予約3時間、実質9時間にも及ぶ新年会が終わる。

お手伝いを頑張った娘2人にお年玉をあげると2人は喜び、この"後の事"を察して遊びに行った。


『クルス君、娘達のボディーガードをしてくれ。』

『し、師匠!!』


裏でクルス君に多めにお年玉をあげて一緒に遊んでこい(意訳)と伝えると、世界創造級の感謝と笑顔と勢いで姉妹を追いかけていく。

今回はきちんとフォロー出来たマスターだった。


そして今年の姫始めタイムが始まった。

マスター側の奉仕主体で監視無しのそれは、クマリやカナやキリコ達を魅了する。

だがシオン達シーズの3名は他と違って同時に、積極的に求めてきた。


「今日はオレに任せてくれても良いんだよ?」


「お言葉に甘えたいのですが、ちょっと……」

「マスターとのことで試したいことが……」

「私達はする方も好きだからへいきへいき。」


「うん?好きにして良いけど、何を企んでるの?」


横になるマスターを断続的に攻め立てる半分だらしない顔の彼女達。快楽と言うより演算処理の方が原因らしい。


「いえその、最近ベビーブームじゃないですか。」

「私達も頑張れば赤ちゃん作れないかなって。」

「なので機能拡張の演算処理を……あ、出た!」


返事に興奮して射出した彼を包んでいた部分に演算を集中させるユズリン。他2人もそこへ顔を近づけて計算を手伝っている。

生殖機能のない彼女達は必死だった。


「そう言うのは事前に相談してくれないと困るよ。」


「にゅあ!?もう!?」


数秒の賢者タイムで冷静な発言をするが、身体は正直である。


「ユズちゃんの反応、これはもう復活したのかな?」

「了承と見て良いかな?」

「れ、連続は計算が狂うから次はシオンちゃんの番!」


「君たちの件は終わってからきちんと考える。だから勝手な真似をしたお仕置きだ。」


「マスター、目がこわいよ!?」


ゆらりと起き上がったマスターに、攻守交代したシーズは部屋中に嬌声をあげるのだった。


ちなみに後日行われたファラのデートは遊園地だった。お化け屋敷で闘争本能に火が着いて大惨事になったので、次は修行を兼ねて神社巡りを考えるマスターだった。


…………



「……凄いな。長年生きた私に新感覚を植え付けるとは。」


「やはり効果有りましたか。悦んでもらえて何よりです。」


1月2日。副社長の番が回ってきて、挨拶代わりとばかりに新技込みで痙攣させたマスター。大妖怪と言えど過去現在未来や、位相のずれた平行方向からの快感の波にはあっさり陥落した。


(これが戦闘だったらと思うとゾッとするな。本当に領主様に迫るチカラ……)


(副社長でこれだと、普通の女性には加減しないとなぁ。)


などと互いに考えていると、2人のそばに空間の穴が現れて、妖艶な薄着の2人が現れた。


「副社長さん、エンジンが掛かってきたなら勝負と行きません?」


「人間の底力を見せてやるよ!」


その2人は◯◯◯とクリスだった。クリスは元からだが、妻の方もプレイ用の巨乳となって副社長に挑戦的な視線を送る。


「ふむ、良いだろう。セイギを堪能するのも良いが、勝負も心が燃えたぎる!」


家族の粋な計らいによって天国を味わうマスター。

大きさで良し悪しを計れるものではないが、質量という分かりやすい基準は単純な生き物を喜ばせやすいのだ。


「領主様、ただいま戻りました。こちらお土産になります。」


「お帰りなさい、フクカンさん。今回は更に綺麗になりましたね。」


新築の領主邸で出迎えたのはマリーである。とりあえず誉めつつもお土産が気になって金髪を揺らしながらソワソワしている姿が可愛らしい。

出生の経緯こそ父親には複雑な気持ちを抱かせた彼女だが、近年では仲良くしていた。しかし今回の新年会は母の都合で見送りとなり、寂しい思いを抱いていたのだ。


「ありがとう!美味しそうなのばかり!」


副官が上質な紙袋を渡してやると、喜んで中身を確認するマリー。副官は微笑ましく思いながらも上司の事務所へと足を向ける。


「ただいま戻りました。」


「おかえりぃ。その様子だと任務は達成ね。羨ましいったらないわ。」


金髪美人な領主様は虚空に映したこの世界のデータを弄りながら、副官の様子を見て羨ましがる。


「次回の約束もしましたし、身体での繋ぎ止めは成功です。というかそこまで悔しそうにするならご自身で行かれては?マリー様も寂しがっておられましたよ?」


「立場も在り方も私はああいう場には似つかわしくないもの。マリーには悪いけどね。」


過去何度も水星屋のイベントには出ているが、やはり自分には向いてないと感じていた領主。繊細な世界維持と長い恐怖政治による信頼関係。他者との良き関係を築くのは苦手のようだ。

だからクリスの世界の司令に言い寄られた時は本当に嬉しかったが、文字通り住む世界が違うのと……彼に想いを寄せる女の子が居たため断念した。

無理やり、しかも遺伝子狙いとはいえマスターとの間にマリーを作れたのは奇跡に近いと思っている。それまではゲンゾウのように嫌悪される対象でしかなかった。


「それでも近頃は親しみやすいという話も出ています。彼相手なら、恋をしても良いのではないですか?」


「冗談、彼の奥さんにクーデター起こされたばかりじゃない。私じゃダメなのよ。それに今回も姫始めに呼ばれてないし。」


「連絡をとってみましょうよ。私は充分堪能してきましたが、中々ですよ?きっと領主様もお気に召します。」


恐らくあの新技の効果からして、対領主向けの技だったのだろうと考えた彼女はそう進言した。


「ま、まぁ連絡くらいなら……別に良いし。」


世界の調整を終えて電話を取り出す領主様。ふわりと揺れた金髪の香りが副官まで届く。


「では続きは私がしておきますので。」


オトメのような表情で連絡する上司に代わって、ハルが来ることを願いながら仕事を引き継ぐ副官だった。



…………



「ありがとう◯◯ちゃん。今回も助けられたわね。」


「オレも無関係ではない案件だったし……けど君はここからが大変だよ。」



1月11日。クリムゾン・コアとルクスの活躍でエンドウ家と邪神を崇める宗教の情報を消したマスター。一息ついたところでトモミに礼を言われるが、仕事の報酬の話が待っている。

一応イタリア政府に請求する予定だが、あの社長が彼女を放っておくハズはないと踏んでいた。


「それでも平和になったのは良いことよ。」

「平和、ね。取り敢えず君はウチで休んでいてくれ。」

「◯◯ちゃんはまだ帰らないの?」

「帰るけど、夜明けまでにやっておきたいことがあってね。」

「そう?無理しないでね?」


2人は魔王邸に戻るとトモミは部屋へ、マスターは女達が待つ大浴場へと向かう。


「お目覚めですか?あなた。」

「ああ、ありがとう。んむ……」


全身の心地よい感覚とともに目覚めたマスターは、妻にキスをされて夢心地だ。


「残りは後処理だけだと思ってましたが、まだお仕事が?」

「うん、◯◯◯には悪いけどこのタイミングが良い。」


もう真夜中、夫婦の時間だ。いつもならこのまま伽に入るが珍しくそうしない。


「カナ、一緒に来てくれ。君の尊厳を本当の意味で取り戻そう。」


「そ、それって……わかりました。お供します!」


指名されたカナはすぐに察して力強い目付きで立ち上がる。


「そういうことね。カナさん、今夜は私の事は気にせず思い切りやっちゃいなさい。」


「はい!ありがとうございます!」


こうしてマスターとカナは戦闘準備を整えて、再び地球へと向かったのだった。


「ここが例の教団の拠点のひとつだ。」

「はい!復讐、いえ禊の機会を下さり感謝します!」


場所はイタリアのローマ。邪神信仰の教会のひとつ。

カナはいつもの割烹着ではなく、特殊部隊が使うようなバトルスーツに身を包んでいた。マスターから貰った特製ポーチと、仕返しならコレだと渡されたアナコンダも装備している。


「これからオレが見ている世界をカナに送る。」


マスターは暗視機能だけでなく敵の位置なども直感的にわかるようにチカラをリンクする。それを自前のチカラで受け取ったカナは、チカラが混ざってまるで宝石の琥珀のように輝いた。


「見えます!何もかも!」

「よし、精神力はオレから取って良い、好きにしてくれ。」

「はい、行きます!」


2人は並走して自称教会の正面扉へと向かう。

カナがポーチから小型ミサイルを投げると爆音とともに吹き飛んだ。爆風や爆炎はマスターが次元バリアで防ぎ、2人はそのまま内部へ侵入する。


「な、何者だ!?」


見回りをしていた黒ローブの男が慌てている。放っておけばすぐに仲間を呼ぶだろう。


「日本語でお願いします!」


ズガン!ズガン!ズガン!


カナは無茶な要求と凶悪な威力の銃弾を叩きつけながら進んでいく。マスターの改造を受けているリボルバー拳銃・アナコンダは反動も少なく威力は戦車砲並なため、黒ローブは一瞬であの世へ送られ後ろの壁には風穴が空いた。


「地下は……ダメですか。このまま全滅させます!」


カナが地下に眼を向けると生命反応はない。霊体は渦巻いているが、家族との繋がりすら切れている。

つまり進んでこの組織に捧げられ、今夜の邪神降臨のために全て殺されたのだと推察できた。


ズガン!ズガン!ズガン!


怒りに燃えた彼女はまだ残っている生命反応に向けて銃を撃つ。教会のホールの壁をぶち抜いてヘビに変化した銃弾は、奥の教団員達を噛み砕いた。


「こんな事、こんな場所!在ってはならないんです!」


カナの思考を読んだマスターは彼女を抱えて上空に上がり、敷地のラインに沿ってチカラの羽を打ち込む。すると結界が作られ内部は外界から隔離された。


「てえええい!」


ズドドドドド!!!


ポーチからミニチュアのおもちゃのような兵器を取り出し放る。その瞬間から元のサイズに戻ったミサイル類が地下まで到達する。


「この炎で、全て解放します!」


ッカッーーーー!!!


遠慮なく躊躇なくアトミック的なミサイルをカナは投げ込んだ。結界の効果で光と熱の柱が上空へとそびえ立ち、周囲の者達は飛び起きて神に祈った。

その柱は無念の最期を遂げたもの達の魂を、あの世へと導いていった。

その後も世界各国を回って邪神信仰の拠点を同じ様に浄化していくカナとマスター。

イロミシステムで拠点の位置情報は全て掴んでたので、連続ワープで鉄槌を下していった。


「これで最後!!」


本日72本目の閃光の柱を立てたカナは、肩で息をしながらグラリと傾く。その身体をマスターが優しく支える。


「お疲れ様。カナの活躍で世界に蔓延る悪がまた減ったよ。」


「うう、でも誰一人として助けられませんでした。」


カナのように囚われた子供達は、イタリアでの儀式に合わせて全て殺されていた。それを悔やんで涙するカナ。


「しかし未来の子供達は守れたし、同じ境遇だった君が幸せになれば供養にもなるさ。その為の協力は惜しまない。必ず幸せな一生にしてみせる。」


「◯◯◯様……ありがとうございます。」


珍しく下の名前を呼んで礼を言うと、ガックリと意識を失うカナだった。


…………



「そう言うわけで、5000億を◯(円)でお支払ください。」


「断る。失せろ!」



イタリア大統領に秒で断られたマスター。そりゃそうだよなと内心思いながら帰路につく。事の経緯は邪神云々はボカシながら確実に伝えたが、支払いの意志決定に関しては何も操作をしていない。


(これ、オレの欲もあるんだろうなぁ。少なくとも妻達にはそう見られるんだろうなぁ。)


あわよくば初恋の女を手にする為にこうしたのではないか。そう問われたら完全否定は出来ないマスター。男のサガをヒシヒシと感じている。


(悩んでいるようだから先に言うわね。それもあなたの気持ち。それを否定してはダメよ。私が愛している男を否定しないでね。)


(……◯◯◯は本当に良い女だな。)


マスターは妻からの寛容なテレパシーに心にグッと来る。


(惚れ直しました?)

(ああ、けどいつでも君が1番だよ。)

(もー、そんなこともあるかもだけどぉ。)

(帰ったら一緒にーー)


などとやり取りをしながら魔王邸に戻る。この後は夫婦で、いやカナも交えて盛り上がるハズだった。


「遅いわよ!いつまで待たせる気なの!?」


「すみません。すっかり忘れてました。」


ネグリジェ姿でふわふわな枕にYESと書かれた面を表にした社長に怒られた。


「わ、わす!?」


「この後、流れ的に妻やカナとの時間なんですけど。」


「よくもそんな口が聞け……ぐすっ。うううう……」


「!?」


強気で抗議していた社長が急に涙目どころか普通に泣き出してしまい、マスターの宇宙的な価値観、世界の理の法則が乱れ始める。

いつもなら嘘泣きを指摘する所だが、彼女の何割かが本当に悲しみ悔しい思いをしているのが読み取れてしまっていた。


「例の仕事の打ち合わせと遅れた埋め合わせも兼ねて、お時間頂きたいのですが……よろしいですか?」


「ぐす……もっと強めに。」


「オレと部屋に来い。」


「うん。」


あの性悪女の社長にどんな心境の変化が……気の迷いがあったのかは知らないが、少し可愛く見えたマスターだった。



…………



「良い!?今日の私の言動は忘れて明日からはきちんと敬うのよ!?」



魔王邸高級ホテルのベッドで正気を取り戻した社長が念を押す。上気した身体から汗と性的な液が、盛り上がった証拠の臭いを発しながら言われても説得力はない。


「それ、計算して言ってますよね。」


「仕方ないでしょ!?私の何割かがそうしてるのは確かだけど、私はそう言わなければならない立場なんだから!」


彼女の何人か、主に思春期的なオトメ的な方々がマスターに自分を植え付けようと必死になっている。主人格の彼女はそうはさせるかと恋心を堪えて立場を確保しようとするが、オトメ社長はそれすら利用しての物言いだ。


「難儀な存在ですけど、結局はオレを気に入った女の子にしか見えないんですが。」


「そんなわけないから!私は皆に恐れられる性悪領主なんだから!」


「自分で言います?全く、最初から可愛げ見せてればマリーにももっと早く父親らしく出来たのに。これでも結構気を使ってるんですよ?」


あまりがっついて父親面すれば拒絶されるかもという不安を抱えながら、バランスを気にして接しているのが現状だ。


「私にそんな芸当求められても困るわよ。あの頃のあなたは本当にショボかったんだから!」


「それを言われると耳が痛いですけどね。セイギも稚拙でしたし。まさかこんなに喜んで貰えるようになるとは思いませんでした。」


そう言いながら6本の手で弱く柔らかいところを刺激していく。


「ひゃああああ!ちょ、だめ!……もっと!」


「どっちですか。」


「こっちよ。むぐっ。」


お返しとばかりに絶品を口に含まれ、何人もの彼女の舌が同時に刺激する。

この日の彼女の食事は、そこから溢れるモノだけだった。


「ふうふう、キリがないじゃないですか。」


「はぁはぁ、私を蔑ろにした罰よ。て言うか重いわ。」


「こんな面倒だから後回しにされたのがわかりません?」


後ろから責め立てて果てたマスターは、社長の背中に覆い被さっていた。その抗議は無視である。


「後回しにしたんだから面倒かけても良いでしょ!一応あの世界の神様なのに、ひどい扱いだわ。」


「悪魔にしか見えませんけどね。クロシャータ様も一歩間違えれば邪神的な存在なのに、彼女の方が余程神様してますよ。」


クロシャータは上級神として敬われているが、その存在は善悪紙一重の混沌よりだ。だからこそ似たような気質のマスターとは相性が良いのだ。


「他の女の話はしないで!」


「痛っ、大人なんだからせめて身体はだいじにしましょうよ。」


「何よ、ちゃんとしてくれたらあなたのお気に入りにも配慮しようと思ってたのに。」


トモミの件について言質を頂いたマスターは目の色が変わる。


「社長だって他の女の話してるじゃないですか。でもそれ聞いてやる気は出ました。覚悟して……覚悟しろよ?」


「!!」


急に強気に出られてゾクゾクしちゃった社長。その隙に体勢をハレンチな形に固定され、全力で彼の欲望の捌け口となって……陥落した。



…………



「これからお世話になります。よろしくお願いします。」


「こちらこそよろしくお願いするわ。」


1月13日。社長の面接を受けた後、魔王邸に挨拶に来たトモミ。

◯◯◯にペコリと頭を下げた彼女は、部屋へと案内される。

今までも度々使っていたホテルの一室だ。


「邪神がどうとかより、今日の方が色々有って疲れたわね。」


ベッドにボフンと身体を沈めながら今日の出来事を振り返る。

莫大な借金の返済計画。そのサポートとして魔王邸での住み込みバイト。アラフォーに差し掛かった自分にはかなり荷が重い状況だ。それでも5年程度でメインの4000億の返済が終わり、魔王邸の1000億も衣食住込みで10年返済の計算。破格の待遇だ。

もっとも年俸だけでは返しきれないので、色々と凄いことはされるのだろう。


(別に嫌じゃないのだけど。むしろ彼との行為が認められるなら嬉しいことだけど……なんだか嫁入り直前みたいな気分ね。)


唐突に今までの生活が失くなり、深みにハマる方向の生活にシフト。その感想はある意味で間違ってはいないだろうが、期待や不安でモヤモヤしている。

そうこうしている内に呼び出され、今後のお仕事の打ち合わせに入る。


「ここが魔王邸の機関部だ。ここからオレのチカラを吸い上げて生活のための電力や水や空間の調整をしている。」


案内されたのは魔王邸の地下の部屋。異次元宇宙に存在しているので上も下もあまり関係がないが、次元バリアで包まれた敷地の下部である。


「本当にそんな大事なところで仕事するの?」


「医療班は間に合ってるし、オレのチカラを理解出来るならこっちの方が適任だ。根幹部分は触れられないからいきなり宇宙に投げ出される心配はしなくて良いよ。」


「ふ、ふーん。ならやってみるね。」


トモミは物理と霊体の謎パーツが取り付けられたパソコンに向かう。自身のチカラを通しながら起動するとアクセス権限が既に有るようだ。


「うん、順調だね。こっちが現状の使用量で、こっちがオレのパワー残量。一応AI制御ではあるから、手動で上手いことやればどんどん覚えていく。」


「なるほど、効率が上がるのね。」


表示されたグラフや各種数値を見ながら、物は試しと弄ってみる。


「その調子だ。何でも屋が始まるまでに2日あるし、その間に出来るだけ慣れてくれ。」


2日。実質2ヶ月くらいあるのでそれも可能だろう。


「分かったわ。でもちょっと聞いて良い?私の役職はどんな感じになるの?」


新規に生活を送る上で、立ち位置というのは重要だ。

メイドなら何階級か分かれてるし他のチームも上下がある。

しかしトモミはチームではない。いきなり住み込みで重要なポジションで働く、魔王邸主人のお気に入り。

上はともかく、下働きとの軋轢は目に見えていた。なので公言できる役職名が必要と考えた。


「機関部管理補佐とかでいいんじゃ?」

「いやそれはちょっと。このシステムの名前は?」

「特にないよ?機関部って呼んでるだけ。」

「うん、適当ね。となるとうーん……」


それを聞いてうんうんと唸り出すトモミ。周りに角が立たず自分も納得できてちょっぴりユーモラスな役職名。

悩む彼女が可愛くてとりあえず眺めているマスター。

すると何かを閃いた彼女はマスターに指を突きつけて発表する。


「決めました!私は生活環境ド安定システムオペレーター!」


「ド安定……いいけどさ。そのセンスはどうーー」


「略してセイドレイよ!」


「おおおおおい!?どうしてそうなった!」


ドンッと胸を張って宣言する彼女に同様混じりのツッコミを入れる。


「だって◯◯ちゃん、前よりエッチになってるし?このパソコンからでも読み取れるんですからね?それにこれならカドが立たないでしょ。」


「あぁそういう……しまったなぁ。でも今さらか。」


「そうよ。サイトの時だって凄い妄想されてたんだし?」


「分かったよ。でもそれ他の人に言わないでくれよ?オレが誤解される。」


「はーい!……誤解じゃない気がするけどなぁ。」


小声でボソッとつぶやくトモミ。それほどまでに凄い妄想の光景を見てしまっていた。


(命もお金も生活も何度も助けて貰ってるんだし?これくらいはうん、むしろ望むところよ!)


