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騎士とJK  作者: ヨウ
第十章 永久凍土の名も無き村
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第429話 魔王の名

 闘技場の舞台の端の方で閃光が走り、アザゼルとラヴィニア、グラセールが姿を現した。彼らはウルグラン山脈に転移し、龍王ルクスの様子を偵察して戻って来たところだ。


 そう、俺と同じく、彼らも転移が可能なのだ。転移陣が無い場所へでも。


 『転移』とはある転移陣から他の転移陣に移動することを意味する。転移陣の無い場所に転移するなんてことは本来あり得ない。


 だが、何事にも例外はある。


 俺の知る例外は二つ。一つ目はグラセールから貰った『龍脈の腕輪』、そして二つ目の方法が俺の【転移】スキルだ。


 『龍脈の腕輪』は、どこからでも、指定した転移陣に転移することができる。


 ただし、転移できるのは『龍脈の腕輪』を装着して行ったことのある転移陣に限られる。大量の魔力を消費するため安易には使えないが、どこからでも転移できることと、転移石を消費せずに何度でも転移できることが利点だ。


 二つ目の例外は、俺の【転移】スキル。どこからでも、どこへでも転移できる。


 ただし、転移できるのは行ったことがある場所に限られ、なおかつ頭の中で鮮明に思い描ける場所だけだ。思い描いたイメージと現在の姿が大きく異なる場合は転移できない。


 アザゼル達が使っている転移法は、前者の応用。彼らは『龍脈の腕輪』を使用し、『龍脈の裂け目』に転移することが出来るのだ。


 大地には龍脈という星の命の通り道があり、血管のように世界中の地中に張り巡らされている。星の命とは魔素とほぼ同義で、世界中の『龍脈の裂け目』から大気に湧き出ているのだそうだ。


 転移陣は『大きな龍脈の裂け目』を魔法陣で固定したものらしく、龍脈の大動脈とでも言うべき道を通って、他の『大きな龍脈の裂け目』へと瞬時に移動できるという仕組みなのだとか。大きな龍脈の裂け目は世界中に数えるほどしかないが、小さな龍脈の裂け目はそれこそ至る所に存在するらしく、この闘技場の中にもあるし、王都の中にもいくつかあるのだそうだ。


 アザゼル達はその『龍脈の裂け目』を、ラヴィニアの作った『杭』で固定し転移陣がわりにしている。


 少数の魔人族が、世界中で同時期に暗躍できたのは、これが理由だったんだな。どうりで、いつも狙ったかのような時に現れるはずだ。


「火竜の集団暴走(スタンピード)でヴァリアハートが壊滅した。火竜の群れはとどまることなく此方に向かってきている。明日の昼には到達するだろう」


 ヴァリアハートは隊商とともにチェスターから王都に向かう途中で立ち寄った街だ。盗賊の元締めみたいな商会に襲われたり、グラセールに氷矢の雨で攻撃されたりとろくな思い出は無いが、湖の畔にある美しい街だった。そうか……あの街も滅ぼされたのか。


「……避難は」


「塩鉱山街方面も見てきたが避難した者はいなかったな」


 ヘンリーさんと話をした際に、おそらく龍王ルクスはウルグラン山脈に棲む火竜の群れを率いてやって来るだろうと伝えてあった。その途中にある領都ヴァリアハートや農村が甚大な被害を被るだろうとも。


 ヘンリーさんは俺の話を信じて、魔物使い(テイマー)ギルドに依頼し、鳥型魔物で伝書を出すと言っていた。ぎりぎり間に合うかと思ったんだけど……。そうか、報せは間に合わなかったのか。


「仕方がないわよ、アルフレッド」


「…………」


 仕方がない? そうなのかな……。


 俺が転移でヴァリアハートに行けば、間に合ったんじゃないか? あのエクルストン侯爵が俺の言うこと信じて避難をするとは思えないが、『王家の紋章』を振りかざして領都民だけでも逃がすことが出来たかもしれない。


