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騎士とJK  作者: ヨウ
第七章 瘴霧の大森林マナ・シルヴィア
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第297話 廃村トゥルク

「おいおい。こんな優男が例のヤツなのか?」


荒野の旅団(ヴァルド・イェーガー)の頭をサシで倒したっていうから、どれほどの男かと思えば」


「傭兵どもの噂もアテにならねえな」


 冒険者ギルドを出ると数人の男達が待ち構えていた。全員が犬だか狼だかの獣人だ。男達は値踏みをするような目でジロジロと俺を見ている。


 それぞれ片手剣やら短槍なんかを手にしているところからすると、冒険者か傭兵崩れかな。年のころは俺と同じくらいだろうか。


 それにしても優男かぁ。何でか俺って、こういう輩に絡まれやすいんだよなぁ。見た目に迫力が無いのだろうか。


「おい、お前がアルフレッドなんだろ?」


「……ああ、そうだが、そっちは?」


 ったく。なんで俺達のことを知ってるんだよ。漏らしたのは、冒険者ギルドか? 面倒なことをしてくれるな……。


「ふん。ちょっと付き合いな」


「断る。用があるならここで言え」


 こういう輩に付き合う時間なんて無い。これからエースの身体を拭いてあげないといけないし、オキュペテでは少ししか買えなかったショウユとかミソを買い足しに行かなければならないんだ。


「ああ? 黙ってついて来い。連れに怪我させたくねえだろ?」


 男のうち一人が顔を近づけ、睨みつけてくる。


 連れに怪我ねぇ……。ウチの女性陣に絡むのはやめといた方が良いと思うぞ?


 槌でペチャンコにされるか、細剣で切り落とされる未来しか見えない。アスカだって防御力無視の強烈なビンタをかましてくるからな。


「断る」


「待てっ、コラ!」


 そう言い捨てて男の横をすり抜けようとしたら、案の定、手を伸ばして来た。はい、これで先に手を出したのは、そっちってことで。


 俺は男が伸ばして来た右手を左手で掴み、半歩下がりつつ引き付ける。バランスを崩した犬男が前のめりになったところで、右腕を押し当てつつ身体を捻った。


 犬男がごろんと転がってところで、【威圧】を発動。いつもより多めに魔力を込めておく。


「ひぅっ」


 犬男の仲間達が、そろって短い悲鳴を上げた。


 うーん。【恐怖(フィアー)】の状態異常がついたってことは、やっぱりこいつら大したこと無いな。なんでまた高ランク冒険者に喧嘩を売るような真似をしたんだろう……。


 無傷で済ませたんだから、むしろ感謝して欲しいところだ。こいつらは気付いてないようだが、アリスはいつでも戦槌をぶん回せるように重心を低くして身構えてるし、馬車の番をしてくれていたエルサはお前達の背後で短杖を向けてるんだからな? 


「俺達と話がしたいなら冒険者ギルドに面会希望の指名依頼を出してくれ。受けるかどうかは報酬次第だけどな」

 

 顔を青褪めさせ、生まれたての子犬のように震える獣人たちを横目に、俺達は馬車に乗り込む。さて、ギルドで紹介してもらった宿に行こうかね。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「いやいやいや。ウチの若いのがご迷惑をおかけしました」


 その夜、宿の食堂で夕食を摂っていた俺達のところへ、犬人族(ワードッグ)の老人がやって来た。昼間に絡んで来た獣人達に、俺達を連れて来るようにと指示した張本人なのだそうで、今日の宿代と食事代を持つから話をさせて欲しいと言ってきた。


 丁重な態度を示して、相応の対価も払うなら多少の時間を割くぐらいは構わない。食事を食べ終わるまで待たせてからテーブルに招いた。


「有能な冒険者とギルドから聞いたもので、一つお願いをしたかったのですよ」


「それなら、もっとまともな人を使いに出したらどうです? あの態度じゃ、揉めて当然でしょう」


「いやぁ、申し訳ありませんです。犬人族や狼人族(ワーウルフ)ってのは、どうしても腕の優劣をつけたがる習性(クセ)がありましてな……。依頼をする前に貴方がたの腕を試したかったようなのです」


 なんだそりゃ……。めんどくさい種族だな。狼型の魔物は、群れの中で厳格な序列が決まっているというが、それと似たような習性なのか?


