第338話 ジブラルタ王国へ
「だーかーらー。アルはぁ、ユーゴーのおっぱい見すぎなのぉー! 女の子はねぇ、他人の目線に敏感なんだよー? いっつもチラチラ見てるの、みんな知ってるんだからねぇー」
「う、いや、そんなことは……」
「見ーてーまーすぅー! すぐ目を逸らして誤魔化そうとしてるのも知ってますぅー! 鎧を着けてる時はそんなに見ないのに、外した途端にチラ見するのも知ってますぅー!」
「うっ……」
アスカがケタケタと笑いながら俺を詰る。
おかしいな? 俺達、真面目な話をしてたはずなのに??
もう少し飲もうって言うから、マナ・シルヴィアで買ったワインを開けていたのが間違いだったか……。
飲んでいるのはクレイトンでボビーに飲ませてもらったアスカお気に入りのアイスワインだ。なんでも完熟したブドウを魔法でゆっくりと凍らせてから醸造するワインなんだとか。甘口で、さっぱりとした飲み口のワインで、ついつい飲み過ぎてしまう。
ボビーからシルヴィア大森林の一部で作っていると聞いていたので、せっかく現地に来たのだからと買っておいたのだ。お酒は贈答用にも使えるから便利だしね。
しかし……大事な話をする時に飲むべきじゃなかったなぁ。ただでさえ、今日はオークヴィルの皆に歓待してもらい、酒と食事を楽しんだ後だったのだ。酒に強くないアスカがどうなるかなんてわかりきってるじゃないか。
いや、そもそも今夜、大事な話をするつもりだったわけじゃないから、しょうがないか。アスカもユーゴーのことを聞いてくるときは緊張していたみたいだし、お酒で勢いをつけたかったのかもしれないし。
「聞いてるぅー?」
「はいはい。見てた見てた、おっぱい見てたよ」
「やっぱりー!! 巨にゅーが好きなのはわかるけどぉー、あたしの前でガン見するのはどうかと思いまーす!」
「いや、べつに巨乳好きというわけじゃ……男はどうしても見ちゃうもんなんだよ。素肌が少し見えるだけで、目が向いちゃうというか」
「だよねー? エルサの脚とか顔もよく見つめてるもんねー? 確かにエルサの脚はすらっとしてて綺麗だしぃ? お顔も人形みたいに整ってるもんねぇー?」
「いや、その……」
「それとぉ、アリスのこともぉ、頭ぽんぽんし過ぎだと思います! アリスが可愛いのはわかるけどぉ、あれはヒロインにやるべきだと思います!」
「アリスの頭ってちょうどいいところにあるからなぁ。ついつい手が伸びちゃうんだよな……」
アリスは背か低いから、頭がちょうど俺の胸あたりにくるんだよな。近くにいると、その可愛らしい容姿もあいまって、なんとなく頭に手が伸びちゃうと言うか……。アリスは俺と同い年だから、そんな子ども扱いみたいなこと失礼かもしれないけど、嫌がるふうでも無く、むしろ嬉しそうだからつい……。
「ヒロインにやるべきだと思いまぁす!」
「え?」
「ぽんぽん!!」
「あ、ああ」
俺は並んでベッドに腰かけていたアスカの肩に腕を回し、頭をやさしく撫でる。アスカは顔をへらっと緩め、俺の肩にしなだれかかった。
「ねぇ、アルー?」
「ん?」
「今日はね、その、月の魔法は……いらない日だよ?」
「へ? ああ、そう言えば……」
だいたい1年前。オークヴィルに訪れて、セシリーさんから避妊の魔法を教わって、いざ!って時に月のものが来たから出来ないって言われたことがあったな。
あの時は、行き場のない劣情を厠で処理したんだっけ。自分で。
最近は自分ですることもなくなった。もしかしたら、あれが最後だったかもしれない。出来ない時はアスカが、何と言うか……協力してくれるからね。手とか、ほら、色々な。
「そっか。じゃあ……」
「ん……ぅん……」
左肩に寄り掛かっていたアスカを抱き寄せ、唇を重ねる。互いの熱を絡ませ、吸い合い、求め合う。
アスカは、俺の問いかけに答えなかった。いや、答えられなかった、かな。ニホンに残して来た家族や友人と、俺とを天秤に載せて、そう簡単に決断が出来るわけが無いのだ。
