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騎士とJK  作者: ヨウ
第十章 永久凍土の名も無き村
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第422話 邂逅

 

「え……?」


 碧い閃光にやられた目の眩みが治まり、おそるおそる目を開くと、俺達はいつの間にか何もない白い部屋にいた。


 広さは転移陣の神殿と同じぐらいだろうか。雰囲気がなんとなく似ている。女性像も匣も無いし、入り口すら無いけど。


 ついさっきまで魔人族の村のジェシカの穴倉にいたはずなのに……。


 皆、異常な事態に驚き、茫然と立ち尽くしていた。


「なに、ここ」


「アル、転移……したの?」


「いや、俺は何もしてない」


 【転移】の発動には転移先の明確なイメージが必要だ。無意識に発動してしまうようなことは無い。そもそも行ったことが無い場所や、イメージ出来ない場所には転移できないのだ。


「どこかの転移陣の神殿なのです?」


 アリスがきょろきょろと部屋を見回して呟く。


 白い部屋には俺達以外には誰もいないし、何も無い。周囲を窺ってみたところ敵性の存在や罠は無さそうだが……。


「転移陣の神殿じゃないわ、アリス。ほら、壁を見てみて」


 そう言ってエルサは壁を指さす。


「神殿の壁は、石積みだったでしょう? この壁、継ぎ目が全くないのよ。大きな岩をくり抜いたみたいだわ」


「岩……石材でもない気がするのです。鑑定も出来ないのです」


「明かりも無い。なぜ明るいんだ?」


 四方の壁と床、天井は、同じ材質の何かで出来ていた。


 転移陣の神殿の壁は、剃刀一枚だって入る隙間も無いほどに石材がぴっしりと積み重なっていた。だが、この部屋の壁はまるで一枚岩だ。しかも表面が真っ直ぐで、凹凸が全くない。


 さらに、神殿にあった灯りの魔道具が無い。灯りも無いのに、部屋が明るいのだ。かといって天井が光っているわけでもない。意味不明だ。


「どこなんだ……ここは。俺達はそろって夢でも見てるのか?」


 そう考えた方が納得できるほど、異様な空間だ。見れば見るほどに、これは現実では無いと思えてくる。皆もそう思っているのだろう。俺達はどうしたものかと顔を見合わせる。


 その時だった。不意に俺達の目の前に、紺碧の髪の女性が現れた。


「っ!?」


 俺達は咄嗟に飛び退いて女性から距離を取り、武器を構える。


「……何者だ?」


 ありえない。俺とジェシカの索敵をもってして接近に気づけなかったなんて。


 いや、違うな……。気づけなかったんじゃない。


 この女、たった今、現れたんだ。幻影魔法? 転移してきた?


 どちらも違う気がする。【幻影】(ファンタズマ)でも【転移(ジャンプ)】でもない。魔力の流れを全く感じないのだ。


 しかも、目の前に立っているのに、その存在が感じとれない。呼吸音、心音、魔力、その全てが感知できない。視覚ではその存在をとらえているが、まるでそこにいないみたいだ。


『私は土塊(つちくれ)。昏い空を漂う土塊』


「なっ!?」


 女性がおもむろに口を開く。言っていることは意味不明だ。


 でも、問題はそこじゃない。その声が、俺達が良く知っている声とそっくりだったのだ。


「その声……」


 アスカの声だ。まるで同じと言っていいぐらいに似ている。


「アスカ……?」


 声が似ていたことで、容姿もどことなく似ていることに気づく。


 目の前にいるのは、美しい妙齢の女性だ。あどけなさが残るアスカが、成長するとこんな顔貌になる気もする。ただ、目の前の女性は肌色が抜けるように白く、流れるような長髪が深い海のような(あお)だったため気づけなかった。


「もしかして……アスカのお姉さん、なのです?」


「わ、わかんない……」


 アスカが俺の手を取り、ぎゅっと握りしめる。その手は、細かく震えていた。


『ワールド・オブ・テラ。(それ)は夢』


 紺碧の髪の女性が謡うように言葉を続ける。


「何を……」


『地に満ちた人々の夢。偽りの世界』


 今、WOT(ワールド・オブ・テラ)って言ったよな?


 アザゼルもそうだったが、なぜその言葉を知っている!?


