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騎士とJK  作者: ヨウ
第十章 永久凍土の名も無き村
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第407話 エクストラ・フロア

【雷雲】(カムロニンバス)!」


 海底迷宮70階層の炎天の荒野(・・・・・)に暗雲が広がっていく。


 暗く分厚い雲を作り出す第八位階の風魔法【雷雲】。雷光を帯び、間断なく雷鳴を轟かせるこの暗雲の下では、雷系統の魔法の威力が二倍近くにも跳ね上がるんだとか。


「グルルァァッ!!」


「ぐっ……」


 70階層の階層主である神狼(フェンリル)の咆哮は、耳にした者を恐怖(フィアー)硬直(スタン)混乱状態(コンフューズ)に陥らせる。しかも状態異常効果だけではなく、魔力を帯びた衝撃波となって打ち付けられるのだ。ホント勘弁してほしい。


 なおフェンリルはその名の通り神の名を冠する狼型の魔物で、堂々SSSランク魔物だ。アスカによるとパーティー単位で攻略できる限界の強さなんだとか。さらに深い階層のURとかEXランクの魔物は数十人単位のクランでないと攻略できないほどの強さを誇るらしい。ホント勘弁してほしい。


「グルルァッ!!」


【破剣・鉄壁】(デブレイブ・ウォール)!」


 惣闇色の魔力盾を展開しフェンリルが振り下ろす爪を受け止め……ようとしたが無理だった。俺は衝撃に耐えられずに弾き飛ばされる。


「今度は【鉄壁】の方がおざなりになってるの!」


「くっそ、そう簡単に出来るか!!」


「エルサが極大魔法の詠唱に入ってるの! 無駄口たたいてる暇があったら、早く立って壁になるの! 【破迅影縫】!」


 ジェシカが投擲した千本が影に刺さり、惣闇色の魔力光がフェンリルに絡みつく。【忍者】のスキル【呪術】と【暗殺者】のスキル【影縫】の『二重詠唱(ダブルキャスト)』だ。


「わかってる! おらぁっ、【破剣・盾撃】(デブレイブ・バッシュ)!」


「グギャンッ!」


 惣闇色の魔力光を纏った円盾でフェンリルの鼻っ柱を殴りつける。


「そう!『纏』に『纏』を重ねるの!」


 俺が使ったのは【剣闘士】のスキル【盾撃】(シールドバッシュ)と【弓術士】のスキル【呪怨の矢】の『二重詠唱』だ。弓術士スキルの熟練度稼ぎをしつつ、ジェシカの指導を受けてるってわけだ。


 一瞬で命を刈り取られてしまいそうな程の強敵を相手に、やることじゃないだろ。ホント勘弁してほしい。


「いくわよ! 離れて!」


「おうっ!」


 エルサの声に即座に反応し、俺とジェシカ、ユーゴーがフェンリルから一気に飛び退く。


【戦神ノ雷槌】(トールハンマー)!」


 次の瞬間、紫色の閃光がほとばしり、幾筋もの雷撃がフェンリルの首に巻かれた鉄鎖(ドローミ)に降り注ぐ。


 フェンリルの首元が焼けこげ、ぶすぶすと煙をあげる。雷撃の痺れで硬直しているようだが、フェンリルはいまだ戦意を失っていない。第九位階の風魔法が直撃したってのに、大して効いていないみたいだ。


「おっけー! そろそろ撤退するよ!」


「ええ!」


「グルアァッ!」


 仲間たちが一斉にアスカのもとに駆け寄る。同時に、痺れが解けたフェンリルも牙を剥いて突進してくる。


「【ジョブ】チェンジ! 【転移陣の守番】!」


「【転移(ジャンプ)】!」


 フェンリルの爪が届く直前に、俺達は戦域から離脱する。次の瞬間、60階層の迷宮転移陣がある草原(・・)に降り立っていた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「うんうん、効率いいね! 今日だけでアルは【弓術士(アーチャー)】を修得できたし、みんなも加護レベルが上がったし!」


「アリスのスキルレベルもすごく上がったのです! この調子なら明日か明後日には『覚醒』できる気がするのです!」


 草原の一角で野営の準備を済ませると、アスカとアリスがキャーキャーと騒ぎ始めた。


「そりゃあ、あれほどの魔物を相手にしてたらな……」


「レベル77よ? 私達より30も上じゃない」


「とても勝てる気がしないな」


 対して俺・エルサ・ユーゴーは、疲れ果てた顔を見合わせて溜め息をつく。


 SSSランクの階層主フェンリルは、残念ながら今の俺達では歯が立たない。なんたってエルサの極大魔法でもないと、ダメージがまともに入らないのだ。ほんの少しの油断でパーティが壊滅してしまうかもしれないという恐怖と緊張感の中での訓練は、なかなかに堪えた。


