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騎士とJK  作者: ヨウ
第三章 天険カスケード
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第89話 漆黒の森

「一人で行くなんて無茶ですわ! アル兄さま!」


「そうだよ、アルフレッドさん! 危険すぎる! 盗賊討伐に行くとしても、山を下りて領主に助けを求めるべきだ!」


「そうっすよ、アルフレッドさん! だいたいもう日が落ちちゃったんすよ!? こんな真夜中に森をうろつくだけでも危ないっすよ!!」


 俺がアスカを助けに行くと言うと、皆が必死で制止してきた。確かに普通に考えれば、盗賊のアジトに単身で乗り込むなんて正気の沙汰ではないだろう。


「領主に助けを求めに行くとして、それまでにどれぐらいの時間がかかる? 最低でも数週間はかかる。その間にアスカが無事でいられる保証は?」


「でも! たった一人で盗賊のアジトに乗り込むなんて死にに行くようなものだ! 無駄死にするだけじゃないか!」


 大きな身振りをまじえて怒鳴るグレンダさん。


「なにも真正面から乗り込むわけじゃない。忍び込んでアスカを助け出すさ」


「百人近くはいる盗賊団ですのよ! 見つからずに助け出すなんて現実的ではありませんわ!」


 意見を変えようとしない俺に、苛立ったように大声を出すクレア。確かに相手は最低でも隊商の倍の人数がいるそうだし……それだけの人数の目があるとなると、忍び込むのも容易じゃないだろうけど……。


「大丈夫だ。俺は夜目も効くし、気配を探るのも、隠れるのも得意なんだ。むしろ真夜中の方が動きやすい」


「でも!!」


「しつこいよ、クレア。なんと言われても、俺はアスカを助けに行く」


 言いすがるクレアにはっきりと告げる。クレアは俺の言葉に悲しげな表情を浮かべ、悄然とうつむいた。


「……そんなに……アスカさんが……」


 話している間に俺は盗賊のアジトに忍び込む準備を終えた。準備と言っても動きやすく、より目立ちにくい色合いの動きやすい服に着替えて、ポーション類や投げナイフなどをポーチに入れただけだ。


「護衛任務を放り出してすまない、クレア。行ってくるよ」


 俺は茫然とたたずむクレアの脇を通り過ぎて、野営地の出口に向かう。支える籠手(ガントレット)のサラディン団長が居並ぶ馬車の側で俺を見ているが、声をかけて来ることは無かった。


 彼らには彼らの、貨物を王都に届けるという役割がある。王都には貨物を待つ隊商の仲間たちがいるそうだ。例え隊商の商人たちが誰一人として帰ることが出来なかったとしても、貨物さえ無事に王都に届けることさえ出来れば最低限の仕事は達成できる。膨大な損失を被ることは無くなるし、商人の替わりはいるのだ。


 だけど、俺は隊商の護衛じゃない。アスカの騎士で、アスカを守ることが俺の役割なんだ。アスカの替わりなんていないんだから。


 俺は野営地を出て森に入ろうとしたところで森の中から俺を見つめる視線に気づく。集中と緊張が高まっている俺はその視線を見逃さない。


「行ってきます。ジオドリックさん」


「やれやれ。こうも簡単に見破られるとは。盗賊どもの目を騙した、自慢のスキルだったのですが……」


 木陰から姿を現したのはクレアの執事兼護衛のジオドリックさんだった。


「……クレアをよろしくお願いします」


「ええ、それはもちろんです。それにしてもアルフレッド様。貴方の勘の良さ……まるで熟練の斥候職のようですな」


「…………」


 俺とアスカの秘密の核心をついてくるジオドリックさん。この旅で何度も支える籠手(ガントレット)の斥候職を上回る索敵能力を発揮していたのだから、違和感を持たれてもしょうがない。俺は無言で返答する。


「しかも、この暗がりで木陰に隠れる私をいとも簡単に見つけられるとは、随分と夜目も効くようですな」


「……それが、何か? すみませんが、急ぎますので」


 通り過ぎようとした俺にジオドリックさんは慌てて道をふさぎ、話しかけてきた。


「その前に……どうやって盗賊団からアスカ様を救出なさるおつもりですか? 人数も百人近くはいるのです。例え忍び込んで助け出す事が出来たとしても、アスカ様を連れて抜け出すことはいかにアルフレッド様でも難しいでしょう」


 ……確かにその通りだろう。見つからない様に抜け出すなんて不可能に近い。


 かと言って正面から突入しても、百人近くの人数がいるとすれば多勢に無勢。返り討ちにあうのは目に見えてる。だから……


「忍び込んで、盗賊に気づかれないように数を減らす。脱出もしやすくなるでしょう?」


「……そうですな。アルフレッド様のお力があればスニークハントも可能でしょうな」


 【潜入】で忍び込み、【索敵】で気配を探りつつ、【夜目】を効かせ暗闇から強襲。各個撃破して数を減らす。


 チェスターでレッドキャップ達を倒してまわった戦術の再現だ。今度はアスカと一緒ではないから、さらにスキルを多用して隠密性を高める事が出来るだろう。


 騎士らしい戦い方では無い。暗殺者……とでも言うような戦い方だけど、手段を選んではいられない。


「ふふっ。斥候職スキルを持つ、【剣闘士】(グラディエーター)ですか……。まさに神龍ルクス様の思し召し、と言ったところですかな」


 そう言ってジオドリックさんは塞いでいた道を譲ってくれる。さすが【暗殺者】(アサシン)の加護を持つだけはある。俺の持つスキルも想像がついているのだろう。


 まあ、いい。盗賊のスキルは地味だ。発動したとしても目に見える効果があるわけではないから、なんとでも誤魔化せる。そんな事よりも、アスカの救出だ。


「アルフレッド様。この短刀をお持ちください」


 会釈をしてジオドリックさんの横を通り過ぎようとしたら、ジオドリックさんが真っ黒な短刀を俺に差し出した。


 グリップも鞘も真っ黒。鞘から抜いて見せてくれた刀身も同様に真っ黒だった。


「アルフレッド様の得物は目立ちすぎます。白く輝く、炎を宿す剣では盗賊共の目を集めてしまうでしょう。この短刀は私が現役だった頃に愛用していた、光を吸い、闇に紛れ込む業物です。今宵の戦いではお役に立つでしょう」


 俺は頷いて短刀を受け取り、代わりに紅の騎士剣(レーヴァテイン)火喰いの円盾(フレイムシールド)を預ける。


「ご武運を」


「……はい」


 俺は今度こそ野営地を出て、森に飛び込んだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 日が落ちて暗闇に包まれた森の中を単身でひた走る。野営地には月明りが射していたが、森の中では鬱蒼と生い茂る樹々の葉に遮られて光は届かない。【夜目】のスキルが無ければ、せいぜい数歩先を見通せる程度だろう。


 俺は盗賊のアジトを目指し、野営地から北に向かっている。自称行商人の護衛の斥候は、アジトの所在地をぺらぺらと喋った。仲間一人を目の前で殺されたのが効いたのだろう。


 俺の【索敵】なら大体の方角さえわかれば、アジトを探しあてられる。『偽情報だったら全員死んでもらう』とさんざん脅して確かめたので、アジトの方角で嘘を教えられているということも無いだろう。


 このまま盗賊のアジトを探し当てて、アスカを助け出す。俺は腰に佩いた『漆黒の短刀』のグリップを強く握りしめた。




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