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100 イタン そのオモイ

記念すべき100話。皆様のお陰です。

事情により更新を前倒しにします。

 


「そろそろ西側の飲食店街か。なんとかここまでは来られたけど……」



 21時30分。モリトは街の西の外れの飲食店街に、その南側から侵入していた。わかりやすく言えば、アイカ達が魔王と戦ったエリアの南側である。


 そこは大衆食堂を始めとしてお寿司屋さんやハンバーガーの店など、数々の飲食店が立ち並んでいた。しかし今は建物は崩れかけて火災が発生していたり、路地という路地に穴が空いている。さらに上下水の水道管が破損・逆流し始めたのか、深い穴を水が徐々に満たし始めてきていた。


「細い路地なら数の暴力は避けられるけど、リスクの密度はむしろ上がってしまうな……気をつけるしか無いけど。」


 モリトは慎重に、かつ素早く路地を駆けながらクリアリングをしていく。

 この場に相棒のヨクミは居ない。ゾンビが超密集している路地を抜ける時に、先行して退路……いや進路を確保することになったのだ。


(ヨクミさんが追いつくまではもう少し時間がありそうだ。今の内に安全なルートを構築しよう。)


 モリトは空間を調整してある特別製のポーチから、便利道具を取り出しながら先を急ぐのだった。



 …………



「ぬううううん!最近の若いモンはなっておらん!!」



 西の飲食店街で、1人の老人が憤っていた。ズタボロになった周囲を憂いているようだ。

 彼の名前はトドロキ・ライゾウ。御歳85歳である。彼はこの街を愛し、この街で生きてきた。今日も日課のパトロールを実施していたのだ。


 ゴミが落ちていれば拾い、ポイ捨てを見つければカミナリを落とすが如く注意する。子供のイタズラを見つければ初回は駄菓子で釣って優しく諭す。

 注意した若者に逆ギレされたら大騒ぎして警官を呼びつけた後に、か弱い老人のフリを敢行する。


 この界隈では有名人だ。広い世代に賛否の議論を経て、放っておく事が決まったご老人である。ついたあだ名がエン爺、エンシェント・雷厨爺さんの略である。


「空襲を受けても警報すら鳴らさぬとは、なんという平和ボケか!

 

住民も住民じゃ!既に敵は去ったというのにアテもなく彷徨うだけで片付け1つしようとせん!なんて嘆かわしい時代じゃ!」


 エン爺さんはヘイトの念を撒き散らしながら、パトロールを続ける。住人の中にはただ彷徨うだけでなくハンバーガーを齧っていたり、そのゴミをそこらにポイ捨てしたりしている者もいた。


 ともかく彼は手に持てるガレキをどかして纏めようとしたり、火の手を食い止める為に消火器をご近所の店から拝借したりと必死に街を守ろうとしていた。



「むむ?なんじゃあの若者は……この非常時に落書きじゃと!?」



 エン爺さんが消火器の重さに疲れて小休止していると、若い男がウロウロしていることに気がついた。


 彼は少し路地を進んでは戻ってきてチョークで地面に落書きをしたり、壊れた一方通行の表示の向きを変えたり、壁にスプレーを噴射してはうんうんと頷いている。


 その彼がまた別の方向へ向かった際に、エン爺さんは一方通行の表示を直してチョークの落書きを足で消し始めた。


「まったく、若者のすることは解らぬわい。」


 ダララ!ダララ!


 突如銃声が鳴り響き、そちらへ振り返るエン爺さん。彼は驚きの光景を目にするのであった。


「むうう、これは悪夢か!?あやつは本当に人間か!?」


 その若い男は、その手に持ったライフルで住人を撃って怯ませる。その後近付いて蹴りをお見舞いして開いた穴に落として回っている。その直後にまた地面や壁に何かを書き始めた。


「なんと非常識な!住人を殺しておいて、やる事が子供の悪戯じゃと!?有事の際に自分勝手に振る舞うなど言語道断じゃ!」


 エン爺さんは怒りに震え、秩序を乱す異端者を止めねばならないという義務感に駆られて消火器を持ち上げる。


 するとその若い男はまたこちらに戻ってきたので、エン爺さんはその前に出て立ち塞がる。


「そこの小僧!止まるのじゃ!儂の目が黒い内はそんな非道を許したりはしないぞ!!」


 エンシェント・雷厨爺さんは今年イチのカミナリを若い男へ放った。



 …………



「ウガアアアアア、グオラアアアアアアッ!」


「活性化した!?さっきまで大人しかったから放置してたのに!」



 ダララ!ダララ!



 21時40分。モリトは消火器を持った老人ゾンビの足を狙ってアサルトライフルを撃ち込んだ。足に力の入らなくなったゾンビは膝をついて、手に持っていた消火器を落として転がしてしまう。


「ヴァアアアア!」


 尚も這いずって近づこうとするゾンビの頭に3点バーストで撃ち込むと、彼は大人しくなった。その緑色の目からは緑色の血が流れていた。


「お爺さんのゾンビ?よく解らない行動を取るのも無理はないか。って、せっかくの目印がグチャグチャじゃないか!」


 モリトは後から来るヨクミへのメッセージを消された事に気付いた。


「目印は書き直すとして……この消火器は使えそうだ!」


 先程からウロウロしていたモリトは、西に火災が発生している家を見つけていた。それは路地のガレキにも燃え移り、周囲の民家に広がるのも時間の問題だった場所なのだ。


 彼はライフルを背中に背負うと、代わりに消火器を持つ。そのまま火災の発生している西の路地に向かう。


「くっ、ガスボンベに近い!?急がないと!!」


 向かって左手で燃える民家の火の手は、その路地を塞ぐガレキだけではなく対面の建物の横にあるガスボンベの近くまで来ていた。


 ブシャアアアアアア!!


 モリトはさっそく安全ピンを抜いて中身を噴射する。この辺の知識は学校で講習も受けていたのですんなり扱えるのだ。


 ガスボンベ近くの炎を消して、道路の燃えていたガレキも落ち着いたところで消火器からの反応が無くなった。粉末タイプだったので、辺りは真っ白である。


「もう消火剤が切れたか。全然足りてないが……ボンベは無事だしよしとしよう。しばらくは大丈夫と思うし。」


 火災事体はこれだけでは止められないが、ヨクミが通過するまではなんとか保つだろうと切り上げる。ボンベは移動しようにも固定されているし重量的にも無理がある。


「この先は通れるのか?って、ダメそうだな……」


 その先は西の外れである。その先に進むには結界もそうだが、大きな穴が道を寸断していた。さらにその穴は水で満たされていて、少しずつ路地にあふれ始めている。


「結界で閉ざされて水道水が逆流してる?これはダメだね、引き返そう。この分だとちょっと狭いけどあっちのルートで行くしかないかな。」


 モリトは冷静に受け止めて引き返す事を選ぶ。水が溢れてきてるなら火災もそこまで広がらないだろう。既に狭いながらも先へ進めそうな場所は見つけていたので、気をつけて進めば問題はない。



 …………



「「「うわあああああ!!」」」


「おい!どいてくれ!道を開けてくれ!」


「そこの嬢ちゃん!危ないぞ!」


「きゃっ!もう、なんなのよぉ。」



 14時50分。人混みに流されながら駅までもう少しの所まで辿り着いたカギハラ・ミキ。何故か駅行きの避難バスが中止となって、大通りを南下する形で歩いて来たのだ。現在車道の方はほとんど車は通っていない。


 だが今度は向かう先から通行人が押し寄せてくる。人混み同士がぶつかり合って押せや揉めやの大惨事である。


 ミキはとりあえず建物の壁際に移動して避けておく。すると大通りをパトカーがゆっくり進んでマイクで声を掛けてくる。


「駅でテロが発生しました!市民の皆さんは駅に近づかないようにお願いします!繰り返します、駅でテロリストが――」


「ふぇええ!?」


「警察が来て戦っている!早く離れるんだ!」


 ミキが驚いている間にパトカーは通り過ぎるが、人の波同士の衝突による混乱は収まっていない。


(ホラーの次は刑事ドラマ?……タカコと部長は!?)


