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騎士とJK  作者: ヨウ
第十章 永久凍土の名も無き村
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第434話 龍の力

【光の大盾・大鉄壁】シールド・オブ・アイギス!」


 全方位から飛来する滅びの焔に対し、魔力盾を即座に展開する。騎士と導師の加護を励起させ、渾身の魔力を注ぎ込んだ二重詠唱の魔力盾は、次々と衝突する炎塊をかろうじて防ぎきった。


「うぐぅぅっ!」

「ああぁっ!!」


 魔力盾に衝突した炎塊は、弾けて霧散していく。炎塊と魔力盾が対消滅を起こし、魔素へと還っているのだ。


 しかし炎塊が発していた高温の熱気までは消えない。熱波に炙られ、皮膚が爛れ、捲れ上がっていく。


 通常の火魔法であれば、直撃しない限りここまでの高温に晒されることは無い。だが第九位階魔法のような極大魔法は地形や環境すら変化させる。龍王ルクスが詠唱をする素振りすら見せずに放った火魔法は、それを遥かに上回るほどの規模と威力だったのだ。


 半球状に展開している魔力盾の外側の地表は、炎塊の衝突で抉れ、灼熱で熔解しはじめている。魔力盾の内側にいる俺達は、まるでオーブンの中に放り込まれて調理されているかのようだ。


「くぅっ……【聖者の祈り(エリア・ヒール)】! 【回復(リカバー)】!」


 ローズが発動した光魔法で、全身の皮膚に出来た火傷や水膨れが癒され、高温に奪われた体力が回復していく。


「助かった、ローズ! アザゼルッ、生きてるか!?」


「ああ……」


 俺がローズを守り、ローズが俺を癒す。ルクスの魔法にも耐えることが出来ているし、多少の傷ならローズが癒してくれる。


「【挑発(タウント)】!」


 魔力波動を浴びせ、俺に向けられていたルクスの注意をさらに引き付ける。


「……我に向かって挑発、だと?」


 ルクスにしてみれば、地を這う虫に煽られたようなものだろう。ルクスは表情を醜く歪め、怒気を撒き散らす。本来は対人戦闘では効果の薄いスキルなのだが、効果はてきめんのようだ。


「アルフレッド、頼んだぞ」


「ああ。お前もしくじるなよ」


 アザゼルが白銀の剣を地面に突き刺し、魔力を流し始める。


 闘技場の地下全体に張り巡らされた魔法陣だけに、魔力を満遍なく行き渡らせるのには時間がかかるのだそうだ。その間、ルクスの注意を引き続け、魔法陣の発動に集中している無防備なアザゼルを守り切らなければならない。


「【昏き雲よ】」


 腕を組んで空中に浮かぶルクスが呟くと同時に、上空に稲光を伴った渦巻く暗雲が垂れ込める。これは……第八位階の風魔法【雷雲】(カムロニンバス)か!?


【風纏】(エンエアロ)【光の大盾・大鉄壁】シールド・オブ・アイギス!」


「【裁きを】」


 俺は即座に風魔法の抵抗力を引き上げ、再度魔力盾を展開する。その刹那、光の柱が魔力盾に降り注いだ。


「おおぉぉっ!!」


 視界一面で青白い火花が弾け、魔力盾が削られていく。


 強化したスキルと魔法を同時展開し、さらに常時発動しているのだ。ただでさえ魔力消費が大きいのに、紫電に削られた魔力盾を補うため急激に魔力が失われていく。


 大火球と違って高温に晒されることが無い代わりに、魔力消費が激しすぎる。こんなの連発されたら、たまったもんじゃないぞ。


「【砕け】」

 

「は、はは……くそっ!!」


 今度は暗雲を割って幾つもの大岩が落ちて来た。【戦神ノ雷槌(トールハンマー)】の次は【星落とし(メテオストライク)】か……第九位階の大魔法がそろい踏みだな!


