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騎士とJK  作者: ヨウ
第八章 動乱のジブラルタ
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第386話 動乱を経て

「ギルバードはまだ見つかりませんか……」


「ああ。おそらく既に領地を出たのだろう。転移陣を使った形跡は無いから、まだ国内にはいるだろうが……捕捉することは難しいだろうな」


 ウェイクリング家の屋敷にて父上と向かい合う。やはりギルバードの捜索状況は芳しくないようだ。


「そうですか……」


「…………」


 父上が眉根を寄せ、疲れ切った顔でため息を吐く。


 ギルバードが【暗黒騎士(ダークナイト)】に昇格したことも父上には伝えてある。だがギルバードが吐露した想いについてまでは詳しく話していない。


『父上の、母様の期待を一身に集めるお前が羨ましかった』

『クレア嬢に慕われるお前が妬ましかった』

『一度は手にした未来を奪っていくお前が憎らしかった』


 俺の存在が心から疎ましかったのだろう。ギルバードは嫉妬や憎悪を俺にぶつけた。


 だが、その感情の根底にあるのは、父上と母様の関心を引きたい一心だったのだと思う。ギルバードの言葉をそのまま伝えるのは憚られたのだ。


 とは言え、父上もギルバードが如何に後継者の地位に固執していたかは、よくわかっているだろう。だがウェイクリング領の領主として、領地にとって最大の利益となる後継者を選ぶ責務がある。


 『龍の従者(サーヴァント)』となり、カーティス王陛下の信頼を得て王女を降嫁させるとまで言われた俺を、後継者に指名しないわけにもいかない。おそらく父上は、ギルバードには騎士団を率いて俺を補佐して欲しいと思っていただろう。


 俺とギルバードのように兄弟で跡目を争い関係が悪化することは、貴族だけでなく商会や豪農なんかでも起こり得るありふれた話ではある。ジブラルタ王家やウェイクリング家のように規模の大きな王侯貴族の場合、それが国家間の問題にまで大きくなってしまう場合も往々にしてあるだろう。


 今回は結果として、ジブラルタ王家の後継者争いにウェイクリング家が巻き込まれた形になった。だが一つ間違えれば、ギルバードが『鋼の鎧』のジグムントの甘言に唆され、ジブラルタ王国を巻き込んでいた可能性だってあったのだ。


 ギルバードと幼少の頃から良好な信頼関係を築けていたら、俺が【森番】なんて加護を授からなかったら、アスカと出会わず新たな加護を得なければ…………今回の動乱は未然に防げたかもしれない。


 ああ、ダメだな俺は。また『――たら、――れば』だ。


「……それで、今度は聖ルクス教国だったか?」


「え、ええ。明日、転移陣を使って聖都ルクセリオに出発します」


「魔人の王が神龍ルクス様の神座に至る転移陣の破壊を企てている……か」


「守護龍の天啓は、はっきりとした予言が与えられるわけではありません。ですが、今までの傾向を考えると、次に狙われるのは聖都ルクセリオだと思われます」


「そうか……無事に、チェスターに帰って来るのだぞ」


「…………はい」


 城下町チェスター、王都クレイトン、鉱山都市レリダ、魔法都市エウレカ、マナ・シルヴィア、そして王都マルフィ。世界各国の都市で魔人族と対決して来た。次はいよいよ大詰め、世界の中心『聖都ルクセリオ』だ。


 アスカから聞いたWOT(物語)の展開と現実は違う。それでも各地での動乱が起こったのは同じだった。おそらく、次の舞台は聖都だろう。



 シルヴィア大森林の世界樹の下、風龍の間で対峙したアザゼルは『ジブラルタ王国で動乱が起きる』と言い残した。そして、その予言通りにフィオレンツォの暴走によってウェイクリング領を巻き込んだ動乱が起きた。


 アスカから聞いたWOTでの展開では、海底迷宮50階層の階層主多頭竜(ヒュドラ)を倒した直後に魔人グラセールとの連戦となるはずだった。


 実際にグラセール・グリードは姿を現した。だが、アザゼルと同じく予言めいたことを言い残し、何のつもりか『龍脈の腕輪』を寄越して姿を消しただけだった。



 今回の動乱では、魔人族の暗躍が全く見当たらなかったのも気にかかる。


 チェスターの時には魔人フラムが魔物を引き連れて町を襲い、王都クレイトンでは魔王アザゼルが奪った従魔で決闘士武闘会の表彰式を襲撃した。鉱山都市レリダでは魔人ロッシュが集団暴走(スタンピード)を起こし、魔法都市エウレカでは神人族の【神子(シビュラ)】ラヴィニアが積層型広域魔法陣エウレカに干渉して不死者(アンデッド)を発生させた。


