表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/120

103 ヒナン そのヤタイ

本日2話目の更新です。

急ぎの更新が続いてますので、誤字脱字があったら

教えてくださると幸いです。

 


「さーってどんなメシが出てくるのかな?」

「うふふ、楽しみね。」



 10月4日、推定23時30分頃。注文を終えたユウヤとメグミは料理の完成を待つ。


 時間が推定なのは、もう街は人や物だけでなく時間もダメージを受けているので起きた物事の時系列が時々怪しくなってきているからだ。


 水星屋は入り口しか問題の街と繋がっていないので影響は少ないとみせかけて、店内も時間を伸縮できるので既にカオス状態。なのでユウヤ達の主観時間を推定として表記させて頂いたが、店やマスターとの相対時間とはズレが生じていると見ていい。



「はい、お待ち―!ここの水は持ち込みなので、安心して食べて下さいね!」


「「早い!?」」


「やっぱそれに驚くわよね。本当、どうやって……まあいいか、美味しいし。」


 驚く2人に隣のショウコが同意する。だがそこに疑問を持ちそうになると、すぐに店のセキュリティが反応してかき消していく。



「「では、いただきまーーっす!」」



 ともかくユウヤとメグミは目の前の食事に手を伸ばす。入店時には騒がしかったが、温かい手作り料理を前に目を輝かす2人。


 ユウヤは中華風セット。青椒肉絲ハーフと麻婆豆腐ハーフに餃子・焼売・春巻きを少量ずつ盛り合わせの皿、中華風和え物とスープ。そこへ無料ライスがついて500○という驚異のコストパフォーマンス。


 メグミは唐揚げ定食。大きめの唐揚げ盛りと野菜とキノコの煮物、ごぼう・長芋・野沢菜の漬物にツナとマカロニのサラダ。春菊の明太子和えに豚汁と無料ライス。こちらも500○である。


 セットと違って定食のサラダや漬物・和え物・汁物は、言えば好みのモノに変更もできる。例えば和え物はほうれん草や、中華風和え物(豆腐とチャーシューときゅうりの中華ドレッシング和え)に変えたりも可能である。


「う、美味い!!」

「美味しい!!アケミさんの言った通りだわ!」


「やったー!喜んでイタダケてナニヨリです!」


 若いカップルの素直な絶賛に大喜びのセツナ。他の店員も口元が緩んで嬉しそうである。


「こんな美味いメシはヒサビサだよ。これなら毎日でも通いたい!」


「いつもレーションを温めるだけだもんね。この手作り感に出来たての暖かさでこの安さ!聞いていた以上に最高よ!」


 べた褒めでガツガツと食べるユウヤとメグミに温かい気持ちになるが、同時に疑問も湧いてきてキリコは尋ねてみることにした。


「あなた達、そんなに食事事情が良くないの?アケミちゃんからは毎食美味しい食事が出るって聞いてたけど。」


「ああ、2年前に再編されてからは変わっちまったんですよ。以前と違って自炊すら許されないから、任務以外でもレーションばっかり――って、今のは聞かなかったコトにしてもらえると……」


「あら、機密かな?仕方ないわね、”私は”黙っててあげるから、代わりに私の店にも今度食べに来なさい!」


 キリコは胸に手を当てて誓いを立てる素振りを見せながらただのドヤァポーズをしている。


「ありがとうございます。もうユウヤは口を滑らすんだから。キリコさんはここの店員じゃないんですか?」


「キリ姉さんは6年くらい働いてくださったのですが、今年の始めから独立して自分のお店を構えたのです!」


「そう、これでも一国一城の主ってワケよ!今日はたまたまヘルプで古巣に戻ってきたの。」


「へぇ、そいつは凄いですね。おめでとうございます!」


「んん!?ってことはXX市の水星屋二号店って……」


 ユウヤは素直に女性のステップアップ、成り上がりに感心してお祝いするが、メグミは潰れた有給の予定先の事を思い出す。


「そう、私の店よ!ちなみにこっちのもっちゃんは副店長!」


「えええ!?記者さんだったんじゃ?」


「取材を続けるうちに仲良くなって、詳しくなったからね。まさか記事の執筆中に乱入されて勧誘されるとは思わなかったけど。」


「こほん、友達とお店出来たら最高じゃないの。」


「楽しい毎日を過ごしてるよ。お陰様でね。」


「本当に仲が良いのですね。」


 ちょっと照れるキリコを見て羨ましくなるメグミ。もし魔王を何とかして平和になったら自分達もみんなで――などと考えている。


「キリコさんといえばあの格好良い口上が――」


「その話はしないで!!」


「「!?」」


 メグミが地雷へ足を踏み入れ、キリコはズズイと顔を近づけて話題を

 中断しようとする。


「ブフフッ」


「キリ姉さん、驚かしちゃダメだよぉ。ごめんなさい、キリ姉さんの接客口上は本当はフーイン中なんです。」


「えー?アケミさんも絶賛してたのに!?私もさっきは感動したのに。」


「それはだな、二号店の開店前の研修で――」


 サクラが説明を開始したところでキリコが口を塞ぎに踏み出す。しかしセツナが体を張って止めに入り、最後まで説明されてしまった。


「もっちゃんの鬼~~~!」


「「「…………」」」


 店内一同は無言になっているが、いたたまれない気持ちの者と笑いを堪える者達に二分されていた。


「えっと、セツナちゃんもその年でお父さんのお手伝いをするなんて偉いわよねー。」


 ショウコは露骨に話題をそらして空気を変えようと試みた。普段からズレてるだのなんだの言われている彼女だからこそ、この空気でもあまり気にせず発言できた。


「お父さんはいっぱいお仕事してるので、私が少しでも楽をさせてあげたいなって!」


「「「かわいい……」」」


 小さい割烹着の少女の健気ぶりに店内はメロメロだ。ショウコの思惑通り空気は入れ替わったのでお手柄である。


「なぁ、そのお父さんは今どうしてるんだい?いくら伝説の店のマスターって言ってもこの街は……」


「ちょっと心配よね。ゾンビ騒ぎだけじゃなくて、公園の近くとか空間が歪んでいる所もあったわ。」


「!!」


 ユウヤとメグミがマスターについて心配する。その発言に露骨に

 暗い顔になるセツナ。


(空間のユガミって私が結界の練習をした所為よね。うーん……。ここはお父さんの真似をして黙っておいた方がいいかな。)


 子は親の背中を見て育つ。セツナの行動は正解だったがタチの悪い部分の影響も見え隠れしていると言えた。


「あっ、ごめんなさい!不安にさせちゃったわね。」


 セツナが難しい顔をしてるとメグミがしまった!小さい子を不安にさせちゃった!と勘違いして謝ってくる。


「いえ、大丈夫です!お父さんすっごく強いし、きっと困ってる人を助けてるんだと思います!ここに店を開く前にも、おじさんを助けてたんですよ。」


「そ、そうなの?さすが伝説のお店ね。」


「ここのマスターは私が唯一認めたオトコだからね!この程度の事件でオダブツするようなオトコじゃないわ!」


「取材すればするほど、非常識さが増していくけどねぇ。」


 ぱっと表情を戻したセツナが大丈夫アピールをすると、キリコ達も後に続いて発言する。


(そこまでの男性なら会ってみたいなぁ。せっかく店に来たのに居ないなんて……)


「サクラさん、おかわり―!」


 ショウコはこっそり落胆しつつ、追加のお酒を頼む。アケミの手紙にも書いてあった、期待の頼れる男に会うチャンスなのだ。


(今夜のこの調子じゃ、この先どうすればいいか解らないしなぁ。)



 …………



「ひゃっ!キリ姉さん、ちょっと私の分もお願いして良いですか?」


「うん?あー、はいはい。この私に任せると良いわ!」



 しばらくお客さん達の料理と接客をしていたセツナだったが、短い悲鳴を上げて厨房の隅に屈んでゴソゴソし始める。キリコは直ぐにマスター絡みと気付いて、深く聞かずにカバーに入る。


「そっかぁ。君たちも色々あったんだな。でもアケミさんの跡を継ぐ人が居てくれてよかったよ。」


「メグミちゃんのチカラは本当にアケミそっくりだったもん。自信持っていいと思うよ。」


「私もアケミさんの親友さんや、スカースカの記者さんに会えてとても嬉しいです!」


 メグミはサクラとショウコと共にアケミ話で盛り上がっていた。

 3者とも視点の違うアケミ像が出来ており、3者とも退屈しない女性だったという共通した結論が出た。その後はお互いの身の上話などを交えてお酒と料理を楽しんでいた所である。


「モグモグ。しっかり出汁の効いた、かと言って濃すぎない味わいが人形心をくすぐるわね。ユウヤ、もっと寄越しなさい!」


「よく食うなぁ。美味いのは確かだけど。ていうかオレのスマホ、壊れたりしないだろうな?」


 ユウヤは追加のソーセージやらスタミナ焼きやらを頼んでは、スマホからちょっぴり出てきたメリーさんにおすそ分けをしていた。


「お客さん、随分可愛いペットじゃない。他のお客さんが驚くからほどほどにお願いしますよ。」


「!?」


 コソコソしていた割にあっさりキリコに見つかるが、まあ彼女の目は

 誤魔化すのは容易ではないだろう。むしろ驚かれない方に驚いたユウヤ。メリーさんは気にせずモグモグと食べている。


(ま、ユズちゃん達と似たようなもんでしょ。)


