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108 アフターファイブ その10

 


「「「ザール4姉妹のチカラ、思い知ると良いわ!」」」



 2014年10月5日。高らかに宣言したザール姉妹は、これ以上自分達のカタキがグダついて興が削がれる前に戦闘を開始した。


 薄暗い食堂で先手を取ったのは姉妹だった。同時に動き出したがまっすぐ攻めるわけではなく、ミルフィとキーカが前、イーワが後方の2-1陣形だ。ユウヤ達を何らかの手段で撹乱するつもりなのだろう。


「来るぞ!男はタンク、女は援護!」


「「「了解!」」」


 ユウヤが素早い避けタンクとして、モリトは鎧を纏って前に出る。どちらも反撃可能なチカラを所持しており、援護の2人は回復持ち。彼らを抜くのは容易ではない。


 それに対してザール姉妹は躊躇も容赦もなく仕掛けてきた。


「ラーラーーララララ―ララ―ッ!!」


「ッ!?」


 後方のイーワが歌いだして、その美声を響かせる。すると聴覚を通して平衡感覚を狂わされ、ユウヤチームは駆けるどころか立つ事もままならない。


 メグミやモリトが必死で銃を向けるが、狙いが定まらないでいる。


「ふふ、焦っていますわね!特に貴女!」


 キーカは全員の心臓の音を聞いて、魔法を上手く撃てずに焦って視野の狭まったヨクミに対して超時空アイドル的なポーズを取った。


 ドレスのヒラヒラも相まって様になっているが、問題はその後だ。


 ピカーーッ!


「ヒャッ!目、目が……」


 彼女の手首辺りからヨクミの目に向けて一筋の強力な光が走り、一時的に視界を奪う。


「ヨクミさん!!」


 右手に装備された手袋と指輪。指の形でレンズを生み出し使用者の眼球認証で発動するそれは、ミキモト製のグッズの1つなのだろう。

 謎ポーズが必要なのは制作スタッフの趣味なのか。ともあれスキがあれば積極的に狙われるのが戦場というもの。


「ふふ、スキありですわ!」


 動きの鈍い避けタンクを迂回してヨクミに迫るミルフィ。


ユウヤはその目で彼女を睨みつけ、急激に速度を落として対応する時間を作るつもりだった。

 ショットガンでは仲間に当たりかねないので、仲間に牽制してもらう予定だったが……。


「き、効かない!?」


 一向に速度が落ちないミルフィ。顔から何かを垂らしながら走る彼女はモリトも飛び越えて、無防備なヨクミの上半身に回し蹴りを放つ。


「ッ!!……くへぇ……ひゅ、ひゅ。」


 ドゴッと鈍い音が聞こえて吹き飛び、背中から食堂の壁に衝突したヨクミは息が出来なくなる。意識こそあるが暫く動け無さそうだ。


「へぇ。一番脆そうなわりに、まだ生きてるのね。」


『風精霊の加護を与えた友人を死なせはしないわ!お返しよ、

 ”トルネード”!』


「姉さん避けて!」


 ヒュゴオオオオオオッ!


 フユミがギリギリの所で防御してくれたようだ。彼女が反撃の小型竜巻を放つが、あっさりと後方への大ジャンプで避けられる。


「このチカラ、やっぱりコード・フユミが援護してますか。でもこの程度の反撃なら相当弱ってると見ていいかもね。」


 ミルフィは天井に指をめり込ませながら情報を更新する。すると下方より連続して爆音が響く。


 ズドドドドドドオン!!


「その位置ならこれで狙えるぜ!」


 ユウヤが天井の彼女に向けてアサルトショットガンを連射する。これなら狙いが多少ズレても命中はするし仲間を巻き込む心配も無いだろう。しかし――。


「残念でしたわね。」


 ミルフィを襲った散弾は中々着弾しなかった。彼女は床に降りてワンステップでユウヤの足へローキック。ゴキッと鈍い音が彼の体内に響いた。


「ぐあッ!……グフッ。」


 ユウヤが苦悶の声を上げたと同時に散弾は天井に着弾した。

 ミルフィがさらに回し蹴りで彼を壁まで吹き飛ばす。


「ラーラーラララララララララーー。」


 ユウヤの行動を見たイーワが更に一節歌って居たので、反応が鈍くなっていたようだ。



「その口、縫い合わせてやる!」



 この混乱の元凶であるイーワの歌を封じるべく、仲間の傷は一旦保留して走る赤黒メグミ。頭部にそのオーラを集中して歌の効果の低減に成功している。


「「やらせないわ!」」


 当然ミルフィとキーカに横から狙われて潰されそうになるメグミ。


 だがその2人の身体を衝撃が襲った。


 ドゴッドゴッ!


「「こっちの台詞だあああ!」」


 ユウヤは折れた足のまま、フユミのチカラを推進力にして、ミルフィに後ろから飛びかかる。


 モリトは鎧に使う水で水平を確認、キーカに狙いをつけて背後から蒸気を噴射して体当たりしていた。


「この期に及んでまだそんな!」

「離しなさい、ドレスが濡れるわ!」


 互いに妨害の連鎖が発生して突き抜けたのは対魔ナイフを構えるメグミ。イーワに対して赤黒い身体と紫の刃というノロイめいた彼女が斬りかかる。


「たあああああああッ!」


「その様なお声では銅賞も難しくてよ。ラーララー。」


 正面突きからの縦横斜めからビュンビュン斬りかかるメグミだったが一向に当たらない。イーワは歌いながらミュージカルにでも参加したかのような身振り手振りでギリギリ避け続ける。


「な、なんで!?」


「ルルルー……負の感情では視野が狭まりますのよ。」


 もっともらしい事を言って煽りながら左右に避け続けて、横薙ぎの回転大ぶりを誘う。


「ちょこまかと!」


 狙った横薙ぎが来ると、それに合わせて屈んでメグミの足を払った。


 スパンッ!ドサッ……。


「うぐっ、この……」


 盛大に転んだ彼女はナイフを衝撃で離さぬように握りしめ、屈んだイーワに突き立てようと試みる。


 ヒュン、カン!


 が、何かにその刃先を横にそらされて床を叩いてしまう。その手首を起き上がったイーワが踏み抜いた。


 ズガッ!


「あああああっ!」


「今のはそれなりのお声でしたわね。入賞には程遠いですけど。」


 歌唱祭等で金賞を取り続けていた彼女は、メグミに駄目出ししながらカランカランと転がる対魔ナイフを拾い上げて弄ぶ。


「こんなモノに頼ってるから自身が育たないのよ。」


 つまらなそうにぽいっと後へ投げ捨てて、手首を踏む足をどかした。貴族として弱者を踏み続ける趣味はないということか。


 すぐに起き上がろうとするメグミだが、イーワは気にせず他所を見ていた。


「どうやら、あちらも終わりのようですわね。」


 ミルフィはユウヤの右腕を触手で宙吊りにした上で左腕の骨を折って

 いた。キーカは気絶したモリトに濡れたドレスを被せて、予備の服に着替えている最中だった。それも彼女の身体から出ている触手達が活躍している。


 ヨクミもまだ起き上がれない状態で、控えめに言って絶体絶命だろう。


 彼女の目が絶望に染まる。


「……貴女達、そのチカラは何なの?」


「自身の仇に情報を教えるほど、私達は優しくなくてよ。戦いの中で見抜くのが能力者同士の戦いと聞きましたが違うのですか?」


「…………」


 ぐうの音もでないメグミは、強力な一撃を頭に貰って意識を手放した。



 …………



「女性の服を濡らしてどうするつもりです?」


「……戦場でそんな事を――」


「それを即答出来ない時点で説得力がございませんわ。」



 モリトはキーカにラッシュを掛けるがその尽くが避けられ、いや正確には逸らされていた。彼女の耳から伸びる触手の仕業だ。

 攻撃を逸らされれば体勢も崩れやすくなり、その度に本体からの攻撃を受けてしまっている。

 離れてライフルを使えば良いと思うかもしれないが、彼の得物は真っ先に触手で弾き飛ばされてしまっている。距離を取ろうとすればすぐ追いつかれて致命打を喰らいかねない状況だ。


 水を纏った攻防一体の戦闘スタイルのお陰でダメージは少なく抑えて自己回復でなんとか保たせているが、相手のダメージはドレスが濡れた程度のものでしか無かった。


(僕より小さい子なのにこの強さ!だけど動きさえ封じれば!)


「なーんて、考えてる鼓動が丸聞こえですわ~。」


「ッ!?」


 ドゴッ!ドゴドゴドゴドゴッ!


 D・ダストの予備動作に入ろうとしたモリトの身体を、胸・右肩・鳩尾・顔面・太ももに触手と本体で連続攻撃。とても集中して技を出せる状態ではなくなってしまう。というか顔面の時点で気絶してしまった。


 だが彼女の連撃を受けて即死しないだけ、その体力は誇って良い。


「もうオシマイですか?それでは服をいつものに着替えさせて頂きますね?」


 触手で濡れたドレスを一瞬で脱いでモリトの頭から被せ、どこからか取り出したゴシック調の黒い服を着始めたキーカ。

 男は既に誰も見ていないし、周りの目は気にしていない。その身体は同年代の中では美しい部類に入るが、緑色だった。


「これでよしっですわね。ふふ、貴方もお似合いでしてよ。女性にセクハラし続けた殿方にはふさわしい末路。いい気味ですわ。」


 リボンやブローチ等の小物もセットして着飾ると、満足気な笑顔を浮かべるキーカ。濡れたドレスを雑に被せられて倒れるモリトを見下ろしていた。



 …………



「威勢は良くても、実力は伴っておりませんでしたわね。」


「ぐふっ、このチカラ……オレのと同じ?」


「ようやくお気づきになられまして?少々遅かったですわね。」



 ユウヤはミルフィの目から伸びる触手に肩を持ち上げられて吊るされ、ボコボコに殴られていた。

 何度チカラを発動させても効果が見込めなかった事から、彼女も同じチカラを持っていると思い至るユウヤ。しかし身体がもう言うことを聞かない。


 ちなみに彼女の本来の目玉は身体に格納されていて、触手を通して光情報を取り込み周囲の光景は把握している。逆に触手を通してユウヤと同じ減速効果も発動させることができ、視野が広い分だけ効果も乗りやすい。


「離してよ!ミル姉さん、何でこんな酷いことをするの!?あんなに優しかったのに!」


 メリーがポケットのスマホからにゅっと出てきて涙目で抗議する。


「……成るべくして成った結果よ、メリー。無知だった彼らも、騙された私達も愚かだったの。それでも”信じた”結果がこれなの。まったく、この程度で魔王に挑む気だったなんて呆れはてますわ。」


 ちょっぴり罪悪感に囚われかけたミルフィが、意味深に気持ちを吐露した。


(信じた?何を……?)


 ユウヤは彼女の本心の一端を聞き逃さなかった。唯一の彼女持ちであるのが関係してるかは分からないが、気持ちを汲もうとする。


「何を……信じ、たんだ?」


「ふん、あなたには”もう”関係無い事よ。」


 声を絞り出して聞いてみるも、そっけなく返された。


(やはり、何かある。彼女達は魔王に遭って生きている。取引が決裂したのに、だ。詳しくはわからんが、要はオレ達がどうにかしないと行けなかったんだろう。ああ、今思えば教官の言動も仕組まれたものか?)


「どうやらオネムのようですわね。最後はせめて仲間と一緒にヴァルハラへ送って差し上げますわ!」


 その言葉をキッカケに3姉妹は入口近くに4人を横たえに向かう。考えを巡らせているのを気絶間近と受け取ったようだ。


 運ばれてる最中にメリーさんがやめてやめてと泣き喚いている。



(このままじゃ仲間が……何も出来ずに、故郷にも帰れずにこんな薄暗い部屋で終わるなんて……)


(私のチカラも限界だし、最後は一緒に。せめて故郷の空をもう一度飛びたかったわね……)


 ヨクミとフユミは故郷を想う。フユミは分離すれば逃げ切れるが、親友と仲間を置いてこの世界を漂うなど御免だった。



(ぐっ、これは……みんなやられたのか!?強すぎる……正義とはこんなにも脆いものなのか?だがこれで負けてはならない!)