「一族そろってDQNなんだ……」

 

「あまりお近づきになりたくない種族なのです」


「いやいや、お恥ずかしい限りで……。まあ、そういったわけで、犬人や狼人に絡まれた時は、完膚なきまで叩きのめしてもらって構わんのです」


 この街では、犬人や狼人の揉め事は日常茶飯事らしく、多少の騒ぎを起こしても取り締まられることは無いそうだ。どんだけ序列争いが好きなんだよ……。


 ん? ってことはだ。この街で幅を利かせているらしい『荒野の旅団』の頭であるゼノを単独で倒した俺って、犬人や狼人にとって挑みたくなる相手ってこと? うわ、めんどくせぇ……。


「はぁ……それで、俺達へのお願いってなんです?」


「おお、聞いてくださいますか! 実は、アルフレッド殿に倒してもらいたい魔物がおりましてな」


 セッポと名乗った老いた犬人の依頼は、賞金首狩り(ブラックリストハント)だった。討伐対象は、レグラムから北に1日ほど行った所にあるトゥルクという村に現れた風竜。ガリシアで狩りまくった地竜と並ぶBランクの魔物だ。


「トゥルク村は3年ほど前に獅子人族(ライオス)と黒狼族との争いで滅んでしまったのです。今は誰も住んでおらんのですが、元村民達と年に一度は墓参りに行っておるのですわ。ですが、村にはぐれ風竜が住みついてしまいましてな。そこらの魔物ならどうにか出来たのですが、風竜ともなると我らでは如何ともし難く……。領主様も人のおらん村に兵を出してくれるわけもなく、傭兵達は戦争にかかりっきりで依頼を受けてくれん。冒険者に依頼しようにも、依頼を受けてくれる者がおらんかったのですよ」


 どうやらレグラムの冒険者ギルドには高ランクの冒険者がいないらしい。それはレグラムに限った事では無く、元シルヴィア王国全土で冒険者のレベルは低いそうだ。


 その理由は単純で、冒険者よりも稼げるので腕の立つ者は傭兵になってしまうのだそうだ。小国家同士でずっと小競り合いが続いているのだから、傭兵の方が飯のタネに困らないのだろう。


「なるほどね。……って、あれ? 村に住みついた魔物……ですか?」


 獣人族の集落は世界樹の恵みである霧に囲まれていて、魔物を寄せ付けないんじゃなかったのか? 霧を突破する魔物もいる……?


「それが不思議なことに、村に住む人がおらんくなったら、いつのまにか霧が晴れてしまったのですわ。世界樹が、人の住まぬ土地に恵みはもう必要ないと思われたんでしょう」


「そんなこともあるんですか」


 ふむ……霧のことはよく分からないから置いておくとしても、滅びた村に住みついた竜の討伐か。冒険者ギルドを通した正式な指名依頼となるわけだが、どうしようかな? 村人の生活を脅かしてるわけじゃないから、緊急性が高いわけでも無いけど……。


「どうする?」


「んー、受けてもいいんじゃん? どうせゼノが戻るまでヒマでしょ? 熟練度も稼げそうだし」


「私も受けて良いと思うわ。風竜の魔石や素材も入手しておきたいしね」


「竜素材があれば装備強化が出来るのです! 受けたいのです!」


 竜素材ね。アリスのスキルがあれば、堕天竜の素材特性を付与した時みたいに、今使っている装備をさらに強化できる。それに風竜の魔石、竜石を手に入れておけば、風属性の装身具を誂えることもできる。うん、手に入れておきたいね。


「セッポさん、冒険者ギルドに指名依頼を出しておいてください」


「おおっ、受けてくれますか! 感謝します!」


 よし、じゃあゼノと接触するまでの暇つぶしに、竜でも狩りますか。




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