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騎士とJK  作者: ヨウ
序章 始まりの森
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第4話 不遇の加護

 ウェイクリング伯爵家は、多数の優秀な軍人を輩出している騎士の名門だ。血筋に繋がる者のほとんどが【騎士】、稀にその上位職である【聖騎士】の加護を与えられていた。


 俺はその伯爵家の長男として生まれ、騎士、そして領主となるための英才教育を受けていた。もちろん俺自身も、民衆を守り、導く存在であろうと努力もしていた。


 家庭教師に教わり、馬術や水泳、剣術、槍術、弓術などの基礎も身に着けた。勉学にも励み、読み書きや算術も得意になった。日曜学校では常に優等生だったし、優秀なリーダーであろうとした。


「アルフレッドが聖騎士の加護を賜ることは間違いありません」


 両親だけでなく、家庭教師たちもそう言ってくれていた。俺自身も聖騎士となれると当然の様に信じていた。




◇◇◇◇◇◇◇◇




 15歳の誕生日を迎え、『成人の儀』を執り行ったあの日、伯爵家の大広間には家族だけでなく軍の関係者や役所の重鎮、大商会の会長などのそうそうたる顔ぶれが集まっていた。そんな中、儀式を執り行った教会の司教は、水晶に浮かび上がった加護の名を震える声で読み上げた。


「……アルフレッド・ウェイクリングに与えられた加護は……【森番】。し、神龍ルクスの思し召しに感謝を。敬虔なる神の子に祝福を」


 数瞬の沈黙の後、伯爵家の大広間が悲鳴と怒声に包まれた。母が卒倒して運び出され、顔面蒼白の父が司教に詰め寄り悲痛な叫び声をあげる。


「そ、そんなバカな! し、司教殿、何かの間違いではないのか!?」


「……間違いではございません。神がアルフレッドに授けた加護は【森番】。転移陣の守護者でございます……」


「守護者だと!? 森番など転移陣の清掃員ではないか! や、やり直しだ! 司教殿、やり直しを要求する!」


「……アイザック殿。お分かりのはずです。何人にも授かった加護を覆すことは叶いません。授かった加護を否定することは、神龍ルクスの愛を否定することと同義なのです」


「そ、そんな。アルフレッドほど才能に恵まれた者はいないというのに。なぜだ……神龍よ、なぜこのような仕打ちを……」


 父が頭を抱え、広間の床に膝をつく。その横を通り過ぎ、司教が沈痛な面持ちで俺に声をかけた。


「アルフレッド。『成人の儀』では、その者が持つ才能や血筋、魔力の性質などから、最も適性のある加護が神から授けられると言われてはいます。ですが、どんなに才能に恵まれていても、努力を積み重ねていたとしても、思いがけない加護が与えられることもままあるのです」


「………」


 俺はと言えば、あまりの事態に言葉をなくし、ただ茫然と立ち尽くすばかりだった。


「人は加護を選ぶことは出来ない。すべては天の配剤なのです。神に与えられた加護に従い、勤勉と倹約に努めることのみが魂の救済につながります。貴君が神龍の思し召しに従い、森番としての務めを全うすることを期待します」


「……はい。……神龍ルクスの……御心のままに」


 祝福に満ちた伯爵家当主として、そして騎士としての栄光の未来が永遠に奪われた一瞬だった。




◇◇◇◇◇◇◇◇




 その後のことは、あまり覚えていない。気付いたら始まりの森の聖域で、元冒険者という兵士から生存術を教わっていた。そしてその兵士が去った後、始まりの森の奥深くで俺はたった一人になった。


 後から聞いた話では、父上は『成人の儀』の後に、俺を廃嫡したそうだ。森番は始まりの森の聖域に住むことになるため、伯爵家を出なければならない。そんな俺が、爵位継承権を持ち続けているわけにはいかないからだ。そうして俺は姓を失い、ただのアルフレッドになった。




 森に来た当初は生きていくことだけで精いっぱいだった。小動物を狩り、魚を釣り、木の実を採取し、食いつないだ。なんとか生きていくことが出来るようになった頃、今度は孤独と絶望に苛まされるようになった。


 立派な騎士になろうと努力をし続けた俺が、なぜこんな思いをしなければならないのか。よりにもよって無能の代名詞とも言える森番の加護が、なぜ俺に。俺は自分の不運と、加護を与えた神龍を恨んだ。


 森番である限り、俺は死ぬまでこの森から解放されない。貧弱な俺は聖域を包む始まりの森を、生きて抜けることすら出来ないからだ。聖域は俺にとって、天然の牢獄でしかなかった。


 役所への報告のために半年に一度は、兵士の付き添いのもと町に行くこともある。だが町に行ったところで、向けられるのは哀れみと蔑みの視線と言葉ばかりだ。


『あ、アルフレッド様よ。あの子、森番になっちゃったんですってね。お気の毒に』


『神童とか言われてたけどやっぱりおべっかだったのね。でなきゃ森番になんかなるわけないわ』


『伯爵家の跡取り息子が、今や森の掃除屋か。哀れだな』


『よく町に来れるよな。俺だったら恥ずかしくて人前に出られねえよ』


 伯爵の跡取りから一転して姓を奪われた哀れな男。エリートの階段を踏み外し転落していった男。無能、役立たずの代名詞。ここはお前のいるところじゃない。早く森に帰れ。町中の人たちから、そう言われているかのようだった。


 聖域から逃げ出すこともできない。町で生きることもできない。俺の心はいとも簡単に絶望に支配されてしまった。


 自ら命を絶つことを何度も考えた。だが、俺はぎりぎりのところで踏みとどまった。


 神に与えられた加護の役目を放棄することは、世間では落伍者とみなされる。森から逃げ出せば『アルフレッドは森番でさえ全うできなかった』と言われてしまうだろう。


 無能の加護として嘲笑されていた俺は、今さらどんな誹りを受けても気にはしない。だけど、これ以上、ウェイクリング家に泥を塗りたくはない。


 それに、森番の加護が与えられるのは、この領地でただ一人。つまり俺が生きている限りは他の誰かがこんな加護を与えられることは無い。こんな惨めな思いをするのは俺一人で十分だ、そう思ったからでもある。


 そうして俺は騎士の夢を諦め、ただただ漫然と始まりの森で5年の月日を過ごした。




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