第404話 転移
早速、アスカに加護を変えてもらった。もちろん、【転移陣の守番】の方だ。【闇魔術師】は何のスキルが手に入るかわかっているから後回しでいい。
「じゃあ試してみるぞ」
「うん……」
「行くぞ……【転移】!」
ジェシカを含むパーティ全員が白光に包まれ、一瞬で視界が切り替わる。祈る女性の像や蓋が外された白い棺が消え、目の前には真白な雪原が広がっていた。
「おおーすごい! 【龍脈の腕輪】がいらなくなったね」
「いや、スキルレベルが低いからってのもあるんだろうけど、けっこうな魔力を消費するみたいだ。そう乱発は出来ないかな」
「そっかぁ。じゃあ魔力消費ゼロで使える『龍脈の腕輪』の方がコスパがいいね」
「それはアスカだけなの。普通はかなりの魔力が必要なの」
へえ、そうなのか。『龍脈の腕輪』はアスカに持たせてるから使ったことないんだけど、本来は魔力を消費するのか。
薪ストーブやランプみたいな魔道具を使用するには、埋め込まれている魔石に魔力を注ぐ必要がある。『龍脈の腕輪』だって魔道具の一種なんだから魔力を注ぐ必要があるのは当たり前か。
魔力が一切ないアスカがなぜ使えたのかはわからんけど、たぶんアスカの【アイテム】の効果だろう。アスカのスキルは理解不能だから考えてもしょうがない。
「たぶん一緒に転移した人数が多いから魔力消費も多かったんだと思う。『龍脈の腕輪』があるなら、さほど使えるスキルってわけでもないな」
「むぅー。知らない加護だったから期待してたのにー!」
「もともと森番は何のスキルも恩恵もない加護なんだから、期待する方が間違ってる」
「なんだか自虐的ね……」
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アルフレッド
■ステータス
Lv : 43
JOB: 転移陣の守番
VIT: 2730
STR: 2730
INT: 2730
DEF: 2730+330
MND: 2730
AGL: 2730+300
■ジョブ
騎士・拳闘士・竜騎士
導師・魔道士
暗殺者・狩人
■スキル
剣術・盾術
初級弓術・初級槍術
馬術・投擲
夜目・隠密・警戒・瞬身・暗歩・影縫
挑発・盾撃・鉄壁・烈攻・不撓・魔力撃
威圧・気合・爪撃・内丹・心眼・剛拳
第六位階黒魔法
第六位階光魔法
牙突・跳躍・看破・貫通・鎧通し・伏竜
魔物寄せ・ピアッシングアロー・エレメントショット
弓術Lv.4
転移Lv.1
■装備
白銀の剣
火喰いの投げナイフ
千本
双竜の革鎧
混沌の円盾
風装の足輪
土装の腕輪
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いつの間にか【森番】の代わりに加わっていた新たな加護【転移陣の守番】で手に入ったスキルは【転移】の一つだけだった。名前の通り転移することが可能なスキルで、何処からでも転移陣に転移することが出来る『龍脈の腕輪』と同じ効果がある。
……と皆には説明している。
今はあえて口外していないが、このスキルの真価は破格だ。
スキルレベルを上げて試してみないとわからないけど、おそらくこのスキルは『何処からでも何処へでも』転移できる。たぶん明確にイメージできる場所や視認できる場所なら何処にでも転移可能だ。
現時点では、スキルの発動に時間がかかったし、かなりの魔力が必要だった。だが、この問題についてはスキルレベルが上がれば解消されるだろう。他の加護のスキルや魔法も、レベルが上がるにつれて詠唱時間は短くなり消費魔力は少なくなったのだから【転移】も同様だと思う。というか同様であって欲しい。
もし、即発動でかつ魔力消費が少なくなれば、実戦においてこれほど強力なスキルは無い。ふと思いつくだけでも、敵の背後に転移して奇襲、広範囲の魔法攻撃を回避……なんて使い方が出来るのだ。
最優先でスキル熟練度を稼いでおきたい。たぶん使用回数でレベルを上げられるスキルだと思うけど……後でアスカに相談してみるか。
もちろん他の仲間達にも後でこのスキルの真価を伝えるつもりだが、今はジェシカが一緒だから秘密にしておいた。敵対するつもりは無さそうに見えるし、俺達を鍛えるために同行するとか言っていたけど、まだ信用は出来ないからな。
「じゃあ予定通り、マルフィに行く?」
冥龍の間とサローナの転移陣の神殿に行き、目的のものも入手したから、聖都ルクセリオへ向かう。他の転移陣は聖都ルクセリオからかなり離れているが、マルフィはわりと近いのでマルフィの転移陣から聖都ルクセリオへ向かうつもりだ。
とはいえ、わりと近いと言っても直線距離で数千キロはあるので、エースがいない現状だと陸路ではかなりの日数がかかってしまう。なんとか船を調達して海路で向かうつもりだ。それでも一月以上はかかってしまうだろうけど……。
「ああ、そうしよう。せっかくだから俺が【転移】スキルを使うよ」
「うん、行こう!」
俺は皆がうなずくのを見まわして、【転移】を発動した。
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「うん、無事成功だね!」
「あっついのです! 火晶石を外しちゃうのです」
「ほんとだな。アリス、頼んだ」
マルフィの転移陣は崖の上の高台にあり、風もわりと強く吹き付けているから比較的涼しい。だが、永久凍土たるサローナに比べれば、暑いと言ってもいいくらいだ。服の裏地に張り付けた火晶石のせいで、ぶわっと汗が噴き出てくる。
「外しちゃうねー。【装備】」
アスカがスキルを使用して俺とユーゴーから揃いの鎧を一瞬で取り外す。続いてアスカは幌馬車を取り出し、女性陣を引き連れて入っていった。
俺はその場で防寒着を脱いで、普段着に着替える。こういう時、男性一人ってのはちょっと寂しい気がするな。美女、美少女に取り囲まれておいて何を贅沢なと怒られてしまいそうだが。
「ちょっと散歩してくるわね!」
「おう」
ローズは着替える必要が無いため、崖の方に歩いて行った。ジェシカも着替えないようで、転移陣の端に腰かけている。
屋外で素っ裸になり着替え終わったので、俺もローズがいる方へと向かう。無口なジェシカと二人でいても気まずいだけだし、この崖から見る風景は見事だったから眺めたいと思ったのだ。
「ローズ?」
「ア、アル……マルフィが……」
ローズは崖の上で、腰が抜けたかのように座り込んでいた。何事かと駆け付けると、ローズは声を震わせて崖下の海を指差した。
ほんの少し前にここを訪れた時、断崖絶壁の下には瑠璃を思わせる深い青緑色の海が広がっていた。皆で美しい光景を見下ろし、その美しさに感嘆のため息をついたのはまだ記憶に新しい。
今、眼下に広がる風景は、まるで別の場所だと思ってしまうほどに変わり果てていた。
狭い海沿いの土地にひしめく様に建っていた真っ白な家屋は根こそぎ無くなり、崩壊した建物の残骸が散らばっている。地表が剝き出しになった山肌は、まるで巨大な爪で削り取られたかのようだ。
そして、湾の真ん中に林立していた無数の塔は、消えてなくなっていた。ひと際高く海上に屹立していた王の塔も、空中回廊が渡されたたくさんの白亜の塔も、煌めく瑠璃の海に浮かんだ船舶の姿も無く、ただ茶色く濁った海だけが広がっていた。
「マルフィが……なくなっちゃった……」
俺は言葉を失い、ローズの震える肩に手を置くことしかできなかった。




