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騎士とJK  作者: ヨウ
第二章 城下町チェスター
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第43話 続続・テンプレ展開

 酒場に入るなり、俺たちの方に向かってきたのはダリオとカミルの二人。事あるごとに俺に絡んでくる面倒な相手だ。つい先日は、クレアの目の前で痛めつけられ悔しい思いをさせられた。


 好んで付き合っていたわけでは決して無いのだが、こいつらは幼少のころからの顔見知りでもある。聖ルクス教会の日曜学校で毎週のように顔を合わせていたのだ。


 日曜学校。その名の通り毎週日曜日に聖ルクス教の司祭やシスターの奉仕活動の一環として行われる、成人前の子供を対象とした学校だ。このチェスターに住む子供たちは、身分に関わらず参加することが推奨されている。


 日曜学校では、文字の読み書きや算術、聖ルクス教の神話や歴史を教えてくれる。世界中でこの取り組みは行われており『世の人々が同じ言葉で語り合い、争いを避けることができるように』と神龍ルクスが望んだことから始まった習慣だと言われている。


 学校とは言っても週に一度だけで、しかも数時間しか開催されないため、本人が相当な努力しない限りは読み書きや算術を身に着けることは難しい。学問を教えるためと言うよりは一般常識や社会性を身に着けさせて、信仰心を高めることを目的としているようだ。


「よお、アル。てめえのしけた面は、あと半年は見なくて済むと思ってたんだがなぁ」


「【森番】のアルフレッド様が、こんな下町に何しに来たんだ?」


「…………」


 俺が通っていた日曜学校は貴族街を受け持つ教会だった。数百人の子供たちが集まっていて、6から8歳は年少クラス、9から11歳は年中クラス、12から14歳は年長クラスと大雑把に分けられていた。アリンガム商会のクレアとはそこで知り合い、今でも仲良くしてくれている。


 ダリオとカミルとは同じ年齢だったこともあり、日曜学校を卒業するまでずっと一緒だった。確かこの町の武具商会だか高級旅館だかの次男坊か三男坊とかだったはずだ。


 こいつらは子供のころから度々ケンカや揉め事を起こす鼻つまみ者だった。ちょっと気に食わないことがあると、すぐに暴力で解決しようとして毎週のように揉め事を起こし、そのたびに俺が場の仲裁に入っていた。


 日曜学校は求めるものに学びの場を与えることを目的としているから、出自や身分によって区別することは禁じられてはいた。だがそうは言っても領主の息子相手に、他の子供と同じように暴力で解決するというわけにはいかない。俺が来ると振り上げた手を下ろさざるを得なかったため、不満をため込んでいたのだろう。


 そして、俺が【森番】となりウェイクリング家を出てからは、その態度は一変した。何かにつけて絡んできては、子供のころからのうっぷんを晴らすかのように暴力を振るってきたのだ。


 【森番】の俺では【喧嘩屋(フーリガン)】のダリオや【盗賊(シーフ)】のカミルに敵うはずもない。残念ながら、いいようにやられてしまっていた。


「なに無視してんだ、アル? また痛い目にあいてえのか?」


「それより、ダリオ! アルが連れてる子、超かわいいぜ!?」


 こいつらの起こす面倒はいつもこういうのだったんだよなぁ。この間のクレアの時もそうだったが、気に入っている子にちょっかいを出して気を引こうとしたり、いいところを見せようとしたりして、上手くいかなくて癇癪を起すのだ。


「アスカ、出よう。口に合わないんだろう? 食事は宿に戻って取り直そう」


「……そうだね。行こっか」


 俺たちは席を立とうとすると、ダリオが近くにあった椅子を派手に蹴飛ばした。


「無視してんじゃねえって言っただろ?」


「おいおい、アル? ダリオを怒らせんなよ。頼りの騎士様はここにはいないんだぜ? この前みたいに助けは入らないぞ?」


 そう言って出口に向かおうとした俺たちの前に立ちふさがる。周囲にいる人たちは、関わり合いになるのを避けるように背を向けてこちらを見ないようにしている。


「はぁ……ダリオ、カミル。俺たちは忙しいんだ。そこを通してくれ」


 二人は一瞬きょとんとした顔をして、次の瞬間には顔を真っ赤にして憤怒の形相を見せた。


「あぁん!??」


「あー残念。土下座して謝れば許してあげてもよかったのに。アル君、死亡決定!」


 相変わらず沸点が低いな……。揉め事は起こしたくなかったけど、こうなっては仕方がない。こんな場所じゃ逃げ回ることも出来ないし、アスカを守らなきゃいけないしな。


 俺は盾をアスカに手渡して、拳を固く握りしめてアスカを背にして前に出た。


「やるつもりかよ、【森番】風情が。なめやがって……!!」


「安心してお寝んねなしてな、アル。連れの子は俺らがたっぷり可愛がってやるからさぁ」


 ダリオが憤り、カミルはニヤニヤと下卑た笑いを浮かべる。本当にこいつらは子供のころからまったく成長をしていないな……。ついこの間まで、森で腐っていた俺が言えることじゃないけど。


「らあっ!!」


 ダリオが真正面から何のひねりも無い右ストレートを放ってくる。速さも大したことないし、力もたぶんデール以下だな。まあ、真面目な冒険者をやってるデールがこいつに劣るわけもないか。


 俺は右拳を十分に引き付けてから身を躱し、ダリオの顎めがけて左拳を放つ。【盗賊】修得にまで至った今の俺なら、的確に急所への一撃を入れることも簡単にできる。


 ゴッ!