 スマホのアプリで連絡してみるが2人からは反応がない。


(そんな……シズクちゃんの次は部長達まで?この街で何が起きているの!?)


 ミキは駅を遠目で見るとパトカーが何台も停まって警官達がワラワラと駅の周りを囲んでいるが見える。なぜかその周囲が水浸しのように見えるが理由はよく解らない。


 それでも野次馬がソコソコ残っている辺りに人間の業を感じるが、今はそんな事を言ってる場合ではない。


 もう警察が来ていることから、テロ発生からは地味に時間が経っているのだろう。時折何かが破裂するような音も聞こえてくる。


(お、落ち着いて考えないと!友達は心配だけど警察が出てるし私の出る幕じゃないわ。じゃあ私は何処へ、どうやって?)


 ミキは混乱する頭をなんとか働かせようとする。素直に帰るのが一番ではあるのだが、問題もある。


 街の交通機関が一部マヒしたこの状況では、学生としては身動きがとりにくい状況だ。


 今や駅周辺は一般車両は殆ど通っておらず、パトカーと救急車がメインである。警察の誘導によって退避させられたようだ。

 だが情報が行き届いていなかったのか、中心部から移動してくる市民は山ほど居た。ミキもその1人である。


(そもそも交通がマヒしてるから歩いて行ける所……近くに避難所とか無いかしら?)


「ウガアアアアアアアア!!」


「うわああああ、やめろおおお!!ぎゃあああああ!!」


「あれって、まさか!?」


 男の悲鳴が上がって反射的に顔を向けると、水浸しの男がスーツ姿のサラリーマンに馬乗りになって噛み付いていた。その目は緑色に輝いており、とても正気とは思えない。


「あわわわわ……ど、どうしよう!?」


「「「わあああああああああ!!」」」


 周りはパニックを起こしていた。悲鳴を上げて縦横無尽に逃げ回る人々ばかりである。


 ミキも身体がガクガク震え始めたが、西に向かって走り出す。


 このまま自分まで3時のオヤツになるのは勘弁願いたい。特に文明のカケラも感じないナマのジンニクの提供なんて、オシャレに気を使う女子高生として許容出来るわけもない。


「あいた!うぐぐ、急いがないと……」


 足がもつれ・転び、這いずってでも離れなければならない。


(避難所?大勢居る所はダメ!病院?むしろ温床よ!学校?逆方向だし7不思議の仲間入りしそう!ショッピングモール?不良が集会とかしてそう!なら、とにかく遠くへ!)


 ミキの頭には様々な逃げ場候補が浮かんでは消していく。こう書くと判断力があるように見えるかも知れないが別に彼女は冷静ではなく、言葉にならない反射的な思考でほとんどパニック状態だった。


 こうして女子高生の逃亡劇が始まったのだった。



 …………



「ううう。ケータイは圏外のままだし、もう疲れたよぉ……」



 20時22分。ミキは西の外れまで辿り着いていた。時間が経過する毎に街の状況は悪くなり、今やまともな事が何も無い。

 街は絶賛ゾンビパニック中で連絡手段も無く、友人の安否を気遣う余裕も無くなっていた。彼女は奇跡的に感染していないが、気分はゾンビ状態である。


 あれから大通りや人の集まる場所を避けて移動し、なんとか街の外へ出ようとした。しかしイザ西の外れに来たら外へ出ることはかなわなかった。


「自衛隊は居るのに見えない壁の所為で通れないとか、私って日頃の行いそんなに悪かったかなぁ。」


 トボトボと飲食店街の路地を進むミキ。ちらほらとゾンビが居るので物陰に隠れてやり過ごす。数時間もこんな状況にいたのでさすがに慣れたものである。


 ぐぅぅぅぅ。


「ッ!!」


 その時、お腹の音が盛大に鳴って顔が真っ赤になった。ゾンビにはバレてないし他の人間が聞いてるわけでもないが、お年頃なのだ。


「もう、夕ご飯の時間よね。このままじゃ暗くなるだけだし、どこか入れないかなぁ。」


 そうは言っても、どの店も強制閉店である。だが丁度今隠れている場所、その建物の上部を見た時にミキの顔が輝いた。


(ああ!ここってハンバーガーの!ゴクリ……)


 赤背景に黄色い文字、彼女はこの店を知っていた。正確には去年、家の近所の店でお洒落と買い食いの為にアルバイトをした経験があった。


 その名も「ガブッ、どうなるの!?」。通称ガブドである。

 かぶりついた瞬間から幸せな気分が膨れ上がり、このまま食べ続けたら頭がどうなってしまうのか!というのが店名の由来である。


 ちなみに歓楽街には「マク、どうなるの!?」というパロディ店があるが、ソウイチの通ったルートからは外れていたので見かけてはいない。


 店名はともかく、そのガブドに目をつけた彼女は裏口のドアをチェックする。


「開いてる?慌てて逃げたってコトなのかな?おじゃましまーす。」


 ミキは戸締まりどころじゃなかったのかと考えながらナチュラルに侵入して明かりを付け、機材や物資を確認して回る。どうやらスタッフルームや厨房側には誰も居ないようだ。

 さらりと店内カメラの電源を落とす辺りに嫌な手慣れた感がある。



「うん、行けるかも!ちょっとお借りします!」



 ミキは去年培った経験を活かして、早速夕飯の支度に取り掛かった。



 …………



「ヨクミさんはまだ来ないか。そろそろ様子を……うん?この店、奥に明かりが点いている?」



 21時50分。とりあえず大通りまで出られそうな事を確認したモリト。

 ヨクミの心配をしながらキョロキョロと周囲を警戒していると、店の奥から明かりが漏れていた。


 彼はそのハンバーガー屋に入り、そろそろと光の方へ近付いていく。


(くっ、良い匂いの誘惑が!じゃない、生存者か?そういえば付近の”彼ら”もハンバーガーの名残が有ったような?)


