表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/120

104 アフターファイブ その6

例によって前倒し更新です。

ここから事件の終盤戦に入ります。

 


「さーて、遂に帰ってきたが……」


「これじゃあ通れないわね。」



 10月5日推定1時15分。ユウヤチームは自分達の住んでいた特別訓練学校に繋がる橋の入り口、守衛所に辿り着いていた。

 学校のある川の中洲に渡るにはこの橋を通らねばならないが、その入口のゲートには鉄格子が降りていた。


 中洲には水害と敵の侵入を防ぐための強固な壁が設置されていて、それがここからでも威圧感を放っているのが見えている。


「僕が開けてこよう。みんなはここで待っててくれ。」


「キリキリ働けー!」


『私達が出る時に開けたハズなのに……モリト君、気をつけてね。』


 モリトは車を降りて、受付窓から内部に入って機械を操作し始める。


 水星屋の在った中央交差点からここまでは驚くほど順調だった。たまに開いてる穴やガレキを避けるのと、ユウヤが死亡フラグを口走りそうになった以外は問題は無かった。

 街の北側は繁華街に比べれば出歩く人は多くはない。故にケーイチにあまり狙われておらず、街外れ以外は通行もしやすかったのだ。


 ここまでは順調だったし、今もモリトが順調に操作方法を探って鉄格子を開ける。これで幅広2車線の橋が通行可能になった。


「こんなもんだね。さあ行こう。」


「おーおー、得意になってー。」


(ふふ、ヨクミさん楽しそうね。)


 ユウヤが車を寄せるとモリトが乗り込んで発進する。ヨクミが先程から煽ってきてるが悪意はない。現在は曖昧な関係だが、彼女なりに距離感を測りつつ楽しんでいるようだ。


「ユウヤ気をつけて。さっきのゲート、防犯カメラがこっちを追って見ていたわ!」


「ッ!もっと早く言ってくれ!みんな、周囲の警戒頼むぞ!」


「「「了解!」」」


 メリーさんの注意喚起にユウヤが反応して緊張感が高まる。帰還がバレているならいつ仕掛けられてもおかしくはない。


「ぶーー、どっちにしろ見つかってるなら、門を開けるまではリラックスしてた方が良いと思ったのに。モリトが置いていかれたかもしれないし。」


「そんなことするか!……でも忠告ありがとな。メリーさんも気を使ってくれたのに、言い方悪くてすまん。」


「ふん。分かればいいのよ。」


 拗ねたメリーさんを宥めつつ、ユウヤは前方を警戒している。


 パシャパシャパシャン。


 その時、モリトの耳にかすかに水の弾ける音が聞こえてきた。


「川からだ!飛びついてくるよ!」


「「「ギシャアアアアア!!」」」


「確認した!掴まれ、左右に振る!」


 ユウヤの目も宙に飛び上がったモンスター達を確認して車を蛇行

 させて取りつかせない。


 何事もなく橋に着地することになったモンスターはサハギンタイプ。人型に鱗とヒレの付いた水陸両用の化物で、水場ステージでの訓練に出てきた奴だ。主にモリトが”世話になった”モンスターである。


 パシャパシャパシャン!


 おかわりが飛び出てくるが器用に避けるユウヤ。免許の試験では一度落ちた彼だったが、むしろ有事の際の荒い運転は得意だった。


 だが後半のサハギン達はモリを持っていた。大きく振りかぶって投擲の構えを取る。


「ユウヤ、槍で狙われてる!きゃっ!」


 メグミがそれに気付いた時にはバシュン!と音を立ててタイヤが射抜かれ、車はスリップして橋の端で簡素なガードレールに支えられてギリギリ止まる。


「ふう、危ねえ……みんな降りて応戦だ!家まで走るぞ!」


「了解だ!これだけ水があるのなら!」


 真っ先に躍り出たのはモリト。水の鎧を形成するだけでなく、車の周辺を守るように水の壁を張っていた。


 ズボズボズボズボッ!


「「「ギギャ!?」」」


 サハギン達が放ったトドメの第2射のモリが水の壁に刺さると、壁の中のうねる水流に巻き取られて川に弾いて落としていく。


「射程は短くても想像力でカバーすればこんなもの!!」


「そして私の出番ってワケよ!”パトーク”!」


 ゴゴゴゴゴ、ズバッシャアアアアアアア!


 サハギン達は激流に飲み込まれて下流に流されていった。

 水陸両用で水耐性はあるとは言え、津波のような水流には大抵の生き物では敵わない。


「ははは、モリトのやつ更に頼れる男になったな。」


「これは驚いたわね。こんなに水を自在に操れるなんて。」


 モリトとヨクミの後ろでユウヤ達は心底驚いていた。ユウヤは親友の覚醒とも言える成長ぶりに、とても嬉しそうである。


「「「ギギギ、ギシャアアア!」」」


「っといけねえ。次が来るぞ!家まで後少しだ駆け抜けろ!」


「ヨクミさん、”追い風”お願い!」


「まっかせなさーーい!」


 ビュオオオオオオ!


 モリトの願いを聞いて風精霊のチカラで全員を包むヨクミ。

 全員マラソンランナーのような速度で残りの橋を渡っていく。


 正確には追い風ではないが、一種の隠語だ。空気抵抗の低減と駆け出す足にブーストを掛けてくれと伝えたのだった。



 …………



 一行は敵を振り払って壁の門を通り、特別訓練学校の玄関口までやってきた。

 多少は弾薬を使ってサハギンを川へ落としたりもしたが、モリトとヨクミの連携でかなりの節約出来ている。


「ふー。みんな街で慣れてただけあってここまでは順調だね。」


 モリトはキョロキョロと索敵しながら仲間に声を掛ける。


「モリトの功績が大きかったな。頼りにさせてもらうぜ?」


「任せてくれ。今までの分を取り戻すよ。」


「私が鍛えたんだから当然よね!でもあんまり褒めると付け上がるから気をつけなさい!」


「ヨクミさんもいつもより楽しそうよね。」


 一同は顔を見合わせて笑顔で頷きあって、真剣な顔に戻る。


「さて、ようやく玄関だが……ここの警備員さんも居ないな。」


 全員でガラス張りの玄関の外から覗き込んで確認する。


「見知った場所なのに嫌な感じがするわ。」


 メグミは悪意を感じ取って胸を押さえるが、不思議と赤黒いアレは漏れ出してこない。


「普通の学校では家に帰るまでが遠足らしいけど、帰ってからもサバイバル、か。僕達らしいね。」


「格好つけてないでさっさと行くわよ!ここまで来たら進むしか無いんだから!」


「その通りだ。馴染みの場所だからって油断するなよ!」


 ユウヤはリーダーらしく先頭に立って、ショットガンを構えながら入り口のガラス戸を押して――開かなかった。


「ゴフッ。」


 腰だめに構えていたショットガンの銃口が扉に当たって柄が彼の胴を打つ。間抜けな呼吸障害におちいって咳き込む彼をメグミが心配し、彼のスマホから飛び出したメリーさんが扉を調べている。


「電子ロックね。任せて、妨害してあげる。」


 彼女が回路にチカラを通すと、カチリッと音が聞こえて普通に扉が開くようになった。


「ざっとこんなもんよ。ユウヤはもう少し慎重に行動しなくちゃだめよ。見た所リーダーなんでしょ?」


「ユウヤは普段は頼もしいのに、変な所で油断が入るからね。」


 ユウヤの呼吸が整うまではと、モリトが先頭で侵入する。

 彼らからすれば自宅なので奇妙な話だが、奇しくもこの場所がラストダンジョンとなった。



「電気はついているが職員さん達は居ない、か?」



 入って目の前の受付に誰も居ないのを確認する一同。


「一通り調べてみましょう。事務所や医務室とかから証拠品も見つかる可能性があるし。」


「地下の立ち入り禁止区域や、訓練場各種も怪しいよね。」


「まずは1階からにしよう。どうせバレてるだろうけど、慎重に行動してくれ。特に索敵は怠らないようにするんだ。」


「「「了解!」」」


 一行は事務室に移動して情報がないか調べることにした。

 部屋に入って電気をつけるが誰も居ない。訓練の様子を確認する為の大型モニターも何も映していない。


「まず必要なのは情報だ。書類やパソコンをあたってくれ。」


「そういうのは任せるから私はちょっと補給しておくよ。」


 ユウヤの指示でメグミとモリトがデスクを漁る。ヨクミは室内のウォーターサーバーから水を抜き取って水筒に入れていた。飲料用ではなく水鉄砲の弾薬と魔法の効率を上げる為だ。

