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騎士とJK  作者: ヨウ
第一章 山間の町オークヴィル
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第37話 ブートキャンプver.2

 翌朝、俺はアスカに連れられて聖域にある泉に向かうことになった。そこでアスカ式ブートキャンプ2とやらをやるらしい。


「今日もがんばっていこー! いいアイデアがあるんだー」


 昨日のホーンラビットとの数時間に渡る戦いの末に習得した、スキルの熟練度を上げる特訓だそうだ。正直言って嫌な予感しかしない。興が乗った時のアスカは本当にめんどくさいからな。


 ちなみに、覚えたスキルは3つ。


 1つ目は【鉄壁】(ウォール)。魔力で盾を作り出し、自分の身を守るスキルだ。これは【剣闘士】(グラディエーター)が敵の攻撃を盾で防ぎ続ければ習得できるらしい。


 2つ目は【盾撃】(シールドバッシュ)。盾に魔力をこめて敵を攻撃するスキル。盾の防御力がそのまま攻撃力に転化するらしい。こちらは盾で敵を殴りつけるなり、押し返すなりを何度も行えば習得できるそうだ。


 そして3つ目は【挑発】。敵の注意を引き、攻撃を自分に集めることが出来るスキル。このスキルは【剣闘士】(グラディエーター)が敵の注意を引き続ければ、習得できるそうだ。


 ホーンラビットを煽って注意を引け。

 攻撃を盾で防ぎ、盾で殴り続けろ。

 剣や素手では攻撃するな。

 ホーンラビットを倒すな。


 それが、ホーンラビットと戦う前にアスカから指示されたことだった。何時間もホーンラビットを相手にし続けるのは正直うんざりしたけど、一気に3つものスキルが身につくのなら頑張った甲斐もあると言うものだ。


 だけど、腹がたつのは、【挑発】の習得は敵の注意を引き続けさえすれば良かったことだ。「かかって来いやァァ!!」とか「ほらほらぁ!効かねぇぞ!!」などと、まったくもって似合わないセリフを言う必要はなかったそうだ。


「ぷふっ……アル……ってば、あははは!! ちょーかっこよかったー!!」


 オマエが煽れって言ったんじゃねぇかよ! くそぉ! 騙された!!




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「スライムを探してくれる?」


 泉に着くなりアスカが言った。聖域の森のスライムは、水の中や茂みの陰に隠れ棲んでいる。偶然に見かけることはあっても、あいつらを探そうとして見つけ出すのは至難の業だ。


 だけど今なら簡単に見つけることができる。【索敵】を発動すると、人の頭ほどの大きさの反応が数多く引っかかる。泉とそこから流れる小川には、思ったよりたくさんのスライムがいるようだ。


「あそこの茂みと、そこの木の裏。そこの溜まりにもいるな」


「ホントだ! うんうん! たくさんいるね!」


 アスカは、そのうちの1つの溜まりの側に行くと、おもむろにアイテムボックスから水瓶を取り出した。


「アル、スライムをこの水瓶で拾って来てくれる??」


「拾ってくる? あ、ああ、わかった」


 俺は濡れるのも構わず川の溜まりに入り、スライムを水瓶で掬う。大量の水とともに、スライムを捕まえる事が出来た。


 聖域の森のスライムは基本的に大人しく、こちらから攻撃を仕掛けない限り襲ってくる事はない。動きもトロいので捕まえるのも倒すのも簡単だ。


「はい。捕まえたけど、こんなのどうするんだ?」


「特訓に使うんだよー。アル、ダガー貸してくれる?」


「え? あ、ああ」


 ダガーを渡すと、アスカは水瓶の中にダガーを突っ込み、ぐるぐるとかき混ぜ始める。そして、しばらく水瓶を覗いた後に「うんうん」と頷いて、俺に竜退治物語の盾(おなべのふた)を手渡して来た。


 んん?? 何をするつもりなんだ?


 何をやっているのかとブーツとズボンを【乾燥】(ドライ)で乾かしながら見ていたら、水瓶の中から人の頭ぐらいの大きさのドロドロの水の塊がこぼれ落ちて来た。


 水の塊に見えた物はスライムだった。あれ? さっきアスカが水瓶の中で切り刻んでなかったか?


