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111 ヨアケ そのマエニ

本日2話目の更新です。

 


「全世界に告げる!オレは現代の魔王、○○○○だ!」



 2014年10月5日。丑三つ時が終わった辺りで世界中に映像付きのテレパシーを飛ばす現代の魔王。場所は事件のあった街の上空、結界の屋上だ。


 いつもは魔王と名乗りはしないが、今回の事件を通してみてきちんと演じる事も大事だと学んでいた。だいぶ遅いのが彼らしい。


「ミキモト・ソウタ率いるテロリストの活動は、ここに潰えた事を宣言する!関係者達は必ずや報いを受ける事になるだろう!」


 世界に向けて発信しているが、真夜中なので大迷惑だ。いつも通りクレイジーサイコ野郎だと思われている。


「さしあたって、この街はオレが浄化してやろう。どうせまとも復旧出来る状態ではないし、構わんだろう?」


 まともな生存者の居なくなった街は破壊跡も多く、地獄のようだ。


「そこでだ。オレの道具の完成品を披露しようと思う。魔王剣改め、魔王杖と命名した!」


 魔王は高らかに宣言して右手を前へ掲げる。


『クマリ、杖を!』

『はい、旦那様!』


 孤児院のクマリは胸の中から黒い短剣のような杖を取り出す。

 それを魔王の手の中に送り届けた。


 魔王杖は強力なので普段は封印している。何故封印先がクマリなのかと言うと、杖の中の別のマスターの好みである。


 彼はクマリこそ助けたが、棄民界に行けずに死んでしまったパターンのマスターだ。なので彼女に思う所があり、その中で眠る事を選んでいた。クマリも自分専用の旦那様が出来た様に思って喜んで承諾したのだ。


「○○ちゃん、下は順調よ。ここからサポートするわ!」


「あなた、私がいつも側にいますからね!」


 杖を受け取った魔王の左右にトモミと○○○が現れる。

 彼女たちは彼の動作を邪魔しない程度にくっついて精神干渉で繋がった。


『シオン・リーア・ユズちゃん、結界を解いたら帰還!それまでは頑張ってくれ!』


『『『マスターの為なら!』』』


 結界の下ではシーズが地獄の街を飛びながら歌っている。空気は汚れているが完全ホログラムモードにしてるので安全だ。



「川のせせらぎにーもう無い耳を傾け、ホトリの――」


「ホトケカフェで最後のランチ~~ディナーは営業時間外!」


「支払いは現金ー、渡し賃はとっておけー!」



 彼女達の歌声にはトモミと○○○の精神波を存分に乗せていて、残ったゾンビ達や幽霊などの思念体を街の中央に集めていた。


 曲名は「鎮魂!サンズランチタイム!」である。割と即興で作ったので歌詞はアレであるが、効果は発揮されている。


「そろそろ頃合いか。そっちは行けそうか?」


 魔王が杖に話しかける。傍から見たらヤバイ人だ。彼は杖の封印を解くと、黒い刀身が本来の色である赤に変わる。すると目覚めた別世界のマスターが語りかけてきた。


『いや無理だろ、オレだけでこの数の制御は追いつかねえ。』


「え、赤いチカラを使ってもか?ほら、放送もしてるしここはなんとか……」


 一旦時間を止めて焦りながら杖と呼ぶ短剣にすがる魔王。ヤバい人である。


『無理だって、オレはお前なんだから解るだろ?』


「むう、どうしたものか。」


「あなた……」

「○○ちゃん……」


 このままでは世界中の人間に赤っ恥をかくどころではない。

 せっかく魔王を名乗りだしたのに魔王ブランドを傷つけてしまう。女2人が何か良い事を言おうとした時、テレパシーが割り込んできた。


『旦那様、自信を持って下さい!』


「カナ?」


『旦那様はどんなにピンチでもありえない方法でここまでやってきたのでしょう?今回もおんなじですよ。』


「ふむ、それもそうだけど……」


『やりたいようにやればきっと上手く行くんじゃないカナ!』


「そっか。そうだな。ありがとう、カナ。後でご褒美をあげよう。」


『やったー!』


((出遅れたわ……))


