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騎士とJK  作者: ヨウ
第七章 瘴霧の大森林マナ・シルヴィア
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第304話 情報収集

 レグラムを出発してから2週間後、ようやくマナ・シルヴィアに辿り着いた。エースの脚なら1週間ほどで来れる距離なのだが、途中でいくつかの集落に寄って来たので倍の日数がかかってしまった。


「じゃあ、いつも通り二手に別れて情報収集ってことで」


「うん! 行こー、アリス」


「はい。じゃあ行って来るのです」


「行ってらっしゃい。私達は、まず冒険者ギルドでいいかしら?」


「ああ、行こう」


 アスカとアリスは商人ギルドに向かい、その後は商店をいくつか巡ってくる予定だ。アスカは商人ギルドに登録する旅商人として、世間話の体で情報収集をしてくる。アリスは鍛冶屋や武具屋の担当だ。


 ここに来る前に立ち寄った集落では、アスカが作った回復薬とアリスが製錬したインゴッドを卸し、代わりに薬の材料と魔石、周辺情報などを仕入れてきた。アスカの【調剤】スキルはもちろんだが、アリスの鍛冶スキルと王都で大量に仕入れていた鉱石がここに来ておおいに役に立った。


 良い取引が出来るとなれば、部外者の旅人相手でも商人や職人の口は滑らかになる。小金も稼げて、情報も集められて一石二鳥ってわけだ。 


 そして、俺とエルサは冒険者ギルドの担当だ。俺はAランク、エルサはBランクの高位冒険者なので、冒険者ギルドもそれ相応の対応をしてくれるからね。


「ポリ公国の冒険者ギルドでも調査を実施したそうです。何らかの魔道具や魔法陣が刻まれた石碑などは発見されなかったらしいですよ」


「そうですか。ではやはり……」


「ええ。先の内戦のような、魔人族(ダークエルフ)の関与を示すものは今のところ見つかっていません。リア陛下が失われたシルヴィア家の秘術を復活させた……という噂がまことしやかに流れていますね」


「霧が薄くなっているのが、獅子人族(ライオス)の王の仕業だとすると……やはり戦争は避けられないか」


「残念ながら……。優秀な冒険者は争いに巻き込まれないようにと、さっさと国外に避難してます。残った冒険者も傭兵に鞍替する者が後を絶たない状況でしてね。依頼が全くこなせてないんですよ」


 冒険者ギルド、マナ・シルヴィア支部のギルドマスターが俺とエルサに縋るような目を向け、そう言った。情報を回したんだから、協力してくれってとこかな。


 まあ、急ぎの用があるわけでも無いしな。一冒険者にわざわざ代表者が出てきて対応してくれたんだから、多少は手伝っておくか。


「それは大変ですね。Bランク以上の依頼があれば声をかけてください。しばらくここに滞在する予定ですので、出来るだけ協力しますよ」


「おおっ、それは助かります。実は、折り入ってお願いしたい依頼がいくつかありまして……」


 ギルドマスターが目配せすると後ろに立っていた職員が依頼票を差し出した。なになに? Bランクの双頭蛇(ツインヘッドスネーク)の討伐と希少素材の採集か。急ぎの依頼のようだが……受けてもいいか。恩を売っておけば、鮮度の高い情報を流してもらえるかもしれないしな。



 依頼の受注手続きを終えた俺達は、職員からマナ・シルヴィアで拠点とする高級宿を紹介してもらいギルドを出た。もちろんシルヴィア料理の評判が良いところを選んでもらった。


「アスカの言っていた通り、魔人族はいないのかもしれないわね……」


 待ち合わせ場所に向かう道すがら、うつむき加減のエルサがそう呟いた。


 WOT(ワールドオブテラ)では、マナ・シルヴィアに訪れると『獣人族(セリオン)同士の戦争に魔人族が乱入し、シルヴィア王家が断絶する』という展開が待っていた。だが、この世界では20年前にそれが起こってしまっている。


 既に魔人族の企みは終わっているのだから、姿を現さないかもしれない……とアスカは言っていたのだ。


「どうだかな。魔人族はいつも俺達の背後で暗躍し、突然、眼前に躍り出る。ここでも何かの企みを巡らせてるのかもしれない。油断は出来ないよ」 


 魔人族は世界中の都市を襲って、実力者や指導者の殺害を狙うとアスカは言っていた。確かにヤツらは、王都ではマーカス王子を、レリダではガリシア氏族を、エウレカでは聖女キャロルを狙った。そして20年前は、シルヴィア王家を根絶やしにした。


 もし、今このマナ・シルヴィアで魔人族が動いているとしたら? 何を、誰を狙うだろうか。現施政者である獅子人族のリア王の命か?


