表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士とJK  作者: ヨウ
第七章 瘴霧の大森林マナ・シルヴィア
308/499

第303話 価値観の違い

「ほんっと犬人(ワードッグ)の貞操感覚ってどうなってんの!? がっつき過ぎでしょ! ありえない!」


「……そうだな」


 翌日、マナ・シルヴィアに向かう馬車の中で、アスカは気炎を吐き続けていた。口をはさむと俺に火の粉が降ってきそうなので、とりあえず頷いておく。


 アスカが怒り心頭なのには理由(わけ)がある。あのトゥルク村元村長セッポの二人娘が、またやらかしてくれたのだ。




 ゼノと話をした日はレグラムで一泊し、マナ・シルヴィアへは翌日に出発することになった。セッポはもう一泊していけと言ってくれたのだが、盛りのついた犬娘二人がいる家に連泊することをアスカが良しとするわけもなく、前に利用した宿に部屋を取った。


 そうしたら、なんと犬娘達はその宿に乗り込んで来たのだ。しかも、機嫌がようやく直ったアスカと、いつもよりかなり丁寧な行為におよんでいた真っ最中に。まさか二日連続で来るとは思っていなかったので、またしても油断していた。


 犬娘達は部屋に乱入するやいなや服を脱ぎ捨て、文字通り襲い掛かってきた。さすがのアスカも戦闘向きの加護を持つ犬娘二人に本気で捕まえられたら、抵抗することは出来ない。アスカは犬娘達にあっという間に縛り上げられ、犬娘達の豊満な肉体美に動揺した俺はベッドに押し倒され…………


 いや、もちろん、ちゃんと撃退した。打撃と締め技で犬娘達の意識を奪い、すぐにアスカの拘束を解いたとも。目は犬娘達の豊満な肉体に釘付けになっていたかもしれないけどさ。




獣人族(セリオン)の女性は強い男性を求めるのです。トゥルク村の男達と風竜を一蹴したアルさんの種が欲しかったのです」


「種って……」


 アリスの露骨な物言いに、赤面するエルサ。


「男は戦闘狂で、女は尻軽か……はた迷惑な種族だな」


「アルが隙だらけだから、つけこまれるんだよ」


「おいおい。夜這いされた俺が悪いのかよ?」


「接待されてデレデレしてたから、強引に迫ればヤれるって思われたんでしょ」


「ぐぬっ……そ、そんなことは……」


 無いとも言い切れないな。風竜退治のお礼として食事をご馳走してくれたんだから、邪険に扱うわけにもいかないと思ってたんだけど……失敗したかな。


「夜這いは良いとしても、アスカを拘束したのはやり過ぎなのです。でもアルさんに拒まれて、あの子達も恥をかいたのです。もう許してあげるのです」


 確かに、女性側から夜這いしたのに応じてもらえず、全裸のまま部屋から放り出されたってのは恥だろうなぁ。いちおうシーツを被せてはあげたけど。


「夜這いは良いとしてもって……ダメでしょ!」


「獣人族にとって、女性が夜這いをかけることは一般的な求愛の作法なのです。発情した獣人女性の求愛は激しいのです」


「……ウソだろ?」


 アリスはゆっくり左右に首を振る。


「信じられない……」


「獣人族は一夫多妻が一般的だと言うから、央人族(ヒューム)と似たようなものかと思っていたんだが、ずいぶん価値観が違うんだな……」


 種族ごとに結婚観や恋愛観が違うのは重々承知していたけど、まさか女性からの夜這いが普通のこととは思わなかった。獣人族の価値観からすると、犬娘達を受け入れなかった俺がおかしいってこと?


