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110 セカイ そのミカタ

本日3話更新します。

 


「ようこそ、世界の外側へ!」



 2014年10月5日。現代の魔王によって別の空間に連れ去られた特殊部隊の8人と人外組。その場所は先程の生物実験室と雰囲気は似ているが、だだっ広い空間になっている。

 壁も天井も無く上空は宇宙空間になっているが、空気は充分に確保されていて呼吸に問題はない。


 ユウヤはチラリとメグミを見ると、37ちゃんの報告を聞いていた彼女がコクリと頷いてきた。人工知能の37ちゃん的には健康に問題無いと判断されたようだ。


「心配しなくても少し広い空間を異次元宇宙に用意しただけだよ。ここなら誰の邪魔もなく話が出来るからね。」


 魔王とはソコソコ距離を保っているが、彼の声はよく聞こえている。恐らくテレパシー程ではないが精神干渉が乗っているのだろう。


「つまりオレ達を閉じ込めたって事か。」


「なんだか深みにズブズブってませんかねー……」


 ヨクミは遠い目をしている。彼女としては故郷に帰りたいだけで、こんな大仰な舞台など必要はない。


「それで、僕達を連れてきて何が目的なんだい?」


「うん。今夜の事件はもう解決の目処はついたからね。後は街を浄化して帰るだけなんだけど、君達と話し合う必要があってさ。それは君達も同じなんだろう?だからこの場を用意したワケだ。」


「話し合い、ねぇ。一応私達は貴方を倒すために教育されてきたんだけど?」


 メグミは生物実験室の時はアケミの死に様を知って心が乱れていたが、今は気持ちを切り替えて魔王を睨みつけている。そうでもしないと心が保たないのだ。


「あの、私達は助けてもらったミブンなので……」

「戦っちゃったのに治して頂いて、ビミョーな気分なんです……」


 アイカとエイカが魔王とユウヤチームを交互にチラチラ見ながら申し訳無さそうに気持ちを吐露する。


「騙されてはいけない!彼は魔王と呼ばれるだけの事をしてきた男なんだ!僕の両親だってこいつに……」


「「で、でも……」」


 モリトが双子の姉妹を諭す。彼は部隊の中では魔王への怒りが強い方ではあるが、アイカ達にはあまり響かなかったようだ。


「それで、要件の内容は?」


 あまりグダついても仕方がないので、ソウイチが手短に聞いてみる。


「オレの正体を知ったんだから、やることは決まってるだろう。」


「口封じってことか!?わざわざこんな空間まで用意してご苦労なことだな!」


「ある意味間違いではないけどね。どうだい?オレの下へ来る気はないか?住む場所も仕事もすぐに用意出来るよ。」


「つきなみなセリフが来たわね。当然お断りよ!何の権利があってそんな事を言い出してるの!?」


 メグミが力強く否定するが、その反応が解っていたかの様に魔王は頷いて懐から1枚の紙を取り出した。


「権利か。これで良いかい?」


「「「そ、それは……」」」


「なんだい、その紙きれ。」


「ソウイチ君達を保護する代わりに報酬を払う契約書だ。報酬が応相談となっているのがミソだね。だからそれを話し合おうと思ったんだ。」


「あー、そう言う……」

「しっかりしてるわね。」


 ソウイチの疑問に答えた魔王。だがそれを聞いてもすんなり受け入れるソウイチ達。助けられたのは事実なのだから文句は言えないというのもあるが、魔王の言葉にいちいち驚いていては疲れるだけだと学んだのだ。


「そ、そんなの無効だろう!!騙し討ちみたいなものじゃないか!」


「そんな紙切れで私達を縛れると思ってるの!?」


 モリトとメグミが強く抗議している。ユウヤは敢えて黙って魔王の反応を見ていた。


「返す時の閻魔顔、か。ふふふ、実に人間らしいね。もっとも、オレの知る閻魔様はもっと可愛いかったけ――失礼、本人に怒られたから止めとくよ。ともかく応相談と書かれている以上、報酬の提示くらいはした方が良いと思うよ。オレとの契約を破棄となると……色々無かった事になってしまうからね。」


 テレパシーで閻魔様に怒られた魔王は、チラリとソウイチチームを見ながら真面目に報酬について話し合う事を勧める。

 言ってることは割とまっとうだが、フザケている様にしか見えない。


「それで、ユウヤ君はどうする?君がリーダーなんだろう。」


「ここで屈っしては駄目だ!戦わないと!」

「魔王を倒さないと帰れないなら戦うべきよ!」

「ちょっと2人とも落ち着きなよぉ。」


(戦うと言ってもソウイチ達の士気は低そうだし、簡単に勝てる相手じゃない。かと言って屈すると何をされるか。ここで間違うとマズイんだろうなぁ……)


 真っ先に銃を構える2人を一旦止めようとするヨクミと、考えを巡らせてるユウヤ。そこにミサキが割って入った。


「ユウヤ、教官の教えを忘れたの?彼の言葉をよく聞いた上で考えなさい。無策に攻撃すれば恐らく私達はその時点で死ぬわ!」


「なにを言って……そうか!」


 相手は時間を操れるのだ。契約内容が無かった事になるなら、ソウイチチームは全員化物に逆戻りする可能性があった。


「うんうん、いい仲間を持ったね。少し羨ましいよ。」


 自身のサイト時代を思い出してちょっとだけ遠い目になる魔王。


「おのれ魔王め、卑怯な真似を!」


「いやさすがに普通のことでしょ。借りパク・ゴネ得はどうかと思うよ、正義の味方君。君等がなんとか出来なかったからこそオレが治療・保護したんでしょ?」


「……お前は何がしたいんだ!誰の味方なんだよ!」


「モリト、深みに足を入れる前に落ち着いてー!」


 モリトは魔王を罵ってみるも正論で返され、頭が混乱してきたご様子。ヨクミがぺちぺちボディタッチしながら落ち着かせる。


「強いて言うなら世界の味方さ。オレにとっては今、君達は敵でも味方でもない。その答えを決めるのがユウヤ君の返答なんだ。」


「なるほど、お陰で少し解ってきたぜ。戦いは無しだ!」


 魔王の言葉からユウヤは相手の性格・行動原理を読み取ってキッパリと言い放った。それは奇しくも、失ったハズのトモミの助言と一致するものだった。


「ユウヤ、それはあまりにっ!」

「そうよ!私達は――」


「モリト、メグミも聞けって。あいつは聞いてたような無差別殺人鬼なんかじゃあないと思う。ソウイチ達を見ろよ。ワザワザ敵対しなきゃむしろ有益なくらいだ。」


「でも!」


「解ってるって。だがモノには順番ってものがあるんだ。」


 ユウヤは仲間をなだめて魔王に改めて意思を伝える。


「無理に戦いはしない!だが今後の待遇については疑問しか無い!それとオレ達は聞きたいことが山ほどある!」


「まぁ、そうだろうね。」


「だからこそ確認したいことがある!」


「なんだい?」


 ユウヤは頭を働かせ、みんなの不安と不満を一気に解決できそうな質問を既に考えていた。それを大きく息を吸って魔王にぶつける。



「使用人フェチというのは本当か!?」



「……は?」


「「「はぁあ!?」」」


 その意味不明な問いに少々間を置いて全員から、なんだこいつという目で見られるユウヤ。


「ちょっと誰か、そのバカをなんとかしなさい!」

「こんな時に何言ってるの!?」

「お前、頭は大丈夫か!?」

「みんなの命が掛かってるのよ!?」

「はっ!もしや魔王の幻覚か!?」

「「ユウ兄さん……」」


 ミサキを始めとしてボロクソに言われたユウヤはタジタジだ。


「い、いや……ちゃんと考えがあってだな!もし世話になるにしても女達を好きにされたらたまらないし、こう話題を振れば会話の主導権をもしかしたら……それにこんな情報しか手に入らなかったわけだし、活用するなら今しか無いかなって。」


 ネタの解説をさせられて顔が熱くなるのを自覚するユウヤ。当然それで納得できない仲間からは冷ややかなブーイングの嵐だ。


「はははっ、面白いこと言うね。記憶はなくても教えは残ってると見るべきかな。」


 魔王は予想外に機嫌が良さそうだ。先程からやり方がトモミに似ていることから、何らかの因果の巡りを楽しんでいる。

 もちろんユウヤ達は知る由もない事である。


「それで、どうなの?魔王さん。」

【貴重な記録という意味でもお聞かせ下さい。】

『風のウワサなら任せて、きっちり流すわ!』


 人間たちがグダついているので、大人しくしていたメリーさん達人外組が話を進めようとする。意外と興味もあるらしい。


「うん、事実だよ。」


「「「えええええええ!?」」」


 グダついてた人間たちもこれには満場一致で口を揃える。


「ま、まさか僕達が訓練に明け暮れてる間にもメイド喫茶に入り浸ってたりとか……」


 モリトが目を血走らせてワナワナしながら問いかける。自分達が必死に訓練している時に豪遊?してるのが許せないだけで、別にメイドが羨ましいわけではない。と思う。


「そんな訳あるか、あれは別物だろう。最初から無駄に媚びを売るし品が無くて好ましくない。オレの好みは本業の方だな。妻もそうだったし、ウチの使用人たちは中々のモノでね。やっぱり頑張る女の子達って良いよね!その中で交流を経て信頼関係を――」


 ※個人の感想です。好みには個人差があります。


「わかった!わかったからその辺で!ていうかそんな情報出して

 良いのかよ!」


「さっきまで口封じの話をしていたのに何か問題でも?」


「なるほど、これが本当の”めいど”の土産ってことね!……いやああああ!私まだ死にたくないーーー!」


 ヨクミが変なことを口走った後に頭を抱えて泣き叫ぶ。


「君達は本当にオレを倒すために育てられた兵士なのか?」


「あぁ、うん。残念ながらね。」


 この中では一番話がわかるであろうミサキに魔王が問いかける。彼女は目を逸らしながらそう答える事しかできなかった。



 …………



「とにかくだ、妥協点を探したい!」


「いい心がけだね。」



 あわや魔王との決戦!というシリアスな空気をぶち壊したユウヤは魔王との話し合いに意欲を見せる。仲間たちからはジト目で見られているが、高い敵意を削いだと考えれば何も問題はないのだ。

 何事もポジティブに考えるのが大事なのである。


「さっきも言ったが住居と仕事は世話するよ。頼まれでもしない限り彼女達に手を出したりもしない。」


「そのほ……生活、具体的には?」


 一瞬その保証は?と言いかけたユウヤだが言い直す。疑う事は大事ではある。が、恐らく逆らえない契約的な物を結ぶのだろうし、信頼関係の話は今は平行線になると予想しての行動だ。