「いつまで呆けている。作戦を詰めるぞ」


 アザゼルがぶっきらぼうに言い放ち、闘技場の地下へと下りていく。


「行こう」


 そうだな。いつまでも、ああしていれば、こうしていたら、なんて考えていても何も生まない。龍王ルクスとの決戦は明日に迫っているんだ。気持ちを切り替えないと……。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「『火龍の守り』が生きているうちは、ルクスはクレイトンに手出しは出来ん。ヤツはクレイトンに眷属をけしかけ、高見の見物を気取るだろう。おそらく空の上からな」


「それで、どうやって闘技場に誘き寄せるんだ?」


「遠距離から一撃浴びせて挑発する。ヤツは闘技場に下りてくるだろう」


「そうか? 闘技場は魔法障壁に守られていないんだぞ? ルクセリオやレリダのように、大魔法を降らせてくるんじゃないか? あれを連発されたら、そう長くは持たないぞ」


 闘技場の地下、決闘武闘会の時に決闘士の控室として使われていた広い部屋で俺達はテーブルを囲んでいた。目的はもちろん龍王ルクス迎撃の作戦会議だ。


 レリダで龍王ルクスと遭遇した時、俺とローズが全力で張った魔法障壁で、ヤツの魔法のほんの一部を防ぐことで精いっぱいだった。今の俺はあの時と違って『励起』が使えるから、あの時よりは持たせられるとは思うが、それでも連発されたら堪えられないだろう。


 確かに闘技場の舞台に下りて来て接近戦となれば、まだ戦いようもある。ヤツの接近戦の実力は未知数だから何とも言えないが……。


「ヤツは俺を憎んでいるからな。誘いに乗ってくるはずだ」


「憎んでいる……ね」


 そう言えば龍王ルクスはアザゼルのことを知っているみたいだった。ルクセリオの大尖塔でアザゼルが龍王ルクスの封印を解いた時、盟約だなんだと話していたし、深い因縁もあるみたいだったが……。


「ん……?」


 ふと、ルクセリオの大尖塔での龍王ルクスとアザゼルの緊迫したやり取りを思い出す。


『ご苦労だった、エドワウ』

『その名で俺を呼ぶな、ルクス』


「エド……ワウ……?」


 アスカとの旅の中で、その名を何度も耳にした。


 WOT(ワールド・オブ・テラ)の詩に登場した人物の名、『魔なる者の王エドワウ』。その詩では『天の王たる龍ルクス』と対峙する者として語られていた。


 そしてセントルイス王家の祖先の一人、英雄王エドワウ・セントルイス。魔人族を撃退した王の名だ。平民街と中心街とを隔てる門の一つに、彼の名前が付けられた『英雄王エドワウ凱旋門』なんてのもあった。


 何よりも、ジェシカから聞いたばかりの、魔人族の知る歴史で登場した人物。冥龍の加護を授かった魔人の名。


 これは偶然の一致なのか?


 いや……龍王ルクスと人族が相争ったという何千年も前の歴史を魔人族だけが知っていて、アザゼルと龍王ルクスは何らかの因縁があって……そこから導かれる結論は……。


「お前……まさか、魔人の勇者エドワウ・エヴェロン、本人なのか?」


 あり得ない。


 いくら長命な神人や魔人だとしても、その寿命は央人の5~10倍程度。長くても500年ほどしか生きられないはずだ。何千年も生き永らえることなんてできないはずだ。


「とうに気づいていると思っていたがな。レオン・セントルイスの末裔(すえ)、アルフレッド・ウェイクリング」


「ま、まさか」


「うそ、だろ……」


「もしかして、英雄王エドワウも」


「俺のことだな。ルクスによってレオンの子孫と歪められたようだが」


 魔人の勇者エドワウ・エヴェロンとアスカが言っていた魔王エドワウの子孫である魔王アザゼル、英雄王エドワウ・セントルイスが同一人物?


「お前はどうやって何千年もの時を」


「今はそんなことを話している時ではないだろう?」


 アザゼルがぎろりと俺を睨んで、話を切った。


「大昔の話だ。今の俺の名はアザゼル。ただの神に抗う者(アザゼル)だ」


 


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