「そんな顔しなくても……ちょっと手伝ってくれ。」


「はい!」

「うん!」


 微妙に悔しがる女2人には頼ってみせてフォローする魔王。バランス取りは大事なのだ。


「人手が足りないならこれかな。イロミ検索起動!ついでに掲示板の作成!」


「これをこうしてっと。トモミさん、大丈夫?」


「くうう、結構持っていかれるわね……って掲示板?」


 ○○○がイロミ検索の制御の補助を担当する。それにチカラを注ぐトモミが一気に精神力を消費して、ちょっと苦しい表情だ。


 そんな中、目の前にはシンプルなUIの掲示板が表示された。


「さっそく書き込んでみよう。宇宙一の美女と結婚したけどピンチなので助けて欲しいっと。本文は……」


「もう、あなたったらぁ。」


 魔王がスレッドタイトルを入力して本文へ移る。○○○はそのタイトルにちょっと照れているようだ。



 宇宙一の美女と結婚したけどピンチなので助けて欲しい。



 1 2014年10月の名無しさん。

 仕事で大見栄切ったのに手が足りない。

 嫁に格好良い所を見せたいので誰か助けて!


 2 2005年3月の名無しさん。

 嘘乙。


 3 2005年8月の名無しさん。

 >>1

 スペック。あと参考画像をだな。


 4 2004年9月の名無しさん。

 いや、ありえんだろ。仲間に風穴開けられたぜ?

 どうやったら生き残れるんだよ。


 5 2005年2月の名無しさん。

 >>4

 敵に拾われて世話してもらえばワンチャン。

 ナイトとの決戦で死んだけど。何あのボス、無表情・無動作で時間と精神を操ってくるんだけど。7人とも速攻やられたわ。


 6 2004年9月の名無しさん。

 >>5

 無理ゲー。参考画像はよ。釣りか?



「まあ、そう来るだろうなぁ。」


 さっそく書き込みがあるが信じてもらえない。


「仕方ない、君の方で撮影してUPしてくれ。」


 魔王は○○○とトモミをぐっと抱き寄せて魔王杖に頼む。


『おうさ。ほらくっついてー笑ってー。』


 カシャリ。杖のマスターが空間切り抜きで写真を取って、さっそくアップロードしてみた。



 15 2014年の魔王杖さん。

 代理うp。スペックは全員おんなじだろうから省く。


 ttp://www.tonkotu-uploader/0001.jpg


 >>5

 トモミとリンクしてればありえん反応速度で対応出来る。

 あとは全員のチカラ集めてA・アームであぼん。



 16 2005年2月の名無しさん。

 >>15

 マジか……何この美人!!トモミもいるじゃねえか!

 魔王杖ってなんだよ!!生きてれば魔王になるの?それとも杖?あと今アドバイス貰っても残念ながら死んじまってるんだ。



 17 2005年4月の名無しさん。

 >>15

 うわ、マジで美人だ!ていうかトモミはなんなん?あの壊し屋に殺されねえ?寝取った?


 こっちは余命半年だの、起きたら2人の結婚式終わっててショックなんですけど。誰のために頑張ったと思って……。


 そんで引きこもってたら、女に催眠掛けてオイタしてる野郎の声が聞こえてきてウザイ。こっちは傷心中だってのに……ちょっとシメてくるよ。それが終わったら手伝えるぜ。



 18 2005年9月の名無しさん。

 >>15

 美人やなあ、羨ましい。こっちは余命突破できんかった。

 むしろ魔王杖ってどういう事?別の世界のオレがオレに味方してるん?それが出来るなら手伝うけど。


 >>17

 存命中か。9月になればクマリっていう女子高生に出会えるぜ。

 2014年も居るのかは知らん。あとその女助けた後の仕事、やり過ぎんなよ。



 ・

 ・

 ・



 45 2014年の魔王杖さん。

 >>18

 魔王のオレに聞いた話だが、余命はサイトのマスターのマネをすれば少しだけ延命出来るらしいぞ。

 弱った臓器を健康な状態に戻すやつだ。でも因果に引っ張られるから気力勝負になるみたいだけどな。


 とりあえず皆、手伝う意思が在るって判断で良いのか?