「――ッ――ッ!!」


 その光は厨房から発生しているようで、近づくにつれて何かの……そう、何かを食べているような咀嚼音が聞こえてきた。


 モリトはフラッシュライトを取り出して、もしもの時は相手の機先を削ぐ準備をしておく。


「そこにいるのは誰だ!?」


 そしてカウンター越しに咀嚼音の主にライトとライフルを向けた。


「ひゃい!!!」


 するとこの街の高校の制服を着た女の子が、この世の終わりの様な声を上げて飛び上がった。その両手には食べかけのハンバーガーを持っていた。


「え?あ、あの~こんな所で何してるの?」


 モリトはむしろ自分が機先をくじかれて、素の口調で問いかけた。


「あわわわわ……勝手に食べてごめんなさい!だから撃たないで!」


 ガクブル震えて伏せ目かつ涙目の小動物みたいになってる彼女に、害意は無いと判断してライフルとライトを降ろすモリト。


「僕は政府の特殊部隊のモリトです。ここは危ないから避難した方が良いですよ。」


「特殊部隊!?た、助けて!街から出られなくて、お腹空いて困ってこのお店のお世話になっていた次第です。はい!!」


「落ち着いて、手は降ろしていいから!」


 ハンバーガーを持ったまま両手を上げる彼女に落ち着くように言いながらモリトは(魔王の結界の所為か!)と納得する。


「それで、君の名前は?ここに来るまでに何が有ったの?」


「ミキです!カギハラ・ミキ!友達と買い物に行くつもりで、でもみんなとハグレて連絡もつかなくて……でもガブドで前にバイトしてたことが有ったのでフラフラと入っちゃいました!」


 ミキは撃たれまいと必死に情報を伝えてくる。いろいろ飛ばした説明ではあったが、苦労して生き延びてきたのがモリトにも伝わってきた。


「わかった。どちらにせよこの周辺は地面の陥没やら水も溢れてきてて危険だ。せめて頑丈な建物まで移動しよう。大通りから東に行けば市民ホールが在るから――」


「でも危なくないですか?ゾンビモノでそういう所って!」


「原因は水道水だ。そして今この辺はそれが溢れて来ている。なるべく高いところへって、目がッ!!」


 ガチャッ!


「ひゅわあ!ななななな……あわわわわわ……」


 再びライフルを構えたモリトに大パニックなミキ。


「残念ながら君はもう感染しているッ!」


「えええ!?ななななんででででで……」


「その目だ。水道水を取り込むと目が緑色に変化して――」


「目!?待って!これ、カラコンですううう!!」


「え?」


「私も水がダメだと思って、今まで飲んでません!!」


 コンタクトを外して見せて、必死に正常アピールをするミキ。


 このゾンビ騒動は、消防車の放水や水浸しの駅周りで発生した。つまり水がマズイのだろうと彼女も気付き、今までペットボトルの飲み物しか口にしていなかったのだ。それはこの店の飲み物も同じで、いくら浄水器を使っていてもリスクは回避すべきだと考えて行動していた。


「そ、そうなのか。驚かせて済まなかった。よく気がついたね。ともかく移動しよう。」


「はい!お願いします!電源落として行きますね。」


 こうしてミキはモリトと合流した。ちゃっかり食べかけのバーガーは平らげているあたり、よほどお腹が空いていたのだろう。


「この辺は粗方倒したから安全なハズ。でも周りには注意して歩いてね。」


「はーい。あ、お寿司屋さん……じゅるり。」


 ただでさえ狭い路地なのに穴だらけになった道を、慎重に進むモリト。だがミキの方は緊張が解けたのかヨダレを垂らしている。


「まだ食べる気なのかい?それにしても良く無事だったよね。あの店にゾンビは入って来なかったの?」


「入ってきましたよ?でもハンバーガーを作る度に投げてたらみんな食べながらどこかに行っちゃいました!」


「だからみんなハンバーガーの名残があったのか……そんな回避方法があるなんて、女子高生の発想って凄いんだな。」


「世の中にはカワイイは正義って言葉もありますし?」


「自分で言っちゃうんだね、ソレ。」


 ちょっと呆れてるがモリトも彼女は可愛い部類に入ると思った。もちろん心に決めた人とは比べられないし、ミキは今日の逃走劇で汚れてるし制服も細かいキズが多い。それでも気持ちでこの状況に負けていないのは素直に魅力的に映る。


「でもおかげで自分の分が作れなくて、やっと食べられると思ったらモリトさんが脅かすから!」


「それは悪かったよ。ほら、足元気をつけて。」


「はーい!よっと。ありがとう、モリトさん。」


 狭い足場を手を取って渡る2人。その先のガレキをくぐり抜けると、正面がかなり明るくなっているのが見えた。肌に感じる空気も熱を帯びており、嫌な予感しかしない。


「なーんかこの先、嫌な予感がするですよ?私が来た時には大丈夫だったんですが。」


「こっちにも火の手が上がったのか?この感じだとヨクミさんが来るのを待った方が良さそうだな。」


 まともに先に進めそうなのはこのルートだけ。なら水魔法の使い手を待つのが良いと判断するモリト。それを女子高生的な勘でビビっと来たミキが問いかける。


「ヨクミさんって、もしかしてモリトさんの彼女?カワイイの?」


「仕事のパートナーだよ。水のチカラのエキスパートなんだ。まぁうん、カワイイと思うけど。」


 若干照れた感じの彼の様子に、勘が当たった喜びとちょっと残念な気持ちを懐くミキ。それを誤魔化すように悪戯っぽい口調と仕草で質問を重ねる。


「ほほーう?なるほどなるほど。モリトさんはヨクミさん推し、と。ところで特殊部隊ってチカラ持ちの集まりなんですよね?モリトさんは何がお得意なんですか?」


 無邪気に繰り出されたそれは、ある意味禁断の質問だった。


「……僕は普通の人と変わらないよ。何もチカラが出なかったんだ。精々、水に浮かばないくらいかな。」


「それは特技なんでしょうか?特殊部隊ってチカラが無くても入れるんですか?」


「その辺はフクザツだったんだ。そもそも――ってここに居ても仕方がないし、少し様子を見てくるよ。ミキさんは待っててね?」


「私も行くよ!なーんかモリトさんだけだと不安だし。」


「うぐっ。」


「なーんて、ウソです!こんな所に独りで居る方が不安ですよ?」


「あ、ああ。そういう……」


(気にしてたのかぁ。悪い事言っちゃったわ……)


 何やら女子高生に弄ばれている感が有って情けない気持ちになるモリトだったが、ミキは彼を貶めるつもりはない。むしろ冗談が通じずに深刻に受け止められてしまったので慌てて訂正したのだ。


「あの、気に障ってたらごめんなさい!私、知らなくて……」


「いや、別に良いよ。僕が部隊の中で異端なのは確かだしね。」


 歩きだしたモリトにパタパタと駆け寄って声を掛けるミキ。モリトはそんな彼女に事実は事実だと適当に流す。


 チカラ持ちは人類の1%程は存在しているが、まだまだ異端者としての認識をされている面がある。例えばスポーツ競技等では明確に線引きされたルールを押し付けられる。通常ルールに参加した後で超能力者とバレたら非難・排除の対象となることも多い。


 いわゆる村社会的な、厳しい地域では総出で隔離されたりもする。


 特殊部隊の面々も過去に受けたキズからソレは自覚していた。だがそんな異端者を集めた部隊の中での普通人のモリト。それもまた異端者と言えるだろう。


 越えられない壁はあっても譲れない気持ちもある。幸いにして仲間に恵まれたモリトは、自身の努力もあってここまでやってこれた。


 チカラは無いが、今までの活動自体には誇りを持っているのだ。


「でも、モリトさんのおかげで今!私が助かってます!元気出して下さいね!」


(うーん。気を使わせてしまったな。僕が守られてどうするんだ。)


