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騎士とJK  作者: ヨウ
第一章 山間の町オークヴィル
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第32話 リベンジ・マッチ

 いつの間にか筋骨隆々な強面の男たちに囲まれていた。なんなんだコイツら……すげえ身体つきだ。パワーじゃ、どう考えても敵いそうにないぞ……。俺はとっさに立ち上がり、アスカを背中の後ろにかばう。


 この席はロフト風になっていて、出口に行ける階段は一つしかない。その階段の前に数人の男たちが立ちふさがっている。しかも俺とアスカが座っているのは階段から一番遠い壁際だ。とてもじゃないが、アスカを連れて逃げるのは難しい。


 このロフト席は食事をするには十分な広さがあるが、さすがに剣を振り回したり、動き回ったりするには狭い。この広さじゃ俺の生命線である素早さは活かせない。組み付かれてしまったら、いいように嬲られてしまうだろう。


 俺はゆっくりと腰につけているダガーの柄に手を伸ばす。正面に立つ強面の男が少しでも動きを見せたらダガーを引き抜いて臨戦態勢に移行だ。


 剣を振り回すのは難しいが、小回りの利くダガーでなら戦える。この狭さじゃ無精ヒゲ達に襲われた時のように、躱し続けてあしらう事はできないな。手傷を負わせて、各個撃破して無力化するしかない。


 強面の男の動きに集中していると、男はおもむろにぶら下げていた手を持ち上げた。手には鈍器のような物を持っている。俺は即座にダガーを抜き放ち、刃を男に向けて構える。


 すると男は、持ち上げた鈍器をテーブルの上に置く。ん……? 取っ手のついた……陶器の瓶??


「よう、ニコラスさんじゃねえか。どうしたんだ?」


 デールが明るい声で、強面の男に挨拶をした。え?知り合い??


「おう。火喰い狼(フレイムウルフ)を討伐した町の英雄が店を予約をしたって言うからな。あいさつに来たんだよ」


「おーわざわざわりーな。あ、アル、アスカ、紹介するよ。この人は……ってアル? なんでそんな物騒な物を出してんだよ?」


「……あ、いや……その人は?」


「あ、ああ、そういう事か。この人は敵じゃねえよ。この町の魔物使い(テイマー)ギルドのギルド長、ニコラスさんだ」


 あ、あはは……。なんか、ひどい勘違いをしたみたいだ。


「これは……失礼しました。アルフレッドです」


 俺は慌ててダガーをしまい、魔物使い(テイマー)ギルド長に頭を下げる。


「はっ。イキがいいじゃねえか。あんたが、火喰い狼(フレイムウルフ)を一人で倒しちまったっていう新人冒険者(ルーキー)か。で、そっちが噂の凄腕の薬師だな?」


「こっ、こんばんは! アスカです」


 アスカもぺこりと頭を下げる。いやー失敗したな。無精ヒゲ(ディック)達の一件があったから、神経質になっていたみたいだ。


「あー気にすんな、あんたら。こんな強面の連中に囲まれたら警戒すんのも当たり前だ。なあ、お前ら」


「ははっ、ちげえねえや」


 そう言って後ろにいた男達も破顔する。それぞれに手には陶器の瓶を持っていて、テーブルの上にドカドカと置いていく。


「ほらほら! あんた達、邪魔だよ! デカいなりして階段に突っ立ってたら通れないじゃないか! ほら、どきな!!」


 男たちが道を開けると、焼いた肉をこれでもかと盛り付けた大きな銀盆を持った長身の女性が現われた。見るからに気っ風の良い姐御肌といった感じの、妙齢の女性だ。その女性もテーブルの上に、どーんと銀盆を載せる。


「なになに? キンバリーさん、私たちまだ料理は何も頼んでないわよ?」


 ダーシャがそう言うと、キンバリーさんと呼ばれた女性は顔に感じの良い皺を寄せて豪快に笑う。


「あっはっはっ! なーに言ってんだい! この料理と酒はウチの店と魔物使い(テイマー)ギルドからの差し入れだよ。あんたらが火喰い狼(フレイムウルフ)を討伐してくれたんだろう? アイツには本当に困り果ててたんだ。助かったよ!」


「ああ、奢るとかなんとか言ってたが、そういうわけにはいかねえ。この飯代は店と魔物使い(テイマー)ギルドで持たせてもらう。お前らのおかげで、安心して羊や牛たちを放牧させることが出来るようになるからな」


「ええーっ!? マジっすか、ニコラスさん!」

「すごいニャ! にくにくニャ!!」

「あっ! これ、もしかして羊乳酒? 美味しそう!」


 もしかして、これ全部差し入れてくれるのか? 男達が持って来てくれたのは、ワインにシードル、それに羊の乳から作ったと言う酒みたいだ。そして銀盆には、俺たちだけでは食べきれないくらいの羊と牛のローストが盛り付けられている。


「いいんですか? こんなにご馳走になって」


「いいってことよ。ん? お前らよく見たら最近ちょくちょく昼飯を食いに来てた客じゃねえか?」


「え? そうですけど……ニコラスさんはこの店の方だったんですか?」


「おう、ここの店主だ。俺はこんなナリだからな。客席に出ると客を怖がらせちまうから、いつもは厨房に引っ込んでるんだよ。客の反応を見たいから、裏から覗いちゃいるがな」


 そうだったのか……。まさかあんなに繊細で美味しい料理を作っているのが、こんなムキムキで強面な男性だとは思わなかった。


「羊肉のシチューが絶品だもん! 通っちゃうよねー」


「嬉しいこと言ってくれるねー。よし、あとでシチューも持ってきてあげるよ!」


「ほんと!? うれしー!! ありがとう、キンバリーさん!」


 せっかくだからとニコラスさんやキンバリーさんも一緒に飲むことになり、思いがけず賑やかな祝杯となった。筋骨隆々な男達も加わり、すし詰めになったロフトで旨い飯と美味しい酒を楽しみながら声を張り上げて騒ぐ。いいな、こういうの。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ぐうぉぉぉ!!」