 正直オレだけじゃ手に余る案件だからガンガン声かけて集めてくれると嬉しい。


 オレは2005年10月で死んだが、魔王となったオレの伝説(予定)の

 武器を担当している。普段は魔王オレの”いい夢”を見させてもらってるが、たまに起こされて仕事する契約なんさ。今回の依頼もそれだな。とにかく大勢必要だ。


 んで、皆が気になってる女の件だが……嫁の方はマジでイイ女だ。

 色々あって愛人だらけなのに尽くしてる姿がいじらしいぞ。魔王のオレも毎日嫁と娘にデレデレだ。


 トモミは別に愛人じゃないけど壊し屋とは2009年のクリスマスに別れてるようだ。写真の通り、時間の問題だな。


 もし手伝ってくれるならその辺のリアルな”いい夢”をお前らも見られるかもしれないぜ。だから拡散頼むな。



『こんなんでいいか?』


「上出来だ。第3者からの視点は説得に非常に有効だからね。」


「あ、あの……時間の問題って、そのぉ。」


『違うのか?今夜の件をダシに一戦だか一線を狙ってるように見えたけど。』


「も、もう!こっちの○○ちゃんも意地悪なんだから!」


「トモミさん、顔真っ赤よ。前も言ったけど自己責任でね。」


「その件は置いておいて、書き込みの方は……おおっ!」


 魔王本人はその件について特に口を挟まず、書き込みをチェック。

 すると一気に500件を越える申し出があり、今も増え続けている。だが書き込み数が650を越えた辺りで気になるモノを見つけた。



 666 1946年の名無しちゃん。

 何が宇宙一の美人よ!私なんて過去にタイムスリップして超イケメンの内藤君と、ばっちり子供作ったわ!


 http://www.tonkotu-uploader/0002.jpg


 どう?中学生になったけど父親に似て格好良いのよ。



 667 2004年9月の名無しさん。

 そうか、女のオレもいるんだな。普通に考えて2分の1だしな。

 ていうかURLのh抜けよks。



 668 2005年4月の名無しさん。

 >>666

 おい、おいちょっと待て!その顔見覚えあるぞ。



 669 2005年9月の名無しさん。

 >>666

 おいおい、しかも父親がナイトウだって?

 お前、ナイトのボスの名を言ってみろ。


 ・

 ・

 ・


 721 1946年の名無しちゃん。

 何よみんなして……私だって苦労したんだから労ってよ!

 生みの苦しみも知らない男はこれだから。


 戦争が始まったらどんどん迫害が酷くなって、戦争が終わってもナイトウ君は帰ってこなくて……チカラを利用して食べて行こうとしたら集団で私達を付け狙って来たわ。


 なんとか退けてたけど、いよいよもうダメって時に目の前に黒い穴が開いたの。きっと私の母パワーがそうさせたのね。このままじゃ殺されちゃうし、息子を穴に入れて逃してあげたの。次は自分もと思ったら後ろから殴られて、私は殺されちゃったけどね。


 でも良いんだ、きっと何処かで息子は生きてるもん!

 どう?家族愛なら私だって魔王に負けてないわ!



 722 2014年10月の名無しさん。

 >>721

 黒い穴って邪神のアレの事か?確か時空を越えてどの世界、

 どの時間でも顕現できる厄介者だよね。


 ところでオレは2005年にその子と戦ってるんだけど。



 723 2005年4月の名無しさん。

 オレもだよ!

 つまり>>721が才能溢れる中学生をバラ撒いたお陰で……



 723 1946年の名無しちゃん。

 ……ごめんね?今思えば私が戦ったのもそうだったわ。



 この後、お前のせいかーー!との書き込みが万を越えた。


 結局彼らの苦労は自分達の誰かがやらかしたものが跳ね返って来ていただけだったらしい。



 24522 1946年の名無しちゃん。

 >>ALL

 みんなごめんてばぁ!私だって、私だって……うう。



 24523 2014年10月の名無しさん。

 みんな、それくらいにしておこう。 名無しちゃんも悪義が有った訳ではないし、色々自業自得のマッチポンプだったと言うことで。



 24524 2005年9月の名無しさん。

 まぁ、全部自分の所為っちゃ所為だからなぁ。心当たりが全く無いのが納得行かないけど。



 24525 1946年の名無しちゃん。

 お仕事手伝うから赦してってばぁ!



 24526 2014年10月の名無しさん。

 OK。お陰で人数も集まったみたいだし、手伝える人はオレの所へ来てくれ!この赤い玉の中に入るんだ!