生唾飲みながら覚悟をキメる彼女だったが、後に現実に直面するとそれ以上のものがポンポン出てきて驚くことになる。


ともかく謎の悦びを感じてしまった彼女は、つい再会したケーイチに役職をばらしてしまった。

でもそれ自体は後悔していない。今はもう彼の女なのだと印象付ける事が出来たのだから。

新生活への期待が生まれてどんどん膨らんでいくトモミだった。


…………



「ふーん。イチ……マスターが女の敵なのは解ったわ。」


「それ、解ってないと思うよ。」



2016年1月16日。週末に約束通りアユミに会いに来たマスター。彼女の自宅の寝室で今までの経緯を簡単に説明して、出てきた感想が冒頭である。


「世界の敵になってるし、世界の半分は女なのよ?やっぱり女の敵じゃない。」


「その理屈は初めて聞いたな。」


「いつかちゃんとお礼とか?巧く行けばお付き合いとか?しようと思って、他の誘惑に負けずに貞操を守ってきた私がバカみたいよ。」


「男としては嬉しいセリフだね。」


「興味持ってくれた?」


「だいぶね。」


それは事実だった。先ほどの理屈もそうだが、自分を忘れなかった事や2度も生け贄に選ばれた事など興味深く思っている。


「やっぱり女の敵だったわね。」


何より暴言めいた非難の言葉を発しながらも妖しげに誘惑するような態度を変えない辺りに、その女心が解らない男としては覗き込んでみたくなる。


「あまりからかわないでくれよ。せっかく遠ざけようとしたのに台無しじゃないか。」


「遠ざけようとするからよ。奥さんがいてメイドさんもいて、あのおばさんも手に入れたのに私が駄目なのは納得行かないし。」


ベッドをポフポフと叩きながら、準備はできてるアピールするアユミ。胸元のボタンを1個外したり微妙に足を開いたりと健気なアピールだ。


「あの頃のあなたは誰にも認められなかった。そんな寂しい思いを私にもさせるの?」


「君は、何者だ?」


いろんな角度からアピールしてくる彼女に今にも押し倒しそうになるが、生まれた疑問をぶつけてみた。


「私は私でしかないわ。気になるなら隅々まで調べてみたら?私は構わない……というか早くしてほしいんだけど。」


ちょっと強気になったかと思えば、恥ずかしくて顔を赤くするアユミ。そこに可愛げを見ることはできるが、一言で言って怪しい。


『あなた、気をつけて!』

『そのつもりだ。』


まるで自分を見ているかのような不思議な存在を、精神防御をガッツリ高めて押し倒す。


「…………んむ!」


目を閉じて口を少しつきだす彼女にキスをすると、何かが彼女の口内から飛び出してきた。


シュッ、ガイン!


『いったああああああ!』


あっさり弾かれた何者かがベッドの上、天井付近でのたうち回っている。


「「んぐ、あむあむ。んん!」」


しかし気にせず何度もキスを重ねる2人。彼女の目がとろけてきて満足げなマスター。


『ちょっと、何続けてんのよ!ここは何者だ!?とか言うとこでしょう!?』


「ひゃう!これってこんなに!?良いわ、続けて?」


耳から首筋にかけて刺激してやると、少女漫画やエッチな動画でしか知らない行為にゾクゾクきている。続きを催促されるが一応上の幽霊にも声をかけておく事にする。


「だそうだけど?」


『これだから若い子の性欲は!!』


ブリブリ怒っている女の幽霊。見覚えがあるなとよく見れば、エンドウ・ヒカリだった。ご丁寧に白衣姿の幽霊だ。


「誰か居るんじゃないかと思ったけど、ヒカリさんでしたか。」


『下で呼ばないでよ。』


「今はそっちが主流なんですよ?」


「ね、ねえ。続けよう?話は後で良いじゃん。クゥン!」


おねだりする子にひと揉みすると、子犬みたいな声が上がる。


『こらアユミ!そっちこそ後になさい!話が先よ!』


「おばさんの嫉妬?だったらまた私に取り憑いて堪能したら?」


『きいいい!』


「君ら思ったより仲良いのな。まとめて片付けよう。」


霊体を無造作に掴んでまた1つに纏めると、最初のキスからやり直す。


『んん!?ちょっと!私は男なんてそんな、んんんん!?』


「あむあむ。ヒカリさんも暴れるくらいに悦んでるわ。たっぷり染めちゃってね?」


暴れる霊体を身体に縛り付けて続けるマスター。上半身が終わる頃には大人しくなり始めた。


「なんか予想外だけど、良いか。」


「『ああああああああああっ!!』」


『このダブル感。使えるかな?』


普通に続ける旦那を見て、プレイの幅を広げようとする妻。

いつも通りのアレな夫婦だった。



…………



「なるほどな。しかしヒカリは憑依も出来るなんて凄いじゃないか。」


『下の、名で呼ば……ヒューヒュー……』


「スースー……」


両者が満足するまで続け、アユミが寝たところで事情を聴く。

2005年に瞬殺された後、幼いアユミにこっそり取り憑いて守護霊をやっていたらしい。

最初は妹が儀式に使えるように守っていたが、月日が経つにつれて情が沸いてしまった。なのであのタイミングでマスターが仕掛けた事、妹を殺さなかった事も含めて感謝もしているらしい。

ただしマスターについては物申したい気持ちもあったので、今日がチャンスとばかりに乗り移ろうとしたら返り討ちに会った。経緯としてはこんなところである。


「これからどうするんだい?妹の方へ行きたければ手伝うけど。」


『散々シておいてそれはないわー。サヤに取り憑いたらあのおじさんに触られるのよ!?』


「あー、うん。ごめん。てかそういう問題なのか。」


『私が守ってきたアユミと私自身の貞操を奪ったのだから、あなたがなんとかしなさい!』


「君のは研究漬けで使う暇が無いまま終わっただけなんじゃ。」


『うっさい!まさか幽霊になってから、殺された相手とするとは思わなかったわよ!』


「とりあえずこの子には生活に困らない支援はするよ。会いたくなったらこれで呼んでくれ。あの時は問答無用で殺して悪かったよ。」


『ふん、今更?まぁでもあの時のあなたは余裕が無かったのは見て解ったからね。赦す代わりに後で邪神と会わせて。話がしたいわ。』


「分かったよ。楽しみにしていてくれ。でもちゃんとルクスと呼んでやってくれ。」


さりげなく次回の約束を取り付けたヒカリ。この後目が覚めたアユミにものすごく感謝される結果となり、まんざらでもなさそうであった。


同じ光を冠する名前の持ち主の会合は、宗教とか儀式とか関係なく……ただのガールズトークで終わる。話題は主にマスターの攻略法だった。

どうやらアユミだけでなくヒカリにも、春の期待が膨らみつつあるようだ。


…………



「言いにくいですが、最近のマスターって……」

「ハッキリ言って、女たらしですわね。」

「いつか刺されるわよ?キリコちゃん師匠とかに。」


「忠告痛み入るよ。でも君らが今挑戦していることは棚上げなんだね。」


医務室でベッドを並べて身体のチェックをしているシーズの3人。このやり取りには専属医のマキも苦笑い。


「デンノー体って幽霊みたいなものでしょ?マスターなら幽霊でも子供作れるんじゃないの?」


「驚きの精の強さですものね。」


マスターがシーズに集中しているのを良いことに、言いたいことを言っている。


「人をファンタジーのゴブリンみたいな言い方しないでほしいね。神様や幽霊が工夫すればいけるのは元々機能が有るからだよ。シオン達はモデルは歌うソフトだから、形を作り快感の信号を通して湿らせるまでしか出来なかったんだ。」


「そこまで行ったなら後一歩じゃない?」

「そうです!マスター様なら何でも出来そうです。」


「君ら一応医者だよね?まぁ電子的な個体を作るなら……でもそれはプログラムを打ち込んで作ったものと変わらない。求めてるのは人間の子だろ?」


「生殖システムは結構複雑なのよ。その器官だけでなく脳や胸なんかとの連携連動もあるし。」


田舎娘の聖女ちゃんとルクスの代わりに、マキがその難しさに同意した。


「妊婦モード自体は位相ずらしの応用を使えば再現できるかもしれないが……」


そもそもの生殖器の機能を無から作るのが困難だ。


(この辺もいずれは出来ないと、社長からの勅命も難しいんだよね。なんとかならんか……今のところクマリ達の器官のコピーを代用するしか思いつかん。)


今まで本業も副業も自由な発想でピンチを切り抜けてきた。

しかし消費型オタクな彼は、無から産み出すのが苦手だった。


「マスター、怖い顔であまり凝視されるとちょっと……」


「悪い、今日のところはその連携に使う神経を繋ぐだけにしておこう。もう少しだけ我慢してくれ。」


「「「はーい!」」」


3人は元気よく返事をして施術終了まで大人しくしていた。


(でもなんで今になってこんな欲が?)


マキは何となく違和感を覚えていた。

少し前まで出産については興味を持たず、アイドルだし!と言っていたのに。


(推しに男が居るのが発覚した気分ね。最初からだけどさ。)


マキが加入時には、いやシーズが現れた時からマスターにべったりな3人。だがいざ出産を考えて四苦八苦していると微妙な気持ちになった。


(熱狂的なファン目線も考えものね。)


違和感をオタクの嫉妬と割りきってマスターの手伝いをするマキであった。


(あれ?宴会場の使用量が上がってる?)


一方でトモミは生活環境ド安定システムの前で首をかしげていた。シーズが医務室から戻って練習を再開したのは分かる。

ただそこでのエネルギー使用量が1割ほど増えていた。


(とにかく出力を上げて、後で◯◯ちゃんに聞いておきましょう。)


謎パソコンを操作して安定を図ると、タンクに貯まっている精神力を覗く。


(うわー。◯◯ちゃんってば前より外道キャラになってるなぁ。後でお説教かしら?)


技の構成や欲望の形を見てそんな感想を抱いていた。


それぞれが小さな違和感を覚えて、それを話し合っていれば何事もない事象。それらを彼らは結果的に放置した。

組織とは、大きくなればそれだけ野心家の目に止まる。

彼らはその事に早く気づくべきだったのだ。



…………



「お姉ちゃん本当にやるの?」

「もちろん!うまく行ったらおやつ3日分あげるから!」

「それ、おやつ3日間抜きになってチャラじゃない?」

「……大丈夫!きっと!」


2016年1月末。恒例の新誕生日&結婚記念日パーティー。

今年はなんと海中での開催だ。異世界ウプラジュの人魚の村の近所に結界を張り、見物客の人魚達がうろうろしている中でマスター夫婦が見つめあっている。

ちなみに会話に齟齬が出るのでユウヤ達は呼んでないが、モリトとヨクミは結界内で子供と一緒にガツガツと飲み食いしている。

そんな中で銀髪姉妹が何やら企んでいるが、子供の可愛いイタズラを気に止めること無く参加者達は景色とお酒と料理に酔っていた。


「「愛してる。あむ……」」


毎度恒例のシンデレラキスが始まり、初参加の人魚達は食い入るように見とれている。

他の参加者も各々の立場に応じて物思いに更ける。


「私もするー!」


やがて零時を回って唇が離れると、これまた恒例のセツナが飛び出した。


「そう簡単には行かないよ!」


そう何度も不覚をとってたまるかと構えるマスター。


「今年は私もいるよ!」


「!?」


セツナの左側からクオンも突撃する。今まで避けられていた次女からのアプローチに動揺、それでも受け止めようと構えを変える。


「たあ!」

「ぬわっ!?」


インパクトの瞬間に黒いチカラを放たれ平衡感覚が狂い、そのまま足蹴にして三角飛びの要領で母親に抱きついた。


「すきあり!」


chu~~~!!


そのままセツナがマスターに飛び付いて押し倒す。

背部にはセツナ製次元バリアでクッションを作ったと同時に、熱烈なキスをカマした。


「やったぁ!姉妹の連携の勝利だよ!!」


高らかに宣言するセツナに、観客達はおおお!とどよめく。

あの現代の魔王が一本取られる姿はそうそう見られるものではない。


「全くもう、セツナはお父さんが大好きね。クオンも良い子ね、よしよし。」


妻はある種の諦めと共に懐いてきたクオンの頭を撫でている。


「セツナ、無理矢理奪うのは男の役目だぞ?」


「でもお母さんも始めての時は無理矢理したって。」


「あらやだ、恥ずかしいわ。」


照れる妻の仕草にキュンときつつ、ため息1つついたマスターはセツナのほっぺにお返しのキスをした。


会場は非常に盛り上がったが、セツナとクオンのおやつは3日間抜きになった。


「「「じぃ~……」」」


「落ち着くんだ。彼らは特殊な家庭だからね?よそはよそ、うちはうち!」


「うちも充分特殊だけどね。」


一方、会場の一角でモリトが娘達に唇を狙われている姿が目撃されていた。



…………



「おはようございます。あれ?皆さんお疲れですね?」


「「「おはよう……ござます……」」」



2月2日。交渉会議のためにいつもの迎賓館に現れたマスターだったが、ナカダイ達3人はソファーやテーブルに身を預けてぐったりしていた。


「何か疲れる要素ありました?今月はやけに早いし、生き急ぐと人間はすぐ死んじゃいますよ?」


「誰の所為だと……」


ナカダイがボソッと口にしたセリフに違和感を覚え、テーブルに置いてある書類を手にするマスター。


「トモミのプロフィール?あぁ、それでですか。」


要は第三の魔王について頑張って調べたが大したものは無く、上からプレッシャーを掛けられ会議の日程も早めたのだろう。

本当は昨日どころか一昨日には臨時会議を開きたかったハズだが、生憎彼は多忙だった。この会議も早朝に連絡を受けて決まったのだ。


「なんでそんな軽いノリなんですか?」


「我々になにか相談……とまではいかなくても、ひと言あっても良いじゃないですか。」


イシザキとイケダが気力を振り絞って抗議する。


「取り敢えず回復させましょう。てい。」


白と黒の光で照らしてやると、嘘のように回復した3人。


「べ、便利だな。助かる。それでどうなんだ?」


「彼女はサイ……説明できることが無いですね。」


「「ふあ!?」」


「待て待て、今なにか言おうとしていただろう!?」


若い2人が変な声を出した後ナカダイが代わりに突っ込む。

どう見ても日本人の名前の新魔王。また日本がやらかしたのかと睨まれている現状、何としても情報が欲しかった。


「彼女がああなったのはイタリア政府が彼女を見捨てたからだけど、そもそもイタリアに移住したのはミキモト達の所為だし。」


「む!?その辺を詳しくお聞きしたい。」


「……いやでもあれか。やっぱり言えないなぁ。」


「勿体ぶりすぎですよ!?」


トモミに関しては世界を書き換えたり、サイトの一部の反逆行為が絡んでいるため説明は難しい。

消えたサイト時代を話すわけにもいかないし、彼らに話しても面倒なことになるだけだ。


「察するに、大事な女性のようですね。なら過去ではなく今後に関してはどうですか?目的とか、チカラの特徴ですとか。」


イケダがピンときて質問を変えてくる。


「目的……世界平和かなぁ。」


「つまりヤバイ人なんですね?」


借金返済とか自分との愛人関係が目的では、魔王としてどうなの?と思って彼女の夢を誇張して伝える。見事びびってもらえてようだ。


「チカラは大体世間の推測通りだよ。サポート系と思わせて最近ははっちゃけ始めてる。どこまで突き進むかは未知数かな。」


「大人しい人ほど恐ろしいと言うことか。」


微妙に誤解が入りながらもびびってくれてるのでよしとする。


ブオン!シュタ!


そこへ唐突に空間に穴が空いて、黒髪の日本人女性が降り立った。


「こんにちは、ちょっと良いです?」


「なんだい?」


そこに現れたのはトモミ……ではなくハルカだった。

マスターはまたかと思いながらも普通に対応する。


「聞いてくださいよ。この前のチケットで彼と遊びに行ったらですね、お付き合いの申し込みされたんですよ!」


「それはおめでとう?」


「でも私はゴニョゴニョ……じゃないですか。男ってそういうの気にする生き物みたいなのでなんとか……て、誰ですかこの人達!?」


ぐいぐいと話し出した黒髪女性をポカンとして見ていた外交官組。それに気がついてハルカは慌てて口を塞ぐ。


「ばらすと色々不味い人たちなんで、紹介は控えるよ。また後で相談に乗るから、戻ってもらっていいかい?」


マスターは溢れ出る不幸パワーを指差してそのように伝える。


「あ、そうですね!そろそろ帰ります。でもこのチカラで、いつか世界平和だって叶えて見せますからね!」


師匠ゆずりの適当発言で帰っていくハルカ。

迎賓館中で物音が響き、事故が起きていた。

イケダはパソコンが爆発しナカダイは上半身だけ服が劣化してチリとなり、イシザキは地盤沈下で見えなくなっていた。


(((第三の魔王、ヤバイやつだ!!)))


変な誤解をしているが、別に良いかと訂正しないマスター。

3人は打つ手無しと報告書に記載するのであった。



…………



「はい、マスター。一応あげるわ!」


「ありがとう。後でいただくよ。」


アユミからのバレンタインのチョコを2個受けとるマスター。

まさかのヒカリからのチョコも頂いた。


「ヒカリさん、逃げなくたって良いのに。あ、子供にあげても良いけど、1個は食べてよね?」


魔王邸ホテルの一室でお茶を飲みながら話す2人。ヒカリはルクスのもとへそそくさと移動していた。


「もちろん食べるけど……君のその感性、チカラなのかい?」


「どうだろ。ヒカリさんが何か言ってた気がするけど忘れちゃった。あれ、おかしいな?」


「そっか。邪神の情報を消したから……しまったなあ。」


「んー。私が気になるなら隅々まで調べても良いよ?1対1ではまだだったし?」


「今の子ってそんな積極的なのか?」


その疑問を解消するため、ではなく彼女の事を知るために手を伸ばす。

しかし彼女の中でで膨らむ期待と感情を感じとったので、そちらを満たすための行為に切り替えた。


「ふふっ、良かったよ。ありがと、マスター!」

「気に入ってもらえて良かった。」


ベッドの上、全裸でマスターに甘えてくるアユミ。


「後はヒカリさんが戻ったらもう3回ね。ん?何かに見られている?」


全身マスターに押し付けて顔やら首やら胸やらに甘えていると、肌に何かを感じ取ってキョロキョロするアユミ。


「監視役の視線じゃないか?オレが無茶しないように見張られてるんだ。」


「ふーん?有名人も大変ね。はい、私にも甘えて良いわよ?」


今度は手を広げてマスターの顔を胸に引き寄せてくる。

監視役を大して気にしていない風だったが、実は見せつけてやろうと考えていた。


(勘やら察知の良さは凄いね。慣れてないハズの行為中も次へ次へと先手を狙ってたし。本当にどういうチカラなんだ?)