 キリコはマスターの下で働き、鍛えられているのだ。今は二号店の長だしこの程度では動じない。


「あーー、ところで小さいマスター代理は何をやってるんだ?」


 ユウヤは自分の説明が面倒なソレから意識を逸らそうと、知らずに地雷原へ足を踏み入れてしまう。


「アレはマスターと連絡を取っているのよ。関係者だけが使える特別な通信機があってね。」


「へぇ、伝説の店と言われるだけあってハイスペックなんだな。」


「私だってその気になれば通信の1つや2つくらい――むぎゅ!」


「お前は黙って食っててくれ。説明が面倒だ!」


「「「??」」」


 ムクッと人間サイズで飛び出てきたメリーさんの頭を押し込んで

 黙らせるユウヤ。だが周りの人間がそちらへ注目してしまう。


【メリーさん】【フランス製】【ドイツ育ち】【断捨離は敵】

【特技:裏取り】【電子憑依】【怪異発動中】【危険性:低】


(メリーさん?お客さん達もこれ以上オカルト騒ぎはゴメンだろうし、ここは1つ盛り上げよう。あとで話を聞かせて貰いたいがね。)


 サクラは彼女が本物のメリーさんであるが今のところ危険性も低いと認識し、騒ぎを避ける為にとある提案をする。


「まぁ、なんだ。こんな日だがせっかくの出会いなんだし、ここは1つ乾杯でもしようじゃないか。皆で生きている喜びを共有するんだ!」


「はい、ぜひ!!キリコさん飲み物をお願いします!」


 メグミは空気を読んで即答し、キリコは言われるまでもなく時間を操作して全員にグラスを配り終えていた。


「それではみなさん、グラスを手にとってくださ―い!この日の出会いに、生きる喜びに!カンパアアアアイ!」



「「「カンパアアアアイ!」」」



 ゴクゴク、ゴクゴク……。


 キリコの有無を言わせぬ音頭で生存者たちはグラスの中身を一気に飲んでいく。酔い続けて不安を遠ざけたい者が多く、黄金色の液体が勢い良く各自の喉を通過していった。

 ちなみにユウヤ達はノンアルコールビールである。



「じゃあこの街の人達って、お姉ちゃんの”おしっこ”を飲んでゾンビになっちゃったの―!?」



「「「ブッファァアアアアアアアアアア!!」」」



 突然のマスター代理の爆弾発言に、全員黄金色の液体を噴出した。



 …………



「「「ZZZzzz……」」」



 あれから掃除と飲み直しを敢行し、しばらく経った水星屋の店内は静まり返っていた。

 テーブル席もカウンター席のお客さんも全員突っ伏して寝息を立てている。


「お客さん、よっぽど疲れてたんだね。」


 セツナ達はお風呂の脱衣所から持ってきた羽織を、全員に掛けてあげて厨房内で一息ついていた。


「セッちゃん、マスター怒ってなかった?」


「あとで話があるって言われました……ちょっと、怖いです……」


「それなら大丈夫だろう。彼の事だ、本当に普通に話をするだけだとおもうぞ。」


 涙目でうつむきプルプル震えるセツナ。その頭をイイコイイコとなでながらサクラが慰める。


「結局なんだったの?あの発言は……」


「あのね?大きくなってお股に歯が生えた女の人が、悪い水をソコからドバドバ出してて――」


「「セッちゃんストップ!」」


 シズク本人が聞いたら1週間は布団に潜って出てこなそうな言葉を並べられて2人は止める。

 単純に嫌な想像してしまったキリコと事実を直感で思い描いてしまったサクラは、慌てて想像の産物をかき消そうとする。


「うぇぇ、モロに頭に浮かんで来ちゃったぁぁぁ。残酷なタイプの事実はキツいんだああああぁぁぁ。」


「あー、それはトラウマになりそうね。大丈夫だよ。普通の女の子はそんな事にはならないからねー。よしよし。」


 キリコがセツナを抱きしめてよしよししている横で、出来る大人っぽい雰囲気の剥がれたサクラが頭を抱えてのたうち回っていた。



 …………



「な、なんだ!?」



 10月4日推定23時59分。市民ホールでの別れを経て数分。街の東西を結ぶ大通りを車で走っていたモリトは、何かを感じ取って停車した。


「どうしたのモリト~。こんな所で停めて。せっかく快適なドライブだったのに。」


「ここまでは道路も無事みたいだけど、そろそろダメそう?」


 助手席で呑気しながらモリトの顔をじっくり見ていたヨクミは、不思議そうに尋ねた。フユミも親友の中での休息をやめて起きる。


「いや……なんかこの辺りの雰囲気がおかしくて。」


 中央交差点前まで来たモリトだったが、道路中に散らばる肉片に囲まれたキレイなスペース。そこに光を確認する。


「念の為、調べた方が良さそうな気がする。ちょっとずつ前に出るよ。」


 ビチャビチャと音を立てながら徐行する車が結界内に入ると、鼻を刺激するニオイの種類が変わった。


「ふむふむ、死臭が消えたわ。まるで結界を越えたような雰囲気。」


「スンスン、そこはかとなく食欲をかきたてる香りがするわ!」


「あれは、ラーメン屋の屋台かな?なんだってこんな時に?」


 刺激臭が消え、温かみのある料理の香りが漂っている。その屋台を見て反応した者がいた。


『あれはもしかして……アケミさんが懇意にしてらしたお店では?』


「ああ!メグミが羨ましがってた伝説の屋台?モリト、急ぐわよ!伝説が目の前にネギ背負って現れたわ!」


「そうだね。このままじゃ倒れかねないし、休憩していこうか。」


 相棒の異世界人がこの世界の言い回しで急かしてくる。モリトは表には出さないがそういう何気ない彼女の言動に可愛さを感じていた。



 …………



「……さんのおかげで助かりました。ありがとうございます!」

「皆のおかげよ。私1人じゃあの人数をコンドルに誘導なんて――」

「ウチの店に!?それはどういう――」

「まぁまぁ、人命優先で良いじゃない。」

「ほら若社長、飲んで飲んで。カンパーイ!」

「パパ、まだお酒飲んじゃダメじゃない?この後もどうなるか――」

「ねえお姉さん達、もしよかったら僕と連絡先の――」

「ヒロキさん、みんな相手がいるから自重しとこうな。」


 ざわざわ……ざわざわ……。


「むぁ?しまった、寝ちまってたか。」

「はっ!いけない、ついウトウトしちゃったわ。」

「なんかワラワラ増えてるわね。」



 10月5日推定0時。ユウヤとメグミは店の喧騒に目を覚ますと頭に手を当てて状況把握と情報整理を始める。時計を見ると10分程度しか寝てない様に見えるが、6時間は寝たかのような身体の回復感も感じている。


「お目覚めですか?お疲れだったみたいですね。」


 セツナが気づいてにっこりと話しかける。ユウヤは自分達の肩に羽織が掛けられているのに気づいてお礼を言う。


「ああ、掛けてくれてありがとう。ずっと戦い通しだったから、緊張が解けて意識が……あれ?ハルさんが居る?」


「おお。起きたかな、ユウヤ君。君が無事で嬉しいよ。そっちの子が例の大事な彼女さんかな?」


 ハロウとヘミュケットはまたもや店に立ち寄ってモリモリ食べていた。

 市民ホールでの戦いの後に戻ってきたのだ。彼らだけでなく援軍組はみんな来ているが、ケーイチは居ない。彼は援軍ではなく主役の1人なので未だに仕事中である。休憩無しは可愛そうなので、サイガの手作り弁当をマスター経由で届けられているのが救いか。


 それはともかく、メグミは立ち上がってハロウ達に向かい合う。


「は、はじめまして!ユウヤがお世話になって……ってどういう知り合い!?私のコト、どう言う説明したの!?」


 メグミは初手で持ち上げられてあたふたと挨拶を始めるが、その途中でユウヤに尋ね始めてしまう。寝起きで混乱しているようだ。


「例のNTの次期社長とその彼女さんだよ。お2人も無事でなによりです。ここにはさっき来たんですか?」


「いや、君等が来る前に着いてたんだ。今は野暮用から帰ってきた所。最初に外の連中を殲滅しておいたから、楽だっただろう?」


「ああ、通りで……満身創痍だったので助かりました。」


 ユウヤは奥の生存者がコンドルの生き残りだと今、認識した。人数は半分以下になっており、外の惨状を見るに辛いことがあったのだろうと察して心をこめて礼を言う。


「良いってことよ。それより市民ホールで君たちのお仲間を――」


 ハロウは気にした様子もなく、先程の出撃時に出会った特殊部隊の話をしようとしたその時。


「ほらほらモリト、早く入るわよ!伝説は目の前よ!!」

「ヨクミさん、ちょっと落ち着いて!引っ張らなくても行くから!」

『うふふ、楽しみですね。』


 3人のお客さんが来店した。フユミは完全にヨクミの背後霊状態なのでカウントしづらいが、ここでは1人とカウントする。


「「「いらっしゃいませ!水星屋へようこそー!」」」


 3人がお出迎えの挨拶をしてキリコが前に出る。地味にイヌキことアオバも癖で立ち上がって挨拶しそうになるが、今は怪盗としてこの場に居るので慌てて着席する。


「よく来たわね、欲と正義の天秤で揺れる満身創痍の異邦人達よ!この漆黒の――」


「イエエエエイ!さすが伝説の屋台、厨二心が満載じゃない!」


 口上の途中で青髪の女の子がキリコに飛びついてナデナデしている。


(厨二満載……ううう。)


