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騎士とJK  作者: ヨウ
第十章 永久凍土の名も無き村
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第427話 意思

「もう……限界、なのです」


「俺もだ……」


 ローズの『ジブラルタの大杖』の強化を終えたアリスと俺は、疲れ果てて地べたに崩れ落ちた。


 魔力回復薬をがぶ飲みしながら武器の加工を続けていたが、回復薬を飲める量には限りがあるし、それを消化する身体にも限界がある。アスカの【アイテムメニュー】があれば腹を膨らませずに魔力だけを補充することもできたのだが……。いや、そうしていたとしても集中力の方は限界だっただろうな。


 それほどまでに神授鉱の錬成には集中力を要するし、俺の方も『励起』を維持し続けるのは相当な負荷がある。魔力はもうすっからかんだし、指一本を動かすのも億劫なぐらいだ。


「はは、お疲れ、アリス」


「お疲れ様、なのです」


 アリスは疲れ果てて座り込みながらも、満ち足りた顔つきで微笑んだ。


 アリスはついに母の願いを叶えたのだ。例えそれがアザゼルの見せた幻影だったとしても、アリスの母がそれを『神龍の天啓』だと信じて逝ったのであれば、それは真実なのだ。アリスにとっても。


「素晴らしいっ! これが、神授鉱の武具か!! すごいぞ、なんだこの特性(スキル)は!?」


「父様! こちらの短杖は、全属性強化がついてます! こっちは攻撃力上昇? 敏捷性上昇も!?」


 ジオット族長とイレーネは大興奮だ。ガリシア氏族の悲願が叶ったからというのもあるだろうが、鍛冶師として『神授の剣』や強化された『王家の武器シリーズ』に惹きつけられるのだろう。武器の持ち主である俺達を、そっちのけで盛り上がっている。


「アリス、鑑定したんだろ? どんな仕上がりなんだ?」


 神授の剣が完成した時に何度か素振りをしてみたのだが、違和感は全く無かった。白銀の剣とそっくりだったからだ。違いは剣身(ブレード)が白銀色ではなく碧色であることぐらい。

 

 剣身の長さや厚さが同じ。それはいい。


 (ガード)の意匠も、柄頭(ポンメル)に刻まれたウェイクリング家の紋章も同じ。それもいい。


 だが、重さが同じなのはおかしい。


 同じ大きさのインゴッドで比べてみると、白銀よりも神授鉱の方が明らかに比重が大きかった。そのため、白銀の剣に似せて作った剣は重くなるはずだったのだ。


 ある程度は使い慣れた武器と長さや重さが同じであれば、違和感も無く戦えるわけだから、ありがたいことではあるのだが……。


「すごい特性がついたのです。やっぱり神授鉱はすごいのです! 神授の剣は……」


 アリスは嬉しそうに自らが強化した武器について語りだした。



--------------------------------------------


【武具鑑定】


・無銘の剣

 ランク:A+

 不壊


・ガリシアの手甲+

 ランク:A

 体力上昇(大)・防御力上昇(大)・魔法防御力上昇(大)


・アストゥリアの短杖+

 ランク:A

 四属性強化(大)


・シルヴィアの大槍+

 ランク:A

 攻撃力上昇(大)・敏捷性上昇(大)


・ジブラルタの大杖+

 タンク:A

 光属性強化(特大)


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「不壊?」


「アリスも初めて聞く特性なのです。名前の通り『壊れない』という特性だと思うのです」


 不壊(こわれず)……か。決して刃毀れせず、歪まず、折れない剣といったところなのだろうか。


白銀(ミスリル)の剣でもアルさんの力に耐えられなかったのです。励起を覚えてからは、より顕著だったのです。だから何よりも強靭で、丈夫な剣を作りたかったのです」


「丈夫な剣か……」


 火龍の聖剣を失ってから、俺はギルバードから奪った白銀の剣を主武器にしていた。白銀の剣も業物ではあったのだが、それでも聖武具と比べると耐久性に難があった。


 そもそも武器は消耗品だ。使っていけば刃毀れはするし、剣身も歪む。荒い使い方をしているつもりは無いが、外皮の厚い竜やら鉱物で出来た人形(ゴーレム)やらを相手にしていれば痛むのも早い。俺達が戦っているのはA、Sランクの硬い(・・)魔物ばかりなのだから尚のことだ。


 しかも、【竜騎士】(ドラゴンナイト)の加護の修得を果たしている俺の膂力は相当に高く、『励起』した場合は常識の範疇には収まらないほどだ。そんな力で振り回せば、剣が痛むのも当然のことだろう。


 そのため白銀の剣は、アリスに頻繁に修復をしてもらっていた。火龍の聖剣は刃を研ぐぐらいで手入れの手間はあまりかからなかったのだが、戦闘のたびに歪みや刃毀れを直さなければならなかったのだ。


「たぶん神授鉱が応えてくれたのだと思うのです。剣を拵えたことで、よくわかったのです。神授鉱は人の意思に応えて、特性が変化するのです」


 もともと加工するどころか削ったり整形することすらできなかった神授鉱だから、それで剣を作れば強靭で丈夫な剣になるだろうとは思っていた。だが実際に鍛えてみたら、硬いとか丈夫なんて水準ではなく、壊れない(・・・・)というとんでもない特性がついた。


 アリスは、『白銀の剣と同じ』で『強靭で丈夫な剣』を作りたいという願いに神授鉱が応えてくれたのだと、直感的に理解した。


 そのため、残った素材で『王家の武器シリーズ』を加工する際、持ち主が得意とすることが強化されるようにと願って、アリスは錬成を行った。アストゥリアの短杖の場合は、エルサの魔法の強化を。シルヴィアの大槍は、ユーゴーの攻撃力をより高まるように。その結果、四属性強化や各種ステータス上昇という特性が付与された。


 アリスはそんな私見を滔々と述べた。


「錬成した者の想いに応える鉱物か……まるで神授鉱自体に意思があるみたいだな」


「錬成した者の意思が宿る、のかもしれないのです」


「意思が宿る……ん? だとすると、アルジャイル鉱山に安置されていた神授鉱には……」


 俺が思いついた疑問に、アリスはこくりと頷いた。アリスも、その想像に行きついていたのだろう。


「あの白い部屋で会った紺碧の髪の女性は、神授鉱の女性像を錬成した何者かの意思だと思うのです」


 錬成に膨大な魔力を要求される神授鉱で女性像を作った何者かがいた。その何者かが、自らの意思を神授鉱物に宿した? だとしたら、あの白い部屋で聞いた詩は、女性像を作った何者からのメッセージってことか?



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 私は土塊(つちくれ)

 昏い空を漂う土塊


 ワールド・オブ・テラ

 それは夢

 

 地に満ちた人々の夢

 偽りの世界


 私は鏡

 人の想いを写す鏡


 ワールド・オブ・テラ

 それは現実


 人々の夢の続き

 写し絵の世界


--------------------------------------------


 今さらだけど、あの詩はいったいどういう意味だったのだろう。


 アスカと全く同じ声。アスカが成長した姿か姉妹かと思わせるぐらいにそっくりな容貌。各地の転移陣にある女性像にも良く似た碧髪の女性。


 アスカが目覚めないこととも、何らかの関係があるのだろうか……?




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