だからこそ、俺はアスカに、俺を刻み込む。俺の体温を、息づかいを、汗の匂いを。深く挿入りこみ、俺を吐き出す。
俺から離れたくないと思ってもらえるように、アスカの中の俺が少しでも重みを増すようにと願って。家族や友人の顔が思い出せないというアスカの状況につけこむみたいで卑怯かもしれないど……。それでも俺は、アスカと離れたくないから。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふむ……面白い意匠ですな」
翌日、隊商と行商人達が開いていた市場で食料品や消耗品を買い込み、隊商隊長のマルコさんに銀製のアクセサリーを売り込んだ。
アスカが心臓・馬蹄・十字架・四葉などの特徴を強調して図案化し、アリスが指輪やネックレスなどに【鍛造】したものだ。材料の銀は、アリスが鉄鉱石から【精錬】したり、アスカが屑鉄から【解体】したりして作った鉄のインゴットから【錬金】したもので、元手はほとんどかかっていない。
シンプルながらも親しみやすさのある形状のアクセサリーは、数多くの美術品を目利きしたマルコさんにとっても斬新で独創的なものだったらしく高値で買い取ってくれた。
「ふわぁ! こんなに高く買い取ってもらえるのです!?」
考えてみれば鍛冶師として作った物が、初めて売れたわけだ。長らくスキルが使えずに苦しんで来たアリスにすれば、喜びもひとしおだろう。
「よかったな、アリス」
「はい! ありがとうなのです!」
「ごほんっ」
アスカが咳払いして、ジトっとした目を向けてる。
おっと。またしても頭ぽんぽんをやってしまった。いや、だってさ、上目遣いのアリスが可愛いんだから仕方ない。って、いでぇっ!!
「ご準備がお済みでしたら、そろそろ出発なさいますか?」
「ええ、よろしくお願いします」
マルコ隊長から紹介された商人の男性とともに馬車に乗り込む。昨日の内にオークヴィルの皆とはお別れを済ませているから、今日は見送り無しの出発だ。
「本当にチェスターに寄らなくていいの? アルの実家があるのでしょう?」
「旅が終わるまでは帰らないと言って出て来たからな。必要ないよ」
「そう……」
エルサの気遣いは嬉しいけれど、単純に気まずいんだよな。
チェスターに行くと、ウェイクリング家やアリンガム家に立ち寄らないわけにもいかない。俺との結婚について諦めさせたり、期待させたりを繰り返してしまっているクレアに合わせる顔が無いんだ。
俺の帰還を待ちわびているであろう父上や母様に、期待を持たせてしまうのも申し訳が無い。アスカの回答次第では、俺はウェイクリング家に戻ることが無くなるかもしれないのだ。
「そんなことよりジブラルタ王国の王都マルフィに急ごう。魔人族の動きも気になるしな」
「ええ、そうね……」
俺達はエースの引く幌馬車で、昨日通ったばかりの始まりの森への街道を進む。本来は2~4頭引きの幌馬車を、エースが易々と引く様を案内人が目を丸くして見ている。
ふふん、ウチのエースはすごいだろ? こうしている今も、【威圧】を撒き散らして魔物を追い払ってくれてるんだぞ?
そうこうする間に聖域に着き、馬車を収納して転移陣に乗り込む。幌馬車が消えたことにも案内人が言葉を失っているが放置だ。
「では、お願いします」
案内人に転移石を手渡す。これで転移石の残りはあと一つだ。海底迷宮にゴロゴロ転がってるから気にするなとアスカが言っていたけど……本当に希少な転移石がそんな簡単に手に入るものなのだろうか。
「はい……。始まりの森の転移陣よ、マルフィの転移陣への門を開け!」
案内人の言葉とともに転移陣から白い光が噴き出す。目を瞑り光の洪水をやり過ごし、おそるおそる目を開くと、目の前には断崖絶壁と紺碧の海が広がっていた。
心臓→ティフ◯ニー
馬蹄→エ◯メス
十字→ク◯ムハーツ
四葉→ヴァン◯リ
……のイメージです。
クロ◯ハーツっていまもDKに人気あんのかな?




