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騎士とJK  作者: ヨウ
第七章 瘴霧の大森林マナ・シルヴィア
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第317話 抗戦

「薙ぎ払え――――火龍の聖剣(イグニス)!」


 突然の背後からの襲撃に本陣は浮足立っている。伏兵も援軍も無いと判断し、岩壁どころか馬防柵も立てていないのだ。出し惜しみしている場合じゃない。俺は初手から切り札を切った。


 怒声をあげて突っこんで来たオークやフォレストウルフ達に、炎塊の雨が降り注ぐ。魔物達は火だるまになり、断末魔の悲鳴を上げた。


 だが、密集陣形を組んで整然と進攻して来た兵隊とは違い、バラバラに駆け寄って来る魔物達は一気に殲滅とはいかなかった。獅子人族側の後衛部隊に浴びせたときは200名近くを殺傷した広範囲の魔法攻撃だったが、今回削れたのはせいぜい20匹程度だ。


「おおっ! すげえな、アルフレッド!」


「感心している場合か! この技は連発できない! さっさと守りを固めろ!」


「おうよ! 第一中隊から前衛一個小隊を後方に回す! 連携して魔物どもを追い払ってくれ!」


 前衛のみの一個小隊ってことは、剣士と拳士40名ほどか……。なるほど俺達のパーティだけで、後衛・遊撃・癒療部隊の役目をこなせってことか。


 相変わらず人使いが荒いな!!


「アルフレッド!」


「エルサ! 魔物共がこっちに来るまでに数を削るぞ!」


「ええ! 【大爆エクスプロージョン炎】(・マキシマ)!」


 エルサが放った魔力塊が走るオーク達の足元に着弾し、2体のオークを吹き飛ばす。俺も続けて【爆炎】を放ちオーク1体を爆殺するが、側にいたフォレストウルフには爆発から逃れられてしまった。


「アル! 狙うのはオークに絞って、フォレストウルフは放置! 単体は【火球】(ファイヤーボール)、複数は【爆炎】(エクスプロージョン)で使い分けて!」


「了解!」


 動きの鈍いオークなら多少距離が離れていても当てられるが、素早いフォレストウルフには避けられてしまう。単体狙いで確実に数を減らし、巻き込めそうなら複数同時を狙うってことか。魔力の節約もしなきゃいけないしな。


「ほいっと。アル、エルサ、この上から魔法を撃って!」


 アスカが俺達の目の前にドカドカと石柱を設置する。俺とエルサが地魔法で創った石柱を、アイテムボックスに収納しておいたものだ。


 【岩壁】(ストーンウォール)を収納できれば良かったのだが、アイテムボックスは地面と繋がっている物は収められない。代わりに俺とエルサが【岩槌】(ストーンハンマー)で創った石柱を大量に収納しておいたのだ。【岩壁】よりサイズは小さいが、何本も立てれば十分に壁代わりになるし、即席の足場にもできる。


 俺とエルサが石柱に飛び乗って火球やら爆炎を放ち続けていると、ゼノが送ってくれた前衛一個小隊が駆け付けてくれた。彼らは二名一組で広く散開し、やってきた魔物を各個撃破する作戦のようだ。


 密集陣形を組んで突撃されたら簡単に突破されてしまうだろうが、目の前の敵にただ襲い掛かる魔物の群れと戦うなら、この方が戦いやすく足止めもしやすいだろう。さすがは大陸有数の傭兵団との連合軍だな。戦術の幅が広い。


 なら、俺とエルサがすべきことは出来るだけ数を減らすことだ。おそらくは冒険者達が遺していったのだろう剣やら手斧やらを振り上げて迫るオークを、次々と狙い撃っていく。


 足の遅いオーク共はだいぶ数を削れたが、フォレストウルフはほとんど減っていない。ついに前衛の戦士達がフォレストウルフと接敵した。


「エース! 突っ込むのです!!」


「ヒヒィーン!!」


 前衛部隊の間を割るようにして、エースに騎乗したアリスが魔物の群れのなかに飛び込んでいく。アリスは手綱を握りながらエースの鞍の上に両脚立ちし、曲芸乗りのような真似をしていた。


 なにをしているんだ……と思った次の瞬間、アリスはエースの背中の上でぐっと身を屈めると、まるで【槍術士】スキルの【跳躍(ジャンプ)】でも発動したかのように高く跳びあがった。エースはそのままフォレストウルフを蹴散らしながら群れの奥へと駆け抜けていく。


「撃滅せよ――――地龍の戦槌(ラピスハンマー)!」


 跳びあがったアリスはぐるっと縦回転し、落下の勢いに遠心力を加えて戦槌を地面に叩きつけた。


 ズゴンッ!!