 そんなことをしつつも風の流れを読み取っていて警戒は怠っていない。

 ユウヤは壁のモニター横にある掲示板に貼り付けられた告知に気がついた。


「ん?特殊部隊の諸君、生還おめでとう?……フザケやがって!」


「何か見つけたの?」


 急に悪態をつく彼にモリトが反応する。


「いや、教授のメッセージが貼ってあった。生還おめでとう、さっそくだが新型生物兵器のテストを行う。精々頑張りたまえ。だとさ。」


「やっぱりそう来るか。ヨウミさん、索敵に何か引っかかった?」


「ううん。今の所は何も。」


「新型が出ているらしいから気をつけて。」


「あいよー!」


 彼女は一言だけ返事をすると黙りこくる。フユミとテレパシーで相談しているのだろう。そこへメグミから報告が入る。


「ユウヤ!1つだけ無事なパソコンを見つけたけど、ロックが掛かってて開かないわ。」


 たくさん並べられたパソコンは電源すら入らなかった。唯一起動できたモノもパスワードがわからない。


「メリーさん、何とか出来るか?」


「任せなさい、さっきのジャミングより簡単よ。」


 机の上にスマホを置くと本体に霊体の腕を突っ込んでチカラを送るメリーさん。


「ええっと、パスワードのデータは……ここね。」


 入力画面どころか設定ファイルを直で読み取るセキュリティも何も関係ない彼女。相手の背中を取るのは得意なのだ。


「kisekiっと……あら、違った。」


「おいおい、大丈夫か?」


「ちょっと間違っただけよ!kisakiっと。これでオーケー!」


「やったな。さすがメリーさんだ。」


 褒めるユウヤの脇でモリトがカタカタとキーボードとマウスを操る。


「ふふーん。ちょっと似た文字列だったから見間違ったけどね。でもなんでキサキなんだろう。素直に奇跡で良かったじゃない。」


 得意気になるメリーさんだが、自分が間違った責任を設定者に押し付けていく。


「こういうのって大事な人の名前や誕生日が多いわよね。」

「あのMADハゲにも浮いた話が有ったってこと?」

「教授の色恋沙汰とか想像したくもないけど。」


 メグミのぽろっと出た一般論にヨクミとモリトが嫌な想像をしてしまう。人間誰しも若い時はあり、老いていくモノだ。その事はまだ想像できない二十歳前の彼ら。


「それっぽい単語でパソコン内を検索してるけど、なかなか証拠らしいのは出てこないな。メールも全て消されてるし……」


 どうやらモリトは苦戦中らしいが突如ブゥゥゥンという音とともに事務室の巨大モニターに光が灯る。


「何!?ミキモト教授か!」


 そこには事件の黒幕の姿が映し出されていた。



 …………



「教授、ユウヤチームは無事に帰還を果たして今は事務室を調べています。」


「ようやくか。その日の内に帰ってこいと言っておいたのに随分遅かったのう。」



 特別訓練学校の訓練棟2階。そのモニター室ではサワダが見たままを報告している。街もそうだが学校内もカメラが多く仕掛けられていて、その様子はだいたい把握されている。


 その報告を0時を30分は過ぎた時計を見ながら聞いたミキモト教授は立ち上がる。浄水場の近所なので当然時間が狂ってはいるが、そちらの事情を観測する事は出来なかったので彼らは気付いていない。


「どれ、地獄を生き抜いてきた彼らに労いと激励の言葉でも掛けてやるとするか。準備してくれ。」


「はい、いけます!これの前でどうぞ。」


 ミキモト教授は指定されたカメラ付きモニターの前に立つと、語り始めた。


「では……オホン!諸君、先ずはおかえりと言っておこう。任務帰りの身でよくあの街を抜けてきたものだ。それはとても素晴らしい。素直に称賛を送らせてもらうよ。予定より少々遅かったが、まあそれは若者のする事だしな。良いとしよう。」


 まずは軽くジャブを入れたお帰りの挨拶から入る教授。大げさな身振り手振りも相まってウザさが増している。


 事務室の様子を見ると悔しそうな顔や困惑した顔が見てとれて、満足そうに彼は話を続ける。


「君たちは当然様々な疑問を抱いておることじゃろう。しかし今ここでそれを明かすつもりはない。知りたければ我々のもとまで辿り着いてから聞き出すのじゃな。もっとも、途中には新型の生物兵器が放たれておる。彼らの襲撃から生き延びることができればの話じゃが――」


 そこまで得意気に話した所でユウヤチームが何やらゴソゴソと机に向かってなにかしている。それが終わると一枚の紙をカメラに掲げてきた。その内容は……。



【聞こえてね―よ、ハゲ!!】



 どうやら音声の出力に不具合があったようである。もしかしたらネオ・シズクの影響かもしれない。その辺は定かではないが、ユウヤには教授のウザい仕草と顔しか届いていなかった。


「あれ?おかしいな。整備はしてあったハズなんだけど。」


「もういい、切っとくれ。何をしても恥の上塗りじゃ。」


「はーい。それで、この後は予定通りに?」


 すぐに厚生棟の事務室との通信を切って、怒られる前に次の話へ移すサワダ。父親のトウジのチカラと同じく柔軟に対応する。


「むう、そうじゃな。彼らは街で相当鍛えられておるハズじゃ。そろそろ例のモノの最終調整に入ってもいいじゃろう。」


 教授はユウヤ達は地獄を生き延び精神的にレベルアップを果たしていると見る。ならばこの後の計画の為に、早めにコトを進めるのが懸命だろう。


「はい。では指揮は予定通り彼女達にしてもらいます。」


 サワダは室内訓練場「オヤシキ」に内線で連絡を入れる。その後2人はモニター室を出ると、同フロアに在る生物実験室に向かった。



 …………



「さて、宣戦布告は済んだな。簡単にこの先の事を伝える。」



 事務室でユウヤチームは円陣に近い形でミーティングを始める。宣戦布告と言うには少々変化球だったが、命の危険が迫っている最中なのでそれは横へ蹴飛ばしておく。


「設備からしてヤツラは訓練棟だ。急いで向かうのもいいが、ここは装備を整えて向かうべきだと思う。」


「良いと思うよ。今の装備はガタがきている。この厚生棟で出来る限り装備の更新と補給をしておこう。」


 モリトがすぐさま賛成する。彼らの武器防具は激戦によって壊れかけている。弾薬もこのままでは心もとない。


「それでいいわ。」


「どっちでも良いけどフオンな気配が近づいてる!」


「来たか、オレが出る!まずは受付から見て回るぞ!」


「「「了解!」」」


 受付を目指す理由は簡単、毎朝訓練前に弾薬などを支給されるのがそこだからだ。きっと今も何かしらの武具がそこにあるハズだった。


「いくわよ、せーの!」


 メグミが事務室のドアを開けてショットガンを構えたユウヤが廊下へ飛び出す。すると目の前には小型のモンスター3体が、驚いて目を見開いていた。


 体長1mほど。頭は人間の3倍近く長く、モヒカンのように配置された棘が特徴的。皮膚は黒く、大きい水ぶくれのような緑色のデキモノが各所についている。30分舐め続けられる飴玉のようなコウタクが余計にバケモノ臭を醸し出している。


 そしてそれらが目視で確認できたということは、ユウヤのチカラの射程内に入ったということだ。


 ズドォン!ヒュン、ズドォンズドォン!


「「「…………」」」


 正面から一発、すぐに背後に回って怯んだ個体を処理する。


「こんなもんだな。もう出てきて――」


「「「ギャラアアアア!」」」


「まだ居たのか!この、離せ!」


 影に隠れていたのか、別の3体がユウヤの身体に取り付いてきた。背中と両足にまとわりつかれ、ユウヤの身体にかじりつく。ダメージの重なったバトルスーツは貫通されてしまったようだ。


「く、力が抜けていく?」


 緑色の30分舐め放題の飴の部分に赤いモノが混じっていく。

 どうやら吸血しているようだ。すぐに他のメンバーが飛び出してくるが、銃を使うにしても位置が良くない。それは本人も同様だ。


「任せて!はあああああ!」


 メグミが回復の光を発生させてユウヤに取り付く彼らに平手を打ちにかかった。


「「「ギャアアアアア!」」」


 ジュワアアアァァァ……。


 過回復を引き起こした彼らの細胞がドロドロに溶けていき、

 ついでにユウヤの噛み跡は回復される。


「もう、油断しちゃだめでしょう?」


「ありがとう、助かったぜ……こいつら戦い慣れてる。みんなも気をつけて立ち回ってくれ。」


「……それにとても力が強いみたいだ。このスーツはもうダメだね。あの受付の中で新しいバトルスーツを拝借しようよ。ヨクミさん、念の為に除菌をお願いできる?」


「リョーカイ!”イズレチーチ”!」


 除菌の光がユウヤを包む中、モリトは周囲を警戒しながら考え事をしていた。


(さっきのは新種だよね。なんで不意をつく連携が出来るんだ?)


 訓練で使われてるモンスターならリサイクルされて学習して強くなることはあった。だが、初対面でユウヤを出し抜くのは難しい。


 モリトは最初の3体の死骸を確認する。特に機械らしき物は付属していない。


(この種族は元々頭が良いのかな?)


「おーい、モリト。こっちに来てくれ!1人じゃ危ねえぞ!」


 呼ばれて見れば、彼らは受付に裏口から入ろうとしていた。


「ああ、今行くよ。先に入ってて!」


 モリトが小走りで合流しようとするとユウヤは受付に入っていく。続くメグミの姿が見えなくなってすぐ、最後のヨクミが振り返って何か言おうとした時。


「モリ――」


 ドゴッ!


「ぐはっ!!」


 緑の何かが彼の背中に着弾した。モリトは吹き飛ばされて前のめりにゴロゴロと転がって止まる。そこへ緑色の生物が追撃体勢に入る。


「やらせないわよ!」


 その時にはヨクミが水鉄砲カスタムで狙いをつけていた。


 パシュゥパシュゥ!


 魔力で強化された細い鉄砲水が正確に緑色の生物、ウサギの眉間を撃ち抜く寸前に軌道を変えて回避してしまう。


「はやっ!”ヴァダー”!」


 ウサギは一度廊下を蹴ると次はヨクミに突撃してくる。水球を飛ばすがそれも華麗に避けられてしまう。


「危ない!」


 異変を察知したメグミが受付から出てきてヨクミを突き飛ばしてウサギを回避。着地してすぐに襲いかかってくるウサギだったが、その時には水の鎧を纏ったモリトが2人を庇うように立ちはだかっていた。


 ドムン……。


「駆け込み乗車は危険だよってね!」


 モリトの鎧に突っ込んだウサギは水の中で藻掻いている。


「このまま凍らせる!D・ダスト!」


 シュウウウウウウウウ!


