表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士とJK  作者: ヨウ
第八章 動乱のジブラルタ
357/499

第352話 海竜

「もうっ、なんなのアイツら! アルも、なんで転移石渡しちゃったの!?」


 洞穴を離れると、待ち構えていたかのようにアスカは大声で不満をぶちまけた。


「迷宮転移石を受け取っていたら、王子達の言い分を認めることになるわ。腹立たしいけれど、あれが正解よ、アスカ」


 エルサがアスカを宥めるように微笑む。


「むぅー! やなヤツ、やなヤツ、やなヤツ!!」


「やなヤツ、なのです!」


 アスカの連呼にアリスがのっかる。相変わらず付き合いのいい子だ。とりあえず二人とも頭を撫でておく。


「迷宮転移石ぐらい、なんでもないさ。俺達なら海竜なんか、いつでも倒せるだろ? 攻略が一日延びただけだ」


 階層主は数時間から半日も経てば、また現れる。明日にでも再討伐すればいいだろう。


「でも、また手出しをして来るのではないかしら?」


「ああ。俺達の30階層突破を阻止したいだろうからな……。そこまで阿呆ではないと思いたいが、今度は迷宮内で襲われるかもしれないな」


 人の目が無い海底迷宮では、例え露骨な妨害行為をしたとしても、妨害された側に生存者がいなければ露見することは無い。


 俺はフィオレンツォに『横殴り』は控えろと宣言し、勧誘を拒絶した。青の同盟とは完全に敵対関係になってしまっている。俺達に追い抜かされたくない青の同盟が、本気で俺達を排除しようとするかもしれない。


「すまないな、ローズ。ローズの立場を守るどころか、危うくしてしまった」


 そう謝罪すると、ローズはきょとんとした顔をした。


「構わないわ! もともと仲が悪かったもの!」


「……仲が悪かったとしても、命を狙われるほどじゃ無かっただろ?」


 フィオレンツォは実の妹であるローズを目の前にしながら、完全に無視していた。存在そのものを無い者として扱うのであれば、逆に命を狙われることも無かったのだ。


「いいの! それより……アイツの誘いを断ってくれて嬉しかったわ!」 


 ローズが顔を赤くして、はにかんだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「なるほど……そういった経緯でしたか」


 探索者ギルドの貴賓室にてギルドマスターのバティスタが顔を歪めた。


「青の同盟は、無謀にも海竜に挑み全滅寸前だった龍の従者を救い出した……と吹聴しています」


「そうでしょうね。査定受付でギルド職員に『ご無事でよかったですねぇ』とニヤつかれましたよ」


 20階層の転移陣から王の塔へと戻った俺達は、今日の拾得物として20階層の迷宮転移石と25階層の階層主だった水竜の魔石を査定受付に提出した。すると探索初日に俺達の対応をしたギルド職員がわざわざ受付にやって来て、『今日は20階層の転移石ですかぁ』と下卑た笑みを向けてきたのだ。


 青の同盟は都合の良い言い分を吹聴するだろうと思ってはいたが、なかなかにそつが無い。腹を立てるよりも、手回しの早さに逆に感心してしまった。


「それは、大変なご無礼を……。ギルドから声明を出すわけにはまいりませんが、龍の従者は横殴りをされたと主張していると噂だけでも流しておきましょう」


「お任せします……。私達が30階層、40階層と探索を進めれば、どちらの言い分が正しいかは自ずとわかりますから」


「40階層ですか。大した自信ですな」


 アスカによると、40階層の階層主としてAランクの魔物が複数で現れ、50階層にはSランクの魔物が待ち構えているらしい。


 Aランクの魔物が複数いたところで、このメンバーなら問題無く突破できるだろう。50階層では王都クレイトンの闘技場で戦った不死の合成獣(アンデッド・キマイラ)と同格の魔物を相手どるわけだが、今なら十分に戦えると思う。


「それよりも、問題は青の同盟の妨害が予想されることです。私達だけならどうとでもなりますが、ローズを危険に晒すことになります」


「探索者として迷宮に挑む以上、危険はつきものです。皆様にロゼリア殿下をお預けした時点で、王子殿下達との対立も避けることはできないと覚悟しておりました」


 よく言うよ。前は王子王女にローズが狙われることは無いって言ってたじゃないか。


 ああ、そうか。まさか俺達が30階層を突破するほどの実力があるとは思っていなかったのか。ローズを合わせても、たったの6人だしな。数十人単位で攻略に臨んでいる王子王女と争えるほどだとは思っていなかったってとこか。甘く見られたもんだ。


「それに、こうなっては皆様とご一緒した方が却って安全でしょう。ロゼリア殿下には女王陛下以外に味方はおりませんからな」


 そう言ってバティスタは、ほっほっと微笑んだ。


「それ、笑って言うことですか?」


 本当にローズの立場は難儀だな……。むしろ迷宮に挑戦しない方が安全に過ごせたんじゃないか?