とは言え焦らずにゆっくり行けば良いかくらいに考えていた。


『ただいま!何あの子、凄く良い子じゃああああ!?』


ドロドロの2人の真っ最中な光景に動揺するヒカリさん。


「あは、おかえり~。ヒカリさんもこっちに来なよ。」


『待っ、ひゃあああ!』


言葉だけで彼女を引き寄せ強制参加させるアユミ。

精神系のチカラ持ちを軽く操った彼女を見て、魔性の女という単語が頭に浮かんだマスターだった。


…………



「ふふ、もうすぐね。」

「オレも立ち会ってサポートするから、頼んだよ。」


2016年3月14日。妊婦の身体を表面化させて寝室にて待機する夫婦。周囲ではマキ達医療班が準備を進めてる。

医務室区画での出産の方が自然だが、新しい家族の誕生はこの部屋が良いと話し合いで決まった為だ。


「うん。あなたがいてくれるなら安心よ。きっとマユリは可愛い子だわ。」


「そうだね。ミシロはきっとみんなに懐いてくれるさ。」


「「…………」」


2人は笑顔のまま視線で牽制し合う。この土壇場でも三女の名前は確定していなかった。


「2人とも、ケンカしない!赤ちゃんが怖がって引っ込んじゃうわよ!」


「「……はい。」」


マキに怒られて素直に大人しくなる2人だった。


「マスターってば変なとこで意地張るんだから。」

「どっちも素敵な名前ですけどね。」


マユリ派の聖女ちゃんと中立のルクスもマキの補助でお産の準備をしている。本来ならこういう大事な場面ではカナも立ち会うが、彼女は彼女で先日産まれたばかりの子供を見ているので長くは付き合えないでいる。

2級メイドの仕事は特級メイドやその子供の世話をする事としているが、やはりなるべく自分で面倒を見たい母心である。

もちろん産気付いたら駆けつけるつもりだが、ともかく今は居なかった。


「クーちゃん、よく見ておくのよ。これが私たちの未来の姿でもあるんだから。」


「……ママ、頑張ってね。」


長女と次女は母の手を握りながら、寄り添っている。

セツナの発言は普通に聞いたら微笑ましいが、相手が父親という前提があるのでネジが飛んでいる。


◯◯◯は旦那と娘達に囲まれてその時を待つ。


(ああ、こういうの良いわね。)


幸せに浸っていると自身の身体に変化を感じ、タイミングよくカナとクマリとシーズも応援に駆けつけた。

ちなみにシーズの3人は本当に応援だけである。


血縁有る無しにかかわらず、家族に見守られながら出産が始まった。

それぞれのチカラで◯◯◯の気力体力を確保し、身体への負担はマスターが空間を弄ることでスムーズに進ませる。

シオン達は一生懸命応援のダンスしていた。

すぐに頭が見えてきて、その後もスムーズに現世へと産まれてきた赤ちゃん。


「凄いね!こうやって新しい命が!」

「私にも妹が……」


姉妹はそれぞれ感動している。赤ちゃんは大きく息を吸ってまさに産声をあげようとしていた。


「お、お……お父様!あの空間を凍結してくださいまし!」


赤ちゃんは光に包まれながら、トンでもない産声をあげた。



…………



ピカッ!シュルルルル!!



「お、お……お父様!あの空間を凍結してくださいまし!」



3月14日。生誕数秒で青みがかった銀色の光に包まれた赤ちゃん。その光の中からトンでもない産声が聞こえる。


「っ!?そこか!?」


マスターは赤ちゃんがわずかに光で示す方向、ベッドから少し離れた天井付近の空間へチカラを放って凍結する。

すると縦1横3メートルほどの少々いびつな円柱型の空間が、床にズドンと落ちてきた。


「なんだこりゃ?」


その内部には細かい光が散りばめられていて、気が付かなかったのが不思議なくらいに存在感を見せている。


「それは電脳世界の厄介者です!さすがお父様、一発で仕留めてしまいましたわ!」


光は1メートル半程の位置に滞留し、それがほどけて中から魔法少女が現れて浮いている。身の丈からして5歳くらいだろうか。


「君は、オレ達の娘で合ってるんだよね?」


「はい!私は魔法少女マユリ!そこの光に蹂躙された我が家を救いに来ました!」


「やった!やっぱり女の子ならマユリよね!」


「喜ぶところそこ!?」


喜びガッツポーズする◯◯◯にマスターが突っ込む。


「いえあの、そっちは芸名でして……◯◯◯◯・ミシロが本名です。」


「なんでよ!?」


「よっしゃ!やっぱり2人の特徴を併せた方が良いよな!」


「旦那様、奥様?混乱してるのはお察ししますが、話を進めた方がよろしいのではないでしょうカナ?」


話を促すカナの話し方も若干おかしい。


「さすがカナさん、魔王邸のスケベ長です!実は……」


「それは聞き捨てならないカナ!?」


カナは5歳児だか赤ちゃんだかに不名誉な呼び方されて問いただそうとするが、シーズに押さえつけられた。


「いけません!シーズは操られて……」


マユリは慌てて警告するが、カナは既に取り押さえられていて人質状態だ。


「ふはははは!私を捕えたのは驚いたけど、この子がどうなってもーーッ!?」


「「「きゃああああああ!!」」」


操られシオンが得意気になにか言おうとした時、カナがチカラを放って3人に流した。


「セイキゼッチョウ・スケベギア!お粗末様です。」


倒れる3人を尻目に、怒られそうな技名を披露するカナ。

格好つけてはいるが、やっぱりスケベ長じゃないかと絶頂して痙攣しているシーズを見ながら全員が思った。


「取り敢えず縛っておくか。予備電力も切っておいて、と。」


格好つけてるカナをマキに任せてシーズをチカラで縛っておく。SMが苦手という割にはキッチリ亀甲縛りである。


「ルクスと聖女ちゃん、見張りを頼む。セツナとクオンはお母さんを守ってあげるんだ。それで……」


マスターは指示を出してから魔法少女に向き直る。


「お見事ですわ!実は我が家には電脳……この頃は電子世界ですね。そこから招かざるお客さんが入り込んでいたのです。」


「そのようだね。精神系のチカラ持ちが多いのによくもまぁ、て感じだけど。」


「最初は大人しかったのですが、徐々にやりたい放題し始めて……気が付いた時には手がつけられなくなって。そこで私が未来からやって来たと言うわけです!」


フンスと胸を反らせるマユリ。セツナやクオンはその可愛い妹を羨ましそうに見ている。テレビや怪盗イヌキではない、本物っぽい魔法少女に憧れが生まれたようだ。


「電子世界ってことはネット経由で来たのか?未来視とかにガンガン使ってたもんな。そういう存在が居るなら目をつけられるか。」


「まさにそれですわ!この後お父様に電脳世界を作らせたり、お金が必要になったら本物の魔王として略奪させたりいたしますの!」


「つまりオレも操られるのか……危ないところを助けられたな。ありがとう、ミシロ。」


「そ、そんな。私の家族の事でもありますし。」


頭を撫でられて照れっ照れなマユリ。


「あ、目を覚ましたよ!」

「マスター様、こちらへ!」


聖女ちゃん達が警告すると、精神防御を高めて操られたシーズのもとへ向かう。


「おのれ、このような……動けんではないか!」


「今思えばシオン達が発情してたのも君の所為かな?手駒を増やしたかったのか?」


「ふん、神である私への狼藉、後悔させてやる!」


「神ねぇ。なんか名前ないの?」


「電子世界の神、それで十分だろう!?」


マスターはそこで少し考え込む。電子世界の神。そんな神様は聞いたことがない。しかし神を自称するからにはそれなりの自信ある存在なのだろう。


(ん、待てよ?確か何かのネタで……)


彼の頭に浮かぶは、とある質問とその解答の円グラフ。

そこからヒントを得て勝手に呼び名を決めた。


「それじゃ君はタンネな。糸神鍛姉。」


「ちょ、バカ!私を定義付けするなあああ!」


自称神=糸神タンネと決められたことで、上位存在ではなく名前つきの個体と世界に定義された彼女(?)。

シオン・リーア・ユズから別個体と認識されて弾き出される。

凍結した空間のクリスタルの中身も世界の理が働いたようで、神としての存在を失ってマスターがイメージしたキャラクターとして1つに纏まり始めた。


名前とはとても重要なモノである。


例えばチカラ在る怨霊に名付けられそうになったセツナとクオンが言霊に引っ張られそうになった事。


例えばネームサファル。意味嫌われた存在と似た名前というだけで糾弾されている。


例えば現代の魔王や棄民界の領主。悪魔の姫の当主や上級神クロシャータの本名。正体不明が一番恐ろしいのだ。


余談だがシーズの3人。版権的な理由からシオン・リーア・ユズリンと名付けられたが、元のソフトのキャラ名のままアイドルをしていたらマスターが支払う賠償金はうなぎ登りだっただろう。


ともかく名前とはとても重要なモノである。


電子世界では、0と1の世界では外部から簡単に定義付けられてしまう。正体がばれなければ魔王邸を牛耳ることが出来たかもしれないが……あっさりと定義されてボサ髪発育不良のメガネっ娘にされてしまった。


「や、やられたわ。このまま私は消されるのよ。数値を0にされて何もかもおしまいよ……せめてもっと可愛い名前が良かった。」


タンネはウジウジメソメソして今後に悲観している。


「ピッタリな名前だと思ったのになぁ。」


「あなたの名付けは合理的だけど、可愛さが足りないのよ。」


「そうは言っても字面的にこれしか浮かばなかったんだ。」


妻にはっきり言われて頭をかくマスター。


「わ、私はミシロも良いと思ってますわ!」


そこへ魔法少女がフォローをいれるが、タンネについては言及していない。


「質問です!なぜその名前なんですか!?それが分かればご本人も納得するんじゃないカナ!」


カナのもっともらしい意見を受けてマスターもその気になった。


神をみたことある?


わからない。9%

ない。11%

インターネットで見た。80%


「これを参考に"インターネット神"の字面を適当に入れ換えただけ。」


マスターはAA付きの画像をみんなに見せて説明する。これで納得間違いないだろうと確信していた。


「納得できるか!!」


当然納得はしてもらえなかった。


「それじゃあれだ。オレの仕事を手伝ってよ。それならタンネを消したりしないし、電脳世界?それも作るだけなら協力するよ。」


「本当に!?後でいきなりゼロを入力しない!?」


「ああ。世界と言っても狭いヤツな。それまでは書斎のパソコンに住めば良い。」


「ありがとう。これでマイホームの夢が叶うわ!」


どうやらプライバシーの薄いネットの中で漂いすぎて、定住先が欲しかっただけのようだ。


「これ、契約書ね。もうウチの住人には手を出すなよ。」


「ここにサインすれば良いのね。改めてよろしくう!」


無事に契約も終わり、さっさと書斎のパソコンへ向かっていくタンネを見送る。


「少し甘くないですか?マユリちゃんの話が本当なら……」


「むしろこの選択以外無いよ。」


今は今であって未来ではない。シーズへの借りがあるが存在をランクダウンさせたし、仕事の手伝いを頼めるなら心強い相手でもある。それになりより、今日は三女の誕生日なのだ。

恩赦の1つくらいあっても良いだろう。


「さすがお父様、見事な采配ですわ!」


その辺を理解しているのか手を叩いて誉めてくるマユリ。


「ところでミシロはどうする?未来に帰るにしてもしばらくゆっくり出来るのか?」


「その事についてですが、ご存じの通り私は少々特殊な赤ん坊でして……概念がややこいのです。なので申し上げにくいのですが……」


彼女は頭をとんとんと指で示しながらモジモジしている。

読み取るとまず、彼女はもとの未来へは帰れないらしい。

ここで問題を解決した以上同じ時間軸への経路は閉ざされて戻れないし、戻る意味もあまり無いので座標にチェックをしてこなかった。

並行世界経由にしても完全に同じではない=その時間軸の自分が居る。

となれば解決したこの時間軸で生きていくことになるが、タイムトラベルが可能な赤ちゃんとなれば必ず誰かが利用しようとするだろう。


「解った。ミシロは箱入り娘として育てよう。それで、赤ちゃんに戻れたりはするのか?」


「ご配慮頂きありがとうございます。本体の身体は位相をずらしてここに居ますので、チカラを解除すれば元通りですわ。」


自身の胸を示した彼女は、今のマスターに匹敵するチカラの持ち主だと認識された。


「可愛いなぁ。それに格好いい!よろしくね、マ、ミ……どっちで呼べば良いんだろう?」


「私より大きくても私の方がお姉ちゃんだからね!」


「よろしくお願いします。セツナお姉様、クオンお姉様。」


姉妹同士の挨拶を済ませる娘達。


「「ふわぁぁぁ……」」


キラキラ光りながらのカーテシーで感動するお姉ちゃんズ。


「お母様も、私を産んでくださいましてありがとうございますわ。」


「こんな素敵な娘を持てて、私は幸せ者だわ。さ、いらっしゃい。」


「はい!……お、おぎゃあああ!」


今度は光を拡散させながら母の胸に飛び込むミシロ。

そこには産まれたばかりの赤ちゃんに戻った彼女が、産声をあげていた。


余談だが、シーズの発情期は無事に終わったようである。



…………



「だ、誰も居ないわよね。」


ある日。1人こっそり魔王邸練習場に現れたのはセツナ。気配を探って無人なのを確認してからドレスルビーを取り出す。


「たしか光が弧を描いて集まる感じ……と。」


ピカッ!シュルルルル!


タイミング良くブローチのスイッチを押してフリフリのドレスに着替えたところで可愛いポーズ。


「魔法少女セツナ、参上!」


「何をやってるの、お姉ちゃん。」


「ひゃい!?何でもないよ!?」


いつの間にか後ろに居たクオンに話しかけられ、かあああああっと顔を真っ赤にしながら慌てるセツナにクオンは首をかしげる。


「パパ以外の真似って珍しいね?」


「あうあう、これは内緒よ!?というかいつから居たの!?」


「最初からよ。またパパとママを覗きにいくのかと思って、ステルスしてついてきたの。」


クオンの精神干渉のステルスは強力だ。更にセツナの空間的なステルスと系統が違うので気付きにくかったようだ。


「お姉様、ポーズで恥ずかしがってたら魔法少女は務まりませんわ。」


「ミーちゃんまで!?はううう……」


「まあ!クオンお姉様?セツナお姉様ってとても可愛らしいのですね!」


追い討ちをかけられ耳まで赤くなったセツナは、うつむいてモジモジしている。

2人してなでなでして可愛がるその光景は、寝室からモニターで見ていた夫婦の心もほっこりさせていた。


「ああ、産んで良かったわ。」

「◯◯◯もだけど、娘達も必ず幸せにしてやろう。」


親バカが加速するマスター達であった。



…………



「ようこそ我が茶会へ。」



2016年4月初旬。悪魔城の当主様がテラスへ客人を招いていた。冬の寒さの名残は若干あるが、春の陽気によってかなり緩和されている。

招かれたのは4名。セツナ・クオン・ミシロ、そしてモーラ・バラードであった。

メイドさんにエスコートされて客人が席に着けば、すぐにエリートメイドが紅茶を淹れる。

さすがの使用人Bさんもお仕事の時は性癖解放を控え、こっそり当主様の髪の匂いを嗅ぐ程度にしている。


「ほ。本日はおま、お招き頂き大変コーエーの……」

「あはは、ララちゃん緊張しすぎ!当主姉さんは食べたりしないんだから!」

「だ、だってセッチャンはそうでも、私は立場が違うんだから!」

「おいしい!いい香りのお茶ですね。」

「本日はお招き頂き大変光栄ですわ。新参者ですがよろしくお願いします。」


「うむ。バラード家の娘は無理せずともよい。クオンくらいで丁度良いぞ。しかしミシロ……今はマユリか。生まれたてでよく躾けられているな。」


「ミーちゃんのしゃべり方はお嬢様みたいだよね!」


「姉さん、私たちも一応この世界の重役のお嬢様のはずなんだけど?」


「お姉さま達のキャラが強いので、こうでもしないと埋もれてしまうのですわ。」


「まさかのキャラつくり!?」


各々流の挨拶を終えてお茶会はスムーズにスタートを切った。

この会の趣旨はマスター篭絡理論懇談会。略してマスターロリコン会という。

主に父親を狙うセツナが声を上げて立ち上げたモノである。当主様が共感して場を用意し、友人のララと妹達は協力者としてアンモラルな欲望に巻き込まれた。

そんなロリ同盟の話題は現代の魔王たるマスターの心をメロメロにしてオトナな関係を築く事だった。


「モーラ、学友としてセツナの気持ちはどう思う?」


「ひゃい!マスターさんは色んな面が有って素敵ですが……自分では理解しかねるのが本当のトコです。」


「えー、お父さん凄いんだよ?格好いいんだよ?」


ララにも反対されて猛抗議するが、この中で一番子供っぽく見えてしまうセツナ。


「セッちゃんのお父様は素敵です。でも普通は親と恋人にはならないし、イケナイコトとして世間ではいわれてますわ。」


「ぶー、ララちゃんもそういう!」


一般論を持ち出されてはぐうの音も出ない。それが分かっているからこその会議なのに!という気持ちでぶーたれる。


「お姉ちゃん、それが世界なんだよ?それに最近はクルスさんに言い寄られてるんじゃないの?」


「クルス君は修行仲間だよ。私オーヒとか言うのにならないし。お店継ぐんだし!」


さすがのセツナもクルスの好意に気付いているが、本人の居ないところでフラグをへし折られていく。


「お父様は宇宙イチのお母様と結婚されるくらい素敵です。その娘として生まれた以上、他の男性を見ても比べてしまって魅力を感じられないというのは分かりますわ。」


「さすがミーちゃん!話が分かるぅ!」


ミシロも思うところがあるのか……単に姉へのフォローか知らないが、一定の理解を示す。


「でもお父様達は仰っていました。身体の発達に伴って、心も強制的に変化するものだと。」


「うむ。成長過程で遺伝子の近い異性を嫌悪する現象のことだな。この前想像して泣きそうな顔をしておったわ。」


「それって私にもチャンスがあるのよね!?」


「ちょっと違うと思うけど?……私はオトコなんて別に良いけど、当主お姉ちゃんはどうなの?未来の義母さんの割りに進展はなさそうだけど。」


あまり姉のことばかりだと落ち込んでしまうかもしれない。そう考えたクオンがワリと辛辣な言葉で当主様に振ってみる。


「わ!?私だってその気になればオトナの身体になれるし?そうなればイチコロよ!?」


一気に威厳が目減りし始めた当主様。モーラの緊張も少し解けていく。


「ではなんでそうしないのですか?」


「それでダメだったら後が無いからに決まってるじゃない。」


クオンがナチュラルに心を抉りにきているが、それは策略だった。


「違うわよ!?この子がそれやったら自分で慰めていたのをばらすとか言って……あっ!?」


「「「ほうほう?」」」


当主様は墓穴を掘って愕然としている後ろで、使用人Bさんが鼻血を出して退席する。A・C・Dさんは今夜の飲みのネタは決まったと思いながらも、暖かい目で主人兼友人を見ている。

