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騎士とJK  作者: ヨウ
第十章 永久凍土の名も無き村
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第401話 狂った運命

 その日の夜、俺達は穴倉の中で食事をとりつつ、顔を突き合わせていた。メニューは鳥のスープで米を煮たオカユで、アイテムボックスに保管していた調理済みのものだ。


 ジェシカは俺達をここに残して出て行ったので、ここにはいない。食事を用意してくれると言っていたが丁重にお断りした。


『貴方達が明日の心配をせずにお腹いっぱい食事をとっている時、ジェシカ達は飢えて死んでいく子供の手を握っていたの』


 そんな話を聞いた後で世話になるわけにもいかないだろう。アスカのアイテムボックスには、俺達が1年は過ごせるぐらいの大量の食糧が入っているのだから。


 ただ、寝床だけは借りることにした。洞窟を一歩外に出れば雪降り積もる極寒の大地なのだ。他に選択肢は無い。


 魔人族の村で一夜を過ごすのはどうかと思わないでもないが、ジェシカ以外は目立った戦士はいないようだし、敵意も感じられない。


 もしアザゼル達がここに来たとしても、今さら戦うことにはならないだろうし。ヤツの仲間であるジェシカが客として案内したのだし、そもそも俺達を害するつもりがあるなら、聖都で放置しておけば良かったのだから。


「……美味しいね」


「そうだな」


「飢えて死んで行く子供か……」


 ユーゴーがぽつりと呟く。


「あたし達、食べるのに困ったことってないもんね」


「食糧難を目にしたのも、レリダの難民キャンプぐらいだったな」


「戦闘の加護を持っていれば、食べるのに困ることはそうそう無いものね」


「アリスも2年近くダンジョンに籠ったけど、食べる物には困らなかったのです」


 人が住む町や村の近くには、たいてい食材の宝庫である森がある。木の実や果物を採取できるし、魔物を倒して食用の肉を手に入れることもできる。


 野菜や穀物だけはそうもいかないけど、飢えないだけの食糧を入手することは、そう難しくない。数万の都市住民が避難していた難民キャンプでも、冒険者やガリシア兵達が近隣で魔物を狩りまくって食料を確保し、急場を凌いでいたぐらいなのだ。


 だが、この極寒の大地には森などどこにもないし、魔物すら生息していない。食糧生産が出来るのも、おそらくこの洞窟に限られるのだろう。魚や海に棲む魔物は多少獲れるとしても、食糧事情はかなり厳しいようだ。


 そう考えるとアストゥリア帝国もマズい状況にあるかもな。周囲は岩石砂漠が広がっていて森が無いから食料調達は難しい。都市の中にあった農地も魔法陣エウレカが作り出す潤沢な水が確保できなければ、維持はできない。


 今頃は厳しい食糧難に喘いでいるかもしれない。食糧難どころか、神龍ルクスによる直接的な危機が近づいてきているのかもしれないけど……。


「それで……ジェシカの話、どう思った?」


「……わからないのです。でも、ジェシカが嘘をついているようには思えないのです」


「同じく。少なくとも彼女はそう信じている」


 俺の問いかけにアリスとユーゴーが答える。エルサはわずかに眉をひそめたが、反論はしなかった。


「神龍ルクスが実は封印されてて、アザゼル達はそれを解こうとしてたなんてね。ストーリー展開が違いすぎて、もう何が起こるかもわかんないよ……」


「魔人族が神龍ルクスの神座へと至る転移陣を破壊しようとする……か」


 アスカから聞いていたWOTの展開と現状は、全く異なってきた。あれ、でもそれって……


「メインクエスト失敗。ここはゲームオーバー後の世界ってことだよね」


「……物語が正しく終わらなかった世界、ってとこか」


 魔人達は世界中の人族が信仰する聖ルクス教に混乱をもたらすために、『神龍ルクスの神座へと至る転移陣』とやらを破壊するつもりなのだと思っていた。だが、ジェシカが言っていたことを信じるなら、魔人族の狙いは全く違った。


