第38話 装備品
それからさらに2日後。ちょうど1週間が経ち、注文していた武具が仕上がる頃になったので、聖域での訓練を終えることとなった。
ひたすらに増殖するスライムを倒し、剣闘士のスキルを磨き続けたことで、【鉄壁】と【盾撃】はついに修得に至った。
嫌という程にスキルを発動して魔力を枯渇させ、仮眠して魔力が回復したらまた訓練……というサイクルをひたすらに繰り返した結果だ。途中からはまるで自分が魔道具にでもなったかと思ったぐらいだ。
おかげで普通の【剣闘士】よりも遥かに早くスキルを習熟する事が出来たそうだ。アスカの考える訓練はやはり、効率がいいみたいだ。
ちなみに、【挑発】はもうしばらくの研鑽が必要だ。発動にさほど魔力を消費しないスキルは、熟練に長い時間がかかる傾向があるらしい。
どうせなら【挑発】も修得するまで訓練をしてもいいのではないかと思ったが、アスカによると聖域の森では効率が悪いので、旅をしながら修得を目指した方がいいとのことだった。
【挑発】スキルの修得条件は「発動回数」らしいので、修得を目指すとなると否応無く敵と戦う事になるけど、いいのだろうか? 聖域の外で動物ではなく魔物と戦うとなると、あれだけ避けようとしていたレベルアップに繋がってしまうと思うのだが……。
なお、現在のステータスは以下のようになっている。
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アルフレッド・ウェイクリング
LV : 2
JOB: 剣闘士Lv.3
VIT: 238
STR: 198
INT: 145
DEF: 330
MND: 125
AGL: 330
■スキル
初級短剣術・初級弓術・初級剣術・初級槍術・馬術
夜目・索敵・潜入
鉄壁・盾撃
挑発Lv.7
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力も上がってはいるが、体力と防御力の上昇が著しい。さすがは『護る』ことに特化した加護だ。
魔力や精神力などが全く上がっていないのは【盗賊】の加護の方が補正値が高いからだろう。敏捷は言わずもがなだ。
それにしても自分の能力を数値化することができるアスカのステータスメニューは、本当に便利だ。もちろんこの数値やスキルの習熟度だけで強さが判断できるわけじゃないけど、1つの指標にはなる。俺のように実戦経験が乏しい者にとっては、このステータスが教えてくれる情報はとてもありがたい。
この数字から考えると、俺の戦い方は敵が格上なら高い敏捷と防御力を活かして回避・防御主体で立ち回りつつ、反撃を狙うのがいいだろう。敵が同格か格下ならスピードで敵をかき回しつつ先制攻撃を狙う……といったところだろうか。
とはいえ、実際の戦闘では例え同じステータスだったとしても、経験によって大きな差が出てくるだろう。敵の特徴に合わせた間合いの取り方や敵の行動予測などは、数値やスキルレベルが教えてくれるわけではないのだから。
ステータスが上がった事は素直に喜んでいいとしても、慢心する事は無いようにしよう。火喰い狼との一戦で慢心や油断は、命を早めることになると身に沁みたしな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日、俺たちは再びオークヴィルに向かった。街での用事は武具の引き取りだけなので、道中で薬草刈りをしながらのんびりと進む。
アスカはまた回復薬を売って、服代の足しにするつもりなのだそうだ。スライムに服を溶かされたから、新しいのを絶対に買うと言い張っている。
俺のは替えがまだ何着かあるので、買ってくれないそうだ。腹いせにスライムを飛ばしたのが高くついてしまったな……。
あれ? でもよく考えたら服を買うお金はアスカが稼いでるんだった。薬草や魔茸を採集するのも、回復薬を作るのもアスカがやってる。