 床に放り投げられたモリトは意識が戻るが、身体に力が入らなかった。現状を素早く理解しそれでも諦めない、諦められない気持ちを奮い起こそうとする。


(夢をチカラと変えた僕がここで終わっては、全てが無に帰る。なんとしても彼女の未来の、その横に立つ。その為にも……)


 モリトは未来を想う。身体は軋むし呼吸も辛い。だがここで楽になることを選べば、全てが水泡だ。そんなのは御免だった。



(どうして、どうして出力が上がらないの!?私が何とかしなくちゃユウヤが、みんなが!!)


 モリトと同じく放り投げられたメグミは意識が戻る。だが頼みの綱の赤黒のチカラはまるで蓋でもされたように出力が上がらない。あの姉妹の圧倒的な強さの前には回復の光だけでは敵いそうもない。攻防どちらに効果が出るにしても、タイムラグがあるからだ。


(彼は私と同じ道を歩むと言ってくれた。モリト達だってこれからって時なのに!)


 メグミは恋人と仲間を想う。出来る事を尽くしてここまで来たのに、このタイミングで自分の切り札が発動しない事に焦っていた。



(このままでは……手札は在っても、発動までは持っていけない。)


 ユウヤは触手に吊るされながら手立てを考えていた。彼はリーダーなので、他のメンバーがまだ切り札が在ることを知っている。


 だがユウヤと同じ眼やヨクミと似た歌声、オカルト組並の察知能力。とてもまともに当てる事は出来ないだろう。


「ダメよユウヤ、目を開けてぇ!」


 耳にはメリーさんの悲しげな声が聞こえてくる。


(どうする?決まってるだろ!オレが活路を開かなきゃ、全員死ぬ!)


 ユウヤは全員の未来への道筋を想う。似たようなピンチは経験している。


 恐怖・焦り・苛立ち・不安。後はそれを跳ね除ける勇気を自分自身が持てば良いだけだ。



「これで全員ですわね。一応ここまで来た努力を認めて、苦しまずに逝かせて――」



 ユウヤを放り投げて4人とも同じ場所へ纏めると、満足そうにミルフィが処刑宣言を始めるが……異変を察して言葉を止める。


「ミル姉さま?」

「如何なさいました?」


 姉妹はその異変に気がついていないのか、姉の様子を心配している。

 ミルフィはユウヤの骨折して曲がった手足が正常に戻っている事に気がついた。同時に魔王からのテレパシーで注意が入る。


『ちょっとマズいか?保険が誤作動を起こしかねん。』


『保険?手回しが良いようですが、どういう事です?』


『君達のプランに変更は無い。だがメグミだけは抑えた方が良い。誰も得をしない!』


「やって!手加減抜きで!」


 魔王からの警告に即座に反応するミルフィ。呑気そうな彼に強く断言させる何かを、野放しにするほど彼女は呆けていない。


「「はい、姉さま!」」


 姉妹は全員触手を開放、ミルフィが触手を怪しく輝かせてユウヤ達の速度を極力落としにかかる。そのまま飛び出して飛び蹴りでメグミに迫っていた。


「アアアアアアアーーー!」


 イーワの口から伸びた触手はロングハイトーンを放ちながら、彼らの意思疎通能力やバランス感覚を奪いながら襲いかかる。姉妹の中でも太めなソレは確実に頭を潰せるだろう。


「輝かしいファッション、可愛いは正義よ!」


 キーカの強力なビームの様な閃光で目を焼きつつ、両耳からの触手をムチの如くしならせる。見せない為の光と見えない速度で襲いかかるソレは、死神のカマを連想させる禍々しさで首を刈りに行く。



 ッッパアアアアン!



「「「なんですのっ!?」」」


 彼女達の攻撃は”同時”に弾かれた。ザール姉妹は体勢を整えながら何が起きたのかを確認する。



「な、仲間はやらせねえよ……」



 そこには目や口、鼻から血を流すユウヤが前かがみで立っていた。


「ユウヤ!ユウ……ユウヤァ!」


 メリーさんが喜びと心配でフクザツながらも抱きついて名前を連呼する。


「あなた!なぜ動けるんですの!?」


「仲間を死なせるわけには行かねえからだ!」


 そう言い切る彼の身体からは白いモヤが湯気のように立ち上っている。


「そのチカラ、彼の領域に!?」


「みんな、出せるもん出し切って勝つぞ。時間はオレが稼ぐ!」


 その言葉に仲間たちの目に希望の光が戻る。とはいえボロボロなので準備が必要だ。


「了解、でもまずは!」


 ピカアアアアアア!


「くっ!」


 メグミが黄色い光を放ち、ユウヤを回復させる。3姉妹はなるべくそれを浴びないようにと防御姿勢を取っていて、触手達からのデバフ攻撃は中断される。


「サンキューメグミ、これで少しは耐えられる!行くぜ!」


「抑え込みますわよ!」


「はい!お姉さ……ま?」


「え?……クフッ。」


 ミルフィの言葉でイーワとキーカが1歩踏み出した時、2人は緑色の血を吐きながらその場に倒れこんだ。胸にはこぶし大の穴が開いていて、倒れた彼女達から血液の水たまりが広がっていく。


「なんですって!?」


「よそ見していて良いのか!?」


「ッ!このおおッ!」


 突如背後からユウヤの声が聞こえて即座に飛び退くミルフィ。同時に触手のチカラを全開にして彼の速度を下げに掛かる。


「そのチカラにはマジでやられたぜ。だが、オレの全力なら!」


 ヒュゴゥ!ヒュゴウ!


「ッ!!」


 ユウヤの本当の意味での光速ストレートを、ほとんど直感だけで体をねじって躱したミルフィ。触手のチカラと培った反射神経が無ければ今ので終わっていただろう。


「これではどちらが化物か、わかったものではありませんね!」


 冷や汗が流れるのを自覚しながらミルフィは集中力を高めるのであった。



 …………



「僕とヨクミさんでアイツを凍らせよう。メグミは行けそうなら援護に向かって欲しい!」


「うん、そっちの方が確実かもね。」


「そうしたいんだけど、あれに割って入るには出力が……」



 残った仲間達は決着の為の準備を始めていた。既に2人もユウヤが倒してくれていて、切り札を切るならここしかない。モタモタしてると倒れた2人も復活しかねない。


 ヨクミは自身の奥の手を使おうと思っていたが、モリトとの合体技の方が効果が高いと判断して同意。しかしメグミは煮え切らない。


 メグミのチカラは安定していたが、代わりに尖った出力は出せなくなっている。魔王のフィルターによる物とは気づいていないので、彼女の焦りは募るばかりである。


 そしてその尖ったチカラが無いと、超高速で飛び交う彼らの戦いに参加するのは難しいだろう。対魔ナイフも無い状況では尚更だ。


「……そうかもね。ならあの2人が起きないようにして欲しい。」


「ええ、そうするわ。」


 メグミは悔しげな表情で、倒れたイーワ達に黄色い光を照射するのであった。



 …………



(くそっ、オレじゃ数秒程度が限界か!)



 ユウヤは停止可能な時間の少なさに焦りが生じていた。ソウイチの時は後先考えないでチカラを使って、体力どころか相当の寿命の消耗を許してしまった。なので控えめな範囲で時間停止を試みて、それが功を奏してなんとか戦いになっている。


 だがこのまま連続で停止を掛けていると消費が釣り合わなくなる。


 相手は驚異的な身体能力とユウヤと同等の眼を持ち、多少の時間停止ならギリギリで見抜かれて躱されてしまうのだ。


「へっ、随分冷静じゃないか。もう独りだってのに!」


「今は戦いに集中する時ですわ!」


 妹たちを不意打ちで倒した事実で煽ってみるが、特に効果はない。それだけ余裕がないのもあるが、貴族の誇りの為せる業でもある。


 ミルフィは壁や天井を飛び回って立体的な軌道でユウヤを襲う。彼はそれらを凌いでは一瞬だけ攻勢にまわるという立ち回り。その度に身体の中の何かが壊れていくのを感じていた。


 このまま続ければユウヤは苦しいが、仲間の回復・準備が整えば苦しくなるのはミルフィだ。お互いその事に気づいているし、既にモリト達が強力な魔法を用意しているのも感じ取っている。


「時間が無いようですが、貴方だけでも道連れましょうか!」


「生憎、先約が在るんでなッ!」


 その言葉が終わると同時に時間を停止させてミルフィ目掛けて跳ぶ。


 会話中で止めた所為か、今回は彼女の身体ががら空きなのだ。


 世界の色彩の揺らめきすら止まり、絵画の様な世界を駆けるユウヤ。


 まるで自分だけが世界の理から切り離された状況で孤独を感じるが、それはイットキの事。


「貰ったあああああ!」


 ヒュゥゥン、ズゴッ!!


 勝利を確信して叫びながら光速ストレートを放ち、無防備な

 ミルフィの胸の部分を深く貫いた。


「うが!?お、お前……うご、け?」


 が、貫かれたのはミルフィだけではなかった。ユウヤの腹にもカウンターで触手が深々と突き刺さっていた。



「貴方に出来て……私に出来ない道理は無いでしょう?」



 その言葉と共に周囲の色彩が戻る。


 元々彼の細胞を使って本人より強靭な身体を使っているのだからありえなくもない話だ。


 とは言え少しずつ身体の細胞が崩れ始めて、光の粒子がキラキラと舞い上がり始めている。長くは保たないのだろう。


 ミルフィはそのままユウヤの身体を仲間たちに向けて盾とする。


「くっ、人質のつもりか!」

「魔法が間に合っていればっ!」

「肝心な時に私は……」


 モリトを始め、その行動に身動きが取れなくなってしまう。その後は罵倒のバーゲンセールが始まったが、ミルフィは気にすること無く堂々と歩き、重体の姉妹の身体も触手で抱き寄せる。