「オレの息がかかった街があってね。事件や災害に巻き込まれた難民に居場所を与える為の街だ。万年医者不足だからそこで働いてもらおうかと思ってる。」


「魔王軍の衛生兵ってこと!?嫌よ!!」


「君はゲームとか好きなクチなのかい?治療相手はお年寄りとかばかりだよ。街には結界もあって追跡も防げるし、住民は君達みたいな者ばかりだ。居心地は悪くないと思うけどね。」


「なるほど、あんたに迎合する代わりに平和に暮らせるってワケだな。」


「悪くないわね。でも移動の自由はありまして?私は実家を放置はできないわ。」


「細かい希望は後で個別に対応しよう。他になにか?」


「ユウヤ。」


「そう怖い顔するなって。わかってるから!」


 モリトが目と冷気で圧を掛けてくる。メグミもちょっと赤黒い。このまま話を終わらせては何も解決しないまま、有耶無耶のまま生きることになるのだから当然だろう。


「オレ達は魔王に家族を殺されて魔王を倒すために生かされた人間だ。身寄りを奪った張本人に言われて”はい、そうですか。”と納得出来るもんじゃない。」


「当然の主張だね。」


「だからまずは理由を知りたい。あんたが魔王を”演じて”いる理由と、オレ達全員がこんな事になった理由だ!それを聞いて尚、納得できたら素直についていくぜ。」


 彼はリーダーらしくビシっと主張する。魔王の実物を見た限り、彼はどうも授業や政府発表の魔王らしく無いと感じたユウヤ。ある種のロールプレイなのではないかとカマかけしてみる。


 そしてあの学校でやっていくと決めた時、魔王に会ったら全部問いただすと皆で決めていた。ようやくその機会が訪れたのだ。


「「「…………」」」


 今度は仲間たちからも異論は出ない。落とし所としてはそこが限界だろう。まともにやりあって勝てる相手ではないのだから。


「うん?俗に言う魔王事件の報告は国連に提出済みなんだけどまだ発表されてないのかい?被害者の人数分きっちり収めたハズだよ。」


 ユウヤのカマかけはスルーして話を進める魔王。否定しないと言うことは当たりかと内心考えていたら、メグミが反応した。


「確かスカースカに書いてあったわね。把握に時間が掛かるとか。何でそんな事を?」


「さあね。だが何年経っても音沙汰ないって事は、余程都合の悪いデータでも紛れていたんだろうね。」


「ふざけるなよ!まるで他人事じゃないか!」


 適当にシラを切られてモリトが怒鳴る。だがもし魔王が演じているだけなら脚本を書いた者が、黒幕が居るのではと思考を進めていく。


(そういえば従業員がどうとか……ってことはやっぱり?)


 そこまで思い至った時に発せられた魔王の言葉にユウヤは動揺することになる。


「でもまぁ、理由を伝えるくらいなら別にいいよ。ただし、君達の本気を見せてもらおうか。」


「ど、どういう事だ?」


「オレが事実を話しても君達が素直に受け取るとは限らないだろう?きっと都合の良い真実とやらを主張する。恨みを持ってるなら尚更だ。コレで強制的に納得させる手もあるけど、あまり好きじゃないしね。」


 魔王は黒いモヤをおぼろげに出しながら、聞く準備が出来てないと伝えてくる。頭に血が上った状態ではロクに頭に入らないし、正常な判断もできない。暗にメグミとモリトを指してそれを伝えてくる。


「だから”本気”で掛かってきなよ。一汗かいて解ることもあるかもしれないし。見どころが有ればそれだけ詳しく教えると約束する。手加減するから、もしかしたらオレを倒せるかもしれないよ?」


「ユウヤ、これはチャンスだ!この機を逃してはならない!」


 元より戦う気満々なモリトは大賛成。あわよくば終止符を打とうと考えているが、倒した後の事を考えてない辺りだいぶ冷静ではないように見える。


「そうよ、私達の過去と未来がかかってるんだから!」


 メグミは村ごと消された挙げ句、酷い精神状態に追い込まれた過去との決着。そしてユウヤとの新しい明日を望んでいる。


「そういう事なら望むところよ!こちとら勝手に連れてこられて何年も待ったのだから、一発カマしてあげるわ!」


 ヨクミもこの6年半の生き辛さを思い起こしてムカムカしてきたのか、戦意がうなぎのぼりである。


(え?このタイミングでシモネタ?)


 対する魔王は本当にしょうもない感想を抱くダメ男である。



「まぁ、ここは1つやってやるか!」



 仲間の戦意にやる気を出したユウヤ。彼らとならなんとかなるのではないかと思い始める。


「オレ達はパスするぜ。親の仇だし洗脳は勘弁だけど、一応は恩人だしな。」


「お、おいソウイチ!?」


「悪いなユウヤ。オレは既に彼と一戦交えて、一緒に生存者を助けて納得しちまったんだ。親父のことも……まあそれなりにはな。」


「私達も、お……魔王さん居なかったら人間やめてたし……」

「もうあんな戦いはコリゴリです。ユウ兄さん達、ごめんなさい!」


「メグミには悪いけれど……戦いたくないわ。その為の脱走計画だったわけだし、倒すどころか逆にお世話になってしまったもの。」


 ソウイチチームのメンバーが次々と戦闘を辞退する。


「ミサキ……」


「あー、マジか……なあ、魔王的には良いのか?」


「構わないよ。彼にはハチミツの恩もあるしね。」


「あの時のはやっぱりあんただったんだな。」


 魔王は簡単に了承すると指を軽く振りながら離れた場所にチカラをとばす。


(もう彼らのコトは知ってるし、楽できる所は楽しないと。)


 魔王はやはり何か企んでいるようである。でなければせっかく回避させた戦闘をワザワザ行う必要はない。それこそ洗脳めいた一撃で納得させて終わりである。


「観戦席を用意したから、適当に寛いでてよ。」


 魔王が指差した場所には、いつの間にか窓付きの小屋が建てられて

 いた。


「無理強いしても仕方ねえしな。んじゃお前らはそこで寛いでいてくれ。ドカンとデカいのをカマしてくるぜ!」


「私の村を、家族を……心を抉ったお返しをさせてもらうわ!」

「両親の正義を、僕が取り戻す!」

「行くよフユミちゃん!魔王をキョーイクしてやるんだ!」

『ほどほどにね。』


「みんな、無茶すんなよ。」

「ナカジョウの流れを汲む魔王の技、見せて貰おうじゃない。」

「どっちを応援したら……」

「どっちも頑張って――!」


 ユウヤチームが意気込み、ソウイチチームは観戦席へ移動する。そこには冷たい飲み物と塩味のポップコーンが4人分置かれていた。


「変な所で気が利くんだな……」

「わお、ビール頂き!」

「白いのいっぱいよ!ポリポリ。」

「しかも出来たてね!ポリポリ。」


 観戦モードに入った彼らとは対象的に、ユウヤチームは武器弾薬チカラの準備を終える。今回は最初からチカラを全開だ。



「準備はいいか?魔王を打ち倒す勇者のチカラ、見せてみよ!」



 大げさにマントをはためかせながら、現代の魔王が迎撃体制をとる。



「正念場だ!油断せず集中していくぞ!」



「「「了解ッ!!」」」



 こうして現代の勇者対、現代の魔王の戦いの火蓋が切って落とされた。



 …………



「まずは一斉射!」


 ズドドドドオン!パンパンパン!バシュバシュン!


 ダダダダダダダダダッ!!


「おおおおおおおお!」


 ダダダダダダ!ダダダダダ!



「ほう、勇ましいね。」



 まずは様子見がてらに遠距離からの弾幕を、と各々が銃を撃つ中でモリトは水の鎧の蒸気噴射を利用して一気に距離を詰めた。


 魔王は初手の弾幕もモリトのバースト射撃も軽く身を捻っただけですべて躱し、次に襲い来る水を纏ったコブシは敢えて手の平で受け止めるつもりのようだ。


「丸腰とは舐められたもんだね!」


 ドゴドゴドゴドゴッ!


「君にはそう見えるようだね。」


「何!?ぐはっ!」


 水圧ラッシュを全て受け止めた上でモリトの目の前から消えてみせ、水の鎧に手を突っ込んで無造作に彼を掴んで床に叩きつけた。


(うぐぐ、鎧を意にも介さないだって!?)


「異世界の魔法形態と自身のチカラの組み合わせか。ウプラジュと地球の架け橋とでも言うべきか?」


(こいつ!解析している!?)


 パン!パンパンッ!


「おっと?」


「モリト!抜け駆けするから!」


 赤黒いメグミが拳銃を撃ちながら近づき、回し蹴りをバックステップで避けさせる。即座に黄色く光る絆創膏をオデコに貼り付けて、モリトを立たせた。


「あいつ、他人の技を――」


「相手の前で何を悠長な。」


 ズガガガガガンッ!


「うあああああ!」

「きゃああああ!」


 殆どノーモーションで取り出したアナコンダを連射して2人は大きく後方へ吹き飛ばされる。


「メグミ、モリト!」


「大丈夫か!」


 ズドドオン!ズドドオン!


 ヨクミが近寄り回復魔法を掛け始め、ユウヤが3人を庇うように立ってショットガンで牽制する。もちろんその散弾は全て避けられてしまう。


「チッ、まるで幽霊みたいに抜けやがって!」


「”イズレチーチ”!!ってなによこれ!?」


 銃撃を食らった2人は、その着弾部位が燃えたり凍ったり痺れたりと散々な状態だった。


「モリトは……”アピラーツィア”!」


 食らった弾数が多かったモリトには蘇生魔法を掛けていく。


「とある土着神へ対抗して作った銃だし、中々のモノだろう?」


 魔王はリボルバー拳銃のリロードをして見せながら、アナコンダの解説を入れてくる。


「この、だったら!」


 解説中にユウヤもリロードを終えて、今度は速度低下を最大にして魔王の後ろへ回り込む。


「くらいやがれ!」


 ズドドドドドドドオン!


「何をするのかと思えば、君の早さはその程度かい?」


 ドゴッ!


