第438話 戦いの終わり
信じられない。まさか……まさか、生き延びているなんて。10キロ四方の悉くを文字通り消し飛ばし、大地に大穴を開けた極大魔法が直撃したんだぞ!?
3つの守護龍の魔晶石を使って威力を相乗させた極大魔法『魔素崩壊』。あれは一度きりの大博打みたいな作戦だったんだ。もう、同じ手は使えないというのに。
それに、足が千切れ、肚は抉れ、頭は四半分ほども陥没している。あれだけの重傷を負っているのに、なぜ死なない!?
いや……違う。ルクスも無事では済まなかったんだ。満身創痍なのは間違いない。
そうだ。この場を凌がれたら俺達人族にもう打つ手はないんだ。ここでトドメを刺すんだ。ここを逃すと、二度とルクスを倒す機会はやって来ない。
何よりも……命を賭して神に抗った魔人達を、無駄死にになんてさせはしない!
「【岩槍・爆炎】!」
圧縮した第三位階の火魔法【爆炎】を内部に仕込んだ、第四位階の地魔法【岩槍】。アスカが命名した『貫く爆弾』を意味する二重詠唱魔法を撃つ。
ズガァンッ!!
火竜ごと貫くつもりで放った槍は、魔法障壁に弾かれて爆発四散する。くそっ、気づかれていたか!
「追いかけるぞ、エースッ!!」
「ブルルゥッ!!」
エースが半透明の白い翼を大きく広げて空を駆る。俺は左手でエースのたてがみを掴み、右手で抜き放った無銘の剣に【魔力撃】を纏わせる。バチバチと放電のような火花を散らし、剣身が蒼い魔力光を放った。
「キ、キサまァァッ! なゼ生キテいルッ!?」
「それはこっちのセリフだ!」
俺も魔素崩壊に巻き込まれて死んだものと思っていたのだろう。ルクスが憤怒の形相で俺を睨み、怒声を上げた。
頭部が陥没しているためか、まともに喋れなくなっている。血と埃に塗れ、余裕ぶっていた姿はもうどこにも無い。
「逃がさんっ!」
疾駆するエースの上で【火装】と【烈攻】を続けて発動する。防御も駆け引きも、もう無しだ。渾身の一撃で、龍王ルクスを断つ!
「放テッ!」
ルクスを背に乗せた火竜がぐるりと振り返って俺達に正対し、深く息を吸い込んだ。炎の息を吐くつもりか……だが!
「このまま突っこめ!」
「ヒヒィンッ!!」
当然だとでも言わんばかりにエースが嘶く。
ゴォゥッ!!
迫る炎の壁に躊躇せずエースが突っこむ。一切の防御魔法もスキルも張らず、無防備でブレスを受けた俺達がタダで済むわけがない。エースの白毛が燃え、薄桃色の肌が焼け爛れる。騎乗の俺も同様に炎に巻かれる。
「うぐぅ、おぉぉぉっっ!!」
だが、だからどうしたって言うんだっ! 火竜のブレスなんかで退いてやるものか。絶対にヤツを逃がさない!
炎のブレスを突破し、俺達は火竜の前に躍り出る。大口を開けて固まっている火竜に、蒼い魔力光を放つ無銘の剣を振りかざす。
渾身の魔力をこの一撃に注ぎ込め! 龍を屠る一振りを!!
「【重ね・魔力撃】!」
既に【魔力撃】を常時発動していた無銘の剣に、さらに【魔力撃】を重ねる。
アスカが名付けた『どんな鎧をも貫くことが出来る剣』を意味する二重詠唱。この技で火竜ごとルクスをぶった切る!!
鋭さを増した剣は火竜の鱗を容易く斬り裂き、肉と骨を断つ。火竜の首を切り飛ばした剣を、エースの突進の勢いも乗せて満身創痍のルクスへと浴びせる。
ザンッ!!
すれ違いざまの一閃は、ルクスの右手を斬り飛ばした。
「ちぃっ!」
闘技場では傷一つ負わせられなかったルクスに、一撃を浴びせることはできた。
だが、狙ったのはルクスの首だったのだ。全身全霊をかけた一振りは、突き出された右手に逸らされてしまった。
「【出デよッ】!」
「なぁっ!?」
唐突に、二体の紅玉竜が現れる。
なんだこれは!? 忍者スキルの【口寄せ】か!?
全力の一撃を振るった直後で反応が遅れた俺達の前で、二体の竜が深く息を吸い込んだ。
「くっ、【大鉄壁】!」
直後、二筋の火焔が放射される。さっきと同様に、防御を捨てて突っこみたいところだが、さすがにこのブレスは危険すぎる。エースと俺を包むように魔力障壁を展開し、迫る炎を防ぐ。
「待てっ!」
首を刎ね飛ばしたというのに、ルクスが乗る火竜は墜ちる事ことなく、高度を上げていく。よく見ると、粘着質な泥のような惣闇色の魔力が首から染み出ていた。
あれは……アンデッド化? 第九位界の闇魔法【冥王の喚び声】か!?
くそっ……なんでもありかよ!
「覚エテおケ、女神ノ眷ゾクよ! 我ハ再びコノ地を訪レ、キ様モロトも、滅ぼシてクレる!」
ルクスは血走った目で俺を睨み、そう言い捨てた。
ルクスを乗せた首無し火竜は、飛膜翼を羽ばたかせてどんどん離れていく。
「逃げるな、ルクスッ! くそっ、追うぞエースッ!」
「ヒヒンッ!!」
しかし、翼を広げた紅玉竜二体が俺達の行く手を遮る。
妨害に専念するような挙動を見せた二体の上級竜を斬り捨てた時、ルクスを乗せた火竜は上空に生じた空間の裂け目に飛び込んだ。
「くそおぉっ!!!」
火竜が姿を消すと共に裂け目が閉じて無くなる。ルクスの気配が、クレイトンの空から消え失せた。