本来ならスキャンダルをさらすことなどしないが、水星屋のマスターの耳に入れば何かしらのアクションが期待できるためだ。


「何よ、そんなの誰だってしてるでしょ!?」


「私やクオンお姉様は色々無理がありますわ。あの家ですので知識だけは持っておりますが……セツナお姉様ならもしかしたら?」


「してないよ?私はやり方わからないし何か怖いし……ララちゃんは?」


「ふぇ!?し、知らない!」


「ほれみなさい!?この反応、大方トウジを思って夜な夜な耽っておるのだろう!?」


「違うもん!たまにだもん!」


「「「ほうほう。」」」


「へえ!ララちゃんオットナ~!」


「はうう……」


褒てるつもりのセツナの言葉に落ち込んでしまうララ。


「あぁ、悪いこと言っちゃった?ごめんね?私も気にはなってるんだけど、スッゴい大事なところでしょ?だからお父さんに少しだけシテもらって我慢してるの!」


「ちょっと待って、どう言うことなの!?」


ララはあり得ない行為を聞いてしまってついうっかり追及してしまう。


「ララさん誤解ですよ。私たちは毎朝成長の時間調整を受けてるんです。その時そこも少しだけ触れるのです。私もママにしてもらうのが心地よくて大好きなんです。」


「あー、そういう。いやそれもどうなの!?」


クオンの説明に納得しかけたが普通ではないことには変わらないと気付くララさん。


「モーラ、いやララ?家庭の事情はそれぞれよ。マスターからしてみれば魔法貴族の風習だって似たように映っているわ。」


「あ、はい。そうですね。」


自慰行為仲間と認識した所為か、当主様も愛称で呼び始めた。

貴族の在り方を出されてはララも納得せざるを得ない。


「お父さんにもっと念入りにって言ってもなかなか触ってくれないんだよ。頑張って洗ってあげても大きくなってくれないし。」


「洗っ……大き……」


ひとつ年下の親友が思いの外強力なアプローチをしていて、ちょっぴり焦るララ。


「それは下手くそなんじゃない?」


「そ、そんなことはないよ!……多分お父さんはチカラで興奮を抑えて、ズルいんだよ!」


からかうような当主様にセツナは頑張ってはしたない言い訳する。


「ねえ、そろそろ不毛な話はやめて進めない?」


クオンが紅茶を飲み終わって促す。このまま無駄にお互いをキズつける……良く言えば互いに解り合える会話をしていても、何も話が進まない。


「仕方ないよ、みんなツルツルだもん!」


セツナの宣言にララだけは目を反らしたが、概ねクオンに同意する。


「まず問題点をあげよう!私たちの発育不足!」


「さらりと妹達も巻き込んだわね。」


「この前トモミさんがツルツルに戻されてたけど、パパは興奮してたよ?」


「はい、あれならセツナお姉様もチャンスはありそうですわ。」


クオンとミシロの証言にコクリと頷いた当主様が続ける。


「つまり彼は相手が幼くても年寄り(領主)でも平気なのよ。本当の問題点は理性。倫理観ね。そこを突破しなければ何も変えられないわ。」


「大勢の女性を相手にしてリンリカンと言うのも謎ですけどね。」


「本当、ママだけで良いのに。」


「それだと私が困るよ!?」


三姉妹がワイワイしているなかでも考え込む当主とララ。

ララはトウジと血縁こそ無いものの、相手との年齢差やら血統やらで悩んでいる。もっと言えば相手は幽霊だ。

それらを埋めるには彼女達有力者の協力が必要不可欠であり、その為には協力を惜しむつもりはない。


「パターンとしては大きく分けて2つでしょうか。」


「であろうな。強行突破か、環境を整えるか。」


2人の考えは一致したらしい。


「強行突破って、私じゃお父さんに敵わないよ?」


「何も無理やり押し倒せとは言わない。どんな手でも良いから、コトに及べば何を言われても恋仲と言い張れる。」


「その代わり、おやつやお小遣い抜き所じゃなく怒られそうです。」


「もう1つはこの世界の法律、ルールを変えて押し通す方法だな。」


「つまり、あの社長にシて良いよって言わせるのね?」


「なら次回はマリーも呼んで私と彼女で圧力を掛けてーー」


「自由恋愛の法ですね!是非、立場間の壁をーー」


セツナ・当主様とララは新たな可能性に興奮して会議を続ける。


「実際どうなの?その、未来では?」


盛り上がる3人に大してこそこそと反則技を使うクオン。

未来の事は未来人に聞けばいい、


「うふふ、それは内緒ですわ。でも操られたとはいえ、みんな仲良しですわよ。後は本人達がいつ気付くか……楽しみです!」


「ふぅん、何かあるのね?でも私はあそこまで楽しめそうにないな。」


好みが女体寄りなクオンは、男を落とす会議は微妙である。

だったらサービス!とばかりにミシロはクオンの膝の上に座って甘え、クオンは妹をナデナデして可愛がる。

横では乙女達が春を夢見て会話に花を咲かせていた。



…………



「し、師匠~。もう向こうの湖見に行こ?もう疲れちまったよ。」


「もう少しだから我慢だよ。」



暖かくなり行楽シーズンを迎えた4月下旬。

神社巡りと言うちょっと年代的に高めなイメージのデートをする男女。

ファラの悪魔の本能を抑えつつ観光地を見て回る。


「ここ、強力なんだもん。寒気が止まらないんだ。」


「由緒ある諏訪大社だからね。スギミヤの師匠の神社とはモノが違うさ。」


「あそこはハッタリじゃねえか。お陰で油断した。」


最初から強力な所では身が持たないだろうとキサキのなんちゃって神社に行ったら何ともなかった。キサキは神パワー自体は失っていたので仕方ない話だ。これから徐々に力をつけていくのだろう。エロい方に。


「ちょっと肩かして~……あれ?少し楽になった?」


とにかくお賽銭をいれてお参りを済ますとファラはヨロヨロと師匠に寄り掛かった。


「君はもう少し防御を練ろうな。この術式にこの波形パターンを入れればこのくらいまでは楽になるよ。」


「師匠だけ防いでてズルいんだー!こうなったら絶対離れないからな!!」


顔を赤くしながらも腕を取ってしがみつくファラ。流れはともかくデートっぽい行動にドキドキしている。


(やはり悪魔系なら、こっちの方がお化け屋敷みたいな扱いになるのね。)


一応の計算通りにファラの感触と可愛らしい表情を楽しむマスター。すると変わった参拝客が目に止まる。


「なぁ父さん、なんでこんなところまで白衣なん?」

「普段通りの姿なら、神様も見つけやすいだろう?」

「ナミだっていつも通りでしょ?気合いたっぷり。」

「私は可愛さを追求して……母さんだってキメてるじゃん。」


それは3人の男女、家族で来ているようだ。

男は中年でいかにも科学者といった白衣と、腰には7つ道具入れをベルトに下げて腕には小型の端末を着けている。


ナミと呼ばれた娘は高校生くらいか。ピンクのファンキーなファッションに身を包み、足にはローラーブレードを装着。

髪は赤茶でバキバキのツインテールにするつもりが、髪がサラサラ過ぎて流れるようなスタイルになっている。

ワビサビのガチ和の神社よりはアメリカのストリートや原宿とかの方が似合うだろう。


母親の方は清楚に、しかしガッツリキメていて髪もフワフワにしている。山の寒気と春の暖気が混ざった丁度良い気温だがノリの効いたジャケットを羽織っており、良く見ると装飾品を上品にあしらった白衣だった。


3人とも神社へ参拝するには独特な見た目のため、周囲の目を惹き付けている。


「マスターより目立ってるねぇ。見て、すごい熱心にお祈りしてるよ?」


「余程の願い……お仕事が入ったのだろうね。」


「……もう次、湖行こう!」


「お、おい。諏訪大社ってのはまだ3つあって……」


遠い何処かを見始めた師匠をズリズリ引きずって移動するファラ。

別の人や物事に意識を持っていかれるわけには行かない。これは前回失敗したファラの、やり直しデートなのだから。


(なんだあれ。真っ黒なダメージファッション?ダサいのに妙に似合ってるじゃん。)


ナミは自分達より浮いているカップルのコーディネートを見てそんな感想を抱いていた。


(兄さん?いや、んなわけねぇか。)


ちょっとだけ身内に似てるなと考えたが、そんなはずはないと視線を家族へ戻す。


(あんな良い人が知らん女と浮気とかしないだろうしな。)



…………



「例の宗教の件、ありがとう。これでカナも浮かばれるわ。」


「死んでないカナ!?」



魔王邸に"遊び"に来たトウカが、プレイルームのベッドでマスターに囁いた。監査役のカナがルールを破って突っ込みを入れた。


「冗談よ。でもマスター、カナを頼むわよ?何でも言うこと聞くからって調子に乗って怒らすと、空から核爆弾が降ってくるわ。」


「う……あれはやりすぎだったかもしれませんが、お陰で皆さん迷うことなく天に召されたカナ?」


吹き飛んだ邪神信仰の教会や事務所跡は雑に魔王の仕業として処理された。結界のお陰で破壊や汚染は外には漏れてないが、後にオカルトスポットとして遊びに行くと体調不良を訴える人が続出した。

無理やり時間を進めて放射能を減らしたとはいえ、内部の除染は完璧ではないのだ。


「それでマスター、今日はどんな用件がありまして?」


「バレてたか。実は難しい仕事を頼まれてね。1枚噛まない?」


「それはもちろん。でもどんな事業を?」


「なんと言うか……宇宙開発?」


「利益は出ない。そう言うことね?」


トウカはこれが失敗前提、赤字覚悟の案件だと気付く。いやむしろ気付かない方がおかしい。

これは領主へのクーデターもどき後に貰った仕事の件だ。

しかし別に本当に宇宙開発事業をするわけではなく、それに向けた実験でデータを取るのが目的だ。


「まあね。もちろん君への支払いはする。赤字になるのはウチだけさ。」


「娘の父親が変に欲を出して、潰れられても困るのだけど?」


「そういう夢物語に目覚めたわけじゃないよ。ただ必要な事をするだけ。モノの開発には試作を繰り返すでしょ?」


「ふーん。貴女は何か聞いてる?」


「いえ、初耳ですわ。」


「まあ、いいわ。なんでも出来る貴方がウチを通すってことは、理由があるのでしょう。まずは何をすればよろしくて?」


「宇宙で使う居住コロニーの設計かな。」


その後、街やネットの広告で「君も宇宙に住んでみよう!」と言うフレコミが出回った。待遇も悪くはなく、文無しの層や好事家達がこぞって問い合わせ・予約をするのだった。



…………



「君はどういう世界を作りたいんだ?」


「私的には街1つ分くらいで良いけど、住人が増えればとてつもなく広くなるでしょうね。」


トウカが帰った後。書斎のパソコンに向かって、タンネに欲しい電脳世界の概要を聞いてみたマスター。


「小型ならスパコンでも作って管理すれば良いが、大型世界となるとそれこそエグいことしなきゃダメっぽいなあ。」


箱庭ならネトゲのようなシステムでなんとかなりそうだが、それ以上となると維持には相当の労力が必要だ。


「ここの生活環境ド安定システムでスパコン作れば、カントーくらいの広さは行けるんじゃない?」


「もちろん異世界のパーツを使うのはありだけど、維持に使うチカラが半端ないよ。」


「そのエグい方法って?」


「人間を参加させて脳の何割かを維持に回す。」


「うーっわ!生体コンピュータ?シューティングゲームの設定とかでありそうよね。」


「物理演算入れるとなると処理が膨大になるし。」


「今風のRPGみたいなのじゃなくて、昔の選択式にしても良いんじゃない?余計な路地とかはご想像にお任せします的な。」


「あぁ、それなら早いよな。自室・各店内部以外は文字を選ぶだけみたいな。」


「そうそう。ソロならそれで問題ないハズ。問題は交流をメインにしたい連中ね。SNSだけで満足してくれれば良いけど。」


「電脳体で触れあうとか、ドンだけコストが掛かるか……」


シーズを頭に浮かべて悩むマスター。彼女達は様々な情報で体の構成を維持、電力で稼働しているがそれを賄っているのはマスターのチカラなのだ。


「なんか都合の良いエネルギータンクとかあれば良いのに。」


「そんな無限機関と変わらんような電池なんて……あっ。」


「何か思い付いた?」


「外道なのを1つ。いかんなぁ。悪い人間達の所為でそっち方面ばかり影響受けてる気がするよ。」


「なら今度遊びに行きましょう?私に甘えればきっと性格良くなるわよ。」


「どのクチが言って……すまん、今の君には冤罪だったな。」


「……その素直さと言うかチョロさが未来の私を欲に染めたんじゃない?心配になるからもう少しワガママで良いよ。」


「気を付けるよ。取り敢えずエネルギー問題はツテをあたってみるさ。」


その後、あの世の地獄行きな方々向けに仕事の選択肢が増えた。他にも天国の住人や一般霊達向けの献血めいた活動も見られる。

それは良いことをしたという自尊心を満足させたり、気性の荒い地獄の住人を大人しくさせる効果も有った。

治安も良くなりエネルギーを売った金で財政も助かる、あの世としても悪くはない取り引きだった。



…………



「一体何を企んでいるのですか?」


「それはお互い様でしょうに。」



2016年6月の交渉会議。最近血生臭い事件を起こさない代わりに怪しい活動をしているマスターに、特殊外交官のナカダイが問う。


「それはそうなのだろうが、聞いておかんわけにもいかんのだ。」


「そうでしょうね。」


明らかに怪しい事業内容、その企業名がハーン総合業務とあらば人類側は警戒して当然だろう。

日本政府としては名目上見逃すと言ってしまった手前おおっぴらに注意喚起も出来ずにいた。


「宇宙生活体験だの安眠促進だの……あなた方らしくないのが余計に怪しいですよ。」


宇宙生活体験は広い敷地にコロニーを建設して擬似体験しようと言うフレコミだが、リアリティーのために本当に宇宙に住んでもらう。短期と長期の班を作って長期組にはコロニーの維持のお仕事もしてもらうつもりだ。

安眠促進については宿泊施設である。対外的にはストレスによる余剰の電気信号を抑えてリラックスさせ、快眠を得るものだ。

店側は精神エネルギーをごっそり頂いて電脳世界に役立てるつもりである。死者よりも生者のエネルギーの方が強いため、あの世だけでなく現世からも調達することにしたのだ。


「この辺については危惧するような危険は無いよ。支配がどうとか、破壊がどうとかって話じゃないし。例えるなら内輪ネタで盛り上がる芸人を、業界に明るくない人が見ているようなモノだね。」


「例えは分かりにくいですが、本当に危険はないのですね?」


「うん。危険があるとすれば凶悪犯罪者とかが紛れ込んだときとかだろうけど、それはどこの店やサービスでも同じでしょ?」


「最近は一周してマスターの悪いところも分かるようになってきたんですよ。」


「うんうん、今のちょっと怪しいですね。こう、嘘でない言葉で嘘を隠すような。」


イシザキとイケダはジロジロとマスターを見てプレッシャーを掛けてみる。


「人間らしく振る舞っているだけですよ。」


対してマスターは涼しい顔だ。


「……だからって業務停止命令は出せないんですけどねぇ。」


「それ出したらどんな弊害があるか分かったものじゃない。」


「良くご存じで。」


ほらやっぱり!と3人は肩をすくめて次の話題の資料に目を通す。


「ご存じとは思いますが大陸の方でマスターを倒す研究が活発になっています。」


「どの国でも研究自体はしていますが、学生や主婦のサークルまで使っての大々的なモノは中々ないですよ。税金が息切れしますし。」


「半分は広告としてのバイトだろうがな。そんなものに遅れは取らぬと思うが、一応気を付けた方が良いだろう。」


「油断は出来ない話として受けとりますよ。未知は怖いですからね。」


手渡された資料には魚や動物の死骸を使ったお守りや、占いやら風水やらの怪しさ満点のプロジェクトの概要が並んでいる。

新興宗教や謎のカンフー道場、軽音楽部等に美術部、料理研究会等も参加しており、カオスである。


「随分詳しく調べてますね。ならこちらからも……これとこのプロジェクト。危ないからやめた方が良いと思うよ。」


「新しい毒薬に爆弾、進化した生体兵器?」


「新エネルギーの開発に……サイトの警察への統合?」


「ほとんど把握してないプロジェクトだな。というか組織の統合で危険とは?」


「オレへのヘイトはナイト統合時に生まれました。それにサイトは綺麗事を並べていても実体は実力格差も酷い。軋轢は必至です。」


「……この件は良く言っておこう。だがサイトのトップは高齢だし入退院を繰り返しているそうだ。この流れは止められんと思う。」


「ストレス凄そうだもんなぁ。喫茶店経営で心を持たせていたのだろうけど。」


「こっそりお見舞いにいかれては?」


「うん?……考えておくか。ところでユリは今晩時間はあるかい?」


「もちろんよ。いつでも空けておかないと上も煩いしね。」


付き合いも長くなった所為か、ユリ呼びにも抵抗は無くなってきたイシザキ。上からマスターを誘惑しろと言われている以上、彼からの誘いは断れない。

と言っても実際は男女の関係ではなく、この先生きていくための講義や身体の調整がメインである。


「マスター、オレ達のアレも進んでます?」


「とっくに出来ている。あとはタイミング次第だよ。」


イケダとナカダイはスギミヤに新居を建てていた。

この仕事は長くは続かない。ならば先に逃亡先を作っておく事にしたのだ。


「マスター、私はこの先何をどうすれば良いの?」


魔王邸に移動して身体のチェックを受けたイシザキ。もう裸を見られることには抵抗無いが、女の尊厳を捨てるつもりはないのでシーツで包む。


「実を言えばオレも良く分からない。……そんな顔しないで最後まで聞いてくれ。大事なことだ。」


「聞きますけどぉ、あんまり不安にさせないで欲しいわ?」


「分からないと言ったのは過程を知らないからだ。オレは限定的ながら未来視が出来る。その時にたまたま君の未来が見えた。それに合わせて準備をしているんだ。」


「未来!?ど、どうやって!?」


「それは秘密だね。そこら中で真似すると世の中崩壊するよ。」


「なら過程を視てくださいよ。それなら効率良いでしょう?」


つまり他の人でも真似できる方法なのか?と推察しながらも別の事を聞いてみる。実際は真似するのは困難であるが、魔法と科学が曖昧になりつつある現代であまり広めたくはない。


「それって人生つまらなくなるよ。……君の場合はある意味楽しそうだけど。」


「断っても良いけど、せめて気になる言い方しないでもらえません!?」


「じゃあ今日の講義はそれにしよう。気になる言い方されても気にしない。それが強力な時間や空間を操るチカラ持ちとのつきあい方だ。」


「うっわ、テキトー!」


「オレも弟子達もそうだが、世界のルールを見ながら事を進めている。それはとても繊細なもので1人のワガママをそのまま通そうとすると代償で死ぬ。だから言葉にも気を付けるし慎重な行動をしてしまう。」


「それが私たちから見たらイライラしてしまうってこと?」


「そう。認識の次元が違うと中々上手くはいかない。理解できないされないしようと思わない。だからオレはこんな形で生きている。それでも家族を作れたから、オレは本当に幸せ者だよ。」


「具体的にはどうやって?」


「精神干渉を補助に使っている。後はもう、相手を信じるしかないだろうね。」


「むうう。」


「旦那様。少々よろしいですか?」


上手く納得出来ずに唸るイシザキ。見かねてカナが割って入った。


「どうしたんだい?」


「この後例の講習会なのですが、彼女に参加して頂くのはどうですカナ。私達目線の方が納得できる部分もあるかもしれません。」


「そうだな。悪いがユリ、彼女の講義をうけてみてくれ。」


「はーい。よろしく、使用人長さん。」


マスターは理屈っぽくて、等と愚痴をこぼしながら去っていく。


「第124回、旦那様のお痴ん痴ん講座を始めます!」


「「「よろしくお願いします!」」」


(まさかのエロ講座だった……て言うか参加者多っ!?)


教室にぎっしり机と椅子が並べられて女達がノートを取り始める。

内容はただのエロ一辺倒ではなく、生活面での立ち振舞いや軽い誘惑での気の持たせ方など以外とためになる。

もちろんド直球なエロ講座もあって、皆真剣に取り組んでいた。


(これくらいやらないと分かり合うのは難しいのかな。でもこれだけの人達が講義を受けてるのは、彼への信頼もあるのでしょうね。)


信じると言うことを肌で実感したイシザキは、夜のマスターの好みや弱点をメモしながら少し納得した。



…………



「お前、自分が何をしたのか分かっているのか!」


「申し訳ありません!」


東京秋葉原の路地裏で怒号が響く。そこには各々の気に入ったファッションに身を包んだ学生達。俗に不良と呼ばれる者達がいた。


「こんな点数取りやがって!ワザワザボスがデバる羽目になったろうが!!」


「すみません!次は必ずや平均点以上を!」


「ったりめえだ!それが我がハイブリッドの掟なんだぞ!?」


叫ぶ幹部と頭を下げる下っ端。それをダンボール箱に座ってつまらなそうに見ているボス。手にはジュースを持って首にヘッドフォン、足にローラーブレードを装備した女の子だ。

この不良グループはハイブリッドと名乗っており、文武両道ならぬ文遊両道を掲げて活動している。つまりは悪ぶるのは良いが、ちゃんとテスト勉強しろよ。ってことである。


何とも謎な不良達ではあるが、将来も気にしつつも行き場の無い情熱を発散できるので地味に人気があった。

今日はテスト結果の申告日で平均以下を取った1人がやり玉にあげられていた。


「そもそもさ。両立出来ないなら普通に不良やれば良いじゃん。ウチは足抜け自由なんだからこだわるなよ。」


「そ、それだけは!あああ!?」


沙汰は下されたとみなされ、連れていかれる下っ端。

女ボス、ナミはタメ息ついてからイチゴミルクのジュースを飲み干した。


「あんな奴の沙汰に私を呼ぶなよな。今日は地元でトばすつもりだったのによぉ?」


主に池袋を拠点として原宿なんかにも遊びに行く彼女。

ローラーブレードをカチカチ音立てながら、部下に不満をぶつけると、その1人が前に出て釈明する。


「いえ、実はお呼びだてしたのは別件でして!」


さっさと言えと睨むと部下が怯えながら報告を始める。


「ウチの1人がオタクの財布をギッていつも通りの額を返金したのですが……相手がコレだったらしく!」


頬を人差し指で撫でる仕草に、うぇぇと露骨に嫌そうな顔をするナミ。


「相手はちゃんと観察しろといつも言ってるだろうが!」


「ひいい!すみません!」


怒鳴られ萎縮する部下。根っからの悪というよりは勉強のストレス発散のためにスリルを楽しむ集団なだけに、あまり気は強くないらしい。


「そんな相手に4649◯(円)返したらそりゃあヨロシクされるってもんだろう!?」


ハイブリッドは変な風習で都内の治安を騒がすお可愛い組織だが、キツメの冗談が通じない相手は世の中とても多い。

今回は中でもかなり悪い相手である。ソッチの業界の人がワザワザトイレで着替えてオタク臭全開で散策しているところを狙ってしまった。


「それで相手はなんて言ってる?」


「ありったけの金と、ボスを呼び出せと……」


「お前らな……全く有能な仲間を持ったもんだ。」


ナミは心底嫌そうな顔で皮肉を言って、対策を考え始める。


(どうする?捕まれば何もかも失う。ならばアレを解禁してでも生き延びて、暫く大人しくしてるしかないか?)


