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騎士とJK  作者: ヨウ
第十章 永久凍土の名も無き村
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第439話 目覚め

「そうか……あの化け物は討てなかったか」


「はい、陛下。遺憾ながら作戦は失敗しました」


 混乱に巻き込まれる前に王都から離れるつもりでいたが、ルクスを討ち漏らしてしまったのだから、事の経緯を説明しないわけにもいかない。ヘンリーさんに伝えに行ったところ、陛下に直接報告しろと言われて俺とエルサは王宮に連行された。緊急事態だからか、ほとんど待たされることなく執務室に通され、陛下にエルゼム闘技場で起こったことを話したところだ。


「信じられんな。大地の果てまで抉り取るほどの大魔法だというのに」


「あの極大魔法をもってしても倒すことが出来ないなんて。半信半疑だったのですが、本当に神龍ルクスなのですね……」


 カーティス陛下が深いため息をつき、マーカス王子殿下が頭を抱えて項垂れた。


 信仰の対象だった神龍ルクスが聖都や各国の首都を滅ぼし、最後の大国である王都クレイトンを襲う。そんな話を聞かされて、そのまま信じられる者などいない。


 火の雨が降り、紅の魔法障壁が王都全体を包むという異常事態が起きていたから、半信半疑ながらも襲撃に備えてくれたのだ。有角有翼の化け物がまたやって来るとは思ってはいても、それが神龍ルクスだとは信じていなかっただろう。


 だが、その化け物は竜の大軍を引き連れて王都を襲い、10キロ四方もの大穴を大地に穿つほどの極大魔法が直撃しても倒せなかった。そんな化け物がただの魔物であるはずがない。


 『神』と謳われる存在と認めざるを得ない。陛下と殿下は、その現実に打ちのめされているのだ。


「アルフレッド。神龍、いや龍王ルクスは、再びクレイトンを襲うと思うか」


「はい。奴は必ず、再び王都に現れるでしょう」


「そう……か」


 威風堂々とした貫禄と余裕があり、それでいて茶目っ気もある普段の様子はどこにもない。あの極大魔法でも倒せなかったルクスが再び王都を襲う。その未来に絶望し、カーティス陛下は諦観に吞まれかけている。


 ……俺と同じように。


「いつになると思う?」


「わかりません。ルクスも深手を負っていましたので、数日の猶予はあろうかと思いますが……」


「数日、か」


「守護龍イグニスの守りは、あと7日はもつと思われます。その間は、ルクスも攻めて来ないかもしれません。あくまで希望的観測ですが」


 俺がヤツなら魔法障壁が消えるまで待ってから襲うだろうな。


 いや、障壁を素通りできる竜の群れをけしかけて、自分は高みの見物を気取るかも知れない。昨日、火竜の群れは蹴散らした。あれで打ち止めならいいのだが……そんなことは無いだろうな。今度は風竜やら水竜の群れを連れてくるかもしれない。


「そ、そうだ。あの極大魔法は三柱の守護龍の魔晶石を使ったということだったな」


 同席していた親衛隊長のエドマンドさんが、縋るような目で俺を見る。


「ええ」


「なら世界には、まだ三柱の魔晶石が残っている。それを使えばルクスを討つことだって可能なのではないか?」


「あの魔法陣は魔王アザゼルと神子ラヴィニアが描き上げたものです。エルゼム闘技場の地下を使うほどの巨大な魔法陣を描ける方が、王都にいるのでしょうか?」


「それは……」


「アレは『魔素崩壊の魔法陣』というものだそうです」


「そうか。一応は当たってみよう」


 神人族の研究者ならあるいは知っているかもしれない。失敗した作戦が通用するとは思えないが、全く希望が無いよりはいいだろう。


 こんなことならアザゼルから教わっておけば良かったな。いや、この短い時間で覚えるのは無理か。あの複雑な紋様とびっしりと書き込まれた古代エルフ文字を習得できるとは思えない。


「これからどうすればいい」 


 陛下が嘆くように、俺に問いかけた。そんなこと聞かれても、俺には答えようがない。いや、望まれている答えは返せない……か。


「正直申し上げて、私にはもうどうすることも出来ません。あの極大魔法でも殺せなかったのです。我々がどんな魔法攻撃をしかけても通用しないでしょう。近接戦闘なら僅かに勝機があるかも知れませんが、空に逃げられて魔法攻撃を繰り返されたら対処のしようがありません。私は従魔の力を借りて空の上でも戦いを挑むことは出来ますが……一対一では万が一にも勝ち目は無いでしょう」


