第489話 不滅
アスカ視点です
ステータスメニューから、修得済みスキルと加護がどんどん消えていく。
「あ、あ、あぁ……アルの、アルの加護が、アルのスキルが……」
アルがあんなにも苦労して、少しずつ少しずつ鍛え上げたスキルが。世界中を旅して手に入れた『大事な物』で身に着けた加護が……消えていく。
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アルフレッド
■ステータス
Lv : 99
JOB: 龍脈の調律者
VIT: 162+550
STR: 162+550
INT: 162+550
DEF: 162+550
MND: 162+550
AGL: 162+550
■ジョブ
転移陣の守番・転移陣の守護者・龍脈の調律者
■スキル
上級剣術・上級盾術・弓術・槍術
馬術・投擲
転移・接続・創生
■装備
龍殺しの剣
火龍の聖剣
千本
滅竜の革鎧
混沌の盾
陽光の首飾り
閃火の指輪
常闇の護符
大地の腕輪
水霊の耳飾り
疾風の足輪
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『八重励起』なんていう凄い技を使っている時は、軒並み3万越えの見たこともない数字が表示されていたのに。ルクスですら圧倒するぐらいの強さだったのに……。
ステータス値はついさっきまでの100分の1にも満たない。旅に出た直後、オークヴィルにいたころぐらいの数字になっちゃった……。
レベル99だけあってレベル1のあたしよりは遥かに強い。森番だったころに比べればずっとマシな数字。
でも、後衛職のローズやエルサよりも力が弱く、前衛職のユーゴーよりも魔力が低い。ルクスや守護龍達とは比較にもならない。
ああ、どうしよう? どうすればいい?
ユーゴー達の強さはそう大きく変わってない。たとえアルの【接続】があったとしても、守護龍達と闘うのは厳しいよね……。
今は……再起を図るためにも逃げるしかない。
【アイテムボックス】は空になってるから、『大事な物』は次元の彼方に消えてしまったのだと思う。『大事な物』が無くなってしまったから、もう加護を身に着けることは出来ない。
でも、アルは【ジョブメニュー】も『大事な物』も無いのに最上位加護を手に入れてた。だったら、他にも加護を手に入れる方法もあるかもしれない。
「……終わった、な」
「ああ、もう、終わりだ」
なんて思っていたら、ユーゴーとアルがそんなことを口にした。
だめだよ。そんなこと言わないで。フラグが立ったら、イベントが起きちゃうんだよ? 諦めたらそこで試合終了なんだよ。
せっかく、せっかく、みんながあたしのことを蘇らせてくれたんだ。あたしはもう、ぜったいに諦めない。
「アル、今は逃げよう! 転移はまだ使えるんでしょ!?」
「え……? あ、ああ、転移は使えるけど……この人数は無理かな。魔力がずいぶん少なくなってるみたいだ。一度に飛べるのは2,3人が限度じゃないかな」
なんだか、場にそぐわない、落ち着いた声でアルがそう答えた。
え、なに? なんか緊張感が無くない? 今、大ピンチだよね? クライマックスっていうか……クエスト失敗だよねこれ?
あれ、なんかみんなも落ち着いてない? 敵にまわった守護龍が6体もいるんだよ? 満身創痍っぽいけどルクスもいるんだよ?
「ちょ、ちょっとなんでそんなボケっとしてんの!? 早く逃げなきゃ!」
――逃がさぬ
――貴様らはここで死ぬがいい
ひぅっ……。ヤバい、ルクスがばっちばちに殺意の魔力波動を飛ばしてきてる……。
どうしよどうしよ……あ、そうだ、龍脈の腕輪! あれをアイテムで使えば、みんなで一気に逃げられる! だれ、だれが持ってる!? あっ、ユーゴーが腕に着けてる!
「誰が逃げるものか」
と思ったら、アルが毅然と宣言した。
え、かっこい……って、そんな場合じゃないでしょ!
「ルクス、もう終わったんだよ。お前が終わらせてしまったんだ」
ん……なに? どゆこと?
――何を……
「人族の守護。それが女神への誓いだったんだろう?」
――それは我が眷族達の誓い
――我には……
「ああ。守護龍達の女神への誓いが『人族の守護』だ。それは、呪いとも言える。そう言っていたよな?」
アルが淡々と語る。その声はとても落ち着いていて……なぜだかとても悲しげだ。
「だから守護龍は誓いを守るために、時に祝福を与え、時に加護を与え人を導いた」
――それが何だと……
「その守護龍に、お前が命じたんだ。加護を『奪え』ってな」
わからない。アルは何が言いたいの?
何が『終わった』の? 何を『終わらせた』の?
「彼らが与えた加護を回収するだけなら『奪う』ことにはならなかったかもしれない。だが、俺の加護は彼らに与えられたものじゃない。アスカがくれたものなんだ」
――ま、まさか……
「そうだよ、ルクス。女神が人に与えた加護を、人族の守護者たる龍に奪わせたんだ。お前の命令で、守護龍は女神への誓いを破ってしまった」
そう言って、アルは地面に刺していた紅い剣を引き抜いた。
え、あれ、火龍の聖剣? あれってアザゼルに奪われたんじゃ……
「【転移】」
ふっ、と剣が消える。
「一思いに、楽にしてやってくれ」
「ああ、わかっている」
火龍イグニスの背後から不意にギルバードが現れた。その手には、輝く緋色の剣が握られている。
え、ギルいたの?
「【魔力撃】」
ギルバードが火龍イグニスの首に剣を振り下ろす。何の抵抗も無く剣が通り過ぎ、どさっと音を立ててイグニスの首が転がった。
「【覇撃】」
「【影縫】」
ギルバードを皮切りに、みんなが守護龍達に襲い掛かる。
ユーゴーが大槍で風龍ヴェントスの首を断ち、ジェシカが放った惣闇色の刃が冥龍ニグラードの胸を穿つ。
「貫け―――地龍の手甲」
「【聖槍】」
「【風刃】」
アリスの振るった拳が地龍ラピスの腹に大穴を開ける。ローズの放った光の槍が水龍インベルの頭蓋を貫通し、エルサの放った風の刃が天龍サンクタスを両断した。
「な、な……」
みんな、悲しそうに顔を歪め、瞳を潤ませて武具を振るっていた。守護龍達は抵抗することなく、その攻撃を受け入れていたように見えた。
――き、貴様らぁぁっ
「守護龍達は予想していたよ。傲慢な王は、自分を凌駕する存在を決して認めはしないだろうと。自分達に、与えた加護を奪えと命じるだろうって。でも、万が一、王が屈服し、人と敵対しないことを選んだのなら、また人と龍が共に生きる世界を受け入れて欲しいと望んでいた」
アルが激昂するルクスを無視して訥々と語る。
「女神は全ての人に一つだけ加護を与える。それは女神の子である龍であっても、触れてはならない神聖なもの。女神が与えた加護を奪うことは、女神への誓いを破ることだ。誓いを破った龍は、女神に与えられた権能を失う。…………守護龍達は『不滅』の権能を失った。もう、蘇ることは出来ない」
アルはルクスを真っ直ぐに見据えた。
「お前も『龍の守護』の誓いを裏切った。ルクス、お前はもはや『不滅』ではない」




