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騎士とJK  作者: ヨウ
第一章 山間の町オークヴィル
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第34話 ヘルマン武具店

 翌日、俺たちは朝日が昇った後、けっこうな時間が過ぎてから宿を出て武具屋に向かった。遅くなったのは朝から一悶着あったからだ。


 【月浄】(ザ・ムーン)の効果時間は約半日。そのため、朝から再びかけなおさなくてはならなかったのだ。


 多少なりとも酒の入った後にあんな雰囲気になった後では、下腹部に触れて魔法をかけるのはさほど抵抗も無かった。だがさわやかな空気が入り、挿し込む陽光で明るくなった部屋の中で同じことをするのは互いにかなりの抵抗があった。


「ひうっ……」


「へっ、変な声を上げるんじゃねえよ!」


「だ、だって……」


「うぅ……やるぞ? 【月浄】(ザ・ムーン)!」


「ぁんっ……」


「だっ、だから、変な声を上げるんじゃねえよ!」


「し、しかたないでしょ! どこに魔法かけてるかわかってんの!?」


「わ、わかっ……てるけど……」


「もうっ……あ、その、ありがと……」


「お、おう……」


「で……?」


「え?」


「いつまで手を入れてんのよ!」


「ふげぇっ!!」


 以上、朝のあらましだ。これから1週間、同じことをするのか……。持つのか? 俺の理性……。


 そんなこんなで出発が遅くなった俺たちが、武具屋に着くと店は既に開いていた。


「いらっしゃい」


「どうも。修理をお願いしたいんだけどいいかな?」


「どれ……これはまた……派手にやったな。火喰い狼(フレイムウルフ)にでも噛みつかれたのか?」


「ああ、その通りだ」


「マジかよ……よく命があったな」


 火喰い狼(フレイムウルフ)の爪に裂かれ、牙に穴をあけられたガントレットを見せると店主は、一目見て大きく首を振った。


「……さすがにこれは直せねえな。無理やり継ぎ接ぎして傷を塞げねえことはねえが、強度はかなり落ちちまう。程度の良い中古品を買った方がまだマシだな」


「そうか……」


 まあ、しょうがないか。たった一戦でダメになってしまったのは残念だけど、火喰い狼(フレイムウルフ)の噛みつきから身を守れたのはこのガントレットのおかげだ。腕を引き千切られなかっただけでも、この防具には感謝しないとな。


「じゃあ、新しい防具と武器を作って欲しいんだ。素材は持ち込みだ。アスカ?」


「はい、これで作ってくれる?」


 取り出したのは火喰い狼(フレイムウルフ)の毛皮、牙、爪だ。


「こっ、こいつは……もしかして……!」


「うん。火喰い狼(フレイムウルフ)の素材だよ。タダで作ってくれるって言ってたよね?」


 アスカがにやりと笑う。黒い笑顔だなー。アスカを見て、俺も思わず口角を上げる。あ、人のことは言えないか。俺の笑顔もたぶん黒い。


新人冒険者(ルーキー)が賞金首をやったって話は聞いてたが、アンタらだったのか……それで、どんなのが作りたいんだ?」


「アル、ガントレットの代わりに盾を作った方がいいと思うんだけど、どう?」


「ああ、そうだな。今後の事を考えると、ガントレットより盾の方が良いよな」


「これだけ状態の良い皮があれば、かなり丈夫な盾が作れるぞ。爪と牙はどうする?」


「うーーん、どういうのが作れそう?」


「そうだな……このサイズだと、牙はショートソードぐらいなら属性付与が出来そうだな。爪の方は全部使ってもダガーぐらいが精一杯ってところだな」


 特殊な魔物素材を使って武器や防具を作ったり、合成したりすると、その素材が持つ様々な特性を発揮させることが出来るらしい。


 革の盾の場合はまず皮をなめし、オークヴィルの特産品でもある蜜蝋で煮込み、硬化させた革を作る。その革を何枚も貼り合わせて作るそうだ。素材そのものが持つ硬度や耐久力により、防御力にかなり差が出てくるらしい。


 爪や牙の方は素材が持つ特性を、武器に付与するということだ。この場合、攻撃力自体は基となる武器次第だが、さまざまな追加効果の発生が期待できるそうだ。


「……じゃあ、牙の方はショートソードで……爪はコレなんてどうかな?」


「あ……いいかも。ロングレンジの攻撃が無いもんね」


 俺が取り出したのは、いつもの鋼鉄製のショートソードと、デールからまきあげた投げナイフだ。


「でも、アル、投擲なんて出来るの?」


「さあ……? こないだレッドウルフとやりあったときは偶然上手くいったけど……」


「うーーん。無駄になるかもしれないけど、他に使い道も無いし、いっか」


 投擲か……。エマは遠くから見事に的中させてたよな。あれが出来れば戦術の幅が広がる。デールは才能が無かったって言ってたけど、練習してみるか。上手く扱えなかったら売ればいいし。


「よしっ。毛皮を使って革の盾。牙はこのショートソード、爪はこの投げナイフの強化だな。素材は持ち込みだから……金貨1枚ってところでどうだ?」


「タダ……でしょ?」


「うっ……勘弁してくれよ。これだけの素材を使って武具を仕上げるのには一週間はかかるんだ。手間を考えれば、これでもかなり安くしてる」


「へぇ……、誇り高いドワーフは嘘はつかないんじゃなかったのか? タダで作るって言われたはずなんだけどな。なあ、アスカ?」


「うん! 確かに言ってた。ちゃーんと言質とったよね?」


「ぐっ……それは……」


 ニヤニヤと笑いかける俺とアスカ。焦りに顔をゆがめる地人族(ドワーフ)の店主。まあ、意趣返しはこんなところでいいか。


「冗談だよ。じゃあ、この武器は預ける」


「じゃあ、前金ね。はい、金貨1枚」


「お、おう。このあいだはスマンかったな。だが、出来上がりには期待しといてくれ!」


「ああ、じゃあよろしくな」


 俺たちは、注文票を受け取って店を出た。さて、出来上がりまで1週間か。また『草むしり君』でもやるかね……?




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