自身が女であることも含めて末路を想像して戦闘も辞さない方向で思考する。そこでふと気がついた。


「やらかしたのは誰だ?そいつはどこにいる?」


「それが、奴らの使いが来た時にナオのやつ逃げようとして……捕まっちまったんだ。」


「マジか。マジかよ……」


ナオは秋葉原のグループの中堅メンバーだ。

向上心が強いが空回りも多く、本人だけでなく彼の回りに注意を促した矢先の出来事だった。

これで人質を取られてしまい、下手に手を出せない形となった。


「来た!シンシンの連中だ!」

「こっちもだ!囲まれている!」

「ナオ!?ひでぇ有り様だ!」


元々広くは無い路地である。あっさり囲まれて逃げ場を失うハイブリッドメンバー。シンシンとは白黒の動物ではなく新生アライ組の公称だ。前組織を潰した怪盗イヌキに目をつけられないための工夫である。

ご丁寧にボコボコにされたナオが連れてこられ、見せしめ兼人質として多いに役立っている。


「お前らの頭は誰だ?ケリを着けようじゃないか。」


「ちっ、参ったね……」


パッと見10人を超える黒服に進路も退路も絶たれ、冷や汗ダラダラで舌打ちしながら立ち上がるナミだった。



…………



「この子の名前、もう決まった?」


「あぁ、ナミにする。どんなに辛くても涙をチカラに変えるような強い女に育って欲しいからな!」


1999年に科学者夫婦の娘として生まれたナミ。ダは無駄、身体に良くないという事もあり先の理由と合わせてこの名になった。


「うん、きっと素敵な女の子になるわ!」


既に10歳の姉も妹の誕生に感動し、たくさん可愛がってあげようと心に決めた。


忙しい両親は可能な限りの時間を姉妹に注ぎ、姉は妹を甘やかした。着せ替え地獄を味わうナミだったが、家族の愛情を受けておませな女の子として成長していく。

6年が経過して世間が国際テロリストのニュースを見守る中で、姉が入院する騒ぎがあった。

幼いナミにはショックだろうと詳細は伏せられたが、大人の噂話から大抵の事情は察してしまった。


イジメである。


優しい姉は反撃など出来ずに結果的になすがままになり、将来と尊厳を奪われてしまった。

金食い虫の科学者という両親の職業的にも上流階級の学園の生徒達とは合わなかったようだ。


「なんで、お姉ちゃんがこんな……」


名の由来に反して姉の寝るベッドに伏して泣くナミ。

その悲しみは徐々に怒りへと転換されていき、涙を流したぶんだけ黒い良くない感情が心を支配し始める。


「なら私は強くなる!お姉ちゃんのカタキを取るから!」


彼女は生まれ膨らむ復讐心を胸に、両親に相談することにした。今の自分では何も出来ないけど、科学者の2人なら手立てはあるかもしれない。

両親も似たようなことを考え復讐の準備を進めていた。


しかし結果的にそれは不発に終わる。そして現在。


(姉さんはどん底から奇跡が起きた!私だって!)


ナミはヘッドフォンとローラーブレードの小さなボタンを押して、包囲網を睨み付ける。


「うわあああ!」

「助けてくれええええ!」


「何て脆い……」


及び腰どころか逃げ惑うメンバー達は、次々に殴られ倒れ捕獲されている。新生アライ組もこれには呆れている。


(相手は気が緩んでいる!今だ!)


ナミは超加速で飛び出し、彼女が通ったアスファルトには火花が舞う。


「な、なんぐぇええ!!」


驚く黒服は最後までリアクションを取りきれずに腹に蹴りを食らって吹き飛び気絶した。


「てめぇ!!」


「遅いよ!!」


左足のローラーブレードを高速回転させて腰をひねって右足を相手の顔面に合わせる。


「ぎにゃあああ!」


右足のローラーに焼かれて叫ぶキャンドルとなって宙を舞う。


(へっ、やっぱり父さんの発明品は最高だ!)


ナミの強さの秘密は親の発明品にあった。

ローラーブレードに仕込まれた空間に干渉する機能。

ヘッドフォンからの信号で認識力を上昇、意識を高速化させていたのだ。


両親は空間に関する研究を主にしていて、特に現代の魔王が現れてからは様々な企業に引っ張りだこだった。

その実力はサイトのマスターのチカラを限定的に再現できる程であり、特殊部隊の転移装置の開発にも関わっている。

それには拡張性・柔軟性を持たせた為、多少の座標のズレなら補完して転移できるという特徴もあった。

そのお陰で携帯型転移装置の開発にも繋がったし、次元の狭間から人魚の女の子を拾い上げたりもした。


そんな両親は長女の受けた虐待への黒い感情が、事件が解決した今でも抜けてはいなかった。

意中の男の元へ行き親元を離れた長女。しかし次女のナミが同じ目に遭ってはならぬと考え開発したのがこの装備である。


ナミの好みにあわせたこの装備も最初はここまでの性能ではなかった。

しかし仕事の研究も兼ねて何度も改良を重ね続け、今では攻撃性能と立体的な起動性能を兼ね備えている。

数ヵ月前には政府より提供された空間移動の残滓のデータもあって、この性能になった。


戦場を機敏にアクロバティックに爆走する彼女は、特殊部隊のユウヤを想起させる。


「こいつはっ!構わん、撃てぇ!!」


一斉に5人が拳銃を取り出して引き金を引く。それを予測していたナミはヘッドフォンの効果で得た認識能力で躱していく。


しかし。


ドガガガガッ!!


「くはっ!!」


さすがにグロックの連射モードは避けられず、蜂の巣にされてしまった。

制御を失い、空中をキリモミしながら固い地面に叩きつけられようとしている。


(くっ、身体中が痛くて熱い!)


認識能力の向上により、吹き飛んでいる間も身体のアクシデントを敏感に感じとるナミ。全身に受けた理不尽な暴力は、勢い良く生命力を奪っていく。


(このままでは!せめてみんなの尊厳だけでも!)


絶望的な状況の中で腕をむりやり動かして、ヘッドフォンのツマミを捻ってから上空へ投げる。

これでやれるだけの事はした。あとは姉さんと同じく奇跡を手繰り寄せられれば……。

そんなことを考えながら地面へ落ちていく。


とさ。


その衝撃を覚悟していたナミを、柔らかく何かが受け止めてくれた。意識が薄れていく彼女はもう認識できていなかった。


「全く無茶するよ。科学でのチカラの再現はここまで……のわ!?」


黒づくめの男が少女を抱えて、強者っぽく振る舞おうとしたら空で何かが爆発した。


キイイイイイイン!!


「「「うがあああああああ!!」」」


それは音。低音から高音まで、人間の可聴域を超える音の爆発。

その空間の乱気流めいた衝撃は、その場にいた全ての人間の体組織にダメージを与えた。


目や鼓膜はもちろん、手足も胴体も骨まで達する振動。


「こ、これはW・スマッシャー!?」


仕組みは違えど効果的には似たような結果をもたらし、驚きのマスター。まさか自分が愛用している技まで真似されるとは思わなかった。


(こいつはウカウカしてられない……か?)


次元バリアで女の子と自身を守りながらそんなことを考えていた。



…………



「あなたはコレを。バイト君とバイトちゃんはこっちをお願いするわ。」


(なんか今年になってからあなた呼びが混ざるな。)

『◯◯ちゃんが順調にオトしてるんでしょ。』


ケーイチの心のぼやきにトモミがテレパシーで応える。

2016年7月になり、世間では第三の魔王もメジャーになってきた。そんな彼女の左薬指には白い指輪が光っている。


『お前は、いいのか?』

『彼は元々妻子に愛人持ちよ?今更だわ。』

『ちげぇねぇ。だが困った時は言えよ?』

『気持ちだけ受け取っておくわ。』


「うん?珍しくオレが地球ですか?」


元夫婦の丸聞こえな内緒話をスルーしながら書類を読んだマスターは、一瞬手違いかと錯覚する。


「あ、私は異世界なの?」

「オレもだ……なんで?」


「無駄話より先に確認して欲しいわね。その書類に書いてあるから、さっさと行きなさい。」


社長はなるべく苛立ちを隠しながらも、空間に穴を開けて2人を放り出した。ケーイチは鍛冶屋の手伝いで、トモミはお茶会の招待客として。


「社長、トキタさんはともかく……」


「安心なさい。先方で副官が受け止めてるわ。それより仕事の件だけど。」


「あ、はい。動物園を探れば良いんですか?」


「あなたも良く読みなさい!新生アライ組の略よ。私の情報網に感謝すると良いわ。」


「てことはイヌキ案件かなぁ。ん、ハイブリッド?ははぁ、そういうわけですか。感謝します、社長。」


素直に頭を下げたマスターに思わず笑顔になる社長は、慌てて別の社長を前に出すが……そちらもニヤついていた。


「ほ、ほら送ってあげるから!空だから気を付けなさい!」


シルュン!と空間の穴を足元に開けて追い出すように送る。

副官がいたら色々突っ込まれていた事だろうが、今はトモミを茶会に出席させるべくドレスの着付けをしている。


(それにしても、私の計算やマスターの妄想を科学でやられちゃう時代か。昔は化け物呼ばわりされてたのにね。)


その計算能力から化け物呼ばわりされて紆余曲折あって本当に化け物となり、神紛いのお仕事についた社長。

マスターに渡した書類の原本を眺めながら一抹の哀愁に浸った。



「この街はお仕事以外で来たいなぁ。」


欲望の独り言を漏らしながら、秋葉原を上空から眺めながる。

悪意をサーチして一触即発の空気を見つけるとそちらへ向かう。


「おや、あれは諏訪の時の?彼女がそうだったのか。」


謎の納得をしながら不良グループのリーダーを見守るマスター。シンシンに囲まれてピンチではあるが今回の本命、天才科学者の技術を確認するべくまだ手は出さない。


(マジか……sanaちゃんレベルの動きしてないか?)


見ればローラーには簡素な次元バリアのような空間を纏っていて、本来の性能以上の速度を出したり摩擦熱で相手を燃やしたりしている。どちらかと言えば次元バリアよりソウイチやモリトのチカラの使い方に近い。


(作る天才に使う天才か……あ、いかん!)


グロックで蜂の巣になった彼女を助けるべく降下したマスターは、彼女の身体をお姫様抱っこで受け止めた。


直前のヘッドフォン投合については最後まで戦意を失わずにアッパレとか思っていたが、度肝を抜かされたのは前述のとおりである。


「さて。この惨事はどうしたものかな。」


シンシンどころか既に制圧されていたハイブリッドメンバーも、ぼろ雑巾になって死屍累々の裏路地。

この音爆弾で周辺にも被害が出ている。通報されて警察などが駆けつける前に、急いで対処する必要があるが……。


(クスリや貞操の被害の前に全滅させて、なおかつ公僕に頼る。何て判断をする娘だよ。)


イマドキのワカモノに冷や汗をかくマスターだった。



…………




「なるほどのぅ。そなたにすら末っ子は会えぬのか。」


「はい。お役に立てず申し訳ありません。」



ビゲン会のお茶会に誘われたトモミ。今の話題は3月に生まれたミシロについてだった。

ビゲン会は過去にマスターのお陰で華やかな雰囲気を得て、今では関係者の育児についてや美の維持について情報交換をする場になっていた。現にクロシャータとトモミ以外は各々の子供の可愛さ自慢に盛り上がっている。


「いや、旦那様の親バカぶりは知っている。彼の判断なら余計な詮索は無用だろう。今は次女の世話をしているのだったな。」


「ええ、とても賢くてセツナちゃんとはまた違った可愛さがもう!」


まるで自分の娘のようにキラキラして語る彼女にクロシャータも微笑んでいる。


「でも◯◯ちゃんにはなかなか懐かないって彼が嘆いてまして。」


「そうであろうな。心の問題は当事者同士で話せぬ場合、理解者がきちんと向き合って仲介する必要がある。正妻様にも出来ぬなら、そなたの出番かもな?」


クロシャータはあの夫婦の意図を理解した上で、トモミに振ってみる。


「やっぱり、そうなりますか。あの奥さんが解決に乗り出さないのは不自然だと思ってましたが。」


「うむ。彼女は全ての家族を尊重する。それは次女の悩みすら。まぁ、自分が懐かれているのが嬉しいのもあるだろうがな。」


「セツナちゃんはお父さん子ですものね。分かりました。きちんと向き合ってみます。」


「うむ。あの家族が幸福なのは、我々としても良き事だからな。」


「はい!ところでクロシャータ様?彼のてくにっくで……」


「旦那様は弱い器官を空間超越して直接攻めて来る。それに対抗するには……」


「視覚的に過激にすると下品になるのは……」


「如何に背徳感を醸し出すかが……」


女達は戦略的な話から戦術的な話に移る。より一層喜ばれ、悦ばせてもらうために。


「なんだい、お前さんは不器用だな?」


「魔王といってもリアリスト過ぎやしないかい?」


「ぜぇぜぇ、あの変態マスターと一緒にしないでくれ!」


その頃ヒートペッパーとソートルフの工房で、こき使われていたケーイチだった。

また面白い道具を作りたくなった鍛冶神が第二の魔王を呼んでみたのだが、設計もアイディアも上手く行かずに雑用係りとして時間一杯働くだけで終わるのだった。



…………



「さてさて、今回はどうだ?全国神頼みツアーの結果は如何に!?」


「お賽銭分はうまく行って!!」


静岡県の山奥の実験場で、科学者達が集まってガラスの向こうの装置を見守っている。その中でもアタマを張っている夫婦は必死だった。


(科学者が神頼みとか、大丈夫か?)


大半がそう思っていたが彼らが実績のある科学者なのは間違いなく、ここまで来たら部下達も神に祈るしかない。


彼らが見守る装置は疑似ブラックホールの生成装置。

いくつもの触手のようなアームが中央に向けられており、その虚空に目的のモノを発生させようという魂胆だ。


この施設は元々は新生特殊部隊候補が使っていたモノである。

さすがに都内でこの実験をするのは憚れるので、政府の指示で再利用していた。

都内からの通勤は面倒だったが、"客観的には"一瞬で到達できる車を作ったので問題は無い。いや正確には時速140キロに到達前に警察にスピード違反で捕まらなければ、という条件付きだ。

内線電話の形状も特殊で、ブラウン管テレビの上に電子レンジが置いてあってそこにインターフォンが繋がっている。

過去に指示を出せるかどうかは彼らにも分かっていない。


そんな時間・空間に対する技術とユーモアが並ぶ実験場。

注目の中で注がれるのは人工的に作られた重力力場と、空間の穴の残滓データ。細かい理論を省いて書けば、1ヶ所に圧縮してなにか起きろ!である。


「オレの計算ではここで出力を上げて……」

「私の理論ではここで螺旋を描くように空間に歪みを……」


2人は事前の打ち合わせ通りに事を進めていく。指示を受けて機械を操作する部下達の動きは正確だ。


「ソフトクリーム屋でバイトした腕の見せ所!」


食い詰めてバイトしていた部下が、女科学者のおもい描く通りに螺旋を描くのはシュールである。


「一周した!螺旋はそこで止め!回転高めて更に重力を注ぐ!」


ガラスの向こうではどの面から見ても螺旋が描かれた黒っぽい球体が生まれていた。それを更に回転させて歪みに満遍なく重力のチカラを注いでいく。

すると吸い込まれていったチカラの密度がどんどん上昇して臨界状態に至る。


「いい調子だぞ!このデータで簡単に自動化も可能だ!」


「全国を回った甲斐があったってものね!」


後はこいつを刺激して爆発させれば、政府から指示を受けた爆弾は完成だ。もちろんそれはもっと広い場所で行うつもりである。今はこの状態を作り出せる事が重要だった。


「「「…………?」」」


突然指示が止まって静かになる科学者達。

部下達が怪訝な表情で夫婦を見ると冷や汗がたらり。


「どうしました?成功したなら終了処理を。」


「どうやって止めるか、考えてなかったな。」

「私の計算だと生存率は1%も無いわね。」


「「「はあっ!?」」」


「総員、伏せたり待避!遺言、辞世の句でも自由にしていい!」


「ナミ、あなたは幸せに……」


「「「逃げろおおお!!!」」」


パニックの中で螺旋の球体は光を強め、今にも爆発しそうだ。


「全く、だから危険だと言ったんだ!」


カオスな光の海となった空間で、黒づくめがそんなことを愚痴りながら次元バリアを展開した。



…………



「単純ながら……だからこの威力か?」



マスターは球体を囲むようにバリアを展開、徐々に狭めて球体を消滅させるつもりだった。

しかし空間の密度が高く、同じく空間を歪ませて固定している次元バリアでは途中から進まなくなった。それどころかこちらの歪みに侵食し始めている。


「た、助かったのか?て言うか君は……現代の魔王!?」


「まだ終わってないですよ。それとあなた方まで政府のプロパガンダに乗せられて欲しくはなかったですね。」


「その顔、まさか!?」


科学者夫婦は取り敢えずまだ生きている事や、唐突に現れた助っ人への心当たりで感情が忙しい。


「それより逃げるなり、解決法を教えてくれるなりしてくれません?」


マスターは次元バリアをかつて無いほど分厚く、逐一追加で張りながら元凶に求める。


「オレの計算ではもう少し球体の密度を下げて……」

「私の理論では螺旋をほどくか崩せば!」


「了解した!……ならこれだな!」


マスターはちょびっとだけ時間を止めて準備を整えると対処を開始する。


「A・ディメンション!からの分割して……クリムゾン・コア!」



実験場を宇宙に繋げてスペースを作り、球体を1ダースに分割して密度を下げる。科学者達には次元バリアの結界を提供して守ってあげている。今回は珍しく優しさ成分の多いマスター。


『『『参上!どうすれば良い?』』』


「これで全部巻き取って下さい。報酬は……で。」


いつもどおりのやり取りをしながらチカラで作ったら棒を12本取り出した。後はワタアメみたいにぐるぐる巻きにして絡めとる。


「これでよしと。あ、助けた報酬にコレは貰いますよ。」


マスターは次元バリアと似た構成の糸の束を手にして向き直る。


「そんな産業廃棄物で良いなら構わないが……君は何をしているのか聞いても良いかね?」


その問いには重い意味を込められているのがさすがのマスターでも分かった。


「オレはラーメン屋であり、何でも屋のアルバイト。今も昔も変わりません。世間の評価は物騒ですけどね。」


「その割には近年はノリノリで魔王を名乗っていたようだが?」


「そうねぇ、ミキモト事件の時からかしら?」


科学者夫婦はその真意について追及する。親バカと研究に明け暮れていたにしては……いや、だからこそ聞いておかねばいけない事情があるのだ。


「別にノリや酔狂で名乗った訳じゃなくて。あの事件の被害者達は、オレが魔王でないと浮かばれない者が多かった。彼らの心を救うには、明確な人類の敵として存在していなければならなかったのです。」


あの事件でもミサキを救った辺りまでは、むしろ魔王であることを否定していた。しかしシズクの復讐心やそれに呼応した怨霊達、街の人々の大半の心を納得・救済させるには必要な事だったとマスターは考える。

