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騎士とJK  作者: ヨウ
第十章 永久凍土の名も無き村
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第444話 命名

「女神は自身の微細な欠片を世界中に行き渡らせ、スキルと魔法を与えた……」


「神授鉱はどんな物とも結びつくことが出来て、想いに応えて特性を変化させることが出来るのです」


「神授鉱の欠片が人の想いに応える。そうか、魔力……というか身体に取り込んだ魔素――神授鉱の欠片を魔法やスキルに変化させている、ということか」


「だと思うのです。でも……魔素が神授鉱の欠片だとしたら、人体に悪い影響が出そうなのです。鉱山で鉱物の粉塵を吸い込み過ぎると病気になるのです」


「粉塵よりもはるかに微細な欠片だから影響がない……とか? いや、そもそも人は神授鉱と有機物?というモノが結びついて生まれたんだろ? だとしたら、神授鉱を吸い込んでも影響は無いんじゃないか?」


「元から人体を構成する要素だから問題ない……のです?」


「神授鉱の欠片――魔素を全く吸収できなくても、逆に吸収し過ぎても影響があるわ。ほら、魔力欠乏症と魔力過剰症がその例よ」


「あ、そうか。なるほど、そういうことか……」


「ねぇー」


 アスカを放置して話し込んでいたら、ぷくっと頬を膨らました。


「ネーミング大会はー?」


 あ、ごめんごめん。つい……な?


 剣の名前も大事なんだけど、魔素についての理解を深めることも大事だからさ。スキルや魔法の強化に直結しそうだし。


 しかし、そうか……。


 イメージを明確に描くとスキルや魔法の威力や効果が向上する。では何故、明確なイメージを描くと強化されるのか。その答えが、『魔素=微細な神授鉱の欠片』ということなんだ。


 この大地に、流れる水に、全ての生命の中に。あらゆる所に魔素は巡っている。その魔素が想いに応えてくれるから魔法やスキルといった超常的な現象が起きる。だから、想いが強ければ、スキルや魔法の威力や効果も強くなるってわけだ。


「ねぇー」


「はいはい。そうね、剣の名前ね」


 暫定で『無銘の剣』と呼んでいたが、さてどうしたものか。


 武具の名前は特に思い入れが無ければ、『鉄の剣(アイアンソード)』とか『白銀の剣(ミスリルソード)』みたいに素材の名前で呼ぶことが多い。だとしたら神授鉱製だから『神授の剣』かな?


 ちなみに前に使っていたギルバードから奪った白銀の剣は、『ウェイクリング』と銘打たれていた。俺は特に思い入れのある剣でも無かったから『白銀の剣』と呼んでいたが、正式には『騎士剣ウェイクリング』といったところか?


「ウェイクリングの剣はどう!?」


 そんな事を考えたらローズが無邪気に提案した。テーブルの上に置いた無銘の剣の刻印を見て、思いついたままに言ったのだろう。


 白銀の剣を模倣して作ったため、無銘の剣は白銀の剣とほぼ同じ造りになっている。(ガード)の意匠も、柄頭に刻まれたウェイクリング家の紋章も同じ。


 確かに見た目だけは『ウェイクリングの剣』なんだが……


「良いと思う」


 反対しようと思ったらユーゴーが賛成した。たぶん俺の名前が入ってるからだろう。気持ちは嬉しい。


「いや、それじゃあウェイクリング家の所有物みたいじゃないか」


「そうね。もともと素材はガリシア家が先祖代々受け継いできたものだし、ガリシア家の血統を継ぐアリスが作った剣なのよ? むしろガリシア家に所有権があると言えるのではないかしら」


 俺がやんわりと反対すると、エルサが同意する。


「なら、ガリシアの剣ね!」


 ローズ、単純すぎないか? ウェイクリングの剣よりは良いと思うけどさ。この剣の製造に我が家は全く関わってないわけだし。


「ガリシア家は神授鉱から武具を創ることを願っていたのであって、所有を望んでいたわけではないのです。【鍛冶師】の家系に神授鉱の武具は活かせないのです。剣の所有者や家門の名前を付けるのが一般的なのです」


 ふむ。武具に製作者の名が彫られることはあっても、その武具まで製作者の名前になるわけじゃないってことか。


 俺とユーゴーの革鎧には製作者であるヘルマンさんの刻印がされているが、『ヘルマンの革鎧』とは呼ばないものな。別にそう呼んでも構わないけど。


 そう言えば、アスカの装備メニューでは『滅竜の革鎧』って表記されてたな。なぜ滅竜なんて名前になったのかはわからんが、以前は『地竜の鱗鎧』って名前だったから素材の名前なのだろうけど。