 突連撃が一通り終わるまで待っていた魔王。ユウヤの後ろに現れて蹴りを放つ。ミルフィの時と同じく、ユウヤの魔眼は効いていない。


「そんな!?があああああああッ!」


 時間を止められていた散弾の流星群の中に蹴り飛ばされ、吹き飛ぶと同時にそれを解除。空中で蜂の巣にされてモリト達の方へ転がるユウヤ。うめき声を漏らしていることから死んではいないようだ。バトルスーツの防弾性能のおかげだろう。


「ユウヤ!今治すわ!」


 ピカアアアアアア!


 復活したメグミが赤黒をしまって黄色い光を照射する。


「ふんふん、個性的なメンバーだがあまり強みを活かせてないね。強いて言うならその粘り強さを武器に生き延びてきたか。」


 ソウイチチームと比べると爆発力に劣るユウヤチーム。回復手段を持つ彼らは、失敗から学んで粘り強く勝つスタイルと判断する魔王。



(この感じは懐かしいね。立場は逆だったけど、オレも一応は仲間と泥臭い戦いをしてたよなぁ。)



 魔王は9年前の戦いを思い出していた。フジ樹海のナイトの本拠地から妙な決戦場に飛ばされて、ボスと副官相手に7人で戦った記憶。


(サイトのよりすぐりメンバーと付いてきた不死鳥使いと……)


 不死鳥使いというのは元ナイトの若者で、電撃使いのウデンの部下だった。サイト時代の魔王がケーイチに風穴開けられた後、ウデンに拾われた時に世話してくれた男だ。彼は当時の○○○○にいたく同情・共感して付いていくことになった。


 ウデンはそれに許可を、というより命令に近い指示を出す。


 ○○○○の当時の危うさから、サイト内で孤立させてはダメだと判断したからだ。

 本当は是が非でもナイトに引き入れたかったが、女絡みでサイトに固執する○○○○の意思を曲げる事は出来なかった。

 サイトにはナイト所属を隠して入隊。炎の鳥をポンポコ打ち出すその強さで最終決戦メンバーにまで選ばれた経緯があった。


(あの後彼は元気にして……懐かしんでる場合じゃないな。)


 脱線した思考を元に戻すと、ユウヤ達は再び立ち上がった所だった。



「あの時も7人。君達も人外合わせて7人。因果の巡りを感じるよ。」



「痛てて、なにをワケのわからないことを!」


 モリトはズタボロになったバトルスーツを再度水の鎧で包んで銃を構える。


「次はこちらの技を披露しようか。」


「「「!?」」」


 急に4人のど真ん中に現れた黒づくめ。チカラで作ったフックを空中に引っ掛けて上空へと射出する。


「か、身体が伸びてるうう!?」


【エラー。空間の計算が合いません。】


「!?みんな、散らばれ!」


 ユウヤが危険を察知して散開の指示を出すが、上手く動けない一行。



「W・スマッシャー。」



 パチンッ!ブワワワワワワワアアアアアアアアア!!



 1人だけ離れた位置に移動した魔王が、指パッチンと同時に技を発動させた。今度はシオンが指パッチン.wavの再生ボタンを押している。



「「「ギャアアアアアアアア!」」」



 断続的に襲い来る空間の歪みの反動の波動。その回避も防御も不可能な範囲攻撃にただただ晒され続けるユウヤチーム。


『くっ、風の防御が効きません!』

【計器上は正常なのにエラーだらけです!】

「あわわわ、私のワープも発動できない!」


 人外組も空間そのものが揺らされて対処が出来ないようだ。


 やがて波が収まると、全員床に這いつくばって気絶寸前まで追い込まれていた。


「なんてパワー、だ……」

「ケホケホッ今までの敵の比じゃないわ……」

「うぐぐ、トンデモが過ぎるわよぉ。」

「もう少しお手柔らかに願いたいぜ。」


 モリトは威力にビビリが入り、メグミもその強さを実感し始めた。ヨクミは目を回してぐってりし、ユウヤが手加減を要求する。


「おいおい、まだ次元バリアも使ってないのに。それにトキタさんは5年前、今の威力に片膝つくくらいで耐えてたよ?その彼の教え子ともあろう君達が、この程度で音を上げてもらっては困るなぁ。」


 魔王はヘラヘラと煽りながら立ち上がるのを待っている。


「くっ、舐めやがってぇ……。みんな、気力を振り絞れ!」


「ここは私が……はあああぁぁぁあああアアアアア!!」


 メグミは全身から黄色い光を放って自分と仲間を包んでいく。


 怪我が治り痛みが消え、光が収まっても全員ほのかに黄色く輝いている。


「継続治癒も追加よ!みんな起きて!」


「やるじゃないか。そうこなくてはね!」


 全員が起き上がってメグミに礼を言う中、魔王は嬉しそうに拍手する。


 勇者と魔王の戦いはまだ始まったばかりである。



 …………



「グビグビ、ぷはー。いけー!そこだー!ポリポリ。」

「ポリポリ。そこで右!後ろ!クピクピ。」

「ポリポリ。そこで水を、ああああ!回復を!!」

「お前ら、楽しんでるな。ポリポリ。うわー、飛んでるなぁ。」



 一方観客席ではソウイチチームが思いの外くつろいでいた。


 みんなでポップコーンを食べながらジュースを飲んでいる。ミサキは唯一の成人なので瓶ビールをソウイチに注がせている。


 今、戦況は芳しくない。連携を意識して魔王に挑むも、すべての技に効果が見られない。

 今はヨクミのトルネード・アッパーが発動する直前に向きを変えられ、空高くユウヤが舞い上がったところである。


「ほら注いで。世界一君はどう思う?コレ。」


「その呼び方はやめろ。魔王の戯れ、茶番だな。色んな意味でチャンスではあるかもしれないが、そんな美味い話はない。」


 こぽこぽとグラスに黄金色の液体を注いで、そう評する。


 魔王の詳細とあわよくば退治のチャンスではあるが、充実した観客席を用意しておいて真面目な戦いなんてあったもんじゃない。


「わぁ!モリ兄さんの冷気攻撃、格好いいね!ポリポリ。」

「でも小さい扇風機で跳ね返されてるよ!ポリポリ。」


 アイカとエイカはポップコーン塩味をパクパク食べながら楽しそうである。モリトのD・ダストをUSB接続タイプの小型扇風機で弾く辺り、魔王は遊びが入っているのが解る。普通なら素直に避けるなり次元

 バリアで防ぐなりすればいいだけなのだ。


「ま、妹分達が楽しんでるのは良いけどさ。何考えてるのかがやっぱり分かりづらいよな。ポリポリ。」


「今度はウチワで……砂漠の砂嵐でも送ってるのかな。グビビッ。」


 ウチワで煽ぐ度に空間の穴が開いて砂漠が一瞬見える。


「よく気がつくなあ、お前。うわ、エグっ!今度はオレの重力操作のモノマネか?」


「それプラス、ヨクミさんの制御も奪ってるわねアレ。」


 ヨクミのパトークの制御を奪って、大型プールによくあるウォータースライダーを作って4人共流されている。終点まで降りたら後方からアヒルのおもちゃが流れてきて全員の頭にポコポコ当たっている。


「「すっごーい!あんなチカラの制御、初めて見たよ!」」


「もしかして、色々見せて何かを教えようとしてるのか?モリトまで水で流すって相当……っと、もう無くなっちまったか。」


 双子が目を輝かせてはしゃぐ姿を見て、ソウイチはそんな感想を抱く。そのままポップコーンの紙コップへ手を入れるが、既に空っぽだった。


「はいはーい、おかわりはいかが?今度はキャラメル味ですよー。」


「飲み物もあるぜー!」


 突然後ろから声を掛けられて振り向くと、銀髪メイド服の2人が追加の飲み物とポップコーンを持って現れていた。


「ありがとう、頂きますわ。」


「「ありがとうございます!」」


「お前ら遠慮しねえのな。」


「なに言ってんだよ。ガキが遠慮なんてするもんじゃねーぞ!」


 クリスがグイグイと飲み物のグラスをソウイチに押し付けてくる。


「見た所オレのほうが年上だろ……いや、はい。頂きます。」


 身長的にもお肌的にも実際も年下のクリスだが、その凶悪な膨らみの揺れに気圧されて大人しく受け取る。


「ふん、やらしい男。これだから世界一のおサルさんは。クリスさんも気をつけなさい。きっとオレの重力操作でその胸を、ぐっへっへ――とか妄想されてるわよ。」


「勝手に変な事言うな!つい目がいっちまっただけだろう!?

 クリス、違うからな!?オレは――」


 図星なのかどうかは知らないが、ソウイチは焦って言い訳を始めた。


「安心しな、男の生態は知ってるつもりだぜ。手を伸ばしたりしたら兄さん仕込みのエグいのが発動するけどな。」


「旦那はああ見えて独占欲が激しいですからね。ふふふ。」


「そ、そんなことしねえし……。それよりあんたの旦那は何を考えてこんな事をしてるんだ?」


「良い質問ね。理由は色々あるわよ?でもそうねぇ……やっぱり彼らを納得させるのが大きいのかな。」


「それはまぁ解るけど。モリトとメグミは特に殺気だってたし。んで他の理由は?」


 ソウイチは追加で理由を聞こうとする。魔王のあの態度からして、ただこちらに利益をもたらすだけではないと踏んでいるからだ。しかしそれはクリスが一喝して打ち切られる。


「オトコが小せえこと気にすんじゃねえよ。どんと構えてりゃあその内分かるってもんだ!」


「ふふふ。それでは失礼するわね。」


「おかわりしたくなったらまた言えよ!」


 来た時と同じく空間に穴を開けて消える2人。お揃いの銀髪がなびく後ろ姿はとても美しかった。


「小さいの気にしてるの?」

「見たこと無いだろうが!別に小さくはねえハズだ!」

「肝っ玉の話よ。いやらしいお猿さんね。」

「こいつ……」


「「ポリポリ。おいしー!」」


 双子はソウイチ達のいつものケンカは気にせず、ポップコーンを頬張っていた。



 …………



「ハァハァ。さすがに強いな……」


「ゼェゼェ。ていうかあいつ。戦い方がメチャクチャよ。」


「何をしてもその上を行かれてて手が出しづらいわね。」



 モリトとメグミは肩で息をしながら魔王を睨みつけている。

 ヨクミはどんな魔法と連携させても訳の分からないカウンターが返ってくることに尻込みしていた。


「小道具に惑わされるな!逆に効果を予測できるハズ!メグミとモリトは殺意を抑えるんだ。連携が単純になって見抜かれてる。せめていつも通りに堅実に頼む!」


 ユウヤはチームを機能させようと問題点をあげている。


(とはいえ精神干渉で全部読まれてるんだろうけどな……。フザけた小道具はただの煽り。バナナの皮でアイスバーンとか分かっていれば対処は出来たし……)


