表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士とJK  作者: ヨウ
第二章 城下町チェスター
64/499

第62話 チェスター名物料理

「おい、アスカ。酒場を行くんじゃなかったのか? そっちに行ってもたぶんろくな店は無いぞ?」


 ギルドを出ると街の東側に向かって歩き出したアスカに声をかける。宿酒場に行くなら中央の目抜き通り沿いで探すのが一番いい。とは言っても俺は『ちょっと良い宿酒場』なんて知らないのだけど。


 貴族だったころに行ったことのある貴族街の高級店か、森番のころに通っていた値段も安いけど味も安っぽい食堂なら知っているけど、平民街の人たちがハレの日に使うような『ちょっと良い宿酒場』となると心当たりが無いのだ。


 でもアスカが向かった方角には無いだろうって事ならわかる。東側にあるのは平民の居住区で、その奥はスラム街だから宿酒場どころか木賃宿すら無いだろう。


「いいのよ、こっちで。スラムに行くんだから」


「なんでまたスラムに? 夕食を食べに行くんじゃなかったのか?」


「そうだよー? マーゴさんのとこに食べに行くの。」


「マーゴさん?」


 マーゴさんって午前中に会ったあの盗賊ジェシーの母親だよな? なんで夕食をしに行くんだ?


「覚えてないのー? ジェシーのお母さんのマーゴさん、【調理師】(コック)って言ってたじゃない。美味しいもの食べれそうじゃない」


「おいおい。いくら彼女が俺たちに恩を感じてるからって、病み上がりの彼女に食事を作らせるのか?」


「違うわよ。作るのは、ア・ル・よ。【調理師】(コック)のマーゴさんに頼めば美味しい料理レシピを教えてもらえそうでしょ?」


「ああ、なるほどね……」


 確かに、もしレシピを教えてもらえるならありがたい。やっぱり食事は人生の楽しみの一つだからな。


 オークヴィルのセシリーさんに教えてもらった羊肉のシチューは、【剣闘士】(グラディエーター)のスキルのレベル上げを聖域でしていた時に何度か調理したので、かなり美味しく作れるようになった。山鳥亭のレシピの方は貴重な羊乳を使うのでまだ試していないけど、そのうちアスカにせがまれて作ることになるだろう。


「オークヴィルの名物料理は食べれるようになったし、次はチェスターの名物料理よね!」


「そうだな……でもチェスターの名物料理って何かあったかな。牛や羊の串焼きとかローストはよく食べるけど、料理って言うほどの物でも無いしなぁ」


「その辺はプロに聞くのが一番よね。幸い材料はたくさんあるから、何かしら教えてもらえるでしょ!」


 アスカが小鼻を膨らませてそう言った。


「材料……ああ、そういう事か」


「な、何よ……」


「ふふっ。何でもないよ。行こう、アスカ」


 さほど長い付き合いじゃないがアスカが小鼻を膨らませるのは、何かを誤魔化そうとしている時か照れ隠しをしている時のクセだって事には気づいてる。今回は前者だな。いや、両方か。


 オークヴィルから隊商が大量の食料品を持ち込んだとはいえ、まだチェスターの食料品は高騰している。落ち着くまではもうしばらくはかかるだろう。要するにジェシーやマーゴさんのところに、食品を差し入れして一緒に食事をしようって事だろう。


 ……まったく。素直じゃないな、アスカは。


 俺はニヤニヤしながら、大手を振って歩くアスカの後ろに続いた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ジェシーの家にお邪魔し、母親のマーゴさんに料理を教えて欲しいと願いでると快く了承してくれた。


「ではボロネーゼなんていかがでしょう? ちょうどパスタを作ろうと思って、生地を仕込んであるんです」


「ああ、そっか。そういえばパスタもチェスターではよく食べるな」


 チェスター周辺は穀倉地帯で、小麦は比較的安く手に入るから、パンだけじゃなくパスタも良く作られている。作り方がわからなくて、ニョッキぐらいしか自分では料理しないから思いつかなかったな。


「パスタ!? 食べたい!! ああっ、久しぶりのパスタ!! ちょっと、アル! しっかり覚えてよね!!」


「そりゃ覚えるけど……アスカも覚えろよ」


「料理はアルが作った方が美味しいじゃない。適材適所だよ!」


 残念ながらアスカはあまり料理をする気が無いみたいだ。準備や片付けは手伝ってくれるのだが、料理自体はほとんど俺に任せっきりだ。


「だってさぁ、あたしが作ると美味しくないんだもん」


「そういうのも慣れだって言ってるだろ? いっしょに旅をするんだから、覚えてもらわないと困るんだけどな」


「そうですよ、アスカさん。やはり女性には多少の料理の心得が無いといけませんよ」


「むぅー、わかったよ」


 マーゴさんに窘められて不承不承ながらも頷くアスカ。


「では、ソースから作りましょうか。本当に材料までご用意いただいて、よろしいのですか?」


「うん! レシピを教えてもらえるんだから、当たり前よー! たっくさん持ってるから気にしないで!」


「はい、ではお言葉に甘えて。まずは挽肉を作りましょうか。牛か豚の肉をいただけますか?」


「ワイルドバイソンとマッドボアの肉があるけど、どっちにする?」


「お昼に豚肉を頂きましたから、牛肉にしましょうか」


「はーい」


 俺は取り出したワイルドバイソンの塊肉をマーゴさんの指示に従って細切りにし、続いて包丁で叩きに叩いて細切れにしていく。マーゴさんのレシピでは粗挽き肉ぐらいがちょうどいいそうだ。


「次に玉ねぎを微塵切りにして、ニンニクをスライスします。」


 玉ねぎは細かい微塵切りにした方が良いそうだ。俺は忙しく包丁を動かし、玉ねぎを細かく切っていく。ああっ、目に染みてきた……。


「では、お湯で戻しておいたドライトマトをつぶしてください。準備はこれで完了ですね。」


 ドライトマトは持っていなかったのでマーゴさんからもらい受ける。自家製のドライトマトだそうだ。ボロネーゼが美味しかったら、これもチェスターで買っておきたいな。


 そしていよいよ調理開始だ。まず鍋に油を引いて、ひき肉を炒めていく。じっくり火を通していくと、ワイルドバイソンの脂が溶けだしてくるので、その脂でスライスしたニンニクをローストする。


 ニンニクに火が通って良い香りが出てきたら微塵切りにした玉ねぎを追加して、ひき肉と炒め合わせる。玉ねぎがしんなりしてきたら、潰したトマトを入れてひと煮立ちさせる。


 それと同時に、別の鍋でスパゲティを塩を入れたたっぷりのお湯で茹でる。マーゴさん手作りの生パスタだ。パスタの作り方も教わったので、時間がある時にでも大量に作ろう。アスカのアイテムボックスがあれば保存も問題ないしな。


 ソースの方にスパゲティの茹で汁を入れて味を調えるのがマーゴさん流。直接、塩で味つけるより茹で汁の方が美味しく仕上がるそうだ。なんでだろう?


 麺が茹で上がったら、しっかりと水けをきって、出来上がったソースを和えれば完成だ。マーゴさん直伝!スパゲティ・ボロネーゼの完成です!!


「おいしーーーーー!!! アル! 美味しいよ!」


「美味しい! アルフレッドさん、すごいじゃん!」


「本当ですね。初めて作ったとは思えません」


「兄ちゃんすげえな!」


「うまー!」


 そして、マーゴさん一家と実食。うん、美味しくできた。コツはつかめたし、これで旅の途中でもパスタが楽しめるぞ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