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騎士とJK  作者: ヨウ
第十章 永久凍土の名も無き村
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第426話 神授の剣

「エウレカも……」


「直接見たわけじゃないからエウレカの様子はわからない。だけど、ルクセリオ、マルフィ、レリダはこの目で見た。酷い……有様だったよ。エウレカも、ほぼ生存者はいないと思う」


 事実の確認をしようがない遠く海を越えた場所のことだし黙っていることも出来た。でも、いつかは耳にしてしまうだろうから、各都市に起こったことをマイヤさん夫婦に話した。


「そう……二度と帰ることはないと出て来た街だけど……無くなってしまったなんて……」


 そう言って、マイヤさんは顔を伏せた。長い時を過ごした故郷が滅んだ悲しみと怒りは、俺にはとうてい計り知れない。


 簡単に受け入れられることでは無いだろう。だが、悲しみに暮れていられる時間も無いのだ。


「もしマイヤさんが避難を望むなら、魔人族の村に案内するよ。魔人族の村になんか行けないって言うのなら、安全は保障できないけど俺の出身地のチェスターでもいい」


 今、俺達は、冒険者ギルドのほど近くにあったマイヤ魔道具店にお邪魔している。マイヤさん夫婦は商人ギルドマスターのシンシアさんが紹介してくれた物件に店を構えたばかりだったそうだ。


「この街は央人族と他の種族が分け隔てなく暮らしてる。この人の余生を過ごすには良いところだと思ってたんだけどねぇ」


「仕方がないさ。一度は故郷の地を踏めたんだ。もう十分さ。危険だとわかっているのに、ここに残ることはないよ。避難した方が良いだろう。君には安全なところで長生きしてもらいたいからね」


 マイヤさんの夫である初老の央人男性が、優しく微笑む。


 実際には長年連れ添った夫婦らしいけど、マイヤさんは20代前半ぐらいにしか見えないから、二人は父娘か爺孫にしか見えない。だが、お互いがお互いのことを想い合う仲睦まじい夫婦であることは、二人のやり取りから十二分に伝わってきた。


「あんた……。なら決まりだ。明日の朝までに用意をしとくから、魔人族の村ってところに案内しておくれ」


「わかった。じゃあ、明日の朝にまた」


 マイヤさん夫婦は魔人族の村に避難する……と。これで今王都にいる知り合いには声をかけ終わった。


 ここに来る前にスタントン商会のボビーのところに寄ったが、ボビーは王都を離れないということだった。家族や従業員を置いていけないし、準男爵位を授かった王家の御用商人としての立場もあるから自分だけが逃げるわけにはいかないそうだ。


 いちおう家族や従業員だけでも避難させることも出来るとは伝えている。本当は魔人族の村に連れて行くのが一番安全なのだが、さすがに何十人も連れて行くことは出来ないので、チェスターに避難させるつもりだ。


 冒険者ギルドマスターのヘンリーさんは、妻のシンシアさんだけでも避難させたいと言っていたので、明日の朝に冒険者ギルドにも顔を出す予定になっている。シンシアさんも商人ギルドマスターとしての立場があるし、ヘンリーさん一人を置いて避難はしないのではないかとも思うけど……。


 そして、アリンガム商会の従業員達は、明日の朝にチェスターに送り届けることになっている。今頃、大急ぎで荷物をまとめているところだろう。時間が許せば、父上にもお会いして状況をお伝えしたいところだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 王都の知人達には一通り声をかけたので、俺達はいったん魔人族の村に【転移】で帰って来た。もしかしたら目を覚ましているんじゃないかとジェシカの穴倉に急いだが、アスカは相変わらずベッドの上で眠り続けていた。


