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騎士とJK  作者: ヨウ
第三章 天険カスケード
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第76話 サブクエスト

「おねがいー!!! あと一壷! あと一壷だけでいいから!!」


「ダメだって言ってるだろ! 5個も買えば十分すぎるだろ!」


 エスタガーダの朝市で、思った通りジャムを大量に買い込もうとしていたアスカをなんとか制止した。マルベリーのジャムは壺売りで、なんと一壷あたり大銀貨2枚もするのだ。ちょっと目を離したすきにアスカは金貨1枚分のジャムを買ってしまっていた。金貨1枚で止められただけ、まだマシかもしれないけど。


「甘いものが足りないのー!!!」


「こんだけ買えば十分だろ!」


「だってだって! チョコもパンケーキも大福も食べられ無いんだもん!! ジャムぐらい買ったっていいじゃん!! コンビニスイーツがたーべーたーいー!!!」


「うっさい!!」


 アスカは時々、禁断症状が出たように甘いものを食べたがる。二ホンには甘いものが溢れかえっていたらしく、屋台で売っているリンゴ1個と同じくらいの金額でクッキーが買えたらしい。あいにくここは二ホンじゃないから、リンゴを1かご買えるぐらいのお金で、ようやく小さなクッキーが1枚買えるぐらいだろう。


 ジャムだって、作るのに大量の砂糖や蜂蜜を使っているそうだから当然ながら高額になる。ちょうど片手で持てるぐらいの小さな壺1個で大銀貨2枚もするのもしょうがないだろう。


「ううー。この世界って料理はけっこう美味しいのに、スイーツが無いのがなぁ……。王都まで行けばスイーツ食べられるのかなぁ……」


「ここよりはたくさんあるだろうけど、高いからそうそう食べられないぞ?」


「アルのケチ―!!」


 ケチと言われようとも無駄遣いはしません。まあ、アスカにかかれば大銀貨1枚や2枚ぐらいすぐに稼げるだろうから、たまになら良いけどさ。


「あ、ほらアスカ。マルベリーが売ってるぞ? あれならそんなに高くないんじゃないか?」


「あ、あれがマルベリーなの!? 美味しそう!! 食べてみよう!!」


 アスカが俺の手を引いて屋台にぐいぐいと引っ張っていく。やれやれ。やっとジャムをあきらめたか……。今度はマルベリーを大量買いしたりしなきゃいいけど……。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 朝市が終わり、隊商が広場に張った天幕やタープテントを慣れた手つきで片付けていく。昼前には片付けを終え、カスケード山に向かって出発する予定だ。


「カスケード山の麓に最も近い集落には1週間ほどで到着する予定です」


 隊商隊長のマルコさんが、傭兵団支える籠手(ガントレット)のサラディンさんとクレアを広場の隅に呼んで今後の予定を改めて確認した。隊商はカスケード山の麓まで続く街道に沿って移動し、途中で3つの農村を経由するらしい。


 それぞれの農村で、この町と同様に一泊。翌日に朝市を開いて、また次の村に向かう……といった流れを繰り返していくそうだ。残念ながらこの先の農村には旅人が泊まれるような宿は無いため、この先は山を越えるまで野営が続くらしい。


「ねえ、アル。細かい地名がわからないんだけど、どういう感じで移動するの?」


「ええと、そうだな。ここがチェスターだとするだろ? エスタガーダはだいたいこの辺で……」


 俺は地面に木の枝で簡単な地図を書いていく。ウェイクリング家の父上の執務室に貼られていたセントルイス王国の地図を思い出しながらなので、かなり適当だが方向と距離感はだいたい合っているだろう。


 まずウェイクリング領の西の端にあるのが『山間の町オークヴィル』。そこからほぼ真東に丸1日ほど移動すると、俺が長らく引きこもっていた『始まりの森』がある。さらに北に半日ほど行くと『城下町チェスター』。そしてチェスターから2日ほど東に行ったところにあるのが、ここ『紡績の町エスタガーダ』だ。もちろん他にもいくつかの町やたくさんの農村があるが、ここでは割愛。


「ウェイクリング領の東の端には、ウルグラン山脈の山々が南北に連なっている。このウルグラン山脈を越えるルートは二つ。北のカスケード山を超えるルートと、南のパックウッド山を越えるルートだな」


「今回はカスケード山を通るルートで行くのよね?」


「ああ。南のルートに比べて道も険しいし、生息する魔物も強い。おまけに盗賊まで出没するって話だからな。できれば南側のルートを通ってもらいたいところだが……」


「隊商の人たちが決めちゃったんでしょ? クレアちゃんの護衛もしなきゃいけないのにねー」


「ああ。せめて、盗賊が出なきゃいいんだけど……」


「大丈夫だよ。こっちから盗賊のアジトに行かないと盗賊関係のイベントは始まらないから」


「え??」


 盗賊のアジト? イベント? あ、もしかしてWOT(アスカが読んだ物語)で盗賊に襲われる話があったとか?


