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騎士とJK  作者: ヨウ
第十章 永久凍土の名も無き村
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第436話 切り札

 空高く飛び上がられたら、追い付く方法がない。


 そっちに(・・・・)逃げられるわけにはいかない!


「【跳躍】! 【魔力撃(スラッシュ)】!」


 俺は即座に飛び上がって無銘の剣を振り回す。


だが、空中でも自由に動き回れるルクスには余裕で回避されてしまう。反対に飛び上がってしまったこっちは回避どころか方向転換すら出来ない。


大きな隙を晒した俺に向かって、ルクスは嘲るような笑みを浮かべて手をかざした。


「【吹き飛べ】」


「ぐぁっ!!!」


 不可視の衝撃に弾かれ、俺は地面に墜落する。


「かはっ……!」


 反撃されるのは折り込み済みだったため、咄嗟に防御姿勢はとれたし受身も間に合った。とは言え肋骨が数本はいってしまったが……致命傷ではない。継戦ギリギリのダメージを負わされてはいるものの、目的だけは達成した。


「今だ!!」


 俺達はルクスが守護龍の魔力に気付いていることに(・・・・・・・・・)気付いていた(・・・・・・)


 地下に隠しているとはいえ守護龍の六角水晶塊(クリスタルクラスター)が3つもあるのだ。それぞれが近寄るだけで肌が粟立つほどの魔力を有する魔晶石なのだから、気付かないわけがない。


 しかも起動直前の今となっては、闘技場の地下全面に描かれた魔法陣にアザゼルやグラセール、ラヴィニアの魔力ととともに龍の魔力が満ち始めている。魔力量もさることながら、同じ龍の魔力が充満しているのだから誤魔化しきれるわけがない。


 起動直前までに俺とローズを仕留めきれなければ、ルクスは逃げ出すだろうとは予想していた。全てアザゼルの読み通りだ。


 闘技場の舞台に縫い留めるのが最善ではあったが、上空に逃げられた場合の手は打ってある。俺はルクスを鐘塔の方へと回避させるよう、誘導すればいい。


 俺は予定通り【竜騎士】と【拳闘士】の加護を励起し、膂力のステータスを引き上げた。


「【接続(リンク)】、ユーゴー!!」


 闘技場の舞台から離脱しようと浮かび上がったルクスのさらに上空に、人影が現れる。


 ジェシカの【隠遁】で今の今まで気配を隠していたユーゴーが、鐘塔から満を持して飛び出したのだ。


「【明鏡止水・狂乱の戦士フォース・オブ・オーディン】!」


「なっ!?」


 俺の【接続】で急上昇したステータスを、さらに獣戦士のスキルで強化したユーゴーが、神授鉱で鍛え直したシルヴィアの大槍を振り絞る。


 俺を攻撃した直後だったうえに、完全に虚を突かれたルクスはユーゴーの奇襲に反応できていない。


「【漆黒の諸刃(リバースエッジ)】!」


 発動後に大幅なステータス低下を起こす代わりに、一撃の威力を極限まで高める獣騎士のスキルがルクスの背中に突き刺さる。ルクスは闘技場の舞台に墜落し、ユーゴーは着地と共に力を使い果たして膝をついた。


「【治癒(ヒール)】!」


 絶妙なタイミングで飛んで来たローズの治癒魔法で全身の痛みが和らいでいく。骨折までは治らずとも、痛みが薄れるだけでも御の字だ。


「うおぉぉぉっ!!!」


 魔法陣発動まで、残り8秒!

 

 俺はもうもうと巻き上がる砂埃の中で起き上がったルクスに向かって、全速で突っこんだ。


 残り数秒、なんとしてもルクスを押しとどめる!


「【貫通・魔力撃(ミスティルティン)】!」


「ぬぅっ!?」


 【騎士】と【竜騎士】のスキルを二重詠唱(ダブルキャスト)した俺の渾身の刺突は、確かにルクスの胸に直撃した。にもかかわらずルクスは衝撃で仰け反るばかりで、傷一つ負わない。


 槍使いと拳士の加護の励起したうえにユーゴーと【接続】している俺の膂力のステータス値は万にも届いているはずだというのに、それでもルクスの肌を貫くことさえできない。


「おのれえぇぇっ、人ごときがあぁぁ!!」


 ダメージは負っていないものの、思い通りに行かないことに苛立ったのだろう。ルクスが憤怒の形相で怒声を上げる。


「【下がれぇっ】!!」


「ぐぁっ!!?」


 ルクスの全身を包む魔力が一気に膨れ上がり、放射状に放たれる。刺突を放った直後の俺は、その衝撃をまともに受けて弾き飛ばされた。


 まずいっ……!


 吹き飛ばされつつも必死に、ルクスの動きを目で追った俺が捉えたのは、深く身体を沈めて放射状に抉れた地面を踏みしめたルクスの姿だった。


 次の瞬間、ルクスは凄まじい速さで上空へと飛び立つ。



 くそっ、逃げられ……ってアレは!!?



 逃げるルクスのさらに上空。


 まるで落雷のように急降下して来る影。


 紫電を纏った螺旋角を真下に向け、翼をはためかせて大空を駆る雄姿。



 やはり生きてくれていた!!


 っていうか……なんてタイミングだ! 

 

 本当に……本当にお前は頼りになるな!



 さすがは俺達の『切り札(エース)』だ!! 



「【接続】、エース!!」


「なにぃっ!!?」


 ガキィンッ!!


 突如として大空に顕れた幻獣種『一角獣(ユニコーン)』の【刺突(スティング)】をルクスが両手で受け止める。しかし、ほぼ直角に急降下し、激突してなおも突進を続けるエースの勢いまでは止められない。


 エースとルクスが一体となって闘技場に堕ちて来る。


「アルフレッド!!」


 魔人族の王アザゼルの声が闘技場に響きわたる。

 

「ジェシカを、頼んだ!」


「任せろっ!!」


 ドォンッ!!


 ルクスが闘技場の舞台に背中から激突する。


 エースの方は地面すれすれで大きく首を振り、俺の方へと急転回している。零れ出る涙と銀色の髪をなびかせたジェシカと、ユーゴーを肩に担いだローズも俺の方へと駆け寄って来た。


 仲間全員が俺のスキルの効果範囲に入ったその瞬間、幾筋もの地割れが走り、裂け目から膨大な龍の魔力が噴き出す。


「くそおぉぉぉぉぉっ!!」


「さらばだ! 【魔素崩壊(コラプス)】!!」


 ルクスとアザゼルの声が聞こえ、魔法陣から放たれる光で視界が真っ白に染まった瞬間、俺は【転移】を発動した。




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