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騎士とJK  作者: ヨウ
第一章 山間の町オークヴィル
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第35話 ジョブチェンジ

「じゃあ、一週間後にまた来るね」


「ええ。アスカさん、アルフレッドさん、気を付けて行ってらっしゃい」


 俺たちは商人ギルドに立ち寄りセシリーさんに声をかけてから、オークヴィルの町を出た。商人ギルドから、引き留められるかと思ったが意外にあっさりとしていた。


 武具が出来上がるまで回復薬作りをしても良かったのだけど、火喰い狼(フレイムウルフ)がいなくなり回復薬の品薄状態もじきに収まると思われるため、商人ギルドとしてもさほど急いで買い集めなくても良いからだそうだ。セシリーさんは武具を引き取った後に王都へ向かうと言ったら、とても残念そうにはしてくれたけど。


「でもなんでまた、始まりの森に戻るんだ?」


「もちろんレベル上げに決まってるじゃん!」


「おぉっ! ついに! でも、それならこの辺りで魔物を狩った方が効率良いんじゃないか?」


「……加護のレベル上げに決まってるでしょ? 何回、同じことを説明させるのよ……」


「あぁ……そっか……」


 ……やっぱり魔素を持たない聖域の魔物で加護の強化をするのか。兵士にしても冒険者にしても、強さを測るのにレベルを一つの指標にしているから、どうしてもレベルを上げたいって思っちゃうんだよな……。冒険者ギルドでも依頼によっては、ランク以外にも〇〇レベル以上って条件がつく場合もあるそうだし。


「そんなこといいから、早く行こう! 急がないと聖域に着く前に日が暮れちゃうよ!」


「ああ、そうだな」


 俺たちは急ぎ足で始まりの森へ向かう。もちろん索敵と潜入を駆使して、魔物を避けながらだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 オークヴィルに来る時には丸一日近くかかったが、今日、始まりの森に戻るのにはその半分ほどの時間しかかからなかった。アスカに体力がつき休憩をほとんど挟まずに来れたことと、足も速くなって移動速度が上がったからだ。


 アスカが装備している「オニキスのペンダント」と「マラカイトのアンクレット」のおかげではあるのだけど、アスカ自身のステータスも微量ながら上がったそうだ。アスカは体力(VIT)敏捷値(AGL)が上がったと喜んでいた。相変わらず、魔力(INT)精神力(MND)は全く上がらないそうだが……。


 始まりの森に入った後も何事も無く、俺たちは懐かしき森番小屋に辿り着いた。2週間ぶりの小屋は、当たり前だけど何も変わっていなかった。住人がいなくなったせいなのかやけに寂しい風景に見えたけど。


「……よく、こんなところに一人で5年も住んでいられたよね。あたしなら、発狂しちゃうわ」


「そうだな……。全部諦めて、何も考えないようにしてたからな……」


 たまに来る分にはいいけど、もうここに住みたくは無いな……。そんなことを考えながら、小屋の周りをぐるっと回る。小屋の裏に植えていた野菜やハーブは水が足りていないようで萎び始めているし、早くも雑草が蔓延り始めている。どうせ1週間後にはまた出て行くのだから、手は付けないけど。


 小屋に入るとアスカがアイテムボックスにしまっていた家具をドカドカと並べていた。ベッドに薪ストーブ、机に椅子……必要な物だけとりあえず並べた感じだ。


「じゃあ、夕ご飯を作っちゃおっか。特訓は明日からね!」


「ああ。今回は夜じゃなくていいのか?」


「あれは、夜目の修得のためでしょー。人は日が昇ったら起きて、沈んだら寝るのが一番いいの!」


「はいはい。じゃあ、猪肉のローストとスープでも作るか。パンはオークヴィルで買ったのにしよう」


「うん!」


 俺たちは手分けして夕食を作る。ちなみに火喰い狼(フレイムウルフ)の肉だけは、どうしても食べたくないと言う事で山鳥亭のニコラスさんに譲っている。


 兎や鹿、猪なんかは、ニホンでも食べることは稀にあるそうなのだが、狼…というか犬を食べる習慣は無いらしい。近くの国では食べる風習があるそうだが、家で愛玩動物として犬を飼っていたことがありどうしても受け入れられないそうだ。まあ、他の肉も在庫は十分にあるし、差し迫った状況にでもならない限りは無理して食べなくてもいいだろう。


 そうして、俺たちは夕食を食べ終え、早々に眠りについた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 翌朝、アイテムボックスに保管していた料理で朝食をとる。献立は平焼きのパンに串焼きの肉を挟んだものと、干し肉とオーツ麦の入ったスープだ。連日、宿や酒場で美味しい食事をとっていたので、俺はどうしても物足りなく感じてしまう。