 開幕可愛がられた彼女はまたも恥ずかしがって涙がほろり。そんな彼女をフォローすべくモリトが止めに入る。


「ヨクミさん、あまりはしゃぐと迷惑だよ。お客さんも多いみたいだし――ってユウヤにメグミ!!と、誰?っていうか何その子!」


「モリト!ヨクミさんとフユミさんも無事だったか!こっちの子はメリーさん。オレたちの家に来ようとしていた迷子だ。」


 4時間以上ぶりに合流したユウヤチームはお互いに駆け寄った。


「迷子じゃないわよ!あんた達がユウヤのお仲間ね。そっちの幽霊さんもよろしく!」


『はい。よろしくね、メリーちゃん。私は風の精霊のフユミよ。』


 メリーさんとフユミが握手している中、ずんずんとユウヤに近づくヨクミ。やけにテンション高く話しかける。


「おーおー、誰かと思えば私をオキザリにしたリーダー君。人を置いて自分はオバケをナンパかよー!良いゴミブンだねー?メグミに刺されても文句は言えないぞー。」


「ええ!?」

「わ、私はそんな……」


「疲れと嬉しさでハイになってるだけだから、気にしなくて良いよ。みんな席について、僕が食券を買っておくから。ヨクミさんは山菜で良いよね?」


 モリトがいかにも解ってますな感じでフォローをいれると、ユウヤとメグミ・フユミでアイコンタクトをビシバシ飛ばし合って情報交換をする。


((やっとかー!長かったなぁ……))


 ドコまで伝わったかは知らないが、なんとなくそんな雰囲気で着席するユウヤとメグミだった。



 …………



「ふーっ、やっと落ち着いたわー。セッちゃんご馳走様!」



 モリト達がガツガツと夜食を食べ終えてヨクミが伸びをしながらお腹をさする。セツナのちょっとした爆弾発言でまたもや店内を掃除することになったが、今は落ち着いている。


 モリトは和食風セットを、ヨクミは山菜おろしそばと天ぷらをセット注文してフユミはほっけ定食を頼んでいた。


 和食風セットは天ぷらハーフと半そば。まぐろハーフ、煮物漬物にゆば刺しと冷奴とからあげが少量ついてくるお得セットである。お蕎麦屋さんセットの亜種のようなメニューで、値段は同じく500○。普通に考えれば絶対に赤字である。


「みなさんケンタンなんですね。こっちまで嬉しくなっちゃいます。」


「難しい言葉を知ってるんだね。将来いい女将さんになると思うよ。」


 さっそく教わった言葉を使ってみたセツナ。モリトの言葉にサクラとセツナは小さくサムズアップで笑顔交換している。


「今日は落ち着かない日だったから沁みるわ~~。それにしてもこんな美味しいものがドンドン出てくるなんて、夢のようよ。さすが伝説!」


 ヨクミは追加で出てきたプリンを食べながら感心している。

 コレに限らず”ちょっとアレ良いな!”と思った瞬間に目の前にその料理があったりするので、ヨクミはすっかり虜になっていた。


 最初は味見程度の小皿・小鉢で出され、気に入ったら代金を頂く形を取っている。もちろん信用出来るお客さんにしかこんなやり方はしていない。



「ウチはお客さんの求めている物を、素早く提供するのがウリのひとつにしているからね。」



 突然見知らぬ男の声がして皆が注目すると、そこには白い調理服に身を包んだモブ顔が居た。


「みなさんいらっしゃいませ、水星屋へようこそ!」


「お父さん!おかえりなさい!」


 マスター代理のセツナが彼に飛びついて顔をスリスリしている。


「お疲れ様、お父さん。もう、大丈夫なの?」

「ああ、セツナのおかげだ。セツナもお疲れ様だ。」

「えへへ~~。」


 仲睦まじい雰囲気を出している2人だったが、特殊部隊の一同は衝撃を受けていた。



(((この人が水星屋のマスター!?)))



 あまりに普通な、というかイマイチ印象に残らないモブ顔。

 身長も平均的だし体型も普通。伝説の店なのに特別感が一切無い。今まで美女・美少女のもてなしを受けた彼らにとっては、違和感と不条理のダンスを見ている気分だった。



(あれ?もしかしてプロデューサーさん!?あああッ!だから会長はシブってたのね!!あとで文句言ってやるんだから!ん、待って。となるとこの後の展開は……マズイわ!)



 一方でショウコは彼の顔に見覚えがあった。バレンタイン事件の時は顔の認識を変えていたマスターだったが、彼女のステルスで偽装が透過された時に見られてしまっていたのだ。


 何かを察した彼女はチカラを使ってスーッと隅へ移動する。


(○○ちゃんの調理服!本当のシェフみたい!写真撮ったらダメ……よね。ここは心に焼き付けて――ってそんな場合じゃないわ。大人しくしておかないと……)


 自身の精神力で疑似カメラを生成して、パシャパシャと撮り始めたトモミ。しかし彼女もこの先を察してチカラを使って隅へ移動する。


((あっ、お邪魔します。))


 少し拡張されている店内の隅で2人の女が会釈して並んで座る。聞かずとも何から逃げているのかは察していた。


((この後、作戦会議が始まるだろうからなぁ。))


(これ以上関わるのは怖いし、ここで傍観していよう。)

(私は過去の、今は居ない者。彼らの成長を見守りましょう。)


 根本の思いは違えど、会議には出たくない2人だった。


「お客さん達は特殊部隊の方々だね。こんな店だが存分に英気を養っていってください。」


 マスターはユウヤ達に声を掛けるが彼らは別のことに気を取られていた。


(全然似てないんだなぁ。ていうかドコかで見た気が……)

(親子にしては……養子?それにしてもこの人は何処かで?)

(お母さん似なのかな。)

(似てないわねぇ。)

(人間の子供って似るって聞いたけど。)


 ユウヤ・メグミ・モリト・メリーさん・フユミは言葉は違えど同じ

 感想を抱いていた。

 実はユウヤとメグミはこの街のカフェで彼を見たことは何度か有ったが思い出せない。巨大パフェの件は6年も前のことだし、その時のマスターは私服姿だったので彼のモブ顔を正確には覚えていなかった。


 そして――。


「全然似てないわねー。本当に親子?」


「ちょっとヨクミさん!声が出てる、失礼でしょ!」


 ヨクミの遠慮のない発言にメグミが焦って注意するが、メグミの感想も失礼だった。


「あっはっは、良く言われるんだよね。ここまで口を揃えて言われるのは中々無いけれど。セツナは母親似でね、世界一可愛いだろう?」


「はい、可愛いです!すみません、オレらはまだ未熟なもんで……」


 失礼を働いたコトを素直に謝るユウヤだったが疑問もあった。


(オレも声に出てたか?む、同じ様なことが前にもあった気がするけど……まあいいか。)


 店のシステムに抵触してすかさずかき消される疑問君。システムに消されなくてもトモミ相手のコトなので思い出せはしなかった。


「マスター、今回の件でみんなと相談したいのですが……機密とかもあるんで内密にして頂いても良いですか?」


「ああ、構わないよ。”オレは”別にバラしたりしないから、安心して話し合ってくれ。できればお茶菓子代わりになにか注文して欲しいけどね。」


「は、はい!では飲み物と軽いものを6人前お願いします!」


「マスター、オレ達にも人数分頼むよ。力になれるかもしれないからな。」


 口止め料代わりの注文をしてテーブル席に移動する6人。ハロウも率先してその輪に入ろうとする。


 そんな彼らを(やっぱりね……)と隅の2人が見守っている中で、張り切っている女が居た。


(さあああって、美味しい情報のお時間ね!激動の夜を生き延びた彼らのナマの情報!美味しく頂かせてもらうわよ!)


 目を輝かせてメモとペンを取り出すサクラ。今夜は大事件なのだ。

 これを纏めれば次の冬の即売会では販売数の最高記録を叩き出すかもしれないと、ボルテージが上がっている。


(マスターが漏らさなくても、もっちゃんには筒抜けなワケで。)

(お腹いっぱいな人から余計に注文をとってる!どんな手品!?)


 キリコが目を伏せ黙々と盛り付けしてる横で、セツナは口止め料に

 感激していた。



 …………



「ところで皆さんはどういった経緯で――」


「待った!こんな所にいる以上、何らかの訳ありなのは当然だろう。だがみんな利害は一致している。ミキモトを倒すってな。そうだろ?」



 ユウヤが集まった者達に自己紹介を頼もうとするがハロウがピシャリと止めてくる。厨房から目を光らせてるマスターの前で下手に話す訳にはいかない。自分ならともかくクマモト夫妻やヒロキなど、ウソに慣れてない者も居るのだ。


「でもハルさん、気になるんですけど……”色々”と。」


 ユウヤの言いたいことは分かる。だが答えるわけには行かないのだ。


「オレ達は基本初対面で、第二の魔王だってたまたま共闘しただけだ。腹の探り合いや駆け引きを持ち込むなら、今すぐ出ていく。オレ達はミキモトを殺したくて堪らない。君達はここで人間観察を続けるか?」