 元々は牛革の鎧に上級竜を含めた竜種素材をこれでもかと注ぎ込んだら『滅竜の革鎧』なんて名前になった。滅竜なんて名前の竜はいないと思うので、素材名には何らかの法則があるんだろう。今度アリスに聞いてみよう。


「俺の剣ってわけじゃないしウェイクリングの名を付けるのはちょっとな……。やっぱり、素材から名前をとって『神授の剣(オリハルコン・ソード)』で良いんじゃないか?」


「製作者の名前をもらって『アリスの剣』なんてのも良いわね」


「うぇぇ!? そ、それは畏れ多いのです!」


 俺達のやり取りを聞いていたアスカが溜息をつく。


「ねー、皆さ、大前提を忘れてない? 想いを名前に乗せなきゃダメなんだよ? 名付けで強化したいんだからさ」


「あ、そっか」

 

「それなら無敵の剣なんてどう!?」


 単純だな……ローズ。


 うーん、でも名付けが強化に繋がるなら、単純な方が良いのか?


「無敵って、どういうイメージ?」


「とにかく強いのよ!」


 あ、そうか。二重詠唱と同じなら、具体的なイメージが描けないといけないのか。


 『神様から授かった、ありとあらゆる邪悪や災厄を祓う力がある盾』という具体的なイメージがあるから【光の盾・鉄壁(シールドオブアイギス)】は強化された。


 無敵……言葉は強いけど、具体的なイメージはイマイチ湧かないな。


「それなら……アザゼルが言っていた『龍殺しの剣(ドラゴン・スレイヤー)』が良いと思うの」


「む……」


 ジェシカの案にエルサが不服そうな表情を浮かべる。だが、良い案だとは思っている様で反対はしなかった。


「龍殺し……かぁ。ねぇ、『龍を殺す』ってイメージって出来る?」


「それは……」


 この剣でいくら斬りつけてもルクスには傷一つ負わせられなかった。【重ね・魔力撃(フラガラッハ)】でルクスの腕を斬れはしたが、あの時は魔素崩壊が直撃した直後で満身創痍になっていたからだろうしな……。


 ヤツを斬り裂ける明確なイメージか。難しいな。


「神龍ルクスを凌駕する怪物、化け物、神様。そんな伝説とか神話とかから貰っても良いよね」


「そんな伝説なんて思い当たらないな。敢えて言うなら女神(テラ)か?」


「女神、大地が龍を殺す……。うーん、イメージ湧かないわね」


「だよなぁ」


 俺達はずっと『龍』を信仰してきたんだ。そう簡単に『龍殺し』ってイメージは湧かない。『女神の眷族』だの『神の使い』だの言われても、馴染みのある存在じゃ無いし……。


「それなら二重詠唱と同じように、アスカの世界の神話から名前をもらえばいいと思うのです」


「そうね。何か良い名前はあるかしら?」


「え、あたしが決めるの? うーん……地球の(・・・)神話ねぇ。んー、ベイオウルフ……いや火竜を倒した英雄だしイマイチか。ならスサノオとか……火竜よりは強いけど多頭竜(ヤマタノオロチ)だから役不足か……」


 アスカがぶつぶつと呟きながらうんうんと唸る。


 しかし……チキュウには竜殺しの伝説がそんなにあるのか。ニホン、いやチキュウはやっぱりすごいな。竜殺しの伝説がたくさんあるってことは、たくさんの竜や魔物が跋扈する人外魔境ってことだ。そんな世界を生き抜く戦士達に、尊敬の念を禁じ得ない。


「アリスの作った剣……龍殺し……化け物……あっ、そうだ!」


「良い名前が思いついたの?」


 ぱん、と両手を合わせたアスカにエルサが問う。


「うん。地球のイングランドって国の物語でね、無敵の怪物の話があるの。喰らいつく(アギト)、引き裂く鉤爪、爛々と燃える(まなこ)……そんな無敵の怪物を倒した名も無き青年の物語。その物語はアリスって名前の美少女に贈られたの」


「おおっ!」


「ふぁっ! アリスなのです!?」 


 すごい。ピッタリじゃないか。


 名も無き青年が無敵の怪物に打ち克ち、その勝利は美少女アリスに贈られた。


 俺達の状況とも符合する。イメージも描き易い。


「鋭い牙と鉤爪、蝙蝠のような羽を持つ龍として描かれる怪物の名はジャバウォック! 怪物を倒した名も無き青年が手にしていた龍を斬り裂いた剣、その名は『ヴォーパル・ソード』!」


 神授鉱で創られた『龍殺しの剣(ヴォーパルソード)』。


 怪物(ルクス)を倒し、その名誉を製作者である錬金術師アリスに捧げるってわけだ。


 良いじゃないか。決定だ!




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