 魔物使いに化けて王都クレイトンに潜り込んだり、アリスの叔母フリーデにスキルを【封印】する魔法陣を渡したり、シルヴィア大森林に『隷属の魔道具』をばら撒いたり……と魔人達は各国を暗躍して動乱の仕込みを行っていた。


 だが、今回のジブラルタ王国の動乱に関しては、魔人族の仕込みらしきものが見られなかった。魔人グラセールも現われはしたが、『龍脈の腕輪』を渡しに来ただけだった。


 もしかしたら、ギルバードや『鋼の鎧』(ギラム・パンツァー)の団員を操っていたのではないかと疑っていたのだが、その痕跡も見つからなかった。父上の配下が【隷属】魔法を用いて尋問しても、魔人族の関与が疑われる証言は得られなかった。


 フィオレンツォを操っていた可能性は残っているが、それも無いような気がする。今回ばかりは魔人族達の目的が全く分からない。なぜ動乱が起きるなどと伝えて来たのか、なぜ『龍脈の腕輪』を寄越したのだろうか。



 聖ルクス教国でアゼザルがどう出てくるか予想がつかない。


 アスカによるとWOTでは、聖ルクス教国に行くと聖都ルクセリオ周辺で凶悪な魔物が相次いで現れたり、隊商や行商人が大規模盗賊団に襲われたりする事件が頻発するようになったらしい。


 教皇からその対処を依頼された主人公が聖都を離れ、その隙を狙って魔人族が聖都ルクセリオを急襲。魔物が徘徊する魔都と化したルクセリオで魔王アザゼルとの雌雄を決する……という展開だったそうだ。


 今まではアスカが知っていた物語の展開は一定程度の参考にはなった。だがジブラルタ王国での経緯を考えると、聖都ルクセリオでもWOTとは全く異なる展開が待ち受けているんじゃないかと思う。


 さらに懸念すべき点は、敵がアザゼルだけとは限らないことだ。


 WOTでは、次のような展開を経てアザゼルとの決戦となる。


 世界各地を巡り、王都クレイトンの闘技場で火魔法を操る魔人フラムを、地竜の洞窟で土魔法を操る魔人ロッシュを倒す。さらにマナ・シルヴィアでは風魔法の使い手である魔人ジェシカを、ジブラルタ王国では水魔法の使い手である魔人グラセールを討伐する。そして、魔法都市エウレカの地下墓所で光魔法を駆使する魔人ヴィクトリア(・・・・・・・・)を倒す。


 現実の世界で今までに遭遇した魔人族は5人。


 王都クレイトンの闘技場で遭遇したのもアザゼルと4つの人影だった。子供のような背格好の人影、一際大きな人影、女性と思しき細身の人影、そして男性に見える人影の4つだ。


 身体的特徴からジェシカ、ロッシュ、ラヴィニア、グラセールだったのだと思う。


 ラヴィニアはWOTには登場していない。魔法都市エウレカで魔人ヴィクトリアの代わりにラヴィニアが現れたと考えると、現実にはヴィクトリアなど存在しないのかもしれない。もちろん魔人ヴィクトリアなる者がこれから姿を現すのかもしれない。WOTと現実がこうまでズレ始めると、どうなるかなんて予測がつかない。



 そして、WOTではフラム、ロッシュ、ジェシカ、ヴィクトリア、グラセールの5人を倒してからアザゼルに挑むことになったのだが、現実ではフラムとロッシュ以外は倒していない。フラムとロッシュにいたっては、不死者として再登場まで果たしている。


 最悪な展開だと、今までに遭遇したアザゼル含む6人にヴィクトリアを加えた7人の魔人族と聖都で戦う事になるのかもしれない。アザゼルだけでもどうなるかわからないのに、不確定要素が多すぎる。


 まあ、何の情報も無いよりはマシかもしれないが……。




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[気になる点] 「たられば」なんて誰しもが思ってしまうことだが、そこで大切だと思っているアスカを出すなよ それはゴミ・クズ・クソ野郎の思考
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