「ふんぬぁぁ!!」


「いけー! アル!! 負けるなー!!」


「うおぉぉ! 踏ん張れニコラスさん! あ、あぁっ……」


「勝負あり! アルの勝ちだ!」


「何やってんだい! アンタ! 力だけなら冒険者に負けないんじゃなかったの!?」


「やったー! 二連勝!! さすがアル!!」


 祝宴は異様な盛り上がりを見せ、互いの持つ素材を賭けての腕相撲大会に発展した。アスカが俺に賭けたのは火喰い狼(フレイムウルフ)の牙、キンバリーさんが夫であるニコラスさんに賭けたのは俺たちが希望した羊乳だ。


 1戦目のニコラスさんの部下との闘いで山鳥亭の名物シチューのレシピを手に入れ、2戦目のニコラスさんにも勝利を収め材料の羊乳を手に入れた。ふふふ。これで羊肉のクリームシチューが食べられるぜ!


「くぁー強えな、あんちゃん。盗賊じゃなかったのかよ? なんなんだそのパワーは!」


「いや、ギリギリでしたよ。さすがですね。魔物使い(テイマー)は戦闘系の加護じゃないっていうのに」


「俺らは家畜魔物を潰す時に、どんどんレベルが上がるからな。戦うスキルは無えが、単純な力比べならそうそう負けはしないんだが……。お前、本当に盗賊か? 【槍術士】(ランサー)【剣闘士】(グラディエーター)じゃないのかよ?」


「あはは……。盗賊ですよ……」


 ただし、「Lv.★」(ジョブマスター)の盗賊だけどね。先日の火喰い狼(フレイムウルフ)との戦いの帰りに、ついに潜入を修得することができたので、めでたく加護も修得となったのだ。


 加護レベルが上がる時と違い、ステータスの上昇は無かった。だけど、「Lv.★」(ジョブマスター)になると加護の補正を引き継いだまま、他の加護に変えられるようになるらしいのだ。盗賊の敏捷値を引き継いで他の加護を得られるとなると、反則の様な強さになるんじゃないだろうか。


「よっしゃ! じゃあ次は俺が相手だ!!」


 デールが腕をぐるぐると回しながら、俺の前にやって来た。おっと、今度は剣闘士(デール)か。前にやった時には負けているからな。リベンジさせてもらおうじゃないか。


「望むところだ。でも、デールは何を賭けるんだ?」


「えっ?ええと、じゃあ……コレなんかどうだ?」


 デールが出したのは、5本の投げナイフだった。ダガーをそのまま小さくしたようなデザインで、柄の代わりに滑り止めの革紐がぐるぐると巻かれている。


「エマの投擲術を真似したくて買ったんだけど、俺は才能が無いみたいでさ……。全く上達しないから宝の持ち腐れになってたんだ」


「いいね。俺は、同じく火喰い狼(フレイムウルフ)の牙を賭けるよ」


 俺たちはテーブルの上で、腕をがっちりと組みあう。その手の上にダーシャがそっと手を置いた。


「二人とも、準備は良い?」


「俺はデールに大銅貨5枚賭けるぞ!」


「乗った! 俺はアルフレッドに賭ける!」


「私はデールに銀貨1枚賭けるよ!」


「じゃあ、俺はアルフレッドだ!」


 次々と魔物使い(テイマー)達が硬貨をテーブルの上に載せていく。


「行くわよ……レディ……ゴーッ!!」


「シイッ!!」

「オオッ!!」


 ダーシャの掛け声に合わせて、互いに全身全霊の力を右腕に込める。今回も俺たち二人の力は拮抗している。


「くうぅっ……!」


 しかし、段々とデールに押され腕が傾いていく。くそっ……三連戦目の疲れが出て来た…。


「ああっ! アル!! がんばって!!」


くっそぉ……!! アスカ……見てろよ!?


「おおっ!!」


「盛り返してきた! いいぞ、アルフレッド!!」


 俺はじりじりと持ち直し、今度は少しづつデールを追い詰めていく。


「うぅぅっ!! ウソ……だろ!?」


「うぉぉぉっ!!」


 腕がはちきれそうだ……でも、二度も負けてたまるか!


 俺はプルプルと震える右腕に、持てる全ての力を注ぎこむ。ついにはデールの腕を押し切り、身体ごと倒して見せた。


「いよっしゃ!」


「すごい! 盗賊が剣闘士に勝ったニャ!!」


「あぁぁっ! デール! 何やってんのよ!!」


「はははっ!! キンバリーさん! 掛け金はいただくぜ! アルフレッド、よくやった!!」


 ふぅーなんとかリベンジを果たせたか。危なかったな。


「くっそぉ……。前よりも強いじゃねーかよ!」


「はぁ、はぁっ。いつまでも同じだと思うなっての」


 この間の俺と、今の俺は一味違うぜ? なんたって、火喰い狼(フレイムウルフ)との戦いを経て、俺のレベルは上がってるからな!


 今の俺は……レベル2だ!!


 ……レベル2なんて、たくさんの冒険者の中でも最低に近いだろうけどさ。


 それでも、俺は念願の、レベルアップを果たしたんだ!!



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アルフレッド・ウェイクリング


LV  2

JOB 盗賊Lv.★

VIT 138

STR 132

INT 145

DEF 118

MND 125

AGL 330


■スキル

初級短剣術・初級弓術・初級剣術・初級槍術・馬術・夜目・索敵・潜入


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