「ね……ぇ、ま……」


「つ、ぃに……すわ、ね。」


「…………」


 掠れた声でイーワとキーカが話しかけてくるが、直接は答えない。小型の触手を繋いで誰の邪魔もされずに気持ちを伝えあう。


 だがそこでミルフィは止まらずに相手に向けてユウヤを構えたまま、彼の仲間たちの下へ歩いていった。


「くう、ユウヤを離しなさい!」


「はい、どーぞ。」


「「「え!?」」」


 思いの外素直にリーダーが開放されて逆に戸惑う仲間たち。ミルフィの胸から彼の腕が抜けて緑色の液体が噴き出した。


「どういうつもり!?」


「コホッ、早く治療しないと死ぬわよ。無茶な時間停止の連続で、全身が壊れていますわ。ケホッ。」


 彼氏を抱きかかえながら睨みつけてくるメグミにつまらなそうに告げる。


 ミルフィは緑色の体液をだだ漏れにさせながら、身体を密着させているモリトとヨクミの方へ顔を向けた。


「あなた方の準備を無駄にして申し訳なケホケホッ、早めに……終わらせて貰ったわ。ハァハァ……」


「ミルフィ!君は何を考えてるんだ!」


「それ、くらいは汲みなさいよ。残りの時間は、家族で使うわ。」


「ね、姉さん……テンスルに会ったら……その!」


 ミルフィはモリトを適当にあしらい、メリーさんの言葉に軽く頷いて特殊部隊から離れていく。


 やがて身を寄せ合ったままの3人は座り込んで語り合う。


 時間が経過する度に姉妹の身体からは光が舞い上がっていき、長くはない事が察せられる。さすがにその姉妹を撃つ程モリト達は人でなしではなかった。


「悪あがきはここまでね。」

「はい、姉さま。長く苦しい日々の終わりです。」

「お疲れ様のお茶とケーキを用意したいくらいです。」


「でもこれで、お父様とお母様の下へ行けますわね。」

「再会のパーティーでは私が歌を披露しますわ。」

「衣装と飾り付けはお任せください、姉さま!」


 白くキラキラした光が彼女達を包み、姉妹のささやかな願いが吐露されていく。



「来世でもお父様とお母様の4姉妹として、生まれますように。」



 そんなミルフィの言葉を最後に、彼女達の姿はチリも残さず消えていった。


「もしかして、わざと……?」


「かもな。最初は張り合いなくて失望されたっぽいけど、なんとか挽回出来たようだぜ?ったく、貴族ってのは面倒な生き方するな。」


 モリトのつぶやきに、治療を受けて目を覚ましたユウヤが返答する。


「また……背負うものが出来ちゃったわね。」


「メグミは思い詰め過ぎよ。そういうのは後々!」


 ヨクミは無理にでも明るい声を出して仲間が沈まないように気を遣う。


「……」


「ユウヤまでどしたの?いつもはもっとお気楽じゃない。」


「上司の陰謀のケツ拭きだとか、人攫いに加担したとか……色々思う所はあるけどさ。魔王が使用人フェチとかいうのが、一番いらない情報だったなって。」


「オーケー、まだ疲れてるわね。メグミ、もっと光らせて!」


「う、うん。てえええい!」


 かつて無い程の強敵との戦いを生き延びて、心から安心してしまい……妙な事を口走るユウヤだった。



 …………



「お疲れ様、迫真の演舞だったよ。」


「お疲れさまです、お姉さま!」


「はいはーい、まずは服を脱いでこちらへー。」



 魔王邸診察室のベッドの上に現れた3人を魔王とテンスル、マキが出迎えた。3人は服を脱がされて病院着代わりの浴衣を纏ってベッドに座る。今更魔王の前で裸がどうとか気にしない。


 というか元々インストールされたプランにこの件も含まれているので、変に恥ずかしがっても仕方がないのだ。むしろ堂々と見せつけて着替えていた。


「さすがは貴族。その立ち振まいは美しいね。」


「お姉さま達のご活躍、私は感動致しました!」


「お陰様で納得の行く形に収まりましたわ。それに貴方は約束を守れる殿方だと解りましたし、概ね満足してましてよ。」


 ミルフィは元気に抱きついてくる”人間の”テンスルを撫で回しながらそう答えた。


 両隣のベッドからは私も私も末妹のハグをせがむ声が聞こえる。それを受けて、もっと末妹と触れ合いたいミルフィはメリーの話題を振ることにした。この姉、ずるい。


「それとテンスル?メリーがよろしく伝えてくれだって。」


「はい、観ておりました!メリーが追いかけてきてくれるなんて!」


 感動して涙を浮かべるテンスルを独り占めしてしまうミルフィ。両隣からはブーイングが聞こえ始めた。


 テンスルは人形から取り出されて時間遡行を主軸に治療されて、数ヶ月前と変わらぬ姿に戻っていた。この成果を見れば、この後に自分が受ける治療に信頼性が増す。そういう計算だったのだろう。


「では信じてくれたと見て、お渡しした生存ガイド通りにコトを進めさせてもらうよ。」


「ええ、よろしくてよ。」

「お願いしますわ。」

「よしなに!」


「姉さま達をお願いします!」


 4姉妹が同意の言葉を伝え、治療に入る魔王。よしなに!の可愛さがHITしたのか、マキが鼻を押さえて奥へと走ったがそれ以外は順調に事を運ぶ。


 先程の戦いは、姉妹の気に入る演出が多分に盛り込まれていた。


 実力差は本物だったのでバランス調整が面倒な事になったのだが、最後の姉妹が消えるシーンなんかは殆ど魔王の手が入っている。


 でなければ声を出すのも大変そうだったキーカ達が流暢に話していたり、普通はただ死ぬだけの肉体がキラキラと輝いて綺麗に消えていくハズもない。

 両親が死んだかのように言っていたが、普通に生きている。州都の一部過激派が彼らを処刑するように求めてはいるが、後日近い内に鉄槌を下す予定だ。


 尊厳を奪われた貴族の末裔姉妹は、それを取り戻すためにも今回のような舞台を欲しがっていた。それを魔王が手助けした形である。


「はい、これで治療は完了だ。触手も取り除いてあるけど、魂は変わらないから多少はチカラも使えるよ。」


「わあ!お姉さまのお肌がとてもお綺麗な色に!」


「はい、皆さんこれで確認してくださいね。」


 全身をこねくり回して以前よりも綺麗になった3人の姉に対して誰よりも先に喜ぶテンスルが声を上げた。マキが手慣れた感じで大型の姿見を持ってくる。


「へぇ。これは……うふふ。あられもない所まで触られた時はお嫁に行けないと思っておりましたが、良いお仕事をしますわね。」


「アーアー。喉の調子が絶好調ですわ!」


「着飾り甲斐のある、とても素晴らしい身体になってます!」


(なんか……うん、いいね。)

『まるで妖精みたいね。』


 素っ裸で思い思いに自身を細部まで確認する姉妹たち。ただの性欲を越えた美しさに満足している魔王。同意する妻の○○○。


「こほん、君達は今夜の所はここまでだ。ウチの温泉は美容促進の効果がある。是非そちらを試して、その後はゆっくり休むと良い。」


「温泉ってあの日本人の魂の!?」

「もっと綺麗になれるの!?」

「わ、私も一緒に!」


 イーワとキーカが素直な口調で食いついた。さらにテンスルも乗ってくる。


「あら、もう良いの?魔王ならもっと女の身体を堪能するものと覚悟してましたが……それとも混浴を所望されまして?」


 ミルフィだけはからかうような素振りで魔王のほっぺから顎先を指先でさわさわしている。どうやら視線には気づいていたようだ。


「狙ってやってたのかよ。案内つけるからさっさと入ってくれ。あと大人をからかうのは危ないから止めるように!」


「こんばんは!ご案内しますので、ザールさん達はこちらへー。」


「まずは服をちゃんと着てください。スリッパもどうぞ。」


「ふわーはっはっは!魔王邸名物の温泉に驚くと良いわ!」


 その言葉を合図に、シーズが入ってきてテキパキと準備を進める。彼女達を見たザール姉妹は驚愕の表情だ。


「えええ、ホンモノ!?あのシーズがここに!?」


「正確無比な歌声に惚れましてよ!CDも買いました!DVDも!」


「演出と衣装について詳しく聞いてもよろしいですか!?」


「私は先程サインして頂きました。」


「「「私達にもお願いいたしますわ!」」」


 ザール姉妹はある種の都市伝説アイドルの登場に喜び、意気投合して露天風呂へ向かうのだった。



 …………



「あった!対魔ナイフ、見つけたわよ!」


「おー、ナイスメグミ!あれ、こっちの箱は何かな。」


「これも持っていこうよ。なんかハイテクな香りがするわ!」



 ボロボロになった屋内訓練場オヤシキの食堂で、ごそごそと探し物をしていたメグミが声を上げた。同じく漁っていたヨクミがパタパタと近づいて何やら見つけていた。


 彼女達はあまり役に立てなかった負い目もあって、男共に膝枕をしたい気持ちをぐっと堪えて雑用を買って出たのだ。


 なぜに膝枕か。ユウヤは消耗が激しく、今もポーチを枕にして寝かされている。身体の方はそれなりに回復したが、精神力の方が参っていた。モリトも探索に参加しようとしたが、彼を見といてとヨクミに止められユウヤと2人で並んで置物になっていた。


「参考までに聞きたいんだけど。」

「なんだよ、改まって。」


「時間停止ってどうなの?」

「全て止まるからな、気が触れそうになるぜ。」


「うぇ……いや、それもだけどやり方とかさ。」

「ああ、魔王対策か?」


「うん、普通に考えて世界の時間を止めるって無理じゃん?」

「ああ、流石だな。あれは逆なんだよ。」


「というと?」

「自分が世界の理から抜け出すんだ。」


「コトワリから……つまり自分にチカラを使う感じ?」

「そう。この場から切り取って隔離しようとするんだ。」


「どんなふうに?」

「事故の瞬間の長く感じるのを意図的に作るイメージ。」


「なるほど。それでチカラが続く限りは一方的に動けると。」

「リキみ過ぎても大変だけどな。こう、命が溶ける感じが。」


「……もう使わない方が良いね。僕達も頑張るからさ。」

「まあな。頼りにしてるぜ?」


「それはともかくさ、女の子に働かせてのんびり雑談するのって、何か違う気がするんだけど。」


「言うなモリト。自分の為に裸エプロンでメシを作ってくれてると考えろ。」


「その妄想の逞しさは見習いたいところだね。」

「男は夢を諦めないものだぜ。」


 男同士であほな会話をしていると、2人が戻ってくる。


「おまたせ、少しは楽になった?」

「ああ、クスリも飲んだし多少はな。」


「ちょっと変なのを見つけたから見て欲しいんだけど。」


 ヨクミが男達の前に差し出したのは2つの箱だった。


「変なの?なんの箱だこれ?」


「対魔スーツと対魔ヘッドギア!私の目に留まるくらいだから、結構レアな装備だと思うんだ。」


 メグミの手に握られたスマホからメリーさんがにょきっと出てきて説明する。


「どれどれ……なんか、格好いいな!」

「へぇ、いいデザインだね!」


 早速取り出された装備は黒と白のシンプルな色合いのスーツとヘッドギアだ。各所に様々なパーツが取り付けられつつ、スタイリッシュなデザインで男心をくすぐられる。


 すぐさまモリトが説明書を読み始めた。


「えっと、対魔王用の歩兵装備の試作品。スーツの各種機能により麻痺や骨折や即死、炎上・凍傷などにも強く……でも電気には弱い。各種ツボへの刺激で身体能力の向上と若干の体力回復も見込める?」


「そいつは凄えな!」


「でもなんか盛り過ぎじゃない?迷走してるっていうか……」


「そこが良いんじゃないか!どれどれこっちは……」


 興奮するユウヤはヘッドギアの説明書を開く。


「バイザーに周囲の情報を映して索敵も地の利も活かせるらしいぜ!AIのサポートで回避率の向上にも期待が……ん……」


「どしたの?急に元気がなくなったけど。」


 ヨクミがそのヘッドギアをいじくり回しながら訝しがる。ユウヤは難しい顔をして説明書を睨んだまま固まっていた。


「これ、試作型はバイザーで視覚を通して情報を得るけど、正式版は……脳に直接電極を埋め込んで使うらしい。」


「「「!!」」」


 驚いてみんなで確認すると、現在の仕様と将来的な仕様が書かれているページには確かに人体との一体型になると記載されている。


「そんな物まで開発していた!?どこまで人道を踏み外すつもり!?」


「あわわわ、ニンゲンって……」


 ヨクミはギアを取り落してモリトの背後に退避した。


「ま、これは平気だろうけどな。魔王退治が長引けば危なかったかもしれないが……うん、内側にそれらしいものもないし。」


「ちょっと止めなさいよ。そんな怪しいの!」


 ユウヤがそれを拾って装備してみる。メグミが止めにかかるが電源を入れて起動すると、すぐにバイザーに起動画面が現れてシステムを開始する。


「へえ、ちょっと格好いいぜ。まるでSFの――」


【声紋を確認。ユウヤ君、おひさしぶりです。】


「うお!?しゃべった!?」


「女の声!メグミ、浮気よ!」

「ユウヤ、ちょっと話を付けましょうか。」


 振動で伝えるハズのシステム音声に超反応したメリーさんがメグミにチクる。彼女はごく自然な動きで対魔ナイフを構えた。


「落ち着け!これ、37ちゃんじゃないか!?随分様変わりしたな。」


【はい、私は元製造番号37番です。お会い出来て嬉しいです。皆様はお変わり無く。】


 音声を外部出力に切り替えて37ちゃんが挨拶をしてきた。


「サナちゃん、おひさー!格好良くなっちゃって!」

「こんな形でまた会えるなんてね。」

「ごめん、知り合いだったのね。メリーよ、よろしく!」

「彼女のサポートなら心強いな。うん。」


 去年、半年ほど一緒に過ごしたロボット軍団のAIとの意外な再会に心がじんわりと喜びを感じている。彼女ならばこちらに危害を加えるような真似はしてこないだろう。



 …………



「2589!」


【いえ、シンプルに8888でしょう。】


「開いた!37ちゃん正解だ!」



 訓練棟事務所まで戻ってきたユウヤチームは、意味深な金庫の鍵を相手にしていた。対魔装備に身を包んだユウヤが金庫に向かい、スマホとヘッドギアのダブルで解錠を試みた形である。


