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騎士とJK  作者: ヨウ
第二章 城下町チェスター
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第57話 アリンガム商会

「アリンガム商会?」


「ああ。チェスターで一番の商家だ。ご令嬢のクレアとは昔から仲良くさせてもらっててね。彼女に頼めばテントを手に入れられると思うんだ」


「へー。クレアちゃんねー。そう言えば門衛さんから聞いたわねー、その名前ぇー」


 アスカが急に平坦な顔つきで俺を見る。ああ、そう言えば後で教えろって言われてたな。


「エドガーとクレアは教会の日曜学校で知り合ったんだ。【森番】になって誰からも見向きもされなくなった後も、変わらずに付き合ってくれた信頼できる友人たちだよ」


「あ、そう……なんだ……。その……いいお友達なんだね……」


 さっきまで不機嫌そうだったアスカが、一転して申し訳なさそうにそう言った。いや、今さら気にしてないけどな。アスカのおかげで森番として生きる運命からは逃れられたわけだし。


「ああ。ウェイクリング家を除籍されて森に住むようになってからも、二人には本当に世話になったんだ。エドガーはチェスターの送り迎えの護衛をいつも請け負ってくれたし、クレアは麦とか調味料なんかをお土産に持って、わざわざ聖域まで会いに来てくれたんだ」


 貧弱だった俺が安全に森とチェスターの街を行き来できたのはエドガーのおかげだし、人里離れた森の中で多少なりとも文化的な生活を送れたのはクレアのおかげだ。


「……そっかぁ。給料が安くて貧乏だったって言ってたわりに、ペッパーとか植物油とかたくさん揃えてたから不思議だったんだよね。オークヴィルの市で買った時にけっこうな値段だったから、なんでアルはあんなに食材とか調味料を揃えられたんだろうって思ってたんだー」


「ああ。クレアが定期的に持ってきてくれてたんだ。ハーブとかちょっとした野菜なら森でも栽培できたけど、さすがに麦とか胡椒までは育てられないからな」


 二人がいろいろと手助けしてくれた事も嬉しかった。だけど、友人として接してくれたことが何よりも嬉しかった。皆が腫れもの扱いする中で、唯一変わらずに接してくれて、どれだけ救われたかわからない。


「そうなんだ。いい友達なんだねー。あっ、今日は門が開いてる!」


 そんな話をしていたら、俺たちは貴族街への門に着いた。辺りを見回してみたがエドガーはいないようだ。


 門衛の領兵に冒険者タグを見せて、アリンガム商会に用事があると告げると門を通らせてくれた。このタグは身分証の代わりにもなるので、こういう時に重宝するな。


 とは言っても、普段なら冒険者ギルド発行の依頼書でも持っていないと通してはくれないはずだ。たぶん魔人族の騒ぎの後で人手が必要になり、緊急処置として冒険者の通行許可を出しているのだろう。


 俺たちは門から領主の館につながる大通りを進む。通りの両側に並ぶ屋敷や商店は、どれもこれもが半壊していたり、焼け落ちたりしている。魔人族の襲撃の爪痕は平民街よりもはるかに大きく残っているみたいだ。


 ギルバードとともに魔人族(ダークエルフ)と戦った広場には、たくさんのテントやタープが立てられていた。復興作業の拠点となっているみたいで、立ち並ぶテントの傍には、集められた瓦礫が所狭しと積み重ねられている。


 中心にあった噴水は泥の混じった水たまりと化しているし、石畳は剥がされて土がむき出しになっている。あの戦いの直後はそこら中が魔人族(ダークエルフ)の魔法で破壊されていて、目も当てられない状態だった。少なくとも瓦礫が集められて、馬車や人が通りやすいようにはなっているので、少しづつは作業は進んでいるみたいだ。


 兵士たちも鎧を脱ぎ捨てて剣を置き、物資を運んだり瓦礫の撤去をしていた。少なくない数の冒険者たちも混じって一緒に作業をしているようだ。そんな中、手伝いもしないことに申し訳なさを感じつつも、俺はアリンガム商会を訪ねる。


 アリンガム商会は貴族街の広場に面した一等地にチェスターで最も大きな商店を開いている。美術品や宝飾品、華美な衣服に武具、魔法具なんかを取り扱う高級店だ。


 だが、そんな高級店も今は見るかげもない。石造りの立派な建物なので火事にはならなかったみたいだけど、窓にはめられていたガラスは全て割れてしまっているし、壁もところどころが崩れている。


 ……クレアは無事だろうか。不安になりながら店の中を覗き込む。店の入り口には普段なら目玉商品の美術品が飾られ、その周りには高価な魔法具や宝飾品が陳列されているのだが、それらの商品はすべて撤去されているみたいだ。その代わりに、木材や石材、糧秣などが並べられ、まるで倉庫のような状態になっていた。


「なにか御用ですかな?」


 ふいに入り口の傍にいた初老の紳士に声を掛けられた。動きやすい作業着に身を包んでいるが、白いものが混じった髪や髭は綺麗に整えられていて、立ち振る舞いにも品格がある。普段なら執事服を着こなしていそうな雰囲気だ。


「アルフレッドと申します。クレア・アリンガムお嬢様がいらっしゃいましたら、ご挨拶をさせていただきたく」


「おお、アルフレッド様でございましたか。これは見違えましたな」


「おっと、失礼しました。お会いしたことがありましたか」


「ええ。クレア様とともに森に伺ったことがございます。御者としてご一緒しておりましたので、ご挨拶をしたことは御座いませんでしたが……。あらためましてアリンガム家でクレア様付きの使用人をしておりますジオドリックと申します」


「これは、ご丁寧に。アルフレッドです」


「冒険者として活躍されているとの、お噂をうかがいました。ご壮健でなによりです」


 噂? なんで俺が冒険者をやってる事をジオドリックさんが知ってるんだ……?


「ギルバード様と共に魔人族(ダークエルフ)と戦うアルフレッド様の姿を見た者が何人もいたのですよ。それにアルフレッド様が、冒険者と名乗られたのでは?」


 ……なるほど。そう言うことか。この貴族街では、俺の顔を知っている人も多いしな。


「……そうでしたか。それで、クレアお嬢様は……?」


「申し訳ございませんが、不在にしております。つい先ほど、家長とともに婚約者(・・・)であるギルバード様のお見舞いに、領主様の御館に向かわれました」


「へっ…………!?」


 となりでアスカが息を飲む。ジオドリックさんが目を向けると慌てて両手で口をふさいだ。


「そうでしたか。それでは後日、改めさせていただきます」


「クレア様は、アルフレッド様の身をとても心配しておられました。会いに来られたことはお伝えしておきます」


「ありがとうございます。それでは……」


 俺たちは一礼して、店を出る。門に向かって歩く途中で、アスカが俺の手をつかんだ。


「ギ、ギルバードの婚約者だって! クレアって子が!! 知ってたの、アル!?」


「あ、ああ。言ってなかったな。実は、そうなんだよ」


 ……そうなんだよ。今はギルバードの婚約者なんだ。昔は……俺の(・・)婚約者だったんだけどな。




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