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騎士とJK  作者: ヨウ
終章 ワールド・オブ・テラ
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第459話 メニュー

 【接続(リンク)】。


 龍脈を通して指定した仲間に俺のステータス値を上乗せすることができるスキルだ。接続した仲間と以心伝心となり、連携を強化する効果もある。強力なスキルである反面、高い集中力と膨大な魔力消費が求められる扱いづらいスキルでもある。


 『整』(アジャスト)で魔力消費を抑えることもできるが、その場合は上乗せされるステータス値が激減してしまう。ステータス値の強化を求める場合は、人外級の魔力を持つ俺であっても短時間の発動維持が精いっぱいだ。


 上乗せする俺のステータス値を引き上げるために加護の『励起』を併行する場合、さらにその負担は倍増する。目の前の敵に注意を払いながらも、二つの加護に精神を集中させて励起し、龍脈を通して仲間と接続し……と二重三重の課題(タスク)を同時に処理しなければならないからだ。


 そのため、魔力消費を抑えた複数の仲間との長時間接続、もしくは通常の魔力消費で一人の仲間との短時間接続のどちらかを選ぶことになる。


「はぁっ!」


「むっ!?」


 ルクスの突進から放たれた剛腕を、斜めに構えた円盾で受け流す。


「【牙突(ブリッツ)】!」


「チィッ!」


 間髪入れず、体勢を崩したルクスに刺突を放つ。龍殺しの剣(ヴォーパルソード)の剣先が脇腹を掠り、僅かではあるが鮮血が飛び散る。


【風衝】(エアロショック)!」


「うがっ」


 大げさに身を捩って刺突を避けたルクスに、追撃の風魔法を仕掛ける。風の塊の衝撃を受け、ルクスの身体が宙を舞った。


「【破迅・影縫】!」


 決定的な隙を見逃さず、ジェシカが惣闇色の魔力光を帯びた千本を投擲する。ルクスが纏う魔力の鎧を剝がすことは出来ない。だが、状態異常効果をもたらす惣闇色の魔力光を纏わりつかせることには成功した。


「はぁっ!」


「くっ!?」


 ルクスの顔に困惑が浮かぶ。さっきまでいいように嬲られていた俺が、急にルクスの攻撃に対応するようになったうえに、反撃までしてきたのだから驚くのも無理はない。


 別に俺のステータス値が上がったわけじゃない。目で追うのもやっとなルクスの動きに、なんとか反応しているだけだ。


「【小鉄壁(タイニーウォール)】!」

 

「ぬぅっ!」


 ルクスの回し蹴りを半歩引いて躱し、続けて放たれた尻尾攻撃を速度重視で発動した小さな魔力盾を押し込む形で阻む。見え透いた攻撃だったため攻撃の起点を潰した形だ。


「【魔力撃(スラッシュ)】!」


「くぁっ!」


 龍殺しの剣の一振りがルクスの太腿を切り裂く。脚を刈り取るつもりで放った一撃だったが、さっき生えた翼で急旋廻し避けられてしまった。


 無茶苦茶な動きだ。さすがにこの動きは読めない。


 とは言え、少しずつダメージを積み重ねている。俺の剣は確かに届いている。


「【破迅・影縫】!」

「【二重・聖槍(ダブル・シャベリン)】!」


「このっ……!」


 ルクスは魔力障壁を展開し、ローズとジェシカの追撃を阻みつつ怒声を上げる。


「ふっ」


 俺はニヤリと笑いつつ【挑発(タウント)】を発動し、ルクスを煽る。ルクスの額に青筋が浮かんだ。


 正直に言えば、ほとんど余裕はない。ルクスの動きについていくのがやっとだ。


 積み重ねてきた戦闘経験からルクスの動きがある程度は読めるため、ほとんど勘で反応しているだけ。攻撃を受け流すだけでも耐えがたいほどの激痛が走っているが、無表情を貫いているだけだ。