 あれからオヤシキの食堂と入口の間を塞ぐガレキを対魔ナイフの分解で穴を開け、モンスター達はまだ寝ていたので帰りは早かった。


「くうう、負けたー!物理的な鍵じゃなければっ!」


【メリーさんは電子制御の扱いが反則的なので、おあいこですよ。】


 金庫を開けるのには電子制御の鍵と4桁数字のアナログ錠を突破しなければならなかった。前者のロックはメリーさんがシステムの内側から開けて、後者は37ちゃんが演算で答えを出したのだ。


 その数字のガバさは、今さら突っ込んでも仕方がないのでこの際置いておく。


「2人とも凄いぜ。さて、中身は……こうくるかぁ。」


 ユウヤが取り出したのは対魔ナイフの強化パーツだった。さっそく取り付けると、ナイフというよりショートソードといった外見になる。


「今度は瞬間的な出力アップで……死散光とかも使えるみたい。ここのタメの機能を使えば妖吹雪も行けるって!」


 モリトが説明書を読みながら、刀身や柄に着けたパーツの効果を伝えてくれる。強力になった代わりに消費も激しいので、従来のバッテリーだけでなく使用者の精神力を抜き取る仕様になった。



「おおっ、ぉぉ……そこまで行くと逆に怖いな。」



 ユウヤは一瞬ボルテージが上がりかけるが、すぐに怖さに気づく。彼は時間停止まで使う戦いや将来的なヘッドギアの仕様を経て、強大なチカラの裏側の怖さに敏感になったようだ。


「じゃあこれは私が――」


「モリトなら性格的にも上手く使えるんじゃないか?」


 メグミの提案を秒で回避して安全策を打ち出すユウヤ。道具の扱いが一番上手く、戦闘中にも色々と察せる彼なら申し分無いという判断だ。


「僕にはコレもあるし、それを使うほど精密には動けないよ。」


「私もムリー!絶対モリトに風穴開けそうだし!」


 彼はオヤシキ玄関で回収した火炎放射器を背負ったまま、お断りした。

 魔力は繊細に操れるが言動が大雑把なところがあるヨクミも辞退する。


「ならオレが使うか。対魔シリーズで固めれば少しは使い勝手も――」


「ユウヤ?」


 彼の肩にぽんと手を置いてにっこり微笑むメグミ。ヘッドギアからも対魔ナイフのサポートも出来ますと音声が流れているが、有無を言わせぬ迫力がその笑顔にはあった。


「メグミは回復役で忙しいだろう!?」


「だからこそ、狙われやすいから対抗手段があると良いじゃない。」


「お前だと相性が良すぎて本能的に恐怖を感じるんだよ。」


「なんですって!!」


 メグミとユウヤが不穏な空気になる。メグミからしたらユウヤを支えて役に立ちたい。その為のチカラが欲しい。ユウヤだってそれは見て解っているが、その赤黒い女心を許せばチームバランス的にどうなんだろうと疑問を持っている。



「2人ともそこまで!あいつらの場所が解ったわ!これを見なさい!」



 メリーさんの一声を聞いても尚、にらみ合う2人をモリトとヨクミが仲裁に入る。というかグイグイ背中をおしてパソコンの方へ移動させようとする。


「ほらほら、こんなところで痴話喧嘩してる場合でもないだろう?」


「まずはその怪しい女心をしまいなさい。みんなメグミの気持ちは解っているから!ね?」


「「むうう……」」


 2人に背中を押されながらしぶしぶといった形で集まると、話を進める為にモリトがメリーさんへ質問する。


「ただの事務用のパソコンなのに居場所が特定できるの?」


【本来は不可能です。ですがメリーさんの……自由さならきっと。】


「メリーちゃん、37ちゃんに言葉を選ばれてるわよ。」


「それを説明するから見なさい!この棟のセキュリティを取り敢えず全部オフにしてたんだけど、ココ!ここだけどうやっても弄れないのよ。」


 モニターに表示された見取り図にビシッと指で示すは未探索のエリア。この棟の2階の最奥である。


「ここは……生物実験室?と、そのとなりの休憩室か。彼ららしい迎撃場所と言えなくもないな。」


「でもどうしてここだけON・OFFが不可能なんだ?」


「私が弄れないのは物理的に不可能な場合だけよ。つまりこの場所には触れられたくない何かがある。だからシステムから切り離したんだわ!」


「メリーさんが有能すぎて……課金するべきか?」


 ユウヤは反応に困っている。が、その発言で仲間も反応に困る。


【発想と行動が自由すぎて……普通はシステムを簡単には掌握できないハズなのに。人工知能には理解が難しいです。】


 37ちゃんは表情は分からないが真顔っぽい口調で、そう評価する。オカルトと人工知能の生物的な溝は大きいようだ。生物かどうかはこの際置いておく。


「でもこれで目指す場所は決まったね。ケリを付けに行こう。」


「私達の味わった地獄をお返ししてやるわ!」


『風と同じ様に因果は巡るという事を教えてあげましょう!』



 こうしてユウヤチームは決戦の場所を定め、移動を開始する。



 …………



「教授、なにやら寒くないですか?」


「うむ、ザールの娘達による嫌がらせかのう。」


「ちょっとトイレに……って扉が開かないんですけど?」



 生物実験室で最終調整を終わらせたミキモト教授とサワダが、寒さに震えていた。この部屋は名前の通りモンスターの実験を行うために広く頑丈な作りになっていて、中央には被検体を入出させるエレベーターが在る。


 室内にはモンスターを固定する器具や壁や天井から伸びるロボットアームなどが多数取り揃えてあり、床は謎の液体で濡れて排水溝も完備している事からロクな実験をしてないことが分かるだろう。


 その様子を確認する為の大きな窓が南側に取り付けられている。


 その向こう側ではこの作戦に賛同した教授の弟子達が、忙しそうにパソコンのキーボードを叩いて指示を飛ばしている。


 本来なら2人もそちら側に居るはずなのだが、緻密な調整の為に一時的に実験室に入って作業したところ、外に出られなくなった次第である。


 その最終調整を施したモノは一旦地下の当別収容所に戻して休憩させている。機を見て万全の状態でコトに当たって貰うためだ。


「扉が妙に冷たいし、これは一本取られましたかね。」


「うむ。だがこちらの準備も完了した。不浄はその排水溝を使い、暖房をフル稼働で耐え忍ぼうぞ。」


「うへぇ。こう言っちゃなんですが、技術の最先端を行く施設とは思えませんね。」


「エアコンがあるだけマシじゃ。昔の戦場では――」


「エアコンがあっても気温がエグイんですけど。」


 空調の操作パネルに表示された室内温度は1桁だ。それもマイナスの方である。


「仕方がないのう。アナログじゃがこれを使うと良いぞ。」


「布?何に使うんです?」


「今の若者は知らんのか?これはこのように使うのじゃ。これが先人の知恵、乾布摩擦じゃ!」


 そう言って白衣どころか服まで脱いで、ふんどし一丁で布を身体に擦り付けるミキモト教授。


 サワダも二重強化ガラスの確認窓の向こう側の弟子たちも、これにはちょっと引いていた。



 …………



「さーてこの奥が、って――」


「「「寒っ!!」」」



 訓練棟北の階段から2階に上がってきたユウヤチーム。直下の地下の倉庫から各種弾薬を補給して、さあこれから!という所で予想外の気温の低さに身震いする。


「おいおい、一気に冬みたいになったぜ。」


「空調が暴走してるの?奥から吹雪いて来てるわ。」


「壁にシモがついてるし監視カメラも凍ってる。いくらなんでもエアコンでそれは……」


「モリト、ティッシュちょうだい~。」


 急激に冷やされて鼻をかむヨクミ。ユウヤは現状確認の為に調査を頼む。


「メリーさん、37ちゃん。何か分かるか?」


「電気的な繋がりで不自然なところは無いわ。」


【このフロアにはここまでの冷気を発生させる設備はありません。】


「フユミさんは?」


『この風、作為的な物を感じるわね。電化製品でないならたぶん――』


「チカラ持ちか。みんな、銃が凍るかもしれない。精神力をすぐ練れるようにしておいてくれ!」


「「「了解!」」」


 彼らは冷気の吹き荒れる廊下を進む。このフロアは視力検査の左上に穴が開いてるような形で廊下が通っており、それに沿って最先端技術を用いた設備の部屋が並んで存在する。


 一応南と西には外側に向かって廊下の突き当りも存在するが、窓はなくよく解らない物が箱に入れられて積まれている。


 中央には仮眠室が設置されていて、自室まで戻る暇が無い研究者達に重宝されていた。


 南西には監視用のモニター室があるが、廊下から直接入る事は出来ない。その隣の武器庫兼、会議室を通らねばならないのだ。


 それは万が一モンスターが暴走した際の緩衝エリアであり、トラブル発生時に準備を整えてコトに当たれるようにという職員への配慮がみられる。


 目的の生物実験室は北西で、その南側が観測室だ。



「こう、向かい風だと冷えるのも早いな。」


【対魔シリーズならこの程度の冷気は問題ありません。】


「着てない私は凍えそうだけどね。」


 廊下を南へ進むユウヤ達だが、メグミはユウヤの背中に隠れながら

 プルプル震えている。赤黒オーラも寒さには耐性が無いらしい。


「僕らはまだ対策できてるからマシだけど……」


「メグミの為にもどこかの部屋に入ろうよー。」


 対してモリトとヨクミは流動する水の鎧や厚めに張った魔法の膜で

 凌ぎながら進んでいる。


「ああ、やっぱりこの装備はメグミが使えよ。入れそうな所で

 着替えよう。」


「あ、ありがとう。」


【良き判断です。よっイイ男!】


『ごめんね?もっとチカラが残ってれば防げたんだけど。』


「フユミちゃんは頑張ってるわ!」


 フユミが申し訳無さそうに謝ってくるが、ここまで散々世話になってるので贅沢は言えない。とはいえ自分の彼女が冷凍食品並に冷やされている現状も良くない。


【未確認物体接近。回避を推奨します。】


 37ちゃんの音声と共にユウヤのバイザーに対象の位置が表示され、さらには回避方向まで視覚的にアドバイスされる。


「敵襲!」


 メグミを庇うようにして伏せ、頭上を何かが通過していく。


 ドムン、ドムン!


