第389話 聖都ルクセリオ
「『始まりの弓』ってことは……」
「【狩人】になれるよ!」
【狩人】かぁ……。弓使い系等の下位に当たる加護だ。確か『火喰い狼』のダーシャがこの加護だったよな。あとはマーカス殿下の親衛隊のビッグスもそうだったっけ。いや、あいつは中位加護の【弓術士】だったか。
「む、不満そうだね?」
「いや、新たなスキルを身に着けられるんなら不満ってこともないんだけど、今さら下位の加護かって思ってさ」
「あ、言ってなかったね。【狩人】を修得したら、中位加護の【弓術士】にもなれるよ」
「へ?」
「ほら。大事な物、『セントルイスの弓』」
そう言ってアスカがアイテムボックスから、一張りの弓を取り出した。先ほどの白い石でできた弓ではなく、鋼で補強された木製の複合弓だ。
「これで【弓術士】になれるのか? っていうかいつの間にこんなもの手に入れたんだ?」
「ああ、これ『始まりの森の神殿』にあったんだよ、実は」
「へっ?」
始まりの森の神殿って……俺とアスカが出会った直後に入手してたってこと?
「そんなもの持ってたのに、なんで今まで内緒にしてたんだよ」
「だって、【狩人】を修得しないと【弓術士】になれないのに、言ってもしょうがなくない?」
「え? あ、うん、そうなのか?」
「うん。弓使い系はWOTの3回目のバージョンアップで追加された加護だからね。聖ルクス教国のストーリーが追加された時に『ルクセリオの森の神殿』に【狩人】になれる『始まりの弓』も追加されたの。そんで、ユーザーが【狩人】の加護を修得したころに、マイナーアップデートで『始まりの森の神殿』に【弓術士】になれる『セントルイスの弓』が追加されたってわけ。
「うん。やっぱり何を言ってるのかわからん」
よくわからんが、俺が【狩人】と【弓術士】になれそうだということだけはわかった。今はとりあえずそれでいいか。
「じゃあ、ジョブチェンしちゃうよー。【ユニークアイテム】オープン、『始まりの弓』! はい、完了!」
「あいかわらず雑だな」
「新たな加護を授かったってことなのよね……?」
「ありがたみがないのです……」
ウィンドウをポチポチと弄って、アスカが俺の加護を変えてしまった。俺はもう慣れたけど、他のメンバーは若干引いている。
加護は全ての人族に神龍ルクスが与えてくれる祝福だからねえ。アスカはウィンドウをポチポチつつくだけで加護を簡単に与えてしまうんだから、呆れるしかないよな……。
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アルフレッド
■ステータス
Lv : 43
JOB: 狩人Lv.1
VIT: 2730
STR: 2730
INT: 2730
DEF: 2730+330
MND: 2730
AGL: 2730+300
■ジョブ
騎士・拳闘士・竜騎士
導師・魔道士・暗殺者
■スキル
剣術・盾術
初級弓術・初級槍術
馬術・投擲
夜目・隠密・警戒・瞬身・暗歩・影縫
挑発・盾撃・鉄壁・烈攻・不撓・魔力撃
威圧・気合・爪撃・内丹・心眼・剛拳
第六位階黒魔法
第六位階光魔法
牙突・跳躍・看破・貫通・鎧通し・伏竜
弓術Lv.1
魔物寄せLv.1・ピアッシングアローLv.1・エレメントショットLv.1
■装備
火龍の聖剣
火喰いの投げナイフ
双竜の革鎧
混沌の円盾
風装の足輪
土装の腕輪
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「ステータス、まったく変わってないな」
「そりゃそうだよ。弓使い系は特化してるステータスがないからね」
ステータスには修得している加護のうち最も補正が高いものが適用される。俺の場合、体力は【拳闘士】、力は【竜騎士】、魔力は【魔道士】、防御力は【騎士】、精神力は【導師】、敏捷性は【暗殺者】……と中位加護良いとこどりの補正がかかっている。下位の加護である【狩人】になったところでステータスが上がらないのは当たり前だ。
「隠しステータスのDEXに特化してるって話もあったけどねー。公式はコメントしてなかったから、そんなステータスがあるかわかんないけど」
「デック……?」
「器用さとか命中率みたいな意味かな」
「ふぅん?」
器用さが上がると言われてもやはりよくわからん。細かい作業が得意になってたりするのだろうか? もしかしたら武器の扱いが上手くなってるとか?
「で、新スキルは3つか」
「魔物寄せ、ピアッシングアロー、エレメントショットの3つだね。魔物寄せは魔物との遭遇率を上げるスキル、ピアッシングアローは防御力無視攻撃、エレメントショットは矢に属性を付与する効果だよ」
「ああ。前にビッグスが使ってたから、覚えてるよ」
3つとも使い道あるかな?
【魔物寄せ】は、そもそも無駄なレベル上げを避けて魔物と出来るだけ戦わないようにしているから、使う機会はほぼ無いだろう。挑発と併用して魔物を誘導するのには使えるかな?
あとは攻撃スキルか……。正直、遠距離攻撃は魔法使い系のスキルで事足りてたからなぁ。【ピアッシングアロー】は竜騎士の【貫通】と被ってるし。【弓術士】になれば有用なスキルを覚えられるから、鍛えないという選択肢はないけど。
でも、俺もだいぶレベルが上がっちゃったから、そんじゃそこらの魔物じゃ熟練度稼ぎができないんだよな。最低でもAランクの魔物じゃないとダメなんだが、このへんにいるかな? 海竜とか金竜レベルの魔物って、そういないよなぁ。いや、いたら危険なんだけどさ。
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その後、神殿を沈めて転移陣を元に戻し、俺達は聖都ルクセリオに向かう。エースに幌馬車を引いてもらい、真っ直ぐな道を進む。石畳なので揺れが少なくていい。
「見えて来たねー」
アスカが御者席に乗り出して、遠くを見るように額に手をかざす。
高い城壁がだんだんと近づいて来た。聖都ルクセリオは上空から見ると正六角形になっていて、六角形のそれぞれの頂点に高い塔がそびえ立ち、中央にルクセリオ大聖堂が鎮座している。
「ふえぇー。おっきな門なのです」
聖都の東門に着き、行列の最後尾に並ぶ。板金鎧を身に纏った聖堂騎士が騎乗して巡回しているためか、冒険者や傭兵らしき者達も騒がずに並んでおり、辺りは落ち着いた雰囲気に包まれている。
「一角獣?」
「おぉ……珍しい」
「幻獣種を従魔にするとは……」
エースは立派な角が生え、美しい白毛で体格も良い。しかもたった一体で四頭立ての幌馬車を軽々と引いているので、かなり目立つ。商人達がチラチラと物欲しそうな目でエースを見ているが、譲らないからな? エースが従うわけもないし。
冒険者タグと『王家の紋章』を門番に見すると、問題なく通してもらえた。
聖都ルクセリオの街区は六角形の頂点と中央の大聖堂を結ぶ街路で区切られている。東と西に二つの大門があり、その近くに冒険者ギルド支部がある。冒険者が獲物を納品しやすいように、大門の側に建てられているそうだ。
俺達は東側にあるギルドに向かい、受付嬢に当面この街で活動することを告げる。Aランクの冒険者向けの討伐依頼を見繕うようお願いし、紹介してもらった高ランク冒険者向けの宿を取った。
事態が動いたのは、その翌朝だった。