そして1度名乗った以上は引き返せない。この先も明確に人類の敵として存在し続けるだろう。


「おかげで私達は、あなたを殺す為の兵器を作らされていたのだけど?」


「身から出た錆、自業自得なんでしょうね。見ての通りなんとかしますけど、安全装置は着けて下さいね。」


「うむ。アレが暴走すれば地球だけでは済まぬかもしれんからな。」


「それにしても意外と冷静で助かりました。てっきり激しく糾弾されるかと。」


「娘からは毎日が充実して幸せだと便りが来ていますもの。」

「君が現代の魔王なのは初耳だったがね。」


「聡明なご両親で助かりました。タカハシ博士。」


そう、この科学者夫婦はタカハシ博士。魔王邸の孤児院で院長を務める、タカハシ・クマリのご両親だった。



…………



「ほ~ら、おじいちゃんだぞー。」

「あなた、私にも抱かせてよ。」


「きゃっきゃ!」



外部の男も入れる魔王邸孤児院。その院長室でタカハシ夫婦が孫の奪い合いをしながら遊んであげている。

娘そっくりな赤ちゃんの可愛さに、脳のスイッチが親バカから孫バカへとシフトしたようだ。


「ちょっと私にも触らせてよ!姉さんの子供とか、めっちゃ気になるんですけど!」


「まだダメ。ナミちゃんは私が捕まえたの。」


「身体ならもう大丈夫だから!姉さん、なんか重い女になってる!?」


クマリはナミを後ろから抱き締めて、ふかふかの立派な院長椅子の上で可愛がっている。姉から逃げようにも何故か姉ロックは外れない。クマリの体内にある魔王杖の効果だろうか。


「私は旦那様の愛を無限に受け止めてるの。だからそのお裾分けよ。ふふふ、可愛い可愛い。」


ご無沙汰していた姉妹の再会に変なテンションのクマリさんだった。


「胸まで触る必要ある!?」


「旦那様にも触られたんでしょ?間接タッチよ。」


「か、考えないようにしてるのに!あの優しかった姉さんがおじさんになってる!」


重体だったナミは医務室で治療を受けていたので、クマリや他の女達同様にマスターに全てを晒け出していた。オトメ的にも姉の関係的にもアウトゾーンまっしぐら。


「ナミちゃんは卒業したら何になるのかなぁ?」

「私は良い大学行って、科学者になるつもり!」

「お父さん達と一緒か~。うん、ナミちゃんならなれるよ。」


あちこちサワサワしながら耳元にささやくクマリに、ナミはゾクゾク来はじめている。


「もしダメでも、私と一緒にここでお仕えしましょう?」


「そ、それはダメ!姉妹で同じ男だなんて不健全だろ!?」


「あら~?一緒に働こうって言っただけで、恋人になろうとは言ってないわよ?それとも意識しちゃったのかなぁ?」


「ひゃうううう、そこダメ!」


「こんな可愛い声出して、そんなに彼と恋人になりたいの?」


「私じゃ姉さんには敵わないし、ゴニョゴニョ……」


「ふふっ、続きはお風呂で話しましょ。ここの温泉は素敵なのよ。」


「……うん。」


子供を両親に預けて露天風呂へ向かう姉妹。クマリがチラリと何もない空間を見ると、お手製ビデオカメラを構えてステルスしていたマスターがサムズアップしていた。クリムゾン・コアへの報酬の撮影だったようだ。最低である。

この後は妻撮影のドキドキお風呂編に続くので、本当に最低である。


しかしそれすらうっすら顔を赤くして喜ぶクマリさん。

いろんな意味で成長した妹とのお風呂タイムか楽しみだった。



…………



「それでは我々を普通に帰すと?」


「てっきり冥土の土産のヒトトキをくれたのかと思ってたわ。」


「それじゃ助けた意味がないでしょう?」


院長室に残った者達は今後について話し合う。


「他の科学者達には誤った認識を植え付けたし、お2人が喋らなければ問題ないでしょう。」


「しかし良いのかね?あの爆弾は改良されて君を消し飛ばすかもしれん。」


「そうなればクマリやこの子も悲しむわ。もちろん、本当のご家族も。」


「そうならないよう、努力しますよ。オレのバリアも只今改良中ですし。」


今もクリムゾン・コアの皆さんが知恵を絞って試行錯誤している最中だ。


「分かった。だが気を付けてくれ。娘達を頼む。」


「はい……え、ナミちゃんも?」


「なぁに?私達の娘に不満でも?」


「い、いやそういうわけでは……」


マスターとて守るくらいならお安いご用だが、クマリ同様の待遇となれば少々面倒だ。背徳感に押し流されそうで。


「失礼します!シンシンの討伐完了しました!」

「何やらキナ臭い情報も手に入れたぜ。」


そこへフリフリ姿のアオバ、怪盗イヌキとイタチが現れて戦果の報告を行う。


彼らの話しによれば、シンシンのボスは日本ではシミズ・キヨシと名乗る中国人だった。現在本国の方で対魔王プロジェクトの大々的なキャンペーンを行っていて、補助金目当てに組織を立ち上げたとかなんとか。


「ご苦労様。これ報酬ね。」


「ありがとう。これでミドリに可愛い服を買ってあげられるわ。」


「父さんとしてはそろそろ車をだな。」


決して少なくない札束を受け取ったアオバは、過去の自分の名前をつけた娘のもとへと急ぐ。

祖父となったイタチは妻との間にも子を授かっていて、家族で使う自動車を欲しがっている。

きっとこの後幸せな口論となるのだろう。


「ふむ、そんな大金をポンとな。」

「やっぱりナミの面倒も見て貰って……」


一時は逃れられたと思ったが、タカハシ博士達は食いついてきた。

あくまで保険としての受け入れ先ということで納得して貰うマスター。意地でも科学者に仕立てようとサポートを決め、どちらに転んでもタカハシ夫妻の思惑通りとなるのだった。



…………



「パパ、忙しいところごめんね。お話しても良いですか?」


「っ!!よ、喜んで!……後の予定は無いからね!」


2016年8月に入って、異世界の仕事から一時的に戻ってきたマスター。いつもの回復を終えてリビングでひと息ついていたところで次女のクオンにお喋りのお誘いを受けた。

3歳になったクオンはとてつもない早熟ぶりを見せているが、父親とはあまりうまく行ってなかった。嫌われてると言うよりは関心が薄く避けられている感じで、人間関係的には非常によろしくない。

しかしここに来てクオンの方からアプローチを受けたマスターは、一瞬で仕事を片付けて来た。今頃異世界人達は長年続いた戦争が一瞬で平和的に解決して困惑している頃だろう。

当主様にも水星屋の臨時休暇申請を出して了承されている。

その際玉座に座って会議中の当主様を押し倒して要請しており、友人兼使用人の皆さんはあらぬ噂で雪合戦を始めている。


それほどまでにクオンとの時間は大事な事だと考えていた。


「ささ、座ると良い。何か飲むか?」


「うん、パパと同じが良い。」


パパの手を引いてソファに座らせて、その膝のうえにちょこんと座るクオン。ついでに彼の飲んでいたアイスティーのグラスも抱えてストローで吸っている。


「ふ、ふぁ!?」


パパと同じ。それが思った以上に求められてて、感動して変な声を出すマスター。突然のデレクオンに思考回路がトロトロになり、彼女が装備しているペンダントへは意識が行っていない。

そのペンダントはトモミが用意したものだ。

クオンの世話をするうちに問題点に気づいた彼女が、ルクスの手を借りて製作した。これで幼い彼女の心の壁を取り払って、本音で話せるようになっていた。


「パパ、嬉しいの?」

「もちろんさ。何かして欲しいこととかあるのかい?」

「その、撫でてみて欲しいかも。」

「こうかい?」


マスターはそっと娘の頭に手を置いてよしよしする。


「なんかムズムズする。うん、悪くないかも。」

「そうかそうか。よしよし。」

「背中、寄りかかってもいい?」

「遠慮しなくて良いぞー。」


ぽふんと寄りかかってパパに包み込まれるクオンは、ペンダントの効果もあって初めて男から安心感を得る。


「うん、これはなかなか。」

「そうか?良かった。しばらくこうしてるか?」

「うん。このまま少し聞いて欲しいの。」


クオンはちょっと緊張しながらも素直に想いを吐露することにした。驚きの事態に見守る監視役のユズリンは手に汗握っている。


「あのね、私は男の人がよく分からないの。パパが女の人たちと何かやってることも、最初はよく分からなくて。」


「お、おう。見せるつもりはなかったんだけど、ずまないな。」


「まぁ、お姉ちゃんに引っ張られた私も悪いし。でも色々教えて貰ったり調べてみてね?やっと感情に納得が行くようにはなったのだけど。」


「正直その年でよく理解できたな?賢いのを誇りたいが……オレのせいで苦労かけたな。」


「本当だよ。でもパパだけが悪い訳じゃないよ。たくさんの愛人さん達の感情も理解できなかったもの。おかげで私の心とチカラがおかしくなっちゃって。」


「クオンは精神干渉なんだよな。そうか、だから皆のむき出しの心が見えてしまってて……ごめんな。本当に苦労をかけた。」


追加でよしよしされて、むず痒いながらもまんざらでもない気分のクオン。


「それでトモミさんがたくさんお話聞いてくれてね?私が女の人にしか興味が出なくなったこととか……それでも家族なんだからパパともちゃんとお話したいこととか。」


「ほう?」


「そしたらこのペンダントを作ってくれたの。パパ限定で男の人とも話しやすくなるお守り。ん?パパ?」


「…………」


マスターは複雑ながら感動してクオンを抱き締めていた。


「本当はパパが何とかしなくちゃ行けなかったのにな。でも良い子に育ってくれて嬉しいよ。」


「ううん、まだ私は良い子じゃないよ。だから色々教えてほしいな。例えば男の人の具体的なシステムとか。感情は見えるけど、なんでそうなるのか解らないし。」


クオンが言うシステムとは身体的なそれだけでなく、男の気持ちの動き方。男心の把握。

オトナのヒミツ部分は既に知っているが、異性との接し方やその安全と危険の境界。普通の父親との信頼関係の作り方などだ。


「そうか、分かった。……そうだな、せっかくだし彼女にも参加してもらおう。」


マスターは既にトモミの借金を相当数減額するつもりだった。

しかし娘との関係をただ金で買ったような形にはしたくない。

なので今からする教育に参加して貰って、そこで多額の返済をしてもらおうと考えた。トモミ自身の方を金で買う事には抵抗が薄くなっている。だからこそ彼女を抱くことを許可されたのだが、複雑ではある。


「うん。私もあの人は好きだからお願いしていい?」


「よしよし、そうと決まれば早速行くよ。」


「うん!」


マスターはクオンとアイスティーを飲んでから、そのまま抱えてトモミの部屋へと向かう。と見せかけて妻を初めとして4人程自慢をしてから向かっていた。

ずっとだっこされて自分が大事にされていることが分かったクオンは、姉の気持ちが少し理解できたような気がした。



…………



「良いかい?男と言うのはシンプルでありフクザツであり……その辺は女と同じだが、その感覚はだいぶ違う。例えばーー」



さっそく家族を寝室に集めて講義を開始するマスター。

参加者はマスター夫婦と3姉妹、補助というか教材としてトモミ。サポート室に勉強熱心なカナもいる。

ミシロに関しては魔法少女モードでトモミにだけ認識をステルスしている。


「トモミさん良いの?多分、今日の旦那は磨きのかかった変態よ?」


「ま、まあ?これで上手く行きそうですし。」


心配して◯◯◯が話しかけると緊張気味のトモミが答える。

だが本人が言ったとおりこの仕事をこなせばマスターの家族仲も自分の借金も減って、将来ある子供達の貞操観念もしっかりしたものになる……かもしれない。


「トモミ、まずはこっちに来て普通に挨拶してみてくれ。」


「はい!……こんばんは、◯◯ちゃん。今夜も暑いわね。」


てくてくと近づき会話する距離に入っていくと、そこで一旦止められる。


「いいかい?男と言うのはこれだけであらぬ妄想をして、1秒で老後までの場面が展開されるんだ!」


「「「!?」」」


あまりの暴論に驚きの3姉妹。妻とトモミは薄々分かっていたことだが、やや呆れている。


「もちろん相手の容姿や初対面か否かも関係するが、まず何かしらのイチャイチャシーンが妄想される。」


「ってことはクルス君とかも!?」

「お姉ちゃん気を付けないと!」

『あの方にお姉様は渡しませんわ!』


哀れなクルス君はトバッチリで評価が下がる。


「もちろん会話中も頭の隅で、この子ならあんな事やこんな事も出来るかなとか妄想される。一種の値踏みだな。」


「「…………」」


言いたいことはあれど何とか堪える妻◯◯◯とトモミ。

3姉妹は露骨に憤慨している。


「だがそれ自体は悪いことではないと覚えていてほしい。」


「えー、何で!?」


「今言った妄想とは、別にエッチな事ばかりではないからだ。ご飯を一緒に作って食べれたら~とか、観光地にお出かけして一緒に楽しみたいとか。仕事が忙しいときに支えてくれそうだとか……お金の管理や浮気についてや子供の世話など考えることはたくさんある。」


「「『なるほど!』」」


「そう言うのを見極めるために、男と女はデートを重ねたりするわけだ。つまり女側も男を値踏みするんだ。」


「「『おお~!』」」


食い付き始めた3姉妹を見て、大人達は思ったよりまともな話でほっとする。少々生々しいレベルではあったけれども。


「かといって露骨な値踏みはお互いに嫌われる。それに関係を断るにしても嘘や建前も大事だよ。例えばトモミ、次の土曜にーー」


こんな調子でトモミとの小芝居を挟みながら男の生態と対処法を教えていくマスター。

多少語弊のある暴論も混ざるが、クオンは父親がそうする意図すら読み取ってうんうんうなずいている。


「このように自分で認めた相手以外には、上手く躱して行くのが良いだろう。もちろん父さんに連絡くれれば、一瞬で解決してあげるからそうするように。」


「「『はーい!!』」」


マスターは熱弁しつつ、さりげなく自分の頼り甲斐を売り込んでいく。


「さて次は男の興奮の仕方だな。これが分かれば相手を上手くコントロールすることも可能だ。」


(((来た!!)))


気になる話しに3姉妹は前のめり、大人組は少し構えている。


「人間には五感があり、男は主に視覚からの興奮が大きい。しかし他の感覚もとても大事なので、組み合わせたり順番に披露するとーー」


ビゲン会でも言っていたが、エロとは曲線であると言う持論のもとに話を進めるマスター。

視覚で得る身体のラインや様々なフェチ。甘えられたり囁かれたときの聴覚からのゾクゾク感。女体の独特な匂いや味。それらについての男の気持ちの揺れ動き方。


そういった普通のご家庭ではありえない教育を、ありえない教材を使って説明していく。

そもそもこの家庭自体が恐ろしい非常識の集合体なのだ。

なにも知らないまま過ごすとクオンのように歪んでしまう者も出てきてしまう。


(こ、このプレ……教育は私までおかしくなりそう。)


(トモミさん、あんなに……うわぁ。パパもすごっ。)

(そういうのが好きなんだ!次のアプローチは決まり!)

(あらあら、どちら様もはしたないです。うふふふふ!)


あくまでも教育、プレイではない。

しかし衣類が乱れて真っ赤になりながらも、懸命に要求に応えるトモミを見て3姉妹は……特にクオンは興奮を隠せてない。セツナも好きな人の色んな事が知れて興奮している。


「さてこの先は君らはよく覗いてるし、カナの講習にこっそり参加してるから大体の流れは知っているだろう。」


「もちろん!」


「覗きは世間では犯罪だからな?」


思わず元気に応えたセツナに注意しておく。半分同意済みとは言え覗きも盗撮もマスター本人が愛人にしているので説得力は全く無い。

さすがに繋がってどうこうまでは実践的解説はしないが、そうでないやり方での男の果てまでは伝えられた。


「はい、そこまでね。私も教えておきたいことが出来たから、あなたは一旦お風呂で清めて下さる?」


「分かった。では後を頼むよ。」


ここからは男子禁制とばかりにマスターは追い出され、続けて妻による講義が始まるらしい。ちなみに上気したトモミも教材として残されている。


「さて、セツナ・クオン・ミシロ。今回は男性の考え方や欲の一端を知ったわけだけど、しっかり学べたかしら?」


「う、うん。」

「な、なかなかね。」

『と、とてもよく?』


視線を若干泳がせてもじもじして座る3姉妹に◯◯◯は疑念が確信に変わる。


「ではここからは女性側の一端を教えるわね。トモミさん、ここに座って足をーー」


(まだ続くのね。娘さん達の前であんな事を何度もして……変な扉に手をかけてないかしら。)


その後。

オトナ2人にナニかを教わり、全員がお風呂で待ってるマスターのもとへ向かう。

お疲れ様の気持ちを込めて全員で洗いっこ。マスターも女達も一仕事終えた気分なのか晴れ晴れしている。

妻の講義内容は察していたのであえて触れたりしないマスター。その分全員を丁寧に洗ってあげる。


「ねぇ、お姉ちゃん。」

「なあに?」

「やっぱり私は女の人の方が良いかも。」

「えー、私はやっぱりお父さんだよう。」


洗い洗われたクオンが、セツナに抱きつきながら今の気持ちを明言する。

両親から色々教わった結果、モヤモヤした気持ちがひとつに固まりつつあるようだ。


「だけどもし、ずっと未来に子供がほしくなったら……パパを貸してね。」


「うん、いいよ!」


クオンのめちゃくちゃなお願いにたいして快諾するセツナ。

実の妹がようやくお父さんを好きになってくれて嬉しくなったようだ。


「「ちょっと待って!?」」


びっくりする両親は本当に今更ながら、やりすぎたか!?と焦っていた。


(クオンお姉様、こうやってお父様と仲良くなられたのですね。わたくしも皆様が仲良しだと嬉しいですわ!)


ミシロは◯◯◯に洗ってもらいながら微笑んでいる。


『いずれはわたくしも誰かのお嫁さんになるのでしょうけども。お母様の様に素敵な家庭にしていきたいですわ!』


嬉しくなったミシロも気持ちを母に伝えて泡だらけのまま抱きしめられる。

3姉妹はそれぞれ、未来に訪れるであろうハルに想いを馳せて期待を胸に宿していた。



…………



(府抜けてるわねぇ……)



2016年もあと2ヶ月を切った頃、悪魔の当主である私は想い人を眺めながら目を細めた。

マスターはこの頃元気がない。

店に立てば愛想を振りまくことも少なく、注文すれば以前より5秒遅れるか10分早く料理が来る。

何でも屋のお仕事では遊び心が消えて、関係者の感情を置いてけぼりでさっさと片付ける。

魔王邸に帰れば妻や愛人にこれでもかと甘え溺れているそうな。

今だって私を寝かしつけに来てくれたけど、心ここにあらずで前より心地よくない。面倒だから寝たふりして彼が帰っていく後ろ姿を……その奥を見ていた所よ。


原因は第三の魔王こと、トモミ。彼女が人間の罠に敗北した。それはまぁあり得ることだし仕方ないのだけど。

問題はその罠対策をするのに一時的にマスターと袂を別った事……でもない。

本当の原因は彼女がどうあがいても、人間としての寿命が僅かしか無いことね。

罠対策の修行について未来を見た彼は相当落ち込んでいた。

袂を別つ時もこれが最後になるからと、あの家時間で何日もみんなで寝たとか。

もちろんその後の対策の為に色々と根回しはしているみたいだし、私のところにも要請が来たわ。

でも正直手伝うかは微妙なのよ。だって彼ったら未来妻の私の事はあまり構ってくれないのに多数の愛人と……コホン。

今のはよくないわね。私だって結構気にかけてはもらってるもん。小娘達への嫉妬なんて私らしくないわ。


「でもなんか便利に使われているみたいなのは女としてどうかと思うのよね。ふぅ……」


400ウン十年生きる悪魔の姫たる私が、男の動向でため息なんて。昔の家族が見たら大騒ぎよね。


「当主姉さんサマぁ!あ、また1人でしてた!?」


「してないわよ!?」


突然虚空より現れたセツナに瞬間的に反論する。だが彼女は特に聞いてもなく、背中側へ早く早くと合図している。


『当主様、セイ戦の時が来ましたわ!』


「またこのパターン!?」


「「お邪魔しまーす。」」


マユリと化したミシロに魔王杖を突きつけられて、既視感を覚えた。ミシロだけでなくクオンやララまで入室済み。


「ほらマリーちゃんも!……マスター篭絡理論懇談会、勢揃い!」


「夜分遅くにすみません。」


「いったい何のつもり?今夜はおままごとの気分じゃないのだけど。」


「もちろん戦争だよ!女のソンゲンを賭けたヤツです!」


「はぁ……?」


突然の訪問客の言い分がピンと来ない。またクーデターを手伝えとか言うんじゃないでしょうね?