「わかった!わかりましたって。まずは情報の整理から始めよう。」


「ここに地図が在るよ。ここに書き込んでいこう。」


 モリトがささっと市内の地図を取り出してテーブルにペンを持つ。すると一同は自分が見てきた場所の状況を伝えてくる。


「ここは陥落していた。」

「こっちもね。」

「学校も全滅だったわよ。高校だけじゃなくて小中学校も……」

「ここには生存者が居たわよね。店を守るんだって。」

「駅からここまでは集まった連中は殲滅した。」

「市民ホールは500人くらいは集まっていたかな。」

「市長も無事で統率はとれてたけど、急ぐに越したことはないわ。」

「歓楽街もそれなりに生き残ってた感じだった。神様がどうとか。」

「東や北東は群れこそ少なかったが住宅街だからな。」

「家の中にどれだけ居るかわからないね。」

「意識の高い人や引きこもりは生きてるかもだけど……」


 地図は×印で埋められ、所々に生存者のいる○印が付けられている。

 情報が出揃った時、だれが見ても街は壊滅していた。


「くっそー、何を血迷ってウイルスを撒いたんだ!」


「汚染された水はウイルスとクスリの混合だったわ。変異して傷つく度に治療されるから、私の回復魔法は仕様上効果がなかった。」


 ユウヤの悪態にヨクミが補足を入れるとメグミが驚いて反応した。


「そうなの!?私の回復の光だと過回復で身体が崩れて行ったわ!」


「こっちは冷気で固めれば活動が停止するのを確認してるよ。」


「感情もある程度残っているみたいだったわね。ノロイに反応して右往左往してたみたいだし。」


「本能に忠実だったり強い者に露骨に恐怖を感じたりとあまり賢くは無いみたいでしたわ。」


 その後もモリト・メリーさん・フユミが情報を落としていく。


「つまりは適当に頭を潰せば良いだけだろう?」


「シュン、せっかくの情報なんだから雑に纏めないで。」

「その方が早いじゃないか。会議は素早く、実務は丁寧にだぜ?」


「いや、もっともですね。……街の人口を考えれば、6万人は犠牲になってる計算になる。これ以上の犠牲を出さない為にも、一刻も早く特別訓練学校に攻めてミキモト教授を倒さねばならない。」


 ユウヤはハロウに同意し、×で埋め尽くされた地図を見ながら発言する。


「あと浄水場も不安だよね。駅との戦いで水道水が枯渇し始めていたけど、止めるに越したことはないと思うんだ。」


「じゃあ全員で北上して二手に分かれて――」


 街の被害状況を確認してユウヤとモリトが方針を固めようとした時、厨房の向こうから声が掛けられた。


「その心配はいらないよ。浄水場の件ならオレがさっき片付けてきたから、これ以上汚染された水が広がることは無いだろう。」


「「「ええええ!?」」」


(それ、言っちゃって良かったのかなぁ。)


 知らぬ者達が驚く中で、キリコはジト目でマスターを見る。


「マスター、本当ですか!?この状況で一体どうやって……」


 ユウヤは気になっていた。この状況の街を移動して元凶を排除したと言うマスター。一体どんな手で大量の水を排除してきたのか。


「どうってそりゃあ、職員さんに頼んで施設を止めてもらったんだよ。オレはメシは作れても浄水場には詳しくないからね。」


 固唾を呑んで返事を待っていた特殊部隊は、意外そうな表情になる。


「意外と普通……でもそっか。普通はそうよね。」


 特にメグミは水星屋に思い入れがあったのでポカンとしていた。


(正しくは職員さんを生き返らせて止めてもらった、だけどね。なるほど、イイカタシダイで話がスムーズに進むのかー。)


 セツナはそれを聞いて方便について学んでいく。教育にあまり良くない父の言動から、娘はどんどん吸収していってしまう。

 いや、コレに関しては大事な事でもあるのでとやかく書かない。


「僕達は日常的にチカラに触れてるからね。能力ありきで考える癖がついてるのかもね。」


「さっきチカラが使えるようになったばかりなのに、モリトってば得意気なんだから。チョーシのんなよぉ。うりうり。」


「「えええええ!?」」


「本当か!やったなモリト!どんなチカラなんだ!?」

「ちょっと、凄いじゃない!土壇場で目覚めちゃった!?」


「水をちょっと、ね。それは後で良いとして、浄水場に行く必要がないなら直接学校を目指そう。」


「話は決まったようだな。オレ達も協力する。」

「当然ね。やっと復讐が果たせそうなんだし。」


「あの、逮捕どまりでお願いします。」


「あら、じゃあ競争ね。」


 モリトの言葉を軽く流すヘミュケット。NT組はやる気に満ちていた。

 ユウヤ達もミキモト教授達を許せない。9割すり潰した方がと良いと思っている。だが立場上は逮捕して法の裁きを受けさせるべきとも思っていた。


「オレ達は大したチカラもないしここまでかなぁ。」

「言葉がわかっても話が通じない相手は苦手よね。」


 2組のクマモト夫妻はここでリアイアを選ぶ。高給とはいえあまりチカラの通じなかった相手の総本山に乗り込むのは辛いだろう。


「私らは遠距離向きだから乗り込むのはなぁ。」

「オレは見るだけで戦闘は無理だよ。」


「私は多少は戦えるけど、ブランクがねぇ。」

「これ以上はオレに任せてもいいぞ。偵察ならオレが――」


 クリスとヒロキ、イヌキとイタチが煮え切らない態度をとる。


「せっかく生き延びたのに無理して死んでもつまらないでしょう。あなた達は残っておいた方が良いと思うよ。」


 イマイチ乗り気でない者達にマスターはそう告げる。

 彼らがそういう態度を取ったのはマスターの指示を乞う為だった。下手に手を出そうとして不興を買わない為の行動だ。


 それに対してマスターは残るように指示を出した。実はまだやって貰うことがあるので、今の内に休息を取って貰うつもりだった。


『○○ちゃん、私は?』

『トモミにも後で手伝って欲しいことがある。今は休んでて。』

『わかった!頑張るから何でも言ってね。』


(お隣はマスターと解り合ってる感があるなぁ。このまま行けば私はお役御免でお留守番ってことに――)


 ステルス状態のトモミとマスターのアイコンタクトを見て、彼らは只者じゃないなと感じつつ息を潜め続ける。


「そういえばショウコさんがステルスのチカラを――」


(ビクン!)


「突撃時に手伝ってもらえれば――」


(ビクビクン!)


「あれ、ドコに行ったんだ?トイレかな?」


(やめてー!私を巻き込まないで―!)


 ショウコは自分はただの壁と思い込んで頭を抱えて祈っていた。


「君たちね、あまり一般人の女性を巻き込むのは感心しないよ。それより他の仲間とかは居ないのかい?テレビで見た限りはもっと在籍してなかったっけ?」


 あまりに可愛そうな姿のショウコを認識していたマスターが、助け舟を出した。ショウコは目に涙を浮かべ両手を握りしめて祈るように感謝アピールをしている。


「ああ、それもそうか……ソウイチ達って結局どこに行ったんだ?」

「私は途中で記憶もトんでるしちょっと分らないわ。」


「ウチには来てないわよ。特殊部隊はあなた達が最初だったし。」


「……それなんだけど実はフユミさんが西の――」

『待って、今は詳しい話は言わないほうが良いわ!』


(ただの不確定要素は不安材料にしかならない、か。)


 フユミのテレパシーで静止が入り、モリトも納得して言葉を止める。それを躊躇わなかったのは彼にも迷いがあったのだろう。


「フユミさんがどうしたって?」


「途中までは一緒に行動してたけど、はぐれてしまったみたいなんだ。」


「狂った私の分身と戦ってる間に、見失ってしまったの。分身の方はモリト君に何とかしてもらったけど……」


「そうかー。じゃあすれ違いになったのか?でも街には結界があって出られないんだろう?その内ここまで戻ってくるかもな。」


 ユウヤは難しい顔で考えている。彼らならばゾンビ程度、実力が発揮できれば問題ないしそのための訓練も受けている。何よりあのチームも連携に関しては眼を見張るものがあるし、攻撃力のエグさだけならユウヤ達を上まわる。


「そういう事なんでマスター、オレ達みたいな格好の連中が来たら学校へ行ったと伝えてくれませんか?怪我してたら保護してやって貰えると助かります。あ、もちろんお礼はするんで!」


 ユウヤは厨房へ向き直ってマスターにお願いする。仲間を思って保険を掛けておくという極々普通の言動だったが、相手はマスターだ。ユウヤは彼の管理エリアに自ら踏み込んでしまっていた。


「ええ、構いませんよ。もし保護したら後で連絡を入れますのでここに連絡先と……内容にサインをお願いして良いかな?組織というのは書類がモノを言うのでしっかり残しておくのが大事ですから。」


「はい、よろしくおねがいします!」


 ユウヤは渡された紙に名前と電話番号などを書き込んでいく。

 特殊部隊への情報伝達と保護。報酬は貸しとして後で話し合う。端的に言えばそんな内容の書類だった。


(あーこれって絶対もう保護しているパターンだわ!マスターの口調が無駄に丁寧になる時って何かしら企んでいる時だもん!)


 キリコは長い付き合いなだけあってすぐに気づいてジト目で皿洗いをしている。口調については距離を取ろうとした時や警戒した時なども変わるので、長年傍で見てきたキリコからすれば分りやすい。


(あからさまだと気付けるのは、彼に近しい立場だからよね。悪いようにはしないでしょうけど、相変わらずのズルさねぇ。)


 サクラも当然気がつくが、黙ってメモ帳に書き込んでいる。


(ふんふん。世の中を渡るってこういうタチマワリをするのね!しっかり勉強しておかなくちゃ!)


