第409話 聖都の残骸
「【転移】!」
「おおぉー!! 成功だね!!」
海底迷宮の50階層から、マルフィの転移陣から坑道を通った先にある広場への直接転移に成功した。俺達がマルフィ滞在時にいつも野営をしていたところだ。
【転移】が修得に至り、ついに転移陣ではない場所への転移も可能なった。ついにとは言っても、迷宮に潜ってから二日しか経っていないけど。
他にも、【弓術士】と【闇魔術師】の加護も修得した。たった二日で計7個ものスキル修得は、これまでのアスカ式ブートキャンプでも最速だと思う。
50階層以降はレベル50から80の恐ろしく強力な魔物ばかりが跋扈する魔境だったから、スキル習熟の効率がかなり良かったのだろう。
なお、【狩人】と【弓術士】のスキルはこんな感じだ。
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■加護
・弓術士系(DEX特化?)
狩人/ハンター
弓術士/アーチャー
精霊弓士/フォレスト
■スキル
【狩人】
・魔物寄せ
広範囲の魔物を呼び寄せる
一定時間エンカウント率アップ
・ピアッシングアロー
射属性物理攻撃
物理防御無視
弓装備要
・エレメントショット
火,氷,風,土の四属性の物理攻撃
弓装備要
【弓術士】
・鷹の目
命中率5~50%強化
・チャージショット
射,衝属性の物理攻撃
溜め時間に比例して強化
弓装備要
・呪怨の矢
射属性の物理攻撃
以下いずれかの状態異常、ステータス低下の追加効果
猛毒,盲目,麻痺,石化,混乱,破迅,破剣,破盾,破心,破杖
弓装備要
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ちなみにこれはアスカが言っていたWOTでのスキルの効果であり、実際に使ってみると微妙に違いがある。
【エレメントショット】は雷属性の魔力も纏わせることも出来たし、【鷹の目】は遠くのものがよく見えるようになるスキルだった。なにより全て弓を装備していなくても発動できる。WOTはあくまでも物語で、現実とは異なるってことなんだろうな。
「じゃあ、いよいよ聖都に飛んでみる?」
「そうだな。エースを迎えに行かないと」
あいつはきっと生き残ってる。転移したら、すぐにやって来てアリスやエルサの股座に顔を突っ込んで、アスカに怒られるに違いない。
「じゃあ、まずはお昼休憩しようか!」
「そうだな。ちょうどいい時間だし、魔力も回復させておかないと」
「今日はボア汁を作るのです!」
逸る気持ちもあるけれど、補給も大事だ。海底迷宮からの【転移】でけっこうな魔力を消費したから、聖都に行く前に魔力は十分に回復させておきたい。魔力回復薬を使ってもいいのだが、きちんとした食事を摂り、自然に回復した方が身体の負担も少ないからな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「何も変わってないね」
「転移陣を壊したんじゃなかったみたいだな」
「でも、転移陣特有の清浄な雰囲気を感じないわ」
「ああ、そう言えば……」
昼食後、俺達は無事にルクセリオの転移陣の近くに転移した。
本当は直接聖都ルクセリオに行きたかったのだが、なぜか転移出来なかった。聖都付近の場所をいくつか思い浮かべ、試してみたらルクセリオの転移陣には転移することが出来たのだ。
感覚的なものだから説明しづらいのだが、おそらく『俺の記憶にある聖都』と『現状の聖都』が大きく異なっていたから転移できなかったのだと思う。『龍脈』とやらが影響しているのかもしれないし、他にも条件があるのかもしれないが、『明確にイメージが出来る場所』で『イメージと大きな差異が無いこと』が転移できる場所の条件なのだと思う。あ、あと『視界に映る範囲』にも転移できるか。
「『転移陣の聖域』が無くなっている?」
ユーゴーが訝し気な目で周囲を見渡す。
転移陣の周りには魔物を寄せ付けない聖域がある。始まりの森にもあったし、世界各地の転移陣の周りにもあった。
以前は、ルクセリオの転移陣の周りにも聖域はあった。だが、今この周辺は魔素が漂う普通の森の中と変わらない雰囲気だ。
それ以外は前にここに来た時と全く変わらない。壊されているかと思った転移陣はそのまま残っているし、転移陣からまっすぐに聖都へと伸びる石畳もそのままだ。
「そう、みたいだな。ジェシカ、これはどういうことだ?」
「わからないの。でも……アザゼルが転移陣を封印したのではないかと思うの」
封印ね……。まあ、ここで考えてもわからないか。そもそもアザゼルの狙いや目的などわかったことがないのだ。ジェシカが知らないなら、考えても仕方がない。
「そうか……。とりあえず聖都の方に行こう。索敵を頼む」
「ええ。【退魔】」
ジェシカが目を閉じて【退魔】のスキルを発動する。なお【退魔】は、俺の【警戒】よりもさらに広範囲を感知できる【索敵】の最上位スキルだ。
ちなみに自身や仲間の気配を隠す【潜入】【隠密】の最上位スキルは【隠遁】ね。ジェシカはこれも使うことが出来る。明らかに格上で感覚も鋭そうな魔物達からも姿を隠すことが出来る超優秀なスキルだ。
海底迷宮では、このスキルにかなり世話になった。Sランクの魔物がゴブリンみたいにうじゃうじゃ現れる場所で、正攻法で戦ってたらキリがない。【隠遁】で隠れて接近し、不意打ちで致命傷を与えて一気呵成に攻め立てる……ぐらいしないと生き残れなかったのだ。
「近くにあの馬はいないみたいなの」
「そうか……」
俺達は石畳が整然と敷き詰められた聖ルクス教の聖地への巡礼路を粛々と進む。だんだんと森が開け、地平線の先に、かつて聖都だった場所が見えてきた。
「…………」
「うそ……」
正六角形に模られた高い城壁、それぞれの頂点にそびえ立つ高い塔、どこからでも見えていたひと際背の高いルクセリオ大聖堂の大尖塔。そのどれもが跡形もない。あるのは幾つもの半球状の陥没と、焼け崩れた建物の残骸だけだ。
俺も【警戒】を使って周囲の気配を探るが、エースどころか人っ子一人いない。
「信じられない……エウレカやクレイトンより規模は小さかったけど、それでも数万人の人が生活していたのよ……」
「こんなの……酷すぎるのです……」
「…………」
エルサとアリスが顔を青褪めさせて呟く。
「これから世界中の都市がこうなるというのか」
「なんてものを……なんてものを解き放ってしまったの……」
ユーゴーがギリっと歯をかみしめ、ローズが唇を戦慄かせる。ジェシカはただ黙って聖都の残骸を見据えている。
「どこかに人の気配は感じられるか?」
「……見える範囲には、誰もいないの。あの馬……エースの気配も無いの」
淡々とジェシカが言う。
「これが……魔人族だけが生き残るための代償か……」
俺の呟きに、ジェシカがビクリと身体を震わせる。
「……二手に分かれて周囲を探索しよう。アリス、ローズは俺と一緒に南側を。エルサ、ユーゴー、アスカはジェシカと一緒に北側をまわって、エースと生存者を探してくれ。日暮れ前に、大聖堂跡地で落ち合おう」
【警戒】の範囲には生き物の気配は何一つない。数キロの範囲に生存者なんていない。でも……逃げ延びている人も、いるかもしれないよな……?