 ああ、でもそれだと、女王陛下とローズに被せられた汚名を返上することも出来ない。誇りを傷つけられたまま生きるくらいならいっそ……ってことか。


 ローズは謂れの無い誹りにずっと耐え続けて、そして今も懸命に戦っている。契約に基づく関係ではあるけど……力になってやりたいな……。


 


◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「やっぱり、いるな……」


 翌日、俺達は30階層の大洞穴に、再び訪れていた。昨日と同じく20階層の階層主のオーガと25階層の階層主の水竜をローズに倒させ、ここに至っている。


 とぐろを巻いて大洞穴に鎮座する海竜(シーサーペント)の向こう、30階層の転移陣へと至る小路には、数名の気配があった。フィオレンツォの手の者だろう。


「じゃあ予定通りにブチかましますか!」


「言葉が汚いわよ、アスカ」


「おブチかましあそばす?」


「何よそれ」


 首を傾げたアスカに、皆がクスリと笑う。おかげで緊張がほぐれた。


 海竜と戦闘を開始したら、アイツらも打って出てくるだろう。『横殴り』は敵対行動と見做すと宣言したし、噂も流した。昨日のように討伐寸前に、海竜にトドメをさすような邪魔をしてくることは無いと思われる。


 今回の標的はおそらく俺達。海竜と戦う背後を狙ってくる。


「準備はオケイ? 行くよ、みんな。3,2,1,ゴーッ!!」


 アスカの号令で俺達は一斉に大洞穴へと飛び出す。


 先頭はローズ。その後ろに俺とユーゴー。さらに後ろにアスカとアリス、エルサが続く。


 近づく俺達に反応した海竜が浮かび上がり、口腔に魔力を集中させる。予想通りだ!


「レッド・フィールド!」


【光の大(シールドオブライト)盾】(・マキシマ)!!」


 アスカが水属性減衰と火属性強化の空間を創出し、ローズが巨大な魔力盾を展開する。ほぼ同時に吐き出された海竜のブレスを、ローズが見事に受けきった。


【大跳躍】(ハイ・ジャンプ)!」


 ブレスが終わると同時に火龍の聖剣を手に、ローズの頭上を飛び越え海竜に迫る。既に火装・烈攻・風装・瞬身で強化済み。元から火属性を有している聖剣に、さらに【火纏】(エンファイヤ)を重ね掛けしている。


「食らえぇぇっ! 【剛・魔力撃】(ハードスラッシュ)!!」


 斬る、ではなく、叩きつける! 俺の役目は宙に舞う海竜を地表に叩き落すこと!


 ズガァンッッ!!


 両手持ちした火龍の聖剣の腹を叩きつけられた海竜は、破砕した鱗と体液を撒き散らしながら落下する。そこにエルサとアリスの声が重なった。


「撃滅せよ――――地龍の戦槌(ラピスハンマー)!!」


【火焔(ファイヤースト)旋風】(ーム・マキシマ)!!」


 幾つもの巨大な土の杭が轟音を立てて突起し、その上を炎の嵐が蹂躙する。海竜の長大な体躯に杭が深々と突き刺さり、さらにエルサがこれでもかと魔力を注ぎ込んだ大魔法【炎嵐】の業炎が襲い掛かる。魔法抵抗力が高い竜種と言えども、同時に放たれた二つの大魔法に抗えるはずもない。


「ガアァァァァァァァッツ!!!」


 そこに雄たけびを上げてユーゴーが突っこむ。同じく火装・風装・火纏で強化したうえに、【戦場の咆哮】で自己強化したユーゴーが風竜の聖剣(ソードオブヴェントス)を振り上げる。


【漆黒の諸刃】(リバースエッジ)!!」


 スキル発動後に大幅なステータス低下を伴う諸刃の剣技は、それだけに強力な攻撃力を有する。間違いなく『龍の従者』最強の大技(スキル)だ。


「キュオォォォォーーーン!!」


 振り下ろされた大剣は、容赦なく海竜の首を刎ね飛ばす。断末魔の叫びを上げながら転がった海竜の首は、30階層の転移陣へと至る小路の前でビクリと痙攣したあとに動きを止めた。


「さあ、竜殺しの剣をその身に刻みたい者から、かかって来い」


 大洞穴に片足を踏み出したまま硬直していた青の同盟の探索者達に、俺達はゆっくりと聖武具を向けた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] いい戦闘シーンでした [一言] ドラゴンを瞬殺 格の差を見せつけました さよなら第一王子チーム
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