「一般の人を守るのが僕の仕事だし、別に気を使わなくて良いよ。チカラが無くても出来るコトはあるからね。はい、手を。」


「はい、それじゃあ遠慮しません!差し入れのケーキ分は守って貰いますよ。」


 2人は激しく砕けたガレキを踏み越え、手を取り合って穴に落ちないように移動する。

 モリトは頭の中に?マークが浮かぶがすぐに思い当たる。再編以降、そんな洒落たものを頂いた回数は多くはない。


「えっと……それじゃあ、君があの差し入れを?」


「はい、友達とお金を出し合いました!兵隊さんが怖くてすぐに逃げちゃいましたけど……えへへ。」


「あの守衛さんか。顔は怖いけど良い人だよ。ありがとう、部隊を代表してお礼を言いうよ。みんなあれで元気になったからね。」


「本当ですか!?良かったー!」


 モリトは笑顔でお礼を言うと、ミキも笑顔でそれに応えた。和やかムードになってほっとするミキ。


「ッ!ミキ、止まって!」


「は、はい!」


 程なくしてファミレスの駐車場に辿り着いた2人。モリトは危険を察知してミキを静止した。



 ゴオオオオオオオオッ!!



 30台は停められるであろうその駐車場の、中央部分に炎のカタマリが居座っている。それは車数台分の範囲と建物の2階分くらいの高さを持っていた。


 そしてその周辺もガレキやら何やらが燃え盛っていて、いつ大火事に発展してもおかしくない状況と見て取れた。


(呼び捨てだー。ちょっとは仲良くなれたってコトかな?)


 ミキの頭がふんわりしているが、戦場で敬称は邪魔なだけである。ただしヨクミに対しては別なモリト君。


(あの炎、なぜあの場に留まっている?あそこまで燃える物なんて”無い”のに……)


(すっごい暑いんですけどぉ。汗が吹き出てベトベトに……匂いとか大丈夫かな?くんくん。)


 2人は建物の影から駐車場を覗いて別々の感想が頭によぎる。

 モリトはすぐに不自然さに気がついて警戒するが、ミキはこの半日を生き延びたにしては思考が平和になっていた。それほどモリトの存在が嬉しく、頼もしかったのだろう。


「少し離れてヨクミさんを待とう。僕では対応できそうにない。」


(うわ、近いよ!は、離れないと!)


 2人は殆どくっついて様子を伺っていた為、すぐ近くで見つめられて思わず鼓動が早くなったミキ。1歩離れて照れ隠しの言葉を発する。


「わかりました!でも暑くてクラクラするので飲み物買ってきますね!ねっちゅうしょう対策です!モリトさんは何飲みますー?」


「あ、待って!」


 そのまま返事も待たずに、先にある自販機へ向かおうとするミキ。慌てて止めようとするモリト。思わず手を伸ばして、ミキの柔らかい箇所を後ろから鷲掴みにする。


「ひゃああ!モリトさん、ドコ触ってるんですか!?」


「うぐっ、ごめん!って危ないから!」


 モリトが思わずその魔の手を離すと、真っ赤になったミキは走って自販機の方へ向かってしまう。


「だ、大丈夫ですよ!すぐ買ってきますからー!」


(あわわわ、男の人ってやっぱり胸なのかな!ダメ、今は顔を見られないし見せられないですよ!?)


 などとラブコメ思考で突っ走るミキ。平時ならそれも良かったかも知れないが、今は非常時だ。


「ミキ!危ないから戻って!」


 モリトの声が酷く遠くから聞こえた気がする。



 ゴワアアアアアアアアッ!!



 その瞬間。ミキの身体は炎に包まれ、衝撃で身体が宙に舞った。


(えッ!?ぐっ、がっ……)


 ミキが異変が起きたと感じた時には、吹き飛ばされてガレキに激突してそのまま地面に打ち付けられていた。



「そんな……まさか……」



 モリトはその瞬間、呆然としてしまった。だがミキが突然火炎により吹き飛ばされ、動かなくなっているのは紛れもない事実であった。



(僕はまた……守るべき人を守れなかった……?)



 モリトの心の中に、再び逃れようのない虚無感が襲いかかった。



 …………



「キ、キキュ……?」



 21時10分、街上空の結界の天井。今夜朽ちた者や物が行き着くエリア。

 三途にすら向かえない彼らの熱と精神力を吸収していった焼肉精霊。眼下の街から強力なチカラを感じて反応を示す彼女。


 そのチカラは上質な精神力の奔流。生まれて間もない彼女にはとても美しく魅力的に映った。


「キキキ、キイイイイイ!!」


 なんとしてもその場へ行きたい。そんな気持ちを持った彼女は集めたチカラで実体化を試みる。


 しかし慣れない精神力の行使方法に四苦八苦してなかなか身体の構成が進まない。必死にチカラを固めていくが、博物館等にある胸像のような状態だ。


 そして、そうこうしている内にそのチカラの光は消えてしまった。


「キュー……キキ!キイイイイイイ!」


 がっかりする彼女だったが気を取り直して再構成を続けていく。ずっとここに居ても仕方がないし、そうしなければ街に戻れない。


 溜め込んだチカラだけでは復活に届きそうにないので、常に周囲の熱や精神力を取り込みながら身体を構成しようと試みる。進捗はとてもゆっくりだが、身体は徐々に作られていった。



「キイイイイイイ……キュイ!?」



 21時40分過ぎ。上半身の構築が粗方済んだあたりで、とても恐ろしい波動を感知した。そのすぐ後に非常に高い濃度の怨念が昇ってきた。


 それは危険だと気がついた時には既に取り込んでしまう焼肉精霊。


「ギ、ギギギ……ギョアアアアアア!!」


 その結果とんでもない速度で身体が構築され、全身の構築が終わる。その身体からは禍々しい炎が発せられて声の発音も変わった。


 少しずつ考える事を覚えてきた焼き肉精霊だったが、理性もトンでしまったようで、その目は自身の欲望を叶えようと鋭い眼光を放つ。


「ギギギ、ギギギ。ギガアアアアアア!!」


 睨む先は30分以上前に感じた魅力的な光景の場所。彼女は手足が動く事を確認すると、長い炎の髪をなびかせながら地上へと降りていった。



 ゴワアアアアアア!!



 が、狙った先からは若干南にズレてファミレスの駐車場に降り立った。


「ギギギ?ギュルルルルル……」


 特別何かがあるわけでもない場所に降りた焼肉精霊は、唸り声を発しながら考える。この辺りでは確かに綺麗な何があった。待っていれば、またその何かがここへやってくるかもしれない。


 生後0日の彼女はそう考えて静かにその時を待つのであった。



 …………



「さあさ、こっちよ!”ヴァダー”!」


「ガウッ!?グガアアアアア!!」


「「「グガアアアアア!」」」



 21時40分。飲食店街のやや南でヨクミはゾンビ相手に挑発していた。

 水球を発射する水魔法、ヴァダーを食らった者とその周囲のゾンビ達は、その原因の青髪少女を見つけるとじわじわと彼女を捕食しようと近付いていく。


 バリケードを突破した時は相手が密集してたので効率よく水に流せたゾンビ達だったが、その後は徐々に群れ毎の人数が減っていった。


 正直それらを個別に相手するほど魔法を無制限に使えるわけでも無いので、ヨクミは誘導して纏めて退治しようと考えたのだ。


(彼らに恨みはないけど、最後くらいは綺麗な水を……ね?)