「アル、このスライムに【挑発】をやって。襲いかかって来たら、【鉄壁】でガード、【シールドバッシュ】で倒して。剣は使っちゃダメよ」


「わ、わかった」


 俺は言われるがまま【挑発】を放つ。するとスライムは、ぐっと身を沈めた後に、跳ねて飛びかかって来た。大人しい聖域のスライムがそんな動きをすると思っていなかった俺は、咄嗟に竜退治物語の盾(おなべのふた)で攻撃を受け流す。


「【鉄壁】を使わなきゃ訓練にならないでしょ!」


「あ、ああ」


 スライムがまた襲いかかって来たので、【鉄壁】で防ぎ【盾撃】で殴りつける。スライムは何度かバウンドして転がり、勢いが止まった後に再び跳ねながら近づいて来た。


 挑発をかけたから普段はほとんど動かないスライムが襲いかかってきたのだろうか。聖域のスライムはまともに動けないのだと思ってた。聖域の外に出るスライムが飛び跳ねて襲って来るのを見たことがあったけど、ここのスライムも同じように動けたんだな。


 俺は再び挑発、鉄壁・盾撃のコンボを放ち、スライムを弾き飛ばす。スライムは爆散していくつかの水の塊となり、ゆっくりと地面に吸い込まれていった。どうやら倒せたようだ。


「倒しちゃったけど良かったんだよな? って、えぇ??」


 アスカの方を振り返ると、いつの間にか水瓶が2つに増えて、両方からスライムが溢れ落ちようとしていた。


「はーい、続けてー。ほらほら【挑発】して?」


「お、おう」


 俺は二匹のスライムに対し、同じように挑発、鉄壁、盾撃を繰り返す。スライムを二匹とも倒して、振り返ると今度は水瓶が3つに増えていた。溢れ落ちるスライムも3体に増えている。これは……どういうこと?


「アルー? 急いで倒さないとスライムが分裂でどんどん増えちゃうよー? ほら、がんばってー!」


 そ、そういうことか!! そう言えば、傷ついて死にかけたスライムは分裂して分体を作り出すことがあるって聞いたことがある。


 襲いかかって来るスライムから鉄壁で身を守り、盾撃で弾き返しながら、アスカの方をちらっと見るとタライで泉の水を汲んで水瓶に注いでいた。


 あの水瓶の中には死にかけのスライムが入っているのだろう。って事は、放っておけばスライムがどんどん増殖していくのか!?


「ほらほら急いでー!!」


 3体のスライムと戦っていると、4体目のスライムが襲いかかってきた。あ、ヤバい。討伐が間に合わなくなってきた。


 そうこうしている間にも、どんどんスライムが増えてくる。俺はひたすら、挑発・鉄壁・盾撃を繰り返す。


「このままじゃ……まずい……」


 水瓶の数はいつの間にか6個に増え、周りを取り囲むスライムは10体を超えていた。完全に討伐が間に合わなくなくなってくる。そして、ついにその時はやって来た。


「【鉄壁】! くっ……魔力が……切れた!?」


 発動した鉄壁だったが、次の瞬間に煌めく魔力の盾が光を失い霧散してしまった。直後、何体ものスライムが遅いかかってくる。俺の体のあちこちにドロドロのスライムが絡みついた。


 くそっ! 刃物を使えば森番の時だって倒せた魔物なのに……打撃だとこんなに効かないのか……! ヤバい、大量のスライムに組みつかれて身動きが取れない……。


 すると、アスカが預けていたダガーを振るい、右腕に張り付いたスライムを剥がしてくれた。


「アルー? MP切れちゃったんでしょー? もう剣で倒しちゃっていいよー?」


「はぁっ、くそっ! わかった!!」


 俺は剣を抜き、身体中に絡みついたスライム達を削り取っていく。先程までの苦戦がウソのように、あっさりとスライムは剥がれ落ち、溶けて地面に吸い込まれていった。


 さらに、何体かのスライムが一斉に襲ってきたので、ショートソードで薙ぎ払う。打撃は効きずらくても、斬撃は効く。細切れにしてしまえば、そのうちに身体を保てなくなり、溶けて地面に吸い込まれていく。


「ぷぷっ……大丈夫、アル? 怪我してない?」


「ああ、だいじょうぶみたいだ……」


 一体、この短い間に何回のスキルを放ったのだろう。こんなに急速に魔力を使い切ってしまうのは初めての経験だ。


「ぶふっ……【挑発】はそうでもないけど、【鉄壁】とか【盾撃】みたいなアクティブスキルはMPの消費が激しいんだよね。ぷくっ……ここのスライムなら弱いから怪我をする心配も無いし、倒してもレベルは上がらないから、がんがんスキルを使ってスライム訓練(マラソン)しよう……ぷぷっ」


「ああ。いい訓練にはなるな。スライムがあんなに分裂するなんて知らなかったよ……倒しても倒しても湧いてくるんだもんな……って、何を笑ってるんだよ」


 さっきから、人が真面目な話をしてるのに、にやにや笑いやがって。鬱陶しいな。


「笑ってなんか……ぷふっ……って、もうだめー!!! あははははっ!! アル、自分の姿をよく見てみなよ!!」


「あん?」


 自分の姿を見て、俺は言葉を失った。さっきまで着古した藍色のシャツに茶色のズボンをはいていたはずなのに、全身にぼろぼろの布がまとわりつき、股間に至ってはズボンに大穴が開いて下着まで溶けかけて、ちょっとマズい物がボロンとまろび出ていたのだ。


「なっ!!!」


 思わず両手で股間を隠す。なんてこった。スライムの体液で服が溶けたのか!!