「【光の大盾・大鉄壁】!」


 魔力盾に衝突した大岩が、轟音を立てて砕けていく。


 レリダでは圧し潰されそうになったが、あの時に比べると魔力盾は遥か強度を増している。俺は大岩の衝突に圧されながらも、大地を踏みしめ耐え続けた。


 想定以上に魔力を消費しているが、ここまでは想定通りだ(・・・・・)


「代わるわ! 【光の大盾】シールドオブライト・マキシマ!」


 大岩の雨の一瞬の間隙を縫ってローズが光の盾を展開する。


「頼んだ!」


 ローズの盾じゃ、そう長くはもたない。魔力を全力で注ぎこんでも十秒ともたないだろう。だが、それだけあれば十分だ。


 俺は腰のポーチから魔力回復薬を引っぱり出して、一気に呷る。拳闘士スキル【内丹(チャクラ)】の回復量では賄いきれなかった魔力が急速に回復していく。


 さて、仕切り直しだ。


「ローズ、助かった! 【光の大盾・大鉄壁】!」


 ローズに代わって魔力盾を展開。一気に魔力を使い果たしたローズも、その隙に魔力回復薬を飲み下す。


 アザゼルの想定通りの展開だ。ルクスは魔法攻撃しかしてこない。これならポーチの魔力回復薬が切れるまでは、耐えることが出来る。


「どうした、ルクス。いくらでも撃って来い」


 挑発の魔力波動を浴びせて龍王ルクスをさらに煽る。


 アザゼルの予想通り、ルクスは浮遊して一定の距離を保ったまま近づいてこない。ルクスには膨大な魔力と異様なほどに早い詠唱速度がある。さらに、空に浮かぶことで一方的に魔法攻撃が出来るのだ。敢えて敵に近づく必要など無いだろう。


 だが、それだけが理由じゃない。


「貴様……」


 ルクスが憤怒の形相で地魔法に耐え抜いた俺達を見下ろす。


 必要が無いから近づかないのではない。魔法戦の方が有利だから近づかないわけでもない。


 接近戦をしないのではなく、接近戦が出来ないのだ。


「ヒトごときが……」


 龍王ルクスはかつて、3対6枚の翼を持つ巨大な龍だったという。


 その爪は城壁を容易く砕き、尾の一振りは山さえも崩し、その咆哮は天を割った。誇張ではなく、事実世界中の都市がそうして滅ぼされたらしい。


 だが今のルクスに、その巨躯はない。その膨大な魔力に変わりはないが、人族の肉体ではどうやっても山を崩すことなど出来るはずがない。


 さらに、ヤツはギルバードから奪った肉体に慣れていない。龍の巨躯に比べれば小回りが利いて動き易いかもしれない。アザゼルの【飛剣】を受けてもびくともしていなかったところをみると、龍並みの肉体強度を獲得したのかもしれない。


 だが、その肉体を活かす技巧は身に着けていない。


 万を超す素振りを繰り返して型を身体に覚え込ませ、実戦を通して体捌きと足運びを会得する……そういった経験が無い。だから奴は剣や拳が届く地表には降りて来ない。魔法をぶっ放すことしか出来ないのだ。


 実際、聖都ルクセリオでも鉱山都市レリダでも、上空からの強大な魔法で襲撃した。聞いた話では王都マルフィでもそうだった。


「さあ、かかって来い、ルクス。神を名乗る龍が、人ごときを恐れるのか?」


 とは言え、俺が龍王ルクスに勝てるわけではない。


 あの膨大な魔力で魔法を放ち続けられるたら、防戦一方になるだろう。魔力回復薬が切れれば、防ぐことすら出来なくなる。


 剣が届けばまだ戦いようもあるが、上空から下りて来なければ手の出しようもない。【跳躍】で飛びかかっても撃ち落とされるだけだろう。遠距離から弓や魔法で攻撃することもできるが、効く気がしない。


 今の俺達に出来ることは身体を張って時間を稼ぐことだけだ。ルクスの極大魔法を凌ぎ、魔法陣を起動しているアザゼルを護り抜く。


 魔力回復薬にはまだ余裕があるから、数分程度ならなんとか持たせられるだろう。アスカがいれば、アイテムボックスに収納した大量の回復薬で何時間でも継戦できるのだけど……。


「ふふ……女神の加護を得ているとはいえ、ヒトごときに我が愚弄されるとはな」


 ルクスが自嘲するかのような笑みを浮かべる。


 その直後、魔力と殺気がさらに膨れ上がり、ルクスの身体に炎のような揺らめきが立ち上った。


「なん……だ……?」


 あれは……魔力そのもの?


 光を屈折させるほどの濃密な魔力を纏っている……というのか?

 

「女神の眷族よ。後悔するがいい。龍の力を見せてやろう」


 そう言ってルクスはその場で右手を横に振るう。


 次の瞬間、俺は闘技場の舞台の内壁まで、弾き飛ばされた。




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