 魔王はその書き込みをする前から赤い球体を用意していた。

 野球ボールくらいのその赤い玉は、空間が圧縮されていて中は快適なオフィスと宿泊所が用意されている。


 その中にどしどしと平行世界で死んだ魂が入り込む。


「これからこの街の住人の運命を書き換える。手分けして全部”幸せな結末”で終わらせるのが君達の仕事だ!」


『『『任せてくれ!』』』


「結界を解除する!シーズは撤退、○○○とトモミはオレやオレ達でマズそうなところを支えてくれ!」


「「はい!」」


「「「撤退完了です!」」」



「運命干渉、起動!」



 パアアアアアアアア!!


 その魔王の掛け声で街が赤く染まった。集まった魂やゾンビや化け物の成れの果てがその光りに包まれていく。


『『『お前達の夢は何だー!叶えてやるぞー!』』』


 魔王杖や赤い玉に集まった別世界のサイトの悪魔達が、彼らの人生をより良いモノに書き換えていく。本当に幸せな人生になったわけではなく、魂の記憶と記録を改ざんしているのだ。


 それでも5万からの住民を書き換えるのはなかなか歯ごたえがあるもので、こちらの2万程のマスターも悪戦苦闘していた。


「やはり残りの人生全てを書き換えるのは容易じゃないな。」


「あなた、それでもペースは悪くないわ!」


 脂汗をかきながら魔王は、チカラを注ぎながら推移を見守っている。

 ○○○が励ますが状況は芳しくない。そんな中でトモミは違和感を覚えていた。


(なんだろう、同窓会の時もそうだったけど……○○ちゃんのチカラの容量って矛盾が多いのよね。)


 悪魔になってチカラが増えたのは解る。だがその増え方と実際に使える量が釣り合わない事があった。


「○○ちゃん。ちょっとだけ心の奥、覗くわよ。」


「「こんな時に何を!?」」


「こんな時だから!もしかしたら……」


 ヒュン!


 トモミは言うが早いか、魔王に取り憑いてしまう。彼の中に入った”3人”のトモミは、さっそく深層意識を探検する。


 ――さあ、手がかりを探すわよ!


 ――別れて探すのね。新人ちゃんも何かあったら教えてね。


 ――ジジジジ……あそこ、○○ちゃんの無意識……ザザッ。


 ――え!?もう見つけたの?どこどこ!?


 ――うわ、ここ壁かと思ったら通り抜けられ……うひゃああ!


 ――どうしたのよ、そんなはしたない声で――ウェエエエ!?


 ――ザザザザ……これ、世界中の敵意。ジ、ジジジ。


 ――よく分からないけど、でかしたわ!すぐに戻るわよ!


 トモミは一気に深層どころか表層意識も抜けて現実に戻る。



「○○ちゃん、チカラの在り処を見つけたわ!今から呼び起こすからリラックスしてね!」


「「どういう事!?」」


 2人からすれば寝耳に水だ。今もフルパワーで作業中なのにこれ以上のチカラがどこにあるのか。


「それとその赤いの達、もっと効率よくして!」


「え?っと……?」


「あなた、合体よ!それが一番いいと思うわ!」


「ああ、こうか!」


 その言葉を受けて、赤い玉を魔王杖の柄の水晶玉に吸い込ませる。


『『『おおおおお、なんだかスムーズにチカラが通る!』』』


「そしたらこれをこうしてぇ……はああああ!」


 トモミは魔王の深層意識の、無意識の壁に対して魂削りを放つ。



 ブォォオオオオオオオオオオ!!



 無意識を埋めて強制的に意識させられたその部分から、大量のチカラが溢れかえっていた。



「な、何をした?いや違う、何でこんなチカラが在る!?」



「ふふーん……解らないわ。」


 一瞬得意げにドヤろうとしたトモミだったが、原因はわからない。


「もしかしたら、あなたは悪魔だから?」


「あー……世界中の敵意を食って保存してたのか。全然意識してなくて気づかなかった。今思えば……いやそれより仕事だ!」


 魔王は一気に意識を集中して死んだ自分達にチカラを供給する。


 そんなチカラのストックが在るなら上司が教えてあげればいいと思うのだが、実は教えようとはしていた。それはアケミの事件の前後、過労死寸前まで追い込まれた件である。


 社長のアレな策略が目につくが、多忙にした理由の1つがソレだった。結局あの時は夫婦揃って勘違いして、省エネモードを開発していたが実は悪魔の特製に気づかせようという理由も有ったのだ。


「よし。もうひと踏ん張りだ!みんな頼むよ!」


『『『任せろ―!』』』


「「最後まで頑張るわ!」」



 パアアアアアアアアアアアアア!!