「またあのウサギだ!」


 通り過ぎた”駆け込み乗車”が反転してモリトに襲いかかり、水の鎧で弾く。


【敵性生物6体確認。壁を背にして不意打ちを防ぎましょう。】


 スピーカーモードで37ちゃんがアドバイスを送り、その通りに壁際に寄る一同。


「光速ストレートッ!」


「フギャッ!!」


「ナイフ借りるわ!はっ!ふっ!」


 シュゥゥン。


 ユウヤの腰からナイフを抜き取り、素早く体当たりしてくる

 ウサギを迎撃するメグミ。無残に顔が分解されたウサギが、壁に激突して床に転がる。


「てい、てい!」


 ブンブンとスタンガンを振り回すヨクミだが軽やかに避けられる。水球や水鉄砲では避けられるのは解っていたし、水流で絡め取る方法を取れば仲間が寒中水泳することになるので控えているのだ。


 その腕を掻い潜って彼女の首元に歯を突き立てようとするウサギ。


「はあああっ!」


 そのウサギの耳を掴んで放り投げたモリト。水圧ラッシュの速度なら何とかついていけるようだ。


「ヨクミさん、無理せず撃って!外しても僕がフォローする!」


「あ、ありがとう!”ヴァダー”!」


 バシュン!と水魔法を放つがやはり彼らの速度を捉えることは出来ない。しかしモリトが回り込んで水球を蹴っ飛ばし、ヨクミの横から襲いかかるウサギを天井まで吹き飛ばした。


『あらあら、良い共同作業ね。彼、頼りになるじゃない。』


(ちょっとやめてよ。ヤミツキになったら困るじゃない!)


『良いんじゃないの?彼なら悪いようにはしないわよ。』


 寒さと別の事情で赤くなったヨクミは、もうその気持ちがほとんど隠せていない。


 バシュバシュバシュバシュン!


「こっちのは僕が使わせてもらう!」


 4連続のキョーイクショットでウサギの一体を倒し、外した中和剤入りの水をモリトが再利用しようとする。

 先程放り投げたのウサギが戻ってきたので捕まえて口から流し込む。



「これで最後だっ!」



 ユウヤは最後の1体の背後から光速ストレートで不意打ちして壁に叩きつけ、戦闘を終える。


「ハァハァ。37ちゃん、後続は!?」


 ユウヤは周囲に顔を向け、ヘッドギアのカメラで37ちゃんに確認をお願いする。


【近くには見当たりません。】


「敵影なし!応急手当だけして何処かの部屋へ――」


 ヒュルルル……


『風のゆらぎ!?まだ居るわ!』


「殺意!?ユウヤ危ない!」


「のわっ!」



 ジャキィイインッ!!シュッパァァァン!



 先程とは逆の形でユウヤを伏せさせるメグミ。その頭上を大型のカニのハサミの様な無骨な青い腕が通り過ぎた。


 更にその青ハサミが閉じた瞬間、その周囲の空間が歪んだように見える。


「これは、チカラ持ち!?」


【偽装でしたか、申し訳ありません。演算開始します。】


 37ちゃんの音声が流れる頃にはハサミがまた見えなくなる。

 同時にモリトの目の前の空間が揺らいで、今度は赤いハサミが現れた。


「くっ、こっちもか!ヨクミさん下がって!」


「ひゃああっ!」


 モリトは乱暴にヨクミを後方へ突き飛ばした。目の前に迫りくる赤いハサミが避けられるタイミングでないと悟った彼は、腕をクロスして水の鎧の防御を全開にして防ぐ。



 ジャキィイインッ!!シュッパァァァン!



「なん、だって……?」



 赤いハサミは水の鎧を物ともせず、そのまま彼の両腕の肘から先をスッパリ切断した。


「ぐ、ぐぅああああああっ!」


「「「モリト!?」」」


 モリトは後へよろめき、痛みを堪えながらも根性で鎧は解かない。切断された両腕は彼の鎧の中を浮いている。


【演算完了、推測される姿を表示します。】


 ユウヤのバイザーには赤と青の4足歩行のザリガニの様なモンスターが映し出される。


 それらが再度こちらへハサミを向けているのが見え、立ち上がって後へ下がるユウヤとメグミ。


「こいつはどういう原理だ!?」


【光学ではなく別の空間を纏って偽装してます。】


「空間迷彩だ!?フラッシュとスモークいくぞ!ヨクミさん、モリトを連れて下がれ!」


「モリト、痛いかもだけど行こう!?」


「ぐぅ!もっとくっついて、水圧で……」


 シュゴゥ!


 モリトは脂汗も鎧で拭き取りながらヨクミに体重を掛け、それに彼女が抱きつくのを確認すると、後方へ水を噴射して逃げる。


 ジャキィイイン!シュッパァァァン!


 ピキイイイイイイインッ!


 間一髪で離れると、フラッシュバンの閃光が弾けてザリガニの視力を

 無効化。ついでにスモークでダメ押しして逃げるユウヤ達だった。



 …………



【大変申し訳ありません、モリト君。私が見誤りました。】


「いや、見誤ったのは僕の方だ。最初から避けて――痛ぅぅっ。」



 階段近くまで戻ってきたユウヤチーム。曲がり角からユウヤが見張り、両腕の無いモリトを座らせてヨクミとメグミが治療に入る。

 両腕から流れる血で2人とも血だらけになっている。


 粘着包帯をキツく巻いて止血したら、オヤシキで節約した患部用の特濃回復薬をヨクミが飲ませてショック死を防ぐ。その間にメグミが簡易外科キットで両腕を繋げるように固定する。


「モリト、必ず治してあげるから!私の所為で死なせたりしない!」


「これで固定は出来たわ。ヨクミさんは魔法に集中して!」


 ヨクミが魔法を構築する間に、メグミが黄色い光をタメ始める。


「じゃあ先に私ね。ツメはメグミがお願い!”イズレチーチ”!」


 魔法が発動すると彼の切断面は水が浸透するかの如く、骨や神経・筋肉・血管などが再び繋がれていく。


「ははっ、凄いねこの魔法。痛みがどんどん消えていくよ。こんなに効果があるものだったんだ。」


「モリト、腕は動かせる!?」


「さすがにまだ無理かも。あとでリハビリしなくちゃね。」


 モリトは指や手首を動かそうとしてみるが、ピクピク震えるだけだ。

 痛みは消えたが肘から先が自分のものではないような感覚を覚える。それでも大したものだが、ヨクミの頬には涙が流れて抱きついた。


「ううう……」


「そんな、泣かないでよ。おかげで無事だったんだしさ。命どころか腕が付いただけでも儲けものだよ。ね?」


「てい。」


 ピッカァァァァァアアア!


 このままだと延々イチャイチャされそうなので、メグミは言葉短かに溜め込んだ光をモリトの腕に注入した。


「お、おお?動くようになった!」


「ええええ、ホントに!?やったー!!」


 まだ多少は違和感が残るが、先程とは比べ物にならないほど指まで動かせるようになったモリト。ヨクミは思わず強く抱きついた。


「神経とかはただ繋ぐだけじゃなくて、ストレスの緩和も大事よ。多分私の光だと強制的にその辺も癒せるのね。」


「へぇ!さすがだね。助かったよ、ありがとう!」


(むー……)


「そ、その分私は病気とかウイルスは治せないし?大半はヨクミさんが治してくれたから出来たのよ。」


 ヨクミの表情の変化を読み取ったメグミはフォローに回る。ついでに視線でモリトにもフォローしろと訴えた。


「そ、そうだね。ヨクミさんありがとう。お陰でまた君を守る事ができそうだよ。」


「ばッ!!何をっ、言ってっ!」


「へぇ、モリトも言うようになったわねぇ。じゃ、私はユウヤの方を見てくるからよろしく~。」


 ニヤニヤしながらユウヤの方へ走っていくメグミ。残った2人は顔を赤くして固まるのであった。



 …………



「どう?」


「近づいては来ないが、まだ居るな。」


【恐らくテリトリーを守る役目を負っているのでしょう。】



 ユウヤは曲がり角からチラチラと顔とギアのカメラで覗いて、先程の4足歩行のザリガニの様子を伺っている。あの2体は何も無い空間を纏って活動していて、肉眼ではたまに空間の揺らめきを確認出来る程度だ。なのでほぼ37ちゃんの映像頼みである。


「モリトの方は……大丈夫そうだな。せめて情報があればなぁ。」


【すみません、私のデータベースにはありません。】


「あいつ、多分地下の目録に在った首刈りソーセージね。挿絵とぜんぜん違うから分からなかったけど……」


 地下での記憶を思い起こしながら情報を落とすメグミ。トオノ・サツキの書いた挿絵はソーセージの両脇にカニのハサミが書かれた謎のほんわか仕様だった。


「知ってるのか?」


「その名の通り双生児。たしかアイカちゃんとエイカちゃんの細胞を使って作られたらしいわ。」


「ああ、くそっ!通りであのチカラは……それで弱点とかは?」


「装甲が厚いし曲がっているから物理以外が良いかも。相手も色によって属性が違うとかなんとか……それでこちらを怯ませて首を狙うのが彼らの戦術だったハズ。」


 メグミは目録の記憶を辿って追加で特徴を列挙する。ただしそれを読んだ直後に安定剤を飲んで幽霊騒ぎがあったので、抜けている部分もある。


 目録には双子のチカラは再現出来ていないと書かれていた。しかし今のモンスターは明らかにチカラを使っている。


「となると火炎放射も選択肢に入るが……風向きには気をつける必要があるな。」


「あと、意外と繊細みたいよ。私なら怯ませられるかも。その間に後から火炎放射とか。」


「二重に危険だろ、それ。」


「そうよ、そんな危険をおかす必要はないわ。あいつらは私がぶっとばすから!」


 後ろからヨクミの宣言が聞こえて、モリトに横からくっついた彼女が現れた。照れてる場合じゃないと気づいた彼女はモリトを傷つけた相手を自分の手で倒したいと考えていた。


「もう良いのか?ていうかヨクミさんが倒すって……宮戸島の時みたいにするのか?」


「無茶よ、ここには窓も無いから私達までドザエモンになるわ。」


「そこはほら、私が”本気”をだせばどうって事ないもん!それに、この先の戦いでは私が本気を出せるようなスペースは無いでしょ?」


「なるほど、だったら僕たちのチカラを温存しようって事だね。」


「一理あるけど……メリーさんと37ちゃんがショートしないか?」


【一応、このギアは防水加工済みではあります。】


「このスマホもだけど、ヨクミちゃんのは耐水の方が良さげーー」


37ちゃんとメリーさんが応えると、ヨクミは自信満々な顔で被せてくる。


「大丈夫だって!まぁ見てなさい!……やっぱり見ちゃダメ!メグミ、ユウヤを隔離して絶対に見ないようにして!」


「なんだよそりゃ……お、おい!」


「いいからこっちに来なさい!メリーさん、37ちゃんも絶ッッ対に記録とかしちゃだめだからね!」


 ヨクミの言い方からピンと来たメグミは、ユウヤを引っ張って階段側へ顔を向けさせ、汗拭き用のタオルでギアごと目隠しする。


「良い?モリトもちょっと目を閉じてなさい。」

「う、うん。」


 モリトが目を閉じて後ろを向くととシュルシュルと布擦れの音が聞こえてきて、その手に布らしき物を渡された。


「こ、これは?」


「しまっておいて。後でまた履くんだから。」


「!?」


「もう目を開けていいから、私の背中から抱きしめて水の鎧を作りなさい!規模は……さっきの防御と同じくらい!」


「!?、!?……わ、わかった。言う通りにするよ。」


 動揺しっぱなしのモリト君。それでも言われた通りに彼女のズボンと下着をバッグにしまうと、後ろから抱きしめて大規模な鎧を作る。


「うんうん、いい感じね。じゃあ私の本気、いっくわよーーっ!」


 パアアアアアアアアッ!


