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騎士とJK  作者: ヨウ
第十章 永久凍土の名も無き村
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第447話 最後の晩餐

「まさか、ここまでとはな」


「ええ、予想以上ね」


 目の前に横たわる巨大な竜が黒い光の粒になって溶けるように消えていく。


 倒れ伏しているのは三対六枚の羽を持つ最強の竜種。『三つ首の魔犬(ケルベロス)』と同じURランクの魔物、海底迷宮85階層の階層主『竜王(バハムート)』だ。


「まさに瞬殺ね!!」


「すごいのです」


 今まで敵対した竜種の中では、体高約3メートル・体長約5メートルほどの地竜が最も大きかった。竜王はそれより一回りも二回りも大きく、しかも空を飛び回る敏捷性の高さまで兼ね備えていた。


 その最強の竜がSSランクの古代竜(エンシェントドラゴン)二体とともに現れたのだ。苦戦必至かと思われたが、なんと決着まで1分とかからなかった。ローズの言った通り、まさに瞬殺だ。


「1パーティでは攻略できない難易度って言ってなかったっけ?」


「そもそも50階層以上はレイドバトル前提の難易度だからね。80階層のワンコまでなら1パーティでもなんとかいけるけど、それ以上はレイドじゃないと厳しいって言われてたんだけど……」


「レイドってのは多人数で戦うことだったっけ?」


「私達はエースもいれれば8人よ? 多人数と言ってもいいんじゃないかしら?」


 あ、ふと思い出したけど海底迷宮の転移陣って6人までしか使えないって言われてなかったっけ。50階層以上は多人数前提だから6人を超えても使えるようになってるってことか? 実際にメンバー全員で来れてるわけだし、別にどうでもいいんだけど。


「うーん。二、三十人はいないと戦えないぐらいだったんだだけどなー。ワンコもバハムートもWOTの時より弱いって感じはしないし」


「それだけアスカの能力がすごいってことなのです!」


「確かに凄いわね……。これなら例え龍王が相手でも何とかなるんじゃないかしら」


「そうだな。希望は見えたと思う」


 URランクの魔物を瞬殺できた理由の一つとして、レベルが上がったこともあげられる。パーティ全員のレベルが90を超え、アリスにいたっては人が到達しうる最高のレベルだという99に到達した。


 とはいえパーティ全員の加護レベルは既に上限に達していたし、劇的にステータスが上昇したわけではない。三つ首の魔犬や竜王を圧倒できるほどの成長を遂げたとは言えない。 


 真の理由はアスカの能力と発想だ。それによって俺達の戦術は劇的に変化したのだ。


「『プレイヤー』と『プレイヤーキャラクター』か……」


「アスカとあなたの絆の強さ、とも言い換えられるんじゃないかしら」


 そうなんだろうな。やはり俺とアスカの出会いは、正しく運命だったのだろう。


 この世界の元となった『偽りの世界(ワールド・オブ・テラ)』を知るアスカがこの世界に喚ばれたことも、俺が【森番】という特殊な加護を授けられて始まりの森にいたことも、龍王ルクスを打倒するために女神が仕組んだことだったのだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「かんぱーい!」


「乾杯!!」


 アスカの音頭に答えて、皆が声を合わせて杯を掲げる。


「ついに決戦ね」


「ああ。今やれることはやりきった。あとは全力で挑むだけだな」


 王都の大聖堂の地下に安置されている火龍イグニスの魔晶石が持つ魔力は、先日の謁見からちょうど5日目には無くなると予測されていた。


 あれから既に4日が経過している。おそらく明日、王都を包む紅い魔法障壁『守護龍の守り』は消失するだろう。

 

 そして、想定では地竜や風竜の群れも明日には王都にたどり着く。たぶん火竜と水竜も同時に押し寄せてくるだろう。


 つまり、今日は決戦の前夜だ。


 せっかくなので魔人族の村に戻り、村人や避難させた友人達との宴席を催すことにした。テーブルの上には俺達が提供した火竜肉の料理やワイン樽、米の酒樽なんかが並んでいる。最後の晩餐ってわけだ。