 赤い光が一層輝きを増して迷える魂たちを強制的に浄化していく。

 彼らの魂は天に昇ってその姿を消した。


 そう、これが魔王の言っていた第2便だったのだ。


「頃合いか。さっきの結界の区切りを利用して……たああああ!」


 魔王が右手で地面を引っ張るような仕草をすると、街は跡形もなく消滅する。

 正確には地下も含めて別の場所へ”移籍”させたのだ。



「はぁはぁ……これでここのは終わったか。みんな、礼をするからそのままそこで休んでてくれ。」


『『『了解!』』』


 元気の良い死人たちの声を聞いて、魔王は再び世界に語りかける。



「見ての通り、この街は杖の効果で浄化させてもらった!」



 割とハッタリだが、あながち嘘でもない宣言をする。


「今回のテロ騒動は大手とは言えイチ企業が簡単に起こせるものではなかった。証拠は全て頂いたので、関係者はその時を待つが良い。また多少はこの街の外にも被害が及んでいると思うが、それは関係者の皆さんが頑張って対応してくれ給え。」


 それだけ言うと時間を止めてあっさりと消える魔王一味。


 夜中に起こされた一般人。恰好の獲物の存在を嗅ぎ取ったマスコミ関係者やいろんな団体さん。そして背筋が凍る思いの事件関係者達。



 それぞれの思いをヨソに、夜明けが近づいていた。



 …………



「ここは……森の中?どこの田舎じゃ?」


「さあ。死後の世界がこんな気味悪いとは思いませんでした。」



 2014年10月5日の夜。つまり事件の終わった日の夜。

 気がついたら見慣れぬ森の中に居たミキモトとサワダ。2人は半透明の身体できょろきょろと辺りを探っていると、奥からスっと人影が現れた。


「よう、思ったより元気そうでなによりだ。」


 突然現れたケーイチが、内容の割に低い声で語りかける。


「お前は……まだ殺し足りないというのか!?」


「まさか死後まで追われるなんて……」


「ふん、感情的にはそうだがオレの復讐はケリをつけた。今のオレは唯の案内人さ。」


「案内人?何処へ連れて行こうというのだね?」


「来れば解るさ。ついて来な。拒否権は無ぇ事くらいは解るだろ?」


「「…………」」


 いつもより黒い剣をチラつかされて、黙って森の中をついていく。逆らえば精神干渉付きの攻撃をご馳走されるのだろう。


 2人の身体は霊体ではあるが宙を浮くことは出来そうにない。のしのしと歩くが疲れもせず、幽霊として中途半端な気分になる。


 30分ばかり歩いた所でケーイチは止まり、眼の前の集落を指差した。


「まずはここに立ってみな。」


「いったいなんじゃという……うわああああああ!」

「な、ななんあああああああ!」


 集落の敷地に足を踏み入れた途端に悲鳴を上げて尻もちをつく。


「くるなああああ、わしが何をしたと……ひああああああ!」


 ミキモトは集落の化け物達に襲われる幻覚を見ていた。


「恐ろしいか?これはマスターの記憶だ。お前らやオレの所為であいつがここに来た時、こうやって拒否られたらしいぜ。」


 ケーイチがネタばらしするが未だ落ち着かない2人。

 実際の所マスターはさっきの森で慌ててすっとんできた当主様に出会っており、何から何まで酷い出会いではなかったがそこは省く。


「なんでこんな事を!!」


「さぁな。多分あいつの嫌がらせだろ。あまり意味はねえさ。ほら、次に行くからさっさとついてきな。」


「「…………」」


 趣味の悪い死体蹴りに沈黙しながら、しかし見失わないようについていく。


 それからしばらく歩いて別のエリアに入った先で、立派なお屋敷が目の前に現れた。当主様が率いる悪魔屋敷である。


「よう、通らせてもらうぜ。」


「ええ、話は聞いてますよ。どうぞ。」


 門を通り抜けて中庭に入ると、赤の幕に金色の刺繍で水と書かれた屋台の下へ出る。その入口には閻魔様と死神さんがこちらを見ながら待っていた。


「手はず通り、連れて参りました。」


「案内ご苦労。もう下がって良いぞ。」


「失礼します。」


 さすがのケーイチも閻魔様の前では丁寧な口調になる。将来自分を裁く相手に失礼な事を好き好んでするものは少ないだろう。


「ミキモト・ソウタ、並びにサワダ・トモキ。両者は今から私、第8閻魔の管轄に入る。その事を肝に銘じた上で、入店するが良い。」



「閻魔?この様なオナゴが閻魔様じゃと?」

「え……と?なんで屋台に入るんです?」


 彼女達の見た目から侮ったのか、その場に留まってグダグダする2人。


 ヒュゥゥン、シャキイイイン!