「アスカ……」


「そう……まだ目を覚まさないのね」


 アスカの髪をそっと撫でる。


 アリスの従妹のイレーネとその従者達が様子を見てくれていたのだが、特に容体に変化はなく、ただ眠り続けていたそうだ。


「まだ魔力が回復しないのかな?」


「わからないわ。でも、しばらくは様子を見るしかないわね。呼吸も脈拍も安定しているし、うなされてもいない。もうすぐ、何事も無かったみたいに目覚めるわよ」


「だと、良いんだけどな」


 いったいどうしちゃったんだろう、アスカは。イレーネ達の言う通り、見た目には眠っているようにしか見えないけど……もう丸一日以上も昏々と眠り続けているのだ。


 本当に目を覚ましてくれるのだろうかと、身体の内側に泥水が染み入って来るかのように、不安が心を染め上げていく。


「今は、出来ることをしましょう?」


「ああ……そうだな。ありがとう、エルサ」


 そっと手を握ってくれたエルサに微笑みかけ、アリス達のところへと向かう。


 アリスは石テーブルの上に皆の得物と神授鉱(オリハルコン)延べ棒(インゴッド)、そして魔力回復薬を並べていた。


「さあ、始めましょうか」


「まずはアルさんの片手剣からなのです!」


 そう言って、アリスは白銀の剣(ミスリルソード)を神授鉱の隣に置いた。


 皆との話し合いの結果、俺が使用する片手剣を作ることにしたのだ。単独での戦闘力が最も高いのは俺だから、俺が使い慣れている武器を作った方が良いという皆の総意だ。


 両手剣であれば俺とユーゴーで共有できるとも言ったのだが、ルクスと戦うことを考えると使い慣れている片手剣の方が良いだろうということになったのだ。


 だが、神授鉱の延べ棒は、片手剣を2本作るのには足りないが、1本では素材が余ってしまう。そのため残った素材で皆が使っている『王家の武器シリーズ』を強化することにした。


「この白銀の剣の形をマネすればいいのです?」


「ああ。頼んだ」


 白銀の剣は、ギルバードから貰った、もとい奪い取ったものだ。アザゼルに火龍の聖剣を奪われてからは、俺の主武器になっている。魔力の通りが良く、魔法やスキルとの相性がいい名品だ。


 海底迷宮の深層でのSランク以上の魔物との戦いで使っていたので、剣身の長さや厚さ、重さや取り回しにも慣れている。この剣に似せて作ってくれれば、さすがに重さは変わるだろうけど、おそらく違和感無く使いこなせるだろう。


「アルさん、魔力の補助、お願いするのです」


「ああ。いくぞアリス、【接続(リンク)】」


 俺は加護を『励起』させ、アリスに【接続】する。選んだのは俺の持つ8つの加護のうち、もっとも魔力の補正が高い【魔道士(ウィザード)】と【暗黒魔導士(ウォーロック)】の二つだ。


「んっ……はぁっ……」


 アスカが眠っているため細かくはわからないがステータス値6千を超える膨大な魔力がアリスに流れ込む。アリス魔力は、おおよそ10倍以上に膨れ上がっているはずだ。


 流れ込む魔力にアリスは恍惚とした表情を見せる。なんか、うん、色っぽいな…… 


「それじゃ、いくのです。イレーネ、サポートよろしくなのです!【錬炉】(ファーネス)!」


「うんっ」


 アリスがスキルを発動すると、石テーブルの上に球状の空間の歪みが出現する。


「きれい……」


 出現した錬金空間を見てイレーネが思わずといった感じで呟いた。


 かつては歪な楕円状の錬金空間しか生じさせることが出来ず、維持もほんの数秒しか出来なかった。だが今俺達の目の前にある錬金空間は、完全な真球状で、黄金色に輝く魔力光で満ち満ちている。


「入れるよ、お姉ちゃん」


「お願いするのです」


 イレーネは真球状の錬金空間に神授鉱を捧げるように差し入れる。神授鉱は空間の中心にふわっと浮かび上がった。


 前回とは違い神授鉱はアリスの黄金色の魔力を吸い込むことは無かった。魔力光で満ちた錬金空間に馴染むように浮遊している。


「続けるのです。【鍛造】(フォージ)!」


「うくっ……!?」


 スキルの発動ともに神授鉱の延べ棒が少しづつ形を変えていく。同時に急激に魔力が消費されていった。


 とは言っても以前のような急激に魔力を吸い込まれているような感覚ではない。アリスの加護を通して、スキルの発動に魔力が消費されているのがわかる。


「これは……きついな。こんなの、生産職に耐えられる魔力消費じゃない……」


 この鉱物を扱えるのは【鍛冶師】か【錬金術師】だけなのに、加工するのにとんでもない魔力を要求されるのだ。


 魔力値6千を超えるだろう今の俺と接続してなおギリギリ。こんなのアリスと俺でないと加工なんて出来るはずがないじゃないか。歴史上、誰一人として加工することが叶わなかった奇跡の鉱物ディヴァイン・マテリアルだというのも頷ける。


 そうこうしている間に神授鉱は変形を続け、剣の形状になっていく。そしてついに、白銀の剣と寸分違わぬ剣へと変貌を遂げた。


「…………出来た、のです」


 アリスが恭しく差し出した両手の上に、剣がふわりと落下する。空間の歪みが消失し、霧散した錬金空間から黄金色の燐光が舞った。


「仮称、『神授の剣』、完成なのです」


 黄金の魔力を身に纏うアリスの微笑みは、神々しいまでに美しかった。




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