 セツナは真剣な顔で父親のやり方を見ていた。


 彼らの仲間を保護しておいて、わざとその話題を振っておいて自発的にこちらに頼むように仕向ける。保護に関しては偶然から始まったコトだが、一連の流れで優位に立てるような立ち回りにセツナは感銘を受けたのだ。


「そうだ、もう行くならこれを持っていくと良いよ。」


 そう言ってマスターはカウンターの上に袋を載せていく。


「これは?」


「お弁当だよ。おにぎりと唐揚げ、餃子を包んでおいた。それとこっちは街で見つけた弾薬だ。君達の装備にも合うだろう。まさかコンビニで売ってるとは思わなかったけど。」


「やった、丁度弾切れしてたんです!」


「助かります!親切だとは聞いてたけど、ここまでして頂けるなんて。ありがとうございます!」


 さらなる親切の押し売り爆撃で好感度を稼ぐマスター。本人は何でもないよと言ったふうに言葉を返す。


「たまたまだよ。それに君達の方はここからが大変なんだ。持ちつ持たれつってやつだよ。」


(サポートをする役に戦う役。助け合いの精神って良いよね。)


 モリトはしみじみと感動していた。街に戻ってからの彼は、この人間社会に多大な疑問を抱いていた。だがこうしてみんなで協力して困難に立ち向かえる事を、市民ホール辺りからとても嬉しく感じている。絶対に事件を解決させる!と改めて心に誓う。


『マスター、コンビニなんて寄ってないのによくそんなウソがつけるわよね。』


『青少年を誑かすのは良くないと思うんだ。』


『うん?でもウソじゃないよ。買ったとは言ってないし。事実として弾薬が補充されて、感謝して貰えるんだから別にいいんじゃない?』


 キリコとサクラからのテレパシーに悪びれなく答える。

 弾薬は時間を止めた上で彼らのバックパックやポーチの中身を復活させて取り出したにすぎない。


 ついでに彼らの身体になにかしらの細工も施している。

 敢えて問いただしたりはしてないが、問うたらきっと、保険だよと返ってきたことだろう。それくらいは彼女達も理解していた。


『むしろウソじゃない方がタチが悪いと思うんだけど。』

『裏を知ってると呆れるしか……みんないい笑顔だなぁ。』


 親切爆撃で畳み掛けて信用を得た水星屋だったが、その店員達は微妙顔であった。


「セッちゃん、すぐに解決しちゃうから待っててね!」


 ヨクミはお弁当に野沢菜が添えられてるのを見て、セツナの手を握って喜んでいる。


(お父さんってやっぱり凄いんだなぁ。)


 やる気に満ち溢れた彼らを見て、セツナは父の偉大さを実感してしまっていた。


「市長から車を借りたから僕達はそれで行けるところまで行こう。マスター、ありがとうございました!」


「じゃあオレ達は走っていくぜ。」


 特殊部隊とNT組は戦意高く水星屋を後にして北の学校へと向かっていった。



 …………



「「ただいまー。」」


「はい、おかえり。さて、まずはみんなの無事を喜ばしく思います。報酬は期待していてください。ではこれからの仕事の話をしますね。」



 特殊部隊と共に外へ出たハロウが恋人と共に戻ってくる。それを待ってましたとばかりにマスターが一同を仕切り始めた。


「ちょっと待って、仕事ってどういう事!?え?なんで――」


 ショウコは思わずチカラを解除して大きな声をあげてしまう。


「はいソコ、お静かにー。気になるのは仕方ありませんが大事な話をしますので待っていて下さいね。」


「いやだっておかしいでしょ!?この人達なんで戻ってきてるの?マスターさんだって急に雰囲気が変わって……」


「ショウコさんに危険はありませんので落ち着いて下さい。貴女は良くズレてるって言われません?他のみんなは大人しくしてるのに、大騒ぎして。」


 マスターは他の一般人達を手で示して見習って欲しいと言ってくる。


「彼らは酔い潰れているだけじゃない!」


 テーブル2つ占拠してぐってりしてる8人の生存者達。怖い夢でも見ているのか、時々外のゾンビみたいな唸り声をあげている。


「ナイスツッコミです。でも話が進まないのでラーメンでも食べて落ち着いてて下さい。」


「あ、どうも。頂きます。……美味しい!」


 一瞬で作られたラーメンを素直に受け取って食べ始めるショウコ。


「やっぱり変わってますねぇ……コホン。それでは仕事の話に戻りましょう。まずはサクラ、お父さんに連絡して学校1つ貸し切りにして下さい。日曜だから1日くらいは占拠しても問題ないでしょう。」


「解ったわ。生存者の受け皿の準備ね。お先に失礼します。」


 サクラはそのままスマホを取り出しながら厨房の奥、魔王邸へと姿を消していく。


「次にヒロキ・イヌキ・イタチさんで孤立した生存者を探して、サクラの街に送り届けて欲しい。感染のチェックはチカラで念入りにね。空間の穴を開く為の予備電池も渡しておくよ。」


「オレもかい!?このメンバーだと空から探せと…‥!?」


「上空は空気がだいぶ汚れているから、低空飛行で頼むよ。」


「了解よマスター。ヒロキさんも頼りにしてるわね。それと自我の残ってる感染者はどうするの?」


 白い球体をいくつも受け取ってイヌキは質問する。発症前は自我が残っているし、発症後も残っている人もいる。


「纏めてこっちでなんとかするから放っておいて。絶対に送らないように。」


「う……うぐっ。」


 命の取捨選択という重大な責任に息を喉に詰まらせるイヌキ。


「すまない。だが即座に判別できる者は少ないんだ。」


「マスター、良ければ結界の術式をくれないか?」


「ああ、その方がやりやすいか。はいどーぞ。これに手を通せれば感染してません。」


 マスターはイタチにリングを渡して使い方を説明する。セツナの張った結界にも使われている、感染者を弾く術式が付与されていた。


「イヌキとヒロキはアタリを付けてくれ。精査はオレがやる。」


「あいさー!」

「ありがとう、パパ!」


 イタチパパのおかげで少し気が楽になったイヌキはさっそく仕事にかかる。


「クリスとトモミは後でシーズと協力して感染者と死者の弔いを手伝ってもらう。サポート室で待機してくれ。」


「オーケー兄さん。出番まで格好良い所を見せてもらうよ。」

「○○ちゃんに少しでもお返し出来る様に頑張るわ!」


 指名された2人も魔王邸へと移動を開始する。だがその間際、トモミはカタカタと箸を鳴らす隣のショウコに声を掛けていた。


「ショウコさんだったわね。彼、絶対悪いようにはしないから大船に乗った気持ちで居ていいわよ。」


「ア、アケミにもそう言われてます。けど、何がなんやら。だって流れ的にマスターって――」


 彼女はラーメンを啜りながらも身体が震えていた。どうやら断片的な状況証拠から気付いてしまったようだ。


 そもそも第二の魔王であるケーイチに連れてこられた場所ってだけでも怪しかったのだ。


「じゃあ、親友を信じてあげて。生前彼女が幸せになれたのは彼の功績もあるんだから。」


 精神干渉で色々と彼女の事情を知ったトモミは、それだけ伝えて魔王邸へと向かう。


「ううう!か、替え玉お願いします!!」


「はい、お待ち!ショウコさんの感性には驚かされるね。煮玉子とチャーシューもどうぞ。大丈夫、最後の晩餐にはさせませんから。」


「ううう、考えもバレバレ……あ、美味しい。」


 ショウコは涙目ながらも食事で不安を紛らわすのであった。


「ある意味度胸のあるお姉さんだな……それよりオレ達はどうすればいい?」


「ハル君達はトキタさんと一緒に学校に潜入してください。恐らく街よりエグイモンスターが出てきます。程よくユウヤ君達の援護をしつつ、VIPの護衛もお願いしますね。」


「VIP?誰のことよ?」


「トキタさんに話は通してあるので合流したら聞いて下さい。」


 ヘミュケットは当然の疑問をぶつけてみるが、この場で言うつもりはないらしい。


「なぁ、さっさと黒幕を倒しちまっちゃダメなのか?」


「トキタさんに分解されたくなければ止めたほうが良いよ。」


「それは言えてるな。あの霧はオレ達も危ういからなぁ。」


 身体能力だけならハロウ達は負けてないが、広範囲に彼の霧を出されては吸血鬼の再生速度でも追いつけない可能性がある。


「考え方次第ですよ。本社社長として残党を買収するなり、残された研究結果を破棄ないし活用するなり。生き残ればいくらでも復讐できると思いません?」


「せいぜいそうさせて貰うさ。ヘム、行こうぜ。」


「ええ、どこまでもついていくわ。」


 NT組は再度外へ出てケーイチと合流しに向かう。


「なあマスターさん。オレ達を残してるってことは、まだ仕事があるのか?」


「さっき言ったのはわりと本気な感想でもあるんだけど。」


「正直オレ達より主任とかのほうが役に立てたまであるぜ?」


「例の神の使いとかね。どうして私達の方に声かけたの?」


 クマモト夫妻は不安そうにマスターへ尋ねる。借りを返す為と高給に釣られて来てみたものの、トモミのサポート抜きでは苦しかった彼ら。当然の疑問だった。


「異界の人間はおいそれと呼べないんだよ。オレやトキタさんみたいに特別な許可がないとね。それにゾンビが日本語事体は理解してるとは思わなかったんだ。怖い思いをさせて申し訳けない。」


「いや、頭を下げる必要はないけどよ……それでこの後は?」


「集団で過ごしている生存者の説得のつもりだったけど、もしアレなら帰っても大丈夫だよ。」


「説得かー……マスターがやった方がよくないかい?」


「オレの説得失敗率の高さは折り紙付きなんだけど。まぁいいや。じゃあサクラから準備OKの連絡が来たら旦那達は彼らを運んでくれない?奥さんたちはショウコさんを見てあげてほしい。」


 マスターはそう言って酔いつぶれた生存者達を示していた。


「わかった。みんなもそれでいいな?」


「「「はいよ!」」」


「じゃあ決まりだ。キリコ、セツナは閉店作業。オレは特殊部隊の治療に入る。」


「「はーい!」」


(((やっぱり、もう保護してたんだ……)))