「さすがリーダーだけはあるね。よく見て考えている。」


「チッ、やっぱりバレバレか。」


「だが重要なのはそれを知った上でどう動くかだ。さあ、お手並み拝見と行こうじゃないか。」


 魔王は手でくいくいとジェスチャーをして挑発している。


「どうせバレてるんだ!基本に戻って全部の連携を試すぞ!」


「「「了解!」」」


 ユウヤチームは再び魔王に挑戦する。


 モリトが各種手榴弾で牽制し、ユウヤが素早く敵を無力化していく。漏らした敵の攻撃をメグミが回復し、範囲魔法をヨクミが放つ。


 これが彼らの基本の戦い方で、状況に応じて役割が変わる。

 それを片っ端から試してみるユウヤチームだが、どれもあっさりと崩されては吹き飛ばされる。


 そうして10分が経過した辺りで魔王が気怠げに口を開いた。



「うーん……動きはマシになったけど、こんな物なのか?」



 魔王は律儀に相手をしていたが、その声色はトーンダウンしている。最初に比べて明らかにつまらなそうにため息もつきだした。


「くっ、まさに化物だぜ……」

「あの顔、腹が立つわね!」

「何か、なにか突破口は!」

「な、何も通じないなんて……」


 対してユウヤチームはほぼ満身創痍である。今までの戦闘と違って攻撃が全く当たらない。それだけで疲労はどんどん蓄積されていく。


「フツウの相手ならアレでも良いのかもしれないが、オレが見たいのはそんなんじゃ無いんだよ。例えばユウヤはそのナイフを何故使わないんだ?メグミだってもっと積極的に前へ出てもいいし、モリトとヨクミは可能性のカタマリだ。サポートする3人も合わせれば色々出来るだろうに。もしやオレを油断させる作戦なのか?」


「「「ッ!!」」」


 ヤレヤレといった感じで呆れる魔王に苛立ちと焦燥が見えるユウヤチーム。そうは言うがケーイチに教わった考え方や動きは出来ているつもりだ。実際今まではそれで生き残ってきた。


 だが魔王は今までとは格が全く違う。お話にならないレベルの実力差が露呈しただけだった。


「…………」


(やべえ。これでは倒すどころか知りたい事も聞けない雰囲気だ。だが対魔ナイフは効かない上にカウンターされたら致命的だ。)


「言われっぱなしは癪だけど……あんな戦い方が出来るなら苦労しないわよ!」


「ミサキみたいな絡め取り方をされるし、どう対処して良いかッ。」


「これ、みんなが切り札使っても勝てる気がしないんですけどー。」


 士気が下がった彼らは諦めが入りつつあり、これ以上はまともに戦おうという気が見られない。


「今まで何を見てきたんだ。そんな人間的な、常識的な考えにしか至れないのか?少しは世界の見方を学んで貰えるかと期待したんだけどな……。それともオレが本気を出せば少しはやる気になるか?」


「ほ、本気だと!?」


 不穏な言葉に一同は一気に警戒レベルを上げる。魔王はアナコンダを右手に持ち、精神力を高めていく。


「この時点で何も攻撃してこないのか?トキタさんならオレのコレについて絶対教えてると思ったんだけど、意外だね。」


 魔王の右手が見る見る巨大化・変形して金属でできた砲になる。二の腕にエネルギータンクが作られ肩や背中には謎金属の板が重なり、それを羽根に見立てた翼のようなシルエット。


「あの技はまさか、星をも砕くという!?」


「ナイトとの決戦で使ったっていうアレ!?」


「みんな、一斉攻撃!あれを撃たせるな!」


 焦りだす一同に向けてその右腕を突き出し溜め込んだエネルギーの射出準備に入った。


「残念、時間切れだ!A・アーム、発射っ!!」


 カッ!!


 光が走った直後、ユウヤチームはなす術なく飲み込まれてチリも残さず消し飛んだ。



 …………



「ハイ、次!たああああ、ハイ次の方!たあああ!」



 10月5日。あの世の巨大裁判所の建物内にある、医務室にて。裁判ルーム08の閻魔様直属の医師、モモイロジャック・アケミは目の回る忙しさだった。


 あの世製の絆創膏にチカラを籠めては、変質・損壊した魂に貼り付けて新たな生命力を吹き込んで元の形に戻している。


 しかしいくら治療しても待合室の魂が減る様子は無い。

 ソファーや通路だけでなく、天井まで魂がひしめいているのだ。


「アケミ、少し一息つこう。いくら自分も治せるとはいえ長丁場なのだ。心が保たぬぞ。」


「閻魔様!でもこの後もたくさんの患者さんがいらっしゃる予定ですし、少しでも早く皆さんの苦痛を和らげないと!ハイ次の方!」


 アケミは手を止めずに休憩の誘いを辞退する。

 現在ゾンビ騒ぎの起きた街から移動してきた魂を治療しているのだ。それは万を超える数になっているが、他の裁判ルームの閻魔や医者達は普通に自宅の寝床で寝ている。

 現代の魔王に関係する者は全て閻魔08が担当する事になっているからだ。


 だが別にいじめではない。過去に魔王が地獄で暴れた時に、彼とまともに話ができたのがこの閻魔様だけだったのだ。それ以降も良好な関係を築いていることから、魔王担当になってしまった。


「いや、もうそこまで増えないだろう。マスターは対策すると約束してくれたからな。」


「そうなんですか?なら安心ですけど。あの街って7万人くらいいるのにどうするんでしょうね?」


 現在1万5千人ほどがあの世に来ているが、その殆どが魂に異常をきたしていた。前日20時過ぎにクレームを入れたら結界でせき止めてくれたが、1人で治療するにはなかなか無理がある人数だ。


「生存者はおおよそ1000人も居ないだろう。残り5万超の魂については彼ならなんとかするハズだ。だからまずは休むと良い。」


「こんばんはー、お届け物でーす!」


「死神さん!?ってことは追加の患者さんですか!?」


「いやいや、マスターの結界のお陰でピタリと止まったよ。でもほら、例の連中の魂がお急ぎ便で飛んできたからさぁ。」


 黒ローブの死神が手渡して来たのは4つのクリスタルだった。

 それぞれは30cmほどあるそれを机に置く。


「まあ大変!閻魔様、またご協力お願いします!」


「うむ。代わりに終わったらお茶に付き合ってもらうぞ。」


 閻魔様は手鏡を取り出してキラリとクリスタルを映し出す。

 アケミは閻魔様の鏡を確認すると、クリスタルにチカラを送って内部の魂を修復しながら、自身のデフォルメキャラのイメージを植え付けてアドバイスを同梱する。


『あーーん、惜しいわ!せっかくここまで来たのにね~。でもマスターさんと交渉まで行けてるから後少しよ!』


 ミニアケミがコロコロと表情を変えてクルクルとジェスチャーを交えながら助言をしていく、


『マスターさんはねぇ、ユウヤ君達の本気の成長が見たいんだと思うよ。だからまずはしっかり戦ってみる事ね。ゲーム的な言い方をすれば体力を半分は減らしてみるとか。』


 アケミは彼らがゲームも嗜んでいた事を踏まえてそんな言い方をしてみる。


『その後は次元バリアとかも使って来ると思うから、なんとしてでも生き延びてバリア対策を練ると良いわよ!』


 マスターの考えそうな事を予測して近い未来の助言も封入していく。


『はい、ヒントはここまで!みんな、頑張ってね!』


 最後にミニアケミをくるっと回転させてポーズと可愛い笑顔、締めのセリフもキメてチカラの流し込みを終了する。


「終わりました。ありがとうございます!」


「うむ、ではこの魂は送り返すとしよう。しかし回を重ねる度にポーズの可愛さに磨きが掛かっていくな。」


 閻魔様が空間に穴を開けてクリスタルをポイポイと放り込み

 ながらミニアケミの感想を言ってくる。


「きっと可愛い教え子に良いカッコしたいんですよ。」


「も、もう!それは良いですから!」


 死神さんにまでからかわれて赤くなったアケミは、お茶の準備で席を外すのであった。



 …………



「戻ってきたか。魔王を打ち倒す勇者のチカラ、見せてみよ!」



 大げさにマントをはためかせながら、現代の魔王が迎撃体制をとる。


『ユウヤ君達の本気の成長が見たいんだと思うよ。だからまずはしっかり戦ってみる事ね。』


「「「これは、アケミさん!?」」」


 再び異次元空間に戻ってきたユウヤチームは、天啓だか電波だかのアドバイスが今までよりハッキリ聞こえていた。


「正念場だ!!全て以上の全てを出し切るぞ!」


「「「了解ッ!!」」」


「それでいい。己の心から生まれた技を、存分に披露して見せるが良い!」


 魔王は”保険”が上手く機能した事を悟ると、ニヤリと口元を歪めて待ち構える。


 そう、水星屋で弾薬の複製をした時に仕掛けておいた保険とは、あの世で死に様を検分して直前からやり直させるというモノ。俗に言うリトライ又はコンテニュー機能だった。


 そんな事をすれば代償が高くついてしまうのだが、あの街の空間が歪んでいたからこそソレを隠れ蓑にして使用していた。

 現在はそもそも世界の外側の混沌空間なので、勝手は違うがほとんど気にせずとも良い状況だ。


「あ、戻ってきた!またやるみたいだよ!」

「でもポップコーンの残りが――」


「「はい、お待ちッ!」」


「「わー!ありがとうございます!」」


 タイミング良くおかわりを持ってきた○○○とクリス。アイカ達は大喜びだ。この空間では保険が発動しても、観測者の認識は連続していた。


「なあ、これはどうなってんだ?」


「旦那の仕込みね。あの世でアケミってお医者さんに治療してもらって戻ってきたのよ。お陰でみんなやる気になったみたい。」


「「「あの世!?アケミさん!?」」」


「でっけえ声出すなよ。出すなら応援でもしてやってくれ。」


「あはは……もう驚かない気でいたけど、マスターさんは本当人間離れしてるのね。」


「そこが格好いい所なんだよ。あんな奇怪で圧倒的なチカラに助けられたら一発で惚れちまうってもんさ!」


 ミサキの呆れ顔にドヤ顔で返すクリスと、うんうんと頷く○○○。


「ふーん。そういうもんかね。」


 ソウイチはチラリとミサキの表情を伺って目が合うと、即座に逸して観戦に入る。


(あらあら、可愛い反応しちゃって。)


 魔王に助けられたミサキの様子が気になってたのが丸わかりの仕草に、彼女は少しいい気分になった。



 …………



「でやああああああ!」



 ユウヤは対魔ナイフを腰から引き抜いて魔王を何度も斬りつける。


「ようやく抜いたね。その気になってくれて嬉しいよ。それとも何度死んでも大丈夫と判ったからかな?現金だね。」


「うるせえ!」


 軽く煽りながらヒョイヒョイと避けていく魔王。ユウヤはナイフを大きく振り上げて――。


「D・フィンガー。」


「ぐっはあああっ!」


 一瞬で懐に入られて掌底を腹に当てられ、その手のエネルギーを爆発されて吹き飛ぶユウヤ。その際に対魔ナイフを手放してしまう。


「そう簡単に手放してはあぶな、危なッ!!」


 ナイフは床に落ちること無くメグミがかっさらって魔王を低い位置から斬りつける。


「でやっ!たあっ!はあああああ!」


「その迷いの無さ、良いね。こうでなくては。」


「その余裕の顔がいつまで持つかしらね!ッ!」


 ズガガガン!