「ぶふーっ!! あははははは!! なにそのリアクション!! ちょーかわいい!!! あははははは!!」


「ぐっ……見てんじゃねえよ!」


「あははははっ! 男の半裸とか誰得!? あははは!!!」


 ちくしょう……こんな格好で真面目な面して話してたのか。なんて間抜けなんだ……。


 俺はアスカが笑い疲れてアイテムボックスから着替えとタオルを出してくれるまで、股間を抑えて恥辱に耐える事しかできなかった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 そして、5日後。アスカ式ブートキャンプ2を何度も何度も繰り返し、俺はスキルを上手く扱えるようになってきた。


 【挑発】の場合、自分の立ち位置をよく見極めてから発動しないと一気に囲まれたり、時間差で襲われたりするため、形勢がかなり悪くなってしまう。逆に、周りを囲むスライムとの距離が均等になる場所で発動すると、敵の攻撃が一斉に襲い掛かってくるため【鉄壁】での同時防御がかなりやりやすくなる。


 【鉄壁】は盾を中心にして自分の周りに魔力障壁を展開して防御するため、一斉攻撃からは身を守りやすい。逆に、発動時間が短いため少しタイミングがずれると、【鉄壁】が解けた直後の隙を狙われてしまう。


 時間差をうまく利用して各個撃破するならスライム達の位置がバラバラな時に【挑発】すればいい。攻撃をまとめて受けて反撃を狙うならスライム達との間合いが等距離になるような位置取りをしてから【挑発】を放てばいい。【挑発】は上手く使えば、集団の敵を思いのままに操ることが出来る、とても有用なスキルのようだ。


 そして、【盾撃】は【鉄壁】と併用するとかなり効果が上がる。【盾撃】は盾の防御力を攻撃力に転化するスキルのようなので、発動した魔力の盾をそのまま敵にぶつける【鉄壁&盾撃】のコンボは、強力なカウンターの一撃となる。


 今や、俺を取り囲むスライムの数は20体を超え、水瓶も10個ほどになっている。それでも、余裕をもって対処できるようになってきた。むしろ水瓶に死にかけのスライムを仕込み、スライムの身体の元となる水を注ぐアスカの方が追い付かなくなってきたぐらいだ。


【小鉄壁】(タイニー・ウォール)!」


 俺はスキルに注ぐ魔力量を調整し、竜退治物語の盾(おなべのふた)を包む程度の極小の魔法の盾を生み出す。たった1体の攻撃を防ぐのに、通常の鉄壁を使うのはもったいない。


「【盾撃】!」


 発動した【小鉄壁】(タイニーウォール)をぶつけて、スライムを弾き飛ばす。


「きゃあっ!!」


 離れた場所からアスカの声が聞こえたが、気にしない。周囲を20体以上のスライムに囲まれているんだ。まずはこいつらを片付けないと。


「【挑発】! よし、今だっ! 【大鉄壁】(ヒュージ・ウォール)!」


 挑発をかけ、一斉に襲い掛かってきた群れるスライムたちを、多量の魔力を注ぎ込んだ【鉄壁】で受け止める。


「【盾撃】!」


 【大鉄壁】が反転し、スライムたちを一気に弾き飛ばし爆散させる。よしっ! 上手くいった!!


「もぉぉ!!! こっちにスライム飛ばさないでよ! 張り付かれちゃったじゃない!」


「ふうっ。魔力が尽きそうだな。アスカ、そろそろ休憩にしよう」


 俺はアスカの文句を華麗に無視する。アスカは飛んできたスライムに手を取られて、水瓶への水の追加が滞ったみたいだな。ちょうどいいタイミングで分裂スライムも打ち止めになった。


「無視しないでよ! もう!」


「はいはい。じゃあ、昼食にしようか」


「ごまかすなぁ!!」


 怒りを浮かべた顔つきで、走り寄って来るアスカ。その動きに合わせて、アスカの着ていたチュニックの前面がずるっと落ちて、張りのある白い乳房とベージュ色のブラジャーが――セシリィ・アスキィとは呼ぶなと厳命された――露わになった。


「きゃっ、きゃあぁぁぁ!!!」


 アスカが胸をおさえてしゃがみ込む。


「こっち見ないでぇぇ!!! もおぉぉ!!! アルがスライムを飛ばすからぁ!!!」


 ふふん。いやー、こんなに上手く……もとい、こんな事になるとは。眼福、眼福。




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