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騎士とJK  作者: ヨウ
第十章 永久凍土の名も無き村
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第428話 立場の違い

「来たか」


「すまん、遅くなったか」


「かまわん。お前達が来なければ我らだけでルクスに挑むだけだからな」


 エルゼム闘技場の地下の修練場で、アザゼルが待ち構えていた。魔法都市エウレカの地下墓所で相対した神人の【神子(シビュラ)】ラヴィニアと、海底迷宮で俺達に『龍脈の腕輪』を寄越してきた魔人のグラセールも一緒だ。


「ジェシカ……やはり来てしまったのですね」


「当たり前。あなた達だけを戦わせるつもりはないの。ジェシカもルクスに一矢報いるの」


 グラセールが悲し気に表情を曇らせジェシカに語り掛けると、ジェシカは顎を突き出すように上げて不敵に微笑んだ。


「ジェシカさん、無謀な戦いで若い命を散らして欲しくないのです。どうかサローナに戻って頂けませんか?」


「ラヴィニア姉、戻るつもりは無いの。ジェシカは、魔人族の未来のために戦ったパパの意思を引き継ぐの」


「……でも」


「もうやめておけ。ジェシカは一人前の戦士だ。自らの戦場を選ぶ権利がある」


 ラヴィニアは眉を寄せて何かを言おうとするも、アザゼルがそう言うと諦めたように溜息をついて引き下がった。


 どうやらジェシカだけアザゼル達と別行動をしていたのは、今回の作戦から外されたからだったみたいだ。たぶん、年若いジェシカを死なせたくなかったのだろう。といっても魔人族基準の『年若い』だから、実年齢はわからんけど。


「アルフレッドの【転移】があればジェシカは離脱できる。仮にこの作戦が失敗してもジェシカだけは生き延びられる」


「ジェシカだけが生き残るなんて出来ないの。ジェシカもパパのように戦って、死ぬの」


 アザゼルの言葉にジェシカが噛みつく。


 アザゼルはこの作戦に命を賭して挑むつもりだ。ジェシカもまた、アザゼルと同様に、この地を死に場所とするつもりなのだろう。


「ダメだ」


 だが、そんな決意のこもったジェシカの宣言を、アザゼルが一蹴する。


「ロッシュはお前が生き延びられる未来のためだけに戦っていた。ジェシカ、俺に朋友との約束を破らせるつもりか?」


「でも……!」


「お前に任せられるのはルクスの足止めまでだ。戦死ならかまわん。だが『魔装崩壊の魔法陣(コラプス)』を発動するために死ぬことは認められん」


「…………」


 ジェシカは納得がいっていないのだろう。瞳に大粒の涙を浮かべ、嫌々するように首を振るも、言い返しはせずに押し黙った。


「ちょっと待て」


 アザゼル達のやり取りで聞き逃せないことがあった。


「ロッシュって、あの拳闘士のことだよな?」


「……ああ。地龍ラピスから加護を授かった魔人族の戦士ロッシュ。地竜の洞窟でお前と戦い命を落とした、ジェシカの父親だ」


「なっ……!?」


 ロッシュがジェシカの父親だった!? 


 俺が……ジェシカの父を殺していたのか……。衝撃の事実に動揺しジェシカを見やると、彼女は冷めた目で俺を見ていた。


「今さらのことなの。パパは魔人族の安住の地を手に入れることを願ってアザゼルの企みに乗ったの。その願いが他の人族を贄にすることだとわかってのことなの。そして、パパは役目を終えて逝ったの。アルフレッドに恨みが無いのかって言われれば否定はできない……でも、納得はしているの」


「地竜を暴れさせてレリダを襲うこと。ガリシア氏族の者や仲間を殺し、魔人族に対しての恨みをアリス・ガリシアに抱かせること。そして地龍ラピスの祝福を受けさせるよう誘導すること。それが、俺がロッシュに命令したことだ」


 そうだ。ロッシュは地竜を操ってレリダを襲い、多くの人々を死に追いやった。そして地竜の洞窟では金竜を引き連れて俺達を襲った。


 俺は降りかかる火の粉を払っただけ。俺を、俺達を殺そうとしてきたヤツを殺しただけ。その殺した相手が……ジェシカの親だっただけ。


 過ちを冒したわけではない。


 だが……魔人族の村に数日間滞在して、彼らも自分達と同じ人の子であるということに気づかされた。大陸から排斥され、極寒の地で慎ましく暮らしていた魔人族の生き残りであり、子を守ることに必死な人の親であったことにも。