「くうっ!」


 唐突にアナコンダを構えられて横に転がるメグミ。だが足を掠めた弾丸が彼女のバトルスーツを引き裂く。しかし――。


「こんな程度で!」


「ほう、さっきの助言をさっそく実践してくれるのか。」


 メグミは構わず魔王へ切りかかる。彼女のバトルスーツからは黄色い光が漏れていて、あらかじめアケミ流治療術の絆創膏を貼り付けておいたのだと判る。


 プシャアアア……


 彼は後ろへ下がりながら避け続け、再度銃を構えたところでメグミが煙にまみれ始める。腰にスモークグレネードを付けたまま攻撃して来ているのだ。


「発想は悪くないな。」


 ズガガガガン!


「さすがの魔王も視界が悪ければ外すのね!」


 全弾外れたのを確認してメグミは突きを繰り出し右に避けた魔王に足払い。それを軽くジャンプで避けてこちらに掴みかかろうとした魔王の腕に対して隠しナイフを突き立てる。


「とどめよ!」


 メグミが対魔ナイフを胸に向ける。魔王は銃を構えるが弾は出ない。


「弾数くらい把握しとくんだったな!」


 ユウヤが後ろから魔王の後頭部に向けて光速ストレートを放つ。その勢いでメグミの構えるナイフに突き刺そうという魂胆だ。


 しかし突然魔王の姿が消え、ユウヤの後ろに現れる。


「その言葉をそっくり返そう。」


 ズガガガガガガガガガガン!


「どわああああああ!?」


 ユウヤは背後からまるでマシンガンでも食らったかのような衝撃と痛みをうけて、前のめりに倒れ込む。


「やばっ!?」


 メグミはナイフのチカラと構えを解いて、慌ててユウヤを受け止めた。


「ちょっと隙きを見せればすぐ調子に乗るのは良くないね。オレの銃の弾数は無限だって習わなかったのか?」


「だ、だって普通にリロードしてたじゃない!」


 メグミは思わず抗議してしまう。授業では無限リロードが自動で発動すると習っていたが、今回は違うのかと思わされていた。


「あれ、うまくいくと気持ちいいからね。たまにするんだよ。」


「ぐぬぬ……」


「さて、彼の回復はそろそろ済んだかい?次はこちらから――」



 メグミは腰にある内容量僅かなスモークグレネードを魔王の足元へ投げてフラッシュバンも上空へ投げる。意識が戻ったユウヤがメグミを抱えてその場から離れ、直後に閃光が照らす。



『「「A・エクスキューション!」」』



 ヒュゴォォオオオオオオオオオオオオ!!



 そのフラッシュバンの効果中に、冷気の竜巻が魔王の位置を通り抜けていった。モリト・ヨクミ・フユミの合体魔法だ。


 スモークは完全にかき消され、閃光が収まるとそこには銃を構えた氷像が立っていた。



「「「やったか!?」」」



 全員思わずフラグ臭全開で魔王の撃退を期待する。

 ゴクリ。思わず生唾飲んで見守る中で、最初に踏み出したのはメグミ。その手には対魔ナイフを持って氷像へ近づいていく。


「死亡確認は私が頂くわ!」


「くっ、出遅れたッ!」


「こら、モリトはコレでも飲んでおきなさい!」


 モリトが悔しがるが大半のチカラを放出してフラフラだ。ヨクミが特製強壮薬の瓶を口につっこんでおく。


「これでトドメよ!」


 ヒュン、パキイイイイン! シュゥゥゥゥン……。


 凍りついた黒づくめの氷像の前まで来たメグミは、対魔ナイフのスイッチを入れて横薙ぎに一閃。その後も何度も切りつけて念入りに分解していった。


「これで終わりね。色々聞く前に殺してしまったけど……」


「終わった、のか?」


「ちょっと!?これって私達、帰れなくない?」


「ごめんね、ヨクミさん。フユミさんも……でもあいつのコトはどうしても許せなくて。」


「それもだけど、そうじゃなくて!今の私達全員が、よ!」


「「「あ、あー……どうしよう?」」」


「勿体ないなぁ。この氷像、せっかく博多の氷職人に頼んだモノなのに。うわ、冷たっ。武器のバリアごと凍ってるじゃん。」


「「「!?」」」


 黒尽くめが何でもないように現れて、アナコンダを拾う。


「な、なんで!?」


「いやせっかく頑張って合体技とか撃ったなら、手応えというかリアクションとか欲しいんじゃないかなって。だから金曜日の朝の氷職人に会いにいって、複製した衣装をマネキンごと凍らせて――」


「そうじゃないわよ!何でアレで無傷なの!?」


「そういう相手なんだよ。さて、準備運動はここまで。そろそろ実力も見たいし……これでやりあおうじゃないか。」


 ユウヤ達の心が折れそうなセリフとともに魔王が手をかざすと、じんわりと彼らの身体が輝き出す。


「これは……気力が湧き上がる!?」


「魂覚醒。ここまで塩を送ったんだ。失望させないでくれよ。」


 ブゥゥゥゥゥン!


 魔王は自身の周りに六角形のチカラを幾つも配置した。

 だがそれらはすぐに見えなくなる。不可視状態にする理由は細かく言えばいくらでもあるが、単純にぼんやり光って周囲が見づらいのだ。



「あれは!あれが悪名高い次元バリアか!!」



「その通り。これを突破する方法は”ほとんど”無い。君達は無事に破れるかな?」


 ニヤリと笑う魔王は宙に浮いて更に精神力を高めていく。


「各自全力攻撃!とにかく撃ちまくれ!」


「「「了解!」」」


 全力の連携がおちょくられるだけで終わったユウヤチーム。それでもここまでお膳立てされて立ち止まるわけには行かない。


 眼を輝かせ、赤黒を纏い、低温水の鎧を形成して、水と風を顕現した彼らは魔王へと向かっていった。。



 …………



 ズドドドド……。ダダダダダカタタ……。


 ガガガガガガイイイン!


 ユウヤとモリトのオート射撃は全てが不可視状態の次元バリアに

 阻まれて落下していく。着弾したときだけは白い6角形が見えていた。すぐに弾切れするが、まずは効果の確認なので問題ない。


「はあああああ!」

「たあああああ!」


 メグミは直下からほんのり赤黒を足に溜めて跳躍、5m程上の魔王に斬りかかる。同時にモリトがライフルを放って蒸気を噴出。魔王の正面から水圧ラッシュをかける。


 ガイイイイイイン!ガガガガガイン!


「うんうん。色んな可能性を1手で試す。なかなかいい傾向だ。」


 魔王は余裕で全てをバリアで防ぎ、その確認方法を評価する。


 その後ろではメリーさんのワープで後ろに回ったユウヤが、光速ストレートを放ったが見向きもされずにバリアに阻まれる。


 魔王がチカラを溜めた両手を胸の高さまで上げた時、ヨクミが水竜巻を放つ。


「”ヴァダー・トルネード”!」


 シュバアアアアア!


「「てい!」」


 ユウヤとメグミは次元バリアを蹴飛ばした反動で水竜巻を回避。モリトと魔王が竜巻に飲まれていく。


「今更そんなものでは……ほう?」


「これならどうだああああ!」


 ガイイイン!ガガガガガガィィィイイン!


 モリトは”自分を狙って”放たれた水竜巻を受け取って鎧を強化。そのまま次元バリアへラッシュをしかける。


「3種のチカラの混合、悪くない発想だ。」


 ガガガガガッ!と次元バリアが殴られる度に白いチカラの壁が光り、徐々に氷が張っていく。


「どんな物でも防げるからこそ、お前を閉じ込められる!」


 モリトは後方の女2人から断続的にチカラを供給され、それを制御することで空中にもかかわらずラッシュを続けていられる。

 そして次元バリアはオプションは色々有れど空間の歪みの盾。攻撃を届かせるのではなく、その周りを氷で覆って閉じ込めてしまおうという作戦だった。


「M・スォーム。前回は見れなかっただろうから、今回はたっぷりと堪能してほしい。」


「モリト、うええええ!」


「ッ!?」


 ヒュゥゥゥン、ドゴシャアアアアア!!


 突如上空から1mほどの隕石が落下してきてモリトを襲う。彼は飛び退いて着地するが、その隕石によって次元バリアの3割程を覆った氷が砕かれる。


「くっ、これがあの事件の……はっ!?みんな、避けてくれ!」


 ヒュゥゥゥゥン……ドドドドドドドドゴッシャアアアアア!!