「兄貴!」


「アルさん!」


「うん?」


 駆け寄ってきたのはダミー、メルヒ、クラーラの3人。鉱山都市レリダからアザゼルが連れてきてくれた孤児院リーフハウスの冒険者パーティだ。


「頼む! 俺達も連れてってくれ!」


「お願いです!」


「いや、だからダメだって言っただろ。いくらなんでも危険すぎる」


 彼らから何度も王都の決戦に連れて行けと頼まれていた。そのたびに連れて行かないと言ってるのに、いっこうに引き下がらないのだ。


「俺達だってあれから強くなったんだ。今なら地竜相手だって楽勝だ」


「お、お願いします、アルフレッドさん。い、今こそ御恩を返す時なんです」


 この3人に竜種と十分に戦えるほどの実力があるのはわかってる。俺達に報いたいという想いもわかる。


 でも、今回は相手が悪い。2千を超える竜がやってくるんだ。せっかく拾った命を無駄にして欲しくない。


「我らも連れて行ってもらおうか、アルフレッド殿」


「ジオット族長……イレーネまで」


「私はもう族長ではない。一人の鍛冶師としてセントルイス王国からの恩を返したいのだ」


「……何のために貴方達を助けたと思ってるんですか。アリスが心置きなく戦いに臨めるように、この地にお連れしたんですよ」


「お姉ちゃんが戦うのに、私達だけ隠れていることなんて出来ません!」


「はぁ……アリス、何とか言ってくれよ」


 頑固すぎる土人(ドワーフ)達を俺だけでは説得できない。そう思って助けを求めるもアリスは溜息をついて首を横に振った。


「父様もイレーネも、一度決めたことは変えないのです。説得は無理なのです」


「おいおい……」


「それに、父様とイレーネ、クラーラ達の気持ちもわかるのです。アリスたちの故郷はルクスに壊されてしまったのです」


 それを言われると、何も言い返せない。俺だって、もしチェスターがルクスに滅ぼされていたら、何を置いても復讐しようとするだろう。


「ガリシア自治区はもう終わってしまったのです。王都クレイトンを守れなかったら、人族の歴史は終わってしまうのです」


「我が一族の悲願は既に叶った。後はこの老骨の命を賭して、龍王に一矢報いるのみ」


「お姉ちゃんみたいに戦う力はないですけど、武具を整備したり強化したりすることはできます。お手伝いできることはたくさんあるはずです」


 ジオット族長とイレーネが射貫くような目で俺を見据える。ああ、これはもう何を言っても無駄だな。


「わかりました……。ですが約束してください。アリスのためにも必ず生き残ると。ダミー、お前たちもだ」


「ああ」


「おう!」


 出来れば非戦闘系の加護持ちのうえに、レベルもさほど高くないイレーネだけでも残ってもらいたいのだが……仕方がないか。アリスの希望があったとはいえ、ジオット族長やイレーネと従者達は俺達が問答無用で連れ出したのだ。ここに残ってもらいたいというのは俺達の願いの押し付けでしかないもんな……。


「さてと……」


 ジオット族長達は、話は終わったと言わんばかりに酒をがぶがぶと飲みはじめたので、俺は席を離れる。俺も仲間と一緒に軽く飲もうと辺りを見回した。


 エルサはジェシカの母ヴィクトリアと談笑しているようだ。二人は年が近いらしく、何かと気が合うらしい。この村を出たことがないヴィクトリアが外の世界の話を聞きたがり、エルサが答えるというのが二人のいつものやり取りみたいだ。


 ジェシカとローズは、村人たちと食事を楽しんでいる。食べているのは薄切りにした竜肉にショウユ・ミリン・ミソ・蜂蜜を合わせたタレを絡めて焼く『竜カルビ』というアスカ考案の料理だ。この村で採掘できる火晶石を板状に加工した『ホットプレート』というアスカ発案・付与師マイヤさん製作の万能調理器具で料理しながら食べているみたいだ。


 ユーゴーは、少し離れたところでアスカと二人で話し込んでいた。二人の姿を見て、胸がきゅっと締め付けられるような感覚を覚える。


 『ユーゴーのこと、受け入れてあげたら?』


 アスカの声が脳裏に響く。


 あの後、アスカがニホンに帰ってしまうということを受け入れきれなくて、ちゃんと話をすることが出来ていない。


 今日は、最後の晩餐なんだ。悔いることが無いよう、話しておかないとな……。




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