 数秒で氷漬けになったウサギを床に置くと一息つくモリト。


「ヨクミさん、助かったよ。水をくれたおかげですぐに動けた。」


「ま、これくらい出来て当然よね!メグミもありがと!」


 水鉄砲の後のヴァダーはモリトを狙ったものだった。それを使って鎧を形成し、ほぼ0距離でしか使えないセルフ・リチェーニエで回復しつつヨクミ達の前に躍り出たのである。


「みんな無事か!?うわ、なんだこれ……」


 そこへ半裸のユウヤが現れて氷ウサギを見て驚いている。

 ドロドロでボロボロなバトルスーツを脱いでいる最中だったようだ。


「話は後にしてユウヤは着替えてくれ。終わったらそこの医務室で対策を練ろう。僕達はここを見張っておくから急いで!」


 モリトとヨクミが廊下で見張ってユウヤとメグミが中へと戻る。


「……なんかモリトの方がリーダーに向いてねえか?」


 ユウヤは受付内に戻ってメグミにそんな事を言う。冷静な判断と開花したチカラ。今夜はミスが目立つ彼はちょっと自信が揺らいでいるようだった。


「そんな事ないわよ。ユウヤは決断して素早く動く行動力がある。モリトはユウヤがそうしてくれるから考える時間が貰えてるの。」


「そ、そういうもんかなぁ。」


「そうよ、つまり良いチームってこと!」


 ぴっとり寄り添いぺたぺた触られながら着替えたユウヤは気を取りなおして廊下へ出る。


「おまたせ、新作のスーツが有ったから貰ってきたぜ!」


 ユウヤは見せびらかすように見張り組の前に出る。今まで使っていた物より丈夫かつ軽くて動きやすい。税金をこれでもかと注ぎ込んで作られた逸品で、これならカスタム装甲と合わせて致命傷を防ぐのに役立ってくれるだろう。


「随分早いね……へぇ、いいじゃん。実は僕も新作を受け取って部屋にあるから、後で寄って回収させて欲しい。」


「おう、そっちもだいぶ傷んでるしな。さぁ敵が来る前に医務室に行こう。」


 一行は感想はそこそこに次へと向かう。モリトが装備回収に乗り気だったのはそういう意図もあったらしい。


 実はチカラ持ちのユウヤ達とモリトでは、バトルスーツの仕様が違う。


 チカラ持ちの方は動きやすさと属性防御重視でモリトのは防御力重視である。更に言えば多少弾薬の携行数も多い。

 メグミの物も少し違って防御が若干切り詰められている分、チカラの浸透率が高い繊維を使っていて回復役に適している。


 この違いは能力者用はサイトからの技術の応用、チカラ無しの場合は自衛隊員の応用で作られている為だ。おかげで彼らは役柄にあった装備を身につけることが出来ていた。


 ちなみにヨクミはちょっと丈夫なだけの隊員制服を着ているのは以前も記した通りである。彼女は面倒なことが嫌いなせいもあるし、自前の魔法で防御力を高めているのだ。



「手前クリアよ!」

「奥もクリアだ!」


「どうやら安全らしいな。メグミ、必要なものを集めてくれ。」


「了解!」


 医務室に入った4人、いや6人はクリアリングを済ますと物資を漁り始める。いそいそと医療品をバッグに詰めるメグミの横で、ヨクミがデスクの引き出しをゴソゴソしている。


「多分ここだと……あったあった!」


「避妊具?どうすんだそれ。」


 得意気に箱を掲げるヨクミにユウヤがツッコミを入れる。


「もちろん水爆弾を作っておくのよ。備えあれば憂い無しって言うでしょ?さあモリト、さっそくここに詰め込みなさい!」


「え?あ、ああ……」


「何変な顔してるのよ。終わったら私に貸しなさい。私の水球と合わせて2段構えの爆弾にするんだから、さっさとする!」


(うわー、モリトったら微妙そうなカオ~。)


 好きな相手に爆弾を作るからと嬉々として避妊具を押し付けられたモリト君。

 メグミが憐れみの感情を持つくらいには、彼はフクザツな表情で避妊具に水魔法を詰めていく。それを奪い取って今度はヨクミがモリトの水球の周りに更に覆うように水球を作る。


(この先どうするかは分からないけど、こうやって何かを一緒にするのが大事ってお母さんも言ってたし!)


 ヨクミ1人でも出来ることだが、モリトの練習と共同作業による一体感を楽しむために手伝わせていた。


「これで完成ね!3つだけだけど、必要ならまた作ればいいし!ほら、モリトの謎ポーチにしまっておきなさい。あんたが一番道具の使い所が上手いんだから!」


「うん、うーん……」


 見た目より物が入る謎ポーチに水爆弾・Wを入れながら、更に顔が微妙色にそまるモリト。


(モリトのやつ、どう受け止めていいか悩んでるみたいだな。)


「あ!モリトってば何か期待したの?このすけべー!」


「いや、そんな……」


「前も言ったけど私は卵生だから……から……いや人間状態の時は……もう、さっさとメグミの手伝いでもしなさい!」


 ヨクミは言ってて自分が何を口走ってるのか気付いて赤くなる。気まずい空気が流れる中、ユウヤがモリトの肩を叩いて医務室の隅へ誘導する。


「モリト、気にすんなよ。女ってのは別種族なんだ。ヨクミさんは文字通りだが、どの女もよくわからんのが普通だ。男の常識は通じないのが当たり前だと思え。」


「そ、そういう認識でいいのかい?」


 ユウヤはモリトに肩を組んで男女付き合いの先輩として助言をする気になったようである。距離感が開いている内は魅力的に見えた部分が、近づくと微妙に感じるのはよくある話。それに直面して戸惑う真面目な親友を放っておけなくなったようである。


「どう対応するかは人によって違うからそれは自分で見つけてくれとしかいえない。だがこういう時はまず全てを飲み込むんだ。」


「飲み込む?そういうモノだと受け入れろってこと?」


「ああそうだ。それで何ともなければそれで良し。腹を壊すような事態になっても、時間が経てば勝手に出ていって勝手に治る。いちいち気にして落ち込んでる暇はないってことだ。」


「要はそれすら楽しめと言うことかい?それは難しいと思うけど。」


「何言ってんだ、破天荒なヨクミさんが気に入ったんだろう?オレだって良く解らないメグミが気に入って側にいる。もっと知りたいから近くにいるんだ。距離を縮めたくらいでビビるなよ。」


「うん、そうかもしれないな。頑張ってみるよ。さすがはユウヤだ、説得力が違うよ!」


「だろう?それが出来てこそ男は甲斐性ってものが――」


 講義を続けるユウヤの後ろでは女達が意味ありげに背中を見ている。


(なんか2人とも、引っかかる言い方するわよね……私がアレなのは自覚もしてるし、モリトが上手くいく為だから口を挟んだりしないけどさ……)


(私がメグミと同類みたいな言い方なのが気になるけど、さっきのは男の子的には失敗だったのか……わからないわぁ。)


((ま、頑張りなさい。))


 メリーさんはメグミの、フユミはヨクミの肩を叩きながらテキトーな励ましを送る。生態的に男を必要としない彼女たちは気楽である。


「ちょっと重いわね。欲張りすぎたわ。」


 使用者に絶望を与える拷問器具(体重計)にバッグを乗せて重量を確認すると、少し荷物を減らすメグミ。物は多ければ良い訳ではない、

 と、各地に出張するようになってからは痛感している。何事も程よい数というものがあり、国民的RPGのように各種クスリを99個も持つのは移動に難が出るだけだと感じていた。


「そうそう、ちょっと気づいたことがあるんだけど。さっき出会ったモンスターってさ、妙に手際が良いと思わなかった?」


 モリトが現実的な話題を振ってきたことで微妙な空気はすぐに消えて無くなる。


「まあな。こちらのスキを作ったり突いたり、さすがは新型ってとこ……?おかしいな。」


「新型だっていうならそういう事もあるんじゃない?」


「だからこそだよ。彼らは僕達のことを知らないハズだ。初陣なら戦い方だって怪しいものだ。」


「でも事実として2人はダメージを受けた、か。という事は誰かが指揮を取っているってこと?」


 フユミが思いついた答えにモリトは頷く。


「教授あたりが指示を出して、最初からそれを理解して実行出来るとしたら……この先は苦戦するかもしれない。」


 自分たちはカメラで見られている。だとすればスキを見せればまた即座に襲ってくるだろう。


「よし、なるべく6人揃っての行動。メリーさんとフユミさんは警戒を強化。分かれるにしても3:3でなるべくスキを見せないように心がけよう。」


「「「了解!」」」


 各種クスリを手に入れ、方針を決めて次へ進むユウヤチーム。実際は既にカメラでは見られていないのだが、その事は知るよしもなかった。



 …………



「まさかこれほどとは……これは見過ごすわけにはいかぬな。」



 その頃、特別訓練学校入り口に降り立ったサイトウ・ヨシオ。彼もまた、20時台にマスターに声を掛けられた1人である。老いた身ゆえに終盤での転移による参加で、3人の護衛付きだ。