「「「うわああああああ!!」」」


 隕石は1つだけでなく、無数に降り注いでいた。魔王の上空には空間の歪みが発生しており、そこから大小問わず炎を纏って襲い掛かってくる。


 例の巨大隕石事件の時のような無茶なものではなく、あくまで対人仕様の範囲に手加減はされていた。相手が少人数の人間なので、引っ張ってくる隕石の大きさも小さいのを選んでいるようだ。一発一発が戦車砲を超えるのを対人用と言って良いかは別にして。


「ぶ、分解で!きゃっ!」


「やめろ、避けたほうが早い!」


 ユウヤは、隕石を迎撃しようとしたメグミを抱えて逃げ回る。地面に落ちた隕石は粉々に砕けて飛び散り、横殴りの暴力となって更に追い打ちをかけるが不思議と地面は傷一つついていない。


「あわわわわ……」


「ヨクミさん!」


 モリトはヨクミの側に戻って水と冷気で壁を作って防御に徹する。


「これは、今は防げてるけど……」


 チカラは気力さえ有ればいくらでも使えるが、無限に連続使用出来るわけではない。全力疾走すれば息を整えるのと同様に、精神力も時々整える必要がある。その時に現状のままだと生き残れる自信はない。


「どうした、これで終わりじゃないだろう?」


 今も降り続ける降石確率100%の中で、魔王は上空で煽っている。



「もう一度攻める!ヨクミさん・フユミさん、チカラを貸して!」



「『解ったわ!』」


「ユウヤ、これから隙きを作る!」


「おう!」



「”ヴァルナー・トルネード”!!」



 ヨクミが両腕から水と風を発生させてモリトを上空へ撃ち出す。空を飛ぶ彼は隕石を無視して真っ直ぐに魔王へ突撃していった。


 次元バリアが近づくと姿勢を変更、バリアを蹴り飛ばして上空の空間の歪みへと向かう。


「オレを踏み台にしたあ!?……よしっ。」


 言ってみたかったセリフの1つを言えて満足気な魔王。フザケているようではあるが、戦況は把握している。


「あーいう所は授業の通りだけど……油断はしない。」


「ええ、必ず一泡吹かせてやるんだから!」


 ユウヤはメグミを抱えたまま、その目で隕石の速度を押さえつつ避けて回る。そして隙きを作ると言ったモリトを信じて、徐々に魔王に近づいていく。



「ここさえ止めれば!D・ダストオオオオオ!」



 シュゴオオオオオオオ!



 冷気を空間の歪みに向けて発射するモリト。ここまでくると隕石の密度もかなりのものだが、絶えず供給されるフユミの風で自身の軌道を反らしながらの……まるで弾幕STGのような回避行動だ。


 モリトの冷気は空間の歪みに直撃して、その術式を支える次元バリアを凍らせる……ことは出来なかった。いくら放っても手応えがない。


「くっ、あれもバリアで制御してるわけではないのか!?うわっ、吸い込まれる!?」


 モリトは焦って空間の歪みに近づくが、身体が吸い込まれていく。歪みを越えるとその先はハッキリとした空間の穴が開いており、見渡す限りの宇宙空間だった。


「まったく、世話が焼ける。」


 魔王はモリトに追いつくと彼の身体をバリアで包んで引き戻し、M・スォームを解除した。


「発想は良いがもう少し相手の理論・理屈を考えて行動しないと、すぐに死ぬよ。」


 ドゴッ!


「ぐほあっ!!」


 モリトのバリアを解除して腹に蹴りを入れてヨクミの方へ落下させる。


「よくもおおおお!」


 30mはある高さまでユウヤとメグミが上ってきて魔王へと迫る。ユウヤの目で一部空間の速度を低下させて足場を作り、メグミの赤黒跳躍で上ってきたようだ。

 モリトの行動で結果的に隕石は止まったので、チカラの制御に集中できればこれくらいは可能だった。


「うんうん、だいぶマシになってきたね。」


 魔王は意味ありげに右腕を上げる。すると一瞬で黄色く目立つ重機が現れる。あの街の西の外れにあったアレである。


「うそーー!!」


「うげっ、マジか!!」



「ロードローラーだっ!!」



 ズゴオッ!と2人の頭上に重機が放たれる。その威圧感は間近で見るととてつもない。


「それ、使った方が負けるんだぜ!」


 精一杯の虚勢を張ったユウヤは今の足場を睨んで強く広めに固定すると、メグミを離して重機を睨んでコブシを構える。



「ミチオール・クゥラアアアアク!!」



 ズガガガガガガガガガガガガッ!



「そうこなくてはね。だが無駄だよ。君達は既に術中だ。」


 落下速度を下げた車体をこれでもかと殴りつけて押し返そうとするユウヤ。対して魔王の表情……は見えないが、声色は余裕がある。


 ブワアアアアッ!


 魔王の精神力が光り輝き、白い羽根が彼らの横をふわふわと舞い始める。車体の向こう側から聞こえる声は無視出来るが、精神力の高まりは無視してはいけないとユウヤは判断。メグミに合図を送る。


「ソレで頼む!」


「37ちゃん!」

【了解、この位置です。】


 バイザーに効率の良い攻撃場所が表示されて、そこへ対魔ナイフのスイッチを入れて突き立てる。


 ドシュゥ!シュゥゥゥゥン。


 ロードローラーが分解していき、残骸が地面にボロボロと落下する。


「まあ、そう来るよね。無理にオマージュを演じる必要はないし。」


 ガイイン!


「くっ、何だこれは!?」


 その分解された砂に突っ込んで魔王へ肉薄した2人。次元バリアに阻まれるが、それよりも魔王の姿に目を疑った。


 魔王は輝く翼を広げ、白い羽根を撒き散らして空を覆う。まるで物語の中の天使のような出で立ちだったが顔はモブのままである。


「綺麗、なのに……」

「不協和音ってのはこういうことか?」


「現実逃避は発想の転換に繋がるけど、失礼なのは相手の容赦を奪うよ。」


「37ちゃん!」

【この羽根全てがチカラの結晶。退却を推奨します。】


「くっ、掴まれ!光速キイイイイイック!」


 メグミを捕まえて次元バリアを蹴飛ばした反動で退避するユウヤ。



「S・スター。今回のは回避は難しいよ。」



 シュン、シュンシュンシュン……バッシュウウウウウウウ!



 チカラの結晶である羽根が幾つかずつ結びついてエネルギー体になり、そこら中にビーム光線が降り注いだ。


 ビーム光線の弾速は隕石とは比べ物にならず、空中のユウヤ達も地上のモリト達の周辺も一気に着弾して爆発を引き起こした。


「いててて……メグミ、大丈夫か!?」


 墜落して抱き合って地面を転がったユウヤ達。彼はその手に抱くメグミに声をかける。


「なんとか……回復を……ッ!?」


 メグミが回復の光を照射しようとした時、ユウヤの顔越しに空中に滞留している光の羽根を見つけた。それは先程自分達を叩き落としたビームの破片。爆発してバラバラになった羽根がこちらを向いていた。


「避けて!!」


 ヒュヒュン!カタタッカタタタタタ!


 2人でさらにゴロゴロ転がると地面に光の羽根が突き刺さる。


「チッ、2段攻撃ってか!」


「ユウヤ!一旦こっちへ!」


 モリトの叫び声の方を見ると、彼はヨクミを庇いながら歪曲した水の壁を作ってビームを屈折させながら耐えていた。そちらは2段目の攻撃はされておらず、魔王が意図的に自分達を誘導して居るのではないかと勘ぐる。


「早く行きましょう!」


 ピカアアアア!と光りながら急いでそちらへ向かうが負傷時にそこまで速度が出るわけでもなく、目立てば当然狙われれる。


 バシュウウウウウウ!


「ユウヤ!」

「そうだ、光ならコレよ!”ゼールカラ”!」


 ガシャアアアアアン!


 ユウヤの左後方に鏡が出現してビームを防ぐ。しかし鏡の方も砕け散ってしまった。防げたのは素晴らしいが、鏡と言うよりは普通に盾といった感じである。


「あれ?防げるものなんだ、それ。」


 だが魔王の方はちょっと驚いているようである。


「でも閉じこもっていてもどうにもならないよ。」


 バシュウウウウ、バシュウウウウウウ!


「ぐっ、さすがにきっついけど……」

「鏡を追加するわよ!”ゼールカラ”!」


 鏡も一応有効だったのでヨクミが水の壁の中に鏡を4枚設置する。

 ユウヤはその庇護下に入って息を整える。


 ガシャアアアアアン!ガシャアアアアアン!


「くうう、どうする?このままじゃジリ貧よ!」


 ヨクミは声が上ずりながら鏡の盾を出し続ける。すぐにモリトが水や鏡の角度を外側に弾くように調整する。だが攻撃を当てねば彼に認められないし、バリアを突破しなければ攻撃は通らない。


 次元バリアの対策を早急に考えねば、もうチャンスは無いかもしれないのだ。


「おさらいしよう。あれはチカラで編んだ複合装甲だ。歪んだ空間と精神干渉が混ざって何も通らない。いい案はあるかい?」


「…………」


「ユウヤ?」


 ユウヤは別の場所を見て沈黙していた。鏡の割れる音と爆発音が響き渡る。メリーさんが怪訝そうに声を掛けると慎重な声色でその言葉を口にした。



「いやな、もしかしたらオレなら突破できるかもしれない。」



「「「本当!?」」」



 彼の言葉に人間・人外問わず期待と緊張が走る。


「だた、みんなの協力が必要だ。頼めるか?」


「何でも言ってくれ!」


 ユウヤは理屈はソコソコに作戦を仲間に伝える。今やるべき事は行動する事。議論は後回しだ。


「大変かもしれないが頼むぜ!」


「「「了解!」」」

『【「了解!」】』



(さてさて。ヒントに気づいたみたいだし、これは期待出来そうか?)



 魔王もまた期待に胸を躍らせていた。実は攻略のヒント事体は大量にバラまいていた。だが普通の感性なら気づけないようなものばかりだ。


 魔王は敢えて彼らの、ユウヤの真意を読まずに待ち受ける事を選んだ。



 …………



「さあ、何を見せてくれるんだ?」



 魔王はS・スターを解除して上空からユウヤチームに問う。

 その間に息継ぎは終わったのか、またもや精神力が高まり空間に歪みができる。


(やっぱり。アレで空間の穴を隠してるんだな。)


 ユウヤは確信を得ると仲間に号令をかける。


「そろそろ始めるぜ!」


「ぬあああああああああ!」


 ピイイッカアアアアアアアアアア!


 メグミは全身から強力な黄色い光を放って周囲を照らし、継続回復を全員に掛ける。その際に魔王にもその光が届いて、次元バリアの表面に滞留する。


 それは目視で確認できる魔王の位置とは5mほどズレていた。


「うわ、見えてるのと違う位置じゃない!セコイわね!!」


 どうやら幻覚を見せられて居たらしい。こうなると今までの戦いもどこからどこまで本体だったのか怪しいものである。


「ヨクミさん!」


「わかってる、”パトーク”!」

『”S・ネード”!』


 ヒュゴオオオオオオオオオオオ!!


 嵐を巻き起こして魔王と次元バリアの移動を不可能に……は

 出来ないのでせめて位置の把握くらいは出来るように努める。


 ヒュゥゥン、ヒュヒュヒュゥゥン……ドドドゴッシャアアアアア!