 たった2週間ほどで贅沢になったものだと思ったのだが、アスカに言わせると羊肉のクリームシチューにはかなわないけど、宿よりは俺の作った料理の方が美味しいそうだ。俺は5年間も似たようなメニューをこの森で食べ続けていたから、飽きているだけなのかもしれないな。


「今日から2,3日、アルの加護を【剣闘士】(グラディエーター)に変えて、訓練するよー」


「えっ? 盗賊の次は【癒者】(ヒーラー)って言ってなかったか?」


「ホントはそうするつもりだったんだけど、回復薬ならあたしでも出来そうだから、アルには他の前衛職のスキルの熟練度を上げてもらおうと思って」


「ふーん……。まあ、アスカに任せるけど……」


 アスカの予定では盗賊をLv.★(マスター)に出来るのは、もう少し先だ思っていたらしい。考えていたよりも長くオークヴィルに滞在することになったうえに、武具の出来上がりを待つ時間が出来たので予定を変更することにしたのだそうだ。


 別になんでもいいけど……といった感じで、さほど興味無さそうな反応をして見せた俺だが、実は【剣闘士】(グラディエーター)になれるのを内心かなり喜んでいた。【騎士】(ナイト)を目指している俺としては、今なることが出来る中では【剣闘士】(グラディエーター)が一番なりたかった加護だからな。


「ふふっ。なんか嬉しそうね、アル。そんなに【剣闘士】(グラディエーター)になりたかったの?」


 ……アスカにはバレバレか。顔に出やすいのかな?


【剣闘士】(グラディエーター)【騎士】(ナイト)の下級加護だからな。なんて言うか、夢に近づけるというか……」


「うんうん。アスカちゃんに感謝しなさいよねー? じゃ、さっそく変えちゃうね」


「早いな! なんかこう感慨と言うか……」


「ふふっ、じゃ行くわね」


 アスカはメニューウィンドウを出して、呟く。


「『大事な物』オープン。『始まりの剣』」


 盗賊になった時と同様にメニューウィンドウが一瞬だけ明滅する。ん……なんだか肚の奥底に力が溜まっていくような……身体が重く……いや、硬く強張っていくような感じがするな。


「はい、終わったよ。今のアルは、【剣闘士】(グラディエーター)Lv.1だよ」


「……なんか、あっさりしてるな。思ったよりも、変わった感じがしないと言うか」


「そりゃそうよ。ステータス見てみる?」


 そう言われて俺はメニューウィンドウをのぞき込む。



--------------------------------------------


アルフレッド・ウェイクリング


LV : 2

JOB: 剣闘士Lv.1

VIT: 138

STR: 132

INT: 145

DEF: 165

MND: 125

AGL: 330


■スキル

初級短剣術・初級弓術・初級剣術・初級槍術・馬術・夜目・索敵・潜入


--------------------------------------------



「……なんか、あんまり変わってなくないか?」


「そりゃ【剣闘士】(グラディエーター)Lv.1より【盗賊】(シーフ)Lv.★(マスター)の方が補正値高いからね。あ、でも防御力(DEF)だけは、【剣闘士】(グラディエーター)Lv.1の方が高いよ?」


「ふーん……。でも、なんか……ぱっとしないな……」


「加護レベルが上がれば体力(VIT)攻撃力(STR)【剣闘士】(グラディエーター)の方が高くなるよ」


「なるほどね。【盗賊】(シーフ)修得(マスター)にまで至れば、低レベルの【剣闘士】(グラディエーター)に力でも勝ることができるのか……」


「そういうこと! じゃ、聖域を出るよ」


「へ? 聖域の中で特訓するんじゃなかったのか?」


 呆気にとられる俺をよそに、アスカはスタスタと聖域の外に向かって歩き出す。魔物を倒してレベル上げをするつもりは無いって言ってたよな? どういうこと?


 俺は、何のつもりか不思議に思いながらもアスカの後を追う。まあ、加護やスキルについてアスカが何を考えてるのかわからないのは今さらだし。とりあえず言うことを聞いておくか。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 そして、俺たちはちょうど聖域の出口に着く。出口と言っても何か目印があるわけじゃないんだけど、森の雰囲気におどろおどろしさが加わるというか、なんとなく空気が変わるので『この辺りから危険領域だ』とわかるのだ。