 次の瞬間には首元に死神のカマが突きつけられ、魚のように口パクを続けてしまう。


「お前達はいつでも刈れるんだ。地獄へ直行したくなければ入りな。」


「わ、わかったからこれを降ろしてくれ……」


「ふん。」


「我々はお前達を裁く側の存在だ。今回は要請を受けて特別にこの様な事になっているが、あまり甘く見るようならタダでは済まぬと思え。」


「「はい……」」


 2人はあの世の権力者のプレッシャーに圧されて大人しく屋台に入る。


 今朝方一気に5万超の死者が送られて来たのに閻魔様達がここにいるのにはワケがある。

 強制的にいい人生を歩んだ事になった感染者や死者達は、一般の魂として迎え入れられた。


 つまり別の死神さんや閻魔様達の管轄になったのだ。


 他の方々は朝早く叩き起こされて、総出で三途の川を渡らせた。小舟では足りずに屋形船まで出す始末だ。


 裁判までの待機所は、あの世に移籍された例の街を使っている。

 最近手狭になってきたあの世の街を無理やり拡張して街を入れたのだ。


 これが魔王が先代コウコウ神に言っていたリサイクルである。



「いらっしゃいませ!水星屋へようこそ!」



 話を戻してミキモトとサワダが屋台に入ると、白い調理服姿の現代の魔王が出迎えた。だが声を掛けてきたのはそれだけではなかった。


「まったく、遅いぞソウタ!みろ、トウジがすっかり出来上がっておるわ!」


「何を抜かす、ヨシオの方こそ老いぼれて虫のように汁を吸って生きてる癖に!」


「あんたらは飲みすぎじゃ!いい大人が情けない。ほら、お前達も早くこっちに座らんか!」


「キ、キサキなのか!?」


「トウジってまさか……父さん!?」


 テーブル席に居たのはサイトウ・ヨシオにサワダ・トウジ、そして幼い身体を作って取り憑いているナカジョウ・キサキだった。


「はい、座って座って。おしぼりもどうぞ。まずはビールで乾杯でもしててください。すぐ料理をお持ちしますから――はい、お待ちッ!」


 冗談のようなテンポでコトを進める水星屋のマスター。


「「…………」」


 ミキモト達は呆然としている。


「まったく、大それた事をする割に心の余裕が無いぞ。せっかくの同窓会なんだから挨拶くらいせんか!」


「こ、これはどういう企てなのじゃ……」


 未だに飲み込めないのは脳が老いたからだけではないだろう。


「せっかくだから全員揃って話す機会があってもいいと思ってね。このメンツ以外は転生して記憶もないから呼べませんでしたけど。最後になるかも知れないし、存分に楽しんで行って下さい。」