 そんな俺の疑問をよそに紺碧の髪の女性は滔々と言葉を紡ぐ。


『私は鏡。人の想いを写す鏡』


『ワールド・オブ・テラ。其は現実』


『人々の夢の続き。写し絵の世界』


 アスカに似た紺碧の髪の女性は、そこまで謡いきると、柔らかい微笑を浮かべた。


 そして次の瞬間、女性の全身が碧に魔力光を放ちだす。光量がどんどん増していき、目を開けていられず手を翳したその直後、閃光が弾けた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「んん……」


 気づくと俺は魔人族の村の穴倉に、横たわっていた。皆も同様に地面に倒れ伏している。


「おい、アスカ」


 アスカの肩をゆすり声をかける。顔色は悪くない。胸が上下しているから、命に別状はなさそうだ。


「う……」


 エルサが目を覚ましたようで、目元をこすりながら体を起こす。眩しさが残っているのかパチパチと瞼を瞬かせ、長い睫毛が揺れる。続けてユーゴー、アリス、ジェシカも目を覚ましていく。


「なあ、今の……」

 

「夢、じゃないわよね?」


「アスカのそっくりさんがいたのです」


 やはり、あれは現実か……。いったい何だったんだ?


 皆、戸惑いを隠せない様子だ。だが、その中で一人だけ、眉根を顰めて、黙考している者がいた。


「ジェシカ、何か知っているのか?」


 そう問いかけると、ジェシカはふるふると左右に首を振った。


「わからないの。でも、少し思い当たることはあるの」


 ジェシカはそう言って口元に手を当てた。


「思い当たること?」


 俺は目を覚まさないアスカを抱え上げて藁が詰められたベッドに横たえながら、ジェシカに続きを促す。


「アザゼルが言っていたの。神授鉱(オリハルコン)はテラそのものだって」


「テラそのもの?」


「神授鉱は、全ての命を生み、育む大地(テラ)そのもの。星と魂を繋ぐ道標……って」


「テラ、道標……なるほど。意味が分からん」


 アザゼルめ。思わせぶりなことばかり言いやがって。仲間に対してもそうなのかよ。


 そう言えば、その神授鉱は……


「あああぁっ!?」


「うぉっ」

 

 突然、アリスが叫び声をあげた。わなわなと震えて何かを抱きかかえている。


「それ、神授鉱なのか?」


 アリスが持っていたのは碧い金属塊だった。淡い魔力光を帯びているし、神授鉱に間違いないだろう。女性の胸像ではなく、延べ棒(インゴット)になってるけど。


「途中まで【鍛造】が出来てるのです……アリスは神授鉱を鍛えられたのです!」


 ああ、そっか。途中で非現実的なことが起こったから頭から飛んでしまっていたが、元々は神授鉱を精錬・鍛造し、剣を拵えることだった。


 形が変わっているってことは、アリスのスキル(熟練の技)は神授鉱に通用したってことだ。なんとなく、胸像だった時よりも魔力光も強くなっている気もする。


「すごいな……でも、アリスならきっと出来ると思ってたよ」


「ありがとうなのです」


 アリスが満面の笑みを浮かべる。アリスの夢がついに叶うのだ。一族の悲願である『奇跡の武具』、アザゼル曰く『龍殺しの剣』ってのが作れる。


「おめでとう、アリス」


「よかったわね!」


 皆が口々にアリスを祝福する。アリスの瞳に涙が浮かび、


 あれ? そう言えば、作った剣って俺が使っていいんだよな? 単純な剣の戦闘力で言ったらユーゴーの方が強いけど……いや、たぶん『励起』したら俺の方が強いよな? 


 でも、このインゴットの大きさなら両手剣でも作れそうだ。二人とも使えるようにしておいた方が良いのか。


 うーん、威力も期待できるから両手剣かな、やっぱり。今なら片手でぶん回すのもわけないし。ユーゴーと二人で使えばいいし。


 それにしても、こんな希少な金属で作った剣って、どれほどの切れ味になるだろうか。奇跡とか、龍殺しとか、すごい言葉が並んでるし、いやがうえにも期待が膨らむな。


 


 だが、そんな浮かれた気分でいられたのも、それから半日ぐらいの間だけだった。


 その理由は二つ。 


 アザゼルが再び現れ、龍王ルクスが王都クレイトンを襲ったと告げたこと。


 そして、アスカが一向に目を覚まさなかったこと。




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