 ヨクミの身体が浮きながら発光して、彼女自身に施された魔法が

 次々と解除される。足は鱗に覆われた人魚のそれになり、全身から魔力が迸ってキラキラと輝いている。青い髪にグラデーションが掛かってモリトの顔をくすぐった。


「うっわー!すっごい綺麗!」


「ふわぁ……」


 メグミが思わず賛辞を送り、抱きつくモリトも放心状態だ。


「この状態なら全力で魔力を使えるわ!みんなには守護結界を張るから安心してね。」


 ヨクミは両手を組んで祈るように詠唱を開始する。


「イストーク……モーリ・オーゼラ・リカー・ヴァダパート・カナール・カタラークタ・ウスーチエ・アキアーン――」


 彼女は全て水を連想させる単語を詠唱に使って周囲の空気を藍色に変色させるほどの魔力を溜め込んだ。


 キィィィィィン……。


「む……敵が近づいてる!急いで!」


 気圧の変化で耳鳴りがし始めたあたりで、メグミの悪意センサーに反応があった。足音は聞こえないが、きっと空間を纏っている所為だろう。ともかく警告して先を促した。



「大丈夫、もう完成よ!パドヴォードヌイ、”パローク”!」



 ヨクミはモリトを引きずりながら通路に躍り出て、両腕を広げて全身から魔力を解き放つ。視界が海底のような暗さに変化する。


 そのまま腕を前方に向けて暗く重く強力な水流……いや激流を、見えない敵にぶちかました。



 ブゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ズドッシャアアアアアア!!



 それは一瞬で首刈りソーセージを飲み込んだ。


青色の方は冷気やら水やらには強く作られていたし、空間を纏うという反則的な相手ではあったが、そんな事は関係なしに圧倒的な質量でその身を押し流されてしまった。


 結果として首刈りソーセージは廊下の突き当りの壁に激突して、水圧で押し潰された。


 ズドオオオオオオオン!


 直後に廊下の壁が抜け、川に向かって大量の資材と水が放流される。

 このフロアの壁はただの鉄筋コンクリートではなく、特殊な炭素繊維や鋼鉄の板などが仕込まれているのだがそれも関係なしに貫いた。


 そしてそれが起きたのは正面だけでなかった。西側の廊下の突き当りでも同じ事が起きていたし、天井もダクト部分から水が侵入してそのままクジラの潮吹きのように舞い上がっていた。



「これが私の本気!海底の激流の威力よ!ふにゃぁ~~。」



 風通しが良くなったフロアを確認して満足したヨクミは、そのままくったりとモリトに体重を預ける。最後に幾つもの魔法を自身に掛けて、人間の姿に戻った……が。


「もりとー、パンツ履かせて―……」


「ええッ!?」


 人間に擬態する魔法を掛けたら本格的に気力が危なくなり、思考能力が落ちたヨクミがトンでもないことを要求する。


「ダメよ!私がやるからモリトはあっち行ってなさい!」


 さすがに許容できなかったメグミが下着とズボンを奪い取る。


(青、か。あまり手入れは……っといけないいけない。)


 浴衣のお姉さまの件があったせいか思わず観察してしまったが、これでは男達と変わらないと気づいて慌てて履かせた。



 …………



「しかしまぁ、えげつない威力だな。閉鎖された施設が一気に

 風通しよくなったぜ……」


『窓もなく息が詰まる思いでしたし、ちょうどいいわね。』


「大自然はさいきょーなのだー。」



 ユウヤチームは激流の爪痕の感想をこぼしながら、再び廊下を南下していた。彼らとその装備は宣言通り無事に済んでいた。

 ヨクミも栄養剤を飲んで自力で歩いてはいるが、まだヘロヘロ状態でモリトに支えられている。


「下の階とか、想像したくもないな。」


「これってモンスターも全部流れちゃったんじゃない?」


「いや、さっき程じゃないけど風が冷たいから油断は禁物だ。」


 雪山の吹雪のような問題の冷気はまだ止んではいない。施設が穴だらけになったお陰でほとんど軽減されているが、この現象の原因は取り除けてはいないようだ。


「むしろこれでミキモト達まで流れてたら楽で良いんだけど。」


「むしろ面倒だろう。こんなデカイ川をサラッて、爺さん達の引き上げ作業とか勘弁してほしいぜ。」


「ターゲットはローカだけ、部屋の中はぶじのはずよー。」


「へぇ!さすがヨクミさんだ。よくあんな出力で細かい制御を

 出来るもんだね。」


「おこちゃまとはネンキが違うのよー。」


「ブフッ!」


 ヘロヘロながらもぶった斬る台詞にメグミは思わず吹き出した。


「あ、こらメグミ!笑わないでくれよ!」


「ごめんごめん、悪気はないのよ。でも、ブフッ!」


 モリトは抗議するが、笑いは止まらない。チカラに目覚めて仲間の為に活躍してきたモリトだが、この世界に飛ばされる前から魔法を扱ってきたヨクミには敵わない。が、そのヨクミ本人が疲れて眠くなったお子様みたいなので余計におかしかったようだ。


 ブブブ、ブブブ……


 スマホが振動するのでユウヤが確認すると、端末の中でメリーさんもくすくす笑っていた。


「まったく、緊張感が無いな。ほら、ここの部屋なんてどうだ?ここなら確かマシな部屋だっただよな。」


 ユウヤは南側の武器庫兼会議室の扉を開けながら仲間に入るように促す。この部屋が陰湿な研究施設ではないことは、事務所のセキュリティシステムの見取り図で把握済みだ。


「また寒くなってきたし、そうしましょう。」


 最奥の冷気の発生源に近づいた所為か気温はまた下っている。意識した途端に余計に寒く感じた一行は、足早に室内へと駆け込んだ。



 …………



「また会ったな。さっきの音は君達の仕業か?」


「ハルさん!みんな無事だったんですね!」



 武器庫兼会議室にユウヤチームが入室すると、先客であるハロウに声を掛けられた。その後にはソファーに座るサイトウと、暖房にかじりつくように身体を温めるヘミュケットが確認できる。


「まぁな。隣のモニター室で様子を探ってたら、急にカメラが使えなくなってあの爆音だ。何事かと思ったぞ。」


「お騒がせしました。でも、ザリガニみたいな奴は倒しましたよ。」


「へえ、マジかよ。オレの妖刀以外じゃ碌なダメージにならなかったのに、君らもよく倒せたもんだ。」


「彼女の水流で押し流して……そちらでも倒したってことは、結構”居た”感じです?」


「ああ。それに実験室前にはワンサカ気配があった。しかもあの吹雪だろ?オレらとは相性が悪そうだから情報収集も兼ねてここで暖をとってたんだ。」


 ユウヤとハロウが情報交換をしている。その間サイトウ達は口を挟まずにこちらへ視線だけ向けていた。それにやや圧力を感じたメグミ達も黙っていたが、不意にヨクミが声を上げる。


「奥まではパロークがとどいてないわー。なにかに邪魔されたみたいに……だからその辺にはまだいるはずよー。」


「ヨクミさん、補足ありがとう。そういう訳で、良かったら協力して突破しませんか!?」


「ん、まあそれが一番なんだろうけどな。」


 奥の手のパロークの成果を補足したヨクミ。まだ驚異は去っていないのなら、目的が同じな者同士で協力するのが当然の流れだろう。


 ハロウも一応同意するが、言葉とは裏腹に乗り気には見えない。


「なにか気になることでもあるんですか?」


「それなんだがな……」


「それは私から言うわ。」


 困ったように口ごもるハロウに代わってヘミュケットが口を開く。



「ユウヤ君の彼女、メグミちゃんよね。貴女、何物?公園で何をしていたの?」



「ッ!!ど、どうしてそんな事を?」



 彼女の言葉に明らかに動揺が見えるメグミ。すぐにユウヤが彼女の前に立って庇う。


「待ってくれ!彼女は公園での記憶が無いんだ!無理に聞き出そうとするのはよしてくれ!」


「あら、そうなの?私達がユウヤ君を引き止めた所為であんな事になったじゃない?だからお詫びの検討も兼ねて詳しい話を聞きたいの。」


「詮索無用といったのはそっちでしょう!それにその目と声色、雰囲気で嘘だと分かる。オレ達を化物と認識しながら利用しようとした大人達にそっくりだぜ!」


 つまりミキモト達の同類と暗に言われて少々黙るヘミュケット。


「……残念。でもお詫びを検討したのがキッカケなのは本当よ。隣の部屋で街中のカメラの録画データが見られるの。公園のデータもね?ここまで言えば分かるでしょ。」


「…………」


 メグミは沈黙している。顔色もよろしくない。


(記憶が無いのは本当だけど、その前の暴走は覚えてる……あれを見られたらみんなと、ユウヤと居られないかもしれない。)


 あの戦いはギリギリ正当防衛と言えなくもないし、程度の差はあれど全員手遅れだったのだから問題はないとも言える。


 しかし見栄えに関しては最悪だろうとも考える。


「どうやら心当たりがあるようね。私は化物やそれを生み出すものを許すつもりは――」


「そこまでだ!それを言ったらブーメランだぜ、吸血鬼さん。」


「ま、そうよね。だったら貴方達も隣で確認してみたら?その上でどうするか決めると良いわ。」


(でもそうか。記録を確認すれば……なら迷うことは無いわね。)


「何言ってんだ!メグミはオレの彼女で仲間で――」


「良いわ、見に行きましょう。」


「メグミ、挑発に乗る必要はないぜ!?彼らが協力しないならオレ達だけで突破すればいいだけだしな!」


 ユウヤは目に見えて焦っていた。彼も薄々は良くないコトが記録されているのは分かっている。


『彼女のおかげでこの子と話せる様になった――』


 公園のベンチに居た幽霊の言葉が示す言葉。少なくとも人が死ぬ何かがあったのは確かなのだから。


「私がアレなのは今更だし、映像を見れば記憶も補完できるわ。」


「それはそうだが……分かった。オレはずっと味方だからな。」


「うん。解ってる。ありがとう。」


 2人のフィールドを形成しながら彼らはモニター室へと移動する。



(((きっと本当にアレな映像なんだろうなぁ。)))



 仲間達も謎の安心と信頼感を持って後へついていく。


「まずはここからね。公園に着いた所で警官に――」


 へミュケットが解説しながら機材を操作すると数時間前のメグミの姿が映し出された。その警官の結末に驚く間もなく避難民達の最期と、残る警官たちの事切れる様が飛ばし飛ばしで映されていく。



「どう?これでも彼女を仲間として――」



「何だ、いつものメグミじゃないか。心配して損したよ。」



 彼女の意地悪な問いに、食い気味に口を開いたのはモリトだった。



「「「えっ!?」」」



 同時に驚く声を上げたNT組とメグミ。彼氏のユウヤや、もしかしたら同情が入りそうな同性の仲間ならともかく、彼が最初なのは意外だった。


「これを見せてどうする気なのかは知らないけれど、何も問題はないじゃないか。」


「今のを見てどうしてそう言えるんだい?住民が大勢彼女に殺されているんだぞ。それにあの赤黒い触手は……」


「亡くなられた方は残念です。しかし料理を口にした跡があり、全員ゾンビ化の兆候が出ています。それに彼女のチカラについては僕達なら出会った年から知っています。悪意に対して反応するオーラであそこまで明確に薙ぎ払ったという事は、それだけのモノが彼女に向けられていた証拠。つまり正当防衛です。」


 すらすらと解説するモリト。赤黒オーラについては本人の剥き出しの感情でも出てくるが、それは面倒なので省く。


「モリト、正解よ!信じてくれてありがとう!」


 思わず彼の手を握って上下にブンブン振り回すメグミ。


「……僕も、守れなかったヒトは多かったからね。」


(オレの出番が……いやうん、解ってるけどよ。)


 出番を奪われたユウヤは微妙そうな顔ではあるが、モリトが口火を切ったのには理由がある。NT組が驚いた様に同性や恋人から文句が出ればその辺をつついて因縁も付けられるが、他者から見て一番繋がりの少ない彼からここまで言われれば反論を1つ封じられる。


