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騎士とJK  作者: ヨウ
第三章 天険カスケード
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第86話 専守

 左手に盾を、右手に片手剣を持った二体のゴブリンナイトが慎重に歩み寄る。その後ろには杖を俺に向けるゴブリンメイジ。そして身の丈ほどもある両手剣を構えるジェネラル。


 ゴブリン上位種たちは互いをカバーしあいながらじりじりと俺ににじり寄る。前衛にナイト、中衛にジェネラル、後衛にメイジ。隙のない配置で、油断なく俺の命を刈り取ろうと迫って来る。


 ……完全に調子に乗っていた。このままだとなすすべもなくやられてしまう。


 4体のゴブリンの上位種を相手にして、俺一人で勝とうとするなんて思い上がりもいいところだ。俺よりもレベルが高い魔物で、しかも40匹の群れのリーダー格だ。



 上手く行くわけがないが無かったんだ…


格上を相手に騎士スキ(・・・・・・・・・・)ルの習得を狙うなんて(・・・・・・・・・・)



 俺はゴブリンメイジが放った【魔弾】(ルイン)をかわす。先ほどジェネラルに吹っ飛ばされ、さらにメイジの【魔弾】(ルイン)に弾き飛ばされた。


 だが、そのおかげで剣の届く接近戦の間合いから、うまい具合に距離を取れた。離れたところから放たれた魔法になんて、そうそう当たってやらない。


 【魔弾】(ルイン)が放たれると同時に俺に向かって突進して来た二体のゴブリンナイト。俺は円を描くように大きく回り込みつつバックステップやサイドステップを繰り返して距離を取る。俺には高い敏捷値がある。ゴブリンナイトはそう簡単に追いつけない。


 ジェネラルが大剣を振り回す。だから当たらないって、そんな大振り。さっきは俺のショートソードが届くほど接近していたから避けきれなかっただけだからな?


 【挑発】と【不撓】(ディフェンダー)を発動する。さらに【潜入】を断続的に発動して、フェイントを入れていく。


 殺気を放ちつつ左に踏み出したかと思わせて、気配を消して右にサイドステップを踏む。紅の騎士剣(レーヴァテイン)に魔力を注ぎ込み、斬りかかると見せかけて殺気を殺して距離を取る。


 うん、やっぱり【潜入】は対人戦に有用だ。ゴブリン相手に対人と言っていいのかは微妙なところだが、ある程度の知性があるヤツは殺気や魔力といった気配を読みつつ戦術を組み立てる。その気配が急に強くなったり、突然消失したりしたら惑わされるのは必然だろう。


 ゴブリンの上位種は巧みに連携を取って攻め立ててきた。つまりその内の一体でもフェイントに嵌める事が出来れば、流れを簡単に崩す事が出来る。


 ショートソードの刃が届くほど接近した立ち位置だと、さすがに連携を崩すことは難しく、いい様に嬲られてしまった。だが適度に距離を取って迂闊に攻撃を狙わず、守りと回避に集中すればゴブリン上位種たちの攻撃を捌くことはそう難しくない。敏捷値は俺の方がかなり優位みたいだからな。


 俺はジェネラルの放った【岩弾】(ストーンバレット)を盾で弾きつつ、【潜入】でナイトを翻弄しながら駆け回る。【挑発】を何度も上書きして注意を引き付けつつも逃げ回る。【不撓】(ディフェンダー)を乱発し、熟練度稼ぎも忘れない。


 せっかくだから攻撃に回って【魔力撃】(スラッシュ)の熟練度上げや【烈攻】(アグレッサー)の習得を目指したいところだったんだけど、元ショートソードである紅の騎士剣(レーヴァテイン)だと、接近戦をせざるを得ないから取り囲まれて嬲られてしまう。


 接近は避けて、回避と防御に専念する。ヒット&アウェイは残念ながら失敗。今の立ち回りは、言わばアウェイ&アウェイ。


 こちらからの攻撃手段が無いことがネックではあるけど、この戦術なら勝てないけど負けない(・・・・・・・・・・)


 持ってきた武器が鋼の短槍なら、まだやりようがあったんだけどな。失敗したな……。紅の騎士剣(レーヴァテイン)の切れ味を試したかったばかりに攻め手を失った。


 でも、まあいいか。幸い騎士の加護は体力の補正も優秀だ。逃げまわり続けても、ゴブリン達よりも先にスタミナが切れる事も無さそうだ。


 道中の魔物退治と同じだ。今回はそう簡単に援護はやって来れないだろうけど、気長にやりますか。はぁ、いつになったら【不撓】(ディフェンダー)以外の熟練度稼ぎが出来るかな……。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ジェネラルとメイジの魔法を弾き、ナイトの剣を躱し、逃げ回りながら注意を引き続ける。どれぐらいの時間が経ち、幾度の魔法と剣を避けただろう。いい加減に飽き飽きしてきたところで、唐突にゴブリンメイジの肩に矢が刺さった。