「うおおおおおお!この中でならあああ!!」



 モリトは水と風の嵐の中で空中を器用に飛んで隕石を掻い潜り、魔王へ迫る。この中では水の鎧からも推進用蒸気も打ち放題なので継戦能力は上がっている。


 ガイイン!


 モリトは次元バリアに取り付いて、下手に殴ったりせずに冷気でメキメキと凍らせていく。


「1つ覚え、だね。これもチカラなんだ。そろそろ離さないと

 指が飛ぶかもよ。」


「!?」


 魔王の警告と同時にバリアは八角形になる。それだけではなく4角だったり球体だったり凸凹などに形を変えて氷を落としていく。


 モリトは掴む手こそ離したが冷気は止めていない。

 隕石が近づいてきても蒸気噴射で避けて、器用に魔王のバリアの周囲を飛び回りながら冷気を放出し続ける。


「このまま食らいついてやればっ!」


「ナイスだ!そのまま続けてくれ!」


「なかなか根性のある男だね。む?」


 ユウヤの声援の方をチラリと見た魔王。一箇所だけ次元バリアの様子がおかしい。凝り固まったハズの空間が微妙に歪み始めている。


 ピッカアアアアア!


 メグミはずっと黄色い光を出し続けながらユウヤと魔王の下へ近づいていく。その光の滞留で次元バリアの不可視化を無効にしてユウヤに知らせているのだ。


「あ、後もう少しなのに!」


 ユウヤは見えるようになったバリアを睨みつけて魔眼からチカラを

 送る。


 この空間はそもそも魔王によって作られている。

 S・スターの羽根がこの空間の床に刺さった事から、時間干渉系のチカラならバリアに干渉できるのではと考えたのだ。


 隕石は床を破壊していない事と一致するし、その排出口は歪みで隠されているのも技への干渉を防ぐ為と思われる。


 なのでバリアに色んなバージョンの速度低下を掛け続けるユウヤ。その効果は出始めているが、ほどく所までは遠く及ばない。


 隕石を避けながらの作業なので集中して一気にという訳にも行かないという側面もある。


「出力上げるよ!メグミ、37ちゃん良いわね!?」


「やっちゃって!」

【お任せします!】


「よっと、はあああああああああああああ!」


 メリーさんがメグミの頭上に乗り、その両手を機械部分に突っ込んだ。


【おおおお、見えます!見えますよ!】


 対魔ヘッドギアの性能が格段に上昇して、バリアの分析に入る37ちゃん。


「あ!きっとアレじゃない?」


【ええ、分かりました!精神干渉の方が敵意に反応して、ユウヤ君の精神力事体を弾いてます!】


「そういう事か。複合装甲ってのはやっかいなっ!」


 ドッコンドッコン落ちてくる隕石を、黄色く光るメグミを抱えて避けながら対策を考えるユウヤ。


(どうしたってチカラを使う以上敵意は出てしまう。なら仲間に頼る……みんな一杯一杯だし、メグミの赤黒じゃ余計にダメだよな。)


 ピンチではあるが、焦らずに考えを進めていく。


(あ、そうか!オレの敵意に反応するのなら……)


 ピンチでもまともな思考が、判断が出来るのは支えてくれる人が側に居るからだと思い至る。


「良いかメグミ。今から一緒にあいつにぶちかますぞ!」


「わ、私が!?でも私じゃその……」


「いいや、お前のチカラがカギだったんだ!いいか、オレの言う通りにしてくれ!」


「はい!」


 メグミは喜んで返事をし、ユウヤは指示を出す。その様子に気づいた魔王は隕石頼みではなくアナコンダで彼らを狙い撃とうとする。


「10年モノのバリアだ。そう簡単にはやらせないよ!」


「D・ダストオオオ!こっちだってやらせるつもりは無い!」


「むぅ。」


 モリトの冷気は次元バリアの表面を凍らせては砕かれている。彼からしては歯がゆいところだが、魔王からしてもやや鬱陶しく感じていた。


「あばばばばばば……」


「これで理論上は行けるはず!」

【ファイトです、メグミちゃん!】


 対魔ヘッドギアから人外2人の電流が走ってメグミのチカラの制御が上がる。ここにきて完全版ヘッドギアと同じ理論でのパワーアップを図ったのだ。


「てえええええい!」


 ピキュウウウウウウン!


 黄色い光球……いやレーザービームを魔王へ照射。バリアの歪んでいた部分に突き刺さる。



「み、見えた!これが次元バリアの全容!」



 精神干渉部分の反応が無くなり、時間干渉による固定された空間をみるみる内に解いていくユウヤ。



「「「バリアに穴が空いた!?」」」



 今まで人類が到達できなかった偉業とも言える成果に、仲間が興奮している。


 誰かを助けたいという気持ちがチカラになったメグミは、本来悪意とは真逆のチカラなのだ。つまりユウヤと2人でなら魔王に対して絶大な効果を発揮する。


「な、なるほど。やるじゃないか……」


 魔王は余裕が消えて動揺を隠さない。バリアの再構築をしようにもどんどん崩されてしまう。その焦りからか、M・スォームは停止した。


「よっし、最後の仕上げだ!メグミ、一緒にいくぞ!」


「うん、わかったわ!」


 2人は動揺する魔王に顔を向けてチカラを溜める。


「悪意は乗せるな、お前はオレの事だけ考えていればいい。」


「はい!この気持ちはユウヤにだけにあげる特別なもの!」


 メグミがより一層輝いてユウヤに抱きつく。


 ユウヤは溜め込んだ白いチカラを使って、自分と大事な人を

 世界から切り離した。



「これで、最後だああああああッ!!」



 シュパアアアアアアアアアアアン!!



「う……ぐはっ!」



 ユウヤの黄色く、いや黄金に輝いた拳は次元バリアの穴を抜けて魔王の胸をたやすく貫いた。


「はぁはぁ、これで……!」


 バキィ、ドッゴオオオオン!


 そのまま左手で胸ぐら掴んで右腕を抜くと、地面に向けて殴りつけて叩き落とす。


「や……やったのか!」


 モリトはまたフラグ臭漂うセリフを言ってるが、今回は自分達の勝利を疑っていない。

 一瞬だったのでよく見えてなかったが、黄金色の光が上って行くその様は天に昇る龍を思わせた。もちろん人気漫画のワンシーンからの連想だ。


「私達のチカラ、思い知ったかー!!」


 ヨクミもへとへとになりながら拳を掲げて叫んでいる。


 ユウヤは2人分の時間停止で傷ついた身体をメグミに癒してもらいながらゆっくりと地面に降り立った。


 動かない魔王の身体を見て、自分達がやったんだという実感が少しずつ湧いてくる。嬉しくなってメグミを抱きしめ返して思わずキスをした。


「こらー!私というものがありながら!」


 一時的にヘッドギアに移ったメリーさんがぷんぷんしてるが別にそんな関係ではない。単に作戦がうまく行って彼女も気持ちが高ぶっているだけだ。


「おらー、キリキリ動け~!山菜の宴と温泉を――」


『お疲れ様です。焼き肉も追加しましょう!』


「これで終わり?いや、最後のは凄かったけどなんか……」


 モリトが騒がしいヨクミを担いで近寄ってくる。


「うん?なんか変だな。ココが解除されてないってことは生きてるんだろうけど……ソウイチ達も出てこないし。」


「まさかね。ちょっと診てみるわ。」


 ふと違和感を覚えたところでメグミが倒れた魔王の脈を取る。


「し、死んでる……」


「「「!?」」」


 驚く一同。しかし普通は胸に穴が開いて30mの高さから落とされれば死ぬものだ。


「いやでも……え?」

「冗談だろ!?」


 魔王の身体をぺちぺち叩いたり揺すってみるが反応はない。



 ブワアアアアアッ!



「「「!?」」」


 だが別の場所からの精神力が湧き上がって悪寒が走る。


『魔眼でバリアをほどいて善意の光で殺意センサーをすり抜けたか。なかなかやるじゃないか、君達。』


 彼らの直ぐ側に黒い人影が現れて拍手をしながら語りかけられた。

 その声は肉声ではなくテレパシーで直接頭に響く。人影の周りには黒いオーラが立ち込めていてどう見ても人間じゃない。


「あ、あんたは……何なんだ!?」


『見ての通り、現代の魔王さ。ソウイチ君も驚いてたけど、オレは人間やめてるからさ。その身体は自前で用意した取り憑き先なんだ。』


「おうふ……だからアイツら出てこなかったのか。」



「「「…………」」」



『さて、じゃあ休憩はもう良いだろう。続きを始めようか。』



「「「んな!?」」」



 魔王の言葉に驚愕する一同。それをヨソにぐんぐんとチカラを増して戦闘態勢にはいる黒尽くめ。さすがにユウヤは抗議する。


「ちょっと待て!それは聞いてない!!」


『え、本当に授業で習ってないの?それにラスボスは第2第3形態があるって普通じゃない?君達だってようやく物事の見方を改め始めたんだし、これからでしょう?』


「うぐ……そっちこそ、バリア破られたんだからもう良いだろう!?またあんなのを何発も食らいたくは――」


『ああいや、アレもう効かないよ。』


「え?」


『オレのバリアは進化する。一度喰らえば2度と通じなくなる。

 まあなんだ、バリア強化に協力してくれて感謝するよ。』


(進化っていっても手動だけどな。)


『それが良いんですよ!』


 クマリがテレパシーでここぞとばかりに手動進化に賛成票を入れた。


「んにゃーーー!ちょっと、どうすんのよおお!」


「「「うぅ……」」」


 それはともかくヨクミが頭を抱えて叫んでいる。ユウヤ達も

 ガッツリ士気がさがってしまった。


 その頃様子を見ていた観客席のソウイチは、この戦いへの参加をしなくて良かったと心から思っていた。



 …………



『それじゃあ第二形態戦、行ってみようか!』



 魔王が乗り気で黒いオーラを漂わせる。ユウヤ達は否応無しにチカラを纏って構えるが、そのボルテージとチカラの出力は非常に低い。終わったと思った矢先にもう1戦ともなれば当然か。



(だが、そんな時こそオレが!リーダーが率先して導くんだ!)