「うん。王都に着いてからの冒険者ギルドの依頼(サブクエスト)だったんだけど、盗賊のアジトがこの辺りだったと思う」


「へえ。どんな依頼だったんだ?」


「確か山道で攫われたお金持ちの商人の娘を救いだせみたいなヤツだったよ。助けたお礼にお金と女性キャラ用の装備品を……って」


 そこまで言ってアスカの表情が固まった。お金の持ちの商人の娘……攫われた……ってもしかして!


「クレアが攫われる!!?」

「クレアちゃんが攫われる!!?」


 俺たちは顔を見合わせ、ほぼ同時に叫んだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 朝市の片付けが終わった隊商は、予定通り昼前にエスタガーダを出発した。今日は夕方になる前まで街道を移動し、野営を張ることになる。翌日は早朝に出発し、昼過ぎごろに養蚕業が盛んな農村に着く予定だそうだ。


 俺とアスカはアリンガム商会の馬車の横を、周囲を警戒しつつ歩いている。今のところは【索敵】の範囲内には魔物の気配は感じられない。


 念のために注意をしているが、昨日の尾行者のような怪しい視線も感じない。町の中ならいざ知らず街道で尾行するのはバレバレだから、さすがにそんな間抜けな真似はしないみたいだ。


「じゃあエスタガーダでこの馬車を尾けてたのって盗賊だったのかな?」


「アスカの話を聞く限り、その線が怪しそうだな。ジオドリックさんによるとアリンガム商会に敵対する組織の人間の可能性もあるそうだけど、ウェイクリング領の中では手を出してこないだろうってさ」


 ウルグラン山脈を越えれば他の貴族の領地になり、侯爵領、公爵領と続き王家直轄領に入る。ウェイクリング領内でクレアを害せば足が付きやすいから、手を出してくるとすれば他の領地に移ってからという事だろう。


 領地で他領の貴族が襲われるようなことになれば、その領地を治める貴族にも多少の責は及んでしまう。そうなると王国内で権力の強い公爵や王家が治める領地でちょっかいを出してくる事も考えにくいので、山越えした直後の侯爵領で手を出してくる可能性が高いと、ジオドリックさんは見ている。


「クレアを亡き者にしてウェイクリング家に近づくことを目論みそうな商会がいくつかあるって話だ。それに今回はウェイクリング家の親書と献上品を携えての王都行きだから、ウェイクリング家に害意がある者がクレアを狙うってことも考えられるそうだな」


「クレアちゃんは大変だね……色んなところに狙われちゃって……。でもそれならアルとジオドリックさんだけじゃなくて、もっと護衛の人をつけた方が良かったんじゃないの?」


「父上やバイロン様が行くとなれば騎士団が随行したのだろうけどな……。ウェイクリング領は魔人族の騒ぎでまだ混乱してるから、騎士を派遣するわけにもいかなかったんだろう」


「そうなんだ……」


 ライバル商会や他領の貴族など色々と懸念があるとは言え、さしあたっての心配は盗賊だ。アスカの話じゃWOTでも、盗賊に襲われた『裕福な商人の娘』がいたそうだからな。細部はいろいろと異なっている事はあるけど、WOTで語られている事はこの世界でも起こっているから……


「クレアとこの隊商は盗賊に襲われる可能性がかなり高いってことか……」


「ジオドリックさんとか傭兵団の人達に言わなくていいの??」


 アスカが不安そうな顔で俺を見る。もちろん言っておいた方がいいんだけど……。


「どうやって説明する? まさかアスカが見た物語で、クレアが襲われたからって説明するのか?」


「それは……うーん。どう説明すればいいんだろ……」


「幸い、ジオドリックさんはエスタガードに怪しげなヤツらがいたことで警戒レベルを上げてるし、その話は隊商隊長や傭兵団長に伝えてあるみたいだ。それに物語と違って、俺たちは盗賊たちが襲って来る可能性が高いことを、あらかじめ知っている。そう易々とクレアを攫われるような真似はさせないさ」


「……そうだね。最初から襲って来ることがわかってれば警戒できるしね!」


 盗賊……か。動物や魔物は何度も殺してきているけど、人間相手ってのは初めてだな。いざという時に躊躇しないように、今のうちに『人を殺す覚悟』ってのも決めておかないとな……。




ご覧いただきありがとうございます。


各貨幣は


銅 貨≒100円

大銅貨≒1,000円

銀 貨≒10,000円

大銀貨≒100,000円

金 貨≒百万円


…というイメージです。

値付けはけっこう適当ですのでさらっとながしてくれると助かりますw


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