「アルフレッドの【転移】があればいつでも離脱できるのだから、多少の危険があっても挑戦すべきなの。これほど密度の濃い修練はそうそう出来ないの」


 ジェシカはアスカ式ブートキャンプがいたくお気に召したようで、ずいぶんと饒舌になっている。


 俺達の知らない加護やスキルの使い方を知っているぐらいなのだから当然把握していると思っていたが、意外にもジェシカはスキルにレベルが存在することを知らなかった。スキルは、使えば使うほどに研ぎ澄まされていくことを経験的に知ってはいたが、自身よりも強力な魔物と戦うことで効率が良くなることも知らなかったらしい。


 まあ、普通は自分達よりもレベルが高い魔物と相対したら、出来るだけ速やかに討伐しようとするだろう。無駄に魔力を消費してまでスキルを連発するなんて、よほどの馬鹿でもないとやるはずがない。知らなくとも無理はないかもしれない。




--------------------------------------------


ジェシカ・プライド


■ステータス

Lv : 45

JOB: 忍者Lv.1

VIT: 1120

STR: 1149

INT: 1264

DEF: 886

MND: 936

AGL: 3078+550


■スキル

短剣術・投擲術

夜目・隠遁・退魔

瞬身・暗歩・影縫


呪術Lv.7・口寄せLv.7・陰陽五行Lv.7


■装備

白銀の短剣

戦乙女(ゴシック&)の礼装(ヴァルキリー)

疾風の編み上げブーツ


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 ジェシカはアザゼル達とともに鍛錬を積んでいたそうだが、レベルが40を超えたあたりから成長が止まってしまったと感じていたのだそうだ。実際に、【暗殺者】のスキルまでは修得を果たしていたが、【忍者】のスキルについては未修得だった。


 レベル40を超えると、Aランク以上の魔物と戦わない限りスキルの熟練度は稼げない。そしてAランク以上の魔物となんて、海底迷宮(ここ)でも無いとそう簡単には出会えない。成長が止まったというか、単に身体レベルが上がりすぎて自身を超えるレベルの魔物と戦う機会に恵まれなくなっただけだろう。


 アスカがそう教えると、ジェシカは嬉々として熟練度稼ぎに勤しんだ。そのおかげで【忍者】のスキルは凄まじい勢いでレベルが上がっている。アスカの【ステータス】で熟練の度合いを数値で見れるようになったことも、ジェシカをやる気にさせた一つの要因だろう。


 ちなみに、【忍者】のスキルの効果はこんな感じだ。



【忍者】

 ・呪術

  以下いずれかのステータス低下の付与。

  破迅,破剣,破盾,破心,破杖


 ・口寄せ

  魔石を消費し魔物を召喚する。


 ・陰陽五行

  以下いずれかの魔法攻撃。

  木遁,火遁,土遁,金遁,水遁



 【呪術】は闇魔法の【弱体】とほぼ同じ効果で、敵のステータスを低下させるスキルだ。【口寄せ】も【錬金術師】のスキル【人形召喚】とほぼ同じ効果だ。


 そして【陰陽五行】は、自身を起点に炎を放射する【火遁】、幾つもの岩弾を射出する【土遁】、雷撃を浴びせる【金遁】、水を噴射する【水遁】、そして急成長する樹木で敵を縛り付けて圧迫する【木遁】の5種の魔法攻撃を操る一風変わったスキルだ。


 これらのスキルを修得すれば、ジェシカのステータスはさらなる成長を遂げるだろう。今の時点で敏捷性では敵わないのだから、手が付けられなくなりそうだ。


 ほんと最上位加護持ちってうらやましいな。どれか一つでいいから、俺も身に着けられないものだろうか。



「ところで、【転移】の方はどうなの?」


「スキルレベルは5まで上がったそうだ。たぶんだけど、そろそろ転移陣以外の場所にも転移できるようになると思う」


 【転移】の熟練度の稼ぎ方は、すぐに分かった。60階層の階層主である『狂獣の王(キング・ベヒーモス)』との戦いで劣勢に立たされ、一時撤退するために【転移】で50階層まで逃げたところ、あっさりとスキルレベルが上がったのだ。


 他のスキルと同様に敵がいる場所でスキルを発動することが熟練度を得る条件だと仮説を立てた俺達は、出来うる限り深い階層まで攻略をすすめることにした。皆の加護を強化することと【転移】を修得するためには、それが最高効率なはずだとアスカが力説したからだ。


 確かに効率は良かった。成長が鈍っていた皆のスキルもどんどんレベルが上がっている。


 でもさ、出てくる魔物が最低でもAランクって、いくらなんでもやばすぎだろ……。




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