『……我らの血族が、生き残ることだ』

『アザゼル……後は……頼んだ………』


 地竜の洞窟でそう言い残して死んでいった魔人ロッシュの言葉を思い出す。ずいぶん前に、俺達は魔人族の目的を聞いていたってわけだ。


「神龍ルクスは全ての人族を滅ぼそうとし、封印された。アザゼル達は私達を利用して、その封印を解いた」


 エルサがとても信じられないとでも言うように、表情を歪める。


「封印の鍵は守護龍から授かった加護と聖武具か……」


 ジェシカによると、アザゼルは神龍ルクスの封印を解くために、守護龍の魔力が色濃く残る聖武具を欲していたのだそうだ。おそらく授かったばかりの聖武具が必要だったということだろう。


 守護龍は六勇者の血を引く者にのみ聖武具を与えるのだそうで、アザゼルはセントルイス王家、ガリシア氏族、アストゥリア選帝侯家、マナ・シルヴィア、ジブラルタ王家の血縁者に対し、何十年も前から謀略を巡らせていたらしい。アザゼルがあんなにもしつこく俺達につきまとったのは、守護龍達が与える聖武具を手に入れるためだったというわけだ。


 アリスが【封印(シール)】の呪いをかけられたのも、エルサの従妹のキャロルが殺害されたのも、ユーゴーと母のユールが【隷属の魔道具】をつけられたのも、全ては聖武具を入手するための遠大な計画だったのだ。


 そして、チェスターが襲撃されたのも、その計画の一つだった。


 俺の生家であるウェイクリング家は何度かセントルイス王家から婿や妻を迎えているから、直系ではないもののセントルイス王家の血を引いている。そのため、アザゼルは火龍の聖武具を入手するために、ギルバードを利用しようとしていたのだそうだ。チェスターでギルバードに重傷を負わせて挑発し、王都クレイトンに誘導するという予定だったらしい。


 そこに俺が登場してフラムを殺したから、急遽俺を利用する計画に変更したのだそうだ。ちなみにジブラルタ王家は、後継者候補達が海底迷宮の攻略を競っているから、候補のうち誰かを利用すればいいと考えていたらしい。


 俺達の仲間以外にも聖武具入手のために利用する候補者は複数いたそうで、少しでも歯車がずれれば俺達の仲間は全く違う顔ぶれになっていたのかもしれない。


「俺達はアザゼルに体よく利用され、運命を狂わされたってわけか」


「自分達が生き残るためだけに私達を利用し、全ての人族を滅びの運命に巻き込んだ。とても許せることじゃないわ」


「アザゼルが封印を解かずとも、数十年後か数百年後に封印は解けていたという話だったが……」


 いずれにせよアザゼルの謀略は成功し、神龍ルクスは解き放たれた。聖都ルクセリオの惨劇が、今後は世界中で繰り返されるのだ。


 それが真実だったとしても、欺瞞であったとしても、もうどうしようもない。


「それで……これからどうするのです?」


「ここに残るか……」


「戦うか……ね」


 ジェシカから提示された選択肢は二つ。


 一つは、この村で暮らすこと。


 アザゼルが神龍ルクスとかわした盟約で、この大陸だけは襲われない。ジェシカは利用したお詫びに、俺達だけならこの村で暮らしてもいいと言っていた。


 そしてもう一つは、神龍ルクスに抗うこと。


 アザゼル、ラヴィニア、グラセールの3名は神龍ルクスに挑むため、この村に戻らなかったらしい。万が一にも生き残る可能性は無いが、魔人族が生き残るためだけに世界の人族を生贄に差し出したケジメをつけるつもりなのだそうだ。


「でも……私達と違って『聖武具』と『加護』の両方を守護龍から授かった本物(・・)の『龍の従者達』と守護龍が束になってかかっても、封印することしかできなかった相手なのでしょう? 『加護』を授かっただけの魔人族にすら敵わなかった私達が抵抗したところで、何が出来るのかしら……」


 そうなんだよな……。俺達は守護龍から『聖武具』は授かったが『加護』を授かることは出来なかった。『龍の従者』ですらなかった俺達に、抗うことなんて……出来るのだろうか。



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