 街の惨状は聞かされていたが、時間・空間の危うい状況に彼は絶句してしまう。

 歪んだ原因はかつての部下である○○○○が食い止めたが、それでもこの土地には後遺症が残って復旧は難しいだろう。


 驚異を排除する側が、その驚異に後始末をさせるイビツな夜。この先どう転んでも人間社会に良い未来をもたらさない事件だ。


 彼はかつての友人との約束通り、凶行を止める決意をする。


「マスターがVIPを呼んだって聞いたが、まさかサイトのマスターとはね。ちと呼び名が紛らわしいな、サイトウさんと呼んでも?」


 その時護衛として付けられたコンドウ・ハロウが後から声をかける。


「それで良い。こちらもNTグループの重鎮夫婦に会えて光栄だよ。」


「あら、口が上手いおじいちゃんね。」


「長生きして生きるすべを知っておるだけさ。今夜はよろしく頼む。トキタもな。次会う時は敵同士だと思うておったが、まさかの展開に心臓が若返りそうだぞ。」


「アイツ絡みだと予想なんて意味無いですから。よろしくです。」


「うむ。こちらこそな。」


 挨拶が済むと電子ロックの”掛かった”ガラス扉をケーイチが分解して進む。どうやら玄関すら時間が狂っているようだ。


「あれ?あいつらどうやって入ったんだ?」


「壊してから気付くのかよ。あんたって意外と脳筋なんだな。」


「うるせえ。」


「ふむ。オレからしたら気付いただけマシだがな。」

「サイトウさんまで……」


「時間が歪んでるならそういう事もありうるんじゃ?」


「そういう事だろうな。ほれ、お出迎えが来たぞ。」


 サイトウの言う通り”30分舐め放題”と”駆け込み乗車”が

 5体ずつ襲いかかってくる。


「「「ギギャアアアアア!!」」」


「任せな、華払い!」


 ケーイチが躍り出て次々と分解されていく新型モンスター。しかしそのどさくさにウサギが高速で回り込んで、一番弱そうなサイトウの顔面を狙う。


「ギャ!?」


「早さが自慢みたいだけど、オイタが過ぎるよ”後輩”。先輩には敬意を示すのが日本式よ!」


「「キュアアアアアア!!」」


 ヘミュケットが両手でウサミミを掴んで振り回すと、叫びながら目を回す”駆け込み乗車”。床に叩きつけられたところをハロウの妖刀で真っ二つにされた。


「こいつら無駄に早いが、吸血鬼ほどじゃねえな。」


 既に2体を切り裂いていたハロウは余裕そうである。


「頼もしいな。サイトに欲しい人材だ。」


「ジョーダン。私達も人類からしたら狩り対象よ。もうこれ以上魔王軍を増やしたくなければやめることね。」


「むう……残念だ。」


「人聞き悪いな。別に魔王軍ってわけじゃないぞ。ただの善良な何でも屋だぜ?」


 残りを全滅させたケーイチが戻ってきて冗談半分に抗議するが、ツッコミ所はそこではない。既にあんたらは魔王の仲間じゃねえか!が正解である。


「トキタもあの動き、見事だった。さて、まずは事務室に行くとするか。その後は危険なモノの排除と、ソウタを止めねばな。」


「まずは情報収集か。オレが先行するんでサイトウさんを頼むぞ。」


「サイトウさん、危険なモノってなんだ?」

「……おいそれとは口に出来ぬものだ。見れば分かるがな。」


 足早に先を行くケーイチとあとに続く3人。事務室前まで来ると戦闘の跡を発見する。


「アイツラも事務室に来たようだな。この遺体、溶けてやがる。何をしたらこうなるんだ?」


 殺された”舐め放題”の半分がドロドロになっている事に注目するケーイチだったが、サイトウは別の事が気になった。


「バトルスーツの切れ端が落ちてるが血の跡が無いな。吸血の類いかもしれぬ。」


「あら、本当に後輩なのかもね。」


「もう少し容姿に気を使ってれば可愛げもあるんだが、やっぱりヘムが一番だな。」


「……男ってバカね。」


 しょうもない冗談を言い合いながら事務室に入る。



『諸君、先ずはおかえりと言っておこう。任務帰りの身でよく

 あの街を抜けてきたものだ。それはとても――』



「「「ビクン!」」」



 遅れて出力されたミキモト教授の音声に思わず体が強ばるサイトウご一行であった。



 …………



「そうだ、これも持っていこう。」



 食堂横の広いキッチンに着いたユウヤチーム。モリトは壁に設置された携帯型の消火器を手に取る。ユウヤは棚をゴソゴソ漁っていてメグミは小型のナイフをバトルスーツに仕込んでいる。


「ご丁寧に4人前だけ置いてあるとか、怪しいもんだ。」


 街中をゾンビだらけした上司たちなら、レーションに注射器あたりで何かを仕込んでいてもおかしくはない。ユウヤはそれには手を付けずに入り口で警戒しているヨクミの下へ向かう。


「使えそうなものはあった?」


「いいや、機械に差すグリスみたいなモノしかない。お弁当はあるし手を付けなくて良いと思う。」


「この2年、そんなんばかりだったもんね。」


「今思えば……オレ達はオトナに守られてたんだなって思うよ。」


「分かるよ。訓練こそ非常識だったけど、大事にされてたよね。」


 モリトも探索が終わって近づいてきた。

 イダーによる暖かい食事。アケミによるバイタルとメンタルの維持。キョウコによる管理と教官の教育による成長。その全てが自分たちの生きるチカラとなっていた。


「キョウコさんにイダーさん、元気に過ごしてるといいんだけど。」


「ユーノーな彼女たちなら今も誰かを幸せにさせてるわよ。」


「私達ももうすぐ成人で、そちら側になるのよね。ううん、今まさに自分達でなんとかしなくちゃいけない状況にあるわ。」


 最後にメグミも揃って全員で頷いている。


『この子たち、苦労してんのね。』

『ニンゲンって大変よね。だから応援したくなっちゃうんだけど。』


 そんな人外同士の感想を尻目に彼らは廊下へ出るのだった。



 …………



「ゲームとかだとこういう所に隠しアイテムが……何かあったぞ!」



 ヨクミの部屋の隣、職員さんの部屋のタンスを漁って横長の箱を見つけた。


 キッチンのすぐ近くの部屋ではあるが、ここに来るまでにも敵の襲撃を受けている。今度は8体の挟み撃ちだったが無事に切り抜ける事ができた。全員でチカラを使えば優位に戦え、そうでないなら拮抗するという狙ったかのような戦闘バランスだ。特にウサギはユウヤであれば攻撃も当てやすいし、小型の吸血モンスターも他のメンバーなら取り付かせる事無く倒せた。


 そう、消耗さえ気にしなければ戦えるのだ。



「なんかイミシンな短剣が出てきたが、どういうモノなんだ?」


「これ、説明書じゃない?僕に見せてよ。」


「しれっと漁ってるけど、外ではそんなことしないでよね。」


「いやだってさ、現にこうして出てきたし。」


「私は分かるわよ。勇者は家探しするのがダイゴミなのよね。」


「それはゲームの話でしょ!」


 そんな事を言い合ってる間にもモリトは説明書を読んでいる。


「これ対魔王用のナイフだって。略して対魔ナイフ……の基礎パーツみたい。」


「基礎パーツ?それだけじゃ使えないの?」


「そんな事はないよ。これには教官のチカラが籠められていて、パーツが有れば更にチカラを引き出せる仕組みみたいだ。」


 モリトの解説に興味をいだいたメグミが横から覗き込む。


「へぇ!どれどれ。チカラとカガクの融合を目指して魔王のバリアを突破するですって?あの教授ってこんなものまで作ってたのね。」


「なんかこう、ニンゲンの……頭の悪いコトを頭のヨサでやり遂げるのは凄いと思うわよ?でもさ、最初から魔王も教官も敵に回すなって話よね。」


「それが出来ればもっと平和だったんだろうけどな。ともかく収穫はあったし、これ持って次へ行こうぜ。」


 ヨクミのモットモな発言に同意しながら対魔ナイフを装備するユウヤ。

 教官の「分解」が出来ると聞いてちょっとワクワクしている彼が居た。



「いっくぜー!華払い!」



 廊下へ出て3体の敵と遭遇した一行。ワクワクが止まらないユウヤは教官の見様見真似で対魔ナイフを構えて突撃していく。

 斬りつける寸前に柄のスイッチを押すと刀身が紫色に輝いた。


「ちょっとユウヤ!いきなり実戦で――」


 ズバッ!シュゥゥゥン、シュシュッ!


「あれ?出力が……うわあっ!」


 最初の1体だけ分解するも残り2体には浅く斬りつけるだけで終わる。手負いの”30分舐め放題”はすぐさまユウヤをかじりだす。


「ヴァダークゥラーク!」


 ドゴッシャアアアアア!


 パンパンパンッ!


 水を纏った拳で2体を弾き飛ばすと、メグミが拳銃でトドメを刺した。


「ユウヤ、説明書もろくに読まないで使う人が居ますか!」


 まるでゲームを説明書も読まずにプレイして、仕様が分からずに憤る若者のようなユウヤに怒るメグミ。とはいえ今はチュートリアルも豊富なのでこの喩えはレトロゲームにしか当てはまらない。


「悪い悪い、今のは軽率だったな……どういうカラクリなんだ?」


「基礎パーツだけだと短時間しか効果がでない。だから教官の技をまともに使うには追加のオプションパーツが必要になるよ。」


 ちなみに連続使用には若干のクールタイムが必要らしい。


「なんだ、そうだったのか。悪かった、これはメグミが持っていてくれ。お前なら調子に乗ったりしないだろう。」


「ええそうね。預かっておくわ。」


 対魔ナイフを腰に装備した彼女はこれ以降、腕の隠しナイフによるカウンターと合わせて戦果を上げていくことになる。


 先程の隣のヨクミの部屋の前。ヨクミが着替えようとしたところで敵に襲われた際に素晴らしい活躍で終わる。


「てい。」


 ザクッ、シュゥゥゥゥン。


 倒した相手を分解して死亡確認をしているメグミを見て、仲間達が口を開きだす。


「メグミは刃物が似合うなぁ。実務的にも雰囲気的にも。」


「確実に怯ませる位置に刺してるもん。プロの仕業よ。」


 水組コンビが好き勝手言い出すと、ひょこんとメリーさんが飛び出して口に手を当てニヤケながら忠告してくる。


「ユウヤ~、刺されないように気をつけないとね!」


「そんな事にならないようにするさ。オレはお前だけだぞメグミー!」


 頬がモミジ型に腫れているユウヤが愛を叫ぶ。先程ちょっとしたお茶目で平手打ちを食らったのだ。


「はいはい、解ってるわよ。全く、みんなは私に何を求めてるのよ。」


 半分呆れながらナイフをしまう彼女は、別に怒ってはいない。モリトのチカラ無しと同じく定番ネタとしてチームの中に在るモノなのだ。

 あとはカレシに公開ヨイショされて照れていたのも少しある。



 その後ユウヤがトイレ休憩を提案。性別ごとに交互に見張りをすることになった。


「ねぇ、ユウヤ。トイレと言えば妙なウワサがあったよね。」


「ああ、便座のか。結局業者の出したバグだったやつだろ?」


「そうそう。でも遭遇すると子供心にはキたのを思い出してさ。」


 並んで用を足してるとモリトは過去の不思議話を持ち出した。便座のフタを開けると他の個室のフタも全部開くという、実害は無いが精神的にクる現象が起きたことがあった。


 真相はフタの開閉をセンサーで感知して各種機能が発動するシステムのバグだった。


「わかるぜ。当時はまだここの訓練を受け入れきれてなかった頃だからな。」


「そうそう、おかげで無駄に怯えもんだよ。今思えばアレがこの学校の7不思議の1つと言えたかもね。」


「かもな。あとはアケミさんの料理とか、逆らうと給料に響くキョウコさんとか。イダーさんの料理知識とかもか。」


「そういう事で笑えてるウチが幸せだったなぁ。」


 モリトはちょっと遠い目で手を洗う。当然チカラで呼び出した水だ。ユウヤは自虐ネタがなくなったかわりに妙な諦観をしだした友人に訝しがる。


「どうしたんだよ急に。」


「なーに、街の学校の動く人体モケーに命を助けられてね。少し思う所があっただけさ。」


 本当はもっとその先。今夜の事件の自分たちの歪んだ立ち位置に思いを馳せていたのだが、おかしな空気になるのを防ぐために誤魔化すモリト。


「……お互いオカルトに縁があるな。」


 だが結局は微妙な空気になった男子トイレ。その空気へ一石を投じる出来事が起こる。


 ガタッ!