 肚に響く重低音が鳴って地面がクレーター状に抉れ、無数の巨大な土の杭が突起する。アリスを中心に螺旋を描くように突き出した杭は、周囲十数メートルにいたオークやフォレストウルフを爆発四散させた。


「うおぉ……」

「とんでもねぇな」

「さすが、龍の従者(サーヴァント)か」


 俺とエルサが立つ石柱の目の前にいた傭兵達から感嘆の声が漏れるのが聞こえた。


 ホントすごいよな、アリスは。一撃での破壊力では間違いなく俺達の中でナンバー1だ。あれで生産の加護持ちなんだぜ? どんだけ自分を追い込んで鍛え上げたんだって話だ。


「【火球】!」


 そして俺の隣ではエルサが驚くほどの速射と連射で、次々とオークを屠っている。第一位階の黒魔法については、出会った当初から修得(マスター)していただけあって、発動がとんでもなく早い。俺もそこそこ早撃ちの方だと思うが、この早さにはとても追いつけない。


 しかも狙いがかなり正確で、走り回るフォレストウルフにすら、時おり火球を命中させている。山なりの弾道を描いて飛んでいく火球を、走る狼に当てるって……とても真似できん。


「キュヒィーーーン!!」


 エースが高い嘶き声をあげて突進し、フォレストウルフを踏みつぶし、オークを弾き飛ばす。身体全体からバチバチと火花を散らせているところを見ると、【帯電】を使ってるなアレ。


 【帯電】は身体に電撃を纏わせ、触れたものに感電によるショックと一時的な麻痺の追加効果を与えるスキルだ。あの状態でエースの体当たりを受ければ、タダじゃ済まない。


「【火球】! エルサ、オークはだいぶ片付いた。俺も下りてフォレストウルフを狩ってくる」


「ええ。気を付けて。私はあっちに加勢した方がいいかしら?」


 俺は振り返り、正面の戦況を見据える。突然の魔物の奇襲による混乱は落ち着いたようで、レグラム勢は獅子人族勢の攻撃をなんとか受け止めていた。 


 レグラム勢は4つの大隊に別れてマナ・シルヴィアを包囲していたため、兵力は分散している。この本隊の兵数も千人に満たない。対して、環濠内から打って出てきた獅子人族勢は倍の兵数はありそうだ。彼我戦力差は歴然だが、ゼノの巧みな用兵で持ちこたえているようだ。


「いや、俺達はまず魔物の殲滅を優先しよう」


 信号弾を打ち上げて他大隊に救援要請を出してはいたが、今のところ友軍が現れる様子は無い。もしかしたら他も霧が晴れたことで魔物の襲撃を受け、足止めされているのかもしれない。


 だったら、俺達はまず魔物を殲滅し、後方の憂いを断つべきだろう。そうすれば、ここに来ている前衛一個小隊を正面にまわすことが出来る。


 幸い、オークの方はそろそろ片付きそうだ。低脳なオークと違って、狼型の魔物は不利を悟れば撤退するぐらいの知恵はあるだろう。フォレストウルフを追い払って、ゼノの護衛に戻るべきだ。


「エルサ、アスカを頼んだ! って、あれ?」


 フォレストウルフを狩ろうと石柱から飛び降りようとしたところ、オークを含めた魔物の群れは一斉に森に逃げ帰り始めた。


 なんだ? 数が減り過ぎて、臆したか? それにしちゃ急だな。


 いや、こっちとしては追い払うことが目標だったんだから、好都合なんだけど……。


「あ、あ、アル! あれ!」


 アスカが南の森……いや、その上空を指さした。


 オークを狙い撃ちし続けるため、俺は【警戒】を発動し続けていた。だが、注意していたのは森の中から飛び出して来る魔物共だ。森の上まで、注意を払っていなかった。


「アギャアッ! アギャアッ!」


 甲高い鳴き声を発しながら飛来してきたのは、風竜の群れ。その数は十や二十じゃきかなない。


「あれは……」


 風竜の群れよりも一際高い位置に、四本脚と翼を持つ竜が浮かんでいた。前脚と胸部に太いベルトが回され、背部に馬車の御者台ほどの大きな鞍が括りつけられている。


「ついに、現れたわね……」


 エルサの呟きが殺気を孕む。


 空に浮かぶ翡翠色の上級竜の背には、灰色のローブを纏った子供のような背格好の人影があった。


 



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