 いや、そんなわけあるか。拘束されたアスカの目の前で犬娘二人に抱かれるって、さすがに有り得ないだろ。どんな趣味だ。


土人族(ドワーフ)でも、女性が男性の寝所に行くのは普通のことですよ?」


「うーん、土人族は一妻多夫が普通だっていうから、それは理解できる気がするけど……」


「逆に男性が女性の寝所に行くのは許されないのです」


 土人族は女性比率が著しく低いというから、女性側の立場が強くなるのは当たり前かもしれない。


 そう考えるとクラーラに乱暴を働こうとしたあの兵士は、許されざる行いをしたってことだよな。いや、もちろん他種族であっても、女性の同意を得ない行いなど断じて許される行為では無いが。


 なお、あの兵士はアリスがきっちり追い詰めて、終身犯罪奴隷落ちした。今ごろ鉱山の奥深くで、過酷な労働で使い潰されていることだろう。


神人族(エルフ)はどうなの?」


 あまりの価値観の違いに驚き、怒りも吹き飛んでしまったのか、アスカが呆然とした表情でエルサに尋ねた。


「神人族は一夫一婦制が普通よ。女性が男性に迫るなんて、そんなはしたないことは……」


 エルサは顔を真っ赤に染めて、ぼそぼそと呟いた。


「神人族のことは詳しくないですが、伴侶を何度か変えると聞いたことがあるのです」


「え、ええ、そうね。子をもうけて独り立ちをするまで育て上げたら、自然と別れて別の伴侶をみつけるのが一般的ね。一人の伴侶と添い遂げるには、神人族の生は長すぎるから……」


 エルサが小さな声で答える。なんか……初心だな、エルサ。種族の結婚観を語るぐらいで恥ずかしがるって……なんか可愛いかも。年上の女性に対して失礼かもだけど。


「あぁぁー、ショックでかいわー。一夫多妻とか、一妻多夫とか……価値観が違いすぎるよー」


「そうよね。私も……他種族の結婚観だけは、相容れないものがあるわ」


「言っても神人族も取っ替え引っ替えなんでしょー? あたし、その感覚もよくわかんないよ」


「取っ替え引っ替えって、そんなことないわよ!」


 エルサが紅潮した顔で反論する。


「子を育てあげるまでは伴侶と共に生きるってことは、20年近くは一人の相手に寄り添うってことだろ? アスカの感覚に近いんじゃないか?」


「うーん、そうなのかなぁ。でも離婚も再婚もよく聞く話だったし……そうなのかもなぁ」


 たぶん、ニホンの感覚は央人族の平民に近いんだろう。平民は伴侶は生涯で一人というのが普通だし。一夫多妻が認められているとはいえ、何人もの妻を迎えて生活を支えるなんて貴族か豪商でもないと難しいからな。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「できたよー! 鳥の照り焼き!」


「おおっ、すごいな。よく再現できたな!」


「照り焼きは作り方を知ってたからねー。とりあえず醤油、味醂、酒を同じ量を合わせておけば間違いないの。これにマヨネーズをぬって、パンにはさんだら、照り焼きチキンバーガー、かーんせいっ!」


「良い香りね。美味しそうだわ」


 今日の夕食の当番はアスカ。鳥人族の村オキュペテで食べた料理を、いとも簡単に作ってくれた。うん、皮がパリパリだし、肉汁がじわーっとあふれて、旨い!


「宿で食べたのより美味しいのです!」


「パンにも合うんだな。マヨネーズとの相性も良い」


「いつもながら、野営料理とは思えない美味しさだわ。ありがとう、アスカ」


 アスカのアイテムボックスが無ければ、こんなに手の込んだ料理はとても作れない。野営でコンロ付き薪ストーブを使って調理するなんてありえないもんな。マナ・シルヴィアへの道中で何度も野営をすることになるから、本当に助かる。


 レグラムに向かう時は、オキュペテ以外の集落には寄らなかったけど、今度は道中の全ての集落に寄っていくつもりだ。転移陣より南は狼人族の治めるレグラム王国の領土だが、転移陣を超えて北に行くと獅子人族の勢力圏になる。行きがてらに出来るだけ情報収集し、ゼノから聞いた話の真偽を確かめつつ、魔人族の噂を集めておきたいところだ。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