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騎士とJK  作者: ヨウ
第七章 瘴霧の大森林マナ・シルヴィア
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第329話 新たな仲間と

「ユーゴー、剣士だ。加護は【獣騎士】(ビーストナイト)。以前、『鋼鉄の鎧』(ギラム・パンツァー)の部隊長をやっていた。よろしく頼む」


「魔法使い、エルサよ。加護は【大魔道士(メーガス)】。あらためて、よろしくね」


「アリスなのです。【錬金術師(アルケミスト)】なのです。よろしくお願いするのです」


 背筋をピンと伸ばし、堂々とした仕草で挨拶をしたユーゴーに、アリスとエルサが微笑みかける。


 トゥルク村までの旅路で一緒に過ごしていたので、アリスやエルサも既に見知った仲だったが、あらためて自己紹介と相成った。


「またユーゴーと一緒に旅できるなんて思ってなかったよー。よろしくね、ユーゴー」


「ああ、よろしく頼む」


「ゼノは【獣戦士】(ビースト・ウォリアー)かもって言ってたけど【獣騎士】かー。名前からして獣騎士の方が上位職なの? どんなスキルがあるの? あの【戦場の咆哮(ウォークライ)】ってスキル、どんな効果なの!?」


「ああ、上位加護にあたる。【戦場の咆哮】は……」


 アスカが興奮した様子で矢継ぎ早に問いかける。ユーゴーの加護はWOT(ワールドオブテラ)に無かったらしく、知識欲に火がついたようだ。


「でも、ユーゴーさん、お母様のことはいいの? この村に残していくことになるでしょう?」


「ユーゴーで良い。母は問題無い。ヴォルフ王がトゥルク村に騎士を派遣してくれるそうだ」


 ヴォルフ・レグラム王は、ユールに王位を譲ってマナ・シルヴィア王国を復活させたかったそうだ。だが、ユールはそれを望まなかった。


 20年前の戦争で、灰狼族は魔人族によって根絶やしにされている。もしかしたら他に生き残りもいるかもしれないが、少なくともマナ・シルヴィアにいた灰狼族は誰一人として生き残っていない。


 『操霧の秘術』を受け継ぐためだけに、種族内で婚姻を繰り返し血統を守って来た灰狼族だったが、もう『純血の灰狼族』はユール以外にいないのだ。


 夫と過ごしたトゥルク村で余生を過ごしたいと言って、ユールはヴォルフ王の申し出を断った。途絶えるのを待つばかりの『純血の灰狼族』が、今さら表舞台に立つべきではないという気持ちもあったようだ。


 ヴォルフ王はユールの意思を受け入れ、トゥルク村の防衛と治安維持を兼ねた騎士の派遣を決めてくれた。


「私は灰狼人と央人(ヒューム)の混血だ。『操霧の秘術』を受け継ぐことは出来ない。灰狼族は母の代で終わりだ」


「……そうなると、誰も世界樹に近づくことが出来なくなるのか。でも、その方が良いのかもしれないな。秘術は新たな争いの火種になりかねない」


 ユール曰く、『操霧の秘術』は灰狼族の先祖が、魔物蔓延るシルヴィア大森林で獣人族が生きて行けるようにと、神人族(エルフ)とともに開発したのだそうだ。


 『操霧の秘術』、正しくは『操霧の魔法陣』。『龍の間』の壁に描かれていた魔法陣だ。


 その機能は、3つ。


 風龍ヴェントスの魔晶石からあふれ出る魔力を吸収すること。


 その魔力を、世界樹の根を通して大森林の各地に送り、魔物を遠ざける瘴霧を発生させること。


 そして、魔法陣を勝手に使われたり壊されたりしないように、世界樹の周囲には『純血の灰狼族』しか近づけなくすること。


 つまり、ユールがいなくなったら誰一人として世界樹には近づけない。ユール自身も、獣人同士の奪い合いが起こってしまうぐらいなら、いっそのこと失われた方が良いと考えているようだ。


「なら、獣人族を守るためにも、魔人族達を倒さなければならないわね」


 エルサが、決意を確認するように短杖をぎゅっと握りしめる。 


 そう、俺達と魔人族は世界樹に近づくことが出来るのだ。『操霧の秘術』をも使うことも出来るかも知れない。


 俺達は龍と繋がっているから、霧が通用しなかったのだろうとユールは言っていた。龍の力を奪った魔人族達も同様だ。

 

 魔人族に霧を操られないよう、世界樹のもとに姿を見せたアザゼルとジェシカだけは確実に始末しなくてはならない。ジェシカはともかく、アザゼルを始末するってのはかなりハードルが高いけど……。


「それで、次はジブラルタ王国に行くってことでいいのかしら?」


「ああ。アザゼルがジブラルタ王国で動乱が起きるって言っていたからな。なにかしら仕込みをしてるってことだろう」


「今度は何をするつもりなのかしらね……」


 あいつらは最後の最後まで姿を現さず、舞台裏を暗躍して面倒ごとに巻き込んでくる。本当に魔人族ってのは厄介だ。


 まあ、正面からぶつかって来られても、厄介なのは同じなんだけど。ジェシカは一対一でもなんとかなりそうな感じもしたが、アザゼルはまだまだ底が見えないしな……。

 