 俺の左拳は顎の先端に当たり、ダリオは糸の切れた人形のように倒れこんだ。へえ、顎をかすめるように殴ると意識を刈り取れるとは教わったけど、こんなにも見事に失神させることが出来るんだな。しかし思った以上に大きな音がした。ひょっとして、ダリオの顎、砕けちゃったんじゃないのか?


「アルてめえっ! 何をしやがった!!」


 えっ? 【盗賊】のお前がわからなかったのか? エマならこのぐらいの攻撃、当たり前のように見切ったと思うけど……。


 カミルは腰にぶら下げていたダガーに手を伸ばす。ああ、抜こうとしなければ、許してあげてもよかったのに。


 俺は一気に踏み込み顔面を殴り飛ばす。壁に衝突したカミルはダガーから手を放してしまう。俺は転がったダガーを蹴り飛ばしつつ、さらに詰め寄って鳩尾に前蹴りをめり込ませる。カミルは壁をこするようにずるずると崩れ落ち、倒れこんだ。


「ふあー。あっという間ね」


「特訓の成果だな。速さは同じでも、拳に乗る力が段違いだ」


【剣闘士】(グラディエーター)も修得目前だもんね」


 さてと……店の中で派手に立ち回ってしまったな。できるだけ周りの迷惑にならないようにしようとしたけど、ダリオが倒れこんだ時に机と椅子を壊してるし、カミルを弾き飛ばした時に板張りの壁材に穴が開いてしまっている。


 恐る恐る店内を振り返ると、背を向けていた客たちと店員がこちらを見ていた。どうしたものかと思っていたら、一斉に拍手が巻き起こった。


「すげえ! よくやってくれたな兄ちゃん!」


「話が聞こえたけど【森番】のアルフレッド……様なのか!?」


「スッキリしたぜ! あいつらには迷惑してたんだ!!」


 口々に俺たちをほめたたえる言葉を投げかけてきた。こいつら……ほんとに迷惑ばかりかけてたんだな……。


「あの、店主はあなたですね? 壊したテーブルと壁を弁償します。申し訳ありませんでした」


「謝らないでくれよ!! あんたが悪いんじゃない! あいつらはしょっちゅう揉め事を起こすからほとほと困り果ててたんだ。胸がスッとしたぜ!!」


「そうは言っても……壊してしまったのですから」


「じゃあ、これから払うってのはどう?」


 割り込んできたアスカを見ると、革袋をふたつぶら下げていた。アスカは中から大銀貨を1枚取り出す。


「はい。テーブルセットと壁の修理代で大銀貨1枚ってところでどう?」


「ふふっ、あいつらの金か。やるねえ嬢ちゃん。十分だ。釣りが出らぁ」


 あーなるほど。あいつらの財布を奪ったのか。そう思ってダリオ達を見ると、文字通り身ぐるみをはがされていた。


 先ほどまで、手甲を拳にはめて鉄製の胸当てをつけていたダリオと、ベスト型の皮鎧を着込んでいたカミルは、いつのまにか薄汚れた布の服しか着ていない。蹴り飛ばしたダガーも鞘もいつの間にか消え失せている。


「容赦無いな……」


「当り前だよー。襲い掛かってきた盗賊の所持品は、討伐者のモノってのがRPGの鉄則でしょ?」


「いや、こいつらは冒険者で、盗賊ってわけじゃ……」


 アスカはにやりと笑って、店主と何事かを囁きあう。二人とも口角を吊り上げ、まさに悪だくみといった顔をしている。するとアスカは持っていたダリオとカミルの財布を店主に手渡した。中身を確認した店主は、こくんと頷いてニヤリと笑った。


「あーお客さんたち。迷惑に巻き込んじまった侘びに、今日の代金はタダでいい!」


「おおーっ!!」

「面白いもん見れた上にタダ飯でいいのかよ!」


 店主の思いがけない話に客席に歓声が沸き起こり、客たちが一斉に拍手を鳴らした。


「それで、だ。今日、ここで見たことを忘れてくれるって言うなら、今日はあんたらに好きなだけ飲み食いさせてやる。どうだ!?」


「おおーーーっ!!!」

「いいぞ、乗った!!!」

「よっしゃー飲むぞ!!!!」


 ……現金だな、こいつらも。さっきまで巻き込まれないように背を向けて黙っていたのに。


 でも、余計な面倒ごとに巻き込まれるよりはいいか。喧嘩沙汰を起こして、相手の装備やら財布やらを巻き上げてるわけだし。


「あんたらも、飲みな! さっきの料理は隣の宿から大した金をもらってないからショボいもんしか出せなかったんだ! 旨いもんたらふく食わしてやるよ!!」


 そう言って店主は俺たちを無理矢理座らせた。店主はダリオとカミルを店の裏口から外に放り投げてから、なみなみとエールの入ったジョッキを二つ持ってきてくれた。


 うーん。今日は飲まないつもりだったんだけど……まいっか。




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