 地上の戦いでも全く歯が立たず、時間稼ぎで精一杯だった。エースに乗れば空の上でも戦いを挑むことは出来るが、相手は自由に空を動き回れる。慣れない騎乗、しかも空中での戦闘で勝ち目があるとも思えない。


「打つ手なし、か」


「王都からの避難を具申します。もはや地上に安全な場所はありませんが、分散すれば全滅だけは避けられるでしょう」


 10万もの人が住む王都はルクスからすれば良い的だろう。出来るだけ早く王都の住民達を避難させた方が良い。王都に留まっても、死を待つだけだ。


「アルフレッド、お前たちはどうするつもりだ?」


「いったん魔人族の村に戻るつもりです。その後の事は……これから考えます」


「そうか。民の避難にしても王都の防衛にしても、お前達の助力を仰ぎたい。いつ、王都に戻って来れる?」


「そうですね……2,3日後には一度ギルドに顔を出します」


「わかった。ヘンリー、指名依頼を出しておいてくれ」


「御意」


 報告が終わり、俺達は王城を出て中心街の冒険者ギルド前で待っていたユーゴー達と合流する。


 冒険者ギルドは大通りに面しているのだが、戒厳令下ということもあり人通りは少ない。兵士や冒険者達だけは慌ただしく行き来していた。


「じゃあまたな。3日後までには必ず顔を出せよ」


「はい。本当にセシリーさんのことはいいんですね?」


「ああ。あいつも成人済みの立派な大人だからな。オークヴィルに残ると言うなら、無理に避難しろとは言えんさ。親としちゃあ、お前達について行ってもらいたいところなんだがな」


 今後、世界がどうなっていくかわからない。チェスターやオークヴィルだってルクスに狙われるかもしれない。


 魔人族の村に連れて行けば、少なくとも安全に生きることだけは出来る。そう思ってセシリーを連れて行こうかとヘンリーさんに提案していたのだが、本人はオークヴィルの復興のために離れるつもりは無いのだという。


「そうだ、アルフレッド。セシリーをもらってくれ。そしたらアイツもお前について行くだろうしよ」


「ええ? いや、今そんな話をしている場合じゃ」


「なんだぁ? 俺の娘じゃ不服だってのかぁ?」


「……二回目ですよこのやり取り」


 セシリーさんを連れて行けばアスカも喜ぶと思うんだけど……もらうなんて話をして連れて行ったら逆鱗に触れるな。間違いなく。


「では、3日後までには一度戻ります」


 王都民の避難、もしくは王都防衛の手伝いか……。そこらの魔物相手なら力になれるのだが、ルクス相手ともなると俺に何かできる事だあるのだろうか。


 そんなことを考えながら、俺は【転移】を発動した。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ジェシカ!」


「ユーゴー!」


 魔人族の村に到着するや否や、ヴィクトリアとユールがそれぞれの娘に飛びつくように抱き着いた。


「ただいま」


「母上、只今戻りました」


 ヴィクトリアは大粒の涙をぽろぽろと零してジェシカを抱きしめた。


 ジェシカはアザゼルの代わりに魔法陣を発動させるとまで言っていたからな。自らの身をかえりみない娘のことが、心配でならなかったのだろう。


 今さらだが、ヴィクトリアがジェシカの母だということは、あのロッシュの妻なんだよな。俺が亡き夫の仇だと知りながら、もてなしてくれていたのだろうか……。折を見て、きちんと話をすべきかもしれない。


「おかえり、アル」


 聞きなれた声が聞こえ、はっと振り向く。少し痩せて顔がやつれているけれど、いつもの人懐っこい微笑を浮かべた少女が、ジェシカの横穴から歩み出て来た。


「アスカッ!!」


 たまらずに駆け寄り、抱きしめる。


「良かった! 目を覚ましてたんだな!? 体調はどうだ? 気分は悪くないか!?」


「あ、あはは、だいじょうぶ、大丈夫だってアル。ごめんね、心配かけたね」


 そう言ってアスカがぎゅっと抱きしめ返してくれる。そしてポンポンと俺の背中をたたいてから身体を離した。


「おかえり、皆。遅くなってゴメンね。王都でのことは、見てたよ。作戦は失敗しちゃったけど、皆が無事で良かった」


 アスカの言葉に皆一様に目を見開く。


 王都でのことを見ていた? 作戦失敗のことはまだ誰も口に出してなかったよな?


 呆気にとられた俺達にアスカは言葉を続ける。


「話さなきゃいけないこと、たくさんあるんだ。それこそ、この世界の成り立ちからね」


 そう言って、少し寂し気に微笑んだ。




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― 新着の感想 ―
[一言] なんだかこれからアスカと切ない別れが待っている気がする。
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