「「!?」」


 個室から物音が聞こえて振り返り、視線を交わす2人。オカルト談義をすると寄ってくると言うが、それだろうか。


 そんな視線を交わしてソロリソロリと個室に近づいてドアを開ける。

 すると目の前には大きい宝箱と、そのフタがちょっと開いていて中身の女と目があった。


「マンイーターだ!」


 ズドォン!ズドォン!


 宝箱型のモンスターにショットガンを放つが蓋が閉じて防がれる。

 どういう原理かそのまま体当たりをしてきて、それを避けると今度は蓋を開いて中身の”夜のお店風”姿の女が飛び出し足にタックルをしてきた。


 さらに箱の方も牙を向いてユウヤの頭にかぶりつこうとしてくる。


「ヴァダークゥラーク!」


「ビャッ!」


 箱を上から叩いて女の背中に落とす。ユウヤはフラッシュバンを引き抜いて箱の中に入れて蓋を閉じる。


 カッ!と籠もった音がして箱の中身と、夜のお店風の女が気絶する。触手のようなモノで物理的に神経が繋がっている所為だろう。


「まったく、今じゃ怯えるどころか退治する側になっちまったもんな。」


「ははっ、大人になったってことだね。」


 気絶した彼女を放置して外へ出ると、女達に見張りの代わりを申し出る2人。


「こっちの個室にマンイーターが居たから、そっちも気をつけてくれ。」


 マンイーター。本来なら人食いの驚異の総称だが、この施設では女型の部分で誘惑を試みたりするので男としてはやり辛いことからそう呼ばれている。


 そのまま見張りをしていると中から戦闘音が聞こえてきて、静かになったらフユミが現れた。


『こっちにはソムリエの方が居たけど退治したわ。まったく、悪趣味よね。そんなワケだから、もう少しだけ待ってあげてね。』


 ソムリエ。正式にはテイスティングと呼ばれる、いつぞやのクリスマスで確認された箱型モンスターの人工再現版である。

 人間を頭から箱に引きずり込んで中でベロベロと味見をされる嫌がらせモンスターだ。


「そんなものを配置するとか、何がしたいんだろうな。」


「僕達を始末するには足りてない感じだよね。」


「むしろ街中のほうが危なかったもんな。新型は強いけどさ。」


 そんな話をして女性陣が出てくるのを待って、合流後は2階に移動する。



「またウサギか!早さなら負けねえぞ!」


「私が動きを鈍らせる!”ヴァルナー”!」



 再び現れた新型のモンスター達も慣れてきたユウヤチームには敵わない。水流で速度を落とさせて優位にたって戦いを進める。危険な行動を取る相手なら、そうさせなければ良いのである。


 ケーイチの教えで相手を知れというのは、大雑把に言えばそうする為の正解を探せということなのだ。


「慣れてきたけど、小型だけ有って数は多いから気をつけた方がいいね。あとはフロアが変わって新たな――来たよ!」


 次に現れたのは全身が白の皮膚で髪の毛も無い人型兵器。オカルト雑誌とかでよく見る宇宙人みたいな見た目をしている。


「ルルルルルル!」

「リリリリリリ!」


 奇妙な声を発しながら襲いかかる6体。どうやら細マッチョタイプとツルッツルなタイプと2種類いるようだ。


「どんな相手だろうと、水は偉大なのよ!”ヴァルナー”!」


 ズバシャアアアアアア!


「リリィィイイイイイ!」


 バチバチバチ……!


 先程までと同じく先制の水流で足止めを試みるヨクミ、しかし

 ツルツルの方が前に出て一斉に全身から放電する。


「「「あばばばばばばっ!」」」

「「「ルルルルルルルッ!」」」


 勢いよく放たれた電撃に敵味方問わずダメージを受ける。

 特に水魔法を放ったヨクミと追い打ちを掛けようとしたモリトが膝を付きダウンしている。


 放電したツルツルは電撃こそ平気だったが、水流で壁に打ち付けられてのダウン。細マッチョの方は水は効かなかったが放電で細胞が刺激されたのか、立ったままビクンビクンしていて怖い。


「くっ、自爆技かよ!メグミは治療、オレは細マッチョを!」


 ユウヤは指示を出しながら敵を見つめて相対的な速度を上げる。3対1の形なので一気に仕留めるつもりだ。


「光速ストレート!……何!?」


 パシンッ!パシパシン!


 目にも留まらぬ連続パンチで吹き飛ばすつもりが、相手は反応して拳を捌いてきた。それどころかカウンターも入れてきており、彼は速度にモノを言わせて回避する。


「「「ルル、ルルルル!」」」


 細マッチョ達は口を歪めて手でクイクイと挑発してくる。


「笑ってられんのも今のうちだ!サポート頼むぞ!」

「おっけー!」


 今度は相手の後ろをとって首に蹴りを入れて変な角度に曲げると、次の敵にはメリーさんがチカラでユウヤを引っ張っていく。

 オカルトワープで敵の後ろに現れると後頭部を砕いて、残りが近寄ってきたところをショットガンで吹き飛ばした。


「ルル……」


「「「リリリリ……?」」」


 しかし倒しきれてはおらず、警戒して近寄らない細マッチョ。そのうちに気絶していたツルツルの方が3体とも起き上がる。


「ルルル、ル。」


 最初に蹴りを入れた個体も身体が驚異的な速度で修復しているようだ。


「くっ!メグミ、そっちはどうだ!?」


「下がって、ぶっ放すわ!」


 代わりにヨクミの声が聞こえて即座にバックステップで仲間達の下へ移動するユウヤ。



「山の風を感じなさい!”S・ネード”!」



 ブォォオオオオオオオオオオ!!



 廊下に嵐が撒き起こり、宇宙人達を巻き込んで突き当りの階段まで吹き飛ばしたヨクミ。そこに至るまでに散々床・天井・壁に叩きつけられた彼らは戦意を喪失した。


「すっげぇ……」


「大自然のチカラってわけね……」


「えっへん!偉大なのは水だけじゃないのよ!」


 得意気に語るヨクミだったが、モリトはまだ相手を視ていた。


「ユウヤ、あれ!撤退しているよ。」


 自己修復された個体が倒れた仲間に手を貸して、階段を降りていくのが見えた。


「ここのモンスターってそんな知恵あったか?」


「やっぱり教授たちが指揮を執っているんだと思うよ。」


「だけどあいつら通信機らしいものは持ってなかったぜ?」


「頭の中に埋め込まれているとかじゃない?」


「そもそも言葉って通じるの?」


「教授だったらそういうのも開発してるかもね。」


 モリトは30分舐め放題と駆け込み乗車の遺体から、通信機が入っていない事を確認している。なのでもしかしたら別の仕掛けがあるのかもしれないと思っていた。


 それを確認するためにも連中の身体を見たかったが、逃げられてしまったものは仕方がない。


「ともかく、準備を急いだほうが良いよ。今までは向こうも知らないチカラを混ぜて戦ったけど、ここからは面倒な事になる。」


 この学校に属していた以上、ユウヤ達の情報は知られている。


 街で手に入れた新しいチカラや仲間の情報がバレてしまった今、対策を取られるのは時間の問題だ。そうなっては数が多い分、相手が有利になってしまうという考えだ。


「よし、じゃあ各自の部屋だけ回ってすぐに訓練棟に移動しよう!」


「「「了解!」」」


 一行はなるべく敵に遭遇しないように、最短ルートかつ素早い移動を心がけた。



 …………



「これが例の危険なモノ……なにかの祭壇か?」


「のわりには機械でゴテゴテしてるわね。」



 2階中央のブリーフィングルームを抜けてドアを開けると、そこには宗教と科学の融合したような台座が鎮座していた。

 それを見たNT組はそのまんまな感想を漏らす。


「こいつは転送装置だ。人体だろうがなんだろうが、指定した座標に送り届けることが出来る。近場だけだけどな。」


 ケーイチが概要を説明しながら懐かしむ。本人もこれで訓練棟に移動したり、毎日訓練所に飛ぶ生徒を見送ったものだ。

 そして幼くなったヨクミが異世界ウプラジュから降り立った場所でもある。


「はぁ!?それってワープが出来るって事か!!」


「どうやって作ったの、こんなの。NTでもそんなの作りようが無いシロモノじゃない!」


「当然の疑問だな。そしてそれこそが危険な証と言うわけだ。」


 サイトウは言いながら転送装置に近づいて脇の機械を調べている。


「確かにそうか。これが量産できたら世界の流通が……その前に軍事産業が革命を起こすぞ。権力者からしたら夢の装置だ!」


「うむ。だが人の夢は儚いものでな。ソウタの技術とオレの空間を操るチカラが無ければ実現できん。後は可能性があるのは現代の魔王となった○○○○くらいか。この街へもチカラのみで転移したしな。」


「「あー……」」


 声を揃えて納得するハロウとヘミュケット。そこへケーイチがサイトウへ尋ねる。


「話はその辺で。こいつを分解しちまえば良いんですか?」


「いや、その前にここを見てくれ。」


 サイトウは脇についている制御装置を示す。その名の通り入力した座標へ転送するための動力を制御する装置だ。


「制御装置を?別に特段変わったところはないけど。」


「ふむ、やはりな。ここはオレがやろう。君たちも見ていてくれ。」


「ん?良いけど。」


 ズガッズガガッ!