 実際は仲間をひたむきに観察し続けた彼だからこそ、導き出せた答えではあった。


「君達、これが普通って……苦労してたんだなぁ。」

「シュン、そんな呑気なこと言ってる場合じゃないでしょ?」


「ええ、それはもう。たまにユウヤが恐怖で不能になるくらいには。」


「「「ブフォッ!!」」」


「僕も今夜までチカラが使えなかったから、迷惑度合い的にはアイコですけどね。」


 思わぬ言葉に噴き出す大人たち。それを見て自分の欠点も挙げてバランスを取るモリト。だが当然収まらない女が1人。


「それ、バラす意味あった!?」


「笑いが取れて良かったじゃないか。さっきのお返しさ。ていうかその反応をしなければバレなかったんじゃない?」


「うぬぬぬぬ、さっきの感動を返せ!」


 手を強く握りしめながら食って掛かるメグミに、モリトは水の鎧でクッションを作りながらシレっとそんな事を言う。ちなみに今回もユウヤのスマホはバイブレーション機能が絶好調である。


「コホン、どうやら大丈夫のようだな。最近になってミキモトに何か仕込まれていたらと思って確認しただけだ。」


 サイトウが意図を明かして、「なんだ、そういうことかよー。」といった空気が流れた。実際はもう少し欲のある話だったが、そういう事にしてこの場を収める。


「私の身体は魔王事件でエンドウってお医者さんが何かしたみたいなんです。おかげで助かったけど、よく解らない感じで……」


(医者でエンドウ?あやつなら妙な手術も可能だろうが……だがそんなハズはないか。)


 サイトウは脳裏に汚職事件を起こした元部下が浮かぶが、魔王事件の時には既にこの世に居ないことを思い出す。



「危険がないなら良いが、続きも見るか?」



「そうだった!この後の記憶が全く無くて!」


「私達もこの辺までしか見てなかったから気になるわね。」


 サイトウの言葉に、本人もヘミュケットも興味を示して再生ボタンを押した。


 どうやらNT組は衝撃的な映像を見てメグミの事を話し合っている最中にパロークの激音が聞こえて中断されていたようだ。


 再び再生される公園の映像。仲間への合図。ミサキらしき感染者との戦い。その後の治療と謎の黒尽くめのシーンが流れた。


(やべええ!)

(これは……マズった!?)

(もしやこれは……!)


(((地雷踏んだッ!?)))


 ユウヤチームが何か言う前に、NT・サイトウ組は心の中で焦っていた。


 それはそうだろう。魔王が何かの処置を施しているという事は、記憶を消したのも彼が何らかの意図を持ってした事だと分かる。


 それをワザワザ本人に暴いてしまっては、依頼人である現代の魔王の意思にそぐわない行為をしてしまったことになるのだ。



『彼女の持つ”門”は世界を滅ぼしかねない。だから蓋をしておいたのに……何でニンゲンは高度な自殺をしたがるんでしょうね?』



 心の中に響く声に、3人は冷や汗がダラダラである。そもそもハロウが言ったようにお互い詮索無用で済ませていれば何も問題は無かった。

 それなのに中途半端な情報で勘違いしてコトを優位に進めようと欲を出したおかげで、人類が窮地に陥っていた。


「な、なあみんな!取り敢えず検証は後にして先に進もうじゃないか!」


「そうよね!そろそろ相手も疲れて寝ちゃうかもしれないし!」


「うむ。まずは団結して驚異を振り払うのだ!」


(((怪しい……)))


 大人達の動揺ぶりに、オカルト組を含めたユウヤチームは心が1つになった。彼らを放っておいて会議を始めることにした。


「ポイントは2つだな。」


「ミサキと魔王ね。」


「まずはミサキだが、彼女があの街でも簡単に感染するとは思えない。オレ達の中でも1番耐性があるし、実力はいわずもがなだ。」


 ちなみに2番目に耐性があるのはメグミである。

 ソウイチチームの話題が出たので、ここだとばかりにモリトも続く。


「1つ情報を開示したい。フユミさんの話によると、21時頃にアイカちゃんとエイカちゃんが魔王と戦っていたのを見たらしい。ただその姿は人ではなかったみたいだけどね。」


「おいおい、初耳だぜ?あの2人が魔王とだって!?」


『黙っててごめんなさい。私が口止めしてたの。気がつけば魔王も2人も居なかったから、正直意味がわからなくて……』


「わかった。いや分からんけど……つまり化物になっても意識はあるってことか。」


「魔王と戦ってたならそうかも!ミサキもなんか私と話しているような場面があったし!」


「それでさっきの耐性の話だけど、3人共感染してるって不自然じゃない?フユミさんも強力なクスリを射たれそうになったみたいだし。だから多分だけど、ココでのバイタルチェック中に感染させられた可能性があると思う。」


「なるほどな。となると残ったのはソウイチ……あっ!」


「まさか、アレがソウイチ本人だった!?」


 モリトの推論から紐解かれる答え。妙にソウイチらしい行動の化物。


「心当たりがあるんだ?その相手はどうなったの?」


「教官が現れて瀕死のアイツを連れて行った。つまり教官はソウイチの事を知ってたのか!」


 ユウヤはドクドクと心臓が脈打ち叫びたい衝動に襲われる。おもむろに精神安定剤を飲み干して頭を回転させて考える。


「ソウイチ・ミサキ・アイカにエイカ。全員魔王の手に落ちてるって事だよな。しかも、瀕死状態で……」


 アイカ達は瀕死かどうかは分からないが、それが21時台の出来事だと言うなら22時過ぎに魔王が目撃された時点で無事ではないだろう。


「こうなった以上は魔王の気まぐれに期待するしかないかもね。今までも、場合によっては助かる人も居るみたいだしさ。」


 モリトが前向きな発言をするが表情は暗い。今までの数々の事件で関わった人の殆どが死亡、又は行方不明となっているからだ。


「その魔王なんだけど……ココ!このタイミングで私に何かしてるのよね。何故かナースさんが血を抜いたみたいだけど、それとは別に。」


 メグミが見様見真似でパネルを操作して魔王と接触した辺りで一時停止する。


(というかこの人、夢の手紙のマキマキさん?)


 メグミは変な所に注目するが、今は関係ないかと横へ置く。


「黒いオーラ……か?てことは精神系だよな。なにか変わった事はあるか?」


「このチカラが安定したくらいかな?お陰で暴走はしないけど、苦戦はしてるわね。こう、心の底に蓋がされたみたいな感じ?」


 赤黒いのを手からぼんやり発動させながらメグミは答えた。


「え?つまり魔王がメグミを助けてくれたってこと?この後ユウヤが通るベンチに運んでるし。」


「ある意味そうかもしれないけど、なんでかは解らないわ。」


「「…………」」


 首をかしげるヨクミとメグミ。その横でNT組は冷や汗が止まらない。


「その辺で良いのではないか?ヤツが何を考えているかは分からぬが、別に害はないのであろう。」


 サイトウもその辺は深く突っ込んではマズイのではないかと話を終わらせようとしている。


「でも、記憶が消されたのはまだ理由がわからな――」


「頼む、協力するからこれ以上はやめよう!な!?」


「後でゆっくり話せばいいじゃん!ね!?」


「「「怪しい……」」」


 大人達の必死の説得に、思ったことを素直に吐き出してしまうユウヤ達であった。



 …………



「確認するぞ。オレ達が初手を担当する。その奥にいるであろう何者かは君達に任せる。一応余裕があれば手伝うつもりだが、あまり期待はしないでくれ。」



 そう言って妖刀を構えるハロウとコウモリ弾を用意するヘミュケット。


 場所はモニター室の北側の廊下である。生物実験室に繋がる廊下は氷の壁とそれを空間の操作で支える青い首刈りソーセージがガードしていた。パロークが届くのに多少タイムラグがあったとは言え、短時間でこのバリケードを形成するのは相当の判断力とチカラが必要だと考えられる。


 今はそのバリケードをNT組が破壊しようとしている所だ。


「解ってますって。でも吸血鬼が寒さに弱かったのは意外だったぜ。」


「冬の寒さ程度なら平気だが、この冷気は血流に影響が出てな。君達も気をつけてコトに当たってくれ。」


「「「了解!」」」


 NT組の後ろには対魔シリーズに身を包んだユウヤと火炎放射器装備のモリト、その後ろにメグミとヨクミが待機している。サイトウはその後方、つまり最後尾である。


 結局ユウヤが対魔シリーズを着ているのは寒さ対策である。


 何を今更と思うかもしれないが、この冷気の中で高速移動すると身体が冷え切って大変な目に遭ってしまう。なのでメグミには少し我慢をして貰ってユウヤの凍傷を防ごうという判断だった。



「行くぜ!「討伐付与」!はあああああッ!」



 キィィィィィン!ズバババババババッ!



 心臓部分を輝かせて一気にチカラを妖刀に籠めて氷の壁に叩き込む。

 氷の壁とその空間を固定していた青色の首刈りソーセージのチカラを、スパスパと豆腐のように切り裂いた。同時に通路の奥から、今まで以上の冷気が流れ込んでくる。


「「「ギギギギ、ギガッギギギ……」」」


 絶対の自信があったバリケードを、腕のハサミごと持っていかれた青色達は動揺からかヤケっぱちな突撃を始めて、体当たりや短くなった腕をブンブン振り回す。


「戦場でパニックになったら終わりだよ!」


 ヒュババッ!ヒュバッ、ヒュババッ!ヒュバッ!


 へミュケットは相手を引きつけてから溜め込んだコウモリ弾を何度も纏めて発射する。それはショットガンの様に敵の突進力を見事に殺し、怯んだ所を直接頭部を破壊されたり、ハロウの妖刀のサビとなった。


「今だ、行ってくれ!」


「「「了解!」」」


 ユウヤがバリケードと青色ソーセージの亡骸を越えると、廊下には雪が積もり壁は分厚い氷が張っていた。そして目の前には空間の揺らめきがあり、ヘッドギアのバイザーには赤い首刈りソーセージがひしめいている。


「赤首4!メグミ、ヨクミさん!」


「てええいい!」

「”ヴァルナー”!」


 ユウヤが睨みつけて速度を低下、モリトは大量の鎧の水を循環させてバリアを張る。そのモリトの肩越しにメグミが光を放射して敵の攻撃行動をじわじわと阻害する。

 ヨクミの中和剤入りの水流で、装甲は無理でも手足の関節にダメージを入れていく。彼女からは見えないのでぶっちゃけ狙いは適当だ。


「ギ!?ギギギグボグボグボ……」


 一体だけ口から入ってモロに頭が焼けたのだろう。もがき苦しむ声と共に姿を表して、同時に倒れて動かなくなる。


「やったね、クリティカル!」


「助かる!華払いだ!うおおおおおおおッ!」


 残る3体に対し踊るような身体さばきでユウヤが対魔ナイフを振るう。

 ハサミは空間ごと断ち切ってくるのが解っているので、ハサミの付け根から優先して切り裂き分解していく。


「トドメだ!死散光ッ!!」


 ズドドドォン!! シュゥゥゥゥン!


