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騎士とJK  作者: ヨウ
第八章 動乱のジブラルタ
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第341話 再訪・探索者ギルド

 探索者ギルドから港に戻り、エースと馬車を預けていた坑道付近の厩に戻るとエルサとユーゴーは既に戻っていた。日も落ちかけていたので急いで厩付きの宿を見つけ、併設の酒場でようやく一息付く。


「ジャポニカ米!」


 アスカが目を潤ませながら白い米を掻きこむ。どうやらニホンで食べていたものに近い米のようだ。シルヴィア大森林ではとろとろに『煮た』米だったが、ここのはふっくらと『炊いた』ものらしい。


「この魚を煮たの美味しいわよ。ショーユで味付けしてあるみたいね」


「これはテリヤキに味が似てるな。ちょっと味が薄い?」


「私はこちらの方が好き。優しい味だわ」


 似たような味ではあるのだが、シルヴィアは色が黒っぽく濃い味だったが、ジブラルタは色も味も薄めのようだ。食材もシルヴィアでは鳥・猪・鹿などの肉中心だったが、ジブラルタは魚が中心だ。港町なのだから当たり前だが。


「たぶん醤油の違いだと思う。薄口と濃口」


「ふーん、種類が違うんだな。アスカはどっちが好きなんだ?」


「どっちも! 野菜とかスープとかの時は薄口の方がいいんだっけな? お肉は濃口の方がいいと思う!」


「へぇ。素材で使い分ければいいのか。薄口ってのも買っておこうか」


「うん! 鰹節とか昆布とかもあるかなー。粉だしがあると楽なんだけどなー」


 ふむふむ。カツォブシにコンヴゥね。アスカが気に入っているようだから食材と調理法を確認しておかなければならないな。宿の調理人にいくらか握らせて伝授願おう。


「それで、傭兵ギルドの方はどうだった?」


「成果無しよ。ジブラルタ国民が団長を務め、かつ国民が半数以上を占める傭兵団でないと海底迷宮には入れないそうよ。冒険者ギルドよりも厳しいわね」


 そう言ってエルサが首を左右に振る。


「そうか。まあ、自国の資源を守るためだもんな。仕方ないことではあるか……」


「でも、面白い話を聞けたわよ?」


「面白い話?」


 俺が聞き返すとエルサは串焼きの魚に齧り付いていたユーゴーに目線を向ける。ユーゴーは魚を骨ごと噛み砕き、ごくりと飲み込んだ。うん、豪快。


「冒険者は『鋼の鎧』(ギラムパンツァー)だ」


「……え?」


「端折り過ぎよ、ユーゴー。数年前に海底迷宮の上層の資源を取りつくした冒険者の一団というのが、たぶん鋼の鎧の構成員なんじゃないかって」


「ハルバード使いと大剣士」


 次の魚串に齧り付きながらユーゴーが言った。犬って魚も好きなんだな。あ、狼か。


「その冒険者の一団を率いていた二人の戦士が、鋼の鎧にいた部隊長の特徴と一致するんですって。名前は違ったらしいけど、冒険者ギルドの登録なんて偽名でも登録できるでしょう?」


「へぇ……」


 鋼の鎧が傭兵ではなく冒険者として海底迷宮に潜った?


 ああ、有名な傭兵団だから名前を出さなかったのか。『鋼の鎧』が資源を奪い尽くして行ったなんて、言われたくないだろうしな。


「なんだか、最近よく名前を聞くな」


「フラグかもねー? 魔人族に雇われて襲ってきたりして」


 アスカがミソのスープをずずっとすすりながら言った。


「やめてくれよ。口に出すと現実になりそうだ」


 ユーゴーやゼノに匹敵する戦士が何人もいて、多数の傭兵達を率いてるんだろ? そんなところと敵対なんてしたくない。


「それで、そっちはどうだったの?」


「ああ、それがな……」


 ユーゴーとエルサに探索者ギルドでの出来事を話す。やはり探索者ギルドへの登録は出来なかったこと。そして、紹介したい人がいると言われたことを。


「誰を紹介してくれるの? ギルドのお偉方? それとも探索者かしら」


「さあ? 詳しいことは教えてくれなかった。でも、他に方法は無いしな」


「そうだねー。あとはこっそり忍び込むしかないねー」


「あ、その手があったか」


 『王の塔』の地下に海底迷宮の入り口があることはわかってるんだ。俺の【隠密】で忍び込めばいいじゃないか。


 一度潜ってしまえばこっちのもの。アスカのアイテムボックスに食料や資材を大量に詰め込んで行けば、何カ月だって潜ることは出来る。魔物が徘徊する鉱山に2年以上も潜ったアリスという先達もいるわけだし……


「止めときなさいよ……? アルならセントルイス王に紹介状を書いてもらうとか、出来ることはあるでしょう?」


 その手もあったか。でもなぁ、王陛下に借りを作りたくないんだよなぁ。やっぱり忍び込む方が……


「止めなさいよ……?」


 エルサが呆れた顔で俺とアスカにジトっとした目線を送り、そう言った。


 


◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ええと、まずはアンタ達が海底迷宮に潜る目的を教えてもらえないか?」


 翌日、エース以外のメンバー全員で探索者ギルドに赴く。鰐っぽい受付男性は俺達に気付くと、上階の応接室に通してくれた。


 応接室には木製の家具や布張りのソファなどが置かれていた。たぶん、高潮でも3階なら浸水しないのだろう。


「稼ぐためだよー」


 アスカがあっけらかんと答える。魔物を倒して自身と加護を鍛える(経験値を稼ぐ)、魔物素材を得る、鉱石を採掘する、自生する薬草類を採取する……ぜんぶ『稼ぐ』と言えるか。


 魔人族を追うとかジブラルタの動乱を防ぐとかいうのも目的ではあるが、何が起こるのか分からないのだから、そのために何か行動するってこともないし……。


「ま、そりゃそうか。念のために聞くが、海底迷宮で得た物は全てジブラルタ王国に所有権があるっていうのは理解してるか?」


 鰐男が俺達一人一人の顔を見ながら聞いてきた。その辺りは冒険者ギルドで既に聞いていたので、皆が肯く。


 海底迷宮はジブラルタ王国が管理しており、海底迷宮から産出する全ての物品の所有権は国にある。迷宮に潜る者は、迷宮内で得たものを全て探索者ギルドを通してジブラルタ王国に売却しなければならないそうだ。


 2階の掲示板で見たところ買取価格は冒険者ギルドより高いくらいだったので、売却するのは問題はない。もし、必要な物があれば買取価格で買い戻すことも出来るそうだ。貴重な素材なんかは、買戻しを拒否されそうだけど。


 無断での資源の持ち出しは厳罰で、海底迷宮の出入りの際には魔法袋も含めて荷物の確認をされるらしい。厳重そうに思えるが、俺達の場合はいくらでも隠匿できるだろうなぁ。アスカのアイテムボックスを検めるなんて出来ないだろうし……。

 

 なお、採取した薬草や魔石を迷宮内で使用することは黙認されているそうだ。ということは薬師を連れ込めば採集した薬草類と魔石でいくらでも回復薬(ポーション)類を作れるわけだ。


 魔力を消費して回復薬を作る薬師と違って、アスカは無制限に作ることが出来るので都合がいい。あ、そもそもアイテムボックスに入れておけば、持ち出しもバレないだろうから関係ないか。


「……うむ。問題無さそうか」


 取得物の取り扱いについていくつか確認すると、鰐男はうんうんと頷いた。


「アンタ達に紹介したいヤツがいる。探索者ギルドに登録したばかりの新人なんだが、そいつをリーダーとして探索者パーティを組まないか? 応じてくれるなら特別に探索者登録を認めてもいい」


 新人の探索者をリーダーに? しかも探索者登録を特別に認めてくれる? 他国の者は登録できないという規則を捻じ曲げてまで? なんか胡散臭すぎるんだが……。


「……どういうヤツなんだ? どんな目的があって、俺達にそんな話を?」


 訝し気に問うと、鰐男は慌てたようにぶんぶんと手を振った。


「いや、違うんだよ。実は知り合いに頼まれてな。出来るだけ安全に迷宮に潜らせてやりたいんだよ。アンタ達、ベテランの冒険者なわけだろ? 安心して任せられるじゃないか!」


「つまり……そいつを護衛しながら迷宮に挑めってことか?」


「いやいや、そういうわけじゃないんだ。探索者になったんだから、もしもの事だってあり得るってのも十分に理解してる。何があってもアンタ達に責任を問うことなんてしない!」


 焦ったように捲し立てる鰐男。怪しすぎるんだが……。


「とりあえずさー、会ってみない? 他に迷宮に入る方法が無いんだし」


「そ、そうか、やってくれるか! 連れて来るから、ちょっと待ってろ!」


 アスカがまたしてもあっけらかんと答えると、鰐男は『助かった!』と言わんばかりの笑みを浮かべて立ち上がり、応接室を急いで出て行った。


「おいっ、ちょっと待て! 誰もやるとは言ってないぞ!」


 大声で制止するも時すでに遅し。


「うさんくさいのです」


「新人なのでしょう? そんな人を迷宮に連れて行くなんて危険よ」


 アリス、エルサもおおいに怪しんでいるようだ。ユーゴーもうんうんと頷いている。


「会うだけならいいじゃん。無理そうなら、やめればいいし」


「それはそうだけど……」


 なんか面倒事に巻き込まれそうな気がするんだよ。というか既に巻き込まれてる気も……。



 バァンッ!!


 俺達が顔を突き合わせて話していると、応接室のドアが音を立てて勢いよく開いた。


 中に飛び込んで来たのは、紺碧の髪の勝気そうな目をした少女だった。


「あなた達がメンバーね! ローズよ! よろしく!!」




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