 サイトウは護衛達に注目させてから転送装置に手をかざして空間を細切れに断絶していく。おかげで転送装置は、芸術家が生み出すよく解らない絵画のような不思議な見た目になった。


「ふぅふぅ……やっぱりチカラを使うと堪えるわい。」


「へぇ、サイトウさんもやるじゃん!これ、護衛要る?」


 ヘミュケットは呼吸の乱れたサイトウの肩をぺちぺちしながら褒めてくる。


「もう絞りカスのようなものだ。戦闘には向かん。一度使っただけでこのザマだしな、ふぅふぅ……」


「サイトウさんよ、他にもあるならオレも手伝うぜ。オレの妖刀も空間を断ち切るチカラだからさ。」


「……早く言わんかい。」


 ちょっと恨みがましいジト目でサイトウはハロウを睨むが、八つ当たりなのは分かっている。サイトウさんもお爺ちゃんなのだ。


「何するか教えてくれてれば言ったさ。それよりオレ達に確認させたのは意味があるのか?」


 ハロウはすかさず別の話題を持ち出して御老体の非難から逃れる。


「うむ。トキタよ、これは分かるな?先程制御装置を見せた時には既にこれを抜き取っておったのだ。」


「入力装置を?でも普通についてましたぜ?」


「この街は……特に北側だが、時間や意思の流れが歪んでおる。例え同じ場所に居ようとキチンと観測してないと無機物にまでズレが発生しているようじゃな。」


「なんだって!?するとつまり……」


 イミシンに考えるポーズを取るケーイチだったが、殆ど解ってない。それを見抜いたサイトウは補足をする。


「お前は解ってないだろ。つまりちゃんと見てないと個人個人で時間の流れがズレて齟齬が生まれる可能性があるということだ。」


「ああ、だからオレ達にも観測させてコイツを壊したって認識させたんですね。」


 未だにハテナマークのついているケーイチの代わりにハロウが答える。


「そのとおりだ。気休めかもしれんがな。さて、次へ向かうとしよう。訓練棟は少々ややこいでな。急ぐぞ。」


 サイトウはブリーフィングルームに向かい、他の3人もあとに続く。


(ここを壊したら訓練棟には空を飛んで?それとも地下?どっちでもあのミキモト達に近づけるなら文句はねえけどな。)


 この訓練学校は西に訓練棟、東に厚生棟がある。それぞれが強固な壁に覆われて、転送装置を使わないのなら簡単には移動できない様に設計されていた。もちろん空を飛んだり地下の搬入路を使うなら別だが、人間は普通は飛べないし地下も大半の職員が立入禁止となっていた。



「さて、今後のルートだが……むむ!?」


「サイトウさん下がって!」


「フーーーシュルルル……」


 そこには音も立てずに現れた、3m近い大きさの人型。コウモリの翼のような羽根と黒のボディに緑色のラインが入っている。

 ヤギの角のようなモノが生えた頭には目や鼻などのパーツはなく、代替の器官はあるのかもしれないがちょっと見た限りでは解らない。そして身長と同じくらい長い尻尾も生えている。


 それは西洋の悪魔を想起させる風体であった。


「シュルルル……?」


 悪魔モンスターは何かを探す素振りを見せて、サイトウ達をあまり気に留めてないようだ。


「向こう側から転送されてきたか?」

「何を探してるんだ?オレ達に気付かないはずはないが……」


 観察を続けるサイトウとケーイチ。相手は発声器官があることから口はあるようだ。呼吸音も聞こえる。


「なら、今の内に排除して先に行こうぜ!」

「サイトウさんは終わるまでさっきの部屋で待ってて!」


 臨戦態勢を取るNT組。それに気付いた悪魔型が警戒体勢に入る。


「ズレる可能性があるからオレは逃げん。悪いが頼むぞ!」


「それもそうか……来るぞ!」



「シュルラアアアアアアアア!!」


 ヒュゴオオオオオオオ!!


 黒緑の悪魔は威嚇と同時に冷気のブレスを吐き出した。



 …………



「おまたせ、なんか不思議なことがあったんだけど。」


「「ええ!?」」


「……こっちもだ。3秒でどうやって着替えた?」



 一方でユウヤチームはモリトの部屋の前に居た。2階の西側にある彼の部屋で、部屋の主は新品のバトルスーツに着替えていたのだ。

 防御力が他よりあるのでちょっと分厚いが、信頼できる着心地をモリトは気に入っていた。ユウヤ達から見ても似合ってると思う。


 だがその着替え時間が3秒だったのが解せない。


「え、普通に数分経ってたと思うけど。それより見てよ。この表記がおかしくなってるんだ。」


 見せられたスマホは充電が99%になっていて日付や時間表記の数字が滅茶苦茶になっていた。


「なにこれホラー!?」

「言い忘れたけどオレのも同じ感じだぜ。」

「3秒で充電まで終わる?おかしいわね。」


「水星屋の前に電池が切れててね。今プラグを差し込んだら一瞬でこうなったんだ。ちょっと街の時系列がおかしくなってないかな?」


 水星屋についた時に0時。出立してここに着いたのは1時半近く。なのに事務室では0時半。今はちょっと別れたら数分が数秒に、充電はゼロからMAXへ。


「だれかが観測してないと、一気に時間が進むなり進まなかったりする……のかな?だとするとこの現象の心当たりは当然――」


 モリトが精一杯頭を働かせて現象を整理していく。そしてその結論をユウヤが持っていく。


「魔王のヤツか。下手すると先を越される可能性もあるか。」


 ユウヤ達が知る限り、こんな規模で時間を操れるのは現代の魔王しかいない。今夜の事件に思う所があってデバってきたのなら、なるべく急がねばならない。


 実際は半分濡れ衣だったが、そんなことは知る由もない。


「ねぇねぇ!私達も着替えたいから早く行くわよ!急ぐのは分かるけど、服も髪もぐちゃぐちゃで気持ち悪いんだから!」


「ああ、メグミの部屋へ行こう。」


 急がねばならないが、女の子達の衛生面やご機嫌もとても大事だ。


 襲撃する宇宙人型を蹴散らしながら東側の廊下へ移動する。

 彼らは奇をてらわず物理で押せば良いダメージが通る事に気がつき、銃撃と近接攻撃で倒していった。



 メグミの部屋の前で部屋の主がドアに手を当てて安全を確認すると、メリーさん以外の女性陣が部屋へと入っていく。


「メグミ、見張ってるから安心してね!」

「よろしくね、メリーさん。」


 メリーさんが見張り役を買って出て、スマホから上半身だけ飛び出して鼻息を荒くしている。モンスターの襲来もあるが、男共が覗かないか監視する意味も込めての見張りだ。


「別に覗かないから行ってきて良かったんだぞ?メリーさんも女ならガールズトークくらいしたいだろう?」


「あんたさっきヨクミちゃんの下着をモリトに渡して、平手打ちを食らったのを忘れたの?」


「あれはあれで有用な道具があると思ってだな……」


 対魔ナイフを入手直後の戦闘後、隣のヨクミの部屋を調べた時の事を責められるユウヤ。

 タンスを勝手に開けてモリトに下着を見せたら、とても興味深く眺めてしまってお互いの相棒から手痛い代償を受けた。


 その時の会話で、


『そ、それでどうなのよ。その、男の子的に!』

『か、かわいいと思うます!』


『ふ、ふうん。それなら……でも今後は気をつけなさい!』

『あらあら……ヨクミってば顔赤いわよ。』

『~~~~ッ!』


 などという一幕があった。


 実はヨクミは怒りより羞恥と謎の期待の方が強く、こっそり感想をモリトに聞いて良い返事をもらえてお悦びになられていた。そしてそれを生暖かい目で見守る霊体フユミ。


 その時に着替えようとしたら敵に襲われて、メグミがナイフが似合うという話に繋がっている。


 結局ヨクミはそこでの着替えを諦めて、ここまで我慢した形である。



「おまたせ、大丈夫だった?」


「おいおい、今度も10秒くらいしか経ってねえぞ?普段から――いや何でもないデス。ハイ!」


 メリーさんとちょっと会話しただけで着替え終わった女性陣。普段からこれくらい早ければと心からの本音をこぼしそうになって、メグミに睨まれて有耶無耶にするユウヤ。


「ユウヤはちょいちょい地雷を踏みそうになるよね。」


 男はよく女の支度・準備が長いと非難するが、在る種の向上心の表れなのだ。その気持ちを汲んであげると一緒に居やすいだろう。


「それで、私達もケータイの充電が一気に終わったわ。見てるとダメだったけど、目を離したら一瞬よ。」


 日付と時間はだめだったけど、とメグミがスマホを見せてくる。待受はユウヤとのツーショットだった。


「ユウヤもやっておく?予備電池を使ってももう危ないでしょ。」


「いやそれがな。オレのは何故か大丈夫なんだよ。」


「私が絶えずオカルトパワーを取り込んでるからね!」


「オレのスマホを心霊スポットにする気かよ……」


 電波の代わりによろしくないモノを受信してエネルギーを補充していたらしい。彼女単体より通信機を通した方がエネルギーの回収も捗るようだ。通信のエキスパートの面目躍如といったところか。


「けど、オレのも表示がずっとバグってるよな。」


「魔王の所為か、街の外もこの建物も通信が上手く出来ないの。」


「ならさっさと解決しないとな。そろそろ行こうぜ、」


 一行は中央南側へと廊下を進む。何故かモンスターも出ずに雑談する余裕もあった。



「家がお化け屋敷になるとか、今後の寝付きが悪くなりそう。」


「かもなぁ。でも、早くベッドの中で眠りたいぜ。」


「朝から出撃してもう深夜だしね。ところでメリーさんて、なんでここに来たかったの?」


 今までバタバタしていてスルーしていたが、聞くのが怖かった事をモリトが勇気を出して尋ねてみる。


「私の都市伝説通りよ。ここに私を捨てた子がいるの。」


「……僕にはとても重たい心当たりがあるんだけど。あれ?でもそれだと何かおかしくないか?」


「心当たり……あああッフランスの!」


「「「ああーー!!」」」


 フランス・メリー・モリトと聞いて他のみんなも思い出したようだ。


 数ヶ月前に留学生の護衛をした際に紛失した人形のメリー。

 わざわざフランスから来日するまでは、100歩譲ってオカルトで片付けてもいいだろう。


 しかしこの街の、特別訓練学校に”用事”があるのは解せない。


「言っとくけど、別にモリトに会いに来たわけじゃないわよ。私の好みの顔じゃないし。ここには持ち主が引きこもってて、街の巧妙な結界で近づけなくて――」


「それだよ。その時点でおかしい。」


「そうよ、メリーちゃんは失礼よ!ちょっとは格好良い所も――」


『ヨクミ、空気を読みなさい。』


 要点を拾う箇所が違くてグダグダになりかけた時、ブリーフィングルームの前に到着した。


「興味はあるが、話は後だ。モリトもメリーさんも、いいな?」


「悪いね、集中するよ。」


「はーい。」


(空気を読みなさい、か。むしろ助かったのかもね。ただの先延ばしでしかないけれど、出来れば知らない方が良い事が多すぎなのよ。)


 霊体のフユミが1人でため息をつく。


「ひゃっ!フユミちゃん、何を!?」


 耳元を不意打ちされたヨクミは可愛い悲鳴を上げて飛び上がった。



「メグミはドアを開けてオレが踏み込む。水組は不意打ち警戒!」



 こくりと頷いたメグミがドアへ近づいて手を当てる。彼女はこのドア開けの役を任されることが多い。回復役なので突入時に横へズレて後方に位置する為と、事前に中の悪意を感じ取る為である。


(何かが居るけど悪意は感じない?にしても随分安定したわね。)


 メグミは室内の敵意や悪意を調べるがなんともない。赤黒いオーラは前より出力が落ちているが扱いやすくなっている。内側から膨れ上がるような強さを感じないのだ。


 手信号でユウヤに結果を伝えた時には、モリト達も水の準備が出来ていた。ユウヤは確認の意味も込めて全員に通達する。


(大型1、現状敵意なし。先制で仕留める!)