俺は『あっちに魔物がいるよ』って言うぐらいで大して役に立ってないし……。これは、男として大丈夫なのか……? 服を買ってもらえないって……ヒモか俺は……。
そんな事を考えていたら、いつのまにかアイテムボックスがいっぱいになったようでオークヴィルにまっすぐ向かうことに。まだ日が高いうちに街に入った。
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「こんにちはー!! 頼んでたの出来てますー??」
「おう、あんたらか。待ってたぜ」
武具屋の店主はそう言うと、店の奥から麻袋を引っ張り出してカウンターの上に載せた。
「注文の品は仕上がってる。見てくれ」
袋の中から取り出したのは、燃えるように鮮やかな紅色の円盾、投げナイフ、ショートソード、太ももに巻きつけるタイプの投げナイフ用のホルダーだ。
「わー、キレイな色!!」
「そうだろう? 火喰い狼の皮は、硬化処理をしても、ほとんど色合いが変わらなかったんだ」
「うんうん。すごく丈夫だね! 鉄製の盾なみの防御力があるんじゃない?」
「おお。いい目利きだな嬢ちゃん。確かに、このままなら鉄並みの硬さってところだな。だが、こいつの真価はそんなもんじゃねえ。どれ、兄ちゃん、装備してみな」
俺は手渡された円盾を受け取る。重さは2~3キロぐらいだろうか。鉄製よりは全然軽い。【剣闘士】の加護レベルが上がり、力も体力も十分にある今の俺なら全く問題なく扱えるだろう。
盾の裏側は、上の方に持ち手があり、真ん中に革の帯が付いている。注文通り腕に固定して装備できるようにしてくれたみたいだ。
俺は革帯を調整して腕を通し、持ち手を掴む。うん、仕立ててもらっただけあって大きさもちょうどいい。拳から肘までをちょうど覆うことができる。
「おう、なかなか様になってるじゃねぇか。じゃあ、その盾に魔力を通してみな?」
盾に魔力を? どうやればいいのかと思いながら、持ち手を握った手に魔力を通してみる。すると盾に魔力が吸い取られるような感覚があった。
「おっ? 魔力が……」
「その持ち手にはレッドウルフの魔石が仕込んであるんだ。そのまま魔力を注ぎ続けてみろ」
「あ、ああ」
言われるがままに魔力を注ぐと盾の表面が、うっすらと紅く輝きはじめた。
「おおっ!」
「きれー!」
店主はうんうんと頷きながら得意そうな顔で笑う。
「火喰い狼の皮は特殊魔物素材だからな。この盾はヤツの特性を引き継いでいて、魔力を注ぐと表面が硬化して熱を発するんだ。防御力は鋼鉄製に引けを取らないし、火属性の攻撃に対する耐性も上がるぞ」
それは……すごいな。確かに火喰い狼は皮が硬くて、剣が通りにくかった。そんな特性があったからなのか。
「すごいな……」
魔力を注げば防御力が上がるって事は、スキルとの相性がかなり良さそうだ。
例えば剣闘士のスキル【鉄壁】は魔力を消費して、盾を中心にして魔力の壁を展開するスキルだ。という事はスキルの発動をすれば盾自体の防御力も上がるし、もしかしたら【鉄壁】の防御力まで向上するかもしれない。
これは、試してみるのが楽しみだな……。
「いい出来ね! 投げナイフと剣の方はどんな感じ?」
「こっちも自信作だ。見てくれ」
そう言って店主はショートソードと5本の投げナイフ、ホルスターを差し出した。ショートソードと投げナイフは、特段変わった感じがしない。鞘とグリップが火喰い狼の皮が巻かれているのか濃い紅色になってるのと、刃がちょっと白っぽくなったかな??
ホルダーには3本の投げナイフが収められるようになっている。ん? なんで3本? 5本あるのに?
「このショートソードと投げナイフには火喰い狼の牙と爪の特性を付与した。火属性の魔力を注げば、刃が高温を発する作りになってる。こいつでつけられた傷は簡単には治せねえぞ。傷口が焼き鏝を押されたみたいに爛れちまうからな」
おお! そりゃすごいな。火喰い狼は自己治癒能力が高くて、かなり手こずったからな。でも……火属性の魔力なんて、どうやって注ぐんだ?