「ね、アル。この辺りに魔物はいる? できればホーンラビットが良いんだけど」


「ああ、ちょっと待ってくれ」


 俺は【索敵】を発動して、辺りの魔物の気配を探る。ほんとに【剣闘士】(グラディエーター)になっても【盗賊】(シーフ)のスキルが使えるんだな。これは、すごい。


「……10時と1時の方向に魔物がいるな。どっちとも単体だ。10時の方はたぶんマッドボアだ。気配が大きい。1時の方はホーンラビットか……もしかしたらワイルドスタッグかもな」


「じゃ、そっちに行ってみよ」


 少し歩くと魔物の気配が近づく。【潜入】を発動し、先行して姿を肉眼で確認。ホーンラビット……当たりだな。俺はいったんアスカのところに戻った。


「ホーンラビットだった。あいつを倒せばいいのか?」


 今の俺ならこの森に出るホーンラビットなんか相手にもならない。あいつの攻撃なんてかすりもしないだろう。すると、アスカはふるふると首を横に振った。


「アル、これを装備して」


 そう言って、アスカは木製のあるモノを俺に差し出した。


「……はあ? 装備する……ってこれを?」


 意味が分からずアスカの目を見る。アスカはいつもの勝気な瞳で俺を見て、自信満々な表情でこう言った。


「うん。竜退治伝説(ドラゴンな冒険)、伝統の初期装備……【おなべのふた】よ!」


 いや……マジで何言ってんだよコイツ。これ、いつも使ってる寸胴のフタじゃねえかよ。遊んでんのか?




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「おらぁっ! この畜生が! かかってこいやぁぁ!!!」


 俺の怒声に苛立ちを滾らせたホーンラビットが突進してくる。こんな速さの突進なんて躱すのはわけない。だが、俺はどっしりと腰を落として伝統の盾(おなべのふた)を構え、真正面からホーンラビットの体当たりを受け止める。


 ドカアッ!


 いくら最弱の魔物とは言っても、体の大きさは子供の背丈よりも大きいくらいだ。体重はアスカと同じくらいじゃないだろうか。それが助走をつけて突っこんでくるのだ。


「ぐうっ!!」


 俺はバランスを崩してたたらを踏む。だがなんとか耐えた俺は、突進を受け止めた伝統の盾(おなべのふた)でホーンラビットを弾き飛ばす。ホーンラビットはいったん俺の横を走り抜けて距離をとった。


 ホーンラビットは名前の通り、額に一本の角が生えた兎型の魔獣だ。その角がまともに刺さったら伝統の盾(おなべのふた)なんてあっという間に壊れてしまうだろう。


 俺は何とか角が伝統の盾(おなべのふた)と俺の身体に当たらないように身体をさばき、突進を受け止めている。突進自体も伝統の盾(おなべのふた)だけじゃなくて、身体全体をつかって上手く受け止めるようにしないと、壊れてしまうだろう。


 【剣闘士】(グラディエーター)になって防御力(DEF)が上がっているからだろうか。ホーンラビットの攻撃自体を受け止めるのにさほど苦労しないが、角が当たらないように注意しなくてはならないのが面倒だ。


「ほらほらぁ! そんなもんか、兎がぁ! ぜんぜん効かねえぞ!?」


 ホーンラビットに怒声を浴びせて注意を引き、突進を伝統の盾(おなべのふた)で受け止めて、弾き飛ばす。さっきからずっとこの繰り返しだ。


今や、ホーンラビットは激昂と興奮で目を真っ赤にしている。いや、元からか。


「アル! 大丈夫!? 怪我してない?」


「こんなヤツ相手にケガするかぁ!! いったいこれは何をやらせてんだよ!! こいつ倒しちゃダメなのか!?」


「ダメよ!! 経験値が入っちゃうじゃない!!」


「ケイケンチってなんだよぉぉぉ!!!!」


 森の深くに俺の怒声が響き渡る。その後もアスカの指示で、このホーンラビットとの戦いを延々と続けた。さすがに1時間も相手にしていると疲れてしまったのだが、ここぞとばかりにアスカがアイテムボックスから薬草を使い俺の体力を回復させてしまう。


 しかも意味が分からないのは、ホーンラビットにも薬草を使っているようなのだ。ホーンラビットは、その意味不明なアスカの行動を挑発と受け止めたのだろう。さらに目を真っ赤にして突進を繰り返す。いや、元から赤いけど。


 なんとこの攻防はそれから、2時間も続いた。やっとのことでアスカからお許しが出た俺は、ホーンラビットを弾き飛ばした直後に脱兎のごとく逃げ出した。兎だけにね。


 そして、疲れ果てて森番小屋に戻ってきた俺に、アスカはこう言った。


「おめでとう、アル! 【鉄壁】(ウォール)【盾撃】(シールドバッシュ)【挑発】(タウント)のスキルをゲットできたよ!」


 え、なにそれ。




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