 3・2・1。とカウントダウンしてドアが開かれ背を低くして突入するユウヤ。続いてモリトとヨクミ、最後にメグミが部屋を見た時。


「シュルラアアアアアアアア!!」


 ズバシャアアアアア!


 大きなツノと尻尾の黒と赤の悪魔のようなモンスターが液体混じりのブレスを吐き出した。



 …………



「シュルラアアアアアアアア!!」


 ヒュゴオオオオオオオ!!


「危ねえ!」



 ブリーフィングルームで遭遇した黒と緑の悪魔型モンスターが冷気のブレスを吐いてきた。

 ケーイチはサイトウの身体を突き飛ばして庇うように伏せ、冷気の直撃を喰らい……はしなかった。


「ぐううぅ!冷たいていうか、痛え……」


 ハロウが左腕と足を硬化させた装甲を大きく広げてガードしていた。それにより大半は防げていたが、余波で多少のダメージが後の2人にも発生している。


「さぁて躾の時間だよ!」


 ドゴッフ!ドゴンッ!


「ブヒュッ!」


 躊躇なく天井へ退避したヘミュケットが脳天にパンチを入れて、口を閉じさせ着地と同時に踏み込んで腹に膝蹴りを入れた。


 ブォンブォン!


「そんなその場しのぎのあがきなんて!」


 黒緑の悪魔はよろめきながら追撃を警戒して両手を振り回すが、軽々避けながら再び腹へパンチをお見舞いする。


「シュルル……!」


 そのまま倒れ込みそうになる悪魔型だが、身体を捻って尻尾を振って攻撃を試みる。


 シュバァン!


「チッ!」


 まるで大型の剣撃のような力強さとムチのようにしなるそれを

 避けきるのは難しく、後へ飛んで回避する。


 しかし着地したヘミュケットは腕を押さえていて血が流れていた。すぐに回復するだろうが、今は一秒を争う戦闘中だ。


「ヘム、悪い!こっちは動けそうにない!」


 ハロウは左半身の装甲が凍りつき、血液が巡らず形状変化速度が著しく落ちていた。


「ならオレとスイッチだ!サイトウさんを頼むぞ!」


 やや凍り掛けていたケーイチだったが動けないほどではない。

 彼は暗い紫色の剣を三段重ねにして撃ち放つ。


「死散光ッ!!」


 高速で飛んでくる死の剣を、シュパン!と尻尾で床を叩いて反動で跳んで避ける悪魔型。壁の天井近くに取り付き、ケーイチを睨んで狙っている。


 シュゥゥン……。


「シュルルルルル!!」


 しかし左足に死散光が掠ったようで、分解によってエグイ傷を負っていた。そして回復の時間稼ぎなのか、またもブレスの体勢に入る。


「どこみてる、こっちだぜ!」


 その頃にはケーイチは大きく迂回するように駆け出し、サイトウから離れていた。


「シュン、もうちょっと盾として頑張ってね。」

「お、おう……」


 代わりにヘミュケットが動けないハロウを盾としてサイトウと悪魔型の間に引っ張っている。案外シタタカな女である。


「シュルラアアアアアアアア!!」


 ヒュゴオオオオオオオ!!


 悪魔型の氷結ブレスが横薙ぎにして放たれる。動かない3人を倒したいが驚異の攻撃力を持つケーイチも倒したい。そんな心理が彼?にそんな行動を取らせたのかもしれない。


 まずは3人の方へ放たれたブレスがあっさりハロウ”で”防がれる。


「このままじゃ右も凍るって!」

「終わったらキスで血行良くしてあげるから!」

「どんとこいやー!」


「若いな……」


 倒れたまま無表情でサイトウが呟くが誰も聞いちゃいない。


「うわっと、ほいっとな!」


 ケーイチは若返ってるとは言え36歳にしては軽快に飛び跳ねてブレスを避け続ける。後の壁や万一の為に保管してある銃火器類が酷いことになっているが気にしない。

 この臨時パーティーには銃を使う者が居ないせいもあるだろう。


「シュルラアアアア!」


 やがて足の修復が完了した悪魔型は、ブレスで倒せない事に業を煮やして翼を広げて滑空状態でケーイチを狙う。


「うおっと!」


 ヒュンッ!シュゥゥゥン。


 横へ飛び退いて回避する間に、ナイフを生成して投げつけすれ違うケーイチ。


 翼にヒットしたそれは片翼を半分分解した。バランスの悪くなった悪魔型は勢い良く壁に激突する寸前で、くるりと横回転して壁を蹴ってケーイチに迫る。


 その際に尻尾が積んであった銃火器入りの箱をなぎ倒していく。


 そして突進する悪魔型はその腕を突き出し、ケーイチの腹を突き破ろうと試みた。


 だがしかし、接近戦こそケーイチの本領。いかなるパワーを持っていようと単純なパワーでは彼には敵わない。


「甘えよ!」


 ケーイチはチカラを篭めたコートを脱ぎ捨て相手の腕に叩きつける。


 シュゥゥゥン……


「シュル!?シュラアアアアアア!!」


 コートに仕込まれた1回限りのチカラの発動で、右腕がまたたく間に分解された悪魔型。驚きと痛みでよろけながら叫び声を上げる。


「あの世で吐き出した分のお茶でも飲んでてくれや!暖かい奴をな!」


 ズドドドン!シュゥゥゥゥゥゥン。


 死散光によって全身が分解されていく黒と緑の悪魔型モンスター。


 彼のように不安定な体勢のままケーイチの前にその身体を晒す。


 それは死神に自ら首を差し出す行為と同義だった。


 もしもっと広い場所で、彼にも仲間が居て連携で攻めることが出来たなら……違った未来も在ったかもしれない。



 …………



「シュルラアアアアアアアア!!」


 ズバシャアアアアア!



 一方、同じくブリーフィングルームに到達したユウヤチーム。時間的にはサイトウ達と同じ頃合いなのだが、彼らの姿は無い。


 代わりに黒の身体に赤のラインの入った悪魔型モンスターが居て、ユウヤ達の突入と共に危険を察知して液体混じりのブレスを吐く。


「やべぇ!」


 持ち前の速度でユウヤはブレスを左に跳んで回避した。だがその攻撃は当然後ろにいたモリト達に注がれることになる。


「僕のチカラでこんなモノ!」


 モリトは腕をクロスさせながら前へ踏み出し、流動する水の鎧を分厚く・更に素早い水流で展開させる。


 ズバシャアアアアア!


 そのおかげでブレスの大半は横へ弾くことが出来ていたのだが……。


「あ、熱い?これは、酸か!!」


 水流の中に異物が混じり、身体にヤケドのような痛みを感じるモリト。新品のバトルスーツに名誉の負傷が刻まれていく。


「メグミ治療・ヨクミ水交換!」


 ユウヤは簡潔に指示を出して、ブレスを止めようと前へ出る。


「「了解!!」」


 メグミとヨクミはやることを理解してモリトの背中に手を翳す。


「”ヴァルナー”!」


「モリト、しっかり!!」


 水の鎧に新たな水流を注いで酸を薄めるヨクミとヤケドを治療するメグミ。モリトは尚も続くブレスを、水流の操作で後方には通さない。


「メリーさん直伝、バックスタブ!」


 左手にショットガンを持ちながら右手の高速ストレートで後頭部を強打するユウヤ。相手は怯んで見事に口をふさぐことに成功した。


 ズドォン、シュタッ。ズドォン、ズドォン!


 そこから着地までの間に1発、着地してから2発のショットガンを打ち込んだ。それなりのダメージのハズだがすぐに修復が始まり少しタタラを踏ませただけで終わる。

 どうやら相手に膝をつかせるには瞬間火力が足りなかったようだ。


 そしてすぐに横薙ぎにギロチンのように鋭い尻尾の一撃が放たれた。


 ブオオン! バキンッ!


「ぐはっ!」


 チカラで減速させて尚、素早いソレを避けられないと悟ったユウヤは思わずショットガンを盾として受けてしまう。それは悪手であった。


 狙いをつけての銃撃中に攻撃されればそんなものだろうが、盾にされた銃は真っ二つにへし折れた上に尻尾の一撃で壁にまで吹き飛ばされて叩きつけられてしまうユウヤ。


「ユウヤ!?」


「くっ……ひゅう……」


 どうやら生きているようだが昏倒してしまっている。


「僕が時間稼ぎ、ヨクミさん援護射撃のメグミは治療!」


 素早く指揮を引き継いだモリトが、ジャンプ後天井を蹴り飛ばして高い位置から襲撃を掛ける。勿論後方へ蒸気を噴き出しさせ、通常以上の機動力を発揮させたのだ。


「この水圧ラッシュなら!」


「足元がお留守よ、”ヴァルナー”!」


 敵の背中目掛けて殴りかかるモリトと、それに気づいて振り返る悪魔型。しかしその足をヨクミの水流が襲ってよろめいてしまう。


「シュルルルル!」


 ドゴゥバシャン! ドゴゥバシャン!……


 かろうじて腕を振り回す程度の抵抗をするが、モリトの連続攻撃の前に全て弾かれる。とはいえ相手も強力な新型、修復も早くて彼のラッシュでは攻めきれない。


「シュルルッ!」


 グッ、ブオオオン!