 胡散臭いハゲの所為でこの状況になったのだ。自分達の背後を守る為にも、彼らの尊厳に対する供養の為にも行動しようと思ったのだ。


 自己満足でしか無い行為といえばそれまでだったが、自分の腕の中で息を引き取った少女を思い出して少しお節介を働きたくなったのだ。


「「「グルルルルルル……」」」


「ほらほら、こっちに来なさい!ヨクミ先生の特別授業よ!ってアレ?なんだか群れの数が急に増えたような?」


 幾つかの小型の群れを引き連れて回ったヨクミ。何故か急にゾンビの数が増えた気がするが、やる事は変わらないので気にせずに西寄りへコースを取って逃げていく。


 程なくして大穴とそこに貯まる逆流した大量の水道水が見えてきた。


「よしよし、付いてきてるわね。この水を分離して使えば!」


 ヨクミは穴のフチで立ち止まって振り返る。そして精神力で魔法を構成して待ち構える。


「あなた達の最期に贈る、特殊部隊ヨクミの特別課外授業よ!!」


 ヨクミは周囲から純粋な水分のみを収集して魔法に乗せる。



「”パトーク”!!」


 ゴゴゴゴゴゴゴ……ズバシャーーーッ!


「「「グゴゴゴゴゴゴゴゴ……」」」



 ヨクミが魔法を解き放つと、彼女を狙って集まってきた数百人のゾンビの群れは一気に激流に飲み込まれていった。


 その水は純水であり、ゾンビ達は体内のクスリやウイルスを強制的に排出させられる。だがそんな事をすればあの少女の様に身体の機能が壊れてしまうので生き続ける事は叶わない。


「水よ、穴へ向かいなさい!」


 ヨクミが魔法を操作すると近場の穴へ全ての水が排水されていく。ゾンビの半分くらいは一緒に落ちていき、残りは抜け殻……普通の死体としてその辺に転がっていた。


「ハァハァ、あんた達は上の人にハメられただけだけど……このキョーイクをぜひ来世で活かして欲しいわね。ハァハァ。」


 ヨクミは肩で息をして周囲の遺体に言い聞かせた。通じて無くてもいい。今回のは結局の所、自分の心を壊さない為の自己満足のキョーイクに過ぎないのだから。


 彼女は耐水性バツグンの腕時計を見ると22時を回っていた。


「さて、時間がかかってしまったけどモリトに追いつかないと。あの子ったら強がって冷静ぶってる癖に妙に繊細だし、きっと寂しがってるもんね。”ヴァルナー”!」


 少しだけ気の晴れたヨクミは、足元に水流を発生させて素早く移動する。それは1人の時しか出来ない、人魚ならではの横着技であった。


 人魚姿に戻った方がより早く移動出来るが、下の衣服を脱ぐ必要があるのでそれは却下しておく。いくら異世界から来た異端者と言えども6年以上も地球に住んでいれば常識くらい身につくものだ。



「さーて、モリトはドコに居るのかな~っと。お、あったあった!」


 モリトが残した数々の目印を見つけ、書かれている通りに進んでいく。


「むむ?この辺は火事も起きてるのね。危ないから消しておこう、”ヴァルナー”!!……これでよし!えーっと次はこっちね!さすがモリト、サクサク進めるわ。地味な仕事をさせたら優秀なんだから。」


 目印とは反対側の火災が起きている民家に水魔法をぶっかけて即座に鎮火すると、モリトがミキと通った道を辿っていく。


 暫く進むと前方から強力な熱気を感じた。


「むむ?こっちも火事かしら?はっ!きっと私が来るのを待っているハズだわ!急がないと!!」


 彼女は炎で先に進めないモリトを想像して、急いで合流を図る。ヨクミが燃え盛る駐車場に現れた時、すぐに状況は芳しく無い事を悟る。


「フ、フユミちゃん!?と知らない女の子!一体どうなって……モリトは!?」


「ハァハァ、ぐぐぐ……」

「…………」


 目の前には女2人がうつ伏せに倒れていた。1人は親友のフユミで、もうひとりは学生服を着ている女の子だ。フユミの方は意識があるようだが女の子はピクリともしていない。


 その先にモリトが倒れ、必死に立ち上がろうとしているのが見えた。その目の前に立ち塞がるは巨大な炎の化身。


「こんな所で、死んでられないんだよ……」


 苦しそうな声を出しながらもモリトは立ち上がる。


「モリト!今援護に――」


 ボロボロのモリトを助けようとヨクミが一歩踏み出した瞬間。


「―――、―――――――ッ!」


「ふぁぇぇぇええええええ!?」


 予想外の出来事にヨクミは驚きの声を上げるのだった。



 …………



(僕はまた……守るべき人を守れなかった……?)



 22時10分。火達磨になって吹き飛ばされたミキを見て、虚無感と脱力感に襲われるモリト。しかし今は呆けている場合ではない。


「偶然にしては炎の向きが不自然だった!何者だッ!!」


 ネガティブ意識を怒りでフタをして巨大な炎に向き直る。その言葉に反応してか巨大な炎の中から四つん這いの女が現れる。


「ギギギ……」


 全身燃え上がる長髪の全裸の女は挑発的なで姿でモリトを威嚇する。

 ゴオッ!と炎の風が舞い、周囲の酸素が奪いながらモリトの身体を吹き抜けていく。


「ぐうっ、あれは!?フユミさんに似ているが属性が違う……。炎の精霊ってコトなのか?」


 モリトは顔を庇いながらも相手を観察してその本質を見抜こうとしていた。


「半分正解よ!さすがモリト君はよく見てる、センスがあるわ!」


 その時上空から突風が起きたと思ったら、モリトと炎の精霊の間に風の精霊・フユミが顕現していた。炎の精霊はすぐさま火炎放射器のように炎を噴き出すが、それはフユミの風で反らされている。


「フユミさん、一体どういう事です!?」


「あの教授きどりのMADが、私に高濃度のクスリを射とうとしたの!分身で誤魔化したけど、おかげでこの有様ってワケ!ゾンビで焼肉するようなサイコ精霊よ!」


「焼肉……?それよりキミモト教授が!?じゃあアレがフユミさんの分身なのか!分身の割には強くないですか!?」


「あのクスリは生物の”心のタガ”を外すモノらしいの!例え分身でもチカラをフル活用してくるわよ!」


(そうか、タガを外された心は無秩序に欲望に……)


 会話中にも焼肉精霊は炎を更に強めて、フユミの台風のような風を押し込んできている。


「ぐぬぬ……モリト君、ヨクミを呼んできなさい!相性的にそう長くは持たないわ!急いで――」


「ギガアアアアアアアア!!」


 ゴオオオオオオオオオッ!!


 焼肉精霊が気合を入れると、新たな火炎放射が現れて横殴りにフユミを飲み込んだ。


「フユミさんッ!!」


 彼女はミキと同じく吹き飛ばされ、ミキの近くに転がった。風のチカラで全身のヤケドは防げた様だが身動きは取れそうにない。


「モリ、ト君……に……げて……」


「くっ、くそっ!」


 モリトはフユミを心配しながらもアサルトライフルを焼肉精霊に向ける。逃げろと言われても逃げられる状況ではない。敵の戦意的にもモリトの男の子としての意地的にもだ。


「うおおおおおおッ!」


 ダララララ!ダララララ!