「ああ、それは握りに仕込んである。滑り止めに余った火喰い狼の革を使って、レッドウルフの魔石を埋め込んでる。普通に魔力を注げば握りが火属性の魔力に変換してくれる。試しにやってみな?」
俺は手渡された投げナイフの握りを掴み魔力を注ぐ。すると白みがかった剣身が、燃えるような紅みを帯びた。
「こいつに刃を押し当ててみろ」
そう言って店主は手のひら大の木片を差し出した。魔力をナイフに注ぎながら木片に刃先を押し当ててみると、瞬く間に焦げ付いて煙が上がった。今にも燃え出しそうだったので、俺は慌てて魔力を注ぐのを止める。
「これは……すごいな」
「ふふん。そうだろ? スライムみたいな水の属性を持つ魔物には効果てき面だ」
スライムか。当分は相手にしたくない魔物なんだが……。ここ1週間で狩りまくったからな……。
「魔力を注がなければ元の剣と同じように使えるわけね?」
「ああ、そうだ。素材の特性を付与しただけだからな」
「ありがと、良い武器だね。ちなみに、こっちのホルダーのポケットってなんで3つなの? 5本あるのに」
「ああ、言い忘れてたな。そいつの裏を見てみろ」
そう言って店主は盾を指差す。裏返してよく見てみたら腕を固定する革帯の両脇に、留め金がついていた。
「そこにナイフを2本とめておける」
「おお! これはいいな!」
咄嗟の時には太腿に巻き付けたホルスターよりも素早く投げナイフを取り出せそうだ。遠距離攻撃をしてくる敵がいたら、身を守りつつ素早い反撃に繋げられるかもな。それに、火喰い狼との戦いの時みたいに、武器を失った時にも安心だ。
「火属性付与のショートソードに投げナイフ、それに火属性耐性の円盾ね。いい買い物だったね! ありがとう、店主さん!」
アスカも嬉しそうだ。素材持ち込みとは言えたったの金貨1枚でこの武具も購入できるなんて、確かにいい買い物だった。刃も研ぎなおしてくれているし、当分はこの武具で戦っていけるだろう。
「おう。ああそれと、こいつもオマケに作っておいた。これは嬢ちゃん用だな」
そう言って渡してくれたのは、フード付きのローブだった。フードには紅いファーがついている。羊毛の白いローブと、ふさふさの紅いファーの対比が美しいな。
「え? これは……?」
「ジェイニーのヤツが作ったローブに、火喰い狼の毛をつけてある。裏地にも毛を仕込んであるから防寒はバッチリだぜ」
「えー!! こんなのも作ってくれたの!? かーわーいーいー!!!」
アスカがさっそく試着している。アスカにはややオーバーサイズ気味だが、ゆったりとした輪郭が確かにかわいらしい。
「どう、アル? 似合う?」
「ああ……かわいいよ」
「あ、ありがとう……」
素直な感想だったのだが、アスカは照れて顔を紅くする。ファーの色もあいまって、さらにかわいいな。照れるアスカってなんだか庇護欲が掻き立てられるんだよな。いつもは小憎らしいぐらいなんだけど。
そして、いつかの買い物の時のように俺たちは見つめ合う。うん……かわいいな……アスカ……。
「……ったく。ジェイニーの言う通りだな。いつまでノロけてやがんだ」
店主が呆れたように、ため息をついた。
「あ、あはは。こ、これください! おいくら!?」
「言ったろ? こいつは武具のオマケだ。ローブの方はジェイニーが用意したもんだし、余った毛を有効利用しただけだからな」
「タダ!? いいの? こんなにかわいいのもらっちゃって!?」
「料金はもうもらってるから、タダじゃねえさ。それに、嬢ちゃんたちはこれから世界中を旅するつもりなんだろ? 旅に防寒具は必需品だからな。裏地のファーはローブから取り外せるようになってるから、調節して使いな」
ほう、そりゃ便利だな。この裏地は取り外せるのか。昼間は温かいから裏地を取り外して、冷え込む夜には取り付けて着ればいい。季節に合わせて調節できるから、秋冬春と三季節で使えるな。
「ええ……そんな、悪いよ。って、あれ? なんであたしたちが旅することを知ってるの?」
「ああ、商人ギルドの連中から聞いた。あんた達みたいな優秀な冒険者がオークヴィルにいてくれたら、こっちとしては嬉しいんだけどな」
「そうだったんだ……。でも、ホントにこれもらっていいの? これ全部で金貨1枚は安すぎるんじゃない?」
「いいってことよ。余った素材で、ちょっとした武具も作れそうだしな」
「うーーん……じゃあ、遠慮なく受け取るね。ありがとう」
「おう。あんたらは町を救ってくれた恩人だし、そのうち有名な冒険者になってくれそうだしな。ウチで作った武具を使ってくれんなら良い宣伝になる。礼には及ばねえよ」
そう言って店主は豪快に笑った。ありがたい話だ。大幅に戦力増強できたうえに、アスカの服までもらってしまった。これは、服屋の方にもお礼を言いに言わなきゃな。
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■ログ
「火喰いの剣」を入手した
「火喰いの投げナイフ」を入手した
「火喰いの円盾」を入手した
「ジェイニーのローブ」を入手した
「火喰いのライナー」を入手した
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