 元気に返事をする店員と察していたクマモト夫妻x2。


『マスター、X小学校とXXX小学校も使って良いって!』


『ありがとうサクラ。クマモトさん達と受け入れ頼むよ。』


『承りました!』


「さあみんな、受け入れ準備が出来た。入り口を繋いだから移動を始めて下さい!」


 サクラの連絡を受けてそれぞれがそれぞれの仕事を進める。ゲームなどでは敵を倒して終わりだが、実際はそうはいかない。


 後始末と泥をかぶるのは悪役のツトメなのだ。



 …………



「はーーはっは!さあ、怯えて逃げ惑うがいい!」


「女達は逃げろ!捕まったら薄い本がアツくなる!」


「「「ひっ、きゃああああああ!」」」



 10月5日推定1時30分。市民ホールに現れた魔王が高らかに笑う。

 意外と戦意の高いイベント参加者が抵抗してくるが、片っ端から捕まって何処かへ転送されてしまう。


 運営の警告は効果的で、アレな想像をしてしまった女性陣は建物内へと逃げ込んだ。


「伝説さん達と約束したんだ、絶対に生き残ると!うわあああ!」


 格好良い事を言ってたコスプレイヤーがまた1人捕まってしまう。


「くっ、人間同士の揉め事のスキを突いてくるか、現代の魔王め!」


 市長が悔しそうに魔王を睨むが何も出来ない。そこへ4人の男女がさっそうと現れた。


「特殊部隊、ソウイチチーム参上!」


「市長さん、裏口に逃走ルートを開いてあります!そこからなら安全な場所へ移動できます!」


「な、なんと!?別働隊か、助かる!」


 ソウイチの宣言とミサキの希望のある一声を一発で信じる市長さん。人間同士でいがみ合うのはモリトの事で懲りたのだろう。


「「みんな、こっちへ逃げてー!」」


「市民達よ、特殊部隊が来てくれた!彼らの指示に従うのだ!」


 アイカとエイカの誘導、総大将の市長の声で500人近い市民の大移動が始まった。


「「「押さないで下さーい。ここを過ぎれば安全ですよ!」」」


「「「転んだ人には手を差し伸べて!まだ時間はあります、全員で

 生き延びましょう!」」」


 アイカ達は施設内の廊下に平行世界の姉妹を呼び出して、人々を誘導している。その先の出口には空間の穴が開いており、そこを通ると某県某市のXXX小学校の校門に繋がっている。


 そう、この襲撃は茶番。普通に避難するように言っても説得が失敗する可能性を見て、だったら最初から自発的に行動させようというマスターの仕組んだ茶番だったのだ。

 ソウイチ達も人を助ける為ならば、と協力してくれた。


「オレの赤ずきんには指一本たりとも触れさせない!」

「オオカミさん……うるうる。」


「そういうの良いから、さっさと逃げようよ。」


「「うああああああ!」」


 広場でヒロイックなシーンを演じて楽しんでる夫婦を両脇に抱えて

 空間の穴へ放り込む魔王。


「よくも仲間を、このー!」

「幽霊ちゃんダメ!逃げないとテゴメにされちゃう!」


 魔王が振り向くとぽかぽかと殴りかかってくる幽霊と、それを止めようとするクオリティの高い幽霊コスプレイヤーがいた。


「霊体をテゴメにって、さすがに出来……しないよ。」


「なんで言い直したの!?キャーーー!」

「ああああ、幽霊ちゃんを返せー!キャアアアア!」


「彼女たちは学校の新しい7不思議にでもなってもらうか。」


 面倒になった魔王は2人を強制的に小学校へ転送しておいた。


「わあああ!ダメだ、逃げろおおお」

「待ってよ、置いていかないでー!」


「こんな調子なら説得しないで正解だったな。おいそこ!けが人を見捨てるな!……大丈夫か?まったく薄情だなぁ。」


 いくらキョーイクを受けたとはいえ非常時にはニンゲンの本能が出てしまう。置いていかれた運営の女性は足を怪我していた。


「あんたの所為じゃない!」


「そりゃそうだ。ふんふん、感染はしてないね。ほら、足も治したよ。」


「え?あ、ありがとう?」


 魔王は屈んで彼女を調べて治療すると疑問形でお礼を言われる。


「彼女から離れろおおおおお!」


 そこへ魔王の後頭部めがけて畳んだパイプ椅子が振り下ろされた。


 ガイン!


 当然次元バリアに阻まれて尻餅をつく男、この街の市長だった。

 どうやら彼女を襲う直前と勘違いしての行動らしい。表向きは勘違いでは無いので別に魔王も反撃したりはしない。


「市長さんだっけ?結構勇気あるんですね。あなたは逃げなくて良いんですか?」


「上に立つ人間は最後まで戦うのだ!もう、任せっぱなしはコリゴリなんだよっ!すぐ逃げるお前と違ってな!」


「それはご立派ですね。そいや!」


 いつも突然現れてはいつの間にか逃げている魔王をディスりながら市長は格好良くキメた。これで彼は面目を保てるだろう。だが次の瞬間には武器を奪われ、気絶させられた上で姿を消していた。治療した女性も同時に転送しておいた。


「オレが逃げるのは余計な犠牲を出さない為なんですけどね。」


 誰も聞いていないつぶやきは風にかき消される。


 以前、店舗特典目当てでラノベを1冊買いに行ったら通報された。

 その時は変に言い訳してゴタつき、警察・市民合わせて40人を超える犠牲者が出てしまった。


 本1冊買うのにそのレベルなので、面倒になったらさっさと逃げるに限ると学んだのである。


「さてさて、どうやらみんな逃げてくれたかな。」


「お父さんって分かりづらい優しさですね。昭和的な?」


「だれが昭和のお父さんやねん。そっちは終わったの?」


 アイカの1人がぴょこんと生えてきた。誰にも聞かれてないと思っていたが、彼女には聞かれていたようだ。ひとまずツッコミを入れて進捗を尋ねる。


「うん、動けない人とかは全部”私達”が運んでおいたよ!」


「さすがは特殊部隊といったところか。優秀だね。」


「「頑張りました!」」


 エイカも生えてきてステレオで得意気の2人。頭を差し出して来たので思わず撫でてあげた。年上からの愛情に飢えているのだろう。


「「「ああー!ずるい!私達も」」」


 施設内から50人を超えるアイカとエイカがワラワラと駆けつけて

 囲まれてしまう魔王。


「どうしてこうなった……だが伊達に魔王と呼ばれてないことを見せてやろう!」


 謎のやる気を出してイロミの応用で両腕を彼女たちの頭へコピペして撫でまくる。


「よくやった、偉いぞ!」


「「「やったーー!」」」


 大喜びのアイカ&エイカは喜びの声の大合唱になる。そこへ空間の穴が開いて割烹着の女の子が現れた。


「お父さん!他所の子ばかりズルい!私も!!分ッ身ッ!」


 セツナは昔の特撮の変身ポーズをすると2人に増えていた。


「えええええッ!?セツナも分身を覚えたの!?」


『だってほら、2人居れば私にも甘えて貰えるじゃない?』


 どうやら妻の○○○が内緒で教え込んだようだ。


『ああ、うん……じゃあクオンも大きくなったらそれで……』


『でもそれって嫌われてないのが大前提じゃない?』


『うぐう。物心がつけばきっとオレにも……』


 魔王は愛娘達と双子達を撫でながら心にダメージを受けていた。


「おい見ろよ、あれがオレ達の宿敵だった魔王の姿だぜ?」

「子供には弱いのね。伯祖母様の影響かな。」


 少女包囲網の外側で、ソウイチとミサキが生暖かい目で見守っていた。



 …………



「こんばんはー、夜分遅く失礼しますよ。」


「○○○○!来てくれたのね!……って遅いわー!何時間待ったと

 思ってるの!?」



 10月5日推定1時50分。歓楽街のコウコウ神社の社内に唐突に現れたマスターに喜びの顔を見せるキサキだったが、次の瞬間には拗ねて見せる彼女。彼女の足元にはケーイチを通して渡した来月発売のエロ本が散乱している。全部読み終わっているようだ。


「いやーこちらも想定外の事が多くて。でも師匠の情報のおかげで助かりました。ありがとうございます、キサキ師匠。」


「ふ、ふん。まあいいわ。それでこの惨状、どうするつもり?」


 待たされて怒っていた割には古風な喋り方ではないので、機嫌はそんなに悪くはないキサキ。手土産とおだてに弱い土地神様は今後について聞いてくる。


「この街はぶっちゃけもうダメです。生き残りをオレの管理下にある街に移住させます。それっぽい理由付けの為に境内借りて良いですか?」


「先代から引き継いだ土地を手放せと申すか。本当に手立てが無いとは言わせぬ。手を抜いているのであるまいな?」


 口調が変わって今度は激おこなキサキさん。もちろん彼女も普通に何とかなるとは思っていないが、成長した弟子のチカラなら……という乙女的な期待がこの数時間で気球の様に膨らんでいたのだ。


「代償に10倍の犠牲が出ても良いなら……大事なのは土地その物ではなく心意気だと思います。色々とバランスの良い落とし所に落ち着かせる為の選択です。」


 70年モノの乙女の期待を裏切ったマスターは言い訳を始める。


「私のコトワリは勘付いておるのだろう。それも含めての話か?」


「もちろんです。思わぬ所でコレも手に入れましたし、多分上手く行きますよ。」


 マスターは右の手の平を上に向けてパッと見は謎の物体を3Dホロで表示した。ミサキの身体からコピペした骨である。


「こ、これは……分った。まずは皆の者を避難させよう。」


 キサキは納得すると巫女を呼んでマスターの黒モヤで打ち合わせをする。準備が整ったら境内に移動して空間の穴を広げて固定する。ちょっぴり装飾も交えて、門と呼べるくらいのモノにはなった。