「うわッ!!」


 そうこうしてる内に水流が収まり始めて悪魔型がその場でバク転、サマーソルトキックの要領で尻尾をモリトの鎧目掛けてカチ上げる。


 硬い天井に叩きつけられたモリトはそのまま床に沈む。


「もういっそ、広域で!みんな起きて!!」


 走ってユウヤに近づこうとしていて、色々もどかしくて面倒になったメグミが叫ぶ。

 バカでかい光球をユウヤとモリト達の間に放つと、黄色い光が部屋中に満たされて全員の体力が徐々に回復していく。


「シュ、シュシュルガ!?」


 その中で一体だけ、悪魔型だけが彼女の光で苦しんでいた。

 過回復でウイルスと薬液効果のバランスが狂い、身体の表面がボコボコと変質し始める。


「シューーールルルル!」


 ヒュン、ザクッ!


 その発生源を潰そうと、メグミに向かって飛び上がる悪魔型。そのパンチを寸でで躱して、ホノカに赤黒いオーラを発しながら左腕の隠しナイフをフトモモに突き立てるメグミ。


「回復役だからって戦えないと思った?残念でした!」


 ヤンデレ風の独特のテンションで今度は右手の対魔ナイフを振るう。


 スパッ、シュゥゥン。


 脇腹を横薙に切られてその部分が分解されていく。しかし過回復状態の所為か、再現しただけの模造品だからかすぐに収まってしまう。


「まっず、効果が薄いか!」


 言いながら後へ飛び退くメグミを追おうと屈んだ悪魔型。しかしその速度は緩慢だった。


 復活したユウヤが彼?を睨みつけながら駆け出している。そのまま渾身のバックスタブを叩き込む。


 ユウヤ達は誰もがそう成ると思ってたし、気配を察した悪魔型も危険を察して振り返ろうとしたところで……。



 ズガン!ガラガッシャアアアン!



「のわあああああ!?」



 壁に積んであった木箱達が、突如弾けてユウヤの背中を強く打った。

 ユウヤは倒れ、フタの開いた木箱がその上に乗っていて中身も散乱していた。


「「「ええー……?」」」


「シュ、シュルル?」


 全員が唖然として数秒の間が空いた。何も原因が無い状態で弾けた積み荷。すぐに動かねばと解っていても、その現象が理解できずに動けなかった。


「痛え……てか冷たい?お、これは!」


 ユウヤがもぞもぞと這い上がろうとすると、すぐ側に木箱の中身と思わしき新品の銃が転がっていた。


「シュル?シュルゥラァ……」


 ユウヤがソレに手を伸ばした時。どうやら罠でも何でもないと判断した悪魔型モンスターが隙だらけの彼を狙って一歩踏み出した。


「モリト、傷口!」


 ヨクミはユウヤの行動を見て風の準備をしながら指示を飛ばす。メグミもハッとしてユウヤへ駆け寄る。


「ヴァダークゥラアアアック!!」


 ズボッ、ズバッシャア!


 脇腹の、まだギリギリ塞ぎきれてない傷口に水を纏った拳を叩きこんで爆発させるモリト。彼も酸性の体液を多少浴びるが、この際気にしない。


「シャラアアアアア!!」


 悲鳴を上げて尻尾を振るい始める悪魔型。だがそれがモリトに到達する前にヨクミから風が放たれた。


「やらせない!S・ネード!」


 ヒュゴオオオオオオオオ!


 3mの巨体を嵐が襲い、元々無理な姿勢だった悪魔型を吹き飛ばして転送室側の壁まで転がした。突風の嵐はそれで終わらず、尚も壁に釘付けにしている。

 倒せはしないがそれでいい。これは時間稼ぎなのだ。


「ユウヤ、大丈夫!?」


 空の木箱を蹴飛ばして黄色い光を当てるメグミ。木箱は風に乗って悪魔型の頭にぶつかって粉々に砕けた。シュゴッっと地味に痛そうな声を上げている。


「助かる!今の内に……」


 礼を言いながらややヒンヤリしている銃にショットシェルを詰めるユウヤ。散々訓練してきたリロードは、とても素早く行われた。


「風が収まるわ!モリト、チカラの合体よ!」


 ヨクミはモリトの位置まで風で移動して背中に抱きついた。距離が開いた今、次の悪魔型の行動は恐らくアレだと踏んだのだ。



「シュ、シュルラアアアアアアアア!!」


 ズバシャアアアアアアア!



 脇腹を押さえて気にしながら液体混じりの酸のブレスが放たれる。


「やっぱりね!喰らいなさい――」


「「D・ダストオオオオオ!」」


 モリトの冷気技、D・ダストにヨクミが小型の水竜巻を水平方向に発射してブレスに対抗する。種を明かせばトルネード・アッパーをストレートに出しただけなのだが、その効果はテキメンだった。


 シャキイイイイイン……!


 酸のブレスを冷気の竜巻が凍らせながら突き進み、相手の顔面に到達すると、氷のフルフェイスを被ったような姿になる。


「――――ッ!」


 何かを叫ぼうとするがその口は氷で覆われて声にはならない。彼?がそのまま暴れだしたところで、脇腹に異物を押し込まれた。


「よう、さっきのリベンジだ!鉛玉の流星群を喰らいな!」


 ユウヤは不敵に笑いながら新しいショットガンの引き金を引いた。



 ズドドドドドドドドオオン!



「――――ッ!…………」



 新しく手に入れたアサルトショットガンで宣言通りにモンスターの体内に流星群を発生させると、今度は充分な火力を持って悪魔型の上半身が千切れてドサリと床に落ちた。


「ふう、こんなもんか。メグミ、悪いけど確認頼むわ!」


「了解!」


 メグミはぱたぱたと近づいてきて死体に対魔ナイフを刺していく。


「ヨクミさん達もありがとう!良い連携だった。」


「ショットガンに手を伸ばしてるのが見えたからね。」


 ヨクミはモリトにおんぶを強制しながら近づいて来る。


「それにしても何だったんだろうね。モンスターまで驚いてたってことは教授の罠では無いんだろうけど。」


 モリトは先程の派手なポルターガイストについて話を振る。


「メリーちゃんはなにか分かる?」


「いーえ、全然。オカルト的な気配も無かったし……」


「解らない事に時間かけても仕方ないし、おかげで武器も新調出来たんだから、良しとしようぜ。」


「大雑把ね。でも私もそれに一票よ。治療したら早速転移に入りましょう?」


 メグミも検証を諦めて黄色い光で治療を始める。そんな中でフユミはポルターガイストのあった場所を眺めていた。


(……あの場所、随分冷たい空気なのよね。まるでモリト君のD・ダストを当てたかのような。認識で時間が変わるという現状を思えば、空間そのものにも変化が?もしかして――)


「フユミちゃん、どしたの?そろそろ行くけど何かあった?」


『いえ、何でもないわ。先に行きましょう。』


 フユミは考えを中断してヨクミの身体と一緒に転送装置へのドアを通過する。その時同時に廊下側のドアも開いていた。


『え!?』


 うっすら変わった風の流れを読み取って振り返るフユミ。そこには革コートの男が出ていく姿を見た気がしたが、双方のドアは同時に閉まってしまった。


「電源を入れて……あら?」

「あれ、止まっちまうな。どこか間違ったか?」

「電気は来てるから設定とか部品かな。」


「ほらほら男どもー!早く動かしなさーい!」


 メグミが装置上の操作パネルを触るが一定以上進まずエラーが出る。ユウヤも横から確認してモリトと協議。フユミの取り憑いているヨクミは祭壇下で腕をブンブンさせて煽っていた。


 横の制御装置を見てみようと降りてくる3人を見送りながら入ってきたドアの方を気にしている親友に声を掛ける。


「フユミちゃん、やっぱり気になることがあるの?」


『ちょっとね。教官が廊下へ出ていったのを見た気がして――』


「ええー、教官が居たの!?」


「「「!?」」」


「ど、どういう事だ?」


 動揺するユウヤに説明するべく、フユミは一時的に半透明の姿を表す。


『変に思うかもしれないけれど、聞いて。あの部屋は同じ場所に”2つ”存在していたとしたらどう?』


「2つってそんな、ありえな――いや、もしかしたら?」


「分かるのユウヤ?」


 ありえないと切って捨てるつもりだったユウヤだがふと思いついて頭を悩ませる。


「この場所は”魔王の所為”でおかしくなってるよな?なら教官の時間とオレ達の時間もズレてるハズ。時間ってのは空間に直結する要素だから、同じ場所で別の空間が出来てもおかしくはない。」


 ユウヤは頭を捻りながらそう結論する。だがそうなると連鎖的に別の疑問も浮かんでくるが、それを話す前に制御装置を見ていたモリトが近づいてくる。


「興味深い話だね。僕だと発想が追いつかないよ。」


「モリト、任せっきりで悪いな。装置はどうだ?」


「いいって。どうやら部品が外されている。事務所辺りで予備を探すしかないね。もしくは別のルートを探すかだ。」


「どっちも面倒な二択だな……そうだ、教官は今も近くに居るってことか?」


『いえ、反対側のドアから出ていったから今は居ないと思うわよ。』


「それって!つまりここでの用事が済んだってことだから……」


 一同は転送装置を見る。彼が妨害工作として部品を抜き取ったのだろうか……そんな考えがよぎるが、それにしてはやる事が地味である。


「とにかく、また事務所へ行って部品を探しだそう。」


「「「了解!」」」


 気を取り直したユウヤが方針を決めて、一行は入ってきたブリーフィングルームのドアをあける。すると……。



 ズガッズガガッ!



「「「ええ!?」」」



 派手な音が聞こえて振り返ると、転送装置は細切れに砕かれていた。


『こ、これが教官の用事ってことだったのかも。』


「装置が……地味かと思ってたら派手な嫌がらせだったわ!」


「奇しくも一択になっちまったな。しゃーない。別のルートを探そうぜ。」


「「「……了解。」」」


 アサルトショットガンといくつかの情報以外、徒労に終わった一行は肩を落としてブリーフィングルームを後にするのであった。



お読み頂き、ありがとうございます。

次エピソードは19時予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