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騎士とJK  作者: ヨウ
第十章 永久凍土の名も無き村
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第432話 決戦・エルゼム闘技場

「さあ、始めるぞ。配置につけ」


「ああ」


 いよいよ龍王ルクス調伏作戦の開始だ。


 作戦はいたって単純。王都上空で火竜の群れと戦士達の戦いを見下ろしている龍王ルクスを闘技場に誘き寄せ、地下に設置した巨大な魔法陣を発動する。それだけだ。


 闘技場に誘き寄せるところまでは確実に成功するとアザゼルは言っていた。かつて龍王ルクスを大地に封印せしめた者達の一人である勇者エドワウ・エヴェロン――こと魔王アザゼルが闘技場に姿を現せば、必ず抹殺しようとするはずだと。


 アザゼルは、龍王ルクスを封印から解き放つことと引き換えに、魔人族達の村があるサローナ大陸には手を出さないことを約束させている。


 そう、魔人族に(・・・・)ではなくサローナ大陸に(・・・・・・・)だ。


 龍王ルクスは、『あの島で(・・・・)、種が絶えるまで生きることを許そう』と約束した。つまり、サローナ大陸の外に出た魔人族には、約束は適用されないのだ。


 もし、自身を数千年も縛り付けた者達の一人であるアザゼルが姿を現せば、嬉々として襲ってくるだろう。アザゼルは自らを餌として、闘技場に誘き寄せるつもりなのだ。



 正直言うと、人族の根絶を目論む化け物と交わした約束なんて何の意味も無いと思っていた。前言を翻し、魔人族の村を破壊しに来るのではないかと疑っていたのだ。


 だが、アザゼルによるとそれは有り得ないらしい。


 龍は人と交わした約束を破らない。というより破れない(・・・・)。生前の守護龍達から、そう創られている(・・・・・・)と聞いたのだそうだ。


 実際に、守護龍達は盟約を交わした人族をその命を賭して守り、死して魔晶石となってからもなお盟約を守り続けた。龍が交わした約束……口に出した言葉(・・)は、特別な意味を持つ。よくわからないが、そういうものらしい。




「アザゼル……」


「ジェシカ、早く行くがいい」


 ジェシカが目に大粒の涙をためて、アザゼルを見つめていた。


 ジェシカは俺達の前ではあまり感情を表に出さない。だが、魔人族や村の人達の前ではわりと普通に笑顔も見せるし、年相応の感情表現をする普通の少女だ。


 そして今、ジェシカは内に秘めていた哀しさや辛さを露わにしている。自らの命を賭け金として龍王ルクスに挑もうとしている男を、黙って見送ることができないのだ。


「ジェシカ、俺は因縁の相手を道連れにして最期を迎える。何度も言ったはずだろう?」


 アザゼルが優しい声音でジェシカに語り掛ける。まるで娘を諭す父親のように。


「…………ジェシカに、ジェシカにやらせて欲しいの」


「駄目だ」


 ジェシカが絞り出すように出した言葉を、アザゼルが即座に却下する。


「でもっ……皆にとって、アザゼルは必要な人なの!」


「ジェシカ、今さら議論するつもりは無い」


 アザゼルがぴしゃりと言い切る。 


 個人的には、ジェシカの言っていたことは一理あると思う。


 魔法陣の発動者は、魔晶石の魔力暴走に巻き込まれて死ぬことになるのだ。普通なら魔人族の王自らが、命を賭けて魔法陣を発動するべきではない。他の者が犠牲になって、王を生かすべきだ。


 この場合、ジェシカが発動者を担い、アザゼルが生き残った魔人族を導いた方が良いだろう。ジェシカとはここ数日間一緒に過ごしたこともあって多少は情も湧いてはいるから、犠牲になって欲しくはないとは思うけど……。


魔素崩壊(コラプス)の魔法陣を発動するのは俺達3人だ。変更するつもりはない」


 守護龍達の3つの魔晶石は、闘技場の地下外周に等距離で設置されている。魔晶石が設置された3つの魔法陣を同時に崩壊させることで、相乗効果によって威力を高め、ルクスの逃げ場を少しでも無くすためだ。