『ぴんぽんぱんぽーん。コウコウ神社より、ご町内の皆様へお知らせします。』



 マスターはテレパシーにて歓楽街への町内放送を開始する。


『現在の状態を深刻に受け止め、コウコウ様が最後のおチカラを用いて、安全な土地への脱出口を開きました。つきましてはコウコウ神社の境内にお越し頂ければ、この街からの脱出が可能となっておりますので――』


 マスターが脱出場所を指定すると近場の者から押し寄せてきた。


「ここから逃げられるって本当か!?」


「はい、こちらの空間転移門をくぐって頂ければすぐです。ただし――」


 若い巫女さんが来訪者を誘導・案内している間も放送は続く。


『ただし、脱出先は真夜中の街中です。先方の指示には必ず従って下さい。あちら側の和を乱す者には天罰のようなモノがくだされると認識しておいて下さい。また――』


「お、おい!通れないぞ!?どういう事だ!?」


 続々と境内に入ってきた人達の中で、門をくぐれない男が現れた。


『尚、当然ではありますが、感染者は脱出させるわけには行きません。今は結界のチカラで症状が落ち着いていても、脱出先ではすぐにゾンビになって感染を広げる原因になります。なので――』


「申し訳ありませんが、貴方は第2便での脱出となります。今は他の方にお譲り下さい。」


 マスターの放送とリンクするように巫女さんがお断りの言葉を告げて頭を下げる。


「ふざけんなよっ、やっとの思いで生き延びてきたんだぞ!?」


「きゃっ!」


 男は怒りの形相で、ぺこりとお辞儀する巫女さんを突き飛ばして門へ体当たりを試みる。


 ガイン!ガイン!


 しかし門の前に設置された結界の壁は、無情にも男を何度も押し返している。実は市民ホールの時も同じ仕掛けが施されていた。

 あちらは統率が取れていただけあって備蓄の水しか使われておらず、アイカ達からは通れなかった人の報告は受けていない。


『もしこれについてご納得頂けない方は、第2便にも席はございません。それをご理解して頂いた上で門をお通りください。』


 マスターは突き飛ばされた巫女さんを支えながら放送を続ける。

 それにイラっと来た男が詰め寄ってきた。


「くそっ、おいお前!ゴタクは良いから通せよ!」


 尚も門の前で暴れている男が”その言葉”を言ってしまった。

 その場において自分が無条件で正しいと信じている人が、ワガママを通すために説明放棄でよく使うワード。


「良いから?本当に良いのですか?」


「当たり前だろう!さっさと通せ――」


 シュゥゥゥン……。


 言葉の途中で男はかき消えた。マスターが手をかざしている事から彼の仕業と分かるが、境内に集まった一般人からは何をしたのか分からなかった。


「これで良しと。はいはーい、次の方どうぞ―!」


 特に説明するでもなくマスターは巫女さんを支えながら並んでる人達を招き入れる。集まった人々の頭に、薄く黒モヤで覆って疑問を持たせない。そんな彼の後ろで、キサキは頬が引きつっていた。


「のう、マスター。もう少し手加減して生かしてやっても良かったんじゃないか?やりようはあったであろうに。」


 キサキがマスターにやんわり苦言を呈する。


 マスターは彼の時間をゼロにした。時間の速度を、ではなく彼の全てをゼロに戻した。つまりは消滅である。


 時間を止めるなり気絶させるだけでもいいし、最悪洗脳しても良かった。何も歴史をゼロにする必要は無かったのだ。


「何言ってるんですか。本人がそれを望んでたんですよ?最終確認にも強く同意してましたし。それに殺したわけじゃないです。彼は”もう”生まれてませんし。」


 だがマスターの答えはサイコパスだった。聞く聞かないはともかく説明もしたし、確認もとったのだからと彼は言う。

 転送先でゾンビになって自他共に不幸になるのを望むのであれば、1人で不幸になれば良いという考えからの行動だ。


「きっと解ってなかっただけだと思うが……時々お前という男がわからなくなるな。」


「よく言われます。ただ今回は、分かろうとしなかった彼の落ち度かと。」


「まったく、どんな教育を受けたらそんなに捻くれるんだ。昔は可愛げもあったのに……」


「世の中って難しいですよね。」


 いつものテキトー発言ではなく色んな物をこめての発言だったが、だからといって何かが変わる訳でもなかった。


 マスター自身も捻くれてるのは自覚しているが経験上、今はこれが最適だと判断してしまった。

 悪魔になり世界の理を意識する様になってからは、どうしても人間の常識と感覚がズレる。彼もショウコの事を笑えない立場だ。



 …………



「もう粗方終わりましたかね。結界外の時間を止めているとは言え、結構かかりましたね。」



 あれから30分ほど掛けて一般人の脱出は終えた。今頃はサクラやクマモト夫妻達が頑張って仕切っているだろう。残っているのは神社関係者と感染発覚者だけである。


 時間の停止に関しては、もちろん向こう側の学校の敷地内とは状況を共有させている。でなければ門を出たらぎゅうぎゅう詰めになってしまう。


「マスターさん、お疲れさまです!助けて頂き感謝してます。」

「ありがとうございます!」


 魔王事件の被害者の占い屋さんが小学校に上ったばかりくらいの子供を連れて挨拶に来る。その横には彼女のお兄さんも一緒だ。


「占いさんも、”お子さん”も無事で良かったです。遅くなってすみませんでした。」


「ちょっとアンタ!この期に及んで他人行儀な――ムギュ!」


「兄さんは黙ってて。私がそれでいいって言ってるんだから!」

「おじさん、変なのー!」


「ムガムガ!(姉さんよ!)」


 認知問題絡みの先代コウコウ様のお叱りの言葉を、占い屋さんは口をふさいで強制的に終わらせる。大事な妹の子供が父親に認知もされないのが不憫だったのだろう。こればかりはマスターも言い訳したりはしない。


 彼らの緊張感の無いじゃれ合いを見ていると見覚えのない3人の女性も近づいてきた。足でもケガしたのか1人は支えられている。


「あの、この度はありがとうございます。コウコウ様。」


 3人はマスターではなく直ぐ側のキサキに頭を下げる。神々しさが溢れているというよりは消去法で解ったようだ。


「よい。むしろ役目を果たせず守りきれなんだ私の方が責められるべきだとさえ思っておる。」


「滅相もございません!」

「コウコウ様が御使い様を派遣してくれたからこそです。」

「うどんには驚かされましたけどね。」


「見た所そこの者は足を怪我しているようじゃな。せめてもの詫びにほれ、治してやろう。」


 言い終わるやいなや、うどんさんの足から白い光が発せられて治療が完了する。彼女にそんなチカラは無いので治したのは当然マスターである。


「痛くない!?コウコウ様、ありがとうございます!!」


(ま、師匠を立てるのも弟子のツトメだしね。ついでに彼の事も師匠に伝達してっと。)


「良い。そうそう、良い知らせがあるぞ。お主達が興味を持ったソウイチの無事が確認された。全て終わったら労ってやるが良い。生死の狭間でお主達の事が気がかりで生き延びたそうじゃ。」


 嘘は言ってないが美談にする話でもない。それでも彼女たちには希望のある話として受け止められた。



「「「本当ですか!?私達、がんばります!」」」



 ミサキの胃が痛くなるような援護射撃を放ってしまうご先祖様とその弟子。3人の弾けるように喜ぶ姿に、師弟揃ってイイコトをしたなとうんうん頷いている。


「ほれ、お主達もそろそろ移動するがいい。向こう側の指示をよく聞くようにな。」


「「「はい、ありがとうございました!」」」


 巫女・バニー・うどんの3人娘は、足取り軽く転移門をくぐっていった。


「ちょっとアンタに話があるんだけど――」


 妹の静止も何のその。お兄様が敵意剥き出しで近寄ってくる。


「露骨な血筋や遺産の話は子供が大人を嫌いになりますよ。」


「……な、何でも無いわ。じゃなくって!この土地を捨てるってどういう事よ!第2便についても詳しく聞かせなさい!」


「捨てるのではなくリサイクルです。んー、キサキ師匠。彼は神社の深い関係者だったりします?」


「いや、社務所によく出入りしておるシスコンのオカマよ。」


「誰がオカマよ!」


「いえ兄さん、オカマ以外の何者でもないわ。」


 キサキは彼が先代のコウコウ神の転生体とは気付いていない。

 今代からの適当な紹介を受けて憤る先代だったが、妹にもハッキリと言われておとなしくなる。


「兄さんが居ると話が進まないから、この子を連れて早く避難して下さい!」


「……わかったわよ。さあ、お姉さんと一緒に行くわよ。アンタ達、覚えてなさいよ!」


「どこの悪役のセリフですかね。ていうか君はまだ行かなくて良いの?」


 騒がしい先代が去って静かになったが、元巫女の占い屋さんは残っている。


「私は記録係ですから。」


「うん?」


 良くわからないが重そうなバッグからビデオカメラを取り出して構える彼女は真剣だ。



「それでは○○○○よ。始めようではないか。」


「ええ。師匠の土地神としての楔を解き放ちます。」



 キサキとマスターが向かい合う。キサキはコウコウ神としてこの地に縛られた身である。よって他の土地に移動することは敵わない。


 全ての土地神がそうとは言わないが、キサキは特殊な経緯で後天的に神体となった、いわば代打である。この土地と無理に契約をして数十年、完全に縛られる形になっていた。それをまず外さなければ満足に移住も出来ないのだ。


 そしてその方法とは、更に大きなチカラで契約を上書くコト。


「遂にこの時が来ましたね。」

「遂にじゃな。どれほど待ちわびた事か。」


 2人はシリアスな雰囲気で互いを見つめる。


「お世話になったお礼に、必ずキサキ師匠を越えて見せます。」

「私も唯ではやられぬ。一線を越える前に天国に送ってやろう。」


 2人はジリジリと近づき、ブワっと赤と緑のオーラを放つ。


(まるで後ろにキツネとタヌキが見えるようね!)