「ギッギギギ!」


 ライフルの弾丸のシャワーが焼肉精霊に注がれるが、その全ては無効化されてしまった。モリトの狙いは正確だったが、強力な熱波で弾丸が微妙に反らされてしまっているのだ。どれだけ撃とうが当たらなければどうというコトは無い。


「ギガアアアアアアアッ!!」


 ゴゴウッ!ゴゴウッ!


 四つん這いのまま飛び跳ねていろんな角度から炎の弾を発射してくる焼肉精霊。こちらの動きが鈍い事から、弄んでいるのだろう。その辺は生後間もない知性での慢心と言った所だろうか。


「ぐああああっ!!」


 その幾つかを避けて回ったモリトだったが最後の1つに被弾してしまう。避けられないわけではないが、ちょうど傷ついた女2人を背にしていた角度で撃たれた為に身を挺して受けたのだ。


「ぐうううう、ゴホッゴホッ!」


 彼は炎に包まれ前のめりに倒れ込む。耐火性の強い戦闘スーツのおかげで直ぐに炎は消えるが、すぐに起き上がる為に深呼吸をするとむせてしまう。周囲の新鮮な空気が徐々に奪われているのだ。


「くそっ……僕にもチカラがあればッ!また誰も守れないのか!?」


 悪態を吐きながら、思わず目を閉じて悔しがるモリト。このまま全てを諦めたくなってしまう。


『今度ムイミなジギャクしたら、私がぶっとばすからね!』


 心に刻んだパートナーの言葉が諦めそうな意識に染み渡り、再び目を開けるモリト。



「そうだ、ここで折れるワケには……何か無いか!?僕にも何か!!」



 彼は周囲を目で追い耳を澄ませ、肌で空気を感じ取る。



「ギギ?ギギギギ?」



 焼肉精霊は瀕死のモリトの様子を興味深く見守っていた。目の前の男が諦めたり藻掻いたりしているのを観察し、知識を得ている様だ。それは無邪気かつ無慈悲な子供の、虫や小動物への蛮行を思わせる。


(僕の無様さを観察したいならむしろ好都合。今の内に手立てを……)


 モリトは乾いた呼吸器で少ない酸素を取り込みながら更に喉を灼かれるが、それでも解決策を探し求めて頭と感覚を働かせる。


 ピチャン……ピチャン……。


 ゴボゴボゴゴゴゴゴゴ……。


 シュワアアアアア……。


(これは、水の音?)


 どこかの雫がこぼれ落ちる音。地下の水道管や穴に貯まった水の流れる音。蒸発して空気中に舞う水蒸気の音。


 熱気の中で冷静になることで周囲の水の流れを感じ取ったモリト。

 ヨクミの授業のお陰で極近距離のソレを感知は出来るようになっていたが、今は数メートルから十数メートルの音まで聞こえて来る。


 死に瀕した今、精神力が高まっているのだろうか。


(やはり僕には”水”だということか?ならそうだな。最後に試してみるとするか……)


 彼は腕で上半身の重量を支えながら起き上がろうとする。そこに手加減された熱波を放たれて転がり、のたうち回るモリト。

 焼肉精霊はまたその弱者を観察しているが、今度のモリトはすぐに立ち上がろうとする。


 シュワアアアアア。


「これは、水蒸気?炎で蒸発した水分が集まってきている!?」


 フユミがモリトの身体を包むように空気中の水分が集まってきているのに気が付き、驚きの表情を浮かべる。


「うぐぐぐ、僕には何も無かった。皆を守るという気持ち以外、何も……でも魔法の講義を受けて、皆の努力を観察して積み上げてきたイメージがあるんだ!」


 身体を起こし、ヨクミに習った魔力の扱い方の基本通りに精神力を操作するモリト。純粋な水分を収束させて自身の精神力と合わせてこれから行うべき策に向けて心を強く高めていく。


 だが問題はこの先だ。今までどんなに簡単な術や技も不発に終わってきた。今回は割と複雑な術式を組み上げるので、発動率は限りなくゼロと言って良い。


 だがモリトはその問題を解決する答えを既に見つけていた。



「クスリがタガを外すモノだって言うのなら……タガを外した者が強力なチカラを得ると言うのなら!やってやる!!」



 モリトも他のメンバーと同じクスリを何年も使ってきた。それでもチカラが扱えないというのなら、足りないモノは心の開放。


 今まで理性で押さえつけてきた、自らの欲望の開放!



「こんな所で、死んでられないんだよ……」



 苦しそうな声を出しながらもモリトは立ち上がる。



「ヨクミを、彼女にするまではァァァアアアッ!!」



 6年半分の想いを言葉に乗せて、大きく仰け反る様に上空へ叫ぶ。


 そのモリトの熱い想いに応えるように、どこからともなく水流が発生して彼の身体を包み込むように集まって来た。


「ギギギギッ!?」


「ふぁぇぇぇええええええ!?」


「あらま。これはこれは、うふふふ。」


 驚く焼肉精霊。丁度やってきたヨクミ。傷つきながらも喜びが湧いて来てにやにやしているフユミ。


 だがモリトは周囲の声なんて少しも聞いておらず、ヨクミの姿にも気がついていない。何故なら集まった水流の操作に忙しかったのだ。


 集めた水でキズを癒やすのはヨクミやメグミを参考に。

 絶えず流動する水流を編んだ鎧はミサキとソウイチ。

 必要に応じて出力を調整するのはユウヤとソウイチ。

 チカラを多段で重ねて攻防一体とするのはアイカとエイカ。

 相手を翻弄させる為の高速移動はユウヤとヨクミとフユミ。


 仲間の良い所を全て参考にしたそのチカラが今、完成した。



「出来た!これが僕の“水の鎧”!!行っけぇぇぇええええええ!!」



 まるで変身ヒーローの如く覚醒したモリトは、後部から蒸気を噴射して加速する。そして右腕に圧縮した水を纏わせて、焼肉精霊に向かって突撃していった。



 …………



「え!?ちょっと、何叫んでくれてんのよ!なんでソレでチカラに目覚めてるの!?え、だって、ええええ!?」



 22時15分。水のチカラに目覚めたモリトを見ながらヨクミは頭が混乱していた。モリトを援護するつもりだった彼女だったが、チカラに目覚めたモリトは善戦している。ヨクミはそんな彼の背中を眺めていた。


(だってモリトよ?今でこそガッシリした身体にはなったけど年の差だってあるし。いえ今の彼なら問題は……じゃなくって彼からしたら私は異世界の人魚だし色々と……でも待って!モリトが私をツガイの相手として意識してたなら、今まで散々一緒にお風呂に……ひええええええ!フユミちゃんが彼が喜ぶって言ってたのってそう言う事!?)


 ヨクミは今までの自分の言動を思い出して赤くなる。今までは種族や出身を盾に、深く意識してこなかった。そんな異端な自分をツガイ的な目で見られてたと思うと急に鼓動が早くなった。


(私にとってモリトは、友達で仲間で生徒で相棒で……困った時にお風呂で相談して……ひゃあああああ!)