 対魔ナイフを相手に向けて3連続で発射される紫の刃に、赤色の首刈りソーセージ達は見えない砂となって消えた。


「よっしゃ!」


「冷気の主は!?」


【推定、突き当りの右側です。】


 廊下の先を見れば凍りついた壁の突き当りは右へ折れて続いている。

 左側は生物実験室で、右が休憩室……実質仮眠室になっている部屋に繋がっていた。


「ここがセキュリティの効かなかった場所よ!」


「なら纏めて吹き飛ばすか!妖吹雪で一気に行く!」


 37ちゃんの情報とメリーさんの補足を受けて、一気にケリをつける決意をしたユウヤ。少々迂闊ではあるが、気持ちは解らなくもない。


 というのも進めば進むほど激しい冷気の向かい風を受けて、凄まじい勢いで体力が削られている。ユウヤは対魔スーツのお陰で動けているしモリトの鎧のお陰でメグミも直撃は防げているが、それでも寒いものは寒い。というか痛い。

 RPGで言うなら1歩進む度に10ダメージを受けているような感覚だ。


「おおーい、気をつけろよー!」

「相手をよく見て戦うのよー!」


 後ろからはNT組の応援が聞こえてくる。彼らはこの冷気では近づく

 ことも出来ないようだ。


「モリト、一応フラッシュバンで目を、そしたらオレが――」



『――――、――――。―――――!』



「「「はっ!?」」」


 その時またユウヤ達の頭に謎の天啓だか電波だかが受信された。


「危ねぇ、このまま行ってたら負けていたかもな。」

「不思議よね。天啓というか誰かに助言された感じ。」


「こいつを持ってきたのはこの為か。」

「見せ場ね、ビシっと行きなさい!」


 盛り上がるニンゲン組だが、人外組は何が何やらサッパリだった。


【あの、頭大丈夫ですか?】

「37ちゃん、ニンゲンってたまに変な電波を受信するのよ。」


【私の方にはそれらしい反応はありませんでした。】

『こちらもです。機械的にも自然的にも反応が無いのは不自然よね。』


「オカルト的にもね。あ、やっぱりダメなんじゃ……」

【ここまで激戦だったと推測できますし。いい病院の検索を……】


 人外組に本気で頭を心配されているが、ユウヤ達は勝利を確信していた。


「ほらほら、隠れてないで出てきなさい!」


 ヒュゴオオオオオオッ!


 曲がり角の向こうから女の声と共に猛吹雪が発生して、慌ててモリトとヨクミが水で壁を形成する。直撃は防いだが、後方まで吹き抜けた吹雪が大人組をキンキンに冷やす。


「こんな中で出て行けるワケが無いだろ!好き勝手言ってくれるぜ。残暑も抜けてきたし冷房は勘弁してくれよ!」


 水壁ごしにユウヤが叫ぶ。好き勝手と言うのはメリーさんも含んでいるが本人に皮肉は通じなかった。その際にモリトに対魔ナイフとヘッドギアを渡してハンドサインで合図を送る。


「勝手はそっちでしょう!こんな身体にしてくれて!」


「……止めてくれれば首謀者を捕まえられるんだ!一旦落ち着く気はないか?」


 相手に知性があるなら一応穏便に収めるように声を掛けておく。

 聞いてくれたら儲けモノ程度の考えだが、そうでないなら別の狙いもあった。


「それは自分でやるわ。このチカラなら特殊部隊もミキモトも、すべて私の手で捕まえられるもの。」


「ああ、そうかい。二兎を追うとどっちも手に入らないぜ?」


「いい加減出てきなさい!」


この冷気の元凶が業を煮やし始めた時。



 ズドドドォン!シュゥゥゥゥン……。



「え!?」


「こんばんはー!」

「夜分遅くに失礼するよ。」


 冷気を発生させていた女、白い簡素な病院着を着た彼女は驚いて後ろへ振り返る。


 そこには壁を紫色の剣で突き破ってきた男と、青髪の女が空中に大きな水球を作って浮いていた。


「会ったばかりだけど倒させてもらうよ!」


 吹雪の中で濃い緑色の肌の彼女だが、強力な冷気によってお肌自体はツルツルだ。


「時間稼ぎだったのね!く、喰らいなさい!」


「”S・ネード”!!」


 ヒュゴオオオオオオオオオオオオ!!


 女は右手を掲げて全身から吹雪を放出し、対するヨクミはサメが飛びそうなほどの嵐を発現させる。自身が纏う水球と合わさった嵐は、相手の冷気と混ざって廊下中にダイヤモンドダストを発生させた。


「”ゼールカラ”!」


「鏡!?こんなもの!」


 パリィン!パリパリィィン!


 自身の周りに設置された6枚の水……いや氷の鏡。女は冷気を纏めて撃ち出すことで破壊する。


「お次はこうよ!集まれ~~!」


「なんで、こんなっ……」


 その嵐の中で女は視界が遮られ、さらなる吹雪を撃ち出そうとするが何の反応もない。むしろ彼女を中心に球状に吹き荒れて、その範囲がどんどん狭まっていく。


「な、なんで!」


「僕も同じチカラだからさ!」


 嵐の中で足元からかろうじて声が聞こえ、反射的に下を向く彼女が最後に見たものは火炎放射器のノズルを構えた男の姿だった。



「火葬放射ッ!」



「ひっ……」



 ドゴオオオオオオオオオオオオ!!



 オプションパーツのレバーを最大に設定し、燃料を一気に消費して放たれた炎が吹雪の女を襲う。球状に隔離された中に外側から空気をどんどん取り込んで、中身を文字通り”火葬”する。


 やがて燃料が尽きて攻撃を終えたモリト達の前には、彼女の痕跡は何も無かった。周囲の氷すら溶けかけている。代わりに火炎放射器は今の一撃で黒焦げになって壊れていた。



「何で、ここまで戦いたがるんだろうな……」



 モリトは武器とヘッドギアを外して汗を拭うと、その光景を見てため息をつく。


「やったね!ナイスファイトよモリト!」


【モリト君、お疲れさまでした。作戦成功です。】


「モリト、さすがだな!よくやってくれた!」

「回復するわ、てええい!」


 ヨクミが近寄ってきて、尻もちをついたままのモリトの頭を胸から抱きしめた。ついでに曲がり角の向こうからユウヤ達も現れる。苦しいのと恥ずかしいのとで、ヨクミには一旦離れてもらうモリト君。


「あ!ご、ごめんね!?」

『あらあら。』


「ふう、正直生きた心地がしなかったよ。移動も彼女の攻撃も――」


 ヨクミさんの胸も。とは続けずに作戦を振り返る。


 ユウヤから渡された対魔ヘッドギアとナイフを身につけたモリトは水を集めて自分とヨクミを包む。

 その水をヨクミが操作してモリトを引っ張りながら高速で階段近くまで回り込み、37ちゃんのナビで壁を分解した。

 敵との交戦もフェイント・煽り的な行動で悪視界を誘発させて、それを利用してモリトが近づき足元から火葬したという流れである。


「奇策だらけにしては上手く行って良かった。ヨクミさんもナイスファイトだったね。」


「いえーい!」


 褒められたヨクミは座ったままハイタッチする。


「これであとはアレだけだな。」


 ユウヤはいまだ凍りついている生物実験室の扉を親指で示した。

 一同がコクリと頷く中で大人組が追いつきサイトウが口を開いた。


「待ちたまえ。まずは全員そこの部屋に入るが良い。」


「サイトウさん?あとはミキモトを逮捕するだけだし、このまま行きましょうよ。」


「おじーちゃん疲れちゃった?さっきぶつかっちゃったとか?」


 ヨクミが超スピードで廊下を疾走した時の事を思い出すが、轢いた覚えはなかった。


「お前達、気づいておらんのか?チカラとクスリに頼りすぎて相当なダメージが蓄積されている。もしソウタが切り札を用意していたり、魔王が現れたら死ぬぞ。」


「疲れはあるけど、今なら負ける気はしてません!」


「連戦で心がすり減っているのに気づいてないのだ。現に先程の戦闘も無茶で無慈悲なコトを平気でやり始めている。サイトでも若い者によくある事だ。大人しく休め!」


「う、まぁ……話は分かったけど、そんな時間は無くないですか?」


 ユウヤは一応は納得する。自分を含めてメンバーはもう普通に限界だろう。しかしだからといって時間が湧いて出てくるわけでもないのは常識だろう。


「時間はオレが作ってやる。ほら、みんな部屋へ入れ。お前達もだ。」


「「「どういうコト?」」」


「噂のサイトマスターのアレか。お世話になるぜ。」

「休める時に休むのは大事よね。」


 10年前の海外遠征時には当時の○○○○に世話になっていたNT組。

 本家の空間構築と聞いて嬉しそうだ。


 ともかく風通しの良くなりすぎた廊下から休憩室に移動した一行。

 廊下はトラブル時の為に敢えて一本道にしてあったが、今や黒い組織とは思えぬオープンぶりだ。



「ぅう~~ん、ぬくぬく!」

「手足の感覚が戻ってくるのが実感できるわね。」

【暖房器具もトイレもあるので快適ですね。】

「設備が揃ってるなら最後の休憩には丁度いいかもね。」


 休憩室はほとんど仮眠室としての用途で使われており、ベッドが幾つも並んでいた。エアコンだけでなく電気ストーブもあり、自販機付きでトイレも完備している。


「オレ達の部屋より豪華だな。それで、時間を作るってのはどうするつもりなんだ?」


「待っておれ。ぬううううん!」


 サイトウはドアと壁に手をついてチカラを流し込んだ。


「ふぅふぅ……これだと8時間が限界か?これでは部下にトシをからかわれても怒れぬな。」


「本家だとこんな感じなのか。」

「サイトウさん、やるじゃない。」


「「「?」」」


 何をやってんのこのお爺さん……って顔で見ているメグミ達だったが1人だけ気づいた者も居た。


「今のは……この部屋を世界から切り離した?」


「分かるのか。そういえばお前は時間に干渉できるのだったな。とにかかく今はそこのベッドで休むが良い。」


「では早速使わせてもらうよ。さ、ヘムも一緒に。」

「じゃ、おやすみなさい―!」


「オレはここで良い。取り敢えず寝てから準備を整えるのだ。」


 速攻でベッドの1つを占領して寝息を立て始める吸血鬼。サイトウもそれを見てソファーに腰を下ろして目を閉じた。


 ともかく安全なんだろうという空気を読んで、まずはヨクミがベッドへ這い上がる。


「疲れと気温の変化でダルくなってる所でこのベッド、これが天国ね。」


 ヨクミは脱力してベッドに沈んでいった。その際に水の魔法で清潔さを取り戻してお肌と服まで綺麗にしておいたのをフユミは見逃さなかった。


 それを見た彼女はピンときてモリトへ手招きする。


『ほらほら、モリト君も一緒に。大丈夫だから!』

「え!?いや、でもだって……」

「すぴー。」


 ヨクミはもう既に寝ている。きっと時間まで起きないだろう。


『つべこべ言わない!一緒のほうが回復が早いんだから!』

「そ、そういうことなら……」

『……タブンね。』

「!?」


「モリト、そこまで行ったなら気にするな。」

「がんばれー。」


 仲間の適当な応援を尻目に、仕方なく彼女に布団を掛けてあげてスマホの充電を開始すると自分も横になるモリト。

 隣から発せられるいい匂いにクラクラして、彼はすぐに夢の世界へと旅立った。


(やっぱりね。ヨクミは絶対モリト君を意識して、魔法で汚れを取ったでしょ。おやすみなさい、2人とも。私も寝よっと。)


 その考えが合ってるかはともかく、フユミはヨクミを包むように霊体のまま横になった。


「えっとこのコードで良いのか?スマホは……一応やっとくか。」


 ユウヤはヘッドギアとスマホの充電をセットして、すすっと近づくメグミを抱き寄せてごく自然に同じベッドに入り込んだ。


「ユウヤ、私達の前で始めたりしないでよね!絶対よ!」

【接吻までなら箇所によっては記録可能です。】


「フザケてないで休んどけよ。37ちゃんも乗らなくていい!」


「AIに表現の規制が入ってるのも驚きだけど……今日は凄い夜になっちゃったわね。」


「そうだな。大変な事ばかりだけど、面白い出会いもあったしな。」


「あと少し、頑張ろうね。こうして側に居られる、ように……」


「ああ、いつまでも一緒だ。おやすみ、メグミ……」


 言葉の途中で眠ったメグミにおやすみのキスをして目を瞑るユウヤ。



【接吻を検出しました。保存しますか? Y/N 】


「YES!」



「黙って寝てくれ!」



 37ちゃんとメリーさんにツッコミを入れたユウヤは布団を深く被るのであった。


「ふっ、若いな。」


 その様子を横目で見ていたサイトウは、一言だけ呟いて眠りに落ちた。


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