 そう、俺は魔人族を人と認識していなかったことに気づかされたのだ。魔物を殺したのと同じ程度にしか考えていなかったのだ。


「ロッシュは魔人族の村に住む者……いや、ヴィクトリアとジェシカを生き残らせるためだけに、多くの土人(ドワーフ)を死に追いやった。俺がやろうとしていることが、他の人族を死に追いやることだと理解したうえでのことだ。一族と子を守るためにお前達と戦い、命を落とした。誇りある戦死だ」


 アザゼルとその仲間たちは、魔人族だけが生き残るために俺達を利用し、他の人族を贄とした。そのせいで既に何十万もの人が死んでいる。例え、いつかはルクスの封印が解けて同じことが起こっていたのだとしても、到底許せることでは無い。


 だが、そう言う俺自身も多くの人を殺している。チェスターで戦った魔人フラム。カスケード山脈での盗賊たち。地竜の洞窟で相対した魔人ロッシュ。そして獣人族の内戦での敵軍兵士達。


 フラムやロッシュ、盗賊たちを屠ったことには何の後悔もしていない。だが、全く関係の無かった獣人族同士の内戦に関しては、後悔していないとは言えない。


 俺はただ敵側にいたというだけで、人の子を、人の親を殺したのだ。俺が殺したことで親を失った子供や、伴侶を亡くした者も多くいたことだろう。


 自分と仲間の身を守るために戦い、人を殺した。自分たちの目的のために、人を殺した。必要なことだった。


 ならば魔人族にとっても、自身や家族を守るために戦い、人を殺すことは、同じく必要なことだったのだ。


 生きるために戦う。互いの立場が違っただけだ。


「そうか……。ではせめて、戦士の誇りある死に敬意と哀悼を祈らせてくれ」


「っ……! ありがとう、なの」


 左胸に拳を当て、セントルイスの略式敬礼を取る。ジェシカは目を丸くして驚き、俯いてボソリと礼を言った。


「それで、クレイトンでの用は済んだのか?」


「あ、ああ。知り合いだけは避難させた。二人、あの村に連れて行かせてもらったよ」


 今日は早朝からクレイトンとチェスター、そして魔人族の村を転移で行き来して、知り合いやその家族を避難させた。


 ボビーの家族やスタントン商会従業員とその家族達、そしてアリンガム商会の従業員達は、【龍脈の腕輪】を使ってエルサが始まりの森の転移陣に送り届けた。アリンガム商会とスタントン商会は提携関係にあるため、ボビーの家族達の面倒はアリンガム商会がみてくれるそうだ。


 話に行く時間は無かったので、父上とクレア宛に今までの経緯を記した手紙も託している。おそらくジブラルタ王都マルフィの状況は把握しているだろうから、手紙でも経緯は理解してもらえるだろう。


 そして、マイヤさん夫妻は俺が【転移】で魔人族の村に送り届け、ジェシカの母であるヴィクトリアに任せている。マイヤさんも魔人族とその他の人族がともに暮らしている村を目にして驚いてはいた。


 だが、そこはさすがのマイヤさんだ。あの選民意識が強いエウレカで、神人族でありながら他の人族と分け隔てなく接していただけはある。すぐに魔人達に馴染んでいた。


 ヘンリーさんのところにも顔は出したのだが、やはりシンシア夫人は主人と共に王都に残ると言って聞かず、セシリー宛の手紙を託された。これから混乱に陥るであろう王都から自分だけ逃れるわけにはいかないそうだ。


 ヘンリーさんは武人だから王都に残って来るべき竜の襲来に備えるのはわかる。出来ればシンシア夫人やボビーは避難させたかったが、戦場を支える後方支援の役割があると言われたため、無理に連れ出すのは諦めた。


 多少、心残りはある物の、知り合いの避難と必要な情報共有は済ませることが出来た。あとはルクスを罠にはめる準備だけだ。


「そうか。ならば明日の作戦を共有するぞ」


 そう言ってアザゼルは修練場の地面に描かれた巨大な魔法陣の上に鎮座した、3つの六角水晶塊クリスタル・クラスターに視線を向けた。



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