 マスターがにこやかに酒を勧めてくる。もちろんただ接待をするだけでここに呼んだわけではない。

 こういう対応の方が彼らには効くと考えての行動だ。


 暴力に寄る痛みと苦しみは散々味あわせた。ならば次は恥や罪悪感を思い出して貰おうという悪趣味な魂胆だった。


 本来ならすぐにでも裁いてしまいたい閻魔様達も、事ある度に面倒な

 目に遭わされてきた相手なだけにこの企画には2つ返事で乗った。


「トモキ……赤子のお前しかオレは知らないが、大きくなったな。」


「父さん、僕は……」


「言うな。今更戻らんだろう?それよりもっとよく顔を見せてくれ。」


「はい、はい!」


 42年ぶりの親子の再会に、霊体のハズの2人は涙を零した。



「ほらソウタも座って――」


「キサキ!また会えるなんて……ワシ、いやオレの願いが叶ったんだ!」


「こらこら、私より年上なのに泣くでない。だがまた会えたのは嬉しく思うがの。」


 途中から若い心を取り戻したミキモトは、ヨシオの言葉も耳に入らずキサキの小さい手を取って感動している。


 マスターが白黒のチカラで、魂すら一時的に若返らせたのだ。


「オレは、お前が好きだった。色恋だけでなくクスリを扱うライバルとしてもだ!」


「うむうむ。」


 ミキモト教授、いやただのソウタの熱い言葉を受けてにやけながら頷くキサキ。


「恐らくこれが最後だから言わせてもらう!この夜だけでもオレの恋人になってくれ!」


 彼の渾身の告白を真正面から受けて、キサキは満足げな顔を浮かべている。

 これは上手く行ったかと思ったソウタだったが――。


「見た?聞いた?我が弟子よ!これよ!こういう真正面からの情熱的な態度がお前に足りないものなのよ!解ったらもっと私の胸が膨らむ様なアタックをしてみなさい!」


 返事も返さずにマスターに話しかける彼女に、ハニワのような顔になる。それも自分には向けられなかった乙女口調で言われればショックも大きいだろう。


「キサキ師匠、それはダメじゃないかな。そっちのロリコ……彼が土偶みたいな顔になってるよ。師匠に足りないのは胸よりも慎みだと思います。」


「ぐぬぬ……」

「ろ、ろり……」


 マスターのバッサリいったセリフに言葉もない2人。


「お前らは見てて飽きぬな。ほれソウタ、いつまでも未練たらしく手を握ってないでこちらで語り合おうぞ。」


 ソウタはヨシオに引っ張られて隣のテーブル席に移動した。


「それにしてもマスター。もっと発育の良い身体には出来なかったの?これでは何もできないわよ。」


 身体を制作したはいいが子供のままだったキサキ。

 彼女はひさしぶりの生きてる身体を満喫してはいたが、それはそれで欲が出るものである。


「いきなり大人にしたら心とのバランスが悪いですよ。ここから少しずつ大人になって女を磨いて行って下さい。」


「う、うん!そうよね!今に見てなさい。弟子が一発で欲情するナイスボデーになってあげるわ!」


 そう言って牛乳を飲むキサキ。


(やっぱり慎みは大事だよなぁ。)


 言葉にはしないで皿を洗うマスターだった。


 この半日だけで彼の主観時間は1ヶ月を超えた。例の事件の後始末は思ってたより大変だったのだ。


 だがそれも、このささやかな同窓会が終われば急ぎの仕事は終わる。

 あとは助けた者たちのフォローをしつつ、事件関係者達の今後の動向を見守るつもりだ。


 あの赤い球体はそのまま手元に在る。手伝ってくれた自分達には今はいい夢を見てもらっているが、そのままソコに居着きそうな雰囲気だった。


「ともかくお疲れ様でした。キサキ師匠も彼らと話してあげて下さい。オレとはもういつでも会えるでしょ。」


「それもそうね。でもマスター。少しくらい照れてくれてもよかったのではないか?」


「やっぱり慎みは大事だよなぁ。」


「ぐぬぬぬ……覚えてなさい!」


 今度は言葉にして出てしまった言葉。キサキはぷんぷん怒ってかつての仲間の輪に戻っていく。


 それを見守るマスターと、あの世の2人組。

 ミキモト達はこれが終われば連行され、キツい沙汰が下るだろう。

 今回手に入った新たな土地の北半分を地獄にアテて、その新地獄の下っ端になる予定なのだ。結局死んでも自身の業からは逃れられないということだ。


 見れば2人ともようやく輪に馴染んできたようだ。


 この日の思い出を糧に、是非これからの生活を頑張って貰いたい。そんな視線を向けるあの世組。もちろんまっとうな感情での応援ではない。


「はい、お2人もどうぞ。勤務中なのでお酒は無いですけど。」


 そんな2人の心がこれ以上ササクレないように、食事の差し入れをするマスターだった。


お読み頂き、ありがとうございます。

今までに比べたらだいぶスッキリした文章量です。

前半は掲示板の形でいくつか答え合わせをしました。

半端な情報しか出てない邪神については、この後のストーリーに絡んで来る予定でした。


ミキモト教授達の処遇はこんな感じになりました。この後散々働かされます。

今後近い職場になるであろうアケミとの和解は、難しいでしょう。

仕事だけの付き合いはあるかもしれませんが、赦せる時が来る前に

アケミが転生してしまいそうです。

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