 そして3つの魔法陣には、それぞれ発動者が必要になる。犠牲となる発動者は魔王アザゼル、魔人グラセール、そして神人族の神子ラヴィニアの3人と聞いている。


「もう、何千年も偽りの命を繋いで来た。永い……永い時間だった」


 アザゼルはそう言ってジェシカの頭を撫でる。


「俺もようやく仲間たちの元に胸を張って行くことが出来る。ジェシカ、俺にとって死は贖罪でもあり、希望なのだ。わかってくれ」


「……ぐずっ」


「ジェシカ、達者でな……。行くぞ、アルフレッド、ロゼリア」


 いやいやと首を振るジェシカ頭から手を離し、アザゼルは闘技場の中へと入っていった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 アザゼルと俺、ローズの3人で、闘技場の舞台のど真ん中に立つ。グラセールとラヴィニア、ジェシカとユーゴーは既に配置についているはずだ。


「さて、始めるぞ」


「ああ」


「まかせなさい!」


 アザゼルが白銀の剣(ミスリルソード)を振りかぶり魔力を込めていく。白銀の剣は白光を放ちはじめ、次第にその輝きを増していく。

 

 今のアザゼルにかつての力は無い。以前はもともと持っていた【聖騎士(パラディン)】の加護と、冥龍ニグラードから授かった【死霊魔術師(ネクロマンサー)】の加護を『励起』させていたため並外れた実力を持っていた。だが、【死霊魔術師】の加護は龍王ルクスに捧げてしまった。


 今のアザゼルはただの【聖騎士】だ。龍王ルクスどころか、もう俺にさえ勝てないだろう。まあ、騎士の最上位加護をもち、熟練のスキルを持っているわけだから、人族の中では抜きんでた実力を持っているのは間違いないが。


「行くぞ。【飛剣】(ディバインブレード)!」


 アザゼルが白銀の剣を振り下ろすとともに、白く輝く斬撃が放たれる。斬撃は驚異的な速さで飛翔し、王都上空に浮かんでいた龍王ルクスに直撃した。


「ははっ……ビクともしていないな」


「わかっていたことだ」


 不意の一撃だったのだろう。龍王ルクスは斬撃に弾かれ、僅かに高度を下げた。


 だが、ダメージを与えられたようには見えない。今のアザゼルにとって渾身の一撃だったのだろうけど……。


 さて、どう出る?


 俺は神授鉱で強化した混沌の円盾を構えつつ、【騎士(ナイト)】と【導師(プリースト)】の加護を励起する。ローズも俺の隣で、ジブラルタの大杖を構えて精神集中に入った。


「ちっ……」


 約2キロ先の王都上空に、巨大な炎塊が浮かび上がる。アザゼルに気づいてすぐに下りてくることを期待したが、まずは魔法で攻撃することを選択したらしい。


 地表を這う蟻が邪魔なら、まずは靴底で踏みつける。手で押しつぶすのは、それでも駆除できなかったらといったところか?


「来るぞ! 【神威の盾(ヴァイスシルト)】!」


「おうっ! 【光の大盾・大鉄壁】シールド・オブ・アイギス!」


【光の大盾】シールドオブライト・マキシマ!」


 闘技場の舞台とほぼ同じ大きさの炎塊が迫り、俺達はそれぞれに最大級の防御スキルと魔法を発動する。


 ローズは第五位階光魔法、俺は同じ魔法とお馴染みの剣闘士スキルの二重詠唱(ダブルキャスト)、そしてアザゼルは【聖騎士】のスキルで、炎塊を受け止めた。


 ゴリゴリと魔力を削られていくが、それでも以前レリダで大岩を受け止めた時に比べると余裕がある。海底迷宮でスキルと技術を磨いた成果が表れたと言えるだろう。


「動いたか……」


 俺達が巨大の炎塊を凌いだのを確認したのか、龍王ルクスが空をすべるように近づいて来た。


 さあ、ここからが正念場だ。




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