 カメラを構えた占い屋が妙なものを幻視するが放っておく。


「行きます!貴女の神の契約を悪魔のオレが越えてみせる!」


 バサッ!


 マスターは黒いマントを翻して前傾姿勢で踏み出す。


「来るが良い!その凶悪な楔を見事打ち込んでみせよ!」


 バササッ!


 キサキも和風の衣装を、翻すと見せかけてそのまま脱衣する。


「なんでやねん!」


「あいたっ!!」


 赤いチョップを脳天に食らって尻もちをつくキサキ。


「師匠との熱い戦いが始まるとワクワクしたオレの気持ちを返して下さい!なんか口上も変だと思ったんですよ。」


「前にも言ったけど私との熱い夜を卒業試験に――」


「前にも言いましたが普通は熱い戦いでしょう!?というか絵面が完全に犯罪じゃないですか!」


「世界中の女を強引にオトしておいて今更何よ!」


「そうですよー、カメラ回ってるんですよー。プロならビシッと決めてくださーい。せっかくの成長記録なんですからー。」


(コレが占いで分かっていてカメラを構えたのか……)


 オトされた1人の元巫女さんがマスターを煽る。当然無視だ。


「初めてでギャラリー付きの野外ハX撮りする、レベルの高いエロ幼女なんて世界の何処にも居ませんでしたよ!?」


 一応記すが、魔王事件で子供に手を出したりはしていない。

 個々の理由はどうあれ子供を作るのが目的なのだから当然だ。


「ということは私が世界初、世界一なのか!?」


「もう面倒だから黙っててもらえません?」


 マスターは未だに素っ裸のキサキの胸に赤い光そのものの腕を突っ込んで土地神としての呪縛・契約を強制的にほどいていった。


「ん!んあああマスター!そんな太いモノを……苦しい!」


「変な声出さないで下さい。はい、これで師匠はただのレベルの高い幽霊です。身体は後で2人で作るとして――あの世に飛んでいってしまう前に適当にミサキさんだかソウイチ君だかに取り憑いてもらって――」


 高レベル幽霊になったキサキを黒い鎖で縛って現世に固定しつつ、取り憑き先を決めようとしたら頭の中に声が響く。


『ちょっとマスター!こんな恥ずかしいご先祖様を私達に面倒見ろですって!?』


 割と崇拝していたハズのミサキからテレパシーが飛んできた。

 おそらく魔王邸の孤児院でクマリと一緒に見ていて、耐えきれなくなってクマリに連絡を取ってもらったのだろう。


『なぁ、さすがにミサキが可愛そうだからそっちで面倒みてくんないかな。耳まで真っ赤になってんぞ?』


 割とキサキに好意的だったソウイチにすら拒否されるキサキ。


「キサキさんどうします?予定していた取り憑き先から全力で拒否られてますけど。」


「ぐぬぬ、バカにして!こうなったらお主の身体に――」


 ガイン!


「きゃあ!」


 次元バリア――ではなくクロシャータ様の加護に弾かれて宙に飛ぶキサキ師匠。


「面倒だからあの骨でいいか。自分のだし相性は良いでしょう。」


 大雑把にムンズと師匠の幽霊を掴むと、取り出した骨に押込める。

 これなら持ち運びも苦ではない。


『こらー!師匠に骨を充てがうとは何事じゃ!犬ではないのだぞ!』


「これで良しと。占い屋さんも早く避難してください。土地神の存在が無くなったのでそろそろ危ないですよ。」


 抗議を無視して占い屋に避難を促すマスター。


「「「うぐぐ……グガ、グヴァアアアアアア」」」


「え?ひゃあ!は、はい。すぐに行きます!キサキ様をよろしくお願いしますね!また会いましょー!」


「「「あわわわ、お疲れ様でしたー!」」」


 占い屋さんとまだ残っていた巫女さんはゾンビに変貌する一般人を見てさっさと避難する。マスターは全員の避難を確認すると転移の門を閉じた。


 キサキの神パワーが途絶えて結界の杭がただの霊体の杭に成り下がった結果、唖然として状況を見ていた感染者達はその病状が進行してしまったのだ。


 勿論こうなるのは分かっており、第2便の避難は方便である。

 全くのウソでもないが今は放置し、後で纏めて相手をするつもりだった。


 こう見ると結界が生きている内に時間遡行で治してあげれば良いのにと思うかもしれない。境内には15人ほどの感染者が留まっていたがマスターならそれも救えたハズだ。


 しかしそうはしなかった。感染を戻せばそこから齟齬が生まれて代償が生まれる。脱走中の特殊部隊は救ったマスターだったが、今夜の被害者は規模的にキリがなく代償も気にすると精神力がもたない。故に半ば見捨てるような行動に出たのだ。


『○○○、何度もすまないが――』

『大丈夫ですよ。いつでも私はあなたを支えるわ。』

『助かるよ。頼んだ。』


 今夜何度目かの赤いチカラを使ったマスターは妻に連絡を取る。彼はチカラを振り絞って魔王邸に戻ると妻の胸に顔をうずめた。


 歓楽街の結界が消えて時間も動き出している。コウコウ神社に残されたのは、もう何処にも行けないゾンビ達だけであった。



 …………



「思わぬ所で補給と休息がとれたな。マジで助かったぜ。」



 10月5日推定1時。中央交差点から住宅街を北へ進む高級車。

 両サイド共に焼け落ちた建物が並んでいて、ケーイチが空けた穴も警戒してるので速度は控えめだ。


「水星屋の人達には感謝だね。正直あの状態のままだったらジリ貧だったもの。」


 運転するユウヤの言葉に応えるモリトも心底助かったといった雰囲気だった。


「でもここからが本番よ。きっと私達の家にはアイツらが創ったロクでもない化物がいっぱい居るはずだし。」


 メグミは憧れの水星屋に思いを馳せるのは後回しにして、これから向かう先の警戒をしている。それが出来る程に回復した彼女は、心の中であの店に感謝を告げていた。


「それにキョーカンと魔王も油断ならないわ。ほんっと神出鬼没だし……あれ?これって結構ピンチだったり?」


 雑談兼状況の整理をしていてヨクミが気付いてしまう。

 上司との関係的にも環境的にもあまりよろしくない状況と言える。応援してくれる人が居て頼れる仲間がそばに居る。ただそれだけが彼らの救いだった。


「だが、だからこそチャンスでもある。だから行って確かめようぜ。あのハゲを一発ぶん殴ってやらなくちゃな。」


「合法で気に入らない上司をひっぱたく機会なんてそうそう無いでしょうしね。」


「良いこと言うじゃないメグミ!よっしゃ、合法なら問題ないわね!」


「あはは、やりすぎちゃダメだよ。」


 勢いづく彼らにモリトがちょびっとだけ釘を刺す。そこへフユミがメリーさんに聞いてみる。


『メリーちゃんはどうするの?このまま一緒で良いの?』


「連れてきて貰ったから一応手伝ってあげるわ。感謝なさい!」


(((ヨクミさんが2人になった気分だ……)))


 メリーさんのセリフにそんな事を思いながら、ソウイチ達が横転した地点を通り過ぎた。



(明日以降――オレ達はどうなるんだろうな。)



 ユウヤはゴール地点が近づいてきてふと思う。今夜の事は上司の乱心の所為とは言え、自分達にも世間の非難は降りかかるだろう。


(その時が辞め時なのかもな。ソウイチ達についていって田舎でメグミと……魔王が出てるならヨクミさん達も帰れるかもしれないし。モリトは――どう選択しても応援はするけどよ。)


 ユウヤが考え事をしながら運転してると呼び掛けられる。


「ちょっとユウヤ、難しい顔してどうしたの?」


「ああ、この戦いが終わったら――」


「「「ッ!!」」」


 急に言ってはいけないセリフを言い出したリーダーに、全員同時に息を吸い込んで吐き出す。



「「「こんなタイミングで変なフラグを立てないで!!」」」



 仲間から非難轟々のユウヤ。未来の想像も良いが、まずは今夜を生き延びなければならない。余計な旗をたてる余裕などないのだ。


 北上する車とその後ろを飛ぶ3つの人影。目的の場所はもう、目と鼻の先である。


お読み頂き、ありがとうございます。

これにて本事件の中盤戦が終わりです。


軽く纏め。

ソウイチチーム→全員瀕死で魔王に治療・保護された。

ユウヤチーム→全員合流。黒幕の居る特別訓練学校へ。

XX市の住人→非感染者のみ魔王庇護下の街へ脱出。

街そのもの→北側から時間・空間が狂ってきている。


追記。

自分のこの書き方だと、スマホで見るとズレるのですね。

PCのプレビューでしか確認してなくて少々青ざめてます。

とはいえ直す時間も無いのが現状でして……申し訳ありません。


更に追記。修正作業は少しずつ進めています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