「アスカ、何かわかるのです?」


「んー前にも言ったけどジブラルタは海底迷宮(ダンジョン)にアタックするのがメインのエピソードだったから、襲撃イベントは無かったんだよねぇ」


「水龍インベルの魔晶石の付近で、魔人族が待ち構えてるって話だったわね」


「……ヴァリアハートで襲ってきたヤツかな」


 チェスターから王都に向かう途中で立ち寄った水の都ヴァリアハートで、マッカラン商会の手先を撃退したときに、氷矢の雨を降らせてきた魔人族。アスカ曰く、グラセールって名前だったな。


「うん、たぶんアイツだね。ま、今のあたし達なら余裕で相手できるよ。ユーゴーも加入したんだしね!」


「アザゼルも出張ってくるだろうから、そう簡単にいくとは思えないけどな……」


「だいじょぶだいじょぶ! もう今の時点でラスボス相手に出来るぐらい強くなってるから! 海底迷宮でスキル上げとレベル上げもするから、アザゼルが一緒に出てきても余裕で戦えるようになるよ!」


「え? 迷宮で修行する気なのです? 危険すぎないです……?」


「深層に行けばBランク越えの魔物がうじゃうじゃ出てくるからね! じゃんじゃん熟練度稼いで、レベルも上げちゃおうね!」


 アスカが瞳をキラキラさせて熱弁する。俺、エルサ、アリスが引いているのに気づきもしない。


「海底迷宮って、確か上層までしか攻略されていないって話じゃなかったかしら……」


「Aランク冒険者パーティでも簡単に命を落としてしまう危険な迷宮って聞いたことがあるのです……」


「アルはAランクだし、エルサはBランクでしょ? 余裕だよ!」


 顔を引きつらせるエルサとアリス。Aランクでも命を落とすって言ってるのに、なぜBランクで余裕なんだ? 全く意味が分からない。


「諦めろ……。アスカが修行をするっていう時は、一応は余裕を取るようにはしてくれている。きっと安全だよ…………たぶん」


「たぶんって……」


「そこは言い切って欲しかったのです」


 だってねぇ。今までに散々な目にも合ったしなぁ。王都では特に酷かったなぁ。精神的にも。


 止めようと言ったって、どうせアスカは聞きはしない。強くならなきゃいけないのは、間違いないしね。さすがに死ぬようなことはないと思うよ?


「アルさんが、なんだか遠い目をしているのです……」


「エースも震えてるわね。どうしたのかしら」


 あ、エースを酷い目にあわせたのは、俺です。あの時は、ごめんなエース……。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「アルフレッド……」


 真夜中に名を呼ばれ、咄嗟に枕元に置いていた漆黒の短刀を掴んでベッドから転がり下りる。暗闇に目を凝らすと、予想外の人物が部屋に入って来た。黒みがかった銀髪をなびかせ、ゴールデンイエローの美しい瞳が、窓から差し込む月明かりを反射してうっすらと輝いている。


「…………ユーゴー?」


 今日は犬人族達が用意してくれた空き家に泊まらせてもらっていた。村長の娘たちの夜這いを警戒していたのだが……。


 なぜユーゴーがここに? どうしたんだ、こんな真夜中に。


 ユーゴーは生成りの襟なしシャツにショートパンツという薄手の格好だった。いつもは革鎧で押さえつけられている豊かな胸が、シャツをこんもりと押し上げている。


「アルフレッド」


 ユーゴーは躊躇なく俺に歩み寄り、俺に抱き着いて両腕を背中にまわした。ふわりと甘い香りが漂う。アスカと同じ石鹸と椿油の香りだけど、汗と獣耳の匂いが入り混じった、アスカとはまた違った香ばしい香りが俺の鼻腔を柔らかく刺激する。


 前にもこんなことがあったような……。ああ、そうだ。ヴァリアハートで襲撃を受けた夜だ。あの時は敵襲に気づいたユーゴーが俺を起こしに来てくれたんだよな。あの時は夜這いと勘違いして……って、まさか敵襲!?


 いや、そんなわけあるか。既に【警戒】を発動して周囲の気配は探っている。この家屋にはゼノとそのお供しかいないし、家の周りにも人の気配は無い。夜襲なんてことは無い。


「アルフレッド……」


 潤んだ瞳で俺を見上げるユーゴー。俺より少し背が低いぐらいで、女性としては長身だ。つまり、180センチちょっとの俺とはさほど身長差が無いから、切れ長の美しい瞳とすっと通った鼻筋、形の良い唇が、まさに目と鼻の先にあるわけだ。


 俺はゴクリと生唾を飲み込む。


「情けをくれ」


 ユーゴーが耳元でそっと囁いた。




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