 それでもルクスには、俺に余裕があるように見えているだろう。龍人形態になった後も対等以上に渡り合えているのだから。



 その秘訣はもちろんアスカとの【接続(リンク)】だ。


 今、アスカの目の前には透明な石板(ウィンドウ)が何枚も並んでいる。アスカはそれを鍵盤楽器でも演奏するかのように叩き、歌うようにスキルを発動し続けている。


「【ジョブメニュー】起動!【騎士(ナイト)】!」

「【導師(プリースト)】!」

「【魔道士(ウィザード)】!」

「【竜騎士(ドラゴンナイト)】!」


 ルクスの打撃を受け流す時には【騎士】に、魔法攻撃を受け止めるときには【導師】に、魔法を放つ時には【魔道士】に、そして剣を振る時には【竜騎士】に。その一瞬一瞬に最善の加護を、ジョブメニューで選択し続けているのだ。


 アスカの目ではルクスの攻撃を追うことは不可能だ。だが俺と接続していため、俺が次に何をしようとしているかはアスカに伝わっている。俺がしようとしている行動に合わせて加護を変えてくれているのだ。


 このおかげで俺は励起する加護の選択や切り替えに伴う精神集中から解放された。俺は次々に切り替わる加護に【暗殺者(アサシン)】の加護を『励起』するだけでいい。


 ルクスの動きについていくには、何よりも敏捷値(AGL)を高く保たなければならない。そのため、励起させる加護の片方は最も敏捷性の補正値が高い【暗殺者】の一択だ。もう一つの加護はアスカが選んでくれる。


 俺はルクスとの戦闘だけに集中する。思考を放棄しアスカに預ける。一発まともに当てられるだけで即死しそうなほどの攻撃が繰り出される戦闘において、このほんの少しの余裕はとても大きい。


「【アイテムメニュー】起動!『回復薬(ポーション)』!」

「『魔力回復薬(マジックポーション)』!

「『万能薬』!」


 さらに、【接続】することで、アスカは離れた位置にいる俺にアイテムを使うことが出来るようになった。これは想定していなかった効果で、嬉しい誤算だった。


 本来アスカのアイテムメニューはアスカの手元でしか発動できない。物を収納することも、取り出すことも、使うことも、アスカの手が届く範囲でしか行えないのだ。


 そのため離れた位置にいる仲間を回復したいときは、広範囲に効果が及ぶ『天龍薬(マルチポーション)』か『冥龍薬』マルチ・マジックポーションを使うしかなかった。しかし俺とアスカが接続した状況に限り、俺の手が届く範囲でもアイテムが使えたのだ。


「鬱陶しい!」


「ぐぅっ!!」


「『回復薬』!」


 この恩恵も大きい。ルクスの打撃は受け流すだけでも衝撃が身体の内部にまで響き、骨が軋みむ。だがそのダメージを、アスカがアイテムで即座に癒してくれる。


 これは俺が『演者』(キャラクター)で、アスカが『奏者(プレイヤー)』の関係だからだと、アスカは言っていた。いずれにせよ、俺にしか【接続】は使えないし、アスカにしか【メニュー】は使えないので、他で試しようがないのだが。


 それはさておき、ルクスにしてみれば何が起こっているのか意味がわからないだろう。自分よりはるかに力が劣るヤツが、攻撃を防ぎ、即座に回復し、反撃までしてくるのだから。



 だが、まだ先がある。もう一つ、手札を切らせてもらう!


「アスカッ!」


「うん! 『ブレイブポーション』!『タフネスポーション』!『テンションポーション』!『スピリッツポーション』!『クイックポーション』!」


 アスカが次々とアイテムを使用していく。全てステータスを一時的に強化する回復薬(ポーション)。材料は【火装(ブレイブ)】や【風装(クイック)】といった魔法を付与したCランク以上の魔石、薬草や魔茸など。魔人族の村に避難してもらった付与師のマイヤさんとアスカの合作だ。



 さて……強化は済んだ。そろそろ俺にターンを回してもらおうか、ルクス。




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