「お父さんが元気ないじゃない?だからロリコン会を代表して当主姉さんがガツンとするの!」


「……今の彼は府抜けててその気にならないわ。」


ツッコミどころばかりだけどとにかく本音を伝えて寝ようとすると、クオンが畳み掛けてくる。


「ママがパパを落とした時も落ち込んでる時を攻めたらしいわ。」


知ってるわよ。私がパニクって彼を糾弾したせいなんだから。


「当主姉さん様はもう、独り秘め事バレちゃったわけだし?ちょうどいいんじゃない?」


あなたのせいでしょ!?メイド達が水星屋で噂してくれたお陰で悪魔城だけでなく余所の領地でも欲求不満扱いよ!?


「当主姉さんがしないなら私がーー」


「それはダメ!」


「「「じゃあ決まり!」」」


何だかんだのせられて魔王邸のお風呂に待機する私。

事前に立てた作戦通りにクオンとミシロが両親の寝室に入っていく。クオンが母親を、ミシロが父親を説得して彼だけつれてくる算段だ。◯◯◯の事だからきっと解って協力はしてくれそうだけど……。


「ララ?あなたまで参加しなくも良かったのに。」


「わ、わわわたしは後の参考のためにににに……」


1人だけスクール水着姿で緊張しているララに声をかけてみるとなんだか悪いことをしてる気分になる。そこまでしなくてもちゃんとトウジとの仲は取り持ってあげるのに。


「あっ来たよ!私たちでゴホーシするから、マリーちゃんお願いね!」


「うん、任せて!」


すっぽんぽん組みがいそいそと、入室してきたマスターに群がり囲んでいく。私やララの存在に気づいた彼は慌ててタオルで隠そうとするが、マユリモードのミシロにタオルを剥ぎ取られる。


「!!」


ララが手のひらで顔面を覆うが、隙間ガン見と言う乙女のたしなみは忘れない。


「君らはいったい何を!?」


「お、お父様。私もお父様とお風呂に入りたくて……」


マリーが表向きでは絶対に言わないお父様というセリフ。そこに術式を乗せてマスターの理性を少しずつ削っていく。一時的だけどその効果は確かに出ている。


「そうかそうか。ならみんなで入ろう。」


少女達に囲まれて嬉しそうに奥へと進む彼。かなり危ない人にしか見えない。でもここまでは上手く行っているように見える。さすがは領主とマスターの娘ね。


「ここに座って?私達が洗うから。」


セツナとマリーが右と左の太ももに股がって両側からアワアワで洗い始めた。ララは遠慮がちに背中に回って、ミシロはふわりと浮いて頭を洗う。

私は大本命の正面で、彼の反応を見ながら優しく触れていく。

確かあのカナの講習ではとにかく丁寧に、おち……は後回しね。


さわさわ。んー?全く反応がない。チカラの赤目で見ると抑制をかけているのが解る。私が解除してもいいけどそれだとがっついてるようではしたないかな。


『マリー、もう少し飛ばしちゃって!』

『はい、抑制を解除させるのですね!セツナ姉さん!』

『うん、分かった!』


シャンプーを流してうつむいた所をフワリと浮き、二の腕にしがみつきながら耳元へ顔を近づける2人。


「お父さん、大好き。」

「お父様、お慕いしてますわ。」


ステレオで耳に囁きミシロの空間歪ませサポートでハイレゾ・バイノーラルへと変化させる。


「のわぁ……」


彼ったらかわいい声出しちゃって。どんどん反応してるわよ?


「ふふふ、焦らすように……ってベトベトじゃない。」


膝から太ももに手を滑らすと先程までセツナとマリーが股がっていたところがねっとりだ。


『『その、擦れちゃったから……』』


頭流すときにも流れきれないなんてなかなかね。

ちょっと前に生まれたばかりの2人も、いつの間にか成長しちゃってまぁ。

でも私だって伊達に400年も燻っていたわけじゃないわ。

オトナのオンナだって所を見せてあげる!


「「「うわぁ。」」」


たしかこの部分をこうやって……たまに転がして。カートリッジは優しく弄んで。サイズの差異はチカラで変更する!


「こ…の…イタズラっ子達が……」


彼が私の頭を掴んで引き剥がそうとする。そうはさせないわ!


『マリー?強めにお願い!』


「お父様?みんなで遊びましょう?」

「お父さん、この後は私も。」

「はい、ここでぐわぐわさせますわ!」


「ぐっぬっ……!?」


セツナが便乗しようとしているがそれはともかく、耳から脳にお父様篭絡術式をたっぷり流し込まれて彼の目の色が変わる。

しかし私を掴む手の力は緩むどころか強くなった。

あれ?失敗?

いいえ、頭上の3人の策は成功してた。

私は引き剥がされたのではなく引き寄せられていた。

ちょっ、苦しい!?変更したサイズも上書きされてる!?


あぁこれ、やり過ぎたみたい。


私はもう逃げ場がないけれど、全滅だけは避けないと!


『ララ、マリー、飛び込みなさい!』


私が彼の後ろに穴を開けると、驚いてこちらを見ている2人。


『急ぎなさい!あなたたちを傷物にしたら私の立場がないわ!』


「ぐるるるる……?」


あ、彼が彼女達に興味を持っちゃった!急いで!


「ミーちゃん、2人をお願い!お父さんは私を見てればいいの!」


妹と友達を引き剥がして、あんむ!と彼の唇を奪ったセツナ。

お姉ちゃんしてるわね、私も負けてられないわ。

呼吸なんてどうにでもなる。喉でこれを抑えている間にセツナも避難を……あれ?私の目の前に凶悪なものがもうひとつ?

そうだ、彼は増やせるんだった!


「ひゃあ!で、できればちゃんとが良いんだけど……」


腕も2本増やしてセツナの両脇を掴む彼。このまま下ろされたら……ダメ!


いくらチカラを放っても彼の本能には通じない。

これはせめて、セツナの負担を軽くするために大人の身体にしてあげよう。

などと思いついた時には、意識が消えてしまった。



…………



「まったく、ナニをやってるんですかね?」


「「「ごめんなさい……」」」


夫婦の寝室で私をはじめとしてロリコン会の一同が正座している。ネグリジェ姿の正妻が仁王立ちでご立腹。当然よねぇ。


「旦那を元気付ける策が当主様にあるからって聞いて、少しは期待したのになんなんですかこの様は!?」


愛しの彼はベッドに寝かされ、カナが口移しでチカラを送り続けている。少しずつ正常に戻している最中なのだが、ご立派な絶品がゴリッパなのでシーズの3人がひたすらなだめている。

正直目と耳に毒であるが、やらかした私達への罰なのだろう。


「私が異変を感じて様子を見に行かなかったら皆揃って無理やり奪われてましたよ!?」


心を繋いでいる◯◯◯はすぐに駆けつけてくれて、私達の貞操を守ってくれた。自業自得の私はともかく、セツナが無事だったのは本当に良かったわ。


「でも◯◯◯、私の扱いはどうにかならなかったの?」


「仕方ないじゃないですか!真っ二つにしないと取り出せなかったのですから!」


私は頭をカチ割られて、口から喉に掛けて入り込んでいた絶品を取り出されていた。これ救助に見せかけた仕返しよね?

貴女なら彼と同じチカラでさくっと引っこ抜けたわよね?

今はもう復活したからいいけども。


「セツナも男性の生態については教わっていたでしょう?」


「お、おかあさんごめんなさい……」


私を容赦なくカチ割った姿を見て怯えているセツナ。もちろん好きな相手とは言え無遠慮な欲望を向けられた恐怖も残っている。


「これに懲りたら、少しは攻め方を改めなさい!」


「はい……」


あ、やめさせるわけじゃないのね。

シュンとなるセツナを横目に見ながら心の中で良かったわねと声をかける。


「ミシロも、未来の不幸を変えに来たなら止めても良かったのではなくて?」


「申し訳ありません。ここまでの大事になるとは思いもしませんでした。てっきりお2人が普通にオトナのヒミツをするのかと。」


「家族の大事なものが失くなろうとしていたのよ?」


「セツナお姉様に関しては無理やりでなければ問題ありませんし、当主様も将来のお嫁さんという立場的に問題ないかと思いまして。」


「姉妹仲はいいと思ってたのだけど、どう言うことかしら?」


超早熟なミシロに本気でイラッと来た◯◯◯は彼女を問い詰める。そこに帰ってきた答えは意外なものであった。


「だってセツナお姉様は今のお父様と血が繋がっておりませんので、存分に愛を深めるものかと。」


「え……?」


ミシロの言葉に固まる◯◯◯。私達も同様だ。


「「「ええええええええ!?」」」


これにはマスターの治療をしていた者達も含めて全員が驚いた。


「あ、いけませんわ。これはご自身で気付かれるまでヒミツでしたのに……」


ミシロはあらやだっと手のひらで口を隠しながら困った顔をした。



…………



話の流れはこうである。


マスターこと◯◯◯◯・◯◯◯は2006年の始めに今の妻と契りを交わしてセツナを授かった。

その後マスターは身体に限界が来て死亡。その際に事前に材料を集めて悪魔として存在のランクアップを果たす。

だがその時、自身で取り憑く為に人間の身体を製作している。

その身体はベースこそ生前の物ではあるが、悪魔の器として使う為に見た目以外はほぼ別物となっていた。

見た目もコンプレックスや見栄が原因で、多少良くしているくらいである。


つまりセツナは間違いなくマスター夫婦の子供だが、"今の"マスターとは血が繋がっていないと言われても否定できないくらいに血縁関係は薄かった。普通の一族のいとこ関係以下である。


「なんてこと、そこは考えてもみなかったわ……」


さっきまでミシロにきつく当たっていた◯◯◯が頭を抱えている。


「ふ、ふ~ん。それでも私にとってお父さんは優しいお父さんでお店のマスターで素敵な師匠だけど?」


セツナはクールぶっているがにやけが止まらない。まだまだお子様ね。


「とにかく今のは旦那には内緒にしておいた方が……無理よね。」


「話は寝ながら聞かせてもらったよ。」


マスターはいつの間にか本体の方もむくりと起き上がっていた。嘘が通用しない男にため息がこぼれる◯◯◯。


「血の濃さがどうとかは置いておく。セツナはオレの娘に変わりはないしね。セツナ、興味は良いが飲まれるな。心身ともにすり減る前に、制御する方向で相談すること。いいね?」


「は、はい!」


暴走し始めた乙女心に釘を刺されてしまったわね?

でもセツナは落ち込んでいない。相談しろってことは向き合ってくれると言うことだもの。

でも考えてみればそうよね。

心に釘を刺すってハートを射止めるのと何が違うの?


「当主様、今回の件は痛み分けで良いです?」


それが1番の落とし所でしょうね。でもここはちょっと欲を出してみようかな。私だって乙女心に釘を……


「あなた、当主様は欲張る気よ。嫌らしい目をしているわ。」


ちょっと◯◯◯!?貴女が釘を刺してどうするのよ。

マスターは私を読みにくくなったらしいのに、女の勘?


「……痛み分けでいいわ。」


こうしてロリコン会の作戦は終了したわ。

甲斐無し成果無し?いいえ?この後ボンノウを落とすとかで夫婦揃って私を散々洗い倒してきたの。

これぞパーフェクトコミュニケーションってやつよ。


……そういう事にさせて。


私だって一応はオトメ。見栄をハルくらい良いじゃない!


『良いけど……じゃあ旦那が困った時に助けてくださいね?』


就寝前の私の頭に◯◯◯の声が聞こえた気がした。

まったく、これだから宇宙一は!



…………



「おはようございます、おと……マスター様。トモミ様。」



年が明けて2017年1月13日の朝。神社近くの水場を改造したキャンプ場にマスターとトモミが現れると、テントの中からマリーが現れた。


「おはようマリー。」


「おはようございます。マリーちゃん、よく眠れた?」


「はい!楽しすぎて眠れないかと思っていたのですが、気がついたら朝でした。」


元気な子供の姿にほっこりさせられる2人。

昨日のミーティングで子供を作れと言われて頭が沸騰したトモミ神の余波で廃墟となった領主邸。代わりにキャンプ場を寝床として提供していた。


「お母様達と作ったカレーは最高でした!次はおと……マスター様も一緒にいかがですか?」


「なら朝御飯はオレが作ろう。それと呼びたければ父親と呼んでくれて良いよ。でもあの術式は乗せないでね。」


「っ!?はい、お父様!お手伝いしますわ!」


魔王事件で生まれた子供第1号のマリーは、弾ける笑顔で父親の手を引いて行く。


(あの可愛さなら◯◯ちゃんも陥落するわよね。)


いつぞやのロリコン会については知らないトモミは、そんなことを考えながら社長を探す。するとテントの入り口から顔だけ生えてきた。


「あら、おはよう。早いのね。うう、頭痛い。」


「おはようございます。だいぶ飲まれたようですね。」


テント横の酒ビンの山をチラ見しながら挨拶する。


「神社の連中がねえ、一晩中持って来たのよ。貴女の事でご機嫌取りにね。バイトちゃん的にはどうなの?」


「それは御愁傷様です。私は前を向いて神ライフを送ってますので、彼らとは関係ありませんわ。」


「私もそう言ったのに、聞きやしなかったのよ。すぐお酒注いでくるし。」


「彼ららしいです。今◯◯ちゃんが朝御飯を作ってますので、皆さんでいかがですか?」


「頂くわ。それで、うまくいったの?」


寝惚け社長はモゾモゾと這い出てくると、一瞬でいつもの着飾った金髪美人に早変わり。自分が大量にいると手品めいた身支度もできるようだ。

それはともかく昨日の命令の結果を聞いてくる。


「無事に宿すことが出来ました!大切に育てます!」


「おめでとう。あの夫婦を、家族をよろしくね。」


「はい!ありがとうございます!」


気難しい女の自分では出来ないことを、トモミに託すとマスターのもとへ行き豚汁をすする社長。


(とても美味しい。雰囲気に酔うってこういうことなのね。)


マリーと一緒に作られた豚汁は格別だったようだ。

おかわりもあるよ!とマリーも上機嫌だ。


「ごちそうさま。美味しかったわ。」


やがて朝御飯を終えて感想を伝えると、やりましたわ!とマリーはマスターとハイタッチを交わす。

それを羨ましくも微笑ましく見守っていたが、気持ちを切り替えて仕切り出す社長。


「さて、今日のお仕事よ。昨日壊した家を建て替えなさい。バイトちゃんの惚気に耐えられる、頑丈な家にね?」


その指示をこなせるのはこの2人だけなので、ケーイチは呼ばれていない。今は副社長の指示で別の仕事をしているようだ。


そんなケーイチが夜になって水星屋に現れた。


「いらっしゃいませ!」


「……よう。これで適当に頼む。」


「はい、お待ち!」


3000◯を渡してカウンターでちびちび飲み始める彼の表情は暗い。周囲の客とはテンションの差が酷く映る。


「セツナ、少し頼むよ。」


「はい、マスター!」


見かねたマスターは酒と料理をある程度キッチンに並べ世界一可愛い店員に任せてしょんぼり男の相手をする。


「お前は解ってたのか?こうなるって。」


「未来視で片鱗だけ。過程はある程度予測しましたが、少し意外な展開でした。」


「そうだろうな。今のオレならその言葉も素直に信じられる。」


「便利な目ですね、それ。女湯とかお楽しみ放題なんじゃ?」


濃い紫の瞳。千里眼を指して適当な事を言ってみる。


「便利……か。確かに仕事のミスは減ったがよ。余計なことまでわかっちまう。とてもそんな楽しみ方が出来る気がしねえ。」


「気負いすぎですよ。せっかく人の枠を越えたんです。もっとオレみたいに楽しんだらどうです?」


「オレはお前みたいにはなれん。何もかもを失くしてしまう。」


過去に連れ添ったトモミやアケミの信頼を失った彼は、今も落ち込むサイガとも少しギクシャクしている。


「そんなのオレも同じですよ?だからこそ、先を見据えて努力するんです。楽しみながらね?」


「お前は!……そうだったな。」


マスターもここに至るまで失くし続けてきた。

人権や名前や命。

その後も夫婦生活を脅かす仕事に、世界中の悪意の受け皿としての立場。世界そのものの危機。それらを家族で乗りきったからこそ今がある。今も社長からの無理難題や日本政府との対話など、むしろ継続して面倒事にあたってある。

その中で色んなものを取りこぼしているし、他者との関係が変わることも多い。


「他人の芝生を羨む前に、ご家族を大事にした方が良いです。確認するならそれこそ奥さんの茂みとかーー」


「それ以上言うな。それでトモミに会わせてくれないか?」


「謝るつもりならやめた方が良いです。オレの時と同じく、今を満喫してます。あなたの後悔や自己嫌悪を、オレらで解消できるとは思わないことですね。」


「手厳しいな。」


「悪魔ですから。」


グラスの残りをあおった彼は、おかわりを要求する。


「家族を大事にって言うけどよ、オレの基礎は壊し屋なんだ。落ち込む彼女達をどうすれば元気に出来るか……わからねえ。」


「何のための千里眼なんですか。」


「こいつは見たくないものまで見えちまう。」


お前とは違うとばかりに言い捨てるケーイチに目を赤くするマスター。


「この赤目もそうですよ。条件を絞れば良いんです。結果を見て更に再検索。」


「お前は世界すらパソコンなのか?」


「あれもひとつの世界です。神様だっていますし。」


世界中の人間が作り上げた世界、ネット社会。

次元は違えど現実と密接にリンクしている流動的な世界。


「なるほどな。後はその方法だが……コツとかあるのか?」


「見たいものを優先して見る。ネットの検索と同じです。つまりトキタさんが本当に守りたいものを意識して使うだけ。」


「ああ、だから家族を大事にってわけか。」


「ええ、普段の心掛けは大事ですよ。」


「浮気性のマスターでもうまく行ってるなら、オレにも可能性はあるか。」


「あれはあれで妻との信頼関係が大事ですけどね。オレだってこうなるとは思わなかったですよ。」


「その辺が解らないんだよなぁ。まあいい、帰る。残りは土産を包んでくれ。」


「はい、お待ち!毎度あり!」


2000◯分の料理を手土産に帰っていくケーイチ。この先は少しずつ変わっていく……のかもしれない。


彼が店から出るとシュン!と店の壁の一角が消えて、テーブル席がひとつあらわになる。


「◯◯ちゃん、やさしーのねぇ。」

「よく気付かれませんでしたね。」


そこにはトモミとアケミが座っていた。


「神の加護があるので千里を超える壁も作れるのです。」


「もー、誉めても何も……ううん、愛をあげる~~。」


「トモミさん、飲んで平気なんですか?」


「特別に仕入れたものだから平気だけど、その辺にしておきなよ。周りが不安になるから。」


「はーい。」


(飼い慣らされてるなぁ。前はもっと……うーん。)


素直に飲むのを止めた彼女に、自分の未来が若干不安になるアケミ。

ちなみにお酒は神界のもので、加護もクロシャータ様のものである。別にトモミ神の加護ではなかった。


アケミは先日の約束について確認を兼ねてごはんを食べに来たのだが、トモミが出てきて監視役の真似事をしていた。


「でもあれよねー。まさかあのアケミちゃんがねぇ。大変よ?」


「何ですかその目。トモミさんだってビックリ存在になってるじゃないですか。」


あの世の医者と新人神様が牽制しあう。本当は存在がどうとかでなく、すぐそこの男についての間合いを計っている。


「そういうのはいいから。クオン、トモミの回収頼む。」


『はい!丁寧に目を覚まさせてあげるわ。』


「クオンちゃん出してくるのは卑怯よー!」


3歳の子供にチカラで縛られて風船みたいに浮かべられ、連れ去られるトモミ。他の客はマスターの周囲の力関係の認識を改める。


「これでよしと。さて。アケミには世話になってるし、言いたいことがあったら遠慮無く言ってくれ。」


「……私もああなるの?」


「君次第じゃないか?皆それぞれだし。」


ケーイチと一緒の時のアケミも大概だったが、それは飲み込んでおくマスター。

正妻も愛人達も、つきあい方は人それぞれだ。


「私達は仕事上お互いのを知られちゃってるけど……きちんと確認しながらが良いかなぁ。いきなり溺れ散らかすのはうん、もういいかも。」


「まぁそうだろうね。ブレーキはきちんと掛けるさ。」


「ありがとう。あ、でもその……」


急に良いよどむ彼女の気持ちを察して、マスターは望む答えを提示する。


「そこの興味を失ったら男じゃないよ。伊達に女の敵と言われてないから安心してほしい。」


「あはは、なにその理屈!」


笑い飛ばしながらも安心したアケミ。先日の味見の感覚への未練は果たされそうだ。


(でもそれって溺れるコース一直線なんじゃ?)