 ユウヤが主人公みたいな思考で気力を無理やり上げて、大抵の者に効き目があるミチオール・クゥラークの構えに入る。


「ユウヤ……!」


「行くぜ、ミチオール――」


 皆がその姿に感動したその時。魔王の目の前に空間の穴が空いて、銀髪・割烹着の女の子が現れた。


「何!?」


「セッちゃん!?」


「セツナ、危ないから下がってなさい!」



「お父さんを、いじめるなあああああああ!」



 彼女は白く光り輝き、ユウヤと同じポーズを決める。


「あの技は!!」


「マジかよ、あのトシで!?」


「ミチオール――」


(やるしかないのか!)



「「クゥラアアアアアアアック!」」



 ズガガガガガガガガガガガガガッ!!



 父を守るため、必殺技をためらうこと無く放ったセツナ。合わせてユウヤも同じ技で相殺を試みる。


 相手は7歳児の子供なのだ。いくら魔王の娘とは言え長年訓練に勤しんできた自分が負けるはずが無い。


「あばばばばばばば……ぐっはああああああ!!」


 と思ってたのは0.2秒だけだった。白いエネルギー弾をしこたま食らって大の字に宙を舞うユウヤ。


(あの飛び方って再現できるんだ?やるなぁ……)


 モリトは友達が少女にぶっとばされたマンガ的な姿に不謹慎な感想を抱いていた。


「オ、オレが幼女に負けるだなんて?今のは秒間70発は出せてたハズなのに……」


「わ、私幼女じゃないもん!オトナだもん!来月8歳になるし!それに私は1ビョーに100回撃ったよ!」


 可愛らしく怒りながらも秒間攻撃回数を自慢するセツナ。


「む、無念……」


 ユウヤは一言だけ呟いて地面の上で気絶した。


 敗因として射出タイプで仕上げたセツナに対して、直接タイプのユウヤが一方的にやられた形である。


 現代の魔王 VS ユウヤチームの戦いは、魔王の娘の勝利となった。


「セツナ、怪我はないか!?」


「大丈夫だよ!お父さんこそすごい怪我!もう心配で心配で!」


『ああ、これはワザとだから大丈夫だよ。でも来てくれた気持ちはとても嬉しい。ありがとうな、セツナ。」


「えへへ~~。」


 セツナの頭を撫で回しながら、セリフの途中で○○○のロードが入って人間仕様に戻る現代の魔王。



「「「…………」」」



 対してユウヤチームは目が死んでいて何も話せない。


 頼れるユウヤが7歳児に倒されたコト。


 全力を出して倒したと思ったらワザとだったコト。


 さっきまでの戦いが結局魔王の手助けをしたというコト。


 つまり魔王は7歳の娘以下の手加減っぷりでこちらを翻弄していた事になる。

 元々模擬戦のような戦いだったが、あまりの茶番臭に鼻が曲がりそうである。


「じゃあ、待ってるからねー!」

「うん、一緒に寝ようね。」


 にこやかにセツナが帰っていき、魔王がユウヤ達に向き直る。


「こほん、それで魔王がどうとかって理由だっけ?ちゃんと教えるからそんな目をしなくていいよ。」


「ああ、うん……」


「おつかれー!いい戦いを見させてもらったぜ!」


「ソウイチ、それ皮肉のつもり?」


 明るく労ってくるソウイチにモリトがジト目で返事する。


「いやいや、オレもあの黒いとこまでは行ったんだ。」


「本当に!?」


「見事だったわよ、世界一の――」


「ミサキ、それは黙ってような!?」


 がばっとミサキの口を手で塞いで黙らせるソウイチ。ミサキはそれでも……いやそれが嬉しそうだ。


「うーん、なんか疲れたよ……」


「ほらほら起きて!やっと質問タイムなんだから!」


「「ユウ兄さんお疲れ様ー!」」


 回復を施されたユウヤが双子に集られている。


「んじゃあ最初に何でオレがこんな――」


「はい!はい!まずは私よ!なんで私達はこの世界に飛ばされて来たの!?」


『ヨクミ、まずは彼の話を聞いた方が良かったんじゃない?』


「君達の話も合わせて話すことにするよ。まず、政府が流しているプロパガンダは事実とは結構違うんだ。」


「まあ、そんな感じだよな。変だけど話はできるし。」


「あくまで何でも屋のお仕事で、君達の家族や友人に恨みがあってどうこうっていう話では無いよ。それを前提として聞いて欲しい。」


 魔王は語る。強制労働の会社に捕まって世界中を飛び回る事になった経緯を。契約奴隷という事実は格好良くないので隠しながら。


「ええ!?それじゃ私の世界に来たのは、戦争を無くす為だったの!?」


「うん。そんなお題がコミュ障のオレに出来るわけもなく、あんな形になったけどね。さすがにやりすぎたかと思って数十年後のウプラジュで飲み歩きをして、新興宗教の末路を見届けて……」


「それで?」


「いざ帰ろうとした時に問題が起こったんだ。抗いがたいとても強力な衝動が――」


「もう!ハッキリ言いなさいよ!」


「胡椒でくしゃみしたら空間の穴が大量に開いちゃった。」


「はああああ!?」


『それはあんまりではないですか!?』


「この学校の開校6日目?辺りで偵察に来て気づいてさ、すぐに送り返そうかとも思ったんだけど……なんか馴染んでて楽しそうだったから、帰りたくなるまで待っといたんだ。」


 食って掛かる2人に正直に話す魔王。その後忘れていた話はもちろんしない。当人達は不満だらけの顔をしていたが、1人だけ意外そうな顔で見つめる男が1人。


(そっか、彼のお陰で僕は彼女に出会えたんだ……)


 モリトである。彼はヨクミにもフユミにもお世話になって、この土壇場でようやく一人前になれたのだ。魔王について色々と思うことが生まれてくる。ならば聞いてしまえと口を開く。


「では僕の両親は!?何でも屋の話が事実だとすれば、ワザワザ殺す必要は無かったはずだ!」


 そう。時間を止めてターゲットのみを始末すればそれで済んでいたのにも関わらず、護衛の両親まで殺す必要はない。


「えっと、君の場合は……」


 魔王は黒モヤで情報を引き出して、自分の記憶も呼び起こす。


「ああ、ミキモトのクスリを流してたあの人の護衛か。君の言う通りオレのチカラならそれが出来ただろう。でも当時のオレはまだ罪悪感も多くてね。自首を勧めて回ってたのさ。だけど余計にこじれるコトが殆どで。」


「それじゃぁ……?」


「オレが罪状を伝えたら君のご両親も説得してくれたんだけど、例のVIPさんは納得しなくて仕事だから殺すしか無かった。君のご両親は彼を庇って巻き込まれたんだけど、最後まで罪は法で裁くべきだと言っていた。立派な警察官だったと証言させて貰うよ。」


「父さん母さんは最後まで正義を……」


「会社の決まりで魔王事件の被害者には露骨なフォローは出来ない。だからオレからは謝れないが――」


「いや、充分だ。知りたいことは知れた。」


 そのまま座り込んで何やら考え始めるモリト。ヨクミが颯爽と近づいて背中に触れながら側に座っている。


「では次は……流れ的にはメグミが良いか。」


「待っていたわ。流れってどういう事?」


「さっき言ってた政治家はサイトで使う分のクスリを横流ししていた。クスリを作るには当然、研究所や工場が必要だ。」


「あー……読めたわ。つまり私の村でそれを作ってた?」


「そう。社長に連れられて行った時には既に村中汚染されてたんだ。今夜を体験した君なら解ると思うが、放っては置けないだろう?」


「ええ、そうね。嫌ってくらいに。つまりあの日も今夜も、貴方はコトを収めに来たってことか……」


「まさか生き残りが居るとは思わなかったけど、助けてくれたお医者さんに感謝することだね。」


「その事なんだけど、私はどうやら――」


「待った。それは別の話になるしデリケートな物を含むから、後で個別に――いやユウヤ君も同席した上で話そう。」


「あ、うん。わかったわ。」


「オレもか?もちろん良いぜ。じゃあとりあえず次に進めてくれ。」


「ソウイチ君にはさっき言ったけど、他の皆も殆ど同じ理由だよ。」


「え、そうなのか?」


「各所で作られたクスリはサイトや街で使われる。既存の戦力だけでなく、新たな戦力になりそうな人物にあの手この手で使わせる。具体的には子供用の保護施設だったりスポーツ選手だったり、才能のある芸術家だったりね。」


「そうか!それで健康診断があんなに……」


「親父がやらかしたのは……オレの為だからフクザツだぜ。」


「「へー、そうなんだー。」」


「2人ともこの歳でドライねぇ……」


 ユウヤは色々納得してるが、キソウ家の2人は淡白だ。殺された両親に思う所が無いのだろう。ミサキはそんな双子を見て将来が心配になった。


「あんたもそうだったのか?」


「オレは露天商のオススメのアクセサリの中にクスリが入ってたよ。もちろんサイトの仕込みだった。」


「仕込みかよ!でもシチュエーションは格好いいなそれ。」


「トキタさんの青汁に比べたらね。」


「完全にオチ要員扱いだな。それでクスリを使った連中を殺してまわってたのか?」


「いや、クスリ限定じゃないよ。それはあくまで一部。たまたま君達がそれに絡んでいただけさ。それも今思えばーって推測込みでね。」


「ということは仕事の実行はしたけど理由は知らないの?」


 ミサキは魔王の口ぶりから生まれた疑問を投げかける。


「あんまりね。理由を聞いても教えてもらえるとは限らないし。」


「それじゃあその社長については――」


「言わないよ。オレより強い方は大勢いるんだ。わざわざ刺激する必要はないでしょ。」


「そ、そうね。質問は撤回するわ。」


 ミサキはちょっと動揺しながら撤回する。彼女に限らずユウヤ達も、大魔王的な存在を感じながらも黙るしか無かった。


「こんな感じでお仕事をしてたら魔王だなんだと言われる様になったんだ。これ以上は後日にしよう。例の街に移動させるから、そっちの人の指示に従ってくれ。」


 そういって話を打ち切ると、魔王は空間に穴を開けた。


(もっと聞きたい事はあったけど、ここまでか。まったくとんでもない目に遭ったぜ。せめて移住先では快適なアフターファイブが過ごせることを祈っておくか。)


 今夜の体験だけでも常識の、世界の見方を考えさせられる一晩だった。


 全員思うことは多々有れど、大人しく移動するのであった。


お読み頂き、ありがとうございます。

本日はトモミの誕生日です。おめでとうございます。

登場人物の名字や誕生日は必要なければ殆ど伏せられている中で、珍しいキャラと言えますね。

まぁ、魔王夫婦が名無しの時点でオカシイとは思ってます。


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