「グギィ!!」


 肩をおさえてうずくまるメイジ。


 ……やれやれ、ようやく他の連中がゴブリン共をあらかた討伐できたみたいだ。ふう……さすがに疲れて足が重くなってきたところだったから助かった。


 ゴブリンナイトたちの剣を避けつつ【索敵】で周囲を窺う。40体ほどいたゴブリンは残り数体。後は上位種たちを残すばかりみたいだ。


 対して、こちらの被害は軽微。皆、大なり小なり手傷を負っているようだが、大怪我を負っている者はいなさそうだ。


 さて、援護が期待できそうだから、後衛の射線をふさがないように立ち回りますか。俺はうずくまったメイジの反対側へと走り、ナイトとジェネラルを誘き寄せる。


釣られて俺に接近したナイトとジェネラルの背後で、メイジに何本もの矢が突き刺さる。ハリネズミの様になったメイジが自らの血だまりに沈む。


 こうなったら、後は簡単。【挑発】をさらに放って後衛に向きかけた注意を俺に集中させつつ、後衛の射線から身体を外す。ナイトとジェネラルに向かって、雨あられのように降りかかる矢と魔法。メイジに続いてナイト二人が倒れ伏す。


 ジェネラルは背中に何本もの矢を生やしつつも戦意を失わず、剣を振り上げ俺に向かって突進して来た。


「ギャギュワァァァ!!」


 お前だけは殺す。そう言ってるように聞こえた絶叫とともに、最期の一撃が振り下ろされる。俺は【大鉄壁】(ヒュージウォール)を発動し、その一撃を受け止める。最後ぐらいは俺がやるか?

 

 ……いや、今さらいいか。


「やれっ! ジェフ!!」

「うっす! 【牙突】(ブリッツ)!!」


 美味しいとこ取りの得意なジェフの槍が背後からジェネラルゴブリンに突き刺さる。ジェネラルゴブリンは俺を睨みつけながら倒れていった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「見事だな、アルフレッド。上位種4体を相手にほぼ無傷とはな」


「サラディン団長。さすがに疲れましたけどね。援護、助かりました」


「いやー時間かかっちゃってごめんね、アルフレッドさん。思いのほか数が多くてさ。手こずっちゃったよ」


「ご無事でしたか、グレンダさん」


「ありがとう。アルフレッドさんも無事でよかった。あれ、ジェネラルゴブリンでしょ? よく捌けたわね!?」


「ぎりぎりでしたよ……。一匹ぐらいは落としたかったんですけど、ムリでした」


「よっく言うわよ。またトドメをジェフに譲ってたくせに」


「アルフレッドさん! ありがとうございます! おかげで俺、レベルが上がったんすよ!」


「良かったね、おめでとうジェフ」


「あざっす!!」


 支える籠手の連中と勝利を喜び合う。俺は結局、一度も上位種たちに攻撃する事が出来なかったから【烈攻】(アグレッサー)も習得できなかったし、【魔力撃】(スラッシュ)のスキル上げも出来なかった。


 正直に言うとイマイチ喜べないけど……魔石はもらえるよね? あんなに頑張ったんだからジェネラルとメイジ辺りのが欲しいなぁ。


「さてゴブリン共の魔石を抜いちまうぞ。とっととこの躯を片付けないと、せっかくゴブリン共をやっつけたのに野営も出来ねえぞ! ほら皆、かかれ! ジェフ、お前は隊商を連れてこい!」


「アイサー!」


 もうそろそろ夕方だ。俺もゴブリンの死体の処理を手伝うか。俺は支える籠手の連中とともに解体と遺体運びを行う。


 ゴブリンの解体は心臓辺りにある魔石を取り出すだけだから簡単だ。遺体は野営地の近くに置いておくのもなんだから燃やしてしまうことになった。


 ごうごうと音を立てて燃えるゴブリンの遺体から漂う、肉の焼け焦げる匂いに辟易としていたところに、ジェフの焦った声が聞こえてきた。



「ダンチョー! 隊商の連中がいない!! 襲われたみたいだ!!」




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