セツナも他の客もそう思ったが、口にはしなかった。

関係はゆっくりと進めたくても夜の方はそれなりに求める矛盾。いや人それぞれと考えれば、もしかしたら何も矛盾は無いのかもしれない。

そもそも死別した男への八つ当たりからスタートした気持ちなのだ。全てを綺麗事にしようとするほど子供でもない。


「今度の週末……明後日の夜か。ウチに遊びに来なよ。妻への挨拶兼ねてさ。」


「うん、そうする。あまり死人が出歩くと、皆驚いちゃうもんね。マスターさんの家、豪邸だし楽しみだわ。」


「娯楽は1通り揃えてるから。飯も期待してくれて良い。」


「それはもう!でも不思議ね。初めて会った時はこんな話するなんて思わなかったわ。あれからもう8年か。」


「キリコを捕獲して振り回してたもんな。」


「ちょっと、やめてよぉ。」


"あの"キリコを振り回したと聞いて客達の考えるパワーバランスが目まぐるしく変わる。


「色々変わっちゃったけど、こうして変わらない所もあるのは……嬉しいかな。」


人間関係も存在も環境も心も移り行くけれど……このお店でお酒を楽しめるのは変わらない。


「そうだね。そういうの、オレも良いと思うよ。」


「うんうん。じゃあ明後日、迎えに来てね。何か必要なものはある?」


「あぁ。手ぶらで良いよ。多分ウチのメイドさんが張りきって用意してくれる。」


「そう?じゃあまたね!」


るんるん気分で家路につき、寝る前に妄想を膨らませるアケミ。


(あれ、もしかしてノーブラを指定された!?いやそんな……でも彼なら……)


逞しい妄想力があらぬ方向に発揮されて、アケミはあまり寝付けなかった。



…………



「色んなストレスを抱えた人を見てきましたが……」


「ノーブラの恥ずかしさで倒れる人は初めて見たわ。」


「い、言わないでよぉ。」


「はいはい、暴れない。針がずれるわ。」



2017年1月15日夜。魔王邸医務室に運ばれたアケミは点滴を受けながらベッドに寝ている。


「もうやだー……」


「安心なさい。マスターはそんなことで軽蔑したりしないから。」


「そうですよね。4番弟子さんの伝説に比べれば。やあ!」


「あ、なんかスッキリするー!」


ルクスのストレス吸収でアケミがスッキリした顔になる。


「まだ点滴終わってないから静かに。」


「はーい。て言うか幽霊にも点滴って出来るものなの!?」


マキの制止に今更な疑問をぶつけてみる。


「異世界の特別製ですんで。なんでも?その世界のお盆的な日に帰ってきたご先祖さんを留めておくとかなんとか。」


「なにその医療世界。この点滴、少しもらえたりしないですか?」


ファラの世界の点滴が気になるアケミはおねだりしてみる。

これがあれば彼女の仕事の負担は相当楽になるだろう。


「それは私の判断じゃ無理ですねー。マスターさんに直接聞いた方が良いですよ。」


「う、うん。でもまだ顔合わせにくいなぁ。」


「マスター様なら密着して切実に頼めば平気です。」


「アケミンなら1ダースでも2ダースでも吸いあげられるわ。」


ルクスと聖女ちゃんのアドバイスに、そうなのかな!と期待する。そこへ様子を見に来た当人が現れた。


「もう大丈夫かい?なんの話をしてたんだ?」


「マスターさん、お口で頑張るから!12回でも24回でもいけますから!」


「溺れないんじゃなかったの!?」


「点滴の話はどこ行ったのよ。」

「色々混ざってるわねー。」


謎なやり取りのあと、魔王邸デートはしっかりこなすアケミ。

改めて正妻への挨拶を済ますと各種ゲームやカラオケにシーズのライブ、宇宙遊泳でご満悦である。

幻想的な演出の露天風呂での混浴(健全)は心底ドキドキさせられた。


「あー楽しかった!幽霊になってからここまで娯楽を満喫したのは初めてよ。」


「それは良かった。君の笑顔はこっちまで嬉しくなるよ。」


「フフーン、それが取り柄ですから!マスターさん、解ってるぅ!」


浴衣姿で胸を張って得意気な彼女。あてがわれた部屋のベッドが音をたてる。


「こっち、くるか?」

「はい。オバケな私ですが、お礼をしたいです。」

「オバケはお互い様だ。よろしくな。」


アケミは相手にそっと寄り添い、何かを確かめるように指を這わせる。同様にひとつひとつを大事そうにキスをした。


この日はお互いに楽しみはしたが、事前の約束通り派手に盛り上がるようなことはなかった。

それでも長々とイチャイチャシーンを見せられた監視役と妻はこういうのもアリね!と鼻息を荒くしていた。

ただただ交わり続けるだけが男女ではないのだ。

それでも。ナニとは言わないがマスターは12回、アケミは24回。

腹八分目の満足感が混在する気持ちを胸に、家まで送ってもらうアケミ。その週末は思い出しニヤニヤで気持ち悪いことになっていた。

翌週出勤すると倉庫に大量の医療用ボックスが置いてあり、プレゼントと書かれた張り紙がされている。中身は例の霊用点滴で、空間のコピペで使いたい放題用意されていた。



…………



「お前宛に辞令が出ている。確認するように。」


「はーい。……こ、これは!?」



桜が咲き始めた頃。業務終了後に閻魔様より渡された書類には、解雇の通知と輪廻転生のお知らせが記されていた。


「困ります!仕事も新しい恋も上手く行き始めたばかりなんですよ!?」


「であろうな。だからこそなのだ。シビトのままでは存在が先細る。功労的には既に良き縁の下へ転生してもおかしくなかった。そこへ更にあの点滴の存在だ。」


「道具に仕事を奪われるなんて!?」


AIに仕事を奪われた人みたいな反応するアケミにやや苦笑する閻魔様。


「そういう話ではないのだが……ともかく準備出来たら転生の間へ行きなさい。」


「え、もうですか!?色々ご挨拶とか!」


「そういうものよ。人間達なら別れの杯を交わすのでしょうけどね。」


「そんな……せめてマスターさんに会わせて欲しいです!」


「呼んだかい?」


切羽詰まるアケミにたいして、狙ったかのようなタイミングで現れた黒づくめ。


「マスターさん!!私、私は!!」


何から何まで唐突で、大事な言葉が上手く形成されない。


「うんうん。大丈夫、伝わってるよ。別れは寂しいけど、おめでとう。」


「マスターさん!」


アケミは泣きながら抱きついて感触を確かめ、必死に記憶しようとしている。転生すれば余程でない限り記憶はなくなるが、最後の瞬間まで覚えていたいという気持ちを汲んで閻魔様は見守っていた。


「なにか、してほしいことはあるかい?」


マスターの問いかけにしばし黙った後、彼女は必死に浮かべた笑顔で答えた。


「……キスをしてください。マスターさんお得意の、色々分かり合えたり幸せで都合のいいヤツがいいです!」


「君ね……分かった。」


チラリと閻魔様を見ると了承サインを出している。


(あ……これ、すごくいい……)


アケミは最後の唇の感触を受け入れると、彼と自分の心が混ざり合うのを実感した。遠く離れていても繋がっているような安心感。この先何があっても近くにいるような期待感。そんな春の桜吹雪が心の中を満たしていった。


転生の間まで送り届けられた彼女は、振り向いて頭を下げた。


「ありがとう。お世話になりました。」


「こっちこそな。良き来世を祈ってる。」


「はい!また会えたらよろしくね!閻魔様もありがとうございました!」


「達者でな。」


さよならは言わないまま笑顔で別れを済ます。

彼女は部屋へと消えて、新たな人生へと旅立って行った。


「閻魔様、お別れ淡白すぎません?貴女は別れが日常とは言え、何年も勤めた部下にもうちょっと何かあっても良いのでは?」


「だからお前を呼び出しておいたではないか。お前こそなんだあのキス!私にも……いや、そうじゃない。あれでは人生が決まってしまうではないか!」


「え!?閻魔様がそうしろってサインを出したからしたのに!」


「ただのキスだと思ったのよ!まさか運命の糸を大量に注ぎ込むとは思わなかったわ!?」


「だって、アケミには笑顔でいてほしいじゃないですか。」


「まぁ、そうだな。あの糸ならまぁ、そういう人生になるかもな。一応豊かな暮らしの出来る家庭に転生予定なのだが、この方が確実だろう。」


「その鏡、そこまで分かるものなんですか。」


その言葉は無視して、閻魔様は鏡をしまいながら気になっていた事をマスターに尋ねる。


「しかしなぜ彼女には最後まで手を出さなかったのだ?この前水星屋で露骨にアピールしていただろう。ケーイチに遠慮したか?」


この2ヶ月、最後まではしなかった2人。先日閻魔様と2人でカウンターに座って、彼氏が最後まで云々と愚痴を言っていた事があった。

鏡のチカラでも男心は見通せなかったようだ。


「別にトキタさんは関係ないですよ。溺れさせないため、それこそ今回の転生と同じ理由です。」


「解らなくはないが……」


幽霊として結ばれても未来そのものが色々難しい。

しかし聖女ちゃんやトモミのように一手間かける方法もあったはずなのに、そうはしなかったマスターに疑いの視線は向けられたままである。


「奪ってしまった笑顔を返したいだけです。」


「それならそれで納得しよう。この後彼女の転生祝い、どう?」


別れの淡白さはどこへやら。急に女を出してきた閻魔様と水星屋へ向かうマスターだった。



…………



『変な所ね。進む程に記憶が抜けていく感じ……うん、でもまだ彼の事は覚えているわ。』


何もない。でも様々な可能性へと繋がっているモヤモヤした空間の道。それは魔王邸で泳いだ空間に似ている。

アケミの魂はなにかに導かれるように飛んでいた。方向転換は出来ない。


『ケーイチさんへの八つ当たりと粘膜接触の錯覚で始まった恋だけど……それでも大事な気持ちだもん。出来るだけ抵抗してみましょう!』


「その意気よ!」


その時アケミの魂をムンズと掴んだトモミ神。そのまま魂の中にチカラを通して探りを入れる。


『トモミさん!?一体どうして……ああん!何するの!?』


トモミに中身を弄られて変な声?を転生の道に響かせてしまう。


「ふんふん。あー、こうなってるのね。解ってないなぁ。」


トモミは1通りアケミを調べると、自身は解ってる風な事を口走る。


「取り敢えず裕福な家に生まれれば良いってのはオヤクショ仕事よねー。それになに?色んな可能性で◯◯ちゃんと会えるようにしてあるのに、逃げ道を与えてるわ。紳士ぶってるけど、彼女はガッツリ捕まえていて欲しがってるのに!」


『そ、それです!いつも逃げ道があって、完全には釣ってくれないの!』


「様子を見に来て正解だったわね。縁結びの神である私がキッチリサポートしてあげるわ!」


トモミはすっかり弁財天気取りでアケミの縁を調整し始める。


『縁結び!?トモミさんいつの間に!?』


「今決めた!私の所為でたくさん振り回しちゃったし、望むままの未来を作らせてあげる!」


『……今?まぁでもお願いします。』


「まずはNTの社長令嬢なんてダメね。変な嫉妬と派閥争いが起きるわ。彼に縁があって男女仲でない……あの娘にしましょう。逃げ道なんて全くない、彼にメロメロでエロエロな状況にして……」


『うんうん!さすがトモミさん、頼もしいわ!』


閻魔様とマスターの配慮を無下に書き換えていく縁結びさん。子供が何人だのこっそり自分とも仲良くなる縁だのを設定していった。


「これで良し。じゃあアケミさん、来世でもよろしくね!」


『はい!ってあれ?なんで私を掴んで振りかぶってるんですか?』


「◯◯ちゃんの見様見真似だけど、この魔球で!」


足を大きく振り上げてから下ろし、魂を今までとは別方向へ投げ飛ばした。足で空気を裂いて真空状態を作り出し、時速300キロメートルを超える魔球だった。


『ひええええええっ!!!』


悲鳴をあげながらより良い未来へ突き進むアケミ。

まぁ真空状態も何も、もとよりここには空気はないのだけど。

ともかく転生への強制力をチカラ技で突破させたのだ。



…………



「あ、今動いた!しかもなんか、すごい魂が宿った気がする!」


「本当か!?どれどれ?」


「もう、カナタ君ったらそれじゃ分からないでしょ?」


「いいや分かるさ。これでも何度も転生してきた記憶と感覚があるからね。」


ある日の魔族領ラビ。その迷宮管理人室で管理人夫婦がいちゃついていた。カナタはハルカのお腹に耳と手を当てて新たな命の様子を伺っている。

彼らは幾多の困難を乗り越え結婚、子供も授かっていた。


「今日もいちゃついてるわね。そろそろ名前とかも決めたの?」


そこへ8代目魔王のリーンが様子を見に来た。


「うん!今直感で良いのが浮かんだの!この子はアケミよ!」


「何だって!?一体どうしてまた?」


カナタは驚きを隠せない。マスターに性別診断してもらって事前に話し合っていたはずなのに、急に変更されてはたまらない。

しかし相手は幼馴染みとは言え一応上司で、自分は婿入りしてサオトメ姓を名乗る身。強く反対も出来ないようだ。


「私ってばあまり笑えない人生だったじゃない?だからこの子には笑顔でいてほしいの。明るく美しい笑顔の日々を、ってね!」


「ふむ……いいね!遥か彼方にまで笑顔を届けてくれそうだ。」


「なんで地球人て自分の名前と絡めたがるのかなぁ。私ならもっと強そうなのがいいけどね。」


盛り上がる夫婦を眺めながらお腹をさするリーン。

邪神騒ぎから月日が経ち、チカラを付けた彼女もまた、マスターと契約していた。


ともかくサオトメ・ハルカは膨らんだお腹を大事そうに撫でて、今年中には生まれてくる子供に未来を夢見ていた。


(でもなんか作為的なものを感じるわね。なんだか神様に仕えそうな神々しさと……私以上にスキモノになりそうな?)


何となくのアレな未来予測を感じとりながらも、絶対に幸せな人生を歩ませてあげようと決心するハルカだった。


…………



「お前達はなんの話をしているんだ!?」


「今さらじゃないですかね?」


やや時を戻して2017年3月。魔王と政府の交渉会議は既に形骸化し、アニメ談義の場と化している。遅々として進まない交渉内容に指令が怒鳴りこんできた。御付きの自衛官も大勢だ。


「司令、お言葉ですが魔王の情報に関しては毎月報告しています。彼との交渉にはこの方法が1番なのです。」


「知ってるわい!毎回聞いてるからな!だがもっと有益な情報・譲歩を引き出せと言っているのだ!このままでは諸外国に良いようにされるだけなのだぞ!?」


ナカダイの言葉に更に激昂する彼は、周りが良く見えてないのかもしれない。しかし第二・第三魔王の強化の結果、状況は悪化の一途をたどっているのも事実。焦るのも仕方のない話である。


「本人目の前にして言うことじゃないよね。」


「知るか!貴様の仕業か?こいつらを操ってるのだろう?」


「その発想が出ると言うことは、あなたがそうしている自覚があるのでは?」


「この……!!もういい!お前ら、仕事する気がないならやる気を出させてやる!」


そこまで怒鳴り終えると携帯で短く"やれ!"と指示を出す。


「お前達の家族や恋人は現在、行方不明となったそうだ。」


「「「!!」」」


「やはり操ろうとしてるのは貴方の方でしたね。」


「黙れ!良いかお前ら!全てを失いたくなければ成果を挙げてみせろ!」


セリフを先読みされてマスターに皮肉られるが、気にせず続ける司令さん。ある意味大物である。


「わ、我々は……」


ナカダイを始め両者の顔色を伺う3人。


「さあ何をしている!貴様らにも銃口が向けられてると知れ!それにお前らのパートナーにも別の銃口がな!」


「どうやら選択の時が来たようです。どちらに付こうが構いませんが……あまりオレを甘く見ないことです。」


激昂する司令と余裕そうな魔王。その間に挟まれた悲しき捨て駒の特殊外交官。


政府からは家族の命と女の尊厳、自らの命を掛け金にされた。

かといって魔王も、敵に回せばただの死では済まされない。


「……イケダ、イシザキ。オレに続け。何かあったらオレを恨め。」


それだけ言って司令の方へ向かうナカダイ。慌てて続く2人。


「うん?人間側に戻る気になったのか?そうかそうか。ならばあいつをおおおおおおおおっ!?」


ドゴンとボディブロウを打ち込むナカダイ。屈んだ司令のアゴ先を蹴りあげるイケダ。倒れた相手の股間を、時間調整された足の16連打で粉砕するイシザキ。


ズガガガガっ!!


直ぐに護衛の自衛官から鉛玉が飛んでくるが、それらは次元バリアに吸い込まれて消えていった。現れた先は撃った本人達の、文字通り目と鼻の先であった。


「3人とも、良くできました。」


「マスターの事です、既に助けてくれてたんでしょ?」


「もちろん。それにここで普通の携帯使っても電波飛びません。」


「だと思ったわ。こいつバカなんじゃないの?」


「でもまぁ彼も仕事でしたし。ほい。」


「何ここ、どこなの!?あ、あなた!?いやあああああ!!」

「父さん!?どうしてこんな!?ひいいいいい!」


そこへマスターが呼び出したのは司令の家族だ。瀕死の大黒柱を見て慌てて駆け付けている。


「彼は愚かにも我々を脅迫してね。返り討ちにあったところだよ。」


「あなたがうちの人を……!?」

「ひぃ!なんで、なんでさ!」


2人は突然の事に動揺して、妻は固まり娘の方は説明を理解できていない。

黒モヤで強制理解させると、今度は怒りと恐怖が沸き上がってきた。


「ルクス、おいで。イロミシステム!」


「はい、マスター様!」


イロミにて娘の遺伝子から母親の遺伝子を差し引いてデータを取り、他の死体のデータも軒並み採取して更にイロミを発動させる。

後はルクスが周辺に漂う負の感情を吸い上げてチカラに変えて、この交渉の関係者を全(て消)滅させた。


「ふう、これで良し。お待たせしました。じゃあ行こうか。」


「「「……はい。」」」


固まっていた3人はその返事を絞り出すだけで精一杯だった。

何をしたのかは良く分からないが、選択が正解だったことは確かだった。

確かなのはこれで交渉の場は消え、政府はこの1年で得た危険な要素にすがるしか選択肢がなくなった事だ。


…………



「絶叫マシンフルコースな気分でしたが、これで私もマスターの愛人……になるんですよね?」


ナカダイとイケダをスギミヤの家へと送り、マスターと共に魔王邸に来たイシザキ。期待と不安混じりで聞いてみる。

この日のために身体の調整も教育も受けた。でも将来は明言されなかったし手も出されていない。でも彼なら、変人だけど幸せにしてくれるのではないかと言う期待は少しずつ膨らんでいった。


「はいこれ。」


「なんですこれ?」


立派な装丁の回覧板の様な物体を渡されて頭が?マークなイシザキ。


「今の娘は知らないか?お見合い写真だ。」


「なんでよ!!」


乙女(2回目)の期待した春はあっさり打ち砕かれてしまった。



…………

続く。


お読み頂きありがとうございます。


この辺りは116話との兼ね合いで首をかしげてばかりでした。

あの時は未来の自分に任せようと、今回描写した部分をバッサリカットしたのですが……。

逆にトモミ編で描写したところは今回カットしましたので、この話単品だと分かりにくいかもですね。自分の実力不足です。


続きは次の0時にお届け予定です。

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