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騎士とJK  作者: ヨウ
第三章 天険カスケード
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第75話 尾行者

「そうですか。私も2名発見いたしました。おそらく同じ者でしょう」


 この町に着き宿に入った時にジオドリックさんから、アリンガム商会の馬車を尾けている者がいたと報告を受けた。俺はエスタガーダを散策する際に【索敵】を使い周囲を窺ったところ、確かに広場から魔道具屋に向かう時に尾行してきた者と、町の出口付近からこちらを注視している者を発見した。


 【索敵】は魔物の息づかいや物音、魔力などを察知して居場所を特定するスキルだが、同様に人間の気配も察知することが出来る。普通にスキルを発動するだけでは、『周囲に何人ぐらいの人がいるな』程度しかわからないけど、対象者の有する魔力が強かったり、意図的に足音を消そうとしていたりする場合は逆に気づきやすい。範囲や方向を集中して意識すれば人数や体格ぐらいはだいたい掴める。自分たちに対してなんらかの注意を払っている場合や敵意を抱いている場合には、特に察知しやすい。


 習得した当初はそこまで細かく気配察知は出来なかったのだが、スキルレベルが上がるにつれて範囲や細かな気配も察知できるようになった。今回の場合、敵意と言えるほどの気配は感じなかったのだが、不自然に気配を消そうとしていたことと、一定の距離を保ってついて来ていたため気付くことが出来た。


 とは言ってもジオドリックさんに注意するように言われなければ気付かなかった。俺の【索敵】もスキルマスターにまで至っているのだが、さすがは元Bランク冒険者というところだな。


「尾行者に心当たりは?」


「そうですな……アリンガム商会に敵対する組織となると、貴族から商売敵まで幅広く考えられますので何とも言えませんな。ですがそれらの組織の者の場合はウェイクリング領の中で手を出して来るとは考えにくいですので、単純に盗賊のたぐいといった線でしょうか」


「なるほど……見るものが見ればアリンガム商会の馬車とわかるでしょうから、盗賊にすれば稼ぎの良い相手と映るでしょうからね……」


「そうなるとカスケード山を越えるルートを辿るのはいささか心配ですな」


「かといって隊商と別行動をするのも危険ですしね……」


「ふむ……。致し方ありませんな。道中、気を付けて行くしかないでしょう」


「尾行者の捕獲を狙ってみますか?」


「それには手数が足りませんな。尾行者の技術はさほどではありませんでしたが、それでも気配を消そうとするぐらいの心得はあるようでした。捕獲に回ればクレアお嬢様の護衛が手薄になりますので、様子見といたしましょう」


「わかりました」


 盗賊か……。通ったことが無いので詳しくは知らないが、カスケード山を通るルートは切り立った断崖に沿った険しく、細い山道が続くそうだ。隊商長のマルコさんも盗賊が巣食っていると言っていたし、なかなか危険な旅になりそうだ……。


 それでも傭兵団『支える籠手(ガントレット)』の連中もついているし、元Bランク冒険者のジオドリックさんもいる。アスカと二人で旅をするよりははるかに安全だろう。


「それにしてもジオドリックさんはすごいですね。私はジオドリックさんに教えてもらえなければ、尾行者がいることなんて気づきもしませんでしたよ。魔物の気配ならそれなりに気付けるのですが、尾行者の気配となるとなかなか判別がつきません」


 オークヴィルの夜道で襲ってきた無精ヒゲ(ディック)尖りアゴ(ローマン)の二人のように敵意と殺気をまき散らすバカ共ならまだわかりやすいんだけど。そう言えばあいつらは今ごろ何しているんだろう。犯罪奴隷として強制労働に勤しんでいるのだろうか。


「戦闘力はアルフレッド様に遠く及ぼないかと存じますが、【索敵】はそれなりに得意ですからな」


「ああ、ジオドリックさんは【盗賊】の加護持ちでしたか。道理で」


「いえ、私の加護は【暗殺者】(アサシン)です」


「へえ。上位職でしたか。それはすごい」


 【暗殺者】か。確か【盗賊】が修得可能なスキルに加えて、敏捷性を向上させたり、敵の動きを抑制したりと、【盗賊】をより攻撃や搦め手に特化させた加護だと聞いたな。


「私としては、【剣闘士】であるアルフレッド様が尾行者の人数や位置まで把握出来た事の方が驚きですよ。とても冒険者として活動を始められたばかりとは思えませんな」


「……あはは。まだまだですよ」


 おっと危ない。そうだ、俺はチェスターでは【剣闘士】として活動していたんだった。オークヴィルの冒険者達には【盗賊】で通っていたからうっかりしていた。


 うーん。今はまだ【盗賊】(シーフ)【剣闘士】(グラディエーター)だけだからまだいいけど、そのうち【癒者】(ヒーラー)とか【魔術師】(メイジ)にするつもりだってアスカも言ってたしな……立ち回りに気を付けて行かないと、いろいろと面倒なことになりそうだな……。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ふあぁー!! すごーい! このソース美味しい!! このソースってフルーツよね? なにこれ? ブドウ!?」


「このソースはマルベリーのソースですわ、アスカさん。この周辺は養蚕業がさかんに行われていますので、マルベリーを使った料理や商品がたくさんありますの。このお茶もマルベリーの葉を使ったものですわ」


「そうなんだー! このお茶も、そんなに苦みが無くて飲みやすくていいかも!」


「アスカさん、このお茶は痩身効果もあるそうですわ」


「ほんとに!? ダイエットティー!? これは……買いね!」


「うふふ……明日の朝市で乾燥した茶葉も売りに出されると思いますわ」


 きゃあきゃあと興奮するアスカと俺たちは宿の食堂で夕食をとっている。メニューは蒸した鶏肉にマルベリーのソースがかかったメインディッシュに、同じくマルベリーのジャムが塗られたバゲットだ。クレアがせっかくだからとエスタガーダの名産品をオーダーしてくれていたみたいだ。


 ちなみにジオドリックさんと御者の二人は同席していない。二人は使用人だから主人と同席して食事をとるわけにはいかないそうだ。


 ジオドリックさんによると、護衛を俺に指名依頼したのには、一緒にいてもクレアが嫌がらないからという理由もあったらしい。


「お嬢様は町中で護衛がつきまとう事を極端に嫌がられるのです……。さすがに町の外に出る時には近くで護衛させていただきますが、町の中では離れた場所から見守る程度にしているのです。お嬢様のご友人でもあるアルフレッド様であれば町中でご一緒することを嫌がられませんので、護衛としては非常に助かります」


 ……とジオドリックさんは出発前にこっそり耳打ちしてくれた。言葉遣いも大人っぽくなっているが、そういうところは子供のころのお転婆な部分が残っているみたいだな。貴族として扱われることより、普通の商人として認められることを望んでいるってこともあるのかもしれない。


「アル! このソースのレシピを教わって!! しっかり覚えて作ってね!!」


「……だから、アスカも覚えろよ。なんで俺が作る前提なんだよ」


「適材適所よ!!!」


「はぁ……これならなんとなく作り方もわかるけどな。でも、ベリーかジャムが無いと作れないぞ?」


「クレアちゃん! ジャムって朝市で売ってるかな!?」


「ええ、出回ると思いますわ」


 あー、これはまたアスカが爆買いしそうだな……。このジャム美味しいから悪い買い物じゃないけど、買いすぎないように見張っておかないと……。




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