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甘い目覚めの春

作者:

 春は目覚めの季節だ。ヒンヤリとした街から緑が目覚め、球根の中からは花が目覚め、チョウチョも羽ばたき目覚める。春は美しい世界が目覚める季節だとしみじみ思う。


「わっ委員長ちゃんが物思いにふけっていらっしゃるよ!」

「委員長ちゃんじゃあ絵にならないよ」


 雑音、雑音、これは雑音だと何度自分に言い聞かせても脳に直接響いてくる私への悪口。奴らは「悪口」とは思っていないんだろうから、私が怒っても「自意識過剰ちゃん」にあだ名が更新されるだけなんだと思う。世界はこんなにキレイなのに、あいつらは本当に汚い。異物だ。もう2年間続けている気にしていない演技をして、外を見続けていたらカラスが目の前を横切った。空とは真逆の色を持つ黒い鳥が風を切って飛んでいく様子が美しい。


「ねぇ、委員長ちゃん、何考えてんの?」

「えっ、あ、あの、お腹空いたなって思ってただけだよ」


血を吐いている気分だ。私が言葉を喉から出す度、私の何かがごっそり切り刻まれている。


「つまんな!」

「委員長ちゃんなんだから真面目貫いてよー」


 窓からふきこむ風に桜の花びらが運ばれてきた。花びらは私の席を通り過ぎて、奴らの方まで飛んでいった。奴らは何もなかったかの様に私のことを笑い続けている。汚い。奴らの存在が、この美しい世界に傷をつけている。いなくなったら世界はもっと美しくなる。それはきっと、確かなことだね。甘ったるいショートケーキの液体が私の体を染め上げていく。体がショートケーキの甘さで重くなっていく。私はカッターナイフを掴んで、奴らに向かって歩きはじめた。


 春は、胃の奥で重く眠り続けていた、体中にへばりつくような甘い甘い感情を目覚めさせてくれた。

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