「そうかしらね……」


 そう言って、エルサはぎこちなく微笑んだ。 




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 その夜、宿で夕食をとった後、俺の部屋に集まった。この街で集めた情報の擦り合わせだ。


「この街に住んでいるのは、獅子人族と猫人族(キャットマン)がほとんどなのです。虎人族(タイガーマン)牛人族(タウロス)羊人族(ゴートマン)もちらほら見かけたのです」


「やっぱり魔人の話はぜんぜん出てこないね。商人ギルドの偉い人は、20年前の戦争は魔人族がばら撒いた『吸魔の魔法陣』のせいだったって知ってるみたいだけど、一般的には知られてないみたいだよ」


「ポリ公国とレグラム王国で霧が薄くなっているという話はかなり出回っているのです。一部の人は獅子人族の王が、それを操っていると思っているみたいなのです」


「ああ、冒険者ギルドでも、そういう話を聞いたよ」


「獅子人族のマナ・シルヴィアと猫人族のヴァ―サ王国、犬人族のポリ王国と狼人族のレグラム王国。この二つの勢力の対立構造は根深いわね。狼人族が治めていたマナ・シルヴィアを獅子人族が奪い取ったのだから、それも当然かしら」


「犬派と猫派の戦いは決して終わらない!」


「そういう話か?」


 でも、犬派と猫派か。言い得て妙だな。


 マナ・シルヴィアとここまでの道中で聞いた話からは、魔人族の姿は影も形も見えなかった。イヌ系統とネコ系統の種族による覇権争いでしかないように思える。


「あとは、ちょっとおもしろい話を聞いたよ」


「おもしろい話?」


「まずねー、『荒野の旅団(ヴァルド・イェーガー)』と団長のゼノはかなり有名みたい。二大傭兵団なんて呼ばれてるみたいだよ」


「ああ、もう一つは『鋼鉄の盾(ギラム・パンツァー)』だろ? 大陸全土で活動している傭兵団だからな。その戦力は小国の軍隊すら凌ぐって話だ」


 知ったかぶってるけど、チェスターから王都クレイトンに向かった時に『支える籠手(ガントレット)』の連中から聞いただけなんだけど。


「知ってたかー。じゃあ、もう一つ! 団長のゼノは、レグラム王国の王子様だったってのは?」


「ええ!?」


 ウソだろ? あいつが王子? 


 ああ、でもあの交渉力や強かさ、頭の回転の早さなんかは、高度な教育を受けていたからと言われれば納得できるかもしれない。


 そういえばレグラム王国は黒狼族という狼人族の一派が立ち上げた国家だったな。確かにあいつは獣度が濃い目な黒毛の狼人だから、王家の血筋と言われてもおかしくはないかも。王家っていっても、元々はシルヴィア王国の一領主だったみたいだし、俺と似たような立場なのかもな。


「レグラム王家の……だから私達を抱え込もうとしていたのね」


 ああ、そうか。魔人族の情報をちらつかせて、犬派のレグラム王国に協力させたかったってことか。もし魔人族が出てきたら俺達をぶつければいいし、出てこなくても猫派との戦いに協力させればいい。腹黒いゼノが考えそうなことだ。


「はぁ……焦りすぎてたわね、私」


 エルサが深いため息を吐く。


 あいつの口車に乗っていたら、いいように使われるだけだっただろうからなぁ。まあ、キャロルのことがあったのだから、冷静な判断が出来なかったとしてもいたしかたないよ、エルサ。


「じゃあ、暫くは冒険者と旅商人として活動しながら様子見ってことでいいか?」


 半月ほど滞在して、魔人族の動きが無ければ、海人族(マール)の王国ジブラルタに向かってもいいかもしれない。


 森の深くに踏み込んで薬草や希少素材を集め、賞金首ハントに精を出しつつ熟練度稼ぎ。うん、ひさびさに冒険者っぽい活動だな。ちょっと楽しみかもしれない。


「いいと思うのです」


「ハック&スラッシュだね!」


 状況が動いたのは、それからたった二日後のことだった。




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