 心の中で思考がぐるんぐるん回り始めた彼女だったが、目の前の倒れた2人の事を思い出す。


「はっ!ぼーっとしている場合じゃないわ!早く2人を治療しなくっちゃ!”アピラーツィア”、”イズレチーチ”!」


 頭が混乱する要素を横へ追いやり、ヨクミはフユミとミキの回復に専念するのであった。



 …………



「この鎧があれば身体の炎上も防げる!好き勝手してもらった礼をキッチリさせてもらうよ!ヴァダークゥラアアアアアアック!!」


「ギギャアアアアアア!!」



 モリトは蒸気で加速しながら水を纏った腕で殴り掛かった。

 突然の弱点による攻撃に驚き飛び退く焼肉精霊。しかしモリトの攻撃はそこまで単純ではない。


 ズバシャッ!!


「ギニャッ!?」


「まだまだいくよ!」


 纏った水を炸裂されて相手を包む炎を弱らせる。モリトは拳や蹴りを繰り出す度にそこに纏った水を炸裂させて焼肉精霊の炎を削る。


「ギラアアアギャアアアア!!」


 ゴオッ!ゴォッ!ゴオッ!!


 彼女はこれは堪らぬとばかりに距離をとって上空から火炎弾を浴びせに掛かる。


「いまさらこんなモノ、僕には効かない――」


 シュワアアアアア……


「――と良かったんだけどなぁ。」


 先程までと違ってモリトに火炎ダメージは無い。が、水の鎧はそうもいかずに蒸発されて解除されてしまう。これではまるで魔界に単身で攻め入るおヒゲの主人公の鎧である。


(くそ、ダメージ分散の為に流動させたのに……もっと低温にしないとダメなのか!?そうだ、いつぞやの!!)


 ゴオッ!ゴォッ!ゴオッ!!


 尚も降り注ぐ炎の弾を避けながらモリトは自身の強化を思いつく。今は単発攻撃だから避けられているが、業を煮やした彼女が逃げ場の無い面攻撃にでも切り替えられては堪らない。その前に対策を……。


「ギガアアアアアッ!!」


 ゴオオオオオオオッ!!


 悪い予感は当たるもので、焼肉精霊は火炎放射による面攻撃をしかけてくる。その炎はモリトを包んで渦状にしばらく燃え盛り、彼女は勝利を確信してニヤリと笑う。しかし……。



「今の時期、初デートは山菜食べ放題ツアーだあああああッ!!」



 モリトを包んだ炎の渦から水の鎧を纏った彼が突撃してきた。


 よく解らない事を口走りながら背中から蒸気を噴射して急上昇してくる彼の姿に一瞬呆け、彼女はコブシをモロに食らってしまう。


「ギニャアアア!?」


 その水の拳”ヴァダークゥラーク”はヒット時に水を炸裂させて、彼女の炎を弱らせる。さっきまでよりも水温が低く、効果は絶大だ。



(やっぱり、僕の気持ちが温度を下げている!)



 モリトは自身がヨクミへの想い・願望・欲望を意識すると近場の水温が下がることに気がついていた。いつぞやのシャワー中にデート妄想をしたことで男3人、シャワーが冷水になった事を思い出したのだ。


 熱い想いを冷気に変える。それがモリトのチカラの特性だったのだ。


 水の操作は精神力を使いはするが、ヨクミに教わった技術であって彼本来のチカラではない。

 いつも熱い気持ちを冷静に戦場を視る心に変換してきた彼にとっては、これこそが自身のチカラ。そしてそのチカラを使うには、ヨクミから教わった水魔法はとても相性が良かったのだ。


 2人はそのまま駐車場に落ちていき、モリトは水の鎧でクッションを作り着地。焼肉精霊は猫のようにクルリと回転して四つん這いで着地した。


「ギギャアアアアアア!!」


 間髪入れずに焼肉精霊から赤黒い炎が撒き起こり、それを周囲の店の入り口に放つ。


「なんだ?この色はまるでメグミの……?」


 彼女はメグミにやられた連中の精神力を取り込んだ所為か、良く似た炎を操っていた。やがて周囲の店舗の厨房から赤黒の炎を纏った”食材”達が現れた。それは肉や野菜だけでなく、缶詰等も炎を纏って宙に浮いている。


(小細工を使うという事は、僕が脅威だと判定された証!)


 モリトは自身が優位にあると判断して前へ進む。


「クリスマスの夜はナイトプールで2人きりで過ごし、正月は初詣の後に水族館で彼女が水槽に紛れようとするのを必死で止めて――」


 彼はまたも妄想を垂れ流しながら蒸気を噴出して焼肉精霊に突撃する。


「ギギギ!ギギーーー!」


 ヒュンヒュンヒュン!


 彼女が叫ぶとそれを阻もうと”食材”達が体当たりを仕掛けてくる。


「同棲中は交代で、いやむしろ一緒に楽しく料理して――」


 ズガガガガガガッ!


 妄想・妄言を冷気に変えて、迫る食材をラッシュで弾く。

 自由に操れる水の鎧は、背中だけでなくヒジやカカトなどの部位からも任意で水や蒸気を噴出できる。その水圧の反動で行う連撃はユウヤの様に早く、ソウイチの様に重い。


「ギッ!?ギギギギギ……」


 ゴオオオオオオオオッ!!


 増援を全て弾かれこのままではやられると判断した焼肉精霊。彼女は赤黒い火炎の渦に身を包み、周囲には今まで以上の熱波を発生させた。


「うぐっ……まだこんなチカラを!」


『モリト君、霊体になって逃げる気かも!その前に捕まえて!』


『フユミさん、無事だったか!了解した!!』


 心の中に響いたフユミの声に応えてモリトは前方の炎を突破するすべを考える。


(たしかユウヤに又貸ししてもらったマンガに似たようなモノが!)


 両親が存命だった頃は読めなかった人気漫画”セメントせいやっ!”。

 教官であるケーイチがユウヤに全巻貸し出してそれを読ませて貰って気に入ったエピソード。


 セメントを乾かす時間が無い程に壁の制作の納期が迫る中で、とあるキャラが取った行動。それはセメントを乾かすのではなく”固める”。



(今の僕になら出来るハズだ!!たしかこんなポーズで……)



 モリトはチカラの行使には必要ないが、漫画にあった妙な動きとポーズを真似しながら精神力を高め、水の鎧に循環させていく。


「暖かくなったら海水浴に行って彼女と海の中を探検して――」


 彼の全身から白い冷気が溢れ始め、周囲の水分が結晶を作り始める。

 鎧事体も水が循環している為に凍りつきはしないが、その水温は氷点下以下まで下がっていた。

 ここまでくれば、後は技を発動させるだけだ。



「喰らえ!D・ダストオオオオオオオ!!」



 モリトは真っ白な冷気に包まれながら炎の渦に突撃、破壊する。


「ギキャ!?」


 その渦の中で実体化を解き始めていた焼肉精霊が、驚愕の表情で悲鳴を上げる。

 キラキラと輝くダイヤモンドダストの中で、それはとても儚い存在に見えていた。


「そこまでだ!もう逃しはしないよ!」


 モリトは両腕に冷気を集めて焼肉精霊の身体に触れ、注ぎ込む。



「彼女といずれ結婚して、幸せに暮らすんだああああッ!!」



「ギギャアアアアアアア!!」



 今度こそ本気の苦悶の悲鳴を上げて、ヤケクソに周囲に炎をばら撒きながら彼女は氷の彫像となって動きを止めた。



「ハァハァ……どうだァァァッ!やってやったぞォォォオオオ!!」



 肩で息をしていたモリトは大きく息を吸い込むと、今までの鬱憤を晴らすかのように大声で叫んでいた。


「ま、まあまあね!私の教え子だし当然よね!」


「まさに魂の叫びね。おめでとう、モリト君。」


「すっごーい!さすがは特殊部隊ですね!みぎゃっ!」


 ヨクミによって復活したフユミとミキは、そんな彼の後ろ姿に祝福と称賛の言葉を贈っていた。

 フユミは彼の苦悩をよく見てきたので感慨深いものがあった。

 ミキは目を輝かせて飛びつきに行こうとしたのをヨクミにガシッっと捕まえられていた。


(そういえば誰よこの子。モリトのなんなの!?)


 モリトの盛大な妄想ラッシュで心のHPがレッドゾーン状態のヨクミ。彼女はモリトの言葉でその気になったのか、目の前の女の子の存在にモヤモヤした気持ちになっている。


『ほらヨクミ、行ってあげなさい。』

『う、うん……』


 フユミに促されて彼の下へ足を運ぶヨクミ。一方のモリトは少し冷静になって思案していた。


(うーん。チカラに目覚めたは良いけど、これってヨクミさんの前では使えないんじゃ……?)


「ぼーっとしない!”ヴァルナー”!!」


 ズバッシャアアアアア!!


「うわああああ!」


 その時、よく聞いた声が響いて水流が発生。モリトごと周囲の炎を飲み込んで鎮火した。


「まったくモリトったら、戦いが終わったのならちゃんと火の始末くらいしなさいよね!危ないじゃないの!!」


「ヨクミさん!……ごめん、そうだったね。ちょっと周りが見えてなかったよ。ところでいつから――」


 ヨクミはモリトに近付いて抱きつき、頭と背中をぽんぽん叩く。


「でもまあ、モリトは良くやったわ。遅くなってごめんね?無事で良かったわ。」


「ヨクミさん……ありがとう。」


 その異端同士の2人の間には今まで培った信頼関係があった。

 2人は戦闘中の言葉の話はひとまず横へ置いておいて、ただただお互いの無事を喜んだ。



 …………



「なるほど、あのハゲがフユミちゃん達に高濃度のクスリを討って私達と戦わせようとしたってワケね。」



 22時25分。一息ついた彼らはその場で飲み物を片手に作戦会議を行っていた。


「ええ、私は何とかなったけど、一時間くらい前にこの向こう側で魔王らしき人物と2人のモンスターが戦っていたの。能力的にその2人はアイカちゃんとエイカちゃんだと思うわ。」


「ええ―!?あの子達がモンスターに!?」

「そ、それで2人はどうなったんですか!?」


「ごめんなさい、それがよくわからなくて。両者とも規格外のチカラの持ち主だったせいで、参戦どころか観測すら出来なかったわ。不思議なのは戦闘が終わった後、誰の姿も無かったの。遺体すらね。」


「「くっ……」」


 モリトとヨクミが悔しそうに沈黙する中、もう1人の女の子が冷や汗かきながらカタカタ震えていた。


(話についていけない!それに私が聞いちゃマズイ類のお話だったのではないですか!?)


 ミキである。彼女は政府絡みの特殊部隊という上級な方々の裏事情を知ってしまった。これは下手をすると銃殺処刑もありえるのでは!?とペットボトルを両手で握ってあわあわしている。


「とにかく、早くユウヤ達と合流するべきだと思う。」


「そうね。他のメンバーも心配だしここから東に向かおうよ。」


 モリトの提案に賛成の意思を伝えるヨクミ。


「私は消耗が酷いから霊体で憑いて行くわ。ヨクミ、良いわね?」


「解ったわ!カモン、フユミちゃん!」


 フユミは氷像となった焼肉精霊を吸収するという手もあったが止めておいた。特濃のクスリやらノロイめいた魂やらも同時に吸収してしまうからだ。なのでヨクミに取り憑いて回復を待つことにした次第である。


「私の風のチカラ、ヨクミの精神力で使えるようにしておくから有効活用してね。」


「オッケー!モリトはミキちゃんをしっかり護衛しなさいよ?」


「ああ、そのつもりだよ。この東に市民ホールと市役所があったよね。ひとまずそこを目指して、ミキを保護してもらおう。」


「高い所・頑丈な建物、ですね!一生懸命付いていきます!」


 ミキは張り切って返事をする。モリトの事は気になるが、下手に深入りすると大変そうだという恐怖心も生まれたようである。



 …………



「いいんですか?私と一緒で。彼女が推しなんでしょ?」


「いやまぁ、今はいいかなって。」



 一行は東を目指して歩き始める。モリトとミキが先行し、ヨクミはあとから付いてきている。


 ミキはモリトの態度が消極的に見えて確認の為に顔を覗き込んだ。


「照れくさいんですか?じゃあこれで!」


「わわ、離れて!」


 ミキに腕を取られてぴっとりくっつかれ、慌てふためくモリト君。柔らかさや香りにドギマギしてしまっている。


「だーめ!モリトさんってば戦闘には強いのに、女の子に対してはヘタレですよね!だからこれは訓練です。ほら歩きますよ、イッチニ、イッチニ!」


「ヘタレって……いや、だからって君がそれをする必要は――」


「ちょっとだけサービスです。ケーキと胸のワンタッチだけじゃ、今日の恩義は返せませんしね。だからそのぉ、銃殺だけは勘弁して下さい!」


「へっ?銃殺!?」


 ミキからしたら文字通り死活問題だったのだが、モリトからは妄言にしか聞こえない。傍から見たらただのじゃれつくカップルだ。



「ぐぬぬ、ミキちゃんったらくっつきすぎじゃない?」



『ところでヨクミ、あなたはどうするの?その様子だと早咲きかな?』


 ヨクミは前を行く2人を見て謎のイラつきを感じていた。その彼女に取り憑いたフユミがニヤニヤしながら念話で問いかける。


『な、何のことかしら!?』


『彼の気持ち、聞いてたでしょ?ちゃんと応えてあげなくちゃ!』


『そ、そそそそういう死亡フラグになりそうな事は、後にするつもりよ!!』


『へー?オカルトを信じるくらいには意識してるのね。これは脈がある感じかな~~?そう言えば彼って私の分身のハダカを見ちゃってるのよね。ヨクミが要らないならセキニンを――』


『それはダメ!! はっ……ううう。』


『冗談よ。精霊はそういう増え方はしないし。』


『もう、意地悪なんだから!』


『うふふ、ごめんなさいね。私は応援してるから!』


 風精霊はヨクミをからかうと、親友に訪れたかもしれない春の息吹をお迎えする約束した。


 世間から外れた異端者達は、ここまで絶望的な気持ちに蓋をして進んで来た。


 だが彼らは自らの想いに素直になる事で、未来へ進む為のチカラを得る事